特許第5872998号(P5872998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5872998アルミナ焼結体、それを備える部材、および半導体製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872998
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】アルミナ焼結体、それを備える部材、および半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/10 20060101AFI20160216BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20160216BHJP
   B23Q 3/15 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C04B35/10 Z
   H01L21/68 R
   B23Q3/15 D
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-277705(P2012-277705)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-241322(P2013-241322A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-100598(P2012-100598)
(32)【優先日】2012年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109298
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 昇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】土佐 晃文
(72)【発明者】
【氏名】澤村 武憲
(72)【発明者】
【氏名】辻 正樹
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−036164(JP,A)
【文献】 特許第4623159(JP,B2)
【文献】 特開2004−292267(JP,A)
【文献】 特開平02−022166(JP,A)
【文献】 特開昭60−051661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00
C04B 35/10−35/111
B23Q 3/15
H01L 21/683
JSTPlus/JSTChina(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ(Al)を主成分とし、チタン元素(Ti)を含有するアルミナ焼結体において、
さらに、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素と、ケイ素元素(Si)とマグネシウム元素(Mg)の少なくとも一方と、を含有し、
アルミニウム元素(Al)の含有量は、前記アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al)の割合が、93.00〜99.85重量%となる量であり、
チタン元素(Ti)の含有量は、前記全酸化物中の酸化チタン(TiO)の割合が、0.10〜2.00重量%となる量であり、
ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の含有量の合計は、前記全酸化物に対する、酸化ランタン(La)、酸化ネオジム(Nd)、および酸化セリウム(CeO)の合計量の割合が、0.05〜5.00重量%となる量であり、
ケイ素元素(Si)およびマグネシウム元素(Mg)の含有量は、前記全酸化物中の酸化ケイ素(SiO)および酸化マグネシウム(MgO)の割合が、各々、1.00重量%以下となる量であり、
前記アルミナ焼結体の体積抵抗率が、室温において、1×10〜1×1012Ω・cmであることを特徴とする
アルミナ焼結体。
【請求項2】
請求項1記載のアルミナ焼結体であって、
前記アルミナ焼結体に含まれるチタン元素(Ti)に対する、ランタン元素(La)、
ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の合計のモル比が、0.03より大
きく5.00未満であることを特徴とする
アルミナ焼結体。
【請求項3】
アルミナ(Al)を主成分とし、チタン元素(Ti)を含有するアルミナ焼結体において、
アルミニウム元素(Al)およびチタン元素(Ti)以外に含有する金属元素が、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素と、マグネシウム元素(Mg)、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)およびケイ素元素(Si)から選択される少なくとも一種の元素であり、
アルミニウム元素(Al)の含有量は、前記アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al)の割合が、93.00〜99.85重量%となる量であり、
チタン元素(Ti)の含有量は、前記全酸化物中の酸化チタン(TiO)の割合が、0.10〜2.00重量%となる量であり、
ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の含有量の合計は、前記全酸化物に対する、酸化ランタン(La)、酸化ネオジム(Nd)、および酸化セリウム(CeO)の合計量の割合が、0.05〜5.00重量%となる量であり、
マグネシウム元素(Mg)、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)およびケイ素元素(Si)の含有量は、前記全酸化物中の酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)および酸化ケイ素(SiO)の割合が、各々、1.00重量%以下となる量であり、
前記アルミナ焼結体の体積抵抗率が、室温において、1×10〜1×1012Ω・cmであることを特徴とする
アルミナ焼結体。
【請求項4】
静電チャックであって、
室温における体積抵抗率が1×10〜1×1012Ω・cmである請求項1ないしいずれか1項に記載のアルミナ焼結体を備える
静電チャック。
【請求項5】
半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材であって、
室温における体積抵抗率が1×10〜1×1010Ω・cmである請求項1ないしいずれか1項に記載のアルミナ焼結体を備える
半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材。
【請求項6】
プラズマチャンバを備える半導体製造装置であって、
請求項に記載の静電チャック、または請求項に記載の静電気除去機能を有する部材を、前記プラズマチャンバ内に備える
半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ焼結体、それを備える部材、および半導体製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁性物質であるアルミナ(Al23)に、酸化チタン(TiO2)等の導電性付与剤を混合したアルミナ焼結体が知られている。アルミナに対して導電性付与剤を混合することで、アルミナ焼結体の体積抵抗率を調節することができる。例えば、アルミナ焼結体の体積抵抗率を105〜1010Ω・cmに調節し、半導体製造装置等で用いられる静電気除去機能を要する部材としてアルミナ焼結体を用いる構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。あるいは、アルミナ焼結体の体積抵抗率を108〜1011Ω・cmに調節し、半導体製造用のプラズマチャンバでシリコンウエハを固定するために用いる静電チャック(ジョンソン・ラーベック型静電チャック)として、アルミナ焼結体を利用する構成が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−292267号公報
【特許文献2】特許第04623159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したようにプラズマチャンバのためにアルミナ焼結体を用いる場合には、アルミナ焼結体がプラズマに曝されることに起因して、アルミナに添加した酸化チタンによってシリコンウエハが汚染される可能性があった。上記汚染を抑制するためには、酸化チタンの添加量を制限する方策も考えられるが、アルミナ焼結体の体積抵抗率は酸化チタンの添加量により調節されるため、酸化チタンの添加量を制限すると、所望の体積抵抗率を示すアルミナ焼結体が得られなくなる場合があった。また、アルミナ焼結体を製造する際に、例えばホットプレスやHIP(熱間静水圧加圧)処理などの特別な処理を行なって、所望の性能のアルミナ焼結体を得る方法も提案されているが(例えば、特許文献2参照)、より簡便な製造方法によりアルミナ焼結体を製造することが望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、製造工程の複雑化を抑え、アルミナに添加する酸化チタン量を抑制しながら、所望の体積抵抗率を示すアルミナ焼結体、それを備える部材、およびそれを備える装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0007】
[適用例1]
アルミナ(Al23)を主成分とし、チタン元素(Ti)を含有するアルミナ焼結体において、
さらに、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素を含有し、
アルミニウム元素(Al)の含有量は、前記アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al23)の割合が、93.00〜99.85重量%となる量であり、
チタン元素(Ti)の含有量は、前記全酸化物中の酸化チタン(TiO2)の割合が、0.10〜2.00重量%となる量であり、
ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の含有量の合計は、前記全酸化物に対する、酸化ランタン(La23)、酸化ネオジム(Nd23)、および酸化セリウム(CeO2)の合計量の割合が、0.05〜5.00重量%となる量であり、
前記アルミナ焼結体の体積抵抗率が、室温において、1×105〜1×1012Ω・cmであることを特徴とする
アルミナ焼結体。
【0008】
適用例1に記載のアルミナ焼結体によれば、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素から選択される少なくとも一種の元素を含有するため、チタン元素の添加量を制限しても、1×105〜1×1012Ω・cmという広い範囲内で、体積抵抗率を制御可能になる。また、チタン元素の添加量を上記した範囲に制限しても、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素のいずれの元素も添加しない場合に比べて、より広い範囲で、アルミナ焼結体の体積抵抗率を制御することが可能になる。さらに、適用例1に記載のアルミナ焼結体によれば、ホットプレスやHIP(熱間静水圧加圧)処理などの加圧焼成をせずに常圧で焼成を行なう場合であっても、より緻密な焼結体とすることが可能になる。そのため、常圧での焼成を行なう場合には、焼成時の圧力制御を不要にして、焼成のために用いる装置の複雑化を抑制可能になる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載のアルミナ焼結体であって、前記アルミナ焼結体に含まれるチタン元素(Ti)に対する、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の合計のモル比が、0.03より大きく5.00未満であることを特徴とするアルミナ焼結体。
適用例2に記載のアルミナ焼結体によれば、上記モル比を0.03より大きくすることで、アルミナ焼結体の製造時の焼成工程において、焼成温度よりも融点が低いチタン含有化合物を形成して、このような低融点化合物により、焼結を促進させ、アルミナ焼結体の緻密性を確保することができる。また、上記モル比を5.00未満とすることで、アルミナ焼結体の外観の色調のムラを抑制することができる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または2記載のアルミナ焼結体であって、さらに、ケイ素元素(Si)とマグネシウム元素(Mg)の少なくとも一方を含有し、ケイ素元素(Si)およびマグネシウム元素(Mg)の含有量は、前記全酸化物中の酸化ケイ素(SiO2)および酸化マグネシウム(MgO)の割合が、各々、1.0重量%以下となる量であることを特徴とするアルミナ焼結体。
適用例3に記載のアルミナ焼結体によれば、ケイ素元素とマグネシウム元素の少なくとも一方を含み、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算したときの各々の含有割合を1.0重量%以下とすることで、アルミナ焼結体の室温での体積抵抗率を、1×105〜1×1012Ω・cmの範囲で調節することが、より容易になる。また、ケイ素元素およびマグネシウム元素の添加量を上記範囲に抑えることで、アルミナ焼結体を半導体製造装置の構成部材として用いたときに、ケイ素元素やマグネシウム元素を添加することに起因する半導体ウエハの汚染を抑制することができる。
【0011】
[適用例4]
アルミナ(Al23)を主成分とし、チタン元素(Ti)を含有するアルミナ焼結体において、
アルミニウム元素(Al)およびチタン元素(Ti)以外に含有する金属元素が、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素と、マグネシウム元素(Mg)、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)およびケイ素元素(Si)から選択される少なくとも一種の元素であり、
アルミニウム元素(Al)の含有量は、前記アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al23)の割合が、93.00〜99.85重量%となる量であり、
チタン元素(Ti)の含有量は、前記全酸化物中の酸化チタン(TiO2)の割合が、0.10〜2.00重量%となる量であり、
ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の含有量の合計は、前記全酸化物に対する、酸化ランタン(La23)、酸化ネオジム(Nd23)、および酸化セリウム(CeO2)の合計量の割合が、0.05〜5.00重量%となる量であり、
マグネシウム元素(Mg)、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)およびケイ素元素(Si)の含有量は、前記全酸化物中の酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)および酸化ケイ素(SiO2)の割合が、各々、1.0重量%以下となる量であり、
前記アルミナ焼結体の体積抵抗率が、室温において、1×105〜1×1012Ω・cmであることを特徴とする
アルミナ焼結体。
【0012】
適用例4に記載のアルミナ焼結体によれば、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素から選択される少なくとも一種の元素を含有するため、チタン元素の添加量を制限しても、1×105〜1×1012Ω・cmという広い範囲内で、体積抵抗率を制御可能になる。また、ホットプレスやHIP(熱間静水圧加圧)処理などの加圧焼成をせずに常圧で焼成を行なう場合であっても、より緻密な焼結体とすることが可能になる。そのため、常温での焼成を行なう場合には、焼成時の圧力制御を不要にして、焼成のために用いる装置の複雑化を抑制可能になる。さらに、マグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素およびケイ素元素から選択される少なくとも一種の元素を含み、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算したときの各々の含有割合を1.0重量%以下とすることで、アルミナ焼結体の室温での体積抵抗率を、1×105〜1×1012Ω・cmの範囲で調節することが、より容易になる。また、マグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素およびケイ素元素から選択される少なくとも一種の元素の添加量を上記範囲に抑えることで、アルミナ焼結体を半導体製造装置の構成部材として用いたときに、上記元素を添加することに起因する半導体ウエハの汚染を抑制することができる。
【0013】
[適用例5]
静電チャックであって、室温における体積抵抗率が1×108〜1×1012Ω・cmである適用例1ないし4いずれか1項に記載のアルミナ焼結体を備える静電チャック。
適用例5に記載の静電チャックによれば、静電チャックにおいて、半導体ウエハを吸着・離脱する際の吸着・離脱特性を確保すると共に、静電チャックが備えるアルミナ焼結体中の金属元素に起因する半導体ウエハの汚染の可能性を抑えることができる。
【0014】
[適用例6]
半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材であって、室温における体積抵抗率が1×105〜1×1010Ω・cmである適用例1ないし4いずれか1項に記載のアルミナ焼結体を備える半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材。
適用例6に記載の半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材によれば、半導体製造装置に用いる部材において、静電気除去機能を確保すると共に、上記部材が備えるアルミナ焼結体中の金属元素に起因する半導体ウエハの汚染の可能性を抑えることができる。
【0015】
[適用例7]
プラズマチャンバを備える半導体製造装置であって、請求項5に記載の静電チャック、または請求項6に記載の静電気除去機能を有する部材を、前記プラズマチャンバ内に備える半導体製造装置。
適用例7に記載の半導体製造装置によれば、半導体製造装置において、プラズマチャンバ内に配置する静電チャックまたは静電気除去機能を有する部材において、適切な体積抵抗率を確保することができる。また、プラズマチャンバ内に配置する静電チャックまたは静電気除去機能を有する部材中の金属元素に起因する半導体ウエハの汚染の可能性を抑えることができる。
【0016】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、アルミナ焼結体の製造方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】静電チャックの構成の一例を示す断面模式図である。
図2】搬送用アームの外観の一例を示す斜視図である。
図3】アルミナ焼結体を作製した結果を表にして示す説明図である。
図4】アルミナ焼結体を作製した結果を表にして示す説明図である。
図5】EPMA/WDSを用いて測定を行なった結果を示す説明図である。
図6】アルミナ焼結体におけるケイ素元素の影響を調べた結果の説明図である。
図7】アルミナ焼結体におけるマグネシウム元素の影響を調べた結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〈アルミナ焼結体の組成及び製造方法〉
本実施形態のアルミナ焼結体は、アルミナ(Al23)を主成分とし、チタン元素(Ti)を含有すると共に、さらに、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素を含有している。本実施形態のアルミナ焼結体では、アルミニウム元素(Al)の含有量は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al23)の割合が、93.00〜99.85重量%となる量である。また、チタン元素(Ti)の含有量は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化チタン(TiO2)の割合が、0.1〜2.0重量%となる量である。また、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の含有量の合計は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物に対する、酸化ランタン(La23)、酸化ネオジム(Nd23)、および酸化セリウム(CeO2)の合計量の割合が、0.05〜5.00重量%となる量である。そして、本実施形態のアルミナ焼結体は、体積抵抗率が、室温において、1×105〜1×1012Ω・cmである。
【0019】
本実施形態のアルミナ焼結体は、上記のように、主成分であるアルミナに対して、チタン元素(Ti)に加えて、さらに、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素が添加されている。そのため、チタン元素の添加量を上記した範囲に制限しても、1×105〜1×1012Ω・cmという広い範囲内で、室温における体積抵抗率を所望の値に制御することが可能になる。また、チタン元素の添加量を上記した範囲とするときに、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素のいずれの元素も添加しない場合に比べて、より広い範囲で、アルミナ焼結体の体積抵抗率を制御することが可能になる。
【0020】
ここで、アルミナ焼結体に添加する元素の量は、アルミナ焼結体の用途に応じて、添加する元素毎に制限がある。特に、アルミナ焼結体を半導体製造装置に適用する場合には、アルミナ焼結体に添加する金属元素量を、より少なくすることが求められている。中でも、アルミナ焼結体をプラズマチャンバ内で用いる場合には、半導体ウエハに対する汚染の影響の程度としては、チタン元素による汚染の影響が大きいため、チタン元素の削減が特に望まれている。本実施形態のアルミナ焼結体によれば、アルミナ焼結体に添加するチタン元素(Ti)の量によって体積抵抗率を調節する際に、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される元素を加えるだけで良い。これにより、アルミナ焼結体を半導体製造装置に適用する場合に、半導体ウエハ(例えばシリコンウエハ)の汚染の観点から特に問題となるチタン元素の添加量のレベルを大きく低下させつつ、所望の体積抵抗率を示すアルミナ焼結体を得ることが可能になる。具体的には、アルミナ焼結体の体積抵抗率を、静電チャックや、半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材として適した値とすることができる。また、このとき、チタン元素の添加量を抑えるために加えるランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素から選択される元素の量も、半導体ウエハを汚染する影響を抑えることができる限定された量で良い。そのため、このようなアルミナ焼結体を半導体製造装置に適用することで、半導体ウエハの汚染を抑制することができる。
【0021】
さらに、本実施形態のアルミナ焼結体によれば、チタン元素(Ti)に加えて、さらに、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素を添加することにより、アルミナ焼結体の製造時の焼成工程を常圧で行なうことが可能になる。半導体製造装置用構成部材の最低限の機械的強度や体積抵抗率の安定性を確保するためには、一般に、アルミナ焼結体を充分に緻密に形成することが望ましい。本実施形態のアルミナ焼結体によれば、上記構成とすることにより、常圧で焼成を行なっても、より緻密な焼結体を得ることができる。このように、常圧での焼成が可能になるため、焼成時の圧力制御が不要になり、焼成のために用いる装置の複雑化を抑制できる。
【0022】
本実施形態のアルミナ焼結体は、例えば、固相反応法により形成することができる。固相反応法とは、酸化物や、炭酸塩、あるいは硝酸塩などの粉末原料を、作製すべき酸化物の組成に応じて、上記粉末原料中の金属元素が所定の割合となるように秤量、混合した後、熱処理(焼成)を行って、所望の酸化物を合成する周知の方法である。以下に、固相反応法による製造方法の一例として、セラミックグリーンシートの作製を伴う製造方法について説明するが、粉末を用いたプレス成形による製造方法など異なる方法によって本実施形態のアルミナ焼結体を作製しても良い。
【0023】
本実施形態では、アルミニウム含有粉末原料(例えばAl23)と、チタン含有粉末原料(例えばTiO2)と、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素から選択される少なくとも一種を含有する粉末原料(例えば、La(OH)3、Nd23、CeO2)を用いればよい。これらの粉末原料を混合する際には、各々の粉末原料が含有する金属元素が酸化物になったときの全酸化物中の各々の金属酸化物の割合(重量%)が、既述した数値範囲となるように、各々の粉末原料の混合量を設定すればよい。このとき、得られるアルミナ焼結体の体積抵抗率が、既述した範囲内の所望の値となるように、各々の粉末原料の具体的な混合割合を調節すればよい。なお、最終的に得られるアルミナ焼結体においては、含有する金属元素の割合(モル比)は、製造時に混合した粉末原料中の金属元素の割合と、実質的に同じとなる。
【0024】
各粉末原料の混合割合が上記した値となるように、各粉末原料を秤量、混合した後には、有機バインダと可塑剤と分散剤と溶剤とをさらに加えて混合し、セラミックスラリを作製する。その後、セラミックスラリをシート状に成形して、セラミックグリーンシートを得る。得られたセラミックグリーンシートは、必要に応じて複数枚を積層して圧着し、積層体を作製する。得られたセラミック積層体を脱脂して、非酸化雰囲気下にて焼成し、本実施形態のアルミナ焼結体を得る。非酸化雰囲気下で焼成するためには、例えば、加湿した水素と窒素の混合ガス中で焼成を行なえばよい。あるいは、真空下や、アルゴンガス等の不活性ガス中で焼成を行なっても良く、非酸化雰囲気下であれば良い。また、焼成温度は、例えば、1450〜1700℃とすることができる。
【0025】
本実施形態のアルミナ焼結体において、ランタン元素(La)等をさらに添加することによりチタン元素(Ti)の添加量を抑制できる理由は、以下のように考えられる。すなわち、本実施形態のアルミナ焼結体では、製造時の焼成工程において、粉末原料を構成するチタン化合物と、ランタン化合物、ネオジム化合物、あるいはセリウム化合物とが反応して、焼成温度よりも低融点な化合物が生じる。焼成の工程では、アルミナ(Al23)の結晶が成長するが、このとき、上記したチタン元素を含有する低融点化合物が、液相状態となって、アルミナの粒子間(結晶粒界)に広がると考えられる。一方、酸化アルミニウムと酸化チタンのみからなる組成系では、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化アルミニウムと酸化チタンとが反応して生じる化合物は、融点が焼成温度よりも高く、焼成工程において液相状態とならず、アルミナの粒子間に広がらない。また、既述したように、焼成を非酸化雰囲気下で行なうことにより、アルミナの結晶粒界に広がった低融点化合物に含まれるチタン元素の少なくとも一部が還元され、アルミナの結晶粒界において、電子のパスが形成される。このように、本実施形態では、ランタン元素等をさらに添加することで、焼成時に、チタン元素を含有する低融点化合物が生成して、チタン元素を含有する化合物をアルミナの結晶粒界に広がりやすくすることができる。そのため、粒界に広がったチタン化合物の少なくとも一部を還元して電子のパスを形成することで、チタン元素の添加量を抑制しても、アルミナ焼結体において所望の体積抵抗率を実現することが可能になると考えられる。なお、本実施形態のアルミナ焼結体の製造方法とは異なり、焼成を大気中などの酸化雰囲気下で行なうと、アルミナの結晶粒界に広がった低融点化合物が還元されず、十分な電子パスが形成されない。そのため、焼成を酸化雰囲気下で行なうと、アルミナ焼結体の組成を既述した範囲に設定しても、得られるアルミナ焼結体の体積抵抗率は、本実施形態のアルミナ焼結体の体積抵抗率よりも大きな値となる。
【0026】
なお、本実施形態のアルミナ焼結体は、上記したように非酸化雰囲気下で焼成を行なうため、アルミナ焼結体を、例えば内部や表面に配線を有する部材を形成するために用いる場合には、製造工程を簡素化することができる。具体的には、アルミナ焼結体を製造するための焼成工程と、配線を形成するためのメタライズの焼成工程とを、同時に行なうことができる。
【0027】
また、本実施形態のアルミナ焼結体は、ランタン元素(La)等をさらに添加することで、低融点化合物が、液相状態となって、アルミナの粒子間に広がるため、焼結が促進され、アルミナ焼結体を、より緻密に形成することが可能になる。そのため、特に焼成体を加圧することなく、常圧(大気圧)にて焼成を行なっても、充分に緻密なアルミナ焼結体を得ることができる。
【0028】
〈Alの含有量について〉
本実施形態のアルミナ焼結体では、既述したように、アルミニウム元素(Al)の含有量は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al23)の割合が、93.00〜99.85重量%となる量である。更に好ましい範囲としては、98.00〜99.85重量%である。ここで、上記全酸化物中の酸化アルミニウムの割合を、93.00重量%未満にすると、アルミナ焼結体における添加物、具体的には、アルミニウム以外の金属元素量が、多くなってしまう。そのため、アルミナ焼結体がプラズマに曝されたときに発生するパーティクル量が増え、アルミナ焼結体を半導体製造装置の構成部材として用いたときに、半導体ウエハへの影響が無視できなくなり望ましくない。特にパーティクルの量を減らす必要があるときには、上記全酸化物中の酸化アルミニウムの割合を98.00重量%以上にすることが効果的である。また、上記全酸化物中の酸化アルミニウムの割合が、99.85重量%を越える場合には、アルミナ焼結体を製造するために添加されるチタン元素や、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素から選択される少なくとも一種の元素の量が、少なくなってしまう。そのため、アルミナ焼結体において、チタンによる電子のパスの形成が抑制されてしまい、アルミナ焼結体の体積抵抗率がより高くなるため、望ましくない。
【0029】
〈Tiの含有量について〉
本実施形態のアルミナ焼結体では、既述したように、チタン元素(Ti)の含有量は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化チタン(TiO2)の割合が、0.1〜2.0重量%となる量である。ここで、上記全酸化物中の酸化チタンの割合を、0.1重量%未満にすると、アルミナ焼結体における電子のパスの形成に関わるチタン量を充分に確保することが困難となり、体積抵抗率がより高くなるため、望ましくない。また、上記全酸化物中の酸化チタンの割合が、2.0重量%を越える場合には、アルミナ焼結体における電子のパスの形成に関わるチタン量が過剰になって、体積抵抗率がより低くなるため望ましくない。
【0030】
〈La、Nd、Ceの含有量について〉
本実施形態のアルミナ焼結体では、既述したように、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の含有量の合計は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物に対する、酸化ランタン(La23)、酸化ネオジム(Nd23)、および酸化セリウム(CeO2)の合計量の割合が、0.05〜5.00重量%となる量である。ここで、上記全酸化物中の、酸化ランタン、酸化ネオジム、および酸化セリウムの合計量の割合を、0.05重量%未満にすると、アルミナ焼結体の製造時の焼成工程において、低融点なチタン含有化合物の形成が不十分になり、チタンによる電子パスの形成が抑制されてしまう。その結果、アルミナ焼結体の体積抵抗率がより高くなるため、望ましくない。また、上記全酸化物中の、酸化ランタン、酸化ネオジム、および酸化セリウムの合計量の割合が、5.00重量%を越える場合には、アルミナ焼結体における添加物、具体的には、アルミニウム以外の金属元素量が、多くなってしまう。そのため、アルミナ焼結体がプラズマに曝されたときに発生するパーティクル量が増え、アルミナ焼結体を半導体製造装置の構成部材として用いたときに、半導体ウエハへの影響が無視できなくなり望ましくない。
【0031】
本実施形態のアルミナ焼結体では、アルミナ焼結体に含まれるチタン元素(Ti)に対する、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)の合計のモル比を、0.03より大きく5.00未満とすることが望ましい。上記モル比を0.03よりも大きくすることで、アルミナ焼結体の製造時の焼成工程において、焼成温度よりも融点が低いチタン含有化合物を充分に形成して、このような低融点化合物により、焼結を促進させることができる。そのため、アルミナ焼結体を充分に緻密にする(焼結性を確保する)ことができて望ましい。また、上記モル比を5.00未満とすることで、アルミナ焼結体の外観の色調のムラを抑制することができて望ましい。
【0032】
〈他の添加金属について〉
本実施形態のアルミナ焼結体は、さらに、マグネシウム元素(Mg)、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)およびケイ素元素(Si)から選択される少なくとも一種の元素を含有することとしても良い。この場合には、マグネシウム元素(Mg)、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)およびケイ素元素(Si)の含有量は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)および酸化ケイ素(SiO2)の割合が、各々、1.0重量%以下であることが望ましい。マグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素およびケイ素元素から選択される少なくとも一種の元素を含み、各々の含有割合を1.0重量%以下とすることで、アルミナ焼結体の室温での体積抵抗率を、1×105〜1×1012Ω・cmとすることが、より容易になる。また、マグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素およびケイ素元素から選択される少なくとも一種の元素の添加量を上記範囲に抑えることで、アルミナ焼結体を半導体製造装置の構成部材として用いたときに、上記した元素を添加することに起因する半導体ウエハの汚染を抑制することができる。本実施形態のアルミナ焼結体において、アルミニウム元素(Al)およびチタン元素(Ti)以外に含有する金属元素が、ランタン元素(La)、ネオジム元素(Nd)、およびセリウム元素(Ce)から選択される少なくとも一種の元素と、マグネシウム元素(Mg)、カルシウム元素(Ca)、ストロンチウム元素(Sr)、バリウム元素(Ba)およびケイ素元素(Si)から選択される少なくとも一種の元素のみであることとしてもよい。
【0033】
既述したように、アルミナ焼結体においては、添加するチタン元素の量により、アルミナ焼結体の体積抵抗率を調節することができる。このようなアルミナ焼結体において、さらに、マグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素およびケイ素元素から選択される少なくとも一種の元素をさらに添加することで、アルミナ焼結体の体積抵抗率と、チタン元素の添加量との間の対応関係を変化させることができる。具体的には、本実施形態のアルミナ焼結体にさらにケイ素元素を添加することで、添加するチタン元素の量に対応するアルミナ焼結体の体積抵抗率のレベルを、全体的に低下させることができる。このとき、アルミナ焼結体に添加するケイ素元素の量が多いほど、アルミナ焼結体の体積抵抗率のレベルを低下させる程度が大きくなる。そのため、ケイ素元素をさらに添加することで、チタン元素の添加量を増やすことなく、アルミナ焼結体の体積抵抗率を所望の値に調節することが可能になる。
【0034】
また、本実施形態のアルミナ焼結体にさらにマグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素およびバリウム元素から選択される少なくとも一種の元素(以下、マグネシウム等の元素とも呼ぶ)を添加することで、添加するチタン元素の量に対応するアルミナ焼結体の体積抵抗率のレベルを、全体的に上昇させることができる。このとき、アルミナ焼結体に添加するマグネシウム等の元素の量が多いほど、アルミナ焼結体の体積抵抗率のレベルを上昇させる程度が大きくなる。そのため、マグネシウム等の元素をさらに添加することで、アルミナ焼結体の体積抵抗率を所望の値に調節するための各元素の含有量の微調整を、より容易にすることが可能になる。
【0035】
上記したように、マグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素およびケイ素元素から選択される少なくとも一種の元素は、アルミナ焼結体の体積抵抗値を所望の値に調整する効果を奏する。ただし、本実施形態のアルミナ焼結体を半導体製造装置用の部材として使用した場合、一般にシリコンウエハ等をエッチングするガスとして良く使用されるフッ化物系のガスに対しては、酸化ケイ素(SiO2)は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)および酸化バリウム(BaO)に比べてプラズマにより腐食されやすい。そのため、腐食が少なくアルミナ焼結体の耐食性が向上するという観点からは、添加元素としてケイ素元素を用いるよりも、マグネシウム元素、カルシウム元素、ストロンチウム元素およびバリウム元素から選択される少なくとも一種の元素を用いる方が望ましい。
【0036】
〈静電チャックの構成例について〉
本実施形態のアルミナ焼結体は、静電チャックを作製するために好適に用いることができる。ここで、静電チャックとは、半導体ウエハを製造する半導体製造装置(例えば、エッチング装置、イオン注入装置、電子ビーム露光装置など)において、半導体ウエハの固定、搬送などを行なうための部材である。本実施形態のアルミナ焼結体は、特に、ジョンソン・ラーベック型(JR型)静電チャックにおいて、好適に用いることができる。
【0037】
図1は、本実施形態のアルミナ焼結体を利用した静電チャックの構成の一例を示す断面模式図である。図1に示す静電チャック10は、誘電層12と、内部電極13,14と、基材15と、を備えている。誘電層12は、本実施形態のアルミナ焼結体によって構成されている。誘電層12の一方の面は、半導体ウエハが吸着されるチャック面17となっている。誘電層12の他方の面には、基材15が接合されている。基材15は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金によって構成することができる。静電チャック10の内部には、誘電層12内および基材15内にわたって、ガストンネル16が形成されている。ガストンネル16は、チャック面17に保持された半導体ウエハを冷却するために、ヘリウム(He)等の冷却ガスを、基材15側からチャック面17側へと供給するための流路である。内部電極13,14には、電源19が接続されており、内部電極13,14間に直流電圧を印加することによって、半導体ウエハを吸着するための静電引力を発生可能となっている。
【0038】
このような静電チャックでは、半導体ウエハを吸着・離脱する際の吸着・離脱特性が、誘電層12の体積抵抗率に依存するため、誘電層12の体積抵抗率を適切に設定する必要がある。静電チャック10は、JR型静電チャックであるため、誘電層12を構成するアルミナ焼結体の室温での体積抵抗率は、1×108〜1×1012Ω・cmとすることが望ましい。このような体積抵抗率を実現する際に、アルミナ焼結体が含有するアルミニウム元素以外の金属元素量を削減するためには、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al23)の割合が、95.00重量%以上であることが望ましい。また、チタン元素(Ti)の含有量は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化チタン(TiO2)の割合が、0.1〜1.5重量%となる量であることが望ましい。また、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素の含有量の合計は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物に対する、酸化ランタン、酸化ネオジム、および酸化セリウムの合計量の割合が、0.05〜2.00重量%となる量であることが望ましい。
【0039】
本実施形態のアルミナ焼結体を用いて静電チャック10を作製する際には、例えば、既述したセラミックグリーンシートを積層することによって、誘電層12を作製すればよい。このとき、メタライズインクを用いて、内部電極13,14に相当するパターンを予めセラミックグリーンシートに印刷しておけば、非酸化雰囲気下で焼成を行なうことにより、アルミナ焼結体と内部電極13,14とを同時に完成することができる。なお、セラミックグリーンシートを積層して誘電層12を作製する場合には、積層するセラミックグリーンシートの各々に、ガストンネル16の形状に対応する穴を設けておけばよい。本実施形態のアルミナ焼結体は、常圧での焼成により充分に緻密化できるため、誘電層12の製造工程において加圧下での焼成が不要であり、ガストンネル16のような空隙構造を、支障無く設けることができる。なお、静電チャック10の構成は種々の変形が可能である。例えばガストンネル16を設けないこととしても良く、あるいはさらにヒータを設けても良い。また、内部電極の構成を、双極方式ではなく単極方式としても良い。
【0040】
〈静電気除去機能を有する部材の構成例について〉
本実施形態のアルミナ焼結体は、静電気除去機能を有する部品を構成する部材を形成するために、好適に用いることができる。静電気除去機能を有する部品としては、例えば半導体製造装置用の部品、より具体的にはプラズマチャンバ内で用いる半導体製造装置用の部品を挙げることができる。ここで、半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部品としては、例えば、搬送用アーム、ハンドリング治具、ウエハ搬送用ピンセット、ウエハリフターピン等、プラズマチャンバ内で用いる部品を挙げることができる。
【0041】
図2は、本実施形態のアルミナ焼結体を利用した搬送用アームの一例として、搬送用アーム20の外観を示す斜視図である。このように、本実施形態のアルミナ焼結体によって、半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材を形成することで、半導体製造装置において充分な静電気除去機能を実現することが可能になる。また、半導体の製造工程において、プラズマに曝されて発生するパーティクルに起因して半導体ウエハが汚染されることを抑制できる。
【0042】
本実施形態のアルミナ焼結体によって、半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材を形成する場合には、アルミナ焼結体の室温での体積抵抗率は、1×105〜1×1010Ω・cmとすることが望ましい。このような体積抵抗率を実現する際に、アルミナ焼結体が含有するアルミニウム元素以外の金属元素量を削減するためには、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化アルミニウム(Al23)の割合が、93.00重量%以上であることが望ましい。また、チタン元素(Ti)の含有量は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物中の酸化チタン(TiO2)の割合が、0.3〜1.8重量%となる量であることが望ましい。また、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素の含有量の合計は、アルミナ焼結体が含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物に対する、酸化ランタン、酸化ネオジム、および酸化セリウムの合計量の割合が、0.1〜4.5重量%となる量であることが望ましい。なお、アルミナ焼結体の室温での体積抵抗率を1×105〜1×1010Ω・cmとするならば、アルミナ焼結体を備える部材を、半導体製造装置以外の用途であっても、静電気除去機能を有する部材として好適に用いることができる。
【0043】
〈アルミナ焼結体の分析方法について〉
アルミナ焼結体における各金属元素の含有量は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。アルミナ焼結体中の各元素の含有量を酸化物換算により求めるには、まず、上記方法により、各金属元素の含有量を測定した後に、測定結果に基づいて、各金属元素が酸化物として存在すると仮定したときの全酸化物の総量(酸化物に換算した総量)を求めればよい。そして、各々の金属元素について、各々の金属元素を酸化物に換算した量の、上記各金属元素を酸化物に換算した総量に対する割合を求めればよい。また、アルミナ焼結体の体積抵抗率は、絶縁性部材の抵抗値の測定方法として周知である三端子法により測定すればよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。
【0045】
図3は、サンプル1〜サンプル40まで40種類のアルミナ焼結体を作製した結果を表にして示す説明図である。また、図4は、サンプル41〜サンプル60まで20種類のアルミナ焼結体を作製した結果を表にして示す説明図である。以下に、各サンプルの構成および製造方法と、各サンプルの評価結果について説明する。
【0046】
A.各サンプルの作製:
サンプル1〜10、および37〜41は、金属元素として、アルミニウム元素(Al)と、チタン元素(Ti)と、ランタン元素(La)を含有するアルミナ焼結体である。サンプル11〜20は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにケイ素元素(Si)を含有するアルミナ焼結体である。サンプル21〜24、および42〜52は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにマグネシウム元素(Mg)を含有するアルミナ焼結体である。サンプル25〜30、33、34は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにケイ素元素およびマグネシウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル31は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、セリウム元素(Ce)に加えて、さらにケイ素元素およびマグネシウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル32は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ネオジム元素(Nd)に加えて、さらにケイ素元素およびマグネシウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル53は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにマグネシウム元素およびカルシウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル54、55は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにカルシウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル56は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにマグネシウム元素およびバリウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル57、58は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにバリウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル59は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ネオジム元素(Nd)に加えて、さらにマグネシウム元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル60は、金属元素として、アルミニウム元素と、チタン元素と、ランタン元素に加えて、さらにストロンチウム(Sr)元素を含有するアルミナ焼結体である。サンプル35、36は、金属元素として、アルミニウム元素とチタン元素とを含有するアルミナ焼結体である。
【0047】
各サンプルは、固相反応法により作製した。固相反応法に供する粉末材料としては、酸化アルミニウム(Al23)粉末、酸化チタン(TiO2)粉末、水酸化ランタン(La(OH)3)粉末、酸化ネオジム(Nd23)粉末、酸化セリウム(CeO2)粉末、酸化ケイ素(SiO2)粉末、炭酸マグネシウム(MgCO3)粉末、炭酸カルシウム(CaCO3)粉末、炭酸バリウム(BaCO3)粉末、炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末を用いた。酸化アルミニウム(Al23)粉末としては、平均粒径2.8μm、純度99.9%の粉末を用いた。これらの原料粉末から、図3に示した組成に応じた必要な原料粉末を選択し、図3に示した組成比になるように原料粉末を秤量して混合した。すなわち、各サンプルが含有する金属元素を酸化物に換算して合計したときの全酸化物の総量に対する、各々の元素を酸化物に換算した量の割合が、図3に示す値となるように、各原料粉末を混合した。
【0048】
原料粉末を混合した後、さらに、有機バインダ(ブチラール樹脂)と可塑剤と分散剤と有機溶剤とを加えて混合し、セラミックスラリを作製した。その後、セラミックスラリをシート状に成形して、セラミックグリーンシートを得た。得られたセラミックグリーンシートは、複数枚を積層して圧着し、積層体を作製した。得られたセラミック積層体を脱脂して、非酸化雰囲気下(加湿した水素と窒素の混合ガス中で1550℃にて4時間)にて焼成し、各サンプルを得た。
【0049】
B.各サンプルの評価:
各サンプルについて、三端子法により、体積抵抗率を測定した。具体的には、焼成した各サンプルから直径20mm、厚み1mmの円盤状の測定用サンプルを切り出し加工し、各測定用サンプルの表裏面に三端子測定用のPt電極を焼き付けて、体積抵抗率を測定した。ここで、測定用サンプルにPt電極を焼き付ける際のガスの雰囲気は、焼成時の雰囲気と同一とした。各々のサンプルの体積抵抗率の測定結果は、図3および図4に示している。なお、焼き付け時の雰囲気の影響を受けないように、上記した電極の焼き付けに代えて、金(Au)を用いたスパッタ法などにより電極を形成してもよい。
【0050】
また、図3および図4では、各サンプルについて、チタン元素に対する、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素の合計のモル比((La+Nd+Ce)/Ti)についても示している。図3および図4に示した上記モル比は、各サンプルの製造時に用いた原料粉末中の各金属元素量に基づいて求めた値である。さらに、図3および図4では、各サンプルについて、かさ密度および含水率をアルキメデス法により測定した結果を示している。アルキメデス法とは、固体試料を密度既知の液体(ここでは水)中に沈め、試料が受ける浮力に基づいて密度を算出する周知の方法である。かさ密度を求める式を(1)式、含水率を求める式を(2)式として、以下に示す。なお、以下の式において、含水重量とは、各サンプルに形成された微細孔内に、減圧下で水を含浸させた後に、空気中で各サンプルの重量を測定した値をいう。
【0051】
かさ密度(g/cm3)=乾燥重量(g)÷
(含水重量(g)−水中重量(g))×水の密度(g/cm3)…(1)
含水率(vol.%)=(1−(乾燥重量(g)−水中重量(g))÷
(含水重量(g)−水中重量(g)))×100 …(2)
【0052】
さらに、各サンプルについて、外観を目視観察し、色調のムラの有無を評価した。色調ムラの有無についても、図3および図4に示している。
【0053】
図3および図4に示すように、サンプル1〜34および41〜60では、1×105〜1×1012Ω・cmの体積抵抗率が得られた。すなわち、金属元素を酸化物換算したときのアルミニウム元素の含有割合が93.00〜99.85重量%であり、チタン元素の含有割合が0.10〜2.00重量%であり、ランタン元素、ネオジム元素、セリウム元素から選択される元素の含有割合が0.05〜5.00重量%である条件を満たすサンプルが、上記範囲の体積抵抗率を示すことが確認された。
【0054】
これに対して、金属元素を酸化物換算したときのアルミニウム元素の含有割合が93.00〜99.85重量%、チタン元素の含有割合が0.1〜2.0重量%の範囲であっても、ランタン元素、ネオジム元素、セリウム元素のいずれも含有しないと、体積抵抗率は、1×1012Ω・cmを越える値となった(サンプル35,36参照)。また、ランタン元素を含有する場合であっても、ランタン元素の含有割合が、酸化物換算で0.05重量%未満の場合には、体積抵抗率は、1×1012Ω・cmを越える値となった(サンプル37,38参照)。また、ランタン元素の含有割合が、酸化物換算で0.05〜5.00重量%の範囲であっても、チタン元素の含有割合が、酸化物換算で0.1重量%未満の場合には、体積抵抗率は、1×1012Ω・cmを越える値となった(サンプル39参照)。さらに、ランタン元素の含有割合が、酸化物換算で0.05〜5.00重量%の範囲であっても、チタン元素の含有割合が、酸化物換算で2.0重量%を越える場合には、体積抵抗率は、1×105Ω・cm未満の値となった(サンプル40参照)。
【0055】
また、図3に示すように、チタン元素に対する、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素の合計のモル比が0.03以下のアルミナ焼結体では、焼結性が低くなることが確認された。すなわち、かさ密度が他のサンプルよりも低く(3.85(g/cm3)以下に)なり、含水率の値も大きく(0.1%以上に)なった(サンプル4,35,36,38参照)。また、チタン元素に対する、ランタン元素、ネオジム元素、およびセリウム元素の合計のモル比が、5.74以上のアルミナ焼結体では、外観の色調にムラが生じやすくなることが確認された(サンプル6,8,21,22,39参照)。
【0056】
C.EPMA/WDSによる生成相の評価:
図5は、作製したアルミナ焼結体を鏡面研磨し、EPMA(電子線マイクロアナライザ)/WDS(波長分散型X線分析)を用いて測定を行なった結果を示す説明図である。ここでは、一例として、サンプル27についての測定結果を示す。図5(A)は、電子顕微鏡で見たときの反射電子像であり、各領域が備える元素の種類が濃淡で表わされる。図5(B)〜(D)は、図5(A)と同じ領域についてのEPMAのカラーマップであり、具体的には、図5(B)は、アルミニウム元素の分布を示し、図5(C)は、チタン元素の分布を示し、図5(D)は、ランタン元素の分布を示す。
【0057】
図5(A)〜(D)より、図5(A)において、黒色で表わされた領域は、金属元素として主にアルミニウム元素を含んでおり、且つ、XRDにより、酸化アルミニウム(Al23)の結晶相が確認された事から、酸化アルミニウムの結晶相と考えられる。また白色で表わされた領域は、金属元素として主にアルミニウム元素を含む結晶相の粒界に存在しており、アルミニウム元素とチタン元素とランタン元素とを含む酸化物の相であると考えられる。上記のような、アルミニウム元素とチタン元素とランタン元素とを含む酸化物の相は、サンプル27以外のサンプル1〜26、28〜30、33〜34、41〜58および60においても、金属元素として主にアルミニウム元素を含む酸化アルミニウム結晶相の粒界部分に、同様に観察された。また、サンプル31においては、アルミニウム元素とチタン元素とセリウム元素とを含む酸化物の相が、サンプル32および59においては、アルミニウム元素とチタン元素とネオジム元素とを含む酸化物の相が、同様に観察された。このように、アルミナ焼結体において、チタンを含有する酸化物が酸化アルミニウムの結晶粒界に広がっていることが確認された。なお、酸化アルミニウムの結晶粒界のうち、図5(A)では白色のエリアとして明確に表れていない箇所においても、EPMAでは検出されないが、上記のチタンを含有する酸化物が存在し、電子のパスを形成していると考えられる。
【0058】
D.ケイ素元素とマグネシウム元素の影響の評価:
図6は、アルミナ焼結体における酸化物換算したチタン元素の含有量(図6ではTiO2含有量と記載)と体積抵抗率との関係に対する、ケイ素元素の影響を調べた結果を示す説明図である。図6は、ランタン元素を同じ含有割合(金属元素を酸化物換算したときのランタン元素の含有割合が0.07重量%)で含むサンプルに係る結果を示す。図6中のグラフ(a)は、ケイ素元素を添加していないアルミナ焼結体に関するものであり、図3に示したサンプル1、2、4についてプロットした結果を示す。なお、図6および後述する図7に示すグラフでは、図3に示したサンプルに対応するポイントには、サンプル番号を付記している。図6中のグラフ(b)は、金属元素を酸化物換算したときのケイ素元素の含有割合が0.20重量%であるサンプル11、14についての結果を示す。また、グラフ(c)は、金属元素を酸化物換算したときのケイ素元素の含有割合が0.70重量%であるサンプル15、18についての結果を示す。
【0059】
図7は、アルミナ焼結体における酸化物換算したチタン元素の含有量(図7ではTiO2含有量と記載)と体積抵抗率との関係に対する、マグネシウム元素の影響を調べた結果を示す説明図である。図7は、ランタン元素を同じ含有割合(金属元素を酸化物換算したときのランタン元素の含有割合が4.80重量%)で含むサンプルに係る結果を示す。図7中のグラフ(d)は、マグネシウム元素を添加していないアルミナ焼結体に関するものであり、図3に示したサンプル8、9、10についてプロットした結果を示す。図7中のグラフ(e)は、金属元素を酸化物換算したときのマグネシウム元素の含有割合が0.20重量%であるサンプル21、23についての結果を示す。また、グラフ(f)は、金属元素を酸化物換算したときのマグネシウム元素の含有割合が0.70重量%であるサンプルサンプル22、24についての結果を示す。
【0060】
図6、7に示すように、アルミナ焼結体では、チタン元素の含有割合が多いほど、体積抵抗率が低くなる傾向を示す。このとき、図6に示すように、ケイ素元素をさらに添加する場合には、ケイ素元素の添加量を増加させるほど、体積抵抗率のレベルが全体的に低下することが確認された。すなわち、ケイ素元素をさらに添加することで、所望の体積抵抗率を示すアルミナ焼結体を得る際に、チタン元素の添加量を削減可能となることが確認された。なお、図6に示すように、体積抵抗率が1×105〜1×1012Ω・cmの範囲であるアルミナ焼結体を得るためには、金属元素を酸化物換算したときのケイ素元素の含有割合として、0.20重量%と0.70重量%のいずれの場合も、有用であることが確認された。
【0061】
また、図7に示すように、マグネシウム元素をさらに添加する場合には、マグネシウム元素の添加量を増加させるほど、体積抵抗率のレベルが全体的に上昇することが確認された。さらに、マグネシウム元素を添加することにより、チタン元素の含有割合に対応する体積抵抗率を表わすグラフの傾きが、より小さくなることが確認された。したがって、チタン元素の含有割合によってアルミナ焼結体の体積抵抗率を調節する際に、さらにマグネシウム元素を添加することにより、体積抵抗率の微調整が、より容易になると考えられる。なお、図7に示すように、体積抵抗率が1×105〜1×1012Ω・cmの範囲であるアルミナ焼結体を得るためには、金属元素を酸化物換算したときのマグネシウム元素の含有割合として、0.20重量%と0.70重量%のいずれの場合も、有用であることが確認された。
【0062】
E.静電チャックの製造:
サンプル3と同じ元素組成のアルミナ焼結体を用いて、静電チャック(図1参照)を作製した。具体的には、サンプル3と同じ元素組成となるように、既述したセラミックグリーンシートを作製した。得られたセラミックグリーンシートを所定の大きさに切断し、メカニカルパンチやドリル加工を施して、ビアホールや端子接続部形成用の貫通孔等を形成した。さらに、ビア配線を形成するために、上記ビアホールに、タングステン(W)やモリブデン(Mo)を主成分とするメタライズを充填した。また、電極や配線を形成するために、セラミックグリーンシートの表面に、スクリーン印刷により、タングステンやモリブデンを主成分とするメタライズを塗布した。このように加工したセラミックグリーンシートを積層圧着し、得られた積層体の表面に、エンドミル加工により溝を形成し、さらに別の積層体と積層圧着した。その後、所定の形状に外形を加工することで、内部にガストンネルやメタライズ配線を形成した積層前駆体を得た。
【0063】
上記積層前駆体を脱脂し、加湿した水素と窒素の混合ガス中で1550℃にて4時間焼成して、アルミナ焼結体を得た。このアルミナ焼結体を所定の形状に研磨加工して、静電チャック用セラミック基板を得た。得られた静電チャック用セラミック基板をアルミニウム製の基材15に接着剤で接着し、金属製の導電端子をロウ付けすることにより、静電チャックを得た。この静電チャックを評価装置に設置し、真空中でシリコンウエハを載置した状態で静電チャックの電極に電圧を印加したところ、シリコンウエハが静電チャックに吸着され、静電チャックとして機能することが確認された。
【0064】
また、作製した静電チャックの体積抵抗率を測定した、具体的には、作製した静電チャックから試験片を切り出して、三端子法で体積抵抗率を測定した。すなわち、作製した静電チャックから直径20mm、厚み1mmの円盤状の測定用サンプルを切り出し加工し、各測定用サンプルの表裏面に三端子測定用のPt電極を焼き付けて、体積抵抗率を測定した。なお、測定用サンプルにPt電極を焼き付ける際のガスの雰囲気は、アルミナ焼結体を得るための焼成時の雰囲気と同一とした。その結果、サンプル3と同様に、8×108Ω・cmの体積抵抗率を示し、JR型静電チャックとして適当な体積抵抗率を示すことが確認された。なお、焼き付け時の雰囲気の影響を受けないように、上記した電極の焼き付けに代えて、金(Au)を用いたスパッタ法などにより電極を形成して、測定用サンプルを作製してもよい。
【0065】
F.半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材の製造:
サンプル26と同じ元素組成のアルミナ焼結体を用いて、搬送用アーム(図2参照)を作製した。具体的には、サンプル26と同じ元素組成となるように、既述したセラミックスラリを作製した。得られたセラミックスラリを用いて、スプレー乾燥法により造粒粉を得て、この造粒粉を、プレス法により所定形状に成形した。得られた成形体を脱脂し、加湿した水素と窒素の混合ガス中で1550℃にて4時間焼成して、アルミナ焼結体を得た。このアルミナ焼結体を、半導体製造装置用の搬送アームに対応する形状となるように研磨加工した。
【0066】
得られた搬送アーム用アルミナ焼結体から試験片を切り出し、体積抵抗率を三端子法にて測定した。すなわち、作製した搬送アーム用アルミナ焼結体から直径20mm、厚み1mmの円盤状の測定用サンプルを切り出し加工し、各測定用サンプルの表裏面に三端子測定用のPt電極を焼き付けて、体積抵抗率を測定した。なお、測定用サンプルにPt電極を焼き付ける際のガスの雰囲気は、焼成時の雰囲気と同一とした。その結果、サンプル26と同様に、2×107Ω・cmの体積抵抗率を示し、半導体製造装置用の静電気除去機能を有する部材として適当な体積抵抗率を示すことが確認された。なお、焼き付け時の雰囲気の影響を受けないように、上記した電極の焼き付けに代えて、金(Au)を用いたスパッタ法などにより電極を形成して、測定用サンプルを作製してもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…静電チャック
12…誘電層
13,14…内部電極
15…基材
16…ガストンネル
17…チャック面
19…電源
20…搬送用アーム
図1
図2
図3
図4
図6
図7
図5