(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X線回折によるピーク強度積分比を用いて圧延面に垂直な断面を観察した結果、前記組織構造中のβ相の比率(%)が0.1≦β≦22である請求項1又は2に記載のファスニング用銅合金。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の銅合金は、ショットブラストなどの加工処理を行う必要があるため、製造工程数が多くなり、製造コストを上げる原因となっている。更に、特許文献1に記載の銅合金は、好適な冷間加工性を得るために、組織構造をα相単相とすることが記載され、合金中の亜鉛濃度を高くするとβ相の形成が顕著となるため、冷間加工が困難になり好ましくない旨が記載されている。即ち、特許文献1に記載の技術では、銅中の亜鉛濃度を高くしてα相とβ相とを混在させた場合の合金の耐時期割れ性及び冷間加工性については未だ十分な検討がなされていない。また、特許文献1に記載の銅合金は、亜鉛濃度が低く、押し出しで製造することが困難であるという問題がある。
【0006】
上記問題点を鑑み、本発明は、製造容易性に優れ、耐時期割れ性及び冷間加工性に優れたファスニング用銅合金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明の態様によれば、組織構造がα相とβ相との混相からなり、一般式:Cubal.ZnaMnb(bal.、a、bは質量%、bal.は残部、34≦a≦40.5、0.1≦b≦6、不可避的不純物を含み得る)で表され、且つ下記(1)及び(2)式:
b≧(−8a+300)/7(但し34≦a<37.5) ・・・(1)
b≦(−5.5a+225.25)/5(但し35.5≦a≦40.5) ・・・(2)
を満たす組成を有するファスニング用銅合金が提供される。
【0008】
本発明に係るファスニング用銅合金は一実施形態において、組織構造がα相とβ相との混相からなり、一般式:Cubal.ZnaMnb(bal.、a、bは質量%、bal.は残部、35≦a≦38.3、0.2≦b≦3.5、不可避的不純物を含み得る)で表され、且つ下記(3)及び(4)式:
b≧−a+38.5(但し35≦a≦38.3) ・・・(3)
b≦−a+40.5(但し37≦a≦38.3) ・・・(4)
を満たす組成を有するファスニング用銅合金である。
【0009】
本発明に係るファスニング用銅合金は他の一実施形態において、X線回折によるピーク強度積分比を用いて圧延面に垂直な断面を観察した結果、組織構造中のβ相の比率(%)が0.1≦β≦22である。
【0010】
本発明に係るファスニング用銅合金は更に他の一実施形態において、組織構造において、平均結晶粒径が3〜14μmである。
【0011】
本発明に係るファスニング用銅合金は更に他の一実施形態において、アンモニア暴露試験を行った後の引抜き強度が、Cu
85Zn
15材料比で70%以上である。
【0012】
本発明の他の態様によれば、上記のファスニング用銅合金からなるファスニング構成物品が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造容易性に優れ、耐時期割れ性及び冷間加工性に優れたファスニング用銅合金が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
−ファスニング用銅合金−
本発明の実施の形態に係るファスニング用銅合金は、組織構造が、面心立方構造を有するα相と体心立方構造を有するβ相との混相からなる銅合金である。一般に、Zn量の増加に伴って、時期割れ感受性がより高くなることが知られているが、本発明者らの鋭意検討によれば、銅中の亜鉛濃度と添加元素濃度とを適切な範囲に調整するとともに、製造時の加熱条件及び冷却条件を制御して、組織構造を適切なα+β相となるように制御することにより、80%以上の冷間加工性を実現でき、且つ時期割れ性をも向上できることが分かった。
【0016】
<Zn>
亜鉛の含有量が34質量%未満では、銅の含有量が大きくなることにより、材料のコスト高につながると共に、銅―亜鉛―マンガンの3元系合金においては、マンガンを多く含有することにもなるため、マンガン量が多くなることにより検針器対応の材料とならないといった問題が生じる。本発明でいう検針器対応の材料とは、NC―B基準(鋼球換算値φ1.2以下)をクリアできる商品に対応した材料である。亜鉛の含有量が40.5%を超えると、鋳造材において組織構造が50%以上のβ相比率となって脆くなるため、銅合金の冷間加工性が悪くなり、脆性破壊が生じやすくなる。銅合金中のZnの含有量は、34〜40.5質量%が好ましく、より好ましくは35〜38.3質量%、更に好ましくは35〜38質量%である。
【0017】
<Mn>
Cu−Zn系合金は、亜鉛元素が高濃度で銅中に存在することにより、耐食性が著しく低下する問題があるが、添加元素としてMnを銅に添加することで、ファスニング材料の時期割れを効果的に抑制できる。Mnの添加は、結晶粒を容易に微細化させ、強度を向上させる効果もある。
【0018】
なお、銅合金の性質を改良する目的で添加される添加元素としては、一般的には、Al、Si、Sn等も知られている。しかしながら、これらの添加元素は、亜鉛当量の値が大きく、微量の添加によっても合金の特性が大きく変化する場合がある。このため、大量生産を目的とするファスニング用銅合金の品質を一定に制御することが困難になり、生産容易性の向上が図れない。これに対し、Mnは、Al、Si、Sn等の添加元素に比べても、亜鉛当量の値が0.5と著しく小さい。そのため、他の添加元素と比べて、製造誤差により生じ得る最終製品の品質の差をより小さくでき、品質安定性に優れ、大量生産に適したファスニング用銅合金を得ることができる。
【0019】
本発明に係る銅合金は、Mnを0.1質量%以上添加することで、80%以上の冷間加工性及び耐時期割れ性の両方を兼ね備えたファスニング用銅合金を得ることができる。Mnの含有量を多くしすぎると冷間加工性が低下する。また、合金自身が磁性を帯びてくることにより、ファスニング材料に必要な、製造後の検針作業が困難になる場合がある。Mnの添加量としては、Zn量が少なくなることによる材料コスト高につながらないようにするためには0.1〜6質量%が好ましく、検針NC−A基準(鋼球換算値φ0.8以下)に対応するためには、より好ましくは0.1〜3.5質量%、更に好ましくは0.2〜3.0質量%である。
【0020】
<各組成の関係>
本発明の実施の形態に係るファスニング用銅合金は、
一般式:Cubal.ZnaMnb(bal.、a、bは質量%、bal.は残部、34≦a≦40.5、0.1≦b≦6、不可避的不純物を含み得る)で表される組成を有し、
且つ下記(1)及び(2)式:
b≧(−8a+300)/7(但し34≦a<37.5) ・・・(1)
b≦(−5.5a+225.25)/5(但し35.5≦a≦40.5) ・・・(2)
を満たす組成を有することが好ましい。
【0021】
各組成の関係を(1)及び(2)式のように定めたのは、(1)及び(2)式を満たさない場合は、ファスニング用材料として必要な冷間加工性及び耐時期割れ性の両方の実現が困難であるからである。即ち、Mn濃度が(1)式を満たさない場合、即ち、b<(−8a+300)/7の場合、加工は容易であるが、アンモニア等の腐食関係下に曝されると割れが発生する場合が多くなる。一方、Mn濃度が(2)式を満たさない場合、即ちb>(−5.5a+225.25)/5の場合は、割れは生じにくいが、組織構造が脆く、冷間加工性が悪くなる。
【0022】
本発明の実施の形態に係るファスニング用銅合金は、更に下記(3)及び(4)式:
b≧−a+38.5(但し35≦a≦38.3) ・・・(3)
b≦−a+40.5(但し37≦a≦38.3) ・・・(4)
を満たす銅合金であることがより好ましい。
【0023】
(3)及び(4)式を満たす合金組成とすることにより、最終的に得られる銅合金の外観色調が、顧客が求める既存のCu
85Zn
15合金の色調に非常に近似するものとなる。そのため、本発明に係る銅合金を用いてファスニング材料を大量生産した場合においても、ファスニング材料同士の色調変化が生じにくくなり、また、β相の比率を所望の比率に制御しやすく、これにより歩留まりが高く、品質安定性及び外観性に優れたファスニング材料を得ることができる。さらには、検針器対応のファスニング材料として、より有用な材料となる。
【0024】
<α相とβ相の比率>
銅合金のα相とβ相の比率の制御は、ファスニング材料に求められる耐時期割れ性及び冷間加工性を向上させる上で重要である。α相とβ相の比率の制御は、加熱条件及びその後の冷却条件を調整することにより行うことができる。
【0025】
本発明の実施の形態に係る銅合金によれば、結晶構造中のβ相の比率(%)が0.1≦β≦22であるのが好ましく、より好ましくは0.5≦β≦20.5である。β相の比率が高すぎると、冷間加工性が確保できなくなる。β層の比率が低すぎると、マンガンが含有していても十分な耐時期割性が得られないためである。なお、「結晶構造中のβ相の比率」は、SiC耐水研磨紙で研磨し、ダイヤモンドで鏡面仕上げすることにより、圧延面に垂直な断面を露出させ、この断面を、X線回折(θ−2θ法)によりα相とβ相のピーク強度の積分比を算出し、β相の比率(%)=(β相ピーク強度積分比)/(α相ピーク強度積分比+β相ピーク強度積分比)×100として算出した値を指す。
【0026】
<結晶粒径>
本発明の実施の形態に係る銅合金は、組織構造において、平均結晶粒径が14μm以下が好ましく、例えば3〜13.5μmである。平均結晶粒径の下限に特に制限はないが、均一に再結晶させるためには、0.1μm以上が好ましい。本実施形態において「平均結晶粒径」とは、電子顕微鏡又は光学顕微鏡による観察により得られた金属組織観察写真上に、観察写真の端から端までランダム又は任意に20本引き、線の長さを測定して実際のスケールとの比較をすることにより長さを補正し、補正後の線の長さを、線と公差する結晶粒界の数で割って、平均の結晶粒径の長さを測定した値である。即ち、(平均結晶粒径)=(写真上に引いた線の長さを実際の長さに補正した総長さ(20本分の長さ)/(写真上に引いた直線と公差する結晶粒界の数)により評価される。
【0027】
<特性>
本発明の実施の形態に係るファスニング用銅合金は、アンモニア暴露試験を行った後の引抜き強度がCu
85Zn
15材料比70%以上の値を示し、冷間加工性が80%以上、500℃押出面圧が、Cu
85Zn
15材料比65%以下の1100MPa以下とすることができる。これは、一般的なダイス用の鋼材の500℃での降伏強度が1400MPa前後であるため、ダイスの寿命を長くすることができることを表している。また、本発明の実施の形態に係るファスニング用銅合金は、冷間プロセスで有効であるだけでなく、熱間プロセスでも充分に使用できる。これにより、No.5サイズ(ファスナーの一対のエレメントがかみ合った状態での、エレメント幅が5.5mm以上、7.0mm未満のサイズ)のファスナーを製造した場合においても高い強度を有し、耐時期割れ性及び耐応力腐食性を向上でき、成形が容易で大量生産に優れた材料が提供できる。なお、アンモニア暴露試験、冷間加工性及び500℃押出面圧の評価方法の詳細は、後述する実施例において詳しく説明する。
【0028】
<ファスニング構成物品>
本発明に係るファスニング用銅合金に好適なファスニング構成物品の例を、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、ファスニング構成物品として、スライドファスナーを構成する部品を例に説明するが、本発明は、以下に示すファスニング材料以外の銅合金製品や、最終製品が得られる前の中間製品(例えば後述するような長尺の線材)などに対しても同様に適用することができる。
【0029】
ファスニング構成物品としては、例えば、ファスナーエレメント、上止具、下止具、開離嵌挿具及びスライダーなどが利用可能であるが、ここに例示した部品以外の様々なファスニング材料に利用可能であることは勿論である。ここでは、スライドファスナー1を例に説明する。
【0030】
スライドファスナー1は、例えば
図1に示すように、ファスナーテープ3の対向するテープ側縁部に複数のファスナーエレメント10が列設されてエレメント列4が形成された左右一対のファスナーストリンガー2と、左右のファスナーストリンガー2の上端部及び下端部にエレメント列4に沿って取着された上止具5及び下止具6と、エレメント列4に沿って摺動可能に配されたスライダー7とを有している。
【0031】
各ファスナーエレメント10は、
図2に示すように、Yバーと呼ばれる断面が略Y字形状の線材20を所定の厚さでスライスし、そのスライスしたエレメント素材21にプレス加工等を行って噛合頭部10aを形成することにより製造される。
【0032】
ファスナーエレメント10は、プレス加工等により形成された噛合頭部10aと、噛合頭部10aから一方向に延設された胴部10bと、胴部10bから二股に分岐して延設された一対の脚部10cとを有する。ファスナーエレメント10は、一対の脚部10c間にファスナーテープ3の芯紐部3aを含むエレメント取付部が挿入された状態で、両脚部10cが互いに近接する方向(内側)に加締められて塑性変形することにより、ファスナーテープ3に所定の間隔で取り付けられる。
【0033】
スライドファスナー1用の上止具5は、断面が矩形状の平角材5aを所定の厚さでスライスし、得られた切断片に曲げ加工を行って断面略U字状に成形することにより製造される。また、上止具5は、その内周側の空間部にファスナーテープ3のエレメント取付部が挿入された状態で加締められて塑性変形することにより、左右のファスナーテープ3のそれぞれに取り付けられる。
【0034】
スライドファスナー1用の下止具6は、断面が略H形状(又は略X形状)の異形線材6aを所定の厚さでスライスすることにより製造される。また、下止具6は、左右の内周側の空間部にそれぞれ左右のファスナーテープ3のエレメント取付部が挿入された状態で加締められて塑性変形することにより、左右のファスナーテープ3に跨って取り付けられる。
【0035】
ファスナーエレメント10、上止具5、下止具6、スライダー7等のファスニング材料は、冷間加工を行うことが多く、この冷間加工により引張り残留応力が生じ、Znを多く含む合金においては時期割れが多く発生していた。本発明の実施の形態に係る銅合金によれば、銅中の亜鉛濃度と添加元素濃度とを適切な範囲に調整するとともに、製造時の加熱条件及び冷却条件を制御して、組織構造を適切なα+β相となるように制御することにより、80%以上の冷間加工性を実現でき、且つ時期割れ性に優れた合金とすることができる。
【0036】
<製造方法>
ファスニング用銅合金を用いたファスニング構成物品の製造方法の例を説明する。
【0037】
図1に示すファスナーエレメント10を製造する場合、先ず、所定の断面積を有する銅亜鉛合金の鋳造材を鋳造する。このとき、鋳造材は、亜鉛の含有量が34〜40.5質量%、より好ましくは35〜38.3質量%、更に好ましくは35〜38質量%となるように銅亜鉛合金の組成を調整して鋳造する。
【0038】
続いて、鋳造材を作製後、所望の線径に冷間伸線して、熱処理を行うことにより、銅亜鉛合金におけるα相とβ相の比率を、β相の比率が、0.1≦β≦22、より好ましくは0.5≦β≦20.5となるように制御する。鋳造材に行う熱処理の条件は、銅亜鉛合金の組成に応じて任意に設定することができる。
【0039】
鋳造材におけるβ相の比率を制御した後、その鋳造材に対して、例えば加工率が80%以上となるように冷間押出加工等の冷間加工を行うことにより、中間製品となる長尺の線材を作製する。冷間加工は、銅亜鉛合金の再結晶温度未満の温度で行われ、好ましくは200℃以下の温度、特に100℃以下の温度で行われると良い。
【0040】
その後、冷間加工が施された長尺線材を複数の圧延ロールを通して、線材の横断面が略Y形状となるように冷間加工を行うことにより、前述したYバー20が成形される。Yバー20を所定の厚さでスライスし、そのスライスしたエレメント素材21に、フォーミングパンチとフォーミングダイによりプレス加工等を行って噛合頭部10aを形成することによって、本実施形態に係るファスナーエレメント10が製造できる。なお、本発明に係る銅合金は、高温押出性にも優れるため、鋳造材を直接400℃以上で押出して、Yバー等の異形の線材を直接製造することもできる。
【0041】
上止具5の場合、先ず、ファスナーエレメント10と同様の組成を有する銅亜鉛合金製の鋳造材を鋳造し、同鋳造材に熱処理を施して銅亜鉛合金におけるβ相の比率を制御する。次に、得られた鋳造材に冷間加工を行うことにより、断面が矩形状の平角材5a(中間製品)を作製する。その後、得られた平角材5aを、
図2に示すように所定の厚さでスライスし、得られた切断片に曲げ加工を行って断面略U字状に成形することにより上止具5を製造することができる。
【0042】
下止具6の場合、先ず、ファスナーエレメント10や上止具5と同様の組成を有する銅亜鉛合金製の鋳造材を鋳造し、同鋳造材に熱処理を施して銅亜鉛合金におけるβ相の比率を制御する。次に、得られた鋳造材に冷間加工を行うことにより、断面が略H形状(又は略X形状)の異形線材6a(中間製品)を作製する。その後、得られた異形線材6aを、
図2に示すように所定の厚さでスライスすることにより下止具6を製造することができる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0044】
下記の表1に示す合金組成となるように銅、亜鉛、及び各種添加元素を秤量し、高周波真空溶解装置により、アルゴン雰囲気中で溶解して直径40mmの鋳塊を作製し、得られた鋳塊から直径8mmの押出材を作製した。得られた押出材に対して、板厚が4.0〜4.2mmの範囲の所定の板状になるまで冷間加工を施した。
【0045】
400℃以上700℃以下の範囲で上記板材に熱処理を施し、熱処理後の板材を除冷した。熱処理を施して加工歪みが除去された板材に対して、上下方向のみから圧延加工する冷間圧延を施して、板厚1mm以下の長尺の板材を製造した。得られた板材から板厚約0.8mm、板幅10mm、所定板長(圧延方向の長さ)の試験片を切り出した。
【0046】
<β比率の評価>
得られた各試験片について、圧延面に垂直な断面の銅亜鉛合金の組織を、断面写真により観察した。SiC耐水研磨紙(#180〜#2000まで)を用いて研磨することにより圧延面に垂直な断面を露出させ、この断面に対して更にダイヤモンドペースト3μm、1μmで鏡面仕上げを施し、これを試験片としてX線回折による測定を行った。測定機種としては、ブルッカーAXS社製、GADDS−Discover8を使用し、測定時間は低角度側90s、高角度側120sとして、α相及びβ相のピーク強度積分比をそれぞれ算出した。β相の比率(%)=(β相ピーク強度積分比)/(α相ピーク強度積分比+β相ピーク強度積分比)×100として算出した。
【0047】
<冷間加工性評価>
上記で得られた板厚4.0〜4.2mmとした板材を500℃、6時間大気焼鈍した後、表面に生じた酸化膜を除去するために、板状試験片に対してフライス加工を行い、表面をSiC耐水研磨紙(#800)で仕上げ、冷間加工性評価用の試験片を作製した。冷間加工性評価用の試験片の仕上げ寸法は、板厚3.5mm、板幅7.5mm、所定板長とした。圧延機にて、下記の式に基づく限界圧下率を評価した。材料に亀裂が生じた1パス前の時点を限界圧下率とした。
(圧下率)(%)={(圧延開始時の板厚−圧延後の板厚)/(圧延開始時の板厚)}×100
【0048】
<500℃押出面圧>
表1に示す合金組成となるように銅、亜鉛、及び各種添加元素を秤量し、高周波真空溶解装置により、アルゴン雰囲気中で溶解して直径40mmの鋳塊(ビレット)を作製した。
図3に示す押出機コンテナ31を500℃に設定し、ビレット32を800℃設定大気炉で30分加熱後、押出機コンテナ(内径φ42)に挿入した。ビレット32上にステム33を配置し、ステム33でビレットを押圧することにより、コンテナ31の前面に配置されたφ8mm材用のダイス34からビレットを押し出し、その際の最大荷重を測定し、その最大荷重から最大面圧を算出して、「500℃押出面圧」とした。
【0049】
<アンモニア暴露後の平均引抜強度評価>
アンモニア暴露試験は、日本伸銅協会技術標準JBMA−T301銅合金展伸材のアンモニア試験方法(JBMA法)に準じて行った。なお、ファスナー製品評価のために、No.5サイズのファスナーチェーンをアンモニア雰囲気中で暴露したものを洗浄したものを試験片とした。得られた試験片であるファスナーチェーンのエレメントを引張り試験機で引っ張り、得られた荷重の平均値を平均引き抜き強度とした。結果を表1に示す。なお、表中、平均引抜強度が、Cu
85Zn
15材料(比較例1)比85%以上のものを◎、70%以上85%未満のものを○、55%以上、70%未満のものを△、55%未満のものを×で表す。
<検針基準>
検針性能は、上記<アンモニア暴露後の平均引抜強度評価>で用いた試験片で評価を行った。試験片の検針値が、φ0.8mm鋼球相当以下であればNC―A基準とし、φ1.2mm鋼球相当以下であればNC―B基準として評価した。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1〜9では、いずれも80%の冷間加工性に優れ、500℃押出面圧もいずれも850N〜1100Nの値を示した。アンモニア暴露試験後の引抜強度も、いずれも◎又は○であり、耐時期割れ性及び冷間加工性に優れた銅合金が得られていることが分かる。
比較例1は、冷間加工性、耐時期割れ性には優れているが、亜鉛濃度が低く原材料のコストが高くなる。また、500℃押出面圧が高く、押出による生産が厳しい。
比較例2〜6、11は、添加元素としてMnが添加されていない例であるが、いずれもアンモニア暴露試験後の引抜き強度が小さく、耐時期割れ性の点で劣っている。
比較例7、8は、β相の比率が40%と高くなっているため、限界圧下率が39%程度にしかならず、冷間加工性が悪い。また、比較例7、8は、いずれも実施例1〜9ほどの高い冷間加工性は得られておらず、アンモニア暴露試験用の試験片も作製できないほど冷間加工性が悪く、冷間加工後の残留応力を有する状態での試験片が作製できず、結晶粒径も評価できなかった。
比較例9、10は、いずれも添加元素としてMnは添加しているが、組織構造がα+β相の混相となっておらず、耐時期割れ性も悪い。
比較例12〜17は、添加元素としてAlを添加した例を示す。比較例12〜17のいずれも実施例1〜9ほどの高い冷間加工性は得られておらず、アンモニア暴露試験用の試験片も作製できないほど冷間加工性が悪く、冷間加工後の残留応力を有する状態での試験片作製できなかった。
比較例18〜23は、添加元素としてSiを添加し、比較例24〜28は、添加元素としてSnを添加した例である。比較例18〜28のいずれも、実施例1〜9ほどの高い冷間加工性は得られておらず、アンモニア暴露試験用の試験片も作製できないほど冷間加工性が悪かった。比較例29は、本発明の組成範囲で、β相の比率が高い例である。上記と同様に、実施例ほど冷間加工性に優れず、アンモニア暴露試験用の試験片も作製できないほど冷間加工性が悪かった。