特許第5873343号(P5873343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5873343高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート、ならびに、これを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873343
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート、ならびに、これを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20160216BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20160216BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C22C21/00 E
   C22C21/00 J
   C22C21/00 D
   C22C21/00 C
   B23K35/28 310B
   B23K35/22 310E
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-16013(P2012-16013)
(22)【出願日】2012年1月29日
(65)【公開番号】特開2013-155404(P2013-155404A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】神谷定行
(72)【発明者】
【氏名】寺地翔太
(72)【発明者】
【氏名】根倉健二
(72)【発明者】
【氏名】安藤誠
(72)【発明者】
【氏名】福元敦志
(72)【発明者】
【氏名】大谷良行
(72)【発明者】
【氏名】新倉昭男
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−297673(JP,A)
【文献】 特開平07−088682(JP,A)
【文献】 特開平09−047893(JP,A)
【文献】 特開2007−327093(JP,A)
【文献】 特開2007−327094(JP,A)
【文献】 特開2009−228010(JP,A)
【文献】 特開2008−246525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
B23K 35/00 − 35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の心材と、当該心材の一方の面にクラッドされたろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材とを備えるアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記ろう材が、Si:2.5〜13.0mass%、Zn:0.5〜5.5mass%、Cu:0.1〜0.6mass%、Fe:0.05〜1.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材が、Zn:0.5〜6.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記心材が、Si:0.05〜1.2mass%、Fe:0.05〜1.0mass%、Cu:0.05〜1.2mass%、Mn:0.6〜1.8mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱後におけるろう材表面と心材との孔食電位差が20mV以上であり、かつ、ろう付加熱後における犠牲陽極材表面の孔食電位が、ろう材における共晶組織の孔食電位と同一又はそれより卑であることを特徴とする高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記ろう材及び犠牲陽極材の少なくともいずれか一方が、前記各成分元素の他に、Mn:0.05〜1.8mass%、Ti:0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を更に含有する、請求項1に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記心材が、前記各成分元素の他に、Mg:0.05〜0.5mass%、Ti0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を更に含有する、請求項1又は2に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
自動車用熱交換器の流路形成部品に成形されるアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記流路形成部品に成形されたアルミニウム合金ブレージングシートは、その一方の表面である犠牲陽極材面側が冷却用液体の流路を形成しており、他方の表面であるろう材面側が空気に接しており、当該他方の表面には溶質濃度の合計値が10000ppm以下であり、かつ、塩化物イオンを5ppm以上500ppm以下含有する凝縮水が生成する環境で使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
請求項4に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートがろう付された自動車用熱交換器の流路形成部品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートに関し、詳細には、インタークーラなどの熱交換器における高温圧縮空気や冷媒の通路構成材として好適に使用される高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートに関する。更に本発明は、前記高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量かつ高熱伝導性を備えており、適切な処理により高耐食性が実現できるため、自動車用熱交換器、例えば、ラジエータ、コンデンサ、エバポレータ、ヒータ、インタークーラなどに用いられている。自動車用熱交換器のチューブ材としては、3003合金などのAl−Mn系合金を芯材として、片面には、Al−Si系合金のろう材や、Al−Zn系合金の犠牲陽極材をクラッドした2層クラッド材や、更にもう片面にAl−Si系合金のろう材をクラッドした3層クラッド材が使用されている。熱交換器は通常、このようなクラッド材とコルゲート成形したフィンを組み合わせ、600℃程度の高温でろう付することによって接合される。
【0003】
この熱交換器のチューブの内外に腐食性を有する液体が存在すれば、孔食発生によりチューブが貫通したり、均一腐食によってチューブの板厚が減少して耐圧強度が低下し、チューブ材破裂するおそれがある。その結果、内部を循環している空気や冷却水、冷媒の漏洩が生じる危険性がある。従来、例えばラジエータのチューブ内部には冷却水が流れ、チューブ外部は外環境からの腐食性物質、例えば融雪塩などが付着するため、チューブの内外とも腐食環境にある。これに対しては、チューブの内側については犠牲陽極材をクラッドすることで防食しているが、チューブの外側についてはチューブ自体に犠牲層をクラッドすることはせず、フィンにZnを添加するなどして孔食電位を卑化し、フィンによる犠牲防食作用を利用している。チューブの外側がこのような方法で防食可能なのは、付着する腐食性液体の導電性が高いためである。腐食性液体の導電性は、その溶質成分濃度が高いほど高くなる。ラジエータの外部環境においては、融雪塩などの溶質成分が高濃度の腐食性液体が付着するため導電性が高く、そのためフィンの犠牲効果でチューブ全体を十分に防食することができる。
【0004】
ところが、最近の自動車に使用される新しい熱交換器においては、チューブの内外ともに犠牲層をクラッドした材料を用いる必要性が生じてきた。一例として、水冷タイプのインタークーラが挙げられる。この場合、チューブの内外面のうち冷却水が接する側の面は従来のラジエータと同様の腐食環境であるため、犠牲陽極材のクラッドが必要である。一方、反対側の面は、排気ガスの混入した圧縮空気が接することとなる。この場合、熱交換器内で冷却された圧縮空気からは、排気ガスが溶解した凝縮水が結露する。この凝縮水は、排気ガス成分である塩化物イオンを含有するので孔食誘起性を有する。そのため、圧縮空気側にも犠牲防食性が必要である。しかしながら、溶質成分が希薄であり、しかも水没環境ではないため、フィンでの犠牲防食は困難である。従って、チューブ材の圧縮空気側となる面は、フィンとのろう付機能と、犠牲防食機能の両方を備える必要が生じる。
【0005】
例えば、図2に示すチューブは、ろう材/心材/犠牲陽極材からなる3層のアルミニウム合金ブレージングシートの両端部をろう付して筒状としたものである。ブレージングシートの内面側が犠牲陽極材であり、外面側がAl−Si系合金からなるろう材である。このような従来用いられているAl−Si系合金ろう材にろう付機能に加えて犠牲防食効果を付与するには、これにZnを添加して孔食電位を卑化させる方法が挙げられる。この方法では、ろう付時においてAl−Si系合金から溶融したろうが接合部に集まり、凝固することとなる。Al−Si系合金にはZnが含有されているので、最終凝固部へのZnの濃縮が不可避となる。そうすると、接合部の孔食電位が最も卑となって優先的に腐食が発生する部位となる。図2のチューブ内側は冷却水で満たされているため、このような優先腐食は、図2(a)の矢印Dで示すように、接合部の一端から他端に向けて進行し、最終的には、図2(b)に示すような腐食部分となる。
【0006】
ろう付機能と犠牲防食効果の両方を有するクラッド層を持つブレージングシートは、特許文献1及び2に記載されている。これらブレージングシートは、主にチューブ内部を冷却水が流れるラジエータに用いられ、図3に示すように、B型断面形状に成形されたC部におけるろう付補助を目的とする。しかしながら、これらの技術によるブレージングシートでは、チューブ外部についてはチューブ材自身による犠牲防食は考慮されておらず、外気側のチューブ材には通常のAl−Si系合金ろう材がクラッドされているのみである。このように、これら特許文献では、チューブ材同士の接合部における優先腐食については何ら考慮されていない。
【0007】
すなわち、特許文献1に記載されるブレージングシートは、B型形状でのチューブ材同士のろう付を可能としている。クラッド層の成分については、通常用いられるAl−Si系合金ろう材よりもSi量を低く抑えることで、ろうの流動による犠牲防食効果の減少を防いでいる。しかしながら、ろう材のZn添加量については7%以下とされているだけであり、接合部へのZn濃縮を抑制することについては考慮されていない。このように、特許文献1においては、チューブ接合部の優先腐食の防止が図られていない。
【0008】
一方、特許文献2に記載されるろう付機能と犠牲防食効果を合わせ持つクラッド層には、SiとZnの他にCuやMnが添加されている。しかしながら、CuやMnの添加目的は強度の向上であり、チューブ接合部の優先腐食の防止のためのものではない。また、このクラッド層による犠牲防食は冷却水側を対象としており、大気側は従来通りのろう材合金である4045合金や4343合金が用いられており、チューブ材のクラッド層による大気側の防食については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−188616号公報
【特許文献2】特表2011−524254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、アルミニウム合金ブレージングシートを例えば熱交換器のチューブ材として用いる際に、チューブの内外両面が腐食環境にあり、フィンとの接合面においてフィンによる犠牲防食が困難な場合において、チューブの内外両面に犠牲防食効果を備え、かつ、内外両面のうちの片面にはろう付機能を有し、更にチューブ同士の優先腐食が発生しないアルミニウム合金ブレージングシートを提供することは、従来の技術では困難であった。
【0011】
本発明は、斯かる問題点を解消するべく完成したものであって、アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、両面に犠牲防食効果を備え、かつ、その片面にはろう付機能を有し、更にろう付接合部における優先腐食を防止し、ろう付時において溶融ろうの心材への拡散がない良好なろう付性を発揮する高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート、ならびに、これを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品の提供を目的とする。このような高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、自動車用熱交換器の流路形成部品として好適に使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題について鋭意研究を重ねた結果、それぞれが特定の合金組成を有するろう材、心材及び犠牲陽極材をクラッドした材料がその課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
具体的には、本発明は請求項1において、アルミニウム合金の心材と、当該心材の一方の面にクラッドされたろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材とを備えるアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記ろう材が、Si:2.5〜13.0mass%、Zn:0.5〜5.5mass%、Cu:0.1〜0.6mass%、Fe:0.05〜1.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材が、Zn:0.5〜6.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記心材が、Si:0.05〜1.2mass%、Fe:0.05〜1.0mass%、Cu:0.05〜1.2mass%、Mn:0.6〜1.8mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう付加熱後におけるろう材表面と心材との孔食電位差が20mV以上であり、かつ、ろう付加熱後における犠牲陽極材表面の孔食電位が、ろう材における共晶組織の孔食電位と同一又はそれより卑であることを特徴とする高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートとした。
【0014】
本発明は請求項2では請求項1において、前記ろう材及び犠牲陽極材の少なくともいずれか一方が、前記各成分元素の他に、Mn:0.05〜1.8mass%、Ti:0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を更に含有するものとした。
【0015】
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記心材が、前記各成分元素の他に、Mg:0.05〜0.5mass%、Ti0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を更に含有するものとした。
【0017】
本発明は請求項では請求項1〜請求項のいずれか一項において、高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートが、自動車用熱交換器の流路形成部品に成形されるアルミニウム合金ブレージングシートであり、前記流路形成部品に成形されたアルミニウム合金ブレージングシートは、その一方の表面である犠牲陽極材面側が冷却用液体の流路を形成しており、他方の表面であるろう材面側が空気に接しており、当該他方の表面には溶質濃度の合計値が10000ppm以下であり、かつ、塩化物イオンを5ppm以上500ppm以下含有する凝縮水が生成する環境で使用されるものとした。
【0018】
更に、本発明は請求項において、請求項に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートがろう付された自動車用熱交換器の流路形成部品とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルミニウム合金ブレージングシートを例えば熱交換器のチューブ材として用いる際に、チューブの内外両面が腐食環境にあり、かつ、フィンとの接合面においてフィンによる犠牲防食が困難である場合において、チューブの内外両面に犠牲防食効果を備え、かつ、その片面にはろう付機能を有し、更にチューブ同士の優先腐食の発生を防止した高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート、ならびに、これを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品が提供される。このブレージングシートはフィン接合率、耐エロージョン性などろう付性にも優れ、更に軽量性や良好な熱伝導性の観点から、自動車用の熱交換器チューブ材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートの孔食電位の測定、および犠牲材側の腐食試験に供するための試料を示す模式図である。
図2】3層のアルミニウム合金ブレージングシートからなるチューブの優先腐食を示す説明図である。
図3】アルミニウム合金ブレージングシートからなるB型断面形状に成形されたチューブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート及びその製造方法の好適な実施態様について、詳細に説明する。
【0022】
1.腐食環境
まず、本発明が従来技術に対して特に優位性を発揮し、かつ、高耐食性などの効果が最大限に発揮される腐食環境について説明する。本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、例えば自動車用熱交換器の流路形成部品として用いられる際に、一方の面は冷却用液体の流路を形成し、他方の面は空気に接する。そして、他方の面の表面に溶質濃度の合計値が1000ppm以下であり、かつ、塩化物イオンを5ppm以上含有する凝縮水が生成する場合に、上記効果が最大限に発揮されるものである。
【0023】
このような腐食環境では、凝縮液は孔食誘起性を有するため犠牲防食が必要であるが、溶質濃度が低濃度であり、しかも水没環境ではないためフィンによる犠牲防食が有効に作用しない。そこで、従来用いられているようなAl−Si系合金ろう材にZnを添加して、チューブ材自身に犠牲防食効果を持たせることが考えられる。しかしながら、チューブ材同士の接合部にZnが濃縮し、このZn濃縮部が優先腐食を起こしてしまう問題が生じる。
【0024】
本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、このような問題点を特に有効に解決するためのものである。凝縮液の塩化物イオン濃度が500ppm以下で、なおかつ溶質濃度の合計値が10000ppm以下の場合には、フィンによる犠牲防食が有効に発揮されないので、本発明の効果が一層有効となる。なお、凝縮液の溶質濃度が10000ppm以下の場合であっても、その反対面が冷却水のような腐食環境でなければ、チューブ接合部の優先腐食が発生する可能性は低い。また、凝縮液の塩化物イオン濃度が5ppm以上の場合には、凝縮水が孔食誘起性を有するので、本発明の効果が一層有効となる。
【0025】
次に、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを構成するろう材、犠牲陽極材及び心材について説明する。
【0026】
2.ろう材
ろう材には、Si:2.5〜13.0mass%、Zn:0.5〜5.5mass%、Cu:0.1〜0.6mass%、Fe:0.05〜1.0mass%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
また、ろう材は、Mn:0.05〜1.8mass%、Ti:0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有してもよい。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していてもよい。以下に、各成分について説明する。
【0027】
2−1.Si
Siを添加することによりろう材の融点が低下して液相を生じさせ、これによってろう付を可能にする。Si含有量は2.5〜13.0mass%(以下、単に「%」と記す)である。2.5%未満では、生じる液相が僅かでありろう付が機能し難くなる。一方、13.0%を超えると、例えばフィンなどの相手材へ拡散するSi量が過剰となり、相手材の溶融が発生してしまう。Siの好ましい含有量は、3.5〜12.0%である。
【0028】
2−2.Zn
Znは孔食電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜5.5%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、5.5%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、0.5〜4.5%である。
【0029】
2−3.Cu
Cuは、孔食電位を貴に作用を有する。適切量のCuが添加された場合には、前述のようにチューブ接合部にZnが濃縮しても、Cuも同じく濃縮するために、接合部の孔食電位が卑になり過ぎることを防止することができる。Cuの添加量は0.1〜0.6%である。0.1%未満では接合部の孔食電位を貴化する効果が十分に得られない。一方、0.6%を超えると、犠牲防食層の孔食電位が貴になってしまい、犠牲防食効果を損失して耐食性が低下する。Cuの好ましい含有量は、0.1〜0.4%である。
【0030】
2−4.Fe
FeはAl−Fe系やAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し易いために、ろう付に有効となるSi量を低下させ、ろう付性の低下を招く。Fe含有量は、0.05〜1.0%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高を招く。一方、1.0%を超えると、上記作用によりろう付が不十分となる。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.5%である。
【0031】
2−5.Mn
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させてもよい。Mnの含有量は、0.05〜1.8%である。1.8%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させ、また犠牲陽極層の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、好ましくは0.05〜1.5%である。
【0032】
2−6.Ti
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。Ti含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0033】
2−7.Zr
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Zr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0034】
2−8.Cr
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Cr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0035】
2−9.V
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0036】
これらMn、Ti、Zr、Cr、Vは、ろう材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。
【0037】
3.犠牲陽極材
犠牲陽極材には、Zn:0.5〜6.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
また、犠牲陽極材は、Mn:0.05〜1.8mass%、Ti:0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有してもよい。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していてもよい。以下に、各成分について説明する。
【0038】
3−1.Zn
Znは孔食電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜6.0%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、6.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、1.0〜5.0%である。
【0039】
3−2.Si
Siは、Fe、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。また、ろう付時に心材から拡散してくるMgと反応してMgSi化合物を形成することで、強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えると犠牲陽極材の融点が低下して溶融してしまい、また、犠牲陽極材の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる。Siの好ましい含有量は、0.05〜1.2%である。
【0040】
3−3.Fe
Feは、Si、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.05〜1.5%以下である。
【0041】
3−4.Mn
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させてもよい。Mnの含有量は、0.05〜1.8%である。1.8%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させ、また犠牲陽極材の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分でない。Mnの好ましい含有量は、0.05〜1.5%である。
【0042】
3−5.Ti
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。Ti含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0043】
3−6.Zr
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Zr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0044】
3−7.Cr
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Cr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0045】
3−8.V
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0046】
これらMn、Ti、Zr、Cr及びVは、犠牲陽極材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。
【0047】
4.心材
心材には、Si:0.05〜1.2mass%、Fe:0.05〜1.0mass%、Cu:0.05〜1.2mass%、Mn:0.6〜1.8mass%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
また、心材は、Mg:0.05〜0.5mass%、Ti0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有してもよい。
更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していてもよい。
【0048】
本発明の心材に用いるアルミニウム合金は、JIS 3000系合金、例えばJIS 3003合金等のAl−Mn系合金が好適に用いられる。以下に、各成分について以下に説明する。
【0049】
4−1.Si
Siは、Mnと共にAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Si含有量は、0.05〜1.2%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.2%を超えると心材の融点が低下して溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.0%である。
【0050】
4−2.Fe
Feは、再結晶核となり得るサイズの金属間化合物を形成し易く、ろう付後の結晶粒径を粗大にしてろう材から心材へのろうの拡散を抑制する。Fe含有量は、0.05〜1.0%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.0%を超えるとろう付後の結晶粒径が微細となり、ろう拡散が生じるおそれがある。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.5%である。
【0051】
4−3.Cu
Cuは、固溶強化により強度を向上させる。Cu含有量は、0.05〜1.2%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.2%を超えると鋳造時におけるアルミニウム合金の割れ発生のおそれが高くなる。Cuの好ましい含有量は、0.3〜1.0%である。
【0052】
4−4.Mn
Mnは、Siと共にAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Mn含有量は、0.6〜1.8%である。0.6%未満では上記効果が不十分となり、1.8%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Mnの好ましい含有量は、0.8〜1.6%である。
【0053】
4−5.Mg
Mgは、MgSiの析出により強度を向上させるので含有させてもよい。Mg含有量は、0.05〜0.5%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.5%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、好ましくは0.15〜0.4%である。
【0054】
4−6.Ti
Tiは、固溶強化により強度を向上させるので含有させてもよい。Ti含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が不十分となる。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0055】
4−7.Zr
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Zr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0056】
4−8.Cr
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させてもよい。Cr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0057】
4−9.V
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させてもよい。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0058】
これらMg、Ti、Zr、Cr及びVは、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。
【0059】
5.ろう付加熱後の孔食電位
例えば図2のように成形されたチューブでは、ろう付加熱に供されることにより、溶融したろうでその接合部が満たされ、その後の冷却によりろうが凝固することによって接合される。ろう付後のチューブにおいて、周囲よりも孔食電位の卑な部位が存在すれば、その部位が優先的に腐食を起こす。このようなろう付後の状態において、犠牲陽極材表面の孔食電位が接合部のろう材における共晶組織の孔食電位と同一又はそれよりも卑であれば、犠牲陽極材表面が優先腐食するため接合部の優先腐食は発生しない。しかしながら、接合部のろう材における共晶組織の孔食電位が他の部位よりも卑であると接合部において優先腐食が発生し、これが流路形成部品の貫通孔となってしまう。なお、共晶組織の孔食電位は接合部においてもそれ以外の部位においても同じとなるが、接合部以外の共晶組織の孔食電位は、接合部の優先腐食に関与することは無い。
【0060】
一方、ろう付後のろう材に関しては、ろう材表面を心材よりも優先腐食させる、いわゆる犠牲陽極効果を持たせる必要がある。ろう付後におけるろう材表面と心材との孔食電位差が20mV以上である場合、この電位差による犠牲陽極効果が発揮されるため、ろう材側からの腐食による貫通孔の発生を防ぐことができる。ろう付後のろう材表面と心材との孔食電位差が20mV未満である場合、この電位差による犠牲陽極効果が十分でないため、ろう材側からの腐食により貫通孔が発生してしまう。ここで、ろう付後におけるろう材表面と心材との孔食電位差とは、ろう付後における心材の孔食電位からろう材表面の孔食電位を差し引いた値として定義される。
【0061】
以上のように、本発明に係るブレージングシートは、ろう付後の状態において、接合部のろう材における共晶組織と犠牲陽極材表面、ならびに、ろう材表面と心材が、それぞれ適切な孔食電位の関係を有している必要がある。本発明においては、Al−Si系合金ろう材にZnとCuの両方をそれぞれ適量添加することにより、前記孔食電位の関係を達成するものである。すなわち、ろう材にCuを添加することにより、ろう付後の接合部においてCuが濃縮しこの濃縮したCuが孔食電位を貴化させる効果を奏するため、Znの濃縮による孔食電位の卑化を打ち消すことができるものである。
【0062】
なお、ここでのろう付における条件については特に限定されるものではないが、通常はフッ化物系のフラックスを塗布した後、窒素雰囲気炉において600℃程度に加熱されることにより実施される。
【0063】
6.製造方法
本発明の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートの製造工程は、上記のアルミニウム合金心材、犠牲陽極材、Al−Si系合金ろう材をそれぞれ鋳造して鋳塊となす鋳造工程と;鋳塊した犠牲陽極材とAl−Si系合金ろう材をそれぞれ熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延した犠牲陽極材を心材用鋳塊の一方の面に重ね合わせ、熱間圧延したAl−Si系合金ろう材を心材用鋳塊の他方の面に重ね合わせて、これらを加熱して熱間圧延を行ってクラッド材とする熱間クラッド圧延工程と;得られたクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延の途中又は冷間圧延の後に焼鈍を行う焼鈍工程と;を備える。
【0064】
鋳造工程における条件に特に制限は無いが、通常は水冷式の半連続鋳造によって行われる。熱間圧延工程及び熱間クラッド圧延工程において、その加熱温度は通常は400〜560℃程度で行うのが好ましい。400℃未満では塑性加工性が乏しいため圧延時にコバ割れなどを生じる場合があり、また熱間クラッド圧延の場合は心材に対してろう材や犠牲陽極材の圧着が困難となり、正常に熱間圧延を行うことができない場合がある。一方、560℃より高温の場合には、加熱中にろう材が溶融してしまうおそれがある。
【0065】
焼鈍工程は圧延中の加工ひずみを低減させる目的で、通常は100〜560℃程度で行うのが好ましい。100℃未満ではその効果が十分でない場合があり、560℃を超えるとろう材が溶融してしまうおそれがある。なお、焼鈍工程にはバッチ式の炉を用いても、連続式の炉を用いても良い。また、焼鈍工程は冷間圧延工程の途中又は冷間圧延工程の後に少なくとも1回以上行われるものであるが、その実施回数に上限は無い。
【0066】
アルミニウム合金心材を鋳造して得られる鋳塊を、熱間クラッド圧延工程の前に均質化処理工程に供しても良い。均質化処理工程は、通常は450〜620℃で行うことが好ましい。温度が450℃未満ではその効果が十分でない場合があり、620℃を超えると心材鋳塊の溶融を生じてしまうおそれがある。
【0067】
本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートの厚さ、ろう材層や犠牲陽極材層のクラッド率には特に制限はないが、例えば自動車用熱交換器のチューブ材として使う場合には、通常、約0.6mm程度以下の薄肉ブレージングシートとすることができる。ただし、この範囲内の板厚に限定されるものではなく、0.6mm程度以上、5mm程度以下の比較的厚肉の材料として使用することも可能である。また、ろう材層や犠牲陽極材層のクラッド率は、通常は2〜30%程度である。
【0068】
7.自動車用熱交換器の流路形成部品
上述の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを用いて、自動車用熱交換器の流路形成部品、すなわち、チューブが製造される。例えば、図3に示すようなブレージングシートをB型断面形状に織り込んだものを、フラックスを塗布して600℃程度に加熱することによりろう付するものである。
【実施例】
【0069】
次に、本発明例と比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0070】
表1に示す合金組成を有するろう材合金、表2に示す合金組成を有する犠牲陽極材合金、表3に示す合金組成を有する心材合金をそれぞれDC鋳造により鋳造し、各々両面を面削して仕上げた。面削後の鋳塊厚さは、いずれも480mmとした。ろう材及び犠牲陽極材については、520℃で3時間の加熱工程に供した後、厚さ60mmまで熱間圧延した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
これらの合金を用い、心材合金の一方の面には表1のろう材を、他方の面には表2の犠牲陽極材を組み合わせた。ろう材及び犠牲陽極材クラッド率は、いずれも10%とした。これらの合わせ材を520℃で3時間の条件で加熱工程に供した後、熱間クラッド圧延工程にかけ、3.5mm厚さの3層クラッド材を作製した。この3層クラッド材に冷間圧延、400℃で5時間保持の中間焼鈍、ならびに、最終冷間圧延を施して、H1n調質の最終板厚0.3mmのブレージングシート試料を作製した。中間焼鈍後の冷間圧延率は、いずれも40%とした。以上の製造工程において問題が発生せず、0.3mmの最終板厚まで圧延できた場合は製造性を「○」とし、鋳造時や圧延時に割れが生じて0.3mmの最終板厚まで圧延できなかった場合は製造性を「×」として表4〜6に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
上記ブレージングシート試料を下記の各評価に供した結果を、表4に示す。なお、表4における製造性「×」のものについては試料を製造できなかったため、下記評価は行なうことができなかった。また、表4におけるろう付性「×」のものについては、評価不可能な項目があるため、その他の評価を省略した。
【0079】
(ろう付性の評価)
厚さ0.07mm、調質H14、合金成分は3003合金に1.0%のZnを添加したフィン材を用意し、これをコルゲート成形して熱交換器フィン材とした。このフィン材を上記ブレージングシート試料のろう材面に配置し、5%のフッ化物フラックス水溶液中に浸漬し、600℃で3分のろう付加熱に供して、ミニコア試料を作製した。このミニコア試料のフィン接合率が95%以上であり、かつ、ブレージングシート試料に溶融が生じていない場合をろう付性が合格(○)とし、フィン接合率が95%未満及び/又はブレージングシート試料に溶融が生じた場合をろう付性が不合格(×)とした。
【0080】
(ろう付後における引張強さの測定)
600℃で3分の熱処理(ろう付加熱に相当)を施したブレージングシート試料を、引張速度10mm/分、ゲージ長50mmの条件で、JIS Z2241に従って引張試験に供した。得られた応力−ひずみ曲線から引張強さを読み取った。その結果、引張強さが150MPa以上の場合を合格(○)とし、それ未満を不合格(×)とした。
【0081】
(孔食電位の測定)
上記ブレージングシート試料のろう材面と犠牲陽極材面を、図1に示すように重ね合わせ、重なっている部分には5%のフッ化物フラックス水溶液を塗布して乾燥させた。次いで、乾燥させたブレージングシート試料の全体をステンレス箔で覆い、これを600℃で3分のろう付加熱に供して合わせ試料を作製した。純水にNaClを溶解して5重量%のNaCl水溶液とし、これに酢酸を添加してpH3にした水溶液を調整した。
【0082】
この水溶液に前記合わせ試料を浸漬し、窒素ガスでバブリングしながら、ポテンショスタッドを用いて0〜−300mVまで電位を走査させて分極測定を行った。なお、測定対象部位はろう材表面、犠牲陽極材表面、接合部表面、心材表面であり、それぞれの測定において測定対象部位だけが露出するよう、絶縁樹脂を用いてマスキングを行った。心材の測定においては、NaOH溶液に浸漬して心材を露出させて測定を行った。このようにして得られたアノード分極曲線から孔食電位を読み取り、犠牲陽極材表面の孔食電位、接合部表面の孔食電位、ならびに、心材とろう材表面との孔食電位差を、表4に示す。なお、心材とろう材表面との孔食電位差とは、心材の孔食電位からろう材表面の孔食電位を差し引いた値である。
【0083】
(ろう材側耐食性)
ろう付性の評価にて用いたものと同じミニコア試料を用い、ブレージングシートの犠牲陽極材表面を絶縁樹脂でマスキングしてろう材面を試験面とし、JIS−H8502に基づいて1000時間のCASS試験に供した。その結果、ブレージングシートに腐食貫通の生じなかったものをCASSの耐食性合格(○)とし、生じたものをCASSの耐食性不合格(×)とした。
【0084】
更に、同様にマスキングしたミニコア試料をサイクル腐食試験機にて、噴霧2時間(噴霧量1〜2ml/80cm/h)、乾燥2時間(相対湿度20〜30%)、湿潤2時間(相対湿度95%以上)のサイクル腐食試験に供した。噴霧液はそれぞれ表7に示す成分の水溶液であり、試験槽内の温度は50℃、試験時間は3000時間とした。試験終了後、濃硝酸によって腐食生成物を除去し、犠牲陽極材面に発生した腐食孔の深さを焦点深度法により測定し、最大のものを腐食深さとした。水溶液A、B、C、Dでの評価において、腐食深さが100μm未満であった場合を優秀(◎)とし、腐食深さが100μ以上150μm未満であった場合を合格(○)とし、腐食深さが150μm以上であった場合を不合格(×)とした。
【0085】
【表7】
【0086】
(犠牲材側耐食性)
前記合せ試料のろう材側(図1のA側)を絶縁樹脂によってマスキングし、犠牲陽極材面を試験面とした。このような合せ試料を、Cl−500ppm、SO42−100ppm、Cu2+10ppmを含有する88℃の高温水中で8時間浸漬し、次いで室温で16時間放置する工程を1サイクルとするサイクル浸漬試験に3ヶ月間供した。その結果、ブレージングシートに腐食貫通の生じなかったものを一般部の耐食性合格(○)とし、生じたものを一般部の耐食性不合格(×)とした。また、接合部の剥がれが生じなかったものを接合部の耐食性合格(○)とし、腐食によって接合部の剥がれが生じたものを接合部の耐食性不合格(×)とした。
【0087】
本発明例1〜10、20〜25、31〜37では、本発明で規定する条件を満たしており、製造性、ろう付性、ろう付後の引張強さ及び耐食性のいずれも合格であった。
【0088】
これに対して、比較例11では、ろう材のSi成分が少な過ぎたためろう付性が不合格であった。
比較例12では、ろう材のSi成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
比較例13では、ろう材のCu成分が多過ぎたため心材とろう材表面との孔食電位差が小さ過ぎ、液Cおよび液Dによるろう材側での耐食性が不合格であった。
比較例14では、ろう材のCu成分が少な過ぎたため犠牲陽極材表面の孔食電位が接合部表面の孔食電位より貴となり、犠牲陽極材側の接合部の耐食性が不合格であった。
比較例15では、ろう材のZn成分が多過ぎたため犠牲陽極材表面の孔食電位が接合部表面の孔食電位より貴となり、犠牲陽極材側の接合部の耐食性が不合格であった。
比較例16では、ろう材のZn成分が多過ぎたため犠牲陽極材表面の孔食電位が接合部表面の孔食電位より貴となり、犠牲陽極材側の接合部の耐食性が不合格であった。
比較例17では、ろう材のZn成分が少な過ぎたため心材とろう材表面との孔食電位差が小さ過ぎ、液Cおよび液Dのろう材側での耐食性が不合格であった。
比較例18では、ろう材のFe成分が多過ぎたためろう付性が劣った。
比較例19では、ろう材のMn、Ti、Zr、Cr、V成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
比較例26では、犠牲陽極材のSi成分が多過ぎたため犠牲陽極材側の一般部の耐食性が不合格であった。
比較例27では、犠牲陽極材のFe成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
比較例28では、犠牲陽極材のMn、Ti、Zr、Cr、V成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
比較例29では、犠牲陽極材のZn成分が少な過ぎたため犠牲陽極材側の一般部の耐食性が不合格であった。
比較例30では、犠牲陽極材のZn成分が多過ぎたため犠牲陽極材側の一般部の耐食性が不合格であった。
比較例38では、心材のSi成分が少な過ぎたためろう付性が不合格であった。
比較例39では、心材のMg成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
比較例40では、心材のFe成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
比較例41では、心材のTi、Zr、Cr、V成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
比較例42では、心材のMn成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
比較例43では、心材のCu成分が多過ぎたため鋳造時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
比較例44では、心材のMn成分が少な過ぎたためろう付後の引張強さが不合格であった。
比較例45では、心材のCu成分が少な過ぎたためろう付後の引張強さが不合格であった。
比較例46では、心材のSi成分が少な過ぎたためろう付後の引張強さが不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明により、例えば、チューブの内外両面が腐食環境にあり、かつ、フィンとの接合面においてフィンによる犠牲防食が困難である熱交換器のチューブ材用アルミニウム合金ブレージングシートを提供できる。このような高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、チューブの内外両面に犠牲防食効果を備え、かつ、その片面にはろう付機能を有し、更にチューブ同士の優先腐食の発生を防止することが可能であり、フィン接合率、耐エロージョン性などのろう付性、軽量性、熱伝導性に優れる。更に、このような高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品も提供される。
図1
図2
図3