【文献】
大久保誠介,福井勝則,Mohs試験,CERCHAR試験と旋削試験による岩石硬度の比較,Journal of MMIJ,日本,一般財団法人資源・素材学会,2011年 7月25日,vol.127(2011)No.8,第497−503頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1ないし3のいずれかに記載の携帯式岩石磨耗能測定具を使用して、原位置で岩石の磨耗能を測定する際に、当該岩石の表面に仮固定して使用される測定補助具であって、
補助具本体は、全体が弾性材で構成されて、底面は、平面状に形成され、接着具を介して前記岩石の表面に仮固定可能になっていて、
当該補助具本体の中央部に、前記測定具本体が特定の方向にスライド可能なように、当該測定具本体の下端部が隙間なく挿入されるスライド凹部が形成され、当該スライド凹部の底部には、前記試験針の先端の円錐状をした突刺部が挿通可能な突刺部挿通孔部が前記特定方向に形成され、前記スライド凹部の底面、及び内側面は、保護板で覆われていることを特徴とする測定補助具。
【背景技術】
【0002】
さく岩機、回転さく孔機、ブームヘッダ、トンネル掘削機等の掘削機械の適用性の検討には、岩石の「磨耗能(abrasibity) 」の評価が重要となる。岩石の表面硬度として、モース(Mohs) 硬度が古くから用いられ、また、フランス石炭研究センターで提案された「CERCHAR試験」により得られた値は、「岩石の磨耗能」の指標とされる。「岩石の磨耗能」とは、例えば、掘削機械により岩石を掘削する際に、当該岩石によって掘削工具類が磨耗される(磨り減らされる)程度を言い、「岩石の硬度」とは、異なる物性である。
【0003】
「CERCHAR試験」は、先端部が円錐状に形成された鋼棒から成る試験針を岩石の表面に押し付けながら滑らせて、試験後に針先端の磨耗状況を測定するものである。具体的には、
図6に示されるように、先端の円錐部の頂角が90°の試験針Sを用いて、70Nの荷重を加えながら、岩石上を約10mmスライドさせて、試験後に試験針の先端に生じた平らな部分の直径を(Wc)とした場合において、「CERCHAR試験」により得られた以下の無次元の値が「岩石の磨耗能」の指標となる。
I
CERCHAR 〔無次元〕= Wc(mm)/ 0.1(mm)
【0004】
従来の「CERCHAR試験」は、原位置で供試体の元になるボーリングコアを採取し、このボーリングコアを「CERCHAR試験機」にセットできる形状に整形加工した後に、試験を行っていた(非特許文献1)。従って、供試体の採取、及びその整形加工に手間を要するのみならず、供試体の採取から試験を行うまでに相当の日数を要するために、岩石の変質の問題もあり、これに加えて、原位置にて、即座に対象岩石の磨耗能が知りたいとの要望に対応できない等の諸問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、携帯式の岩石磨耗能測定具(以下、単に「測定具」と略す場合もある)によって、岩石の磨耗能を現場にて測定可能にすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、筒状をした測定具本体と、鋼棒の先端部が円錐状に形成された突刺部となっていて
、当該鋼棒の先端部を除く残りの部分は無段差に形成され、前記測定具本体の先端側に、最大突出長が規制された状態で出入り可能に収容された試験針と、当該試験針を突出方向に付勢させるために、前記測定具本体内に収納された試験針付勢手段と、前記試験針が自重により測定具本体から抜け出るのを防止するための試験針抜出防止手段と、前記試験針付勢手段の付勢力を調整するために、前記測定具本体における前記試験針と反対の側に一体に設けられた付勢力調整手段とを備え、原位置で、岩石の磨耗能を測定可能な携帯式の岩石磨耗能測定具であって、
前記試験針付勢手段は、圧縮バネであり、前記試験針抜出防止手段は、前記圧縮バネの下側の端部が弾接する下バネ座に収容されて、当該下バネ座に部分嵌合された前記試験針の上端部の外周面に当接する複数の小鋼球と、当該複数の小鋼球の外側に弾装されて、前記当接力を確保する環状の弾性リングとから成ることを特徴としている。
【0008】
請求項1の発明に係る測定具は、全体が金属で構成された筒状をなしていて、人の手で握ることのできる大きさ及び形状であると共に、一人で操作可能な重量であるために、原位置で岩石に対して上記した「CERCHAR試験」を一人で行える。また、測定具本体内に収納されて、測定対象の岩石に対して試験針の突刺力を確保するための試験針付勢手段の付勢力(復元力)は、設定装置によって基準値に設定されている。
【0009】
非測定時には、試験針は、試験針付勢手段の付勢力によって、測定具本体の下端面から所定長だけ突出していて、測定者が一方又は双方の手で測定具を握り、このままの姿勢で、測定具の先端から突出している試験針の突刺部を対象岩石に対して押し付けると、試験針は、試験針付勢手段の付勢力に抗して測定具本体に対して後退して、対象岩石は、設定された試験針付勢手段の付勢力(復元力)に等しい大きさの力で押し付けられる。このままの状態で、測定具を所定長だけ側方にスライドさせると、円錐状をした試験針の突刺部の先端は、磨耗により平らに変形されると共に、対象岩石には、溝状の条痕が形成される。そして、試験針の突刺部の先端の平らに変形された部分の直径、或いは対象岩石に形成された溝状の条痕の深さ等を測定することにより、対象岩石の磨耗能の測定を原位置で、しかも測定者一人で行える。
【0010】
このように、請求項1の発明に係る測定具を使用すれば、対象岩石の磨耗能の測定を原位置で、しかも測定者一人で行えるので、岩石を変質させることなく、短時間にて岩石の磨耗能に係るデータを取得できて、データの信頼性が高められる。また、従来のように、対象岩石から供試体原体を採取して整形加工することにより供試体を得る場合と異なって、任意の位置において、岩石の磨耗能の測定を行えるために、同一の対象岩石に対して複数種類の磨耗能に係るデータを取得できる点においても、データの信頼性が高まる。
【0011】
【0012】
また、試験針付勢手段を構成する圧縮バネは、軽量であって、しかも付勢力の調整が容易であるので、携帯式の岩石磨耗能測定具に適している。
【0013】
【0014】
試験針は、非測定時において、自重により落下しないように保持されているのみで足りる。よって、請求項
1の発明のように、弾性リングの復元力により、試験針の上端部の外周面に複数の小鋼球が押圧状態で当接することにより、自重による試験針の落下を防止できる。また、
試験針を構成する鋼棒は、円錐状をした先端の突刺部を除く残りの全ての部分は、無段差になっているため、複数の鋼球の試験針の軸心に向けた最大近接位置が規制されるように、下バネ座に対して複数の鋼球を収納すると、新規の試験針の挿入時には、複数の鋼球が半径方向の外方に退避することにより、新規の試験針の装着も可能となる。
【0015】
請求項
2の発明は、請求項
1の発明において、前記測定具本体の下端部の段差部が挿入支持され、長方形枠状のスライドガイド体に対してスライド可能に装着された測定具支持具を備え、前記スライドガイド体の裏面における測定具のスライド方向に沿った両端部には、測定時に岩石に突刺されるスパイク針が設けられていることを特徴としている。
【0016】
請求項
2の発明によれば、対象岩石に対して測定具の試験針を押し付けた状態で、当該測定具を側方にスライドさせて磨耗能測定を行うに際して、測定具を支持している測定具支持具は、スライドガイド体に対してスライド可能に装着されていて、当該スライドガイド体は、対象岩石に対して複数のスパイク針によって、しっかりと仮固定されている。従って、請求項
1で特定される測定具を用いて原位置の岩石の磨耗能を測定する作業を安定して行える。
【0017】
請求項
3の発明は、請求項
2の発明において、前記スライドガイド体は、一方の短辺部が残りの部分に対して分割された分割短辺体となっていて、当該分割短辺体の内側には、ストッパ体が着脱可能に組み付けられ、前記ストッパ体における分割短辺体と対向する面には、当該分割短辺体に対する離間距離を変更させて前記測定具のストロークを変更させるための1本又は長さの異なる複数のストローク可変ピンが突出され、前記ストッパ体の特定のストローク可変ピンを前記分割短辺体の内側面に当接させた状態で、当該分割短辺体に対してストッパ体を着脱可能に組み付けることにより、前記測定具支持具に支持された測定具のストロークを調整可能にしたことを特徴としている。
【0018】
請求項
3の発明によれば、分割構造のスライドガイド体を構成する分割短辺体にストッパ体が着脱可能に装着され、当該ストッパ体における分割短辺体との対向面に取付けられた1本又は長さの異なる複数のストローク可変ピンのうち、選択された特定のストローク可変ピンを分割短辺体に当接させた状態で、当該分割短辺体にストッパ体を組み付けることにより、スライドガイド体に設けられるスライド溝の長さが変更される。この結果、測定具のスライド長を変化させられて、対象岩石に対して最適な測定長を選択できる。
【0019】
請求項
4の発明は、請求項1ないし
3のいずれかに記載の携帯式岩石磨耗能測定具を使用して、原位置の岩石の磨耗能を測定する際に、当該岩石の表面に仮固定して使用される測定補助具であって、補助具本体は、全体が弾性材で構成されて、底面は、平面状に形成され、接着具を介して前記岩石の表面に仮固定可能になっていて、当該補助具本体の中央部に、前記測定具本体が特定の方向にスライド可能なように、当該測定具本体の下端部が隙間なく挿入されるスライド凹部が形成され、当該スライド凹部の底部には、前記試験針の先端の円錐状をした突刺部が挿通可能な突刺部挿通孔部が前記特定方向に形成され、前記スライド凹部の底面、及び内側面は、保護板で覆われていることを特徴としている。
【0020】
請求項
4の発明に係る測定補助具は、全体が弾性材で構成されていて、測定具のスライド案内を行う凹部が形成されているため、当該測定補助具を接着具を介して対象岩石の測定部位に仮固定しておいて、前記スライド凹部に沿って測定具を側方にスライドさせることにより、安定した測定作業を行える。
【0021】
請求項
5の発明は、請求項
4の発明において、前記スライド凹部の底面、及び内側面は、保護板で覆われていることを特徴としている。
【0022】
請求項
5の発明によれば、補助具本体に形成されたスライド凹部の底面、及び内側面は、保護板で覆われて補強されているために、表面が平面でない岩石の磨耗能の測定も可能となる。
【0023】
請求項6の発明は、筒状をした測定具本体と、鋼棒の先端部が円錐状に形成された突刺部となっていて、前記測定具本体の先端側に、最大突出長が規制された状態で出入り可能に収容された試験針と、当該試験針を突出方向に付勢させるために、前記測定具本体内に収納された
圧縮バネと、前記試験針が自重により測定具本体から抜け出るのを防止するための試験針抜出防止手段と、前記
圧縮バネの付勢力を調整するために、前記測定具本体における前記試験針と反対の側に一体に設けられた
付勢力調整手段とを備え、原位置で、岩石の磨耗能を測定可能な携帯式の岩石磨耗能測定具の前記圧縮バネの付勢力が設定値となるように設定するための装置であって、ベース板に反転姿勢で測定具を起立させて、当該測定具における使用時に下端部となる部分が、上板の測定具挿通孔から僅かに突出するような間隔を有して、前記ベース板と前記上板とが複数本の連結ロッドで連結されたフレームと、前記圧縮バネの設定付勢力と同一の重量の基準ウェイトを上下動可能に支持するために、前記上板に一体に設けられたウェイトホルダーとから成り、前記測定具の試験針を、端面が平面状の付勢力設定針に交換して、フレームのベース板に反転姿勢で起立させて、使用時に下端部となる部分が上板の測定具挿通孔から僅かに上方に突出した状態で、前記基準ウェイトを当該測定具の付勢力設定針に作用させた状態で、当該付勢力設定針の端面と測定具本体の端面とが同一となるように、当該測定具の付勢力調整手段により圧縮バネの付勢力を調整する構成であることを特徴としている。
【0024】
請求項
6の発明によれば、簡易な装置により、測定具の圧縮バネの付勢力の設定を精度よく行える。また、測定現場に携帯可能であるために、測定現場における測定具の圧縮バネの付勢力の設定も可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、対象岩石の磨耗能の測定を原位置で、しかも測定者一人で行えるので、岩石を変質させることなく、短時間にて岩石の磨耗能に係るデータを取得できて、当該データの信頼性が高められる。また、対象岩石から供試体原本を採取して整形加工することにより供試体を得る場合と異なって、任意の位置において、磨耗能測定を行えるために、同一の対象岩石に対して複数種類の磨耗能に係るデータを取得できる点においても、データの信頼性が高まる。
また、試験針は、非測定時において、自重により落下しないように保持されているのみで足りるため、本発明のように、弾性リングの復元力により、試験針の上端部の外周面に複数の小鋼球が押圧状態で当接することにより、自重による試験針の落下を防止できると共に、複数の小鋼球の試験針の軸心に向けた最大近接位置が規制されるように、下バネ座に対して複数の小鋼球を収納すると、新規の試験針の挿入時には、複数の小鋼球が半径方向の外方に退避することにより、新規の試験針の装着も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1ないし
図4を参照して、本発明に係る測定具M
1 について説明して、その後に、
図5及び
図6を参照して、当該測定具M
1 Bによる岩石Rの磨耗能の測定方法について説明する。測定具M
1 は、
図1ないし
図3に示されるように、筒状をした測定具本体Bと、当該測定具本体Bを構成する試験針ホルダー部B
2 に出入り可能に収容される試験針Sと、前記測定具本体Bを構成するバネホルダー部B
1 に収容される圧縮バネKと、前記測定具本体Bを構成する調整ボルトホルダー部B
3 に螺合される調整ボルトFとを備えている。測定具本体Bは、筒体の両端部内周にそれぞれ雌螺子部1a,1bが形成されたバネホルダー部B
1 と、上端部の小径部に形成された雄螺子部2が前記バネホルダー部B
1 の下端部の雌螺子部1aに螺合される試験針ホルダー部B
2 と、下端部の雄螺子部3が前記バネホルダー部B
1 の上端部の雌螺子部1bに螺合される調整ボルトホルダー部B
3 とから成る。測定具本体Bを構成する三つの各ホルダー部B
1 〜B
3 は、互いに螺合されることにより、外周面が無段差の円筒状に組み付けられる。
【0028】
試験針ホルダー部B
2 は、試験針Sの長さよりも短く形成されて、試験針Sをスライド可能に挿通させる試験針挿通孔4が貫通形成され、その下端面5は、軸直角に形成されている。試験針Sは、外径10mmの鋼棒から成り、その下端部は、頂角90°の円錐状に形成されて突刺部Saとなっている。
【0029】
変則筒状の調整ボルトホルダー部B
3 は、その下端部の外周及び内周に、前記バネホルダー部B
1 及び圧縮バネKの付勢力を調整する調整ボルトFが螺合される雄螺子部3及び雌螺子部6がそれぞれ形成され、軸方向の中間部に、前記調整ボルトFのノブ7の回転操作を可能にするための一対の操作窓8が対向して形成されている。調整ボルトホルダー部B
3 の上端開口は、キャップ体11で閉塞されている。調整ボルトホルダー部B
3 の下端部の雌螺子部6に調整ボルトFの雄螺子部12が螺合され、当該調整ボルトホルダー部B
3 に対する調整ボルトFの螺合位置が確定された状態において、当該状態を保持させるための止螺子13が前記調整ボルトホルダー部B
3 の下端部に軸直角方向に螺合されて、当該止螺子13の先端面が調整ボルトFの雄螺子部12の外周面に当接される。
【0030】
バネホルダー部B
1 に収容される圧縮バネKの上下端部は、それぞれ上下の各バネ座14,15に弾接される。上バネ座14の凹部14aには、調整ボルトFの先端部に形成された他部よりも小径の嵌合ピン部16が嵌合される。下バネ座15は、
図2ないし
図4に示されるように、その下端面に、試験針Sの上端部を部分的に挿入するための試験針挿入孔17が非貫通状態で形成され、当該下バネ座15の軸方向における前記試験針挿入孔17が形成されている部分には、環状溝18が設けられることにより小径部19が形成され、当該小径部19には、半径方向に沿って多数の鋼球収容孔21が貫通して形成されている。鋼球収容孔21は、鋼球22が収容された状態で、当該鋼球22が、試験針挿入孔17に挿入された試験針Sの上端部の外周面に当接すると共に、内側に抜け出ないように、試験針挿入孔17に向けて漸次小径となるように形成されている。また、多数の鋼球収容孔21に鋼球22がそれぞれ収容された状態で、各鋼球22の外側にOリング23が嵌着され、当該Oリング23の締付力により、各鋼球22が試験針Sの外周面に押し付けられることにより、下バネ座15に対して試験針Sが一体化された状態となって、試験針Sは、自重により試験針ホルダー部B
2 から抜け出ない構成となっている。従って、下バネ座15の各鋼球収容孔21に鋼球22を収容して、当該鋼球22が試験針Sの外周面に当接した状態で、鋼球22の外側の一部は、下バネ座15の環状溝18の周面から僅かに突出している。
【0031】
下バネ座15は、非試験時には、圧縮バネKの付勢力(復元力)により、試験針ホルダー部B
2 の上端面に当接して、試験針Sの突刺部Saを含む先端部(下端部)は、測定具本体Bの下端面5から設定長だけ突出している(上記実施例では、試験針Sの全長が100mmに対して、非試験時における試験針Sの突出長は、14mmである)と共に、試験時には、圧縮バネKの付勢力(復元力)に抗して試験針ホルダー部B
2 の上端面から離間して、試験針Sの突出長は、短くなる。
【0032】
上記構成の測定具M
1 は、外径が30mmで、全長が240mmの円柱状をなしていて、重量は、850gである。このため、測定具M
1 を握ったままで、70Nの力で岩石Rに押し付けて側方にスライドさせることにより、一人の作業者で岩石Rの磨耗能の測定を行える。
【0033】
「CERCHAR試験」では、岩石Rに対する試験針Sの押付け力は、70Nと定められているため、圧縮バネKの圧縮量の設定を行う必要がある。この設定には、例えば、
図7及び
図8に示される圧縮バネ付勢力設定装置Cが使用される。この設定装置Cは、ベース板71に反転姿勢で測定具M
1 を起立させて、当該測定具M
1 における使用時に下端部となる部分が、上板72の測定具挿通孔73から僅かに突出するような間隔を有して、前記ベース板71と前記上板72とが複数本の連結ロッド74で連結されたフレーム75と、前記圧縮バネKの設定付勢力と同一の重量の基準ウェイトJを上下動可能に支持するために、前記上板72に一体に設けられたウェイトホルダー76とから成る。ウェイトホルダー76は、同一円周上に配置された3本の支柱77が前記上板72に立設されて、各支柱77の上端部にリング板78が連結され、各支柱77の間に円柱状の基準ウェイトJが上下動可能に支持された構成である。基準ウェイトJは、70Nの荷重を生じさせる重量を有していて、上端面に一体に設けられたT字状の引上げ具79を手で持って、上下動させる。
【0034】
そして、前記測定具M
1 の試験針Sを、測定具本体Bの下端面から突出した端面が平面状の付勢力設定針S’に交換して、フレーム75のベース板71に反転姿勢で起立させて、使用時に下端部となる部分が上板72の測定具挿通孔73から僅かに上方に突出させ、前記基準ウェイトJを当該測定具M
1 の付勢力設定針S’に作用させた状態で、当該付勢力設定針S’の突刺部Sa'と測定具本体Bの下端面5とが同一となるように、当該測定具M
1 の調整ボルトFにより圧縮バネKの付勢力(復元力)を調整する。これにより、付勢力設定針S’の自重を無視すると、圧縮バネKの付勢力(復元力)は、重力作用により基準ウェイトJが他の物体に及ぼす荷重の値と等しくなって、70Nとなる。
【0035】
上記した設定装置Cの寸法は、(縦×横×高さ)=(300×300×400)mmであって、重さは、基準ウェイトJを含めて約20kgであるので、測定具M
1 と一緒に、原位置に持ち込んで、その場にて圧縮バネの設定を行うことも可能である。
【0036】
上記した携帯式の測定具M
1 は、一人の作業者が手で握って、単体のままで測定作業を行うことも可能であるが、
図1及び
図5に示される測定補助具Eを使用すると、岩石Rに対して試験針Sを押し付けたままで行う測定具M
1 のスライドが確実に行えて、試験精度も高まると思われる。測定補助具Eを構成する長方形厚板状をした補助具本体31は、正確な平面でない場合の多い岩石Rの表面形状に対応して変形可能なように、ゴム、発泡プラスチック等のような変形可能な弾性材で形成されて、円筒状の測定具本体Bの中央部には、長方形状のスライド凹部32が前記補助具本体31の長手方向に形成され、更に、当該スライド凹部32の中央部には、試験針Sの先端の突刺部Saを挿入するためのトラック状の突刺部貫通孔部33が貫通して形成されている。スライド凹部32の内側面及び底面は、測定具M
1 のスライドによる損傷が激しく、岩石の表面が平面状でない場合には、金属製の保護板34で覆うことが好ましい。
【0037】
なお、岩石の表面が平面状の場合には、測定具本体のみで構成して、金属製の保護板を設ける必要はない。また、補助具本体31に形成されるスライド凹部32の形状は、長方形状に限られず、試験針Sの直径に対応した「トラック形状」にすることも可能である。ここで、「トラック形状」とは、中心角が180°の一対の円弧を対向配置させて、両円弧の両端を直線で結んだ形状である。
【0038】
測定補助具Eは、その裏面に貼着された両面テープ35を介して岩石Rの表面の測定部位に貼り付けて、仮固定した状態で測定作業を行う。岩石Rの表面が平面に対して変形している場合には、補助具本体31は、岩石Rの表面形状に倣って変形された状態で、当該岩石Rの表面に仮固定される。この状態で、測定補助具Eのスライド凹部32に測定具本体Bの先端部(下端部)を部分挿入すると、試験針Sの突出部は、突刺部貫通孔部33に挿入される。この状態で、測定具本体Bに対して試験針Sが僅かに後退するまで、手で握っている測定具M
1 を岩石Rに突刺させると、当該試験針Sは、岩石Rに対して70Nの力で押し付けられ、このままでスライド凹部32に沿ってストロークL
0(10mm)だけスライドさせると、岩石Rの表面に溝状の条痕81が形成されて、試験針Sの先端部は、磨耗により直径(Wc)の平面状に変形される(
図6参照)。この直径(Wc)により、「CERCHAR試験」による岩石Rの磨耗能が算出されることは、上記の通りである。なお、
図6において、Dは、岩石Rに形成された溝状の条痕81の深さを示し、82は、岩石Rに発生した剥落部を示す。
【0039】
このように、本実施例の測定具M
1 によれば、対象岩石Rの磨耗能の測定を原位置で、しかも測定者一人で行えるため、対象岩石から採取した供試体原体を整形加工して供試体を得る必要がなくなって、岩石を変質させることなく、短時間にて岩石の磨耗能に係るデータを取得できると共に、同一の対象岩石の異なる部位の複数種類の磨耗能に係るデータを短時間に取得できて、データの信頼性が高められる。
【0040】
また、試験針Sは、測定を行う毎に、先端面が平面状に変形されるため、次の試験を行う際には、試験針Sの交換を行う。試験針Sは、Oリング23の弾性力により多数の鋼球22が試験針Sの上端部の外周面に押し付けられることにより、試験針ホルダー部B
2 から自重により抜け出ない構造になっているため、当該試験針Sの突出部を大きな力で引っ張ると、当該試験針Sは引き抜かれる。そして、試験針ホルダー部B
2 の試験針挿通孔4に新規の試験針Sを挿通すると、下バネ座15の試験針挿入孔17の内周面に僅かに臨んでいる多数の鋼球22は、Oリング23の弾性力に抗して僅かに後退させられて、新規の試験針Sの上端部に、Oリング23の弾性力が多数の鋼球22を介して作用して、当該新規の試験針Sは、自重では抜け出なくなる。このように、上記構成の測定具M
1 は、新旧の試験針Sの交換作業も容易である。また、新旧の試験針Sの交換が容易であるにもかかわらず、携帯時において、試験針Sが抜け出ないので、安全に使用できる。
【0041】
なお、下バネ座15の試験針挿入孔17に上端部が挿入された試験針Sが、試験針ホルダー部B
2 から抜け出るのを防止する手段は、上記した多数の鋼球22とOリング23との組み合せに係る構造に限定されない。他の試験針Sの抜出防止手段としては、下バネ座15に軸直角方向に螺合されて、先端部が試験針Sの上端部の外周面に当接するビスが挙げられる。
【0042】
次に、
図9ないし
図12を参照して、スライドガイド体Gを備えていて、試験針Sのストロークを可変にした測定具M
2 について説明する。測定具M
2 は、前記測定具M
1 と同一構造であるが、試験針ホルダー部B
2'の下端部に段差部41が形成されて、当該段差部41によって、測定具支持具Nの段差貫通孔42の段差部43に支持される。一方、スライドガイド体Gは、長方形枠状をしていて、一方の短辺部が、他のコの状をしたガイド体本体44に対して分割されて分割短辺体45となった構造である。前記測定具支持具Nを上下に二分した下方の部分の両側面には、前記ガイド体本体44が挿入されるガイド溝46が形成されている。分割短辺体45の上面におけるスライドガイド体Gの短手方向の中央部には、台形状をしたブロック部47が一体に形成され、下側の各コーナー部は欠落されて組付凹部48となっている。よって、分割短辺体45の各組付凹部48にガイド体本体44の各自由端部を挿入して、ボルト49を介して当該分割短辺体45と前記ガイド体本体44を一体に組み付けると、スライドガイド体Gとなる。
【0043】
分割短辺体45のブロック部47の内側面には、試験時における測定具M
2 のストロークを可変とするためのストッパ体Vが取付けられる。ストッパ体Vは、円盤体51の中心に固定ボルト52が一体に取付けられ、当該円盤体51における180°位相が異なる同一円周上には、長短のストローク可変ピン53,54が取付けられている。ストッパ体Vの上記構造に対応して、当該ストッパ体Vが一体に取付けられる分割短辺体45のブロック部47の中央部には、前記固定ボルト52の貫通孔55が形成され、前記した長短のストローク可変ピン53,54を挿入可能な3つの貫通孔56a,56b,56cが、前記貫通孔55を中心にして90°ずつ位相をずらして形成され、貫通孔56bに対して対向する部分(位相が180°ずれた部分)には、前記した長短のストローク可変ピン53,54の先端部のみが挿入可能な部分挿入孔57が形成されている。なお、58は、ストッパ体Vを分割短辺体45に一体に組み付ける際に、当該ストッパ体Vの固定ボルト52に螺合されるナットを示す。
【0044】
また、ガイド体本体44の短辺部、及び分割短辺体45の各裏面には、それぞれ岩石Rに突刺可能なスパイク針59が螺子により取付けられていて、
図12に示されるように、当該一対のスパイク針59を岩石Rの表面に突刺させて、スライドガイド体Gを岩石Rに対して仮固定しておいて、岩石Rに対して試験針Sを70Nの力で突刺した状態で、当該スライドガイド体Gに沿って測定具M
2 をスライドさせて、岩石の表面に溝状の条痕を形成して測定を行う。
【0045】
図12(a)〜(c)には、測定時における測定具M
2 のストロークの変化が示されている。
図12(a)には、ストロークL
2 (=15mm)が最も長い状態が示されている。この場合には、ストッパ体Vの長短の各ストローク可変ピン53,54が分割短辺体45の各貫通孔56a,56cに挿入されて、分割短辺体45の内側面にストッパ体Vの外側面が当接した状態で、分割短辺体45とストッパ体Vとが一体化されている。
【0046】
図12(b)には、最も測定頻度の高いストロークL
0 (=10mm)の状態が示されている。この場合には、ストッパ体Vの短い側のストローク可変ピン54が部分挿入孔57に部分挿入されて、当該ストローク可変ピン54の先端が部分挿入孔57の底面に当接していると共に、長い側のストローク可変ピン53が貫通孔56bに挿入された状態で、分割短辺体45とストッパ体Vとが一体化されている。このため、ストッパ体Vと分割短辺体45との間には、所定の隙間が形成されている。
【0047】
図12(c)には、ストロークL
1 (=5mm)が最も短い状態が示されており、最も測定頻度の高いストロークL
0 (=10mm)の場合に対して、ストッパ体Vを180°だけ回転させて、長い側のストローク可変ピン53が部分挿入孔57に部分挿入されて、当該ストローク可変ピン53の先端が部分挿入孔57の底面に当接している。
【0048】
また、上記実施例では、試験針Sに対して70Nの突刺力を確保するための「試験針付勢手段」として、圧縮バネを用いた例であるが、本発明においては、「試験針付勢手段」は、携帯可能な重量であって、しかも付勢力を調整できることを前提として、試験針Sに設定値(70N)の突刺力を付与できれば足りるので、空気圧を利用したショックアブソーバー等を測定具本体に内装することも可能である。