(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筒状のロール本体と、前記ロール本体の外周面に設けられワイヤ溝が形成された最外筒としてのウレタン樹脂の外装体と、前記ロール本体の軸線方向両端部に一体に配置されたボス部と、を有するワイヤソー用メインロールにおいて、
前記ロール本体は、内筒鋼管と、前記内筒鋼管の外周面に設けられた外筒炭素繊維強化プラスチック管と、前記外筒炭素繊維強化プラスチック管の外周面に設けられた外筒鋼管との複合構造とされることを特徴とするワイヤソー用メインロール。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池製造用のシリコンインゴットを切断する際に使用されるワイヤソーは、例えば、本願添付の
図9に概略図示する構成とされる。
【0003】
つまり、ワイヤソー100は、所定の間隔で配置された複数個の、本例では2個のメインロール1(1a、1b)を備えている。メインロール1は、10トン以上の荷重がかかる直径300mm以上、全長800mm以上とされる大型長尺のローラとされる。ワイヤ101が両ローラ1a、1b間に巻回されており、ワイヤ101は、一方のリール102から供給され、他方のリール103に巻き取られ、その後、他方のリール103から供給され、他方のリール102に巻き取られる。このように両ローラ1a、1b間にて往復運動されているワイヤ101に太陽電池製造用シリコンインゴット200を押し付け、所定の厚みに切断する。なお、図示してはいないが、メインロール1(1a、1b)近傍にはスラリーや切削液等を供給するノズルが配置されている。
【0004】
斯かる構成のワイヤソー100にて、大型長尺のワイヤソー用メインロール1は、一般的には、
図10に示すように、中空管とされるロール本体10と、ロール本体10の最外筒としてのワイヤ溝21が形成された外装体20と、ロール本体10の軸線方向両端部に一体に配置されたボス部30と、にて構成されている。ボス部30には、図示してはいないが、回転軸が装着され、メインロール1をワイヤソー本体に回転自在に担持している。
【0005】
現在、大型長尺のワイヤソー用メインロール1においては、ロール本体10は鋼管で作製され、外装体20は、ロール本体10の鋼管外周面上にウレタン樹脂を注型し、その後、研磨し、溝(ワイヤを通す溝)加工することが行われている。
【0006】
更に、ワイヤソー100の一般的な使用方法について説明すれば、メインロール1のウレタン外筒20の溝21にワイヤ101を巻き付けて、砥粒を混ぜた油であるスラリーという液体を流しながらワイヤ101でシリコンインゴット200を切断する遊離砥粒式と、ダイヤモンドを電着させたワイヤ101で切削液を流しながらインゴット200を切断する固定砥粒式とがある。このとき、スラリー温度、切削液温度は、メインロール1の熱膨張を制御できるように一定温度に制御されている。
【0007】
従って、メインロール1を作製する材料としては、特に線膨張係数の小さい材料である必要はない。メインロール1のワイヤ張力による撓みが小さいことが、精度良くシリコンインゴットを切断する一番重要な要素である。
【0008】
ただ、鋼管製のロール本体10を用いたメインロール1は、荷重撓みは小さいが、重量が重く、大型化、長尺化、駆動モーターへの負荷が高く、高速回転に向かない欠点がある。太陽電池製造用のシリコンインゴットは大きさが大きく、メインロールが大型で長尺になるため、その軽量化が課題である。
【0009】
特許文献1は、軽量化の課題を解決するとと共に、加工時に発生する熱によってメインロールが熱膨張し、加工後のシリコン基板の面精度に悪影響を及ぼすとの観点からロール本体を線膨張係数の小さい炭素繊維強化プラスチックにて作製することを提案している。
【0010】
しかしながら、現行のワイヤソー用メインロールは、上述のようにワイヤを通す最外筒がウレタン樹脂で作製されており、ウレタン樹脂の線膨張係数が10〜20×10
-5である。
【0011】
つまり、特許文献1に記載するように炭素繊維強化プラスチック製のメインロールの線膨張係数が小さくても最外筒のウレタン樹脂の線膨張係数が支配的であり、特許文献1に記載するように、加工時に発生する熱によってメインロールが熱膨張し、加工後のシリコン基板の面精度に悪影響を及ぼすとの点では、ロール本体を線膨張係数の小さな炭素繊維強化プラスチックで作製することの意義は少ない。
【0012】
更に、特許文献1は、炭素繊維強化プラスチック製ロールの切削液による劣化を防止するために厚さ0.1〜5mmの金属スリーブを炭素繊維強化プラスチック上に配置する構成を開示している。しかしながら、金属の線膨張係数は炭素繊維強化プラスチックの線膨張係数より大であり、特許文献1に記載するように、メインロールの熱膨張に起因した課題を解決するといった点では、斯かる構成にてロール本体を線膨張係数の小さな炭素繊維強化プラスチックで作製することの意義は少ない。
【0013】
また、特許文献1に記載する炭素繊維強化プラスチック製のメインロールは、プラスチックを体積割合で30〜50%含んでいるため、厚さ方向の潰れが大きいのと扁平変形に弱く撓みが大きく、10トン以上の荷重(ワイヤ張力)がかかる直径300mm以上、全長800mm以上とされる、太陽電池製造用の大型ワイヤソー用メインロールには向かない。
【0014】
なお、特許文献1は、最外筒のワイヤを通す溝付き外装体をセラミック製とすることを記載しているが、この場合は、溝付き外装体が硬いためワイヤが断線する可能性が高く、好ましくない。シリコンインゴットは、高価格なため、断線すると被害が大きい。このため、現在のワイヤソー用メインロールは、上述のように、ウレタン樹脂を最外筒に配置した鋼管製のものになっている。
【0015】
特許文献2は、メインロールを金属、セラミックスとすることで線膨張係数を小さくして、温度制御をしなくても精度良く切断しようとしている。しかしながら、金属、セラミックスが硬いためワイヤが断線する可能性が高く、太陽電池製造用のワイヤソー用メインロールには好ましくない。
【0016】
更に、特許文献3は、線膨張係数の小さいメインロールにスーパーインバーを用い、同様に温度制御をしなくても精度良く切断しようとしている。しかしながら、最外筒に溝付きスリーブが配置され、このスリーブの線膨張係数が支配的なため、スーパーインバーをメインロールに使う意味がない。また、スーパーインバーは鋼管より比重が重いため重くなり、太陽電池製造用のワイヤソー用メインロールには好ましくない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るワイヤソー用メインロールを図面に則して更に詳しく説明する。
【0030】
実施例1
本発明に係るワイヤソー用メインロールは、特に、太陽電池製造用のシリコンインゴットを切断する際に使用される、例えば、
図9を参照して説明した構成のワイヤソー100に好適に使用される。
【0031】
つまり、ワイヤソー100は、所定の間隔で配置された複数個の、本例では2個の、メインロール1(1a、1b)を備えている。メインロール1は、10トン以上の荷重(ワイヤ張力)がかかる直径300mm以上(通常、300〜400mm程度)、全長800mm以上(通常、800〜1500mm程度)とされる大型長尺のローラとされる。
【0032】
従来と同様に、ワイヤ101が両ローラ1a、1b間に巻回されており、ワイヤ101は、一方のリール102から供給され、他方のリール103に巻き取られ、その後、他方のリール103から供給され、他方のリール102に巻き取られる。このように両ローラ1a、1b間にて往復運動されているワイヤ101に太陽電池製造用シリコンインゴット200を押し付け、所定の厚みに切断し、シリコンウェーハを作製する。
【0033】
尚、図示してはいないが、メインロール1(1a、1b)近傍には切削液等を供給するノズルが配置されている。
【0034】
本発明に係る大型長尺のワイヤソー用メインロール1の一実施例が、
図1(a)、(b)に示される。
【0035】
本実施例にて、メインロール1は、筒状のロール本体10と、ロール本体10の最外筒としてのワイヤ溝21が形成された外装体20と、ロール本体10の軸線方向両端部に一体に配置されたボス部30と、にて構成されている。大型長尺のワイヤソー用メインロール1は、通常、ボス部30を除いて、ロール本体10の外径(D1)が300〜400mm、軸線方向の長さ(L1)が700〜1500mmとされる。ボス部30は、詳しくは後述するが、ロール本体10からの軸線方向への突出長さ(L32)が50〜150mmとされる。
【0036】
(ロール本体)
本実施例では、ロール本体10は、鋼製の中空管(即ち、鋼管)である内筒10aと、この内筒鋼管10aの外周面に形成された炭素繊維強化プラスチック管である外筒10bとにて構成された複合管構造とされる。内筒鋼管10aと外筒炭素繊維強化プラスチック管10bとは接着剤、エポキシ樹脂にて一体に固着されている。
【0037】
本発明者の研究実験の結果によると、高精度にてシリコンインゴットを所定厚みにて切断するには、10トン以上の荷重(ワイヤ張力)がかかる直径300mm以上、全長800mm以上の大型長尺のメインロールの撓み量を少なくとも40μm以下、好ましくは25μm以下に抑えることが必要であることが分かった。そのために、本発明では、ロール本体10に十分な強度を持たせるために、内筒として鋼管10aを有する構成とし、外筒に炭素繊維強化プラスチック管10bを配置してロール本体10の軽量化を図っている。
【0038】
以下、ロール本体10を構成する各部材について更に詳しく説明する。
【0039】
(1)内筒鋼管
本実施例にて、内筒鋼管10aは、ロール本体1に十分な強度を保証するために鋼製とされ、好ましくは構造用炭素鋼S45C、S25C等にて作製され、内径(D10a)が180〜230mm、厚み(t10a)が10〜40mm、全長(L1)が700〜1500mmとされる。厚み(t10a)が10mm未満では十分な強度が得られず、また、40mmを超えると重量が大となり、駆動モータ−の負荷が大きくなり、好ましくない。
【0040】
本実施例では、内筒鋼管10aとしては、構造用炭素鋼S45Cにて作製された、内径(D10a)が210mm、厚み(t10a)が30mm、全長(L1)が900mmとされる鋼管を使用した。
【0041】
(2)外筒炭素繊維強化プラスチック管
外筒の炭素繊維強化プラスチック管10bは、メインロール1の軽量化を図り、且つ、ロール本体10の強度の低下を最小限度に抑えることが重要である。そこで、強化繊維としてのPAN系或いはピッチ系の炭素繊維に樹脂を含浸させて作製され、厚み(t10b)が10〜40mm、軸線方向長さは内筒鋼管10aと同じ(L1)とされる。厚み(t10b)が10mm未満では、ロール本体の軽量化に十分ではなく、また、40mmを超えると重量は軽減されるものの、ロール本体の強度が低下し、好ましくない。本実施例では、後述するように、厚さ(t10b)は20mmとした。
【0042】
炭素繊維強化プラスチック管10bにおける炭素繊維含有量Vf=(全炭素繊維の体積割合)は、40〜80%(体積)とされ、特に、50〜70%が好ましい。炭素繊維としては、平均繊維径が5〜20μm、好ましくは、7〜12μmである。また、炭素繊維の引張弾性率は、100〜1000GPaとされ、特に、200〜800GPaのものが好ましい。
【0043】
炭素繊維に含浸する樹脂(マトリックス樹脂)としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂が好適に使用される。
【0044】
炭素繊維は、ロール本体1の軸線方向に配向したもの(0°≦配向角度(θ)<45°)、軸線方向に対して所定角度(45°≦配向角度θ≦90°)にて交差方向に配向したものを含むことができる。また、角度θが異なる2以上の交差方向に配向したものを含むこともできる。所望により、二軸以上に織成されたクロス状のものを含むこともできる。
【0045】
外筒炭素繊維強化プラスチック管10bは、フィラメントワインディング法にて作製するのが好適である。例えば、マンドレルの周囲に未硬化マトリクス樹脂を付着させた炭素繊維を、所定の配向角度θで巻き付けた後、テープ巻き締めを行い、硬化炉にて樹脂を硬化させ、次いで、マンドレルを抜き取る。その後、内筒鋼管10aに嵌装し、接着剤にて一体に固着する。その後、外周面を所定の外径となるように研磨する。
【0046】
別法として、シートワインディング法にて作製することもできる。即ち、所定の形状に型取りされたプリプレグを所定枚数マンドレルに巻き付け、テープ巻き締めを行ない、硬化炉にて樹脂を硬化させる。その後は、フィラメントワインディング法にて作製する場合と同様である。
【0047】
本実施例では、外筒の炭素繊維強化プラスチック管10bは、炭素繊維として、
・角度θ=5°で配向した平均繊維径7μmのピッチ系炭素繊維(引張弾性率780GPa)を67%
・角度θ=90°で配向した平均繊維径7μmのPAN系炭素繊維(引張弾性率240GPa)を33%
にて配置して、エポキシ樹脂を含浸して内径(D10b)が270mm、厚さ(t10b)が20mmのものを作製した。
【0048】
すなわち、本実施例の炭素繊維強化プラスチック管10bは、撓み量としては最小の設計とし、Vf=(全炭素繊維の体積割合)60%、残り40%はエポキシ樹脂とされた。
【0049】
(3)ワイヤ溝付き最外筒外装体
ロール本体10の外周面には、ワイヤ溝付きの外装体20が最外筒として設けられる。ワイヤ溝付きの外装体20は、合成樹脂、通常ウレタン樹脂にて作製される。一般に、ウレタン樹脂最外筒20は、次のようにして作製される。
【0050】
先ず、ロール本体10を円筒形金型の軸心位置に配置した後、ロール本体10の外周面(即ち、炭素繊維強化プラスチック管10bの外周面)と金型との間にウレタン樹脂を注入し、その後、加熱硬化させる。ウレタン樹脂の注型後、脱型し、ウレタン樹脂外周面を研磨し、ワイヤを通すための溝を加工する。ウレタン樹脂最外筒20の厚さ(t20)は、1〜30mm、好ましくは、3〜20mmとされる。ウレタン樹脂最外筒20の軸線方向の長さは、ロール本体10と同じ長さとされる。
【0051】
本実施例では、最外筒のウレタン樹脂20の厚さ(t20)は20mmとした。
【0052】
最外筒ウレタン樹脂外装体20には、注型によりロール本体10と一体化した後に溝加工を行ったが、ウレタン樹脂注型時に同時に成形することもできる。溝21のピッチは、シリコンインゴット200から切断されるウェーハの厚さに対応したものとされる。
【0053】
なお、ロール本体10の軸線方向の端部、本実施例では、両端にボス部30が設けられる。ボス部30は、上述の内筒鋼管10aと同様に、鋼製とされ、好ましくは構造用炭素鋼S45C、S25C等にて作製される。
【0054】
ボス部30は、ロール本体10の内周面、即ち、本実施例では、内筒鋼管10aの内周面に嵌合する支持部31と、支持部31の外径より大径とされ、外筒炭素繊維強化プラスチック管10bの外径と同じとされる最大外径を有したフランジ部32とを備えている。ボス部30の中心部には、ボス部30の軸線方向に沿ってワイヤソーのスピンドル(回転軸)(図示せず)と係合するための貫通穴33が形成されている。本実施例にて、貫通穴33は、内方の円筒穴33aと、外方の円錐形状の傾斜穴33bとにより形成されているが、この構造に限定されるものではない。
【0055】
本実施例では、上記構成により、ロール本体10は、大径のフランジ部32と小径の支持部31との境界部に形成される環状の肩部34にロール本体10の両端面が当接した態様で、ロール本体10の両端近傍の内周面が支持部外周面に担持される。ボス部30は、ロール本体10の内筒鋼管10aの端面に形成されたネジ穴35に、フランジ部32を軸線方向に貫通して形成された取付け穴36を利用して挿入されたボルト37を螺合させることにより一体に固着される。
【0056】
もし、ボルト固定ネジ穴35を炭素繊維強化プラスチック管10bの端面に形成する場合は、炭素繊維強化プラスチック管10bにエンザートを挿入、接着して、該エンザートにボルト37を螺合させ、ボルト37が抜けないようにするのが好ましい。
【0057】
本実施例にてフランジ部32の長さ(L32)は、100mmとした。
【0058】
上記のようにして作製した本実施例1のワイヤソー用メインロール1を、
図9に示す構成のワイヤソー100に装着して実験を行なった。
【0059】
本実験におけるメインロール1の使用条件は、以下の通りであった。
【0060】
(使用条件)
メインロール径(D1)350mmでワイヤ101のかかる部分の全長(L1)900mmで荷重10トン、回転数1000rpmであった。
図9に示される概略図のように回転する2本のメインロール1a、1bにワイヤ101を通してワイヤ101が回転しながらワイヤ101によって、シリコンインゴット200を切断した。
【0061】
なお、上記条件の撓み量と、ボス部30を除くメインロール1の重量と、を表1に示す。表1に示す撓み量は、最外筒ウレタン樹脂外装体20の外径(D1)が350mmのメインロール1において、ワイヤ101の接線方向に全長(L1)900mmに渡って合計10トンかけたときの撓み量である。なお、フランジ部32の長さ(L32)は、100mmとした。
【0063】
比較例1、2
比較例1は、
図7に示す構成とされる現在一般に使用されているメインロール1である。
【0064】
つまり、メインロール1は、構造用炭素鋼S45Cの鋼管とされるロール本体10と、ロール本体10の外装体としての最外筒ウレタン樹脂20とにて構成される。
【0065】
比較例1のメインロール1は、ロール本体10を構造用炭素鋼S45Cのみにて作製した以外は、その他のロール本体10の寸法形状、並びに、ボス部及び最外筒ウレタン樹脂の寸法形状、材質等は、実施例1と同様とされる。
【0066】
比較例1にてロール本体10であるS45C鋼管の厚さ(t10)は50mmとした。また、最外筒のウレタン樹脂外装体20の厚さ(t20)は20mmとした。
【0067】
比較例1の場合、表1に示すように、撓み量は最も小さいが、重量が重く、駆動モーターへの負荷が大きく高回転には向かない。
【0068】
比較例2
比較例2は、
図8に示すように、上述の特許文献1に記載される構成のメインロール1である。
【0069】
つまり、メインロール1は、炭素繊維強化プラスチック管とされるロール本体10と、メインロールの外装体としての最外筒ウレタン樹脂20とにて構成される。
【0070】
比較例2のメインロール1は、ロール本体10を炭素繊維強化プラスチック管のみにて作製した以外は、その他のロール本体10の寸法形状、並びに、ボス部30及び最外筒ウレタン樹脂20の寸法形状、材質等は、実施例1と同様とされる。
【0071】
尚、本比較例2では、炭素繊維強化プラスチック管10bは、炭素繊維として、
・角度θ=5°で配向した平均繊維径7μmのピッチ系炭素繊維(引張弾性率780GPa)を67%
・角度θ=90°で配向した平均繊維径7μmのPAN系炭素繊維(引張弾性率240GPa)を33%
にて配置して、エポキシ樹脂を含浸して作製した。
【0072】
比較例2の炭素繊維強化プラスチック管10は、撓み量としては最小の設計とし、Vf=(全炭素繊維の体積割合)60%、残り40%はエポキシ樹脂とした。
【0073】
炭素繊維強化プラスチック管10の内径(D10)は210mm、厚さ(t10)は50mmとした。最外筒のウレタン20の厚さ(t20)は20mmとした。
【0074】
なお、S45Cのフランジ部32とメインロール部分はボルト37で固定した。この時、ボルト固定ネジ穴35は、炭素繊維強化プラスチック管10にエンザートを挿入、接着して、ボルト37が抜けないようにした。
【0075】
比較例2の場合、撓みが大きく、シリコンインゴットの切断には使用できなかった。
【0076】
実施例2
図2に、本発明に係るメインロール1の第二の実施例を示す。
【0077】
本実施例にて、メインロール1は、上記実施例1で説明したメインロール1と同様に、内筒鋼管10aと、内筒鋼管10aの外周面に設けられた外筒炭素繊維強化プラスチック管10bとにて構成されるロール本体10を備えている。更に、ロール本体10の外周面には、ロール本体10の外装体としての最外筒ウレタン樹脂20が設けられている。内筒鋼管10aと外筒炭素繊維強化プラスチック管10bはエポキシ接着剤で接着した。
【0078】
ただ、本実施例のメインロール1は内筒鋼管10aとしてS25Cの鋼管を用い、更に、内筒鋼管10aの内周面に補強リブとして環状のS25C製鋼板製リブ11を軸線方向に所定の間隔にて溶接して設けている。
【0079】
本実施例にて、内筒鋼管10aの厚さ(t10a)は30mm、外筒炭素繊維プラスチック管10bの厚さ(t10b)は20mm、最外筒ウレタン樹脂外装体20の厚さ(t20)は20mmとし、実施例1と同様とした。その他のロール本体10構成、並びに、ボス部30及び最外筒ウレタン樹脂20の寸法形状、材質等は、上記実施例1と同様とされる。同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略し、実施例1の説明を援用する。
【0080】
本実施例にて、環状リブ11は、厚さ(t11)が10〜40mm、半径方向高さ(h11)が30〜70mmとされる。各リブ11は、本実施例では、ロール本体10の軸線方向中央部に一つ、更に、該中央部から軸線方向に距離(L11)、例えば、100〜400mmだけ離間して一つづつ配置された。本実施例では、厚さ(t11)は20mm、半径方向高さ(h11)は55mmとされ、リブ11は、ロール本体10の軸線方向中央部に一つ、更に、該中央部から軸線方向に両側へと距離(L11)が250mmだけ離間して、合計3個配置された。ただ、リブ11の寸法、形状、或いは、その配置される個数等は、本実施例のものに限定されるものではない。
【0081】
表1から分かるように、本実施例のメインロール1によれば、ロール本体10の強度は更に大とされ、メインロール1の撓みを更に小さくできた。
【0082】
実施例3
図3に、本発明に係るメインロール1の第三の実施例を示す。
【0083】
本実施例にて、メインロール1は、上記実施例2で説明したメインロール1と同様に、例えば構造用炭素鋼S25Cにて作製した内筒鋼管10aと、内筒鋼管10aの外周面に設けられた外筒炭素繊維強化プラスチック管10bと、にて構成されるロール本体10を備えている。更に、内筒鋼管10aの内周面に補強リブ、例えばS25C製の鋼板製リブ11を溶接して設けている。また、ロール本体10の外周面には、ロール本体10の外装体としての最外筒ウレタン樹脂20が設けられている。
【0084】
ただ、本実施例では、
図3に示すように、内筒鋼管10aは、軸線方向に3分割され、軸線方向両端の端部内筒鋼管10a1、10a1と、中央内筒鋼管10a2とにて構成される。内筒鋼管の分割幅、即ち、リブ10a1とリブ10a2との間隔(tg)は10mmとした。
【0085】
また、各分割した内筒鋼管10a1、10a2、10a1は、S25Cの鋼板製リブ7を溶接した。リブ11厚さ(t11)は20mm、リブ11の高さ(h11)は55mmとし、5箇所に配置した。
【0086】
つまり、本実施例にて、端部内筒鋼管10a1の長さ(L10a1)及び中央内筒鋼管10a2の長さ(L10a2)は、100〜800mmとされ、本実施例では、端部内筒鋼管10a1の長さ(L10a1)は190mm、中央内筒鋼管10a2の長さ(L10a2)は500mmとされた。このとき、フランジ部長さ(L32)は100mmとした。
【0087】
本実施例にて、内筒鋼管10aの厚さ(t10a)は30mm、外筒炭素繊維プラスチック管10bの厚さ(t10b)は20mm、最外筒ウレタン樹脂外装体20の厚さ(t20)は20mmとした。その他のロール本体10の構成、並びに、ボス部及び最外筒ウレタン樹脂の寸法形状、材質等は、上記実施例1、実施例2と同様とされる。同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略し、実施例1、実施例2の説明を援用する。
【0088】
なお、外筒の炭素繊維強化プラスチック管10bと内筒の鋼管10a(10a1、10a2、10a1)は、エポキシ接着剤で接着した。
【0089】
表1から分かるように、本実施例のメインロール1によれば、撓みを更に小さくできた。
【0090】
本実施例のメインロール1は、次のような特徴を有している。
【0091】
つまり、内筒鋼管10aを分割することで、ウレタン樹脂注型時(100℃〜110℃)の内筒鋼管(線膨張係数1.2×10
-5)10aと、外筒炭素繊維強化プラスチック管(軸方向線膨張係数−5×10
-7)10bとのエポキシ樹脂(線膨張係数5×10
-5)接着面の応力を下げる効果があり、長期使用時に外筒炭素繊維強化プラスチック管10bと内筒鋼管10aが外れ難いといった利点を有している。
【0092】
また、注型し、研磨、溝加工した最外筒のウレタン樹脂20は、消耗品のため周期的に巻き替える必要があるので、ワイヤソー用メインロールは、周期的に常温から100℃〜110℃という熱履歴を受ける。この場合においても、内筒鋼管10aを分割することで、外筒の炭素繊維強化プラスチック管10bとのエポキシ接着面の応力を下げることができ、外筒炭素繊維強化プラスチック管10bと内筒鋼管10aが外れ難いといった特徴がある。
【0093】
本実施例のメインロール1によれば、撓みは小さく、重量は、比較例1の現行品メインロールより軽く、駆動モーターの負荷も低く、高回転数で精度よくシリコンインゴットを切断することができた。
【0094】
実施例4
図4に、本発明に係るメインロール1の第四の実施例を示す。
【0095】
本実施例にて、メインロール1は、上記実施例3で説明したメインロール1と同様に、内筒鋼管10aと、内筒鋼管10aの外周面に設けられた外筒炭素繊維強化プラスチック管10bとにて構成されるロール本体10を備えている。また、ロール本体10の外周面には、ロール本体10の外装体としての最外筒ウレタン樹脂20が設けられている。
【0096】
更に、本実施例においても、
図4に示すように、実施例3と同様に、内筒鋼管10aは軸線方向に3分割され、各分割した内筒鋼管10a1、10a2、10a1は、鋼板製リブ11を溶接して補強されている。
【0097】
尚、本実施例では、内筒鋼管10a1、10a2、10a1、及び、鋼板製リブ11は、構造用炭素鋼S45Cにて作製した。
【0098】
本実施例4においても、実施例3と同様に、リブ11の厚さ(t11)は20mm、リブ11の高さ(h11)は55mmとし、5箇所に配置した。つまり、中央内筒鋼管10a2は、中央部と両端部の三か所、端部内筒鋼管10a1は、中央内筒鋼管10a2と隣接した端部に一か所とした。内筒鋼管10aの分割幅tgは、10mmとした。
【0099】
ただ、3分割された内筒鋼管10aの各両端鋼管10a1は、ボス部30の支持部31に一体に作製されている。
【0100】
つまり、本実施例によれば、上記実施例1〜3と同様に、ロール本体10の軸線方向の少なくとも一端、本実施例では、両端に設けられたボス部30は、鋼製とされ、構造用炭素鋼S45Cにて作製された。
【0101】
ボス部30は、ロール本体10の内周面、即ち、本実施例では、内筒鋼管10aの内周面に嵌合する支持部31と、支持部31より大径とされ、外筒炭素繊維強化プラスチック管10bの外径と同じとされるフランジ部32とを備えている。ボス部30の中心部には、ボス部30の軸線方向に沿ってワイヤソーのスピンドル(回転軸)(図示せず)と係合するための貫通穴33が形成されている。本実施例にて、貫通穴33は、内方の円筒穴33aと、外方の円錐形状の傾斜穴33bとにより形成されているが、これに限定されるものではない。
【0102】
更に、本実施例では、支持部31には軸線方向内方へと延在して一体に円筒状筒部38が形成され、該円筒状筒部38が内筒鋼管10aの分割された両端鋼管10a1を構成する。ボス部30の形状寸法は、この両端の円筒状筒部38を除けば、上記実施例1〜3のボス部30と同じ形状寸法とされる。ただ、上記各実施例では、ボス部30を内筒鋼管10aにボルト37にて固定する構造とされていたが、本実施例では斯かる構造は必要とされない。このとき、フランジ部長さ(L32)は100mmとした。
【0103】
本実施例にて、内筒鋼管10aの厚さ(t10a)は30mm、外筒炭素繊維プラスチック管10bの厚さ(t10b)は20mm、最外筒ウレタン樹脂外装体20の厚さ(t20)は20mmとした。最外筒ウレタン樹脂筒の材質、寸法形状等は、上記実施例3、実施例1と同様とされる。同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略し、実施例1、実施例3の説明を援用する。
【0104】
上記にて理解されるように、本実施例4は、
図3に示す実施例3におけるボス部30の支持部31を内筒鋼管10aと一体化したものである。従って、実施例3におけるボス部30と内筒鋼管10aを一体化するためのボルト37は不要である。なお、外筒の炭素繊維強化プラスチック管10bと内筒鋼管10a(10a1、10a2、10a1)は、エポキシ接着剤で接着される。
【0105】
本実施例のメインロール1は、表1に示すように、撓みが小さく、重量は、ロール本体10を鋼管のみで作製した比較例1の現行品より軽く、駆動モーターの負荷も低く、高回転数で精度よくシリコンインゴット10を切断できた。
【0106】
実施例5
図5に、本発明に係るメインロール1の第五の実施例を示す。
【0107】
本実施例にて、メインロール1は、上記実施例1で説明したメインロールと異なり、ロール本体10が、例えば構造用炭素鋼S25C等にて作製した内筒鋼管10aと、内筒鋼管10aの外周面に設けられた外筒炭素繊維強化プラスチック管10bと、更に、外筒炭素繊維強化プラスチック管10bを内筒鋼管10aとにて挟持する態様で、炭素繊維強化プラスチック管10bの外周面に配置された、例えば構造用炭素鋼S25C等にて作製した外筒鋼管10cと、にて構成される。更に、ロール本体10の外周面には、即ち、本実施例5では外筒鋼管10cの外周面にロール本体10の外装体としての最外筒ウレタン樹脂20が設けられている。
【0108】
本実施例にて、内筒鋼管10aと外筒鋼管10cは、メインロール1の強度を提供するものであるが、外筒炭素繊維強化プラスチック管10bを内筒鋼管10aと外筒鋼管10cの間に配置することによってメインロール1の重量の軽量化を図っている。メインロール1の強度を増大するためには、より好ましくは、内筒鋼管10aより外筒鋼管10cの断面積を大とするのが良い。従って、本実施例では、できるだけ内筒鋼管10aの厚み(t10a)を薄くし、外筒鋼管10cの厚さ(t10c)を厚くした(t10a≦t10c)。
【0109】
具体的には、外筒炭素繊維強化プラスチック管10bの厚さ(t10b)は20mm、外筒鋼管10cの厚さ(t10c)は20mm、内筒鋼管10aの厚さ(t10a)は5mmとした。本実施例にてロール本体10の総厚さ(t10a+t10b+t10c)は45mmとされた。
【0110】
実施例1では、内筒鋼管10aに形成したねじ穴35を利用してボス部30を固着する構成としたが、本実施例では、ロール本体10の端部に鋼製の環状支持リング39を配置し、該支持リング39をボス部30の支持部31に嵌合させる構成とした。支持リング39は、ロール本体10の内径(D10a)及び外径(D10a+2(t10a+t10b+t10c))と同じ内径及び外径とされ、支持リング39と外筒鋼管10cとの当接部外周囲は溶接40により一体とした。また、支持リング39にネジ穴35を形成し、ボス部30のフランジ部32から挿通されたボルト37によりボス部30に一体に固定した。
【0111】
なお、内筒鋼管10aと外筒炭素繊維強化プラスチック管10b、及び、外筒鋼管10cと外筒炭素繊維強化プラスチック管10bは、エポキシ接着剤で接着した。
【0112】
このとき、内筒鋼管10a、外筒鋼管10b、支持リング39は構造用炭素鋼S25Cで作製した。
【0113】
外筒炭素繊維強化プラスチック管10b、最外筒ウレタン樹脂20、ボス部30等の寸法形状、材質等は、上記実施例1と同様とされる。同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略し、実施例1の説明を援用する。
【0114】
尚、本実施例にて、ロール本体10の外周面に設けられる最外筒ウレタン樹脂20は、環状支持リング39の外周面にまで延在して配置された。
【0115】
本実施例のメインロール1は、表1に示すように、撓みは小さく、重量は鋼管のみの現行品(比較例1)より軽く、駆動モーターの負荷も低く、高回転数で精度よくシリコンインゴット10を切断できた。
【0116】
実施例6
図6に、本発明に係るメインロール1の第六の実施例を示す。
【0117】
本実施例にて、メインロール1は、上記実施例5で説明したメインロールと同様に、ロール本体10が、例えば構造用炭素鋼S25C等にて作製した内筒鋼管10aと、内筒鋼管10aの外周面に設けられた外筒炭素繊維強化プラスチック管10bと、更に、外筒炭素繊維強化プラスチック管10bを内筒鋼管10aとにて挟持する態様で、外筒炭素繊維強化プラスチック10bの外周面に配置された、例えば構造用炭素鋼S25C等にて作製した外筒鋼管10cと、にて構成される。更に、ロール本体10の外周面には、即ち、外筒鋼管10cの外周面にロール本体10の外装体としての最外筒ウレタン樹脂20が設けられている。
【0118】
ただ、本実施例のメインロール1は、実施例5と異なり、内筒鋼管10aの内周面に鋼板製リブ11を溶接して設けている。
【0119】
その他の構成、即ち、ボス部及び最外筒ウレタン樹脂の寸法形状、材質等は、上記実施例5と同様とされる。同じ構成及び機能をなす部材には同じ参照番号を付し、詳しい説明は省略し、実施例5及び実施例1の説明を援用する。
【0120】
本実施例のメインロール1によれば、表1にて分かるように、撓みは小さく、重量は鋼管のみの現行品(比較例1)より軽く、駆動モーターの負荷も低く、高回転数で精度よくシリコンインゴット10を切断できた。