【実施例1】
【0014】
以下、本発明の一実施例について説明する。本実施例は修正おもりの修正量を算出するものである。
【0015】
図2は、本発明方法を実現する装置の一構成例を示す機能ブロック図で、初期振動や影響係数や最適化条件あるいは結果等を記憶するデータ記憶手段11、データの入出力を行う入出力手段21、制約条件からの乖離を最小化する線形計画最適化手段31、修正おもりの修正量を算出する2次計画最適化手段32、上記記憶手段や情報処理手段を制御する制御手段41から成っている。
【0016】
図1は、
図2に示す装置により修正おもりの修正量を算出する処理の流れを説明するフローチャート(Flow Chart)である。まず、
図1のステップ101で
図2の入出力手段21により初期振動と影響係数および最適化条件をデータ記憶手段11に入力する。次に、ステップ102で入出力手段21によりデータ記憶手段11に修正おもりを付加する修正面を設定する。次に、ステップ103で入出力手段21によりデータ記憶手段11に残留
振動の振幅の許容値を設定する。本実施例では、許容値は測定箇所や回転数毎に与える。なお、許容値には望ましい値や標準的な値あるいは絶対に守らなければならない値のように複数存在する場合があるが、そのときはそのなかのひとつを設定する。次に、ステップ104で入出力手段21によりデータ記憶手段11に制約条件を設定する。本実施例では、制約条件は測定箇所や回転数毎の残留
振動のX成分およびY成分の絶対値の和である。
【0017】
次にステップ105で線形計画最適化手段31により、データ記憶手段11によりデータを読み込んで制約条件からの乖離を最小化処理を施し、データ記憶手段11に結果および参考情報を記憶する。本実施例では、参考情報として制約条件の制限値、制約条件の実際の値および残留
振動の振幅の実際の値を記憶する。次にステップ106でステップ105の最適化の結果である制約条件からの乖離の値により分岐を行う。すなわち、乖離の値が0でなければステップ107へ進み、乖離の値が0であればステップ108へ進む。なお、乖離の値が0とは、制約条件を満足する可能解が存在することを意味し、乖離の値が0でないとは、制約条件を満足する可能解が存在しないことを意味する。ステップ107ではデータ記憶手段11から参考情報を読み込み、入出力手段21により緩和すべき制約条件の参考情報を表示する。バランス作業者はこの情報を元に修正内容を決定し、ステップ102修正面設定あるいはステップ103許容値設定あるいはステップ104制約条件設定に進む。ステップ108ではデータ記憶手段11から最適化に必要な情報を読み込み、2次計画最適化手段32により本来の目的関数の最適化を行って、修正おもりの修正量を算出する。なお、本実施例では、目的関数として、残留
振動の振幅の二乗和あるいは修正おもりの重さの二乗和を用いる。
【0018】
次に残留振動を(式1)に示す。
【0019】
【数1】
【0020】
ここに、
ε
i :残留振動=(ε
ix , ε
iy)
T
α
ij :影響係数=(α
ijx , α
ijy)
T
w
i :修正おもり=(w
ix , w
iy)
T
a
i :初期振動=(a
ix , a
iy)
T
i :測定箇所および測定条件に対応する番号、1≦i≦N
N :測定箇所および測定条件の数
j :修正面に対応する番号、1≦j≦M
M :修正面の数の積
である。
【0021】
次に
図2の2次計画最適化手段32が解く最適化問題を(式2)に示す。
【0022】
【数2】
【0023】
ここに、
λi :残留
振動に対する重み係数
δj :修正おもりに対する重み係数
bi :制約条件の制限値
である。
【0024】
ここで、δjが0の場合には、制約条件を満足し、更に残留
振動の重み付二乗和を減らす最適化となる。λiが0の場合には、制約条件を満足し、修正おもりの重み付二乗和を減らす最適化となり、過大な修正おもりを低減できるという効果がある。
【0025】
なお、(式2)は制約条件を満足する可能解が存在する場合には、最適化手法である2次計画法(Quadratic Programming)により、効率的に修正おもりの修正量を求めることができる。
【0026】
次に
図2の線形計画最適化手段31が解く最適化問題を(式3)に示す。
【0027】
【数3】
【0028】
ここに、
y
i :制約条件の不等式条件を等式条件に変換するためのスラック変数
z
i :制約条件からの乖離に相当する人工変数
である。
【0029】
これは(式2)における制約条件を満足する可能解を求めるための最適化問題と同じであり、最適化手法である線形計画法(Linear Programming)における代表的な解法である2段階シンプレックス法の第1段階のシンプレックス法により、効率的に解を求めることができる。ここで、最小化する目的関数が0になれば、(式2)における制約条件を満足する可能解のひとつとして、修正おもりの修正量が求まる。また、最小化する目的関数が0にならなければ、(式2)における制約条件を満足する可能解が存在しないことがわかり、さらに、制約条件からの乖離z
iを見ることにより、どの制約条件がきびしく、どれだけ制限値を満足できていないかの情報を得ることができ、これが制約条件の修正の際の情報として有効である。
【0030】
図3は
図1のステップ107で提示する緩和すべき制約条件の参考情報の一例である。 本実施例では、測定箇所および測定条件に対応する番号、測定箇所、測定条件としての回転数、制約条件の制限値、制約条件|εix|+|εiy|、残留
振動の振幅|εi|、制約条件を満足しない場合の制約条件からの乖離、残留
振動の振幅|εi|が満足すべき許容値を参考情報として提示している。
【0031】
なお、残留
振動の振幅|εi|は(式4)で求める。
【0032】
【数4】
【0033】
図3の例では、測定箇所および測定条件に対応する番号5の制約条件|εix|+|εiy|が制限値を0.2オーバーしており、それが乖離0.2として提示されている。しかし、残留
振動の振幅|εi|は許容値以下であることがわかる。この場合、すべての残留
振動の振幅|εi|が許容値以下になっていることから、このときの修正おもりの修正量をもって最終修正量とすることも可能である。ただし、より良い修正量を求めるために、制約条件の制限値を修正することが一例として考えられる。
【0034】
図4は
図3で示した参考情報を元に、測定箇所および測定条件に対応する番号5の制限値を許容値よりも大きくしても、実際の残留
振動の振幅|εi|が許容値以下に収まるであろうとの予測から、その制限値を5から6に修正した結果およびその参考情報を示している。
図4の例では乖離がすべて0となっており、
図1のフローのステップ108:最適化へと進み、より良い修正量を求めることができる。
【0035】
なお、制約条件を満足する可能解を得るためには、
図4の例のように、制約条件の制限値を修正する方法以外に、例えば修正面を変更することや許容値自体を緩和するなどの方法も実施可能である。この判断をバランス作業者が行うために、
図3の例のような参考情報が役にたつ。
【0036】
また、制約条件|εix|+|εiy|と残留
振動の振幅|εi|には(式5)の関係が成
り立つ。
【0037】
【数5】
【0038】
従って、本実施例では制約条件の制限値は許容値の1倍からルート2倍にする。すなわち許容値のルート2倍の制限値を採用して制限値からの乖離が0にならない場合には、現在の許容値および修正面では制約条件を満足する可能解がないことがわかるので、修正作業は制約条件の制限値の調整ではなく、許容値の変更あるいは修正面の変更を行う必要がある。また、制限値は許容値の1倍を採用して制限値からの乖離が0になれば、
図1ステップ108の最適化を行う際、常に残留
振動の振幅|εi|≦許容値が保証されることになる。
【0039】
図5は測定箇所および測定条件に対応する番号5の制約条件|εix|+|εiy|が制限値をオーバーしている別の例である。
図5の例では制約条件|εix|+|εiy|が制限値を0.2オーバーしており、しかも残留
振動の振幅|εi|も許容値をオーバーしている。従って、残留
振動の振幅|εi|を許容値以下にする対策が必要な例を示している。
【0040】
図6は
図5で示した参考情報を元に対策を実施した例である。
図6の例では、制約条件|εix|+|εiy|の値が制限値ぎりぎりであるが、実際の残留
振動の振幅|εi|が許容値以下である制約条件に着目し、その制限値を大きくするというものである。具体的には測定箇所および測定条件に対応する番号3と8の制限値を10から12と5から6へ大きくした。そして、制約条件も制限値以下となり、残留
振動の振幅も許容値以下となる結果を得ている。
【0041】
図3から
図6の例で示すように、参考情報を利用することでバランス作業者は種々の判断/対策が可能となる効果がある。
【0042】
図7と
図8は修正おもり付加による実験結果の一例である。縦軸が残留振動の振幅、横軸が測定の回転数を表しており、線が4本あるのは、4箇所の測定箇所を表している。
図7は修正おもりの付加前で残留振動の状態を表しており、
図8が修正おもりの付加後の状態を表している。本実施例の場合、修正おもりを付加することで最大の振幅を付加前の1/5以下に低減できた。
【実施例2】
【0043】
以下、本発明の別の実施例について説明する。
図9は、
図2に示す装置により修正おもりの修正量を算出する処理の流れを説明するフローチャート(Flow Chart)である。まず、
図9のステップ201で
図2の入出力手段21により初期振動と影響係数および最適化条件をデータ記憶手段11に入力する。次に、ステップ202で入出力手段21によりデータ記憶手段11に修正おもりを付加する修正面を設定する。次に、ステップ203で入出力手段21によりデータ記憶手段11に残留
振動の振幅の許容値を設定する。本実施例では、許容値は測定箇所や回転数毎に与える。なお、許容値には望ましい値や標準的な値あるいは絶対に守らなければならない値のように複数存在する場合があるが、そのときはそのなかのひとつを設定する。次に、ステップ204で入出力手段21によりデータ記憶手段11に制約条件の制限値を許容値のルート2倍として制約条件を設定する。本実施例では、制約条件は測定箇所や回転数毎の残留
振動のX成分およびY成分の絶対値の和である。次にステップ205で線形計画最適化手段31により、データ記憶手段11によりデータを読み込んで制約条件からの乖離を最小化処理を施し、データ記憶手段11に結果および参考情報を記憶する。本実施例では、参考情報として制約条件の制限値、制約条件の実際の値および残留
振動の振幅の実際の値を記憶する。次にステップ206でステップ205の最適化の結果である制約条件からの乖離の値により分岐を行う。すなわち、乖離の値が0でなければステップ207へ進み、乖離の値が0であればステップ208へ進む。なお、乖離の値が0とは、制約条件を満足する可能解が存在することを意味し、乖離の値が0でないとは、制約条件を満足する可能解が存在しないことを意味する。ステップ207ではデータ記憶手段11から参考情報を読み込み、入出力手段21により緩和すべき制約条件の参考情報を表示する。本ケースで制約条件を満足する解がないことは、残留
振動の振幅が許容値以下になる解がないことと同じことであるので、バランス作業者はこの情報を元に修正内容を決定し、204制約条件設定へは進まず、ステップ202修正面設定あるいはステップ203許容値設定に進む。ステップ208では入出力手段21によりデータ記憶手段11に制約条件の制限値を許容値の1倍として制約条件を設定する。次にステップ209で線形計画最適化手段31により、データ記憶手段11によりデータを読み込んで制約条件からの乖離を最小化処理を施し、データ記憶手段11に結果および参考情報を記憶する。本実施例では、参考情報として制約条件の制限値、制約条件の実際の値および残留
振動の振幅の実際の値を記憶する。次にステップ210でステップ209の最適化の結果である制約条件からの乖離の値により分岐を行う。すなわち、乖離の値が0でなければステップ211へ進み、乖離の値が0であればステップ213へ進む。ステップ211ではデータ記憶手段11から参考情報を読み込み、入出力手段21により緩和すべき制約条件の参考情報を表示する。本ケースでは制約条件を調整することで制約条件を満たす可能性が高いので、バランス作業者はこの情報を元に修正内容を決定し、212制約条件修正を行い、ステップ209の乖離を最小化処理に進む。なお、これを繰り返しても制約条件を満足する可能解が求まらない場合には、ステップ202修正面設定あるいはステップ203許容値設定に進む。ステップ213ではデータ記憶手段11から最適化に必要な情報を読み込み、2次計画最適化手段32により本来の目的関数の最適化を行って、修正おもりの修正量を算出する。なお、本実施例では、目的関数として、残留
振動の振幅の二乗和あるいは修正おもりの重さの二乗和を用いる。
【0044】
本実施例では、修正面あるいは許容値の変更なしには制約条件を満たす解がないことが容易かつ早期に判定できることから、バランス作業者の条件設定が容易かつ効率化できる。