(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
検査対象の核磁気共鳴により発生するエコー信号を取得する撮像部と、前記撮像部が取得したエコー信号を処理し、核磁気共鳴画像を作成する画像処理部とを備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記画像処理部が処理するエコー信号は、第1の計測で取得した第1計測データと、第2の計測で取得した第2計測データとを含み、且つ第1計測データ及び第2計測データは、それぞれ、異なる極性の読出し傾斜磁場を用いて取得した第1群のエコーデータと第2群のエコーデータを含み、
前記画像処理部は、前記第1計測データを用いて前記第2計測データを補正する補正手段を備え、
前記補正手段は、前記第1計測データの第1群のエコーデータと第2群のエコーデータとの位相差分データ、前記第1群のエコーデータ間の位相差分、及び前記第2群のエコーデータ間の位相差分を用いて補正用データを作成するものであり、
前記第1群のエコーデータと第2群のエコーデータとの位相差分は、前記第1群のエコーデータ間の位相差分を算出する際の基準となる第1群中のエコーデータと、前記第2群のエコーデータ間の位相差分を算出する際の基準となる第2群中のエコーデータと、の位相差分であり、
前記補正手段は、前記補正用データを作成する際に、前記第1計測データの前記第1群のエコーデータと第2群のエコーデータとの位相差分データを周波数方向に連続する位相差分データに変換し、その際、信号強度が閾値以下の周波数方向のデータ点または領域のみを予め求めたフィッティングデータで置換することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明のMRI装置の好ましい実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明を適用するMRI装置の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、静磁場発生系11、傾斜磁場発生系12、送信系13、受信系14、シーケンサ15、再構成演算部(画像処理部)16、制御系17および表示部(ディスプレイ)18を備え、また図示しない操作部を備えている。主として、静磁場発生系11、傾斜磁場発生系12、送信系13、受信系14及びシーケンサ15が、本発明における撮像部の機能を担っている。
【0024】
静磁場発生系11は、永久磁石、常電導磁石または超電導磁石のいずれかからなり、被検体10が置かれる空間に均一な静磁場を発生させる。静磁場の方向は、通常、被検体10の体軸方向または被検体10の体軸と直交する方向である。
【0025】
傾斜磁場発生系12は、X、Y、Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル121と、これらの各々のコイルを磁化させる傾斜磁場電源122とからなり、シーケンサ15からの命令に従って傾斜磁場電源122の各々のコイルを磁化させることによりX、Y、Zの3軸方向の傾斜磁場Gs、Gp、Gfを被検体10に印加する。この傾斜磁場の加え方により、被検体10の撮影断面が設定される。
【0026】
送信系13は、高周波発振器131、変調器132、高周波増幅器133及び高周波照射コイル134とからなり、傾斜磁場発生系12で設定された被検体10の断面を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせるために、高周波発振器131から出力されたRFパルスを高周波増幅器133で増幅した後に、被検体10に近接して設置された高周波照射コイル134に供給して被検体10に照射する。
【0027】
受信系14は、高周波受信コイル141、受信回路142及びアナログ/ディジタル(以下「A/D」という)変換器143からなり、送信系13の高周波照射コイル134から照射された電磁波による被検体10の原子核の核磁気共鳴によるNMR信号であるエコー信号を、被検体10に近接して配置された高周波受信コイル141で検出し、受信回路142を介してA/D変換器143に入力し、ディジタル信号に変換して、さらにシーケンサ15からの命令によるタイミングでサンプリングされたデータ(以下「サンプリングデータ」という)として、再構成演算部16に送る。
【0028】
制御系17は、シーケンサ15に指令を送り、シーケンサに設定された所定のパルスシーケンスに従い、上述した傾斜磁場発生系12、送信系13および受信系14を制御するとともに、再構成演算部16の動作を制御する。パルスシーケンスは、撮像方法によって種々のものがあり、それらはプログラム化されて制御系17に格納されている。本実施形態のMRI装置では、EPI系のパルスシーケンスを備えている。
【0029】
再構成演算部16は、サンプリングデータにフーリエ変換などの各種演算を行なうとともに、後述する位相変化や補正用データの算出、補正用データを用いた補正などを行なう。再構成演算部16で再構成された画像は、表示部(ディスプレイ)18に表示される。
【0030】
次に上記構成におけるMRI装置の動作を説明する。
図2に、動作の手順を示す。
本実施の形態のMRI装置では、画像化するエコー信号を計測する本計測(ステップ220)と、本計測とは別に実行される前計測(ステップ210)を実行する。ここでは、ステップ210の計測を「前計測」と呼んでいるが、前計測を実行するタイミングは、本計測の前と後のいずれでもよい。
【0031】
本計測では、マルチエコー撮像によるパルスシーケンスを実行し、本計測によって得られたエコー信号(本計測エコー)30を、前計測によって得られたエコー信号(前計測エコー)20を用いて補正し(ステップ222)、画像化する(ステップ223)。本計測エコー30の補正は、本計測エコー30および前計測エコー20をそれぞれ周波数方向にフーリエ変換(ステップ211、221)し、x−kyデータとし、差分することにより行なう。
【0032】
前計測エコー20を補正用データとして補正に供するに際し、奇数エコー21と偶数エコー22に分けて、それぞれの差分(位相差分)を周波数方向フィッティングし、エコートレイン方向に位相累積することにより、前計測エコーに2次的に混入する位相ノイズを除去するとともに時間変動を含む位相変化を反映した補正用データを得る。以下、各ステップの詳細を説明する。
【0033】
<計測ステップ>
本計測(ステップ220)及び前計測(ステップ210)では、シングルショット又はマルチショットEPIシーケンスにより、1回の励起で複数のエコー信号を計測する。
図3及び
図4に、本計測および前計測で用いられるパルスシーケンスの一例を示す。これらパルスシーケンスは公知のSpin Echo系EPIシーケンスであり、簡単に説明する。
【0034】
まず検知する磁化を含む被検体にRFパルス301を照射すると同時にスライスを選択する傾斜磁場パルス302を印加し、画像化するスライスを選択後、前記傾斜磁場パルスによる位相分散を収束させるためのリフォーカス傾斜磁場パルス303を印加する。次いで、スピンエコーを生成するために180度RFパルス305と2番目のスライス選択用の傾斜磁場パルス304、およびその前後に磁化の位相を分散させるためのクラッシャー傾斜磁場パルス(304、307)を印加する。
【0035】
その後、周波数エンコード傾斜磁場のオフセットを与えるパルス309を印加した後、連続して反転する周波数エンコード傾斜磁場パルス311を印加し、反転する周波数エンコード傾斜磁場311の各周期内でエコー信号313が時系列的に発生するので、これをA/Dの時間範囲(312)の間おのおのサンプリングし時系列データを得る。反転する周波数エンコード傾斜磁場311の強度、印加タイミング、A/Dの時間範囲(312)は、本計測シーケンスと前計測と同じである。しかし、
図3に示す本計測シーケンスでは、各エコー信号313に位相エンコードするための傾斜磁場パルス308、310が印加されるのに対し、
図4に示す前計測シーケンスでは、位相エンコードは用いない。
【0036】
シングルショットシーケンスの場合には、図示する繰り返し単位314を1回で、マルチショットシーケンスであれば、繰り返し単位314を複数回繰り返して、それぞれk空間全体を埋めるデータを取得する。1回の繰り返し単位で取得する複数のエコーをエコートレインと言い、奇数番目に取得されるエコーを奇数エコー、偶数番目に取得されるエコーを偶数エコーという。
【0037】
このような計測をスライス傾斜磁場(302,306)を異ならせて行い、複数のスライスのデータを取得する。スライス数は特に限定されるものではないが、本実施の形態では、少なくとも前計測において、複数のスライスのデータを取得することが望ましい。複数のスライスのデータを利用することにより、より精度の高い補正用データを作成することができる。
【0038】
このようなEPIを基本とする計測シーケンスでは、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングおよびサンプリング時間の誤差があると、エコーのピークがk空間中央(ky軸)に対してずれる。ずれる方向が、奇数エコーと偶数エコーとでは反対になるため、N/2アーチファクトを生じる。また位相エンコード方向のオフセットに誤差があると、エコーのピークのky軸からのずれが、エコー番号が大きくなるほど拡大する。以下の処理では、前計測エコーから、エコーのピークのずれに対応する位相情報(補正用データ)を得て、本計測エコーのピークずれを解消する。
【0039】
<周波数方向フーリエ変換(ステップ211、221)>
本計測および前計測で得られたエコー信号20、30をそれぞれ周波数方向にフーリエ変換し、x−kyデータとする。周波数方向のフーリエ変換は、計測空間(kx−ky空間)におけるエコー信号のピークずれを、x−ky空間上で位相補正するために行われる。即ち、計測空間におけるエコー信号のピークずれは、フーリエ変換後の空間(x−ky空間)での位相変化に対応するので、前計測のx−kyデータから求めた位相変化を用いて、x−ky空間上で本計測データの位相を補正することにより、本計測データのピークずれが補正される。
【0040】
<補正用データの作成>
前計測エコーをフーリエ変換した後のx−kyデータ(以下、エコーデータという)を、奇数エコーと偶数エコーに分けて、それぞれについて補正用データを得る。以下、奇数エコーと偶数エコー各処理の詳細を説明する。
【0041】
<奇数エコーデータの処理>
奇数エコー間の位相差分を求める。奇数エコー間或いは偶数エコー間で位相差分した場合、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングとサンプリング時間の誤差はキャンセルされるので、位相エンコード方向のオフセット誤差のみが位相差分として求められる。この位相差分は、周波数方向に直線となるものであり、位相差分後の前計測データをフィッティングすることにより求められる。
【0042】
具体的には、エコートレインを構成する複数のエコーのうち、2つのエコーデータ、例えばエコートレインの1番目のエコーと3番目のエコーとの位相差分を取る。位相差分処理を行うエコーの一方は、エコートレインのうち最も信号強度が高いTEの位置のエコーを用いることが好ましい。このようなエコーは、後述する位相累積処理を開始する基準エコーとなる。
【0043】
<<閾値処理(ステップ212)>>
2つの奇数エコー間で位相差分する際に、信号強度が低く位相値の信頼性が低いデータをフィッティングに用いないために、エコーデータから信号強度が低いデータを除外する。除外するデータは、所定の閾値以下、例えば対象とするエコーデータの最大振幅値に対して所定の比率(例えば20%)以下のデータとする。閾値Thresholdは次式(1)で表わされる。
(数1)
Threshold=Signal
max×0.2 (1)
ここで、Signal
maxはエコーデータ内の最大振幅値を意味する。
【0044】
<<周波数方向のフィッティング(ステップ213)>>
次に2つのエコーデータを位相差分したデータに対し、周波数方向のフィッティングを行う。フィッティングは、最小二乗法等の公知の手法を用いることができ、式(2)で表わされる一次関数と実際の各データ点における位相差との差が最小となるように、式(3)及び(4)により、式(2)の係数a、bを求める。
【0045】
【数2】
ここで、Dif
o(x)は奇数エコー間の位相差分をフィッティングした一次関数であり、Xiは周波数方向の座標、Yiは位相値で、nは周波数点数(データ点の点数)を意味する(以下、同様)。
【0046】
なお、フィッティングに先立ち、位相の主値回りを除去するための位相アンラップ処理を行う。具体的には、隣合うデータ点の位相差を順次検索し、一つのデータ点の位相と次のデータ点の位相との差が2πを超えたときに、次のデータ点の位相に±2π×Nを加算する処理を行う。位相アンラップ処理は、一般的な手法を用いてもよいし、後述する簡易アンラップ処理を行ってもよい。
【0047】
奇数エコー間の位相差分は、2つのエコーから求めることができるが、2つのエコーのみを用いるのではなく、複数の奇数エコー間で式(2)の係数を求めて、これを平均することが望ましい。
またマルチスライス計測の場合には、スライス毎に奇数エコー間の位相差分を求めて、これを平均してもよいし、特許文献1に記載されるように、スライスの信号を合成した後、エコー間の位相差分を求めてもよい。
【0048】
<<位相累積(ステップ217)>>
2つのエコーデータ間の位相差は、位相エンコード方向のオフセット誤差に対応し、位相エンコード方向のオフセット誤差はエコートレイン方向に蓄積されるものである。そこで、上記フィッティングステップで求めた位相差を、エコートレイン方向に位相累積する。具体的には、位相累積を開始する基準となるエコーをエコートレインの(2×B+1)番目のエコーであるとすると、位相累積後の(2×i+1)番目のエコーの位相変化Pは、次式(5)で表わされる。
【0049】
(数3)
P(x,2×i+1)=P(x,2×B+1)+ Dif
o(x)×(i-B) (5)
【0050】
以上の各ステップ211〜213、217により、エコートレインを構成する各奇数エコーについて、ピークを揃えるための補正用データが得られたことになる。
【0051】
<偶数エコーデータの処理>
偶数エコーデータ22については、周波数エンコード傾斜磁場の印加タイミングおよびサンプリング時間の誤差と、位相エンコード方向のオフセット誤差とを同時に補正するために、まず奇数エコーとの位相差分を行い(ステップ214)、位相差分データについて周波数方向のフィッティングを行う(ステップ230)。奇数エコーと偶数エコーとの位相差分も、理論的には一次直線でフィッティングできるものであるが、奇数エコー間或いは偶数エコー間の位相差分が小さい値の範囲に留まるのに対し、スケール(値が変化する範囲)が大きくなるため、適切な位相アンラップ処理を行えない可能性があり、単純な一次フィッティングを行った場合、フィッティング誤差が生じる可能性が高まる。
【0052】
そこで偶数エコーデータ(奇数エコーとの位相差分データ)の処理ステップ230では、奇数エコー間の処理とは異なる位相アンラップ処理と限定されたフィッティングを行う。以下、ステップ230の処理の詳細を、
図5を参照して説明する。
図5は、ステップ230内の処理を示すフローである。
【0053】
<<閾値処理(ステップ231)>>
まず、奇数エコーデータに対する閾値処理212と同様に、エコーデータの振幅値に対して閾値(例えば最大振幅値の20%)を設定し、それ以下の周波数方向の点は、これ以降のステップから除外する(ステップ231)。
【0054】
図6に、閾値処理前後のエコーデータを示す。
図6(a)、(c)は閾値処理前のエコーデータの振幅及び位相、
図6(b)、(d)は閾値処理後のエコーデータの振幅及び位相である。図示するように、最大振幅の20%以下のデータは、位相がゼロであるとして扱う。
図6(d)からもわかるように、エコー信号位相値は主値(−π〜+πの間)の範囲で回転するため、周波数方向の位相変化を一次の線形変化にするために、主値回りを取り除く処理(位相アンラップ処理)が必要となる。
【0055】
<<第1位相アンラップ処理(ステップ232)>>
位相アンラップは、主値回りが生じる点で本来の位相変化よりも±2πの変化が生じることを利用して、隣り合う点同士で位相差が十分に小さくなるよう、±2π加算する処理を行う。しかし、本実施形態では、±2π加算するのではなく、位相差を単位ベクトルに変換することで、位相差を−π〜+πの間の主値内に納める簡易な位相アンラップ処理を行う。
【0056】
具体的には、隣り合うデータ点の位相θ
n、θ
n-1の差分が−π〜+πの間に入らない場合には、この差分を、式(6)、(7)に示すように、複素数(実部・虚部)に変換する。この実部と虚部のデータを用いて、式(8)にて位相値Δθを算出する。この位相値Δθを、一方のデータ点の位相θ
nに加算し(式(9))、それに隣接するデータ点の位相θ
n+1を求める。これにより、θ
nとθ
n+1間の±2πの変化を除去できる。
【数4】
【0057】
この位相アンラップ処理は、±2π×Nの位相をNを変えながら適当に加えて、目標位相との誤差が最も小さくなるNを探索する処理を必要とする技術(特許文献2に記載された処理)に比べ、簡便な演算処理といえる。
【0058】
ステップ232の位相アンラップ処理前後の位相データを
図7に示す。
図7(a)に示した主値内で回転する位相は、位相アンラップ処理によって、
図7(b)に示すような本来の1次の線形な変化に戻すことができる。ただし、これら位相データは、ステップ231の閾値処理を行うことによって、処理から除外されたデータ点或いはデータ点の領域(除外領域)が存在するため、位相が連続しているデータ点の領域が除外領域によって隔てられる可能性がある。「位相が連続している」とは位相飛びがないことを意味し、この位相が連続しているデータ点の領域を「島領域」と呼ぶ。これら島領域が離れて存在する場合、位相アンラップ処理の対象となる隣り合う点の距離が離れることになり、正しく位相アンラップ処理を行えない場合がある。
【0059】
例えば、
図8に示す4つの島(島1〜島4)で構成されたデータの場合、小さな島々で構成される左から2番目の島2の右端の点における位相値と、左から3番目の島3の左端の点における位相値の差は、−π〜+πの範囲の間に収まるため、上述した簡易アンラップ処理では、そのままの位相になるが、本来は−2π加算しなければならない。このように、本来隣接する点の位相データがないと連続性が確認できない。そこで、位相の連続性を持たせるための第2の位相アンラップ処理を行う。
【0060】
<<第2の位相アンラップ処理(ステップ233〜235)>>
第2の位相アンラップ処理を行うために、まず複数の島のうち、連続するデータ点の数が最も多い最大島の探索する(ステップ233)。次いで、最大島の位相データに対して、最小二乗法を用いたフィッティング処理を行って、近似関数Dif(x)を算出し、その1次の傾きを求める(ステップ234)。最小二乗法を用いたフィッティングは、奇数エコーのフィッティング(ステップ214)で説明した式(2)〜(4)と同様の式を用いることができる。
【0061】
上述した最大島の検索と、最大島の位相データを用いたフィッティングの様子を
図9に示す。
図9(a)は、連続するデータ点の点数が最も多い島の位相データを取り出した状態を示し、(b)は(a)の位相データを用いて式(3)、(4)によりフィッティングして求めた一次関数(点線)を示す。
【0062】
次にステップ234で求めた近似関数の傾きを用いて、島と島との間の位相値に連続性を持たせるための位相アンラップ処理(第2アンラップ処理)を行う(ステップ235)。具体的には、位相データがない(ゼロである)部分によって隔てられた2つの島の隣り合う点となる端部の位相値の一方を、他方の位相値と近似関数の傾きを用いて、位相アンラップ処理する。位相アンラップ処理は、周波数方向に配列するデータ点の左側から開始しても右側開始してもよいが、以下、左側から開始する場合を例に説明する。
【0063】
まず2つの島のうち左側の島の右端の位相値と上記近似関数の傾きを用いて、右側の島の左端の位相値の目標値を算出する。目標値とはステップ234で求めた1次の位相変化に従えば、隣接する島の左端の点は本来この位相値になるであろう値を意味する。この目標値と実際の位相は大きくずれることはないため、この位相差が−π〜+πに収まるよう、ステップ232の位相アンラプ処理と同様の演算処理を行う。即ち、近似関数から推定した位相目標値θtargetと、島の左端のデータ点の位相値θnとの差分を以下の式(10)、(11)で示すように、複素数に変換し、その実部と虚部のデータを用いて式(12)により位相値Δθを算出する。この位相値Δθを位相目標値に加算し(式(13))、そのデータ点の位相値とする。
【0065】
右側の島が、位相値が連続する複数のデータ点からなる場合には、島の各データ点全てに、式(12)で算出した位相値Δθを、第1位相アンラップ処理後の位相値に加算する。
【0066】
第2アンラップ処理の様子を
図10に示す。図示する例では、検索を左から行い、小さい島からなる島2と、その右側の島3との間でアンラップ処理する場合(a)及び島3と島4との間でアンラップ処理する場合(b)を示している。島2と島3との間には、比較的大きいデータ欠落部分があり、最初の位相アンラップ処理(第1アンラップ処理)(ステップ232)では、この間のアンラップ処理が適切に行われていない。そこで島3の左端のデータ点について、ステップで求めたフィッティング関数の傾きから、この点の目標値を求め、実際の位相値との差分を求め、上記式(10)〜(13)から算出したΔθを島3の左端の実際の位相値に加算する。島3の全てのデータ点(図では2点)の位相値にも同じΔθを加算する。島3と島4との間でも、同様にして、島3の右端のデータ点の位相値とフィッティング関数の係数から、島4の左端のデータ点の位相値の目標値を算出し、目標値と実際の位相値との差が−π〜+πの範囲の間に収まるように、Δθを求め加算する(
図10(b))。
図10(c)は、この第2アンラップ処理後の状態を示す図であり、閾値処理によって除去されたデータ点以外の全てのデータ点を通して、位相飛びのない(連続性のある)位相値になっている。
【0067】
<<全データに対するフィッティング(ステップ236)>>
第2アンラップ処理を終えた後、除去されたデータ点以外の全てのエコーデータの位相値を用いて、再度最小二乗法を用いてフィッティング処理を行う(ステップ236)。フィッティング処理は、奇数エコーのフィッティングで用いた式と同様の式(14)〜(16)を用いて、フィッティング関数を求める。
【数6】
式中、Dif
OEは奇数エコー(基準エコー)と偶数エコー(基準エコー)との位相差分を表し、cはその傾き、dは切片を表す。
【0068】
このフィッティング関数から算出される各データ点の位相値(フィッティングデータ)を、そのまま、補正用に用いることも可能であるが、本実施形態では、フィッティングデータを信号強度に応じて制限して使用し、フィッティングに伴うフィッティング誤差を極力小さくする。即ち、フィッティングには必ずフィッティング誤差が生じ、この誤差は直接N/2アーチファクトの発生に繋がる。そのため、位相変化に乱れが生じていない場合には、今回の抑制ターゲットとなるストリークアーチファクトも発生しないため、フィッティングデータを敢えて利用する必要はない。一方、信号値が弱い領域では、フィッティング誤差によって生じるN/2アーチファクトの信号強度も相対的に低い。このような理由から、本実施形態では、信号値が低く位相が乱れやすい領域・点に対してのみ、フィッティングデータを限定的に用い置換する。
【0069】
<<フィッティングデータを用いたデータ置換(ステップ237〜239)>>
フィッティングデータの限定的な使用は、マルチスライス計測の場合に、エコー全体の信号が弱いスライスのみを対象とし、十分な信号値が得られたスライス内ではエコーデータのうち信号値の弱い領域のみを対象とする。
【0070】
まず、スライス毎にエコー全体の信号が弱いか否かの判定を行う(ステップ237)。このため、マルチスライス間で各最大信号値の比較を行い、スライス間で閾値を設定する。閾値は、例えばマルチスライスの最大信号値に対して20%とし、最大信号値が閾値以下のスライスは、エコー全体の信号が弱いと判定し、そのスライスのエコーデータ全体をフィッティングデータに置換する(ステップ239)。
【0071】
十分に信号値が得られているスライスに対しては、既に閾値処理ステップ231によって信号値が弱い領域は除外されているので、この除外した領域に対してデータの置換を行う(ステップ238)。この置換処理は、全島の両端に対しては、ステップ゜236のフィッティング処理で求めた1次の傾きcを用いて、外挿処理を行う。島と島との間については、既に第2位相アンラップ処理(ステップ235)において位相の連続性が保たれているため、線形補間処理を行えばよい。
【0072】
図11は、フィッティング処理の様子を示す図であり、
図11(a)は処理前の位相データ(第2アンラップ処理後の位相データ:
図10(c))を示し、
図11(b)は、十分に信号値が得られているスライスに対する処理、
図11(c)は、エコー全体の信号値が低いスライスに対する処理を示す。
図11(b)で点線で囲った部分がフィッティングを行った部分であり、両端はフィッティングデータを用いて外挿し、中間部分は線形補間している。また
図11(c)に示すスライスでは、位相データ全体がフィッティングデータにより置換されている。このようなフィッティングを行うことにより、フィッティング誤差を最小に留め且つ信号値の弱い領域についても誤差の少ない位相値を得ることができる。
【0073】
以上、
図5を参照して、
図2のステップ230の詳細を説明したが、このステップ230は、複数の奇数エコーと偶数エコーの組(例えば第1エコーと第2エコー、及び、第3エコーと第4エコー)について行ってもよいし、一組について行ってもよいが、少なくとも、次の位相累積処理(ステップ217)で基準となるエコーに対して行うことが好ましい。複数組について位相差分のフィッティングデータを求めた場合、その平均値を基準エコー間の位相差分データとしてもよい。
再び
図2を参照して、ステップ230以降の処理を説明する。
【0074】
<<偶数エコー間の位相差分(ステップ215)>>
偶数エコーについても、エコートレイン方向のピークずれを補正するために偶数エコー間の位相差分を行う必要がある。偶数エコー間の位相差分の処理は、奇数エコーと同様に、2つの偶数エコー、例えばエコートレインの2番目のエコーと4番目のエコーについて、エコーデータ(x−kyデータ)の位相差分を取り、周波数方向にフィッティングすることにより求めることもできるが、本実施形態では、ステップ214或いはステップ230で求めた奇数エコーと偶数エコーとの位相差分について、エコートレイン方向の位相変化(差分)を求める。これにより、N/2アーチファクトの原因である奇数エコーと偶数エコーのピークずれを併せて補正できるデータを得ることができる。具体的には、ステップ230で求めた奇数エコーの基準エコー(奇数基準エコー)と偶数エコーの基準エコー(偶数基準エコー)との位相差分に対する、他の隣接する奇数エコーと偶数エコーとの位相差分との差分を取ることになる。
【0075】
この差分データに対して、閾値処理すること、最小二乗法を用いたフィッティングを行う(ステップ216)。この処理は、奇数エコーに対し行った処理(ステップ212、213)と同じであり、説明を省略する。ステップ216では、次式(17)で示す一次関数が得られる。
(数7)
Dif
oe(x)=[Dif
OE(x)]+ex+g (17)
式中、[Dif
OE(x)]は、ステップ230で最終的に得られた、偶数基準エコーと奇数基準エコーとの位相差分を表し、eは一次関数の傾き、gは切片を示す。
【0076】
<<エコートレイン方向位相累積>>
位相累積は、奇数エコーの処理と同様に、基準エコーを開始点として、偶数エコー間の位相差分を順次エコートレイン方向に累積する。
【0077】
奇数エコーから偶数エコーへの位相差分について位相累積を行った場合、位相累積された位相データには、奇数エコーと偶数エコーとのピークずれの情報と基準エコーに対するピークずれの情報とを含んでいる。そこでステップ218において、位相差分データに対し、位相累積後の奇数エコーデータの位相を加算し、偶数エコーの補正用データを得る。具体的には、式(17)を用いて、次式(18)の計算を行う。
(数8)
P’(x,2*i+2)=P’(x,2*i+1)+Dif
oe(x) (18)
式中「P’(x,ky)」は位相累積後の前計測データの位相変化である。
【0078】
以上の処理(ステップ211〜218)は、マルチスライスの場合には、スライス毎に行い、スライス毎に奇数エコー及び偶数エコーの補正用データを得る。
【0079】
<本計測データの補正(ステップ222、223)>
周波数方向にフーリエ変換した本計測データ(x−kyデータ)の位相に対し、上記ステップ217及び218で得た、前計測の奇数エコーの位相と偶数エコーの位相を加算することにより、x−ky空間上で本計測データの位相が補正される(ステップ222)。x−ky空間上での位相補正は、k空間上でのピークずれの補正を意味し、この補正によってk空間上でのピークずれが解消される。マルチスライス計測の場合には、補正用データはスライス毎に用意されるので、本計測の各スライスに対し、対応するスライスの補正用データを用いて位相補正する。
【0080】
位相補正後のx−kyデータを位相方向にフーリエ変換することにより(ステップ223)、最終的に画像31が再構成される。再構成画像では、ピークずれに起因するN/2アーチファクトやストリークアーチファクトが大幅に低減される。
【0081】
図12は、前後の腹部DW−EPI画像を示す図であり、(a)は、奇数エコー及び偶数エコーについて、それぞれ位相データに対する単純な一次フィッティングを行って位相補正した場合の画像、(b)は、
図5に示す処理(ステップ230)を行って位相補正した場合の画像である。
図12(a)ではストリークアーチファクトが発生していたが、(b)では発生していないことが確認できる。
【0082】
以上、本発明の一実施形態を説明し、その実施形態では、エコートレイン方向の位相累積を行う際の基準となるエコーデータの、奇数・偶数基準エコー間位相差分について、限定的なフィッティング(
図4のステップ230)を行う場合を説明したが、奇数エコー間位相差分に対する周波数方向フィッティング(ステップ213)や偶数エコー間位相差分に対する周波数方向フィッティング(ステップ216)についても、同様の限定的なフィッティングを採用することも可能である。
【0083】
また上記実施形態では、奇数エコーについて奇数エコー間位相差分を求め、偶数エコーについては奇数エコーとの差分に対しエコー間位相差分を行う場合を説明したが、逆に奇数エコーと偶数エコーの処理を逆にしても同様の結果を得ることができる。
【0084】
さらに本発明の簡易位相アンラップ処理を含む周波数フィッティングの技術は、上述したEPI計測におけるエコーデータ間の位相差分に対してのみならず、他のエコー信号の位相補正や画像データの位相補正にも拡張して適用することが可能である。例えば、水脂肪分離計測におけるピークずれの補正、real IR シーケンスやラジアルシーケンスの補正、および、エコーピーク検出による傾斜磁場のディレイ測定にも適用することが可能である。