【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
〔実施例1〕流加培地の温度が抗体産生量に与える影響の検討1
培地組成、細胞及び調製法は以下のとおりである。
初発培地:市販の哺乳動物由来成分不含培地1を用いた。
流加培地:初発培地に用いた哺乳動物由来成分不含培地1の成分を、初発培地に対し3倍濃縮し、流加培地として用いた。培養開始時に低温(摂氏4度)または室温(約22−23度)に保存し、室温保存をコントロールとした。
細胞:組換え型抗グリピカン-3ヒト化抗体(国際公報第WO2006/006693号パンフレットの実施例24に記載の方法でヒト化し、実施例25の方法でL鎖が改変された抗体)を産生するCHO細胞株を用いた。抗体のクラスはIgG1。
【0062】
初発培地を含むジャー型細胞培養装置に上記CHO細胞株を、2×10
5 cells/mLとなるよう加えて37℃、10% CO
2の条件で培養を開始した。流加培養は、培養3日目より流加培地を一日に一回、一定量を添加し、14日培養の期間中、5、7、10、14日目にサンプリングを行った。各培養上清に含まれる抗体タンパク質の濃度は、プロテインAチップを用いたアフィニティー測定によって定量した。
図1に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養10日目で1.37 g/L、14日目で1.53 g/Lであった。これに対して、室温保存した流加培地を添加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養10日目で1.09 g/L、14日目で1.31 g/Lであった。以上より、低温に保たれた流加培地を添加することで、抗体産生量は培養10日目で26.1%、14日目で16.5%増加した。また、流加培地を低温に保った場合、細胞増殖の増加がみられた。
【0063】
〔実施例2〕流加培地の温度が抗体産生量に与える影響の検討2
培地組成、細胞及び調製法は以下のとおりである。
初発培地:市販の哺乳動物由来成分不含培地1を用いた。
流加培地:初発培地に用いた哺乳動物由来成分不含培地1の成分を、初発培地に対し3倍濃縮し、流加培地として用いた。培養開始時に低温(摂氏5度)または室温(約22−23度)に保存し、室温保存をコントロールとした。
細胞:組換え型抗IL-6レセプターヒト化抗体(トシリツマブ、hPM-1抗体)を産生するCHO細胞株を用いた。抗体のクラスはIgG1。
【0064】
初発培地を含むジャー型細胞培養装置に上記CHO細胞株を、2×10
5 cells/mLとなるよう加えて37℃、10% CO
2の条件で培養を開始した。流加培養は、培養3日目より流加培地を一定流速で添加し、11日培養の期間中、3、4、7、8、9、10、11日目にサンプリングを行った。各培養上清に含まれる抗体タンパク質の濃度は、プロテインAチップを用いたアフィニティー測定によって定量した。
図2に示したように、低温に保たれた流加培地を流加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養11日目で0.70 g/Lであった。これに対し、室温保存した流加培地を流加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養11日目で0.51 g/Lであった。以上より、低温に保たれた流加培地を添加することで、抗体産生量は培養11日目で37.2%増加した。また、流加培地を低温に保つことで、細胞増殖の増加がみられた。
【0065】
〔実施例3〕流加培地の温度が抗体の物性に与える影響の検討
培地組成、細胞及び調製法は以下のとおりである。
初発培地:市販の哺乳動物由来成分不含培地1を用いた。
流加培地:初発培地に用いた哺乳動物由来成分不含培地1の成分を、初発培地に対し3倍濃縮し、流加培地として用いた。培養開始時に低温(摂氏5度)または室温(約22−23度)保存し、室温保存をコントロールとした。
細胞:実施例2と同じ組換え型抗IL-6レセプターヒト化抗体(トシリツマブ、hPM-1抗体)を産生するCHO細胞株を用いた。抗体のクラスはIgG1。
【0066】
初発培地を含むジャー型細胞培養装置に上記CHO細胞株を、2×10
5 cells/mLとなるよう加えて37℃、10% CO
2の条件で培養を開始した。流加培養は、培養3日目より流加培地を一定流速で添加し、14日培養の期間中、10、14日目にサンプリングを行った。各培養上清中に含まれる抗体タンパク質の物性は、イオン交換クロマトグラフィー分析および糖鎖マッピングによって解析した。
図3に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の主成分(糖鎖修飾が成熟)の割合は培養10日目で68.3%、14日目で65.6%であった。これに対して、室温保存の流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の主成分の割合は培養10日目で66.1%、14日目で60.8%であった。
【0067】
また、
図4に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分1(主成分とは電荷の異なる成分)の割合は培養10日目で16.9%、14日目で24.7%であった。これに対して、室温保存の流加培地を添加した場合の抗体タンパクの副成分1の割合は培養10日目で18.7%、14日目で28.6%であった。
【0068】
さらに、
図5に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分2(主成分とは電荷の異なる成分)の割合は培養10日目で3.2%、14日目で2.6%であった。これに対して、室温保存の培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分2の割合は培養10日目で3.4%、14日目で3.4%であった。
【0069】
加えて、
図6に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体の糖鎖がハイマンノース型であった割合は培養10日目で3.1%、14日目で3.3%であった。これに対して、室温で保存した流加培地を添加した場合の抗体の糖鎖がハイマンノース型であった割合は培養10日目で3.3%、14日目で4.0%であった。ハイマンノース型の抗体タンパク質の糖鎖は、糖鎖修飾が未成熟であることを示している。
【0070】
以上より、低温に保存された流加培地を添加することで、抗体タンパク質の類縁物質の生成が抑制されることが明らかになった。
【0071】
〔実施例4〕別の流加培地を使用した検討
培地組成、細胞及び調製法は以下のとおりである。
初発培地:市販の哺乳動物由来成分不含培地1を用いた。
流加培地:完全合成培地IS CHO FEED-CD XP (IS社,Cat No. 91122)を流加培地として用いた。培養開始時に低温(摂氏4度)または室温(約22−23度)に保存し、室温保存をコントロールとした。
細胞:実施例1と同じ組換え型抗グリピカン-3ヒト化抗体を産生するCHO細胞株を用いた。抗体のクラスはIgG1。
【0072】
初発培地を含むシェイカー細胞培養器に上記CHO細胞株を、1×10
5 cells/mLとなるよう加えて37℃、5% CO
2の条件で培養を開始した。流加培養は、培養3日目より流加培地を一日に一回、一定量を添加し、14日培養の期間中、7、14日目にサンプリングを行った。各培養上清に含まれる抗体タンパク質の濃度は、プロテインAチップを用いたアフィニティー測定によって定量した。
図11に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養7日目で760.9 mg/L、14日目で821.3 mg/Lであった。これに対して、室温保存した流加培地を添加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養7日目で677.3 mg/L、14日目で723.5 mg/Lであった。以上より、低温に保たれた流加培地を添加することで、抗体産生量は培養7日目で12.3%、14日目で13.5%増加した。また、流加培地を低温に保った場合、細胞増殖の増加がみられた。
図12に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の主成分2(糖鎖修飾が成熟)の割合は培養14日目で45.0%であった。これに対して、室温保存の流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の主成分2の割合は培養14日目で41.9%であった。
【0073】
また、
図13に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分3(主成分とは電荷の異なる成分)の割合は14日目で50.8%であった。これに対して、室温保存の流加培地を添加した場合の抗体タンパクの副成分3の割合は培養14日目で53.7%であった。
【0074】
さらに、
図14に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分4(主成分とは電荷の異なる成分)の割合は培養14日目で4.2%であった。これに対して、室温保存の培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分4の割合は培養14日目で4.4%であった。
【0075】
加えて、
図15に示したように、低温に保たれた流加培地を添加した場合の抗体の糖鎖がハイマンノース型であった割合は培養14日目で2.5%であった。これに対して、室温で保存した流加培地を添加した場合の抗体の糖鎖がハイマンノース型であった割合は培養14日目で2.9%であった。ハイマンノース型の抗体タンパク質の糖鎖は、糖鎖修飾が未成熟であることを示している。
【0076】
以上より、実施例1〜3とは異なる完全合成培地を用いても、低温に保存された流加培地を添加することで、抗体タンパク質の生産性が向上し類縁物質の生成が抑制されることが明らかになった。
【0077】
〔実施例5〕一定温度保存下 14日後の流加培地中のグルタミン、アンモニア濃度
培地組成、実験方法は以下のとおりである。
初発培地に用いた哺乳動物由来成分不含培地1の成分を、初発培地に対し3倍濃縮し、流加培地として用いた。一定温度(4℃、10℃、15℃、室温22-23℃、25℃、37℃)保存下 14日後の流加培地中のグルタミン、アンモニア濃度を測定した。流加培地調製時のサンプル(Day0)をコントロールとした。
【0078】
図16に結果を示す。流加培地調製時のサンプル(Day0)と4℃、10℃、15℃で14日間おいたサンプルと比較し、室温22-23℃、25℃、37℃では顕著にグルタミンが減少し、アンモニアが生成していた。室温保存下での流加培地中のグルタミンの分解、アンモニアの生成は無視できないと考えられる。
【0079】
〔実施例6〕流加培地中のアンモニアが本培養に与える影響
培地組成、細胞及び調製法は以下のとおりである。
初発培地:市販の哺乳動物由来成分不含培地1を用いた。
流加培地:初発培地に用いた哺乳動物由来成分不含培地1の成分を、初発培地に対し3倍濃縮し、コントロールの流加培地(FM Ctrl.)として用いた。またその流加培地に10mMアンモニアを添加した培地(FM+10mM NH3)、20mMアンモニアを添加した培地(FM-20mM NH3)を調製した。全て低温(摂氏4度)で保存した。
細胞:実施例2と同じ組換え型抗IL-6レセプターヒト化抗体(トシリツマブ、hPM-1抗体)を産生するCHO細胞株を用いた。抗体のクラスはIgG1。
【0080】
初発培地を含むシェイカー細胞培養器に上記CHO細胞株を、2×10
5 cells/mLとなるよう加えて37℃、5% CO
2の条件で培養を開始した。流加培養は、培養3日目より流加培地を一日に一回、一定量を添加し、14日培養の期間中、5、7、10、14日目にサンプリングを行った。各培養上清に含まれる抗体タンパク質の濃度は、プロテインAチップを用いたアフィニティー測定によって定量した。
【0081】
図17に示したように、アンモニア添加量が増えるに従い増殖抑制がかかることが観察された。コントロールの流加培地を添加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養14日目で1.35 g/Lであった。これに対して、10mM、20mMアンモニアを加えた流加培地を添加した場合、抗体タンパク質の濃度は培養 14日目でそれぞれ1.20 g/L、0.97 g/Lであった。
【0082】
また、
図18に示したように、コントロールの流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の主成分(糖鎖修飾が成熟)の割合は培養14日目で62.5%であった。これに対して、10mM、20mMアンモニアを加えた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の主成分の割合は培養14日目でそれぞれ62.0%、59.2%であった。
【0083】
また、
図19に示したように、コントロールの流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分1(主成分とは電荷の異なる成分)の割合は14日目で26.7%であった。これに対して、10mM、20mMアンモニアを加えた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分1の割合は培養14日目でそれぞれ27.3%、29.9%であった。
【0084】
さらに、
図20に示したように、コントロールの流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分2(主成分とは電荷の異なる成分)の割合は培養14日目で3.8%であった。これに対して、10mM、20mMアンモニアを加えた流加培地を添加した場合の抗体タンパク質の副成分2の割合は培養14日目でそれぞれ4.5%、4.9%であった。
【0085】
加えて、
図21に示したように、コントロールの流加培地を添加した場合の抗体の糖鎖がハイマンノース型であった割合は培養14日目で5.1%であった。これに対して、10mM、20mMアンモニアを加えた流加培地を添加した場合の抗体の糖鎖がハイマンノース型であった割合は培養14日目でそれぞれ5.7%、6.5%であった。ハイマンノース型の抗体タンパク質の糖鎖は、糖鎖修飾が未成熟であることを示している。
【0086】
以上より、流加培地中のアンモニアが細胞増殖、生産性、物性に悪影響を与える一因であり、低温保存による流加培地中のグルタミンの分解抑制、アンモニアの生成抑制は有用な方法であると考えられる。