(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されるダンパの減衰力を調整可能な減衰力調整部に電流或いは電圧を与えて上記ダンパの減衰力を制御するダンパ制御装置において、
上記ばね上部材と上記ばね下部材の一方または両方の振動の大きさである振動レベルを検知する振動レベル検知部と、
上記ダンパのストローク速度であるダンパ速度を用いずに上記振動レベルをパラメータとして上記減衰力調整部へ与える電流値或いは電圧値を求める指令値演算部と
を備えたことを特徴とするダンパ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、ダンパ制御装置Eは、この例では、車両におけるばね上部材Bとばね下部材W1,W2,W3,W4との間にそれぞれ介装される四つのダンパD1,D2,D3,D4における減衰力を制御するようになっており、ばね上部材Bの振動の大きさである振動レベルrを検知する振動レベル検知部1と、上記振動レベルrをパラメータとして各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力調整部3へ与える電流値Iを求める指令値演算部2とを備えて構成され、各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力調整部3へ電流値I通りの電流を与えて各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力を制御するようになっている。
【0013】
以下、各部について説明する。最初に振動レベル検知部1について詳細に説明する。説明を簡単にするため、振動レベル検知部1における振動レベルの検知手法を原理的に説明する。まず、振動レベル検知部1で
図2に示した物体MをばねSで支承する系における物体Mの振動レベルを検知する場合について考える。
【0014】
物体Mの上下方向の振動レベルを検知する場合、振動レベル検知部1は、
図3に示すように、物体Mの上下方向の速度を得る第一参照値取得部4と、当該第一参照値取得部4で得た値を第一参照値aとして当該第一参照値aの微分値或いは積分値に相当する第二参照値bを得る第二参照値取得部5と、上記第一参照値aと上記第二参照値bとに基づいて振動レベルrを求める振動レベル演算部6とで構成される。
【0015】
物体Mは、
図2に示したように、ベースTに鉛直に取り付けたばねSによって図中下方から弾性支持されるばねマス系を構成しており、この場合、振動レベル検知部1は、物体Mの全体における
図2中上下方向の振動レベルを検知するようになっている。
【0016】
第一参照値取得部4は、たとえば、物体Mに取り付けられて物体Mの上下方向加速度を検出するセンサ部41と、センサ部41で検出した上下方向加速度を積分して物体Mの上下方向速度を得る積分器42とを備えて構成されている。このように、第一参照値取得部4は、第一参照値aとして物体Mの上下方向の速度を得るようになっている。
【0017】
次に、第二参照値取得部5は、第一参照値aの積分値に相当する物体Mの上下方向の変位を得るようになっており、第一参照値aを積分する積分器51を備えていて、第二参照値bとして物体Mの上下方向の変位を得る。なお、第二参照値取得部5が第一参照値aの微分値相当の値を得るように設定される場合、つまり、物体Mの上下方向の加速度を得るように設定される場合、第一参照値取得部4におけるセンサ部41から当該上下方向の加速度を得て、これを第二参照値bとしてもよいし、微分器を備えて第一参照値aを微分して第二参照値bを得るようにしてもよい。
【0018】
また、この実施の形態では、検知したい物体Mの振動レベルのうち任意の周波数帯の振動レベルを検知することができるよう第一参照値aと第二参照値bから検知したい周波数成分を抽出できるようになっている。具体的には、フィルタ7を備えていて、このフィルタ7で第一参照値aと第二参照値bを濾波することで第一参照値aと第二参照値bの検知したい周波数成分を得る。基本的には、物体MとばねSのばねマス系の固有振動数をフィルタ7で抽出する周波数とすると、物体Mのスペクトル密度の高い振動を抽出することができる。なお、フィルタ7は、特に評価したい周波数帯の振動を抽出でき物体Mの振動に重畳されるノイズなどを除去できるので有用であるが、たとえば、物体Mが単一の周期で振動するような場合には、省略することも可能である。
【0019】
ところで、物体Mの任意の周波数の振動は正弦波で表すことができる。また、物体Mの速度である第一参照値aの任意の周波数成分は正弦波で表すことができる。たとえば、第一参照値aの任意の周波数成分をsinωt(ωは角周波数、tは時間)で表す場合、これを積分すると−(1/ω)cosωtとなり、第一参照値aの振幅とこの積分値の振幅とを比較すると、積分値の振幅は第一参照値aのω分の1倍となる。
【0020】
したがって、第二参照値bが第一参照値aの積分値相当である場合には、フィルタ7で抽出する周波数に一致する角周波数ωを用いて、第一参照値aの積分値相当にω倍することで、第一参照値aと第二参照値bとの振幅を等しくすることができる。
【0021】
また、第二参照値bが第一参照値aの微分値相当である場合には、1/ω倍することで第一参照値aと第二参照値bとの振幅を等しくすることができる。このように、第一参照値aと第二参照値bの振幅を同じとするために、この振動レベル検知部1にあっては、補正部8を備えており、補正部8は、第二参照値bが第一参照値aの積分値相当である場合には、検知対象となる振動の角周波数ωを用いて、ω倍することで第二参照値bを補正し、第二参照値bが第一参照値aの微分値相当である場合には、1/ω倍することで第二参照値bを補正する。
【0022】
つづいて、振動レベル演算部6は、このように処理された第一参照値aと第二参照値bを
図3に示すように直交座標にとった際の第一参照値aと第二参照値bの合成ベクトルUの長さを演算し、これを振動レベルrとして求める。なお、合成ベクトルUの長さは、(a
2+b
2)
1/2で演算することができるが、ルート演算を省いて(a
2+b
2)、つまり、合成ベクトルUの長さの二乗の値を演算することで合成ベクトルUの長さを判断可能な値を求めてこれを振動レベルrとしてもよい。そうすることで、負荷の高いルート演算を回避することができ、演算時間を短縮することができる。また、直接に合成ベクトルUの長さとは一致しないものの、合成ベクトルUの長さをz乗(zは任意の値)した値や当該長さに任意の係数を乗じた値は、合成ベクトルUの長さを認識可能な値であって、このような値を振動レベルとしてもよいことは勿論である。すなわち、合成ベクトルUの長さを認識可能な値を振動レベルrとすればよい。
【0023】
ここで、ベースTを上下動させて物体Mに振動を与えたり、物体Mに変位を与えて解放したりして物体Mに振動を与えると、ばねSが伸縮してばねSの弾性エネルギと物体Mの運動エネルギとが交互に変換されるため、何ら外乱がない場合には、物体Mの中立位置からの変位が最大となる物体Mの速度が0となり、物体Mが中立位置にあるときに物体Mの速度が最大となる。なお、中立位置とは、物体MがばねSによって弾性支持され静止状態にあるときの位置である。
【0024】
そして、第一参照値aと第二参照値bとは、補正部8の補正によって、両者の振幅が等しくなり、第一参照値aと第二参照値bの位相は90度ずれているから、物体Mの振動が減衰せず同じ振動を繰り返す場合、第一参照値aと第二参照値bの理想的な軌跡は、
図4に示すように、円を描くことになり、振動レベルrがこの円の半径に等しいことが理解できよう。なお、実際には、フィルタ7の抽出精度や物体Mに作用する外乱、第一参照値aや第二参照値bに含まれるノイズによって、両者の振幅を完全一致させることができない場合もあるが、振動レベルrの値は、ほぼ上記した円の半径に等しくなる。
【0025】
このように、振動レベルrは、速度である第一参照値aが0でも、変位である第二参照値bの絶対値は最大値をとることになり、反対に、第二参照値bが0でも第一参照値aの絶対値は最大値をとり、物体Mの振動状況が変化しない場合には理想的には一定値をとる。つまり、振動レベルrは、物体Mがどの程度の振幅で振動しているかを示す指標となる値であり、振動の大きさを表している。そして、振動レベルrの算出に当たり、物体Mの一周期分の変位、速度、加速度のいずれかをサンプリングして波高を求める必要もなく、以上の手順から理解できるように、物体Mの変位と速度を得れば求めることができるから、タイムリーに求めることができる。すなわち、上記した振動レベル検知部1では、物体Mの振動の大きさをタイムリーかつリアルタイムに検知することが可能である。
【0026】
なお、第一参照値aと第二参照値bを物体Mの速度と加速度、加速度と加速度の変化率、変位と変位の積分値相当とし振動レベルrを求めてもよく、このように設定しても第一参照値aと第二参照値bの位相は互いに90度ずれており、検知したい振動の角周波数ωで補正することで、第一参照値aと第二参照値bを直交座標にとった時の軌跡は円となるから振動レベルrを求めれば、この振動レベルrが振動の大きさを表す指標となる。つまり、第一参照値aを物体Mの検知したい振動方向に一致する方向の変位、速度、加速度のうちいずれか一つとし、第二参照値bを第一参照値aの積分値相当或いは微分値相当の値とすれば振動レベルrを求めることができる。
【0027】
第一参照値aは、センサから直接得ずとも、センサ出力を微分や積分して得るようにしてもよい。また、第二参照値bは、検出器から直接得ることも可能であり、第一参照値aの微分値相当または積分値相当を第二参照値bとすればよいので、第二参照値bは、第一参照値aを微分或いは積分して得るのではなく検出器から直接得るようにしてもよい。
【0028】
また、第一参照値aの積分値相当を第二参照値bとする場合、第一参照値aの微分値相当を第三参照値cとし、振動レベル演算部6は、第一参照値aと第二参照値bとで上記手順によって上記振動レベルに相当する値を求めてこの値を第一振動レベルr1とし、第二参照値bの代わりに第三参照値cを使用して第一参照値aと第三参照値cとで上記手順によって上記振動レベルに相当する値を求めこの値を第二振動レベルr2とし、第一振動レベルr1と第二振動レベルr2とを加算して2で割ることで第一振動レベルr1と第二振動レベルr2の平均値を算出しこの平均値を振動レベルrとすることもできる。この場合、
図5に示すように、第三参照値cを求めるために、第三参照値取得部9を設けるようにすればよい。なお、第一参照値aの微分値相当を第二参照値bとする場合、第一参照値aの積分値相当を第三参照値cとすればよい。
【0029】
この場合、
図6に示すように、第一参照値aを横軸にとり、第二参照値bと第三参照値cを縦軸にとる直交座標を考えると、物体Mの振動周波数と、フィルタ7で抽出する周波数にずれが生じている場合、第一振動レベルr1が第一参照値aの最大値以上の値をとる場合、第一参照値aと第二参照値bの軌跡Jは
図6中破線で示す第一参照値aの最大値を半径した円Hより大きな楕円形となり、第二振動レベルr2は第一参照値aの最大値以下の値をとって、第一参照値aと第三参照値cの軌跡Kは円Hよりも小さな楕円となる。つまり、物体Mの振動周波数と検知したい振動周波数が一致しない場合、補正部8で補正する際に使用する角周波数ωと実際の角周波数ω’がずれているから、第一参照値aの積分値相当の第二参照値bを補正した際に第二参照値bの最大値は、第一参照値aの最大値のω/ω’倍となり、第一参照値aの微分値相当である第三参照値cの最大値は補正によって第一参照値aの最大値のω’/ω倍となる。このように、第一振動レベルr1が第一参照値aより大きな値をとる場合、その分、第二振動レベルr2は第一参照値aよりも小さな値をとるから、これらを平均して振動レベルrを求めると、振動レベルrの変動が緩和されるため、物体Mの振動周波数と検知したい振動周波数とが一致しなくとも、安定した振動レベルrを求めることができ、振動レベルrの検知結果が良好なものとなる。また、このように振動レベルrの変動の緩和を行っても、振動レベルrにうねりが生じる場合には、振動レベルrに物体Mの振動周波数の2倍の周波数成分のノイズが重畳することが分かっているため、この重畳されるノイズを取り除くフィルタを設けて振動レベルrを濾波するようにしてもよい。また、この場合、第一参照値aに対して積分値相当と微分値相当を第二参照値bと第三参照値cとして振動レベルrを求めたが、たとえば、変位を第一参照値aとし、速度を第二参照値bとして振動レベルrを求めることに加えて、加速度を第一参照値aとして加速度の変化率を第二参照値bとして別途振動レベルrを求め、変位と速度から得た振動レベルrと、加速度と加速度の変化率から得た振動レベルrの平均値を最終的な振動レベルとして求めるといったように、異なる第一参照値と第二参照値とで得た複数の振動レベルから最終的な振動レベルを得ることも可能である。
【0030】
つづいて、振動レベル検知部1を車両に適用して、具体的に、車両におけるばね上部材Bの振動レベルを検知する形態について説明する。
図1に示すように、この例では、車両が四つの車輪を備えていて、車両におけるばね上部材Bは、四つの懸架ばねS1,S2,S3,S4と四つのばね下部材W1,W2,W3,W4によって支持されている。また、説明の都合上、ばね上部材Bのそれぞれ懸架ばねS1,S2,S3,S4に支持される四つの部位を部位B1,B2,B3,B4とする。なお、ばね下部材W1,W2,W3,W4は、車体であるばね上部材Bに揺動可能に取り付けられた車輪とリンクを含んでいる。
【0031】
懸架ばねS1は、ばね上部材Bとばね下部材W1との間に介装され、他の懸架ばねS2,S3,S4もそれぞれ同様にばね上部材Bとばね下部材W2,W3,W4との間に並列に介装されている。また、この懸架ばねS1、S2,S3,S4の各々に減衰力を発揮するダンパD1,D2,D3,D4が並列されていて、これらダンパD1、D2,D3,D4は、ばね上部材Bとばね下部材W1,W2,W3,W4との間に介装されている。
【0032】
以下、各部材について詳細に説明すると、各ダンパD1,D2,D3,D4は、詳しくは図示しないが、たとえば、シリンダCと、シリンダC内に摺動自在に挿入されるピストンと、シリンダC内に移動自在に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドRと、シリンダC内にピストンで区画した二つの圧力室と、圧力室同士を連通する通路と、通路を通過する流体の流れに抵抗を与える減衰力調整部3とを備えて構成される流体圧ダンパとされている。そして、この各ダンパD1,D2,D3,D4は、伸縮作動に応じて圧力室内に充填された流体が通路を通過する際に減衰バルブにて抵抗を与えて当該伸縮作動を抑制する減衰力を発揮し、ばね上部材とばね下部材の相対移動を抑制するようになっている。
【0033】
なお、流体には、作動油のほか、水、水溶液、気体を利用することができる。流体が液体であって、各ダンパD1,D2,D3,D4が片ロッド型ダンパである場合、各ダンパD1,D2,D3,D4は、シリンダC内にピストンロッドRが出入りする体積を補償するために気体室やリザーバを備えるが、流体が気体である場合、気体室やリザーバを備えずともよい。
【0034】
また、ダンパD1,D2,D3,D4がリザーバを備えて伸長しても収縮してもシリンダ内からリザーバへ通じる通路を介して流体が排出されるユニフロー型に設定される場合、シリンダからリザーバへ通じる通路の途中に減衰力調整部3を設けて、流体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮するようにしてもよい。
【0035】
減衰力調整部3は、たとえば、上記ダンパD1,D2,D3,D4の図示しない通路の流路面積を可変にする減衰弁と、当該弁体を駆動して上記通路の流路面積を調節することができるソレノイドやアクチュエータとで構成されていて、当該ソレノイドやアクチュエータへ与える電流量を増減させることで上記通路の流路面積を調整でき、通路を流れる流体に与える抵抗を変化させてダンパD1,D2,D3,D4が発生する減衰力を調整可能となっており、この場合、各ダンパD1,D2,D3,D4のピストン速度が変わらなければ減衰力調整部3へ与える電流量を大きくすると減衰力も大きくなるようになっている。つまり、減衰力調整部3は減衰係数を調整してダンパD1,D2,D3,D4が発生する減衰力を調整する。減衰力調整部3は、図が複雑となるため、
図1に示したところでは、各ダンパD1,D2,D3,D4外へ記載されているが、各ダンパD1,D2,D3,D4に内蔵されている。
【0036】
なお、減衰力調整部3の上記した構成は、一例であって、たとえば、ダンパD1,D2,D3,D4が電気粘性流体や磁気粘性流体を圧力室内に充填している場合、上記通路に減衰弁の代わりに電界或いは磁界を作用させることができる装置を組み込み、これを減衰力調整部3とし、ダンパ制御装置Eから与えられる電流によって電界或いは磁界の大きさを調整して、通路を流れる流体に与える抵抗を変化させることでダンパD1,D2,D3,D4の発生減衰力を可変にしてもよい。また、ダンパD1,D2,D3,D4が電気粘性流体を利用する場合、通路に与える電界の大きさによって減衰係数を調節するので、減衰力調整部3に与える電圧を増減することで制御することになるため、指令値演算部2は減衰力調整部3へ与える電圧値を求めるようにすればよい。
【0037】
さらに、ダンパD1,D2,D3,D4は、上記以外にも、電磁力でばね上部材とばね下部材の相対移動を抑制する減衰力を発揮する電磁ダンパとされてもよく、電磁ダンパとしては、たとえば、モータと、モータの回転運動を直線運動に変換する運動変換機構とを備えて構成されるか、リニアモータとされる。このようにダンパD1,D2,D3,D4が電磁ダンパである場合には、減衰力調整部3は上記モータ或いはリニアモータに流れる電流を調節するモータ駆動装置とされればよい。
【0038】
対して、振動レベル検知部1は、
図7に示すように、ばね上部材Bの上下方向の速度であるバウンス速度Vb、ローリング方向の速度であるロール速度Vrおよびピッチング方向の速度であるピッチング速度Vpを得る第一参照値取得部4と、当該第一参照値取得部4で得た値を第一参照値として当該第一参照値の微分値に相当する第二参照値を得る第二参照値取得部5と、第一参照値と第二参照値からばね上部材の共振周波数成分を抽出するフィルタ7と、補正部8と、振動レベルを求める振動レベル演算部6とを備えている。
【0039】
まず、第一参照値取得部4は、
図7に示すように、センサ部としての加速度センサG1,G2,G3と、ロール速度演算部43と、ピッチング速度演算部44と、バウンス速度演算部45とを備えている。加速度センサG1,G2,G3は、ばね上部材Bの上下方向の加速度を検出するものであって、図示しない車体の同一水平面上の同一直線上にない任意の3箇所に設置されている。
【0040】
そして、この加速度センサG1,G2,G3は、検出した車体の上下方向の加速度α
1,α
2,α
3に応じた電圧信号をロール速度演算部43、ピッチング速度演算部22およびバウンス速度演算部45に出力し、ロール速度演算部43、ピッチング速度演算部44およびバウンス速度演算部45は、上記加速度センサG1,G2,G3の信号を処理して、車体ばね上部材Bのバウンス速度Vb、ロール速度Vrおよびピッチング速度Vpを演算できるようになっている。なお、加速度α
1,α
2,α
3の符号の取り方は、上向きを正としてある。
【0041】
具体的には、ロール速度演算部43は、加速度α
1,α
2,α
3からばね上部材Bのローリング方向の加速度α
r、つまり、角加速度を得て、これを積分してロール速度Vrを求め、これをローリング方向の振動レベルrrを得るための第一参照値arとする。ロール速度Vrは、車体であるばね上部材Bの重心におけるローリング方向の角速度である。
【0042】
ピッチング速度演算部44は、加速度α
1,α
2,α
3からばね上部材Bのピッチング方向の加速度α
p、つまり、角加速度を得て、これを積分してピッチング速度Vpを求め、これをピッチング方向の振動レベルrpを得るための第一参照値apとする。ピッチング速度Vpは、車体であるばね上部材Bの重心におけるピッチング方向の角速度である。
【0043】
バウンス速度演算部45は、加速度α
1,α
2,α
3からばね上部材Bのバウンス方向の加速度α
bを得て、これを積分してバウンス速度Vbを求め、これをバウンス方向の振動レベルrbを得るための第一参照値abとする。バウンス速度Vbは、車体であるばね上部材Bの重心における上下方向の速度である。
【0044】
ロール加速度α
r、ピッチング方向の加速度α
pおよびバウンス加速度α
bは、具体的には、加速度α
1,α
2,α
3と各加速度センサG1,G2,G3の設置位置、車体の重心位置から求めることができる。
【0045】
すなわち、車体であるばね上部材Bを剛体と見なして、ばね上部材Bの同一水平面上の同一直線上にない任意の3箇所の上下方向の加速度α
1,α
2,α
3を得れば、各ばね上部材Bの任意の位置におけるロール速度Vr、ピッチング速度Vpおよびバウンス速度Vbは一義的に決まるのであり、変位および加速度についても同様に求めることができる。また、このように、物体の振動が回転方向の振動レベルを求める場合には、第一参照値を物体の回転方向の変位である回転角、回転方向の速度である角速度、回転方向の加速度である角加速度としてもよい。そして、車両における車体のローリング方向、ピッチング方向およびバウンス方向の振動を抑制する制御をする場合、一般的には、車体の重心位置における各方向の振動を評価して、制御することが多いので、この例においても車体の重心位置におけるローリング方向の振動レベルrr、ピッチング方向の振動レベルrp、およびバウンス方向の振動レベルrbを求めるようにしている。
【0046】
第二参照値取得部3は、ロール速度Vrである第一参照値arを微分することで、ばね上部材Bのローリング方向の加速度に相当する第二参照値brを求め、ピッチング速度Vpである第一参照値apを微分することで、ばね上部材Bのピッチング方向の加速度に相当する第二参照値bpを求め、さらに、バウンス速度Vbを微分することでバウンス方向の加速度に相当する第二参照値bbを求める。なお、この場合、各第二参照値br,bp,bbは、第一参照値ar,ap,abの微分値相当であって、ロール速度Vr、ピッチング速度Vp、バウンス速度Vbを求める際に第二参照値br,bp,bbに相当する値を算出しているので、これを第二参照値bとしてもよい。フィルタ7は、ローリング方向の第一参照値ar、ローリング方向の第二参照値br、ピッチング方向の第一参照値ap、ピッチング方向の第二参照値bp、さらには、バウンス方向の第一参照値ab、バウンス方向の第二参照値bbをフィルタ処理して、ばね上部材Bの共振周波数の成分を抽出する。
【0047】
また、ローリングの第二参照値br、ピッチング方向の第二参照値bpおよびバウンス方向の第二参照値bbは、補正部8にてばね上部材Bの共振周波数に一致する角周波数ωを用いて補正される。
【0048】
振動レベル演算部4は、ローリング方向の第一参照値arと補正後のローリング方向の第二参照値brとから上記した物体Mの振動レベルrを求めた演算方法を用いることで、ばね上部材Bにおけるローリング方向の振動レベルrrを求める。
【0049】
また、振動レベル演算部6は、同様にして、ピッチング方向の第一参照値apと補正後のピッチング方向の第二参照値bpとから上記した演算方法を用いることで、ばね上部材Bにおけるピッチング方向の振動レベルrpを求める。
【0050】
さらに、振動レベル演算部6は、同様にして、バウンス方向の第一参照値abと補正後のバウンス方向の第二参照値bbとから上記した演算方法を用いることで、ばね上部材Bにおけるバウンス方向の振動レベルrbを求める。
【0051】
最後に、ローリング方向の振動レベルrrとピッチング方向の振動レベルrpとバウンス方向の振動レベルrbを加算して、ばね上部材Bの振動レベルrを求める。ローリング方向の振動レベルrrとピッチング方向の振動レベルrpについては、ばね上部材Bの重心位置とにおける回転方向の振動レベルであり、この場合、ばね上部材Bの全体の振動レベルを求めるため、ローリング方向の振動レベルrrについては、ばね上部材Bの重心位置と各部位B1,B2,B3,B4の横方向距離の平均値を乗じて部位B1,B2,B3,B4でのロール振動レベル平均値を算出し、ピッチング方向の振動レベルrpについては、ばね上部材Bの重心位置と各B1,B2,B3,B4の前後方向距離の平均値を乗じて部位B1,B2,B3,B4でのピッチング振動レベル平均値を算出したうえで、これら平均値をバウンス方向の振動レベルrbに加算することで振動レベルrを求めることになる。なお、ここで横方向距離の平均値は、前輪トレッド幅の半分の値と後輪トレッド幅の半分の値を平均した値であるが、これらが大きく異なっていない場合は、いずれか一方の値を採用してもよい。また、前後方向距離の平均値は、前輪位置と重心位置の前後方向距離と、後輪位置と重心位置の前後方向距離を平均した値であるが、こちらに関してもこれらの値が大きく異なっていない場合には、いずれか一方の値を採用してもよい。また、各輪の各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力を独立に制御するような場合、各部位B1,B2,B3,B4の位置での振動レベルを算出する必要がある。このような場合、各加速度センサG1,G2,G3の設置位置と各部位B1,B2,B3,B4の位置関係により座標変換することで、各部位B1,B2,B3,B4の上下方向加速度を算出することができるから、単に、各部位B1,B2,B3,B4の上下方向振動の振動レベルを求めるようにすればよい。
【0052】
指令値演算部2は、この例では減衰力調整部3が供給される電流量によってダンパD1,D2,D3,D4の減衰係数を調整するので、上記のようにして求められた振動レベルrから減衰力調整部3へ与える電流値Iを求め、当該減衰力調整部3へ電流を出力する。具体的には、指令値演算部2は、
図8に示すように、振動レベルrをパラメータとして変化する電流値Iのマップを保有しており、このマップを利用したマップ演算を行って電流値Iを求め、この電流値I通りの電流を減衰力調整部3へ出力する。なお、マップ演算以外の演算を行って電流値Iを求めてもよく、また、減衰力調整部3が電圧の増減によって減衰係数を調整する場合には、指令値演算部2は電圧値を求めればよい。
【0053】
各ダンパD1,D2,D3,D4における減衰力調整部3は、電流値I通りの電流量の供給を受けて各ダンパD1,D2,D3,D4における減衰係数を調整する。そして、各ダンパD1,D2,D3,D4は、その時のダンパ速度に応じて減衰力を発揮することになり、ダンパ制御装置Eによって各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力が制御される。振動レベル検知部1は、振動レベルrをタイムリーかつリアルタイムに検知することができるので、物体の振動に対する振動レベルrの検知が時間的に遅れが少ないから、車両振動抑制制御への使用に十分に耐えうる。
【0054】
なお、この場合、指令値演算部2が各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力調整部3へ供給する電流量は等しいものとして説明しているが、各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力を各部位B1、B2,B3,B4に適したものとするため各ダンパD1,D2,D3,D4毎に異なったマップを使用して電流値Iを算出するようにしてもよい。
【0055】
また、この実施の形態の場合、各ダンパD1,D2,D3,D4における減衰力調整部3は、与えられる電流量が大きければ大きいほど、各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰特性における減衰係数を大きくするように設定されているので、
図8に示すマップは、振動レベルrが大きくなると電流値Iを振動レベルrの値に応じて比例的に大きくするようになっているが、各ダンパD1,D2,D3,D4における減衰力調整部3の設定に応じて振動レベルrに対して電流値Iが非線形に変化するものであってもよい。なお、マップ上で振動レベルrがある値を超えて大きくなると、電流値Iが一定値をとるようになっているが、これは電流値Iの供給上限であり、別途、リミッタを設けて電流値Iをクランプする場合にはマップ上で電流値Iの上限を考慮しなくともよい。
【0056】
また、減衰力調整部3がフェールセーフのために、電流の供給が0である場合にある程度の減衰力を発揮させるべく、たとえば、実際に与えられる電流量と減衰係数との関係が、
図9のように、供給電流量0である場合に減衰係数が最小値でない値をとり、供給電流量がi1をとるときに減衰係数が最小値となり、供給電流量がi1を超えるとこの電流量がi1を超えた量に比例して減衰係数が大きくなるような設定となっている場合には振動レベルrが0の時に電流値Iがi1をとり、振動レベルrの増加によって電流値Iがi1から増加するような切片を持つマップとされてもよい。また、減衰力調整部3が電流量が大きくなると減衰係数を減少させる場合には、振動レベルrの増加に伴って電流値Iが減少するようなマップとすることも可能である。つまり、マップは、減衰力調整部3の設定に応じて任意に設定することができる。
【0057】
なお、ダンパ制御装置Eは、この実施の形態の場合、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、センサ部が出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、振動レベル検知と電流値Iの演算に必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、上記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、CPUが上記プログラムを実行することで、振動レベル検知部1および指令値演算部2の動作を実現すればよい。
【0058】
上記したところから理解できるように、本発明のダンパ制御装置Eは、振動の大きさである振動レベルrを求めて、振動レベルrを用いて各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力を制御するので、効果的に振動を抑制することができる。つまり、単純に、ばね上部材Bの速度のみを検知して振動を制御しようとする場合には、振動速度が0となる場合に制御装置で演算される減衰力が小さくなって振動抑制に必要な力が不足してしまう問題があるが、振動レベルrを用いて制御することで振動の大きさを把握することができ、振動レベルrが大きくなればそれに応じた減衰力を大きくする制御を実施でき効果的に振動を抑制することができるのである。
【0059】
また、本発明のダンパ制御装置Eは、振動レベルrを求めて、この振動レベルrから各ダンパD1,D2,D3,D4のダンパ速度を用いることなく各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力調整部3へ与える電流量に相当する電流値Iを得ているので、ダンパ速度が低いが振動レベルが大きく電流値を大きく設定しなければならない場合にあっても、電流ループの発振を防止でき、車両における乗り心地を良好に保つことが可能である。
【0060】
なお、この本発明の制御は、たとえば、スカイフック制御と併用するようにして、上記したように制御上の発振するモードが生じた場合に本制御を実施するようなことも可能である。
【0061】
また、車両におけるばね上部材Bにおける振動レベルrを求めるに際して、ばね上部材Bのローリング方向の第一参照値arと、ピッチング方向の第一参照値apとバウンス方向の第一参照値abに分けて求めるようにしているので、車体であるばね上部材Bのローリング方向の振動を抑制する制御には、ローリング方向の振動レベルrrを用い、ばね上部材Bのピッチング方向の振動を抑制する制御には、ピッチング方向の振動レベルrpを用い、ばね上部材Bのバウンス方向の振動を抑制する制御には、バウンス方向の振動レベルrbを用いるといったことが可能となり、ばね上部材Bの振動モード(ローリング、ピッチングおよびバウンス)毎に電流値Iを求めるようにして、三つの電流値Iのうち最も減衰力を大きくする電流値Iを採用するなどして減衰力調整部3へ電流を供給することもできる。なお、振動レベルrr,rp,rb,rの全てを検知してもよいし、これらの中から検知したい振動レベルに限り検知するようにしてもよい。
【0062】
さらに、車両が旋回中であったり、坂道やバンクした道路を走行したりする場合、ばね上部材Bの変位には遠心力や重力の影響でドリフト成分が重畳されるため、上記したように、第一参照値と第二参照値にばね上部材Bの速度と加速度を選ぶことでドリフト成分の影響を軽減することができ、精度よくばね上部材Bの振動レベルrr,rp,rb,rを検知することができる。なお、このようなドリフト成分の影響を軽減するには、第一参照値と第二参照値にばね上部材Bの加速度と加速度変化率を選ぶようにしてもよい。
【0063】
また、ばね上部材Bの振動レベルrを得る場合にあっても、ローリング方向、ピッチング方向およびバウンス方向の第三参照値を取得し、まず、ローリング、ピッチングおよびバウンスにおいて第一振動レベルと第二振動レベルを演算してから最終的な振動レベルを求めるようにしてもよいことは当然であり、その際に、第一参照値、第二参照値および第三参照値に変位以外を選択することで上記したようにドリフト成分の影響を軽減でき、精度良く振動レベルを求めることができる。
【0064】
なお、ばね上部材Bのそれぞれの部位B1,B2,B3,B4の上下方向の振動レベルrを直接検知することも可能である。つまり、これらの部位B1,B2,B3,B4の上下方向の変位、速度、加速度のいずれかを第一参照値aとして取得し、上記手順で振動レベルを求めることも可能である。このようにして求めた各部位B1,B2,B3,B4における振動レベルrは、各部位B1,B2,B3,B4における振動の大きさを示しており、これによって各部位B1,B2,B3,B4の振動の大きさを検知することができ、各部位B1,B2,B3,B4の振動レベルrから四つの電流値Iを求め、これら電流値Iに等しい電流量の電流を対応する各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力調整部3へ与えるようにしてもよい。
【0065】
また、ばね下部材W1,W2,W3,W4の振動レベルrを検知するには、たとえば、
図1に示すように、ダンパD1,D2,D3,D4にストロークセンサL1,L2,L3,L4を設けて、ストロークセンサL1,L2,L3,L4で検出したシリンダCとピストンロッドRとの相対変位や、これを微分して得られる相対速度、さらには、相対速度を微分して得られる相対加速度を第一参照値aとし、この第一参照値aに含まれるばね下部材W1,W2,W3,W4の共振周波数に一致する成分をフィルタ7で抽出することで、ばね下部材W1,W2,W3,W4の上下方向の変位、速度、加速度のいずれかを得ることができる。また、ばね下部材W1,W2,W3,W4にセンサを取り付けて、直接にばね下部材W1,W2,W3,W4の上下方向加速度を検出し、この上下加速度を用いて第一参照値を求めるようにしてもよい。
【0066】
ばね下部材W1,W2,W3,W4の振動レベルrを検知するに際して、第三参照値を取得し、まず、第一振動レベルと第二振動レベルを演算してから最終的な振動レベルを求めるようにしてもよいことは当然である。
【0067】
そして、ダンパ制御装置Eでばね下部材W1,W2,W3,W4の振動を抑制したい場合には、ばね下部材W1,W2,W3,W4の振動レベルrから各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力調整部3へ与える電流量である電流値Iを求めて、各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力を制御してばね下部材W1,W2,W3,W4の振動を抑制することも可能である。このばね下部材W1,W2,W3,W4の振動を抑制する制御は、ばね上部材Bの振動を抑制する制御と併用することも可能であるし、他の制御、たとえば、スカイフック制御等と併用することも当然に可能である。ばね上部材Bとばね下部材W1,W2,W3,W4の振動を抑制する場合、たとえば、ばね上部材Bの振動レベルrからこのばね上部材Bの振動を抑制するための電流値Iを求め、ばね下部材W1,W2,W3,W4の振動レベルrからこのばね下部材W1,W2,W3,W4の振動を抑制するための電流値Iを求め、各ダンパD1,D2,D3,D4へ与えるべき電流量をばね上部材側の電流値Iとばね下側部材側の電流値Iのうち減衰力を大きくする方を採用して各減衰力調整部3へ電流を供給するようにすればよい。また、ばね上部材Bの振動レベルrをばね上部材Bの全モードの振動レベルrr,rp,rbから求めるのではなく、ばね上部材Bの各部位B1,B2,B3,B4の上下方向の振動のみに着目して各部位B1,B2,B3,B4の振動レベルrを個別に求めて電流値Iを求め、このようにして求めた電流値Iとばね下部材W1,W2,W3,W4の振動レベルrから求めた電流値Iと比較して減衰力が大きくなる方の電流値Iを採用するようにしてもよい。
【0068】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。