特許第5873317号(P5873317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5873317生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成される抗菌性不織布、及び抗菌方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873317
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成される抗菌性不織布、及び抗菌方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/435 20120101AFI20160216BHJP
【FI】
   D04H1/435ZBP
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-273341(P2011-273341)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-124424(P2013-124424A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健夫
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 香代子
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/001872(WO,A1)
【文献】 特開2011−179143(JP,A)
【文献】 特開2007−002395(JP,A)
【文献】 再公表特許第2007/060930(JP,A1)
【文献】 特開2004−149692(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/028244(WO,A1)
【文献】 特開2008−274512(JP,A)
【文献】 特開2007−126653(JP,A)
【文献】 再公表特許第2003/037956(JP,A1)
【文献】 特開2009−030068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が1〜100μmであるポリグリコール酸繊維から形成され、目付が1〜21g/mであり、空孔率が50〜95%であり、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする抗菌性不織布。
【請求項2】
前記ポリグリコール酸繊維の溶融粘度が、200Pa・s以上である請求項1記載の抗菌性不織布。
【請求項3】
前記ポリグリコール酸が、当該ポリグリコール酸のガラス転移温度+10℃以上である昇温結晶化温度、及び、5J/g以上である昇温結晶化熱量を有するものである請求項1または2記載の抗菌性不織布。
【請求項4】
前記ポリグリコール酸は、末端封止剤を含有するものである、請求項1から3のいずれか1項に記載の抗菌性不織布。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の抗菌性不織布を、対象物に接触させる抗菌方法。
【請求項6】
平均繊維径が1〜30μmであるポリグリコール酸繊維から形成され、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする抗菌性不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成され、抗菌剤を含有しなくても優れた抗菌性を備える抗菌性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、文具類、日用雑貨品、家庭用備品、電気製品、浴室製品、車両内装材、食品、衣料品、医療用機械器具など幅広い対象物について、健康衛生面への配慮から、細菌やかびなどの各種微生物が繁殖しないように、表面に抗菌・殺菌・抗かび処理等を施すことが行われている。これら抗菌処理等としては、抗菌剤・殺菌剤・抗かび剤等を対象物の成形原料に含有させる方法や、該抗菌剤等を含有する抗菌剤組成物等を用いて、対象物にスプレーする方法などが採用されている。抗菌剤・殺菌剤・抗かび剤等としては、金属無機化合物、漂白剤、多くの有機化合物等が使用されている。抗菌処理等の対象物としては、人体や食品などに直接接触するものが多くあることから、抗菌剤等には安全性が求められ、抗菌性や殺菌性(以下、総称して、単に「抗菌性」という。)等の効果が長期間持続するとともに、抗菌剤等のブルーミング防止、変色・変質の防止等が求められている。また、抗菌処理等としては、抗菌剤分散液を不織布等の基材に含浸させた布帛で拭く方法(特許文献1)など、対象物に接触させる抗菌方法等が簡便で好ましいが、抗菌性等の効果や持続性が不十分だったり、抗菌剤等が対象物に移行したりする場合もあり、改善が求められていた。
【0003】
一方、ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や水中などの自然界に存在する微生物または酵素によって生分解され、また、酸やアルカリ等により加水分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。
【0004】
生分解性脂肪族ポリエステルとしては、グリコール酸繰り返し単位からなるポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある。)や乳酸繰り返し単位からなるポリ乳酸(以下、「PLA」ということがある。)等のヒドロキシカルボン酸系ポリエステル、ポリε−カプロラクトン等のラクトン系ポリエステル、ポリエチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート等のジオール・ジカルボン酸系ポリエステル、及び、これらの共重合体、例えば、グリコール酸繰り返し単位と乳酸繰り返し単位からなる共重合体などが知られている。
【0005】
生分解性脂肪族ポリエステルの中でも、PLAは、原料となるL−乳酸が、トウモロコシ、芋等から、発酵法により安価で得られること、自然農作物由来なので総二酸化炭素排出量が少ないこと、また得られるポリL−乳酸の性能として剛性が強く透明性がよいなどの特徴がある。また、PGAは、加水分解性及び生分解性が大きいことに加えて、耐熱性、引張強度等の機械的強度や、フィルムまたはシートとしたときのガスバリア性も優れる。そのため、PGAは、農業資材、各種包装(容器)材料等としての利用が期待され、単独で、または他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
【0006】
生分解性脂肪族ポリエステルに、殺菌剤、除草剤、カビ防止剤、防虫剤、忌避剤等の生物活性物質を配合した生分解性樹脂成形品として、カレンダー成形、射出成形、押出成形、モノフィラメント成形、マルチフィラメント成形、不織布成形等の各種成形加工法により各種製品形状に賦形することが知られ、使い捨てタイプまたは1〜2年使用後に廃棄される製品に適用できることが知られている(特許文献2)。
【0007】
しかし、生分解性脂肪族ポリエステルから形成した布帛やウエブ、すなわち、織布、編布、不織布、紙、フィルムまたはシート等において、該布帛等の原材料に、抗菌剤や殺菌剤等を配合して抗菌性を有するものとすると、例えば、土中に埋めた場合、抗菌剤等の存在により、布帛等の周りのバクテリアや微生物が繁殖せず、または死滅してしまい、生分解性脂肪族ポリエステルの生分解が進みにくいという矛盾があるので、解決が望まれていた。
【0008】
そこで、生分解性繊維からなる主体繊維を、抗菌剤や殺菌剤を付与した水溶性ポリビニルアルコール系バインダー繊維で結合してなる生分解性不織布が知られている(特許文献3)。これによれば、生分解性不織布を使用後に廃棄するときは、水を当てることにより、水溶性ポリビニルアルコール系バインダーとともに、抗菌剤や殺菌剤を除去できるので、生分解性繊維の生分解に支障がないとされる。しかしながら、抗菌剤や殺菌剤を使用して抗菌性を実現する限り、抗菌剤や殺菌剤が環境に放出されることが避けられないので、抗菌剤や殺菌剤を使用することなしに、優れた抗菌性を有し、かつ生分解性である布帛が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−196461号公報
【特許文献2】特開平8−92006号公報
【特許文献3】特開平6−248548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、抗菌剤等を添加することなく、抗菌性に優れ、かつ生分解性の布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決することについて鋭意研究した結果、生分解性脂肪族ポリエステル、及び/または、生分解性脂肪族ポリエステルから得られる生分解性脂肪族ポリエステル繊維の最適化によって、優れた抗菌性と生分解性とを両立させ、課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明によれば、生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成され、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする抗菌性不織布が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、実施の態様として、以下(1)〜(6)の抗菌性不織布が提供される。
(1)生分解性脂肪族ポリエステル繊維が、溶融粘度が200Pa・s以上である生分解性脂肪族ポリエステルから得られるものである前記の抗菌性不織布。
(2)生分解性脂肪族ポリエステル繊維が、生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+10℃以上である昇温結晶化温度、及び、5J/g以上である昇温結晶化熱量を有するものである前記の抗菌性不織布。
(3)目付1〜500g/m、繊維径300nm〜100μm、及び空孔率50〜95%である前記の抗菌性不織布。
(4)生分解性脂肪族ポリエステル繊維が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる生分解性脂肪族ポリエステルから得られるものである前記の抗菌性不織布。
(5)生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸である前記の抗菌性不織布。
(6)生分解性脂肪族ポリエステルが、末端封止剤を含有する前記の抗菌性不織布。
【0014】
さらに、本発明によれば、前記の抗菌性不織布を、対象物に接触させる抗菌方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成され、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする抗菌性不織布であることによって、抗菌剤を添加することなく、抗菌性に優れ、かつ生分解性の布帛を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.生分解性脂肪族ポリエステル
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成され、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする抗菌性不織布(以下、単に「生分解性抗菌性不織布」ということがある。)を構成する生分解性脂肪族ポリエステルは、グリコール酸及びグリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)を含むグリコール酸類;乳酸及び乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドを含む乳酸類;のほかに、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチレンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)などの環状モノマー;3−ヒドロキシプロパン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール(ブチレングリコール)等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;等の脂肪族エステルモノマー類の単独重合体、または共重合体が含まれる。具体的には、例えば、式:(−O−CHR−CO−)[Rは、水素原子またはメチル基である。]で表されるグリコール酸または乳酸繰り返し単位を50質量%以上有する生分解性脂肪族ポリエステルや、ポリラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。なかでも、グリコール酸または乳酸繰り返し単位を50質量%以上有する生分解性脂肪族ポリエステルが好ましい。具体的には、PGA、すなわちグリコール酸の単独重合体、若しくは、グリコール酸繰り返し単位を50質量%以上有する共重合体;ポリL−乳酸若しくはポリD−乳酸の単独重合体、L−乳酸若しくはD−乳酸の繰り返し単位を50質量%以上有する共重合体、または、これらの混合物等のPLA;さらには、PGAとPLAとの混合物;が好ましい。特に好ましいのは、優れた抗菌性、分解性、耐熱性及び機械的強度の観点から、PGAまたはPLAである。
【0017】
これらの生分解性脂肪族ポリエステルは、例えば、それ自体公知のグリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができる。また、高分子量の生分解性脂肪族ポリエステルを効率よく合成するには、一般に、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、乳酸の二分子間環状エステルであるラクチドを開環重合すると、PLAが得られる。グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、PGAが得られる。
【0018】
PLAは、上記方法により合成することができるものであり、市販の製品としては、例えば、レイシアH−100、H−280、H−400、H−440等の「レイシア」(登録商標)シリーズ(三井化学株式会社製)、3001D、3051D、4032D、4042D、6201D、6251D、7000D、7032D等の「Ingeo」(登録商標)(ネイチャーワークス社製)、エコプラスチックU’z S−09、S−12、S−17等の「エコプラスチックU’zシリーズ」(トヨタ自動車株式会社製)、「バイロエコール」(登録商標)(東洋紡績株式会社製)などが、強度、可撓性及び耐熱性等の観点から、本発明の生分解性抗菌性不織布の材料として好ましく選択される。
【0019】
以下、生分解性脂肪族ポリエステルとして、主にPGAを例にとって、更に説明するが、PLAその他の生分解性脂肪族ポリエステルについても、PGAに準じて発明を実施するための形態をとることができる。
【0020】
〔ポリグリコール酸(PGA)〕
本発明の生分解性抗菌性不織布の原料として、特に好ましく用いられるPGAは、式:(−O−CH−CO−)で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸のホモポリマー(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を50質量%以上含むPGA共重合体を含むものである。
【0021】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類、カーボネート類、エーテル類、エーテルエステル類、アミド類などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
【0022】
本発明の生分解性抗菌性不織布の材料となるPGA中の上記グリコール酸繰り返し単位は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。グリコール酸繰り返し単位の割合が小さ過ぎると、PGAに期待される強度や分解性が乏しくなる。グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位は、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられ、グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を含まないものでもよい。
【0023】
本発明の生分解性抗菌性不織布の材料となるPGAとしては、所望の高分子量ポリマーを効率的に製造するために、グリコリド50〜100質量%及び上記した他のコモノマー50〜0質量%を重合して得られるPGAが好ましい。他のコモノマーとしては、2分子間の環状モノマーであってもよいし、環状モノマーでなく両者の混合物であってもよいが、本発明が目的とする生分解性抗菌性不織布とするためには、環状モノマーが好ましい。以下、グリコリド50〜100質量%及び他の環状モノマー50〜0質量%を開環重合して得られるPGAについて詳述する。
【0024】
〔グリコリド〕
開環重合によってPGAを形成するグリコリドは、ヒドロキシカルボン酸の1種であるグリコール酸の2分子間環状エステルである。グリコリドの製造方法は、特に限定されないが、一般的には、グリコール酸オリゴマーを熱解重合することにより得ることができる。グリコール酸オリゴマーの熱解重合法として、例えば、溶融解重合法、固相解重合法、溶液解重合法などを採用することができ、また、クロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。なお、所望により、グリコリドとしては、グリコリド量の20質量%を限度として、グリコール酸を含有するものを使用することができる。
【0025】
本発明の生分解性抗菌性不織布の材料となるPGAは、グリコリドのみを開環重合させて形成してもよいが、他の環状モノマーを共重合成分として同時に開環重合させて共重合体を形成してもよい。共重合体を形成する場合には、グリコリドの割合は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。
【0026】
〔他の環状モノマー〕
グリコリドとの共重合成分として使用することができる他の環状モノマーとしては、ラクチドなど他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルの外、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーを使用することができる。好ましい他の環状モノマーは、他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルであり、ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。特に好ましい他の環状モノマーは、乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドであり、L体、D体、ラセミ体、これらの混合物のいずれであってもよい。
【0027】
他の環状モノマーは、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられる。PGAが、グリコリド100質量%から形成される場合は、他の環状モノマーは0質量%であり、このPGAも本発明の範囲に含まれる。グリコリドと他の環状モノマーとを開環共重合することにより、PGA(共重合体)の融点を低下させて加工温度を下げたり、結晶化速度を制御して押出加工性や延伸加工性を改善したりすることができ、不織布の抗菌性と分解性のバランスを取ることができる。
【0028】
〔開環重合反応〕
グリコリドの開環重合または開環共重合(以下、総称して、「開環(共)重合」ということがある。)は、好ましくは、少量の触媒の存在下に行われる。触媒は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化錫(例えば、二塩化錫、四塩化錫など)や有機カルボン酸錫(例えば、2−エチルヘキサン酸錫などのオクタン酸錫)などの錫系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物;などがある。触媒の使用量は、環状エステルに対して、質量比で、好ましくは1〜1000ppm、より好ましくは3〜300ppm程度である。
【0029】
グリコリドの開環(共)重合は、生成するPGAの分子量や溶融粘度等の物性を制御するために、ラウリルアルコール等の高級アルコールや、その他のアルコール類や水などのプロトン性化合物を分子量調節剤として使用することができる。グリコリドには通常、微量の水分と、グリコール酸及び直鎖状のグリコール酸オリゴマーからなるヒドロキシカルボン酸化合物類が不純物として含まれていることがあり、これらの化合物も重合反応に作用する。そのため、これらの不純物の濃度を、例えばこれらの化合物中のカルボン酸量を中和滴定などによりモル濃度として定量し、この定量値に基づいて、目的の分子量等に応じプロトン性化合物としてアルコール類や水を添加し、全プロトン性化合物のモル濃度をグリコリドに対して制御することにより生成PGAの分子量等を調整することができる。また、物性改良のために、グリセリンなどの多価アルコールを添加してもよい。
【0030】
グリコリドの開環(共)重合は、塊状重合でも、溶液重合でもよいが、多くの場合、塊状重合が採用される。塊状重合の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、板状型、管状型など様々な装置の中から、適宜選択することができる。また、溶液重合には、各種反応槽を用いることができる。
【0031】
重合温度は、実質的な重合開始温度である120℃から300℃までの範囲内で目的に応じて適宜設定することができる。重合温度は、好ましくは130〜270℃、より好ましくは140〜260℃、特に好ましくは150〜250℃である。重合温度が低すぎると、生成したPGAの分子量分布が広くなりやすい。重合温度が高すぎると、生成したPGAが熱分解を受けやすくなる。重合時間は、3分間〜50時間、好ましくは5分間〜30時間の範囲内である。重合時間が短すぎると重合が十分に進行し難く、所定の分子量を実現することができない。重合時間が長すぎると生成したPGAが着色しやすくなる。
【0032】
生成したPGAを固体状態とした後、所望により、更に固相重合を行ってもよい。固相重合とは、後述するPGAの融点(Tm)未満の温度で加熱することにより、固体状態を維持したままで熱処理する操作を意味する。この固相重合により、未反応モノマー、オリゴマーなどの低分子量成分が揮発・除去される。固相重合は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間、特に好ましくは3〜30時間で行われる。
【0033】
本発明の生分解性抗菌性不織布を製造する原料として、PGAに加えて、本発明の目的に反しない限度において、他の脂肪族ポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリグリコール類;変性ポリビニルアルコール;ポリウレタン;ポリL−リジン等のポリアミド類;などの他の樹脂や、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、末端封止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、水素イオン濃度調節剤、補強繊維等の充填材などの通常配合される添加剤を必要に応じて配合することができる。これら添加剤等の配合量は、PGA100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下であり、5質量部以下または1質量部以下の配合量でよい場合もある。
【0034】
特に、PGAに、カルボキシル基末端封止剤または水酸基末端封止剤を配合すると、抗菌性が向上するとともに、得られる不織布の長期保存性が向上するので好ましい。すなわち、カルボキシル基末端封止剤または水酸基末端封止剤を配合することにより、生分解性抗菌性不織布の耐加水分解性が改善され、保存中の分子量低下を抑制することができるとともに、廃棄時の生分解性を調整することができる。末端封止剤としては、カルボキシル基末端封止作用または水酸基末端封止作用を有し、生分解性脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られている化合物を用いることができる。抗菌性及び生分解性の両立の観点から、カルボキシル基末端封止剤が特に好ましい。カルボキシル基末端封止剤としては、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物;2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等のオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート等のエポキシ化合物;などが挙げられる。これらのカルボキシル基末端封止剤の中でも、カルボジイミド化合物が好ましく、芳香族、脂環族、及び脂肪族のいずれのカルボジイミド化合物も用いられるが、とりわけ芳香族カルボジイミド化合物が好ましく、特に純度の高いものが耐水性改善効果を与える。また、水酸基末端封止剤としては、ジケテン化合物、イソシアネート類などが用いられる。カルボキシル基末端封止剤または水酸基末端封止剤は、PGA100質量部に対して、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部、より好ましくは0.1〜1質量部の割合で用いられる。
【0035】
また、PGAに熱安定剤を配合すると、生分解性抗菌性不織布の長期保存性が更に向上するので、より好ましい。熱安定剤としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト等のペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル;モノ−またはジ−ステアリルアシッドホスフェートあるいはこれらの混合物等の、炭素数が好ましくは8〜24のアルキル基を有するリン酸アルキルエステルまたは亜リン酸アルキルエステル;炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸金属塩;一般に重合触媒不活性剤として知られる、ビス[2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン]ドデカン酸、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンなどの−CONHNH−CO−単位を有するヒドラジン系化合物;3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール系化合物;トリアジン系化合物;などが挙げられる。熱安定剤は、PGA100質量部に対して、通常3質量部以下、好ましくは0.001〜1質量部、より好ましくは0.005〜0.5質量部、特に好ましくは0.01〜0.1質量部(100〜1000ppm)の割合で用いられる。
【0036】
本発明の生分解性抗菌性不織布は、上記したPGA等の生分解性脂肪族ポリエステルから得られる生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成されるものであって、抗菌剤を配合することなく、抗菌性を示すことに特徴を有する。したがって、実質的に抗菌剤を含有しないPGAから得られるPGA繊維から、実質的に抗菌剤を含有しない抗菌性不織布を構成することができる。しかし、特に必要がある場合は、生分解性を損なわない限り、PGA繊維を構成するPGAに、抗菌剤、殺菌剤、防かび剤等を配合することができる。
【0037】
〔重量平均分子量(Mw)〕
本発明の生分解性抗菌性不織布を構成する生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量(Mw)、例えばPGAの重量平均分子量(Mw)は、2万以上であり、通常2〜100万の範囲内にあるものが好ましく、より好ましくは5〜80万、更に好ましくは7〜60万、特に好ましくは10〜40万の範囲内にあるものを選択する。PGAの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析装置を使用して求めたものである。具体的には、PGA試料を、トリフルオロ酢酸ナトリウムを所定の濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させた後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得て、この試料溶液をGPC分析装置に注入して分子量を測定した結果から、重量平均分子量(Mw)を算出する。
【0038】
〔数平均分子量(Mn)〕
本発明の生分解性抗菌性不織布を構成する生分解性脂肪族ポリエステルの数平均分子量(Mn)、例えばPGAの数平均分子量(Mn)は、通常1〜30万の範囲内にあるものが好ましく、より好ましくは2〜25万、更に好ましくは3〜20万、特に好ましくは4〜15万の範囲内にあるものを選択する。PGAの数平均分子量(Mn)は、重量平均分子量(Mw)と同じくGPC分析装置を使用して求めたものである。
【0039】
また、PGAの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布(Mw/Mn)を通常1.5〜4の範囲内にすることによって、生分解性抗菌性不織布として使用している際、早期に分解を受けやすい低分子量領域の重合体成分(低分子量物)の量を低減させて、不織布の使用期間と生分解速度のバランスを制御することができるので好ましい。分子量分布が大きすぎたり、小さすぎたりすると、生分解性抗菌性不織布としての性能を持続することが困難となる。分子量分布は、好ましくは1.6〜3.5、より好ましくは1.7〜3である。
【0040】
PGAの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を所定の範囲内になるように調整するには、例えば、PGAを重合するときに、(i)重合触媒の種類と量、(ii)分子量調節剤の種類と量、(iii)重合装置や重合温度、重合時間などの重合条件、(iv)重合後の後処理、及びこれらの組み合わせなどを工夫すればよい。
【0041】
また、本発明の生分解性抗菌性不織布を構成するPLAの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5〜100万、より好ましくは6〜80万、更に好ましくは7〜60万の範囲であり、数平均分子量(Mn)は、通常1.5〜30万の範囲内にあるものが好ましく、より好ましくは2〜27万、更に好ましくは3〜25万、特に好ましくは4〜21万である。分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.5〜4.0、より好ましくは1.7〜3.5である。
【0042】
〔溶融粘度〕
本発明の生分解性抗菌性不織布を構成する生分解性脂肪族ポリエステルの溶融粘度は、好ましくは200Pa・s以上であり、より好ましくは250Pa・s以上、更に好ましくは275Pa・s以上、特に好ましくは300Pa・s以上の範囲である。生分解性抗菌性不織布の使用目的によっては、500Pa・s以上、更には600Pa・s以上でもよい。生分解性脂肪族ポリエステルの溶融粘度が小さすぎると、PGA繊維等の生分解性脂肪族ポリエステル繊維の強度や、PGA繊維から形成される不織布(以下、「PGA不織布」ということがある。同様に、PLA繊維から形成される不織布を「PLA不織布」ということがある。)等の不織布の強度が不足し、対象物に接触させる抗菌方法において利用可能な期間が短くなり、頻繁に不織布を交換したり廃棄したりすることが必要となることがある。生分解性脂肪族ポリエステルの溶融粘度が大きすぎると、生分解性脂肪族ポリエステルの繊維を得ることが困難となり、形成される不織布が、所期の抗菌性と生分解性とを有することが困難となることがあるので、通常1200Pa・s以下、多くの場合1000Pa・s以下とすることが好ましい。生分解性脂肪族ポリエステルの溶融粘度は、該生分解性脂肪族ポリエステルの融点(Tm)+50℃の温度、せん断速度122sec−1の条件下で測定したものである。測定温度は、例えば、PGAでは、概ね245〜295℃程度、PLAでは、概ね195〜240℃程度である。
【0043】
〔融点(Tm)〕
本発明の生分解性抗菌性不織布を構成する生分解性脂肪族ポリエステルの融点(Tm)は、特に限定がない。例えば、PGAの融点(Tm)は、通常195〜245℃であり、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、共重合成分の種類及び含有割合等によって調整することができる。PGAの融点(Tm)は、好ましくは200〜240℃、より好ましくは205〜235℃、特に好ましくは210〜230℃である。PGAの単独重合体の融点(Tm)は、通常220℃程度である。生分解性脂肪族ポリエステルの融点(Tm)が低すぎると、不織布の耐熱性や強度が不十分となることがある。融点(Tm)が高すぎると、加工性が不足したり、不織布の形成を十分制御できなかったりして、得られるPGA不織布の抗菌性と生分解性が所望の範囲のものとならないことがある。PGAの融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、試料PGAを、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程で検出される、結晶溶融に伴う吸熱ピークの温度を意味する。該吸熱ピークが複数みられる場合には、吸熱ピーク面積が最も大きいピークを融点(Tm)とする。なお、試料PGAとしては、PGAペレット等を用いるのが通常であるが、PGA不織布を形成するPGA繊維を試料としてもよい。
【0044】
また、本発明のPLA不織布に含まれるPLAの融点(Tm)は、好ましくは145〜185℃、より好ましくは150〜182℃、更に好ましくは155〜180℃の範囲である。
【0045】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
本発明の生分解性抗菌性不織布を構成する生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)、例えばPGAのガラス転移温度(Tg)は、通常25〜60℃であり、好ましくは30〜50℃、より好ましくは35〜45℃である。PGAのガラス転移温度(Tg)は、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、共重合成分の種類及び含有割合等によって調整することができる。PGAのガラス転移温度(Tg)は、融点(Tm)の測定と同様に、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、PGAペレット等の試料PGAを、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程で検出される、ガラス状態からゴム状態への転移領域に相当する二次転移領域における熱量の二次転移の開始温度をガラス転移点(Tg)とする。ガラス転移温度(Tg)が低すぎると、得られるPGA不織布表面が過度に軟化し、不織布の空孔率を所定の範囲内に制御することが困難となることがある。ガラス転移温度(Tg)が高すぎると、成形性が悪くなることがある。
【0046】
また、本発明のPLA不織布に含まれるPLAのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは45〜75℃、より好ましくは50〜70℃、更に好ましくは55〜65℃の範囲内である。
【0047】
2.生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成される不織布
本発明の生分解性抗菌性不織布は、生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成される不織布である。具体的には、生分解性脂肪族ポリエステルから得られる生分解性脂肪族ポリエステル繊維を主成分とする不織布であって、生分解性脂肪族ポリエステル繊維を、50質量%以上含有する不織布である。生分解性脂肪族ポリエステル繊維を、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上含有する不織布であり、生分解性脂肪族ポリエステル繊維のみから形成された不織布でもよい。本発明の生分解性抗菌性不織布は、生分解性脂肪族ポリエステル繊維以外の繊維等を、50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下含有することができるが、生分解性脂肪族ポリエステル繊維以外の繊維等を含有しなくてもよい。生分解性脂肪族ポリエステル繊維以外の繊維等としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維等の周知の繊維でもよいし、低温融着性の繊維等が挙げられる。しかし、生分解性脂肪族ポリエステル繊維の含有量が少なすぎると、生分解性や加水分解性が小さくなる結果、環境負荷が大きくなり、また、抗菌性が十分でないことがある。本発明の生分解性抗菌性不織布は、好ましくはPGA不織布、PLA不織布またはPGAとPLAとの混合不織布である。
【0048】
本発明の生分解性抗菌性不織布は、抗菌性と生分解性をバランスよく有するものである限り、種々の不織布であってよいが、好ましくは、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、水流または気流による3次元交絡不織布などが挙げられ、さらには抄紙法によって製造した不織布でもよい。所期の繊維径や空孔率を得やすく、また、好適な非晶構造を得やすいことから、メルトブロー不織布が好ましい。
【0049】
本発明の生分解性抗菌性不織布は、目付が、1〜500g/m、繊維径が、300nm〜100μm、及び空孔率が、50〜95%であることが好ましい。
【0050】
1)目付
本発明の生分解性抗菌性不織布は、目付が、好ましくは1〜500g/m、より好ましくは2〜400g/m、更に好ましくは3〜300g/m、特に好ましくは4〜200g/mの範囲である。不織布の目付は、JIS L 1096に準じて測定する。不織布の目付が、1g/mより小さいと、不織布の強度が不足したり、対象物に接触させる抗菌方法において利用可能な期間が短くなり、頻繁に不織布を交換したり廃棄したりすることが必要となることがある。また、不織布が薄すぎる結果、抗菌性能が不十分となることがある。不織布の目付が、500g/mより大きいと、重すぎて取り扱い性が不十分となったり、使用後の不織布の生分解または加水分解に長時間を要したりすることがある。
【0051】
2)繊維径
本発明の生分解性抗菌性不織布は、繊維径が、好ましくは300nm〜100μm、より好ましくは500nm〜70μm、更に好ましくは800nm〜50μm、特に好ましくは1〜30μmの範囲である。不織布の繊維径が、300nm未満であると、不織布が高密度化して、繊維間隙に菌が進入せず、菌が生分解性脂肪族ポリエステル繊維と接触しないため、所期の抗菌性を有しなかったり、場合によっては、有用菌が不織布の繊維間隙に進入できない結果、不織布全体としての抗菌性が不十分となったりすることがある。繊維径が、100μm超であると、不織布が過度に粗く、繊維と菌との接触頻度が減少するため、所期の抗菌性を有しなかったり、場合によっては、有用菌が不織布の繊維間隙を通過してしまう結果、不織布全体としての抗菌性が不十分となったりすることがある。
【0052】
繊維径の測定は、不織布の幅方向、長手方向に重ならないように、10箇所の繊維をサンプリングし、1000倍に拡大した電子顕微鏡写真により繊維径をサンプル1箇所について10点測定して、合計100点の平均値を平均繊維径とし、不織布の繊維径とする。
【0053】
3)空孔率
本発明の生分解性抗菌性不織布は、空孔率が、好ましくは50〜95%、より好ましくは60〜94%、更に好ましくは70〜93%、特に好ましくは80〜92%の範囲である。不織布等の空孔率が50%未満であると、不織布が高密度化して、繊維間隙に菌が進入せず、菌が生分解性脂肪族ポリエステル繊維と接触しないため、所期の抗菌性を有しなかったり、場合によっては、有用菌が不織布の繊維間隙に進入できない結果、不織布全体としての抗菌性が不十分となったりすることがある。不織布の空孔率が95%超であると、不織布の強度が低下したり、対象物に接触させる抗菌方法において利用可能な期間が短くなり、頻繁な交換や廃棄が必要となったりすることがある。不織布の空孔率は、50mm×50mmの大きさに切り出した試料不織布の質量を測定し(W1)、これをパーフルオロポリエステル試液(Porous Materials 社製の商品名「Galwick」)に5分間浸漬し、次いで試液から試料不織布を取り出して1分間液切りした後の質量を測定(W2)し、以下の式より算出して求めたものである。
空孔率(%)=(((W2−W1)/ρ)/((W2−W1)/ρ+W1/ρ))×100
ただし、ρ:生分解性脂肪族ポリエステルの密度(PGAの場合は、1.53g/cm)、ρ:パーフルオロポリエステル試液の密度(=1.8g/cm)。
【0054】
4)厚み
本発明の生分解性抗菌性不織布の厚みは、特に限定されないが、好ましくは30〜1000μm、より好ましくは50〜700μm、更に好ましくは80〜500μmの範囲である。不織布の厚みが小さすぎると、生分解性抗菌性不織布の強度が不足し、また使用期間が短すぎることがある。不織布の厚みが大きすぎると、不織布全体に亘る繊維間隙への菌の進入が不十分となる可能性がある。不織布の厚みは、JIS L 1096に準じて、荷重0.7kPaで測定したものである。
【0055】
5)昇温結晶化温度(TC1
本発明の生分解性抗菌性不織布においては、該不織布を形成する生分解性脂肪族ポリエステル繊維を、生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+10℃以上、より好ましくは該ガラス転移温度+15℃以上であって、多くの場合は、該ガラス転移温度+65℃以下の範囲に、昇温結晶化温度(TC1)がみられるものとすると、抗菌性と生分解性とをバランスよく有する生分解性抗菌性不織布とすることができる。具体的な昇温結晶化温度(TC1)の範囲としては、PGA不織布の場合、PGA繊維の昇温結晶化温度(TC1)は、概ね45〜120℃の範囲の温度であることが好ましく、より好ましくは50〜110℃、更に好ましくは55〜100℃の範囲である。昇温結晶化温度(TC1)は、融点(Tm)等の測定と同様に、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、試料のPGA繊維を、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近まで加熱する昇温過程において、結晶化に伴う発熱ピークが検出される場合の該発熱ピークの温度を意味する。昇温結晶化温度(TC1)の調整は、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重合成分の種類や量、さらには、不織布を製造するときの温度条件や加熱冷却条件などを適宜選択することなどにより行うことができる。
【0056】
生分解性脂肪族ポリエステル繊維に、示差走査熱量計による昇温過程で結晶化に伴う発熱ピークが検出されない不織布である場合は、生分解性脂肪族ポリエステルの昇温結晶化温度(TC1)は存在しない。熱処理した不織布や、スパンボンド不織布においては、昇温結晶化温度(TC1)が存在しないことがある。また、本発明のPLA不織布を形成するPLA繊維の具体的な昇温結晶化温度(TC1)は、好ましくは60〜135℃、より好ましくは62〜130℃、更に好ましくは65〜125℃の範囲の温度である。
【0057】
6)昇温結晶化熱量(ΔHTC1
本発明の生分解性抗菌性不織布においては、該不織布を形成する生分解性脂肪族ポリエステル繊維が、前記した好ましい範囲の昇温結晶化温度(TC1)を有することに加えて、示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される昇温結晶化熱量(ΔHTC1)が5J/g以上のものであると、抗菌性と生分解性とをバランスよいものとすることができる。昇温結晶化熱量(ΔHTC1)は、前記した昇温結晶化温度(TC1)近傍の発熱ピーク面積〔通常は、昇温結晶化温度(TC1)±20℃の範囲内の面積〕を積算して算出されるものである。昇温結晶化熱量(ΔHTC1)が5J/g以上である生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成される不織布は、非晶部が所定量以上存在し、非晶部の度合いが大きい不織布であって、対象物に接触させる抗菌方法において、菌の付着性が良好となるので、抗菌性能が向上する。なお、熱処理した不織布や、スパンボンド不織布は、昇温結晶化温度(TC1)が存在しないことがあり、このような昇温結晶化温度(TC1)が存在しない不織布においては、昇温結晶化熱量(ΔHTC1)は存在せず(以下、「0J/g」ということもある。)、また、場合によっては、十分な抗菌性能が得られないこともある。
【0058】
本発明の生分解性抗菌性不織布を形成する生分解性脂肪族ポリエステル繊維の昇温結晶化熱量(ΔHTC1)は、より好ましくは10J/g以上、更に好ましくは15J/g以上、特に好ましくは20J/g以上、最も好ましくは25J/g以上である。生分解性脂肪族ポリエステル繊維の昇温結晶化熱量(ΔHTC1)は、特に上限がないが、PGA繊維では、通常50J/g以下、多くの場合45J/g以下であり、40J/g以下であってもよい。また、PLA繊維では、通常45J/g、多くの場合40J/gを上限としてもよい。
【0059】
3.生分解性抗菌性不織布
本発明の生分解性抗菌性不織布は、生分解性を有するとともに、抗菌剤を含有しなくても、抗菌性に優れた不織布である。
【0060】
(1)抗菌活性値
本発明の生分解性抗菌性不織布は、日本工業規格であるJIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌加工効果」に規定された抗菌活性値が2.0以上の優れた抗菌性を有することを特徴とする。JIS Z 2801:2000に準拠する抗菌性の試験方法は、以下のとおりである。
【0061】
〔試験片の調製〕
抗菌性の試験に使用する試験片は、生分解性抗菌性不織布のサンプルから縦5cm×横5cmの大きさに切り出した後、99%エタノールで清浄化することによって調製する。
【0062】
〔菌液の調製〕
1/500NB(普通ブイヨン)培地に、菌を懸濁させ、10〜10cfu/mLの菌液を作成する。菌としては、大腸菌(Escherichia coli NBRC No.3301)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC No.12732)を用いる。
【0063】
〔培養試験〕
前記の試験片の上に、前記の菌液0.4mLを滴下した後、4cm×4cmの無菌フィルム〔無菌パウチ(オルガノ株式会社製のストマッカー用ポリ袋)をエタノールで清浄化して調製する。〕で試験片を覆い、温度35℃、100%RHで24時間保存する。次いで、試験片にSCDLP培地10mLを加えて、菌液を洗い出し、混釈平板法によって細菌検査を行い、生菌数(cfu/mL)(「24時間培養前の生菌数」)をカウントする。続いて、標準寒天培地を用いて、温度35℃で更に24時間培養を行った後、生菌数(cfu/mL)(「24時間培養後の生菌数」)をカウントする。抗菌活性値を、生菌数のカウント結果に基づいて、以下の式によって算出する。
抗菌活性値=log(24時間培養前の生菌数/24時間培養後の生菌数)
【0064】
〔抗菌性の判定〕
抗菌活性値が2.0以上であれば、JIS Z 2801:2000に基づき、抗菌効果があるといえる。したがって、大腸菌及び黄色ブドウ球菌のいずれについても、抗菌活性値が2.0以上であれば、試験片を切り出した不織布は、抗菌性があると判定する。
【0065】
(2)生分解性
本発明の生分解性抗菌性不織布は、優れた生分解性を有するものである。具体的には、該不織布を、40℃に温度を保った土壌中に埋設し、1か月後に掘り出して、不織布等の試料の状態を目視で観察するとき、該不織布の端をピンセットでつかんで取り出すことができない程度の生分解性を有するものである。生分解性抗菌性不織布の生分解性の程度は、生分解性脂肪族ポリエステルの組成や溶融粘度、不織布を形成する生分解性脂肪族ポリエステル繊維の昇温結晶化温度または昇温結晶化熱量、不織布の目付、繊維径または空孔率などを選択することによって調整することができる。
【0066】
(3)抗菌方法
本発明の生分解性抗菌性不織布は、種々の対象物に接触させる抗菌方法に適用することができる。対象物としては、文具類、日用雑貨品、家庭用備品、電気製品、浴室製品、車両内装材、食品、衣料品、医療用機械器具などが挙げられる。
【0067】
(4)不織布の形態
本発明の生分解性抗菌性不織布は、清浄・清掃用ウエス、手袋、シーツ、枕カバー、オムツまたはオムツカバー、台所用水切り材料等の形態に加工して使用することができる。また、生分解性を損なわない限り、他の樹脂層その他の層と積層したり、一体化させたりして使用することができる。例えば、本発明の生分解性抗菌性不織布であるPGA不織布とPLA不織布とを積層して使用することもできる。
【0068】
4.生分解性抗菌性不織布の製造方法
本発明の生分解性抗菌性不織布は、生分解性脂肪族ポリエステル繊維から、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上である不織布を得ることができる限り、その製造方法は特に限定されず、通常知られている不織布の製造方法を採用することができ、メルトブロー法、スパンボンド法、ニードルパンチ法、水流または気流による3次元交絡法など、それ自体公知の不織布の製造方法を採用することができる。更には抄紙法による不織布の製造方法も採用することができる。
【0069】
また、本発明の生分解性抗菌性不織布が、生分解性脂肪族ポリエステル繊維以外の繊維等を含有する場合は、原料樹脂をブレンドしたり、芯鞘構造等の複合繊維を使用したり、紡出された生分解性脂肪族ポリエステル繊維と生分解性脂肪族ポリエステル繊維以外の繊維とから、それ自体公知の方法により不織布を製造したり、不織布を積層したりするなどの方法によって、本発明の生分解性抗菌性不織布を製造することができる。
【0070】
所期の繊維径や空孔率を得やすく、また、好適な非晶構造を得やすいことから、メルトブロー不織布が好ましい。なお、PGA不織布を製造する場合、ドライエアーや窒素ガスパージ等の方法により水分含有量が増加しないよう配慮して製造することが好ましい。
【0071】
さらに、製造された生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成される不織布に対して、熱処理機を使用して所要温度で所定時間の熱処理を行って、熱処理不織布とすることもできる。熱処理の方法は、熱盤への接触、熱源からの輻射加熱、温風加熱などを採用することができる。熱処理温度や熱処理時間は、不織布に含まれる生分解性脂肪族ポリエステルの融点や含有量等に応じて所望の熱処理条件を採用すればよいが、不織布の空孔率を減少させたり、非晶構造を損なったりすることがないようにするため、通常、熱処理温度を融点未満とすることが必要である。熱処理は、例えば、70〜200℃の温度で1秒間〜20分間の熱処理を行うことが好ましく、より好ましくは80〜180℃の温度で3秒間〜15分間、更に好ましくは90〜150℃の温度で5秒間〜10分間の熱処理をすればよい。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における抗菌性不織布、生分解性脂肪族ポリエステル繊維、または生分解性脂肪族ポリエステルの物性または特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0073】
〔重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)〕
PGA等の生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定は、GPC分析装置を用いて、以下の条件で行った。トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に、PGA等の生分解性脂肪族ポリエステル試料10mgを溶解させて10mLとした後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得て、この試料溶液10μLをGPC分析装置に注入して、下記の測定条件で分子量を測定することによって求めた。
【0074】
<GPC測定条件>
装置:昭和電工株式会社製GPC104
カラム:昭和電工株式会社製HFIP−806M 2本(直列接続)+プレカラム:HFIP−LG 1本
カラム温度:40℃
溶離液:トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIP溶液
検出器:示差屈折率計
分子量校正:分子量の異なる標準分子量のポリメタクリル酸メチル5種(Polymer laboratories Ltd.製)を用いて作成した分子量の検量線データを使用
【0075】
〔溶融粘度〕
生分解性脂肪族ポリエステルの溶融粘度は、キャピラリー(1mmφ×10mmL)を装着した株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフ1−C」を用いて測定した。生分解性脂肪族ポリエステルの融点(Tm)+50℃である設定温度に加熱した装置に、生分解性脂肪族ポリエステル試料20gを導入し、5分間保持した後、せん断速度122sec−1での溶融粘度を測定した。
【0076】
〔融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)〕
生分解性脂肪族ポリエステルの試料10mgを、示差走査熱量計(DSC;株式会社島津製作所製DSC−60)を使用して、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱昇温するときの、昇温過程で検出される吸熱ピークから、融点(Tm)を検出し、昇温過程で検出されるガラス状態からゴム状態への転移領域に相当する二次転移領域における熱量の二次転移の開始温度から、ガラス転移温度(Tg)を検出した。融点(Tm)が複数みられる場合には、吸熱ピーク面積が最も大きいピークの温度を融点(Tm)とした。
【0077】
〔昇温結晶化温度(Tc1)及び昇温結晶化熱量(ΔHTC1)〕
不織布を形成する生分解性脂肪族ポリエステル繊維試料10mgを、前記示差走査熱量計を使用して、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、室温から融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱昇温するときの、昇温過程において、結晶化に伴う発熱ピークが検出される場合の該発熱ピークの温度を昇温結晶化温度(Tc1)とした。また、該昇温結晶化温度(TC1)±20℃の範囲内の発熱ピーク面積を積算して、昇温結晶化熱量(ΔHTC1)を算出した。昇温結晶化温度(TC1)が存在しない場合は、昇温結晶化熱量(ΔHTC1)は、「0J/g」とした。
【0078】
〔不織布の目付〕
不織布の目付は、JIS L 1096に準じて測定した。
【0079】
〔不織布の厚み〕
不織布の厚みは、JIS L 1096に準じて、荷重0.7kPaで測定した。
【0080】
〔不織布の繊維径〕
不織布の繊維径は、不織布の幅方向、長手方向に重ならないように、10箇所の繊維をサンプリングし、1000倍に拡大した電子顕微鏡写真から繊維径をサンプル1箇所について10点測定して、合計100点の平均値を平均繊維径とし、不織布の繊維径とした。
【0081】
〔不織布の空孔率〕
不織布の空孔率は、縦5cm×横5cmの大きさに切り出した不織布試料の質量を測定し(W1)、これをパーフルオロポリエステル試液(Porous Materials 社製の商品名「Galwick」)に5分間浸漬し、次いで試液から不織布試料を取り出して1分間液切りした後の質量を測定(W2)し、以下の式より算出して求めた。
空孔率(%)=(((W2−W1)/ρ)/((W2−W1)/ρ+W1/ρ))×100
ただし、ρ:生分解性脂肪族ポリエステルの密度(PGAの場合は、1.53g/cm)、ρ:パーフルオロポリエステル試液の密度(=1.8g/cm)。
【0082】
〔生分解性〕
生分解性抗菌性不織布または比較例で使用するフィルム(以下、「不織布等」ということがある。)の生分解性は、縦5cm×横5cmの大きさに切り出した不織布等の試料を、40℃に温度を保った土壌中に埋設し、1か月後に掘り出して、不織布等の試料の状態を目視で観察した。
【0083】
〔抗菌性〕
生分解性抗菌性不織布等の抗菌性は、日本工業規格であるJIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌加工効果」に基づき、以下の方法によって抗菌活性値を求めて判定した。
【0084】
(1)試験片の調製
試験片は、生分解性抗菌性不織布等のサンプルから縦5cm×横5cmの大きさに切り出した後、99%エタノールで清浄化することによって調製した。
【0085】
(2)菌液の調製
1/500NB(普通ブイヨン)培地に、菌を懸濁させ、10〜10cfu/mLの菌液を作成した。菌としては、大腸菌(Escherichia coli NBRC No.3301)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC No.12732)を用いた。
【0086】
(3)培養試験
前記の試験片の上に、前記の菌液0.4mLを滴下した後、4cm×4cmの無菌フィルム〔無菌パウチ(オルガノ株式会社製のストマッカー用ポリ袋)をエタノールで清浄化して調製した。〕で試験片を覆い、温度35℃、100%RHで24時間保存した。次いで、試験片にSCDLP培地10mLを加えて、菌液を洗い出し、混釈平板法によって細菌検査を行い、生菌数(cfu/mL)(「24時間培養前の生菌数」)をカウントした。続いて、標準寒天培地を用いて、温度35℃で更に24時間培養を行った後、生菌数(cfu/mL)(「24時間培養後の生菌数」)をカウントした。抗菌活性値を、生菌数のカウント結果に基づいて、以下の式によって算出した。
抗菌活性値=log(24時間培養前の生菌数/24時間培養後の生菌数)
【0087】
(4)抗菌性の判定
大腸菌及び黄色ブドウ球菌のいずれについても、抗菌活性値が2.0以上であれば、試験片を切り出した不織布等は、抗菌性があると判定した。大腸菌または黄色ブドウ球菌のいずれかについて、抗菌活性値が2.0未満であれば、試験片を切り出した不織布等は、抗菌性がないと判定した。
【0088】
[実施例1]
〔PGA不織布の製造〕
ペレット状のPGA(株式会社クレハ製、Mw:20万、Mn:10万、溶融粘度(温度270℃、せん断速度122sec−1で測定):625Pa・s、融点:220℃、ガラス転移温度:40℃)100質量部に、カルボキシル基末端封止剤としてN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(川口化学工業株式会社製)0.3質量部、及び、熱安定剤としてリン酸のモノステアリルエステル及びジステアリルエステルのほぼ等モル混合物〔株式会社ADEKA製のアデカスタブ(登録商標)AX−71〕0.02質量部を添加し、押出機で溶融混合し、紡糸口金を持つダイから吐出し、ベルトコンベア上で集積することによってメルトブローPGA不織布を製造した。その際、吐出量とベルトコンベアの速度を調整することにより積層量を制御し、目付21g/m、厚み130μmのPGAの不織布を調製した。不織布の繊維径は4.4μm、空孔率は91%であった。この不織布を形成するPGA繊維のTc1は、86℃、ΔHTC1は、33J/gであった。
【0089】
〔抗菌性〕
製造した不織布から前記の所定の大きさ(縦5cm×横5cm)に切り出して、99%エタノールで清浄化して試験片を調製した。この試験片の上に、大腸菌または黄色ブドウ球菌を滴下し、培養試験を行って判定した抗菌性の試験結果を表1に示す。
【0090】
〔生分解性〕
不織布から前記の所定の大きさに切り出して調製した試験片を、40℃に温度を保った土壌中に埋設し、1か月後に掘り出して、不織布の試験片の状態を目視で観察したところ、該不織布の試験片は一部ばらばらの状態で元の形状を保持しておらず、さらに、不織布端をピンセットでつかんで取り出そうとしたところ、崩れてしまって取り出すことができなかった。
【0091】
[実施例2]
〔PGA不織布の製造〕
カルボキシル基末端封止剤0.3質量部を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、メルトブローPGA不織布を製造した。得られた不織布は、目付15g/m、厚み135μmであり、不織布の繊維径は5.2μm、空孔率は90%であった。この不織布を形成するPGA繊維のTc1は、85℃、ΔHTC1は、30J/gであった。
【0092】
〔抗菌性〕
実施例2のメルトブローPGA不織布から、実施例1と同様にして調製した不織布の試験片の上に、大腸菌または黄色ブドウ球菌を滴下し、培養試験を行って判定した抗菌性の試験結果を表1に示す。
【0093】
〔生分解性〕
前記により調製したPGA不織布の試験片を、40℃に温度を保った土壌中に埋設し、1か月後に掘り出して、不織布の試験片の状態を目視で観察したところ、該不織布の試験片は一部ばらばらの状態で元の形状を保持しておらず、さらに、不織布端をピンセットでつかんで取り出そうとしたところ、崩れてしまって取り出すことができなかった。
【0094】
[比較例1]
〔熱処理したPGA不織布の製造〕
実施例2で得られたメルトブローPGA不織布を、固定した状態で、温度100℃に設定したギアオーブンに1時間入れることで熱処理を行った。熱処理して得られた不織布は、目付15g/m、厚み123μmであり、不織布の繊維径は5.3μm、空孔率は87%であった。この不織布を形成するPGA繊維は、昇温結晶化温度(Tc1)が検出されなかった(したがって、ΔHTC1は、0J/gであった。)。
【0095】
〔抗菌性〕
比較例1のメルトブローPGA不織布から、実施例1と同様にして調製した不織布の試験片の上に、大腸菌または黄色ブドウ球菌を滴下し、培養試験を行って判定した抗菌性の試験結果を表1に示す。
【0096】
〔生分解性〕
前記により調製した熱処理したPGA不織布を、40℃に温度を保った土壌中に埋設し、1か月後に掘り出して、不織布の状態を目視で観察した。不織布は形状を維持していたが、しわ、ゆがみなどがかなり生じており、生分解が進んでいることが示唆された。
【0097】
[比較例2]
〔PGAフィルムの製造〕
実施例1で使用したペレット状のPGA(カルボキシル基末端封止剤及び熱安定剤を添加)を押出機で溶融押出した後、二軸延伸(MD方向4倍、TD方向4倍)して、厚み20μmのPGAフィルムを製造した。このPGAフィルムは、昇温結晶化温度(Tc1)が検出されなかった(したがって、ΔHTC1は、0J/gであった。)。
【0098】
〔抗菌性〕
製造した二軸延伸PGAフィルムから縦5cm×横5cmの大きさに切り出して、99%エタノールで清浄化してフィルムの試験片を調製した。この試験片の上に、大腸菌または黄色ブドウ球菌を滴下し、培養試験を行って判定した抗菌性の試験結果を表1に示す。
【0099】
〔生分解性〕
前記により調製したPGAフィルムの試験片を、40℃に温度を保った土壌中に埋設し、1か月後に掘り出して、フィルムの状態を目視で観察した。フィルム端をピンセットでつかんで取り出すことは可能であったが、一部しわ、ゆがみなどが生じており、生分解が進んでいることが示唆された。
【0100】
[比較例3]
〔PGAフィルムの製造〕
実施例2で使用したペレット状のPGA(カルボキシル基末端封止剤の添加なし。熱安定剤を添加)を押出機で溶融押出した後、二軸延伸(MD方向4倍、TD方向4倍)して、厚み20μmのPGAフィルムを製造した。このPGAフィルムは、昇温結晶化温度(Tc1)が検出されなかった(したがって、ΔHTC1は、0J/gであった。)。
【0101】
〔抗菌性〕
製造した二軸延伸PGAフィルムから縦5cm×横5cmの大きさに切り出して、99%エタノールで清浄化してフィルムの試験片を調製した。この試験片の上に、大腸菌または黄色ブドウ球菌を滴下し、培養試験を行って判定した抗菌性の試験結果を表1に示す。
【0102】
〔生分解性〕
前記により調製したPGAフィルムの試験片を、40℃に温度を保った土壌中に埋設し、1か月後に掘り出して、フィルムの試験片の状態を目視で観察した。フィルムは形状を維持していたが、しわ、ゆがみなどが生じており、生分解が進んでいることが示唆された。
【0103】
【表1】
【0104】
表1の結果から、溶融粘度(温度270℃、せん断速度122sec−1で測定)が625Pa・sのPGAを用いて得た生分解性脂肪族ポリエステル繊維から、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上である実施例1及び2の抗菌性不織布が形成されたことが分かった。これらのPGA不織布は、抗菌性が極めて優れるとともに、十分な生分解性を有するものであったので、不織布の抗菌性と生分解性とのバランスを調整できることが示唆された。
【0105】
これに対して、実施例2のメルトブローPGA不織布を、温度100℃で1時間熱処理して得られた比較例1の熱処理した不織布は、昇温結晶化温度(Tc1)が検出されず(したがって、ΔHTC1は、0J/gであった。)、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0未満であり、抗菌性がなかった。また、比較例2及び3のPGAフィルムは、抗菌活性値が低く、抗菌性がないものであり、また土中における生分解性は、PGA不織布より劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、生分解性脂肪族ポリエステル繊維から形成され、JIS Z 2801:2000に規定された抗菌活性値が2.0以上であることを特徴とする抗菌性不織布であることによって、抗菌剤を添加することなく抗菌性に優れ、かつ生分解性の布帛を提供することができるので、生産効率の向上、資源の節約及び環境負荷の低減に資するもので、産業上の利用可能性が高い。特に、該不織布を形成する生分解性脂肪族ポリエステル繊維を、溶融粘度が200Pa・s以上である生分解性脂肪族ポリエステルから得られるものとし、また、該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度+10℃以上である昇温結晶化温度、及び、5J/g以上である昇温結晶化熱量を有するものとすることによって、十分な生分解性を有するとともに、極めて優れた抗菌性の不織布を得ることができるので、産業上の利用可能性が一層高い。