(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の従来技術では、固体のスパッタリングターゲット、具体的には6インチ径グラファイト、が出発原料とされるため、カーボンオニオン膜の表面にドロップレットが発生する。この結果、カーボンオニオン膜の表面が荒れて(その表面粗さ(最高高さ)は少なくとも数百nm以上になるものと推察される)、当該カーボンオニオン膜本来の性能である低摩擦特性が損なわれてしまう。言い換えれば、低摩擦特性という本来の性能を十分に発揮し得る言わば真のカーボンオニオン膜を作製することができない。
【0005】
そこで、本発明は、真のカーボンオニオン膜を作製することができる新規な方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明は、真空槽内において被処理物の表面に炭素原子ビームを照射することにより当該被処理物の表面にカーボンオニオン膜を作製する方法を採用する。ここで、炭素原子ビームは、レーザデトネーション法(別名:レーザ駆動デトネーション法)によって生成される。具体的には、当該レーザデトネーション法は、真空槽内にノズルを介して原料ガスとしての炭化水素系ガスを一定の周期で間欠的に導入する原料ガス導入過程と、この真空槽内への原料ガスの導入タイミングに同期してノズルのガス噴射口に向けてレーザ光を間欠的に照射することで当該原料ガスの粒子(分子)を原子状に解離して炭素原子ビームを生成するレーザ照射過程と、を含む。このときの真空槽内の圧力は、10
−5Pa〜10
−3Paである。そして、真空槽内への原料ガスの導入周期は、0.1s〜1sである。これと同様に、レーザ光の照射周期もまた、0.1s〜1sである。さらに、レーザ光の1回当たりの照射エネルギ(単発エネルギ)は、4J〜10Jである。
【0007】
このような炭素原子ビームを利用する本発明によれば、真のカーボンオニオン膜を作製し得ることが、このたび確認された。即ち、本発明によれば、気体である原料ガスが出発原料とされるので、固体のスパッタリングターゲットが出発原料とされる上述の従来技術とは異なり、被膜の表面にドロップレットが発生することはない。そして、当該被膜として、表面粗さが10nm以下、摩擦係数が0.1程度の、極めて平滑なカーボンオニオン膜が作製されることが、後述する如く確認された。
【0008】
なお、真空槽内の圧力が10
−5Pa〜10
−3Paとされるのは、次の理由による。即ち、真空槽内の圧力が例えば高いほど、炭素原子ビームが真空槽内の残留ガスの粒子と衝突する頻度が増大して、当該炭素原子ビームのエネルギが失われ、これにより成膜速度が低下し、極端にはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、真空槽内の圧力が低いほど、当該真空槽内の排気に要する時間が長くなり、生産性が低下する。これらの兼ね合いから、真空槽内の圧力は10
−5Pa〜10
−3Paとされる。
【0009】
そして、原料ガスの導入周期が0.1s〜1sとされ、これに同期してレーザ光の照射周期もまた0.1s〜1sとされるのは、次の理由による。即ち、レーザデトネーション法においては、レーザ光の照射によって原料ガスの粒子が原子状に解離されるが、それには、比較的に大きなエネルギを持つ当該レーザ光の照射が必要とされる。本発明では、レーザ光が間欠的に照射されることによって、当該レーザ光のエネルギの増大が図られ、結果的に当該レーザ光のエネルギがレーザデトネーション法で必要とされる程度にまで増大される。そして、このレーザ光の間欠照射に合わせて、原料ガスもまた間欠的に導入される。ここで例えば、これら原料ガスの導入周期およびレーザ光の照射周期が長いほど、炭素原子ビームの生成間隔が長くなるため、成膜速度が低下する。一方、当該周期が短いほど、原料ガスの導入タイミングとレーザ光の照射タイミングとの整合が困難になり、極端には当該レーザ光の照射による原料ガス粒子の解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。これらの兼ね合いから、当該周期は0.1s〜1sとされる。
【0010】
さらに、レーザ光の1回当たりの照射エネルギが4J〜10Jとされるのは、次の理由による。即ち、レーザ光の照射による原料ガス粒子の解離が十分に成され、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されるには、当該レーザ光の1回当たりの照射エネルギが少なくとも4J以上とされる必要があることが、このたび確認された。一方、レーザ光の1回当たりの照射エネルギが10Jを超える範囲では、原料ガス粒子の解離具合を含め特段な差異がないことも、確認された。これらの兼ね合いから、レーザ光の1回当たりの照射エネルギは4J〜10Jとされる。
【0011】
本発明におけるレーザ光としては、例えば炭酸ガスレーザ装置を発生源とするいわゆるCO
2レーザ光が適当である。勿論、これ以外の種類のレーザ光が採用されてもよいが、特に(発生源の)コストパフォーマンスの面で当該CO
2レーザ光が最も好適である。
【0012】
また、原料ガスとしては、メタン(CH
4)ガスが適当である。このメタンガス以外の炭化水素系ガスとして、アセチレン(C
2H
2)ガスやベンゼン(C
6H
6)ガス等があるが、例えばアセチレンガスはレーザ光の照射(レーザファイア)時に引火の恐れがあり、ベンゼンガスは毒性(発癌性)を有するので、そのような重大な危険性のないメタンガスが最も好適である。
【0013】
加えて、原料ガスの導入タイミングと、レーザ光の照射タイミングとは、次のような関係とされるのが好ましい。即ち、原料ガスの1回当たりの導入が開始されてから所定の遅延期間が経過した時点で、レーザ光の1回当たりの照射が開始される。ここで、原料ガスの1回当たりの導入期間は、上述した当該原料ガスの導入周期に応じて、例えば100μs〜1000μsとされる。そして、レーザ光の1回当たりの照射期間は、原料ガスの1回当たりの導入期間に応じて、例えば0.1μs〜20μsとされる。さらに、遅延期間は、これら原料ガスの1回当たりの導入期間およびレーザ光の1回当たりの照射期間に応じて、例えば100μs〜400μsとされる。このようなタイミング関係とされることによって、真のカーボンオニオン膜が確実に作製されることが、確認された。また、各期間が適宜に変えられることによって、カーボンオニオン膜の性状が詳細に制御されることも、確認された。
【0014】
なお、原料ガスの1回当たりの導入期間が100μs〜1000μsとされるのは、次の理由による。即ち、原料ガスの1回当たりの導入期間は、当該原料ガスの1回当たりの導入量に相関(比例)する。従って例えば、原料ガスの1回当たりの導入期間が短いほど、当該原料ガスの1回当たりの導入量が少なく、そのために成膜速度が低下し、極端にはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、原料ガスの1回当たりの導入期間が長いほど、当該原料ガスの1回当たりの導入量が多く、極端にはレーザ光の照射による当該原料ガスの解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。これらの兼ね合いから、原料ガスの1回当たりの導入期間は100μs〜1000μsとされる。なお、この100μs〜1000μsという原料ガスの1回当たりの導入期間によれば、当該原料ガスの1回当たりの導入量は重量換算値で概ね10
−5g〜10
−4gとされ、体積換算値で概ね0.1mL〜1mLとされる。言い換えれば、そうなるように原料ガスの導入圧力が設定されている。
【0015】
そして、レーザ光の1回当たりの照射期間が0.1μs〜20μsとされるのは、次の理由による。即ち、レーザ光の1回当たりの照射期間が例えば短いほど、当該レーザ光の1回当たりの照射エネルギが小さく、極端には原料ガスが十分に解離されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、レーザ光の1回当たりの照射期間が長いほど、当該レーザ光の1回当たりの照射エネルギが大きいので、原料ガスの解離には好都合であるが、当該レーザ光の1回当たりの照射期間が20μsを超える範囲では、原料ガス粒子の解離具合を含め特段な差異がないことが、確認された。これらの兼ね合いから、レーザ光の1回当たりの照射期間は0.1μs〜20μsとされる。
【0016】
さらに、遅延期間が100μs〜400μsとされるのは、次の理由による。即ち、遅延期間は、原料ガスの1回当たりの導入が開始されてから当該原料ガスが適度に拡散されるまでに要する期間であり、この遅延期間が経過した時点で、つまり原料ガスが適度に拡散された時点で、レーザ光の1回当たりの照射が開始されるのが好ましい。ここで例えば、この遅延期間が過度に短いと、原料ガスが適度に拡散される前にレーザ光が照射されることになり、その結果、当該レーザ光の照射による原料ガス粒子の解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、当該遅延期間が過度に長いと、原料ガスが適度に拡散された時点が既に経過した後にレーザ光が照射されることになり、この場合も、当該レーザ光の照射による原料ガスの解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。これらの兼ね合いから、遅延期間は100μs〜400μsとされる。
【発明の効果】
【0017】
上述したように、本発明によれば、従来技術とは異なり、ドロップレットが存在しない極めて平滑な表面特性を持つ真のカーボンオニオン膜を作製することができる。このことは、特に宇宙環境を含む真空環境用のトライボマテリアルの発展に大きく貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について、
図1〜
図6を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係るカーボンオニオン膜の作製方法は、
図1に示す成膜装置10によって実現される。この成膜装置10は、概略円筒形状の3つの真空チャンバ30,50および70を有している。これら3つの真空チャンバ30,50および70は、互いに共通の中心軸100に沿って1列に、言わば直列に、配置されている。このうちの一方端(
図1において上方端)側にある言わば第1のチャンバ30と、真ん中にある第2のチャンバ50とは、中心軸100に沿って延伸する連結管80を介して互いに連結されている。そして、この連結管80には、当該連結管80内を開閉するための超高真空ゲートバルブ82が設けられている。併せて、第2チャンバ50と、残りの第3チャンバ70とは、中心軸100に沿って延伸する別の連結管90を介して互いに連結されている。そして、この連結管90にも、当該連結管90内を開閉するための別の超高真空ゲートバルブ92が設けられている。なお、各チャンバ30,50および70は、耐熱性および耐食性の高い金属、例えばステンレス鋼、によって形成されている。これと同様に、各連結管80および90もまた、例えばステンレス鋼によって形成されている。
【0021】
第1チャンバ30は、カーボンオニオン膜の作成を実際に担う言わば成膜チャンバである。この成膜チャンバ30は、その壁部(筐体)の適当な箇所、例えば中心軸100に沿う壁部(側壁)の適当な箇所に、排気口32を有している。そして、この排気口32は、成膜チャンバ30の外部において、図示しない排気管を介して図示しない第1排気手段としての真空ポンプ、例えばターボ分子ポンプとロータリポンプとの組合せポンプ、に結合されている。この第1排気手段による排気作用によって、成膜チャンバ30内は例えば1×10
−5Pa〜1×10
−3Pa程度の圧力の高真空状態にまで排気される。
【0022】
そして、成膜チャンバ30の上述した連結管80が設けられている側とは反対側の壁部(端壁)の中心軸100上に、パルスバルブ34が固定されている。このパルスバルブ34は、概略円錐状の広がり形状を持つノズル34aを有しており、このノズル34aを成膜チャンバ30内に挿入すると共に当該ノイズ34aの開口部を中心軸100に沿う方向に向けた状態にある。また、パルスバルブ34は、成膜チャンバ30の外部において、ガス配管36を介して図示しない原料ガス供給源に結合されている。さらに、パルスバルブ34は、ノズル34aとガス配管36との間を開閉するための図示しない駆動素子、例えば圧電素子、を内蔵しており、成膜チャンバ30の外部に設けられた図示しないバルブ制御装置から与えられるバルブ制御信号に従って当該圧電素子を駆動する。この圧電素子を含むパルスバルブ34の開閉動作によって、ノズル34aから成膜チャンバ30内に原料ガスが噴射され、詳しくは後述する如く間欠的に噴射される。なお、バルブ制御装置は、例えばパーソナルコンピュータによって構築される。
【0023】
さらに、成膜チャンバ30の壁部の適当な箇所、例えばパルスバルブ34が固定されている壁部の適当な箇所に、平板状のレーザ光透過窓38が取り付けられている。併せて、成膜チャンバ30の外部に、レーザ光発生源としてのCO
2レーザ装置200が設けられている。このCO
2レーザ装置200は、成膜チャンバ30の外部に設けられた図示しないレーザ制御装置から与えられるレーザ制御信号に従ってCO
2レーザ光210を発射し、詳しくは後述する如く間欠的に発射する。そして、このCO
2レーザ装置200から発射されたCO
2レーザ光210は、レーザ光透過窓38を介して成膜チャンバ30内に入射される。なお、レーザ光透過窓38は、CO
2レーザ光210の波長帯域(おおよそ9μm〜11μm)に透過帯域を有する素材、例えばセレン化亜鉛(ZnSe)、によって形成されている。また、レーザ制御装置は、例えば上述のパルス制御装置と同じパーソナルコンピュータによって構築(兼用)される。
【0024】
レーザ光透過窓38を介して成膜チャンバ30内に入射されたCO
2レーザ光210は、当該成膜チャンバ30内に設けられたレーザ光反射凹面鏡40によって反射され、ノズル34aに向けて照射され、詳しくは当該ノイズ34aのスロート部に集光される。言い換えれば、そうなるようにレーザ光反射凹面鏡40が設計されると共に配置されている。なお、レーザ光反射凹面鏡40は、CO
2レーザ光210の波長帯域において高い反射率を示し、例えば金(Au)薄膜によって被覆されている。
【0025】
ここで例えば、ノズル34aから原料ガスが噴射されているときに、当該ノイズ34aのスロート部にCO
2レーザ光210(の集光光)が照射されると、或る一定の条件下で、原料ガスの粒子が解離して、プラズマが発生(レーザブレークダウン)する。そして、このプラズマは、CO
2レーザ光210のエネルギを吸収して高温かつ高密度のプラズマへと成長(膨張)し、爆撃波(デトネーション)が発生する。この過程で、プラズマの熱エネルギが当該プラズマ中のガスイオンおよび電子の運動エネルギに変換される。そして、このガスイオンおよび電子が再結合することで、中性の超熱かつ超音速の原子ビーム300が生成される。
【0026】
本実施形態では、原料ガスとして炭化水素系ガスの1つである例えばメタンガスが採用される。これにより、原子ビーム300として炭素原子ビームが生成される。このいわゆるレーザデトネーション法によって生成された炭素原子ビーム300は、ノズル34aのスロート部から適当な広がりを持って放射状(概略円錐状)に射出される。そして、この炭素原子ビーム300の射出エリア内に被処理物400が配置されることによって、当該被処理物400の表面に炭素を成分とする被膜が作製される。特に、後述する如く成膜チャンバ30内の圧力等の諸条件が適宜に設定されることで、当該被膜としてカーボンオニオン膜が作製される。
【0027】
なお、被処理物400は、その成膜対象面をノズル34aのスロート部に向けた状態で配置される。また、被処理物400の表面の略全体が成膜対象面とされる場合には、ノズル34aのスロート部に対する当該被処理物400の向きを変更するための適当な機械的手段(機構)が設けられる。さらに、被処理物400は、中心軸100上ではなく、当該中心軸100から外方に少し外れた位置に配置される。これは、後述する如く成膜チャンバ30内から第2チャンバ50内および第3チャンバ70内に炭素原子ビーム300が供給される際に、被処理物400が当該炭素原子ビーム300の障害とならないようにするためである。そして、この炭素原子ビーム300の供給のために、成膜チャンバ30内の適当な箇所、例えば上述した連結管80が結合されている部分には、当該炭素原子ビーム300の供給口となるオリフィス42が設けられている。
【0028】
第2チャンバ50は、最終目的物であるカーボンオニオン膜の組成を分析するための言わば被膜分析チャンバである。この被膜分析チャンバ50は、その壁部の適当な箇所、例えば中心軸100に沿う側壁の適当な箇所に、排気口52有している。そして、この排気口52は、被膜分析チャンバ50の外部において、図示しない排気管を介して図示しない第2排気手段としての真空ポンプ、例えばターボ分子ポンプとその背圧を確保するためのロータリポンプとの組合せポンプ、に結合されている。この第2排気手段による排気作用によって、被膜分析チャンバ50内は例えば1×10
−6Pa程度の圧力の高真空状態にまで排気される。
【0029】
そして、被膜分析チャンバ50内の略中央には、参照用の被処理物54が配置されている。この参照用被処理物54は、実際の被処理物400と同じ材質の板状体であり、その一方主面が中心軸100に対して所定角度、例えば45度、を成すように、当該中心軸100上に配置されている。加えて、参照用被処理物54の一方主面に関して中心軸100と共役な位置関係となるように、四重極型質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer:以下、QMSと言う。)56が設けられている。
【0030】
このQMS56が附属された被膜分析チャンバ50によれば、上述の成膜チャンバ30からオリフィス42および連結管80を介して当該被膜分析チャンバ50内に炭素原子ビーム300が供給される。すると、この炭素原子ビーム300は、参照用被処理物54に照射され、その一部が、当該参照用被処理物54によって散乱されて、QMS56の検出部に入射される。QMS56は、その検出部に入射された散乱粒子の質量(質量電荷比)を検出する。そして、このQMS56による検出結果に基づいて、最終目的物であるカーボンオニオン膜の組成が分析される。この分析は、被膜分析チャンバ50の外部に設けられた図示しない被膜分析装置によって行われる。この被膜分析装置は、例えば上述したのと同じパーソナルコンピュータによって構築(兼用)される。なお、QMS56を含む被膜分析チャンバ50の機能については、本発明の本旨に直接関係しないので、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0031】
第3チャンバ70は、炭素原子ビーム300のエネルギおよび組成を分析するための言わばビーム分析チャンバである。このビーム分析チャンバ70は、その壁部の適当な箇所、例えば中心軸100に沿う側壁の適当な箇所に、排気口72を有している。また、当該ビーム分析チャンバ70は、その壁部の別の箇所、例えば連結管90が設けられている側とは反対側の端壁の適当な箇所にも、別の排気口74を有している。これらの排気口72および74は、ビーム分析チャンバ50の外部において、図示しない排気管を介して図示しない第3排気手段としての真空ポンプに結合されている。詳しくは、一方の排気口72は、例えばターボ分子ポンプとロータリポンプとの組合せポンプに結合されており、他方の排気口74は、イオンポンプに結合されている。この第3排気手段による排気作用によって、ビーム分析チャンバ70内は例えば2×10
−7Pa程度の圧力の超高真空状態にまで排気される。
【0032】
さらに、上述の被膜分析チャンバ50と同様、このビーム分析チャンバ70にも、QMS76が設けられている。具体的には、当該QMS76は、その検出部が中心軸100上に位置するように設けられている。
【0033】
このQMS76が附属されたビーム分析チャンバ70によれば、被膜分析チャンバ50を経由してさらに連結管90を介して当該ビーム分析チャンバ70内に炭素原子ビーム300が供給され、この炭素原子ビーム300は、QMS76の検出部に入射される。QMS76は、その検出部に入射された炭素原子ビーム300の質量を検出する。そして、このQMS76による検出結果に基づいて、炭素原子ビーム300のエネルギおよび組成が分析される。この分析は、ビーム分析チャンバ70の外部に設けられた図示しないビーム分析装置によって行われる。このビーム分析装置は、例えば上述したのと同じパーソナルコンピュータによって構築(兼用)なお、QMS76を含むビーム分析チャンバ70の機能についても、本発明の本旨に直接関係しないので、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0034】
このように構成された成膜装置10によれば、上述の如くカーボンオニオン膜の作製が実現される。
【0035】
具体的には、まず、成膜チャンバ30内の圧力が1×10
−5Pa〜1×10
−3Paとされる。その上で、パルスバルブ34が
図2(a)に示すようなタイミングで制御される。この
図2(a)に示すように、パルスバルブ34は、Tcという一定の周期ごとにTgという一定の期間にわたって開成され、それ以外は閉成される。これにより、Tcという一定の周期ごとにTgという一定の期間にわたってパルスバルブ34からノズル34aを介して成膜チャンバ30内に原料ガスが導入され、それ以外は当該原料ガスの導入は停止される。なお、原料ガスの導入周期(パルスバルブ34の開閉周期)Tcは、例えば0.1s〜1sとされる。そして、原料ガスの1回当たりの導入期間(パルス幅)Tgは、当該導入周期Tcに応じて、例えば100μs〜1000μsとされる。
【0036】
併せて、CO
2レーザ装置200が
図2(b)に示すようなタイミングで制御される。この
図2(b)に示すように、CO
2レーザ装置200は、パルスバルブ34の開閉動作に同期して、換言すれば原料ガスの導入タイミングに同期して、Tcという一定の周期でその出力をON/OFFし、つまりCO
2レーザ光210を間欠的に発射する。これにより、当該CO
2レーザ光210(の集光光)がTcという一定の周期で間欠的にノズル34aのスロート部に照射される。ただし、原料ガスの1回当たりの導入が開始されてからTdという所定の遅延期間が経過した時点で、当該CO
2レーザ光210の1回当たりの照射が開始される。なお、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射期間(パルス幅)Tsは、原料ガスの1回当たりの導入期間Tgに応じて、例えば0.1μs〜20μsとされる。そして、遅延期間Tdは、原料ガスの1回当たりの導入期間TgおよびCO
2レーザ光210の1回当たりの照射期間Tsに応じて、例えば100μs〜400μsとされる。また、CO
2レーザ光210の1回(1パルス)当たりの照射エネルギは、例えば4J〜10Jとされる。
【0037】
このような条件に則って、上述したレーザデトネーション法による炭素原子ビーム300の生成が実現されると共に、この炭素原子ビーム300を利用した成膜処理が行われることで、表面粗さが10nm以下、摩擦係数が0.1程度の、極めて平滑な表面特性を持つ真のカーボンオニオン膜が作製されることが、確認された。また、
図2に示した各期間Tc,Tg,TsおよびTdが適宜に変えられることで、カーボンオニオン膜の性状が詳細に制御されることも、確認された。特に、遅延期間Tdが長いほど、カーボンオニオン膜の緻密さ(密度)が向上する傾向にあることが、確認された。
【0038】
なお、上述の条件のうち、成膜チャンバ30内の圧力が10
−5Pa〜10
−3Paとされるのは、次の理由による。即ち、成膜チャンバ30内の圧力が例えば高いほど、炭素原子ビーム300が成膜チャンバ30内の残留ガス粒子と衝突する頻度が増大して、当該炭素原子ビーム300のエネルギが失われ、これにより成膜速度が低下し、極端にはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、成膜チャンバ30内の圧力が低いほど、当該成膜チャンバ30内の排気に要する時間が長くなり、生産性が低下する。これらの兼ね合いから、成膜チャンバ内の圧力は10
−5Pa〜10
−3Paとされる。
【0039】
そして、原料ガスの導入周期Tcが0.1s〜1sとされ、これに同期してCO
2レーザ光210の照射周期Tcもまた0.1s〜1sとされるのは、次の理由による。即ち、CO
2レーザ光210を用いたレーザデトネーション法においては、比較的に大きなエネルギを持つ当該CO
2レーザ光210の照射が必要とされる。本実施形態では、このCO
2レーザ光210の照射が間欠的に行われることによって、当該CO
2レーザ光210のエネルギの増大が図られ、結果的に当該CO
2レーザ光210のエネルギがレーザデトネーション法で必要とされる程度にまで増大される。そして、このCO
2レーザ光210の間欠照射に合わせて、原料ガスもまた間欠的に導入される。ここで例えば、これら原料ガスの導入周期TcおよびCO
2レーザ光210の照射周期Tcが長いほど、炭素原子ビーム300の生成間隔が長くなるため、成膜速度が低下する。一方、当該周期Tcが短いほど、原料ガスの導入タイミングとCO
2レーザ光210の照射タイミングとの整合が困難になり、極端には当該CO
2レーザ光210による原料ガス粒子の解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。これらの兼ね合いから、当該周期Tcは0.1s〜1sとされる。
【0040】
その上で、原料ガスの1回当たりの導入期間Tgが100μs〜1000μsとされるのは、次の理由による。即ち、原料ガスの1回当たりの導入期間Tgは、当該原料ガスの1回当たりの導入量に相関(比例)する。従って例えば、原料ガスの1回当たりの導入期間Tgが短いほど、当該原料ガスの1回当たりの導入量が少なく、そのために成膜速度が低下し、極端にはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、原料ガスの1回当たりの導入期間Tgが長いほど、当該原料ガスの1回当たりの導入量が多く、極端には当該原料ガスの解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。これらの兼ね合いから、原料ガスの1回当たりの導入期間Tgは100μs〜1000μsとされる。なお、この100μs〜1000μsという原料ガスの1回当たりの導入期間Tgによれば、当該原料ガスの1回当たりの導入量は重量換算値で概ね10
−5g〜10
−4gとされ、体積換算値で概ね0.1mL〜1mLとされる。言い換えれば、そうなるように上述した原料ガス供給源からガス配管36を介してパルスバルブ34に供給される当該原料ガスの供給圧力が設定されている。
【0041】
さらに、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射期間Tsが0.1μs〜20μsとされるのは、次の理由による。即ち、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射期間Tsが例えば短いほど、当該CO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギが小さく、極端には原料ガスが十分に解離されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射期間Tsが長いほど、当該CO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギが大きいので、原料ガスの解離には好都合であるが、当該照射期間Tsが20μsを超える範囲では、原料ガス粒子の解離具合を含め特段な差異がないことが、確認された。これらの兼ね合いから、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射期間Tsは0.1μs〜20μsとされる。
【0042】
また、このCO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギが4J〜10Jとされるのは、次の理由による。即ち、CO
2レーザ光210の照射による原料ガス粒子の解離が十分に成され、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されるには、当該CO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギが少なくとも4J以上とされる必要があることが、確認された。一方、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギが10Jを超える範囲では、原料ガス粒子の解離具合を含め特段な差異がないことも、確認された。これらの兼ね合いから、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギは4J〜10Jとされる。
【0043】
そして、上述の遅延期間Tdが100μs〜400μsとされるのは、次の理由による。即ち、遅延期間Tdは、原料ガスの1回当たりの導入が開始されてから当該原料ガスが適度に拡散されるまでに要する期間であり、この遅延期間Tdが経過した時点で、つまり原料ガスが適度に拡散された時点で、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射が開始されるのが好ましい。ここで例えば、この遅延期間Tdが過度に短いと、原料ガスが適度に拡散される前にCO
2レーザ光210が照射されることになり、その結果、当該CO
2レーザ光210の照射による原料ガス粒子の解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。一方、当該遅延期間Tdが過度に長いと、原料ガスが適度に拡散された時点が既に経過した後にCO
2レーザ光210が照射されることになり、この場合も、当該CO
2レーザ光210レーザ光の照射による原料ガスの解離が十分に成されず、ひいてはカーボンオニオン膜が作製されない恐れがある。これらの兼ね合いから、遅延期間Tdは100μs〜400μsとされる。
【0044】
さてこのたび、被処理物400として、直径が50mm、厚さが5mmの円板状のシリコン(Si)基板を採用し、このシリコン基板400の一方主面を成膜対象面としてカーボンオニオン膜を作製する実験を行った。なお、この成膜処理時の諸条件は、次の通りである。即ち、成膜チャンバ30内の圧力は10
−5Paであり、原料ガスの導入周期(CO
2レーザ光210の照射周期)Tcは1sである。そして、原料ガスの1回当たりの導入期間Tgは1000μsであり、言い換えれば、当該原料ガスの1回当たりの導入量は重量換算値で約10
−4gであり、体積換算値で約1mLである。また、CO
2レーザ光210の1回当たりの照射期間Tsは20μsであり、当該CO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギは6Jである。さらに、遅延期間は400μsである。この条件による成膜処理を原料ガスの導入回数(CO
2レーザ光210の照射回数)換算で1000回(ショット)行った。
【0045】
この結果、
図3に示す透過形電子顕微鏡(Transmission
Electron Microscope:TEM)による観測画像から分かるように、直径が10nm程度のカーボンオニオンが連なった態様のカーボンオニオン膜が作製されたことが、確認された。
【0046】
併せて、
図4に示す原子力間顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)による観測画像から分かるように、当該カーボンオニオン膜が略均一に作製されていることが、確認された。また、この
図4から、当該カーボンオニオン膜の表面粗さが10nm未満であることも、分かる。なお、この
図4において、若干大きめの斑点状のものがいくつか見受けられるが、これは、数個(2個〜3個)のカーボンオニオンが集まって形成された凝集体であると思われる。この凝集体の高さは10nmに満たず、つまり当該凝集体を含めカーボンオニオン膜の表面粗さは上述の如く10nm未満である。このことから、当該凝集体を含め極めて平滑なカーボンオニオン膜が作製されていることが、分かる。このカーボンオニオン膜の厚さを測定したところ、当該膜厚は約30nmであることが、確認された。
【0047】
さらに、
図5に示すX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)による分析結果から分かるように、当該カーボンオニオン膜のスペクトル曲線においては、炭素−炭素結合に由来する284.6eVという結合エネルギ領域にのみピークが認められ、これ以外のピークは認められない。即ち、被処理物400の素材であるシリコンをはじめとする他の元素の存在は認められない。このことも加味して、炭素−炭素結合から成るカーボンオニオン膜が作製されたことが、確認された。
【0048】
また、当該カーボンオニオン膜に対してボールオンディスク方式の往復動摩擦摩耗試験を行った。具体的には、直径が2mmのSUS304製の試験球を用いて、この試験球による接触圧力を1Gpaとし、摺動速度を5.5mm/sとして、当該試験を行った。その結果を、
図6に示す。なお、この
図6における○印のプロット線Aが、当該カーボンオニオン膜についての試験結果を示す。そして、この
図6における□印のプロット線Bは、遅延期間Tdが200μsという条件下(それ以外はプロット線Aのものと同じ条件下)で作製されたカーボンオニオン膜についての試験結果を示す。
【0049】
この
図6に示すように、遅延期間Tdが400μsという条件下で作製されたカーボンオニオン膜Aについては、1000回という繰り返し摺動回数にわたって概ね0.11という極めて小さい摩擦係数が維持されることが、確認された。また、遅延期間Tdが200μsという条件下で作製されたカーボンオニオン膜Bについても、1000回という繰り返し摺動回数にわたって概ね0.12というやはり極めて小さい摩擦係数が維持されることが、確認された。即ち、いずれのカーボンオニオン膜AおよびBについても、極めて優れた低摩擦特性を示し、しかも、極めて高硬度であることが、確認された。加えて、遅延期間Tdが被膜の緻密さに影響すること、つまり当該遅延期間Tdが長いほど被膜の緻密さが向上する傾向にあることが、確認された。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、表面粗さが10nm以下、摩擦係数が0.1程度の、極めて平滑な表面特性を持つ真のカーボンオニオン膜の作製が実現される。これは、気体である原料ガスが出発原料とされること、つまり固体のスパッタリングターゲットを出発原料とする上述の従来技術とは異なりドロップレットが発生しないこと、に拠るところが大きい。そして、この真のカーボンオニオン膜は、特に宇宙環境を含む真空環境用のトライボマテリアルとしての応用が期待されている。
【0051】
なお、上述したように、
図2に示した各期間Tc,Tg,TsおよびTdによってカーボンオニオン膜の性状が制御されるが、成膜チャンバ30内の圧力やCO
2レーザ光210の1回当たりの照射エネルギによっても当該カーボンオニオン膜の性状が制御される。また、言うまでもなく、成膜処理の実行時間(ショット数)によってカーボンオニオン膜の膜厚が制御される。このカーボンオニオン膜の膜厚が概ね20nm〜100nmであれば、優れた低摩擦特性を示す当該カーボンオニオン膜が作製されることが、確認された。
【0052】
本実施形態においては、レーザデトネーション法による炭素原子ビーム300の生成のためのレーザ光として、CO
2レーザ装置200を発生源とするCO
2レーザ光210が採用されたが、これ以外の種類の(炭酸ガス以外のガスや液体,固体等の適宜の媒体を用いて発せられる)レーザ光が採用されてもよい。ただし、特に(発生源の)コストパフォーマンスの面で当該CO
2レーザ光210が最も好適である。また、レーザ光の種類によっては、その波長に合わせてレーザ光透過窓38の材質やレーザ光反射凹面鏡40の被覆素材が適宜に選定されることが、肝要である。
【0053】
そして、原料ガスとして、メタンガスが採用されたが、アセチレンガスやベンゼンガス等の他の炭化水素系ガスが採用されてもよい。ただし、例えばアセチレンガスはレーザファイア時に引火の恐れがあり、ベンゼンガスは毒性(発癌性)を有するので、そのような重大な危険性のないメタンガスが最も好適である。
【0054】
さらに、炭素原子ビーム300について、ノズル34aのスロート部から適当な広がりを持って放射状に射出される言わばブロードビームとされたが、これに限らない。例えば、線状に射出される言わばナロー(スポット)ビームとされてもよい。ただし、ブロードビームとされることによって、広い成膜領域が確保される。本実施形態では、例えば円形状の被処理物400であれば、その直径が100mm程度のものまで対応可能である。
【0055】
加えて、上述の
図1においては、3つの真空チャンバ30,50および70が垂直方向に沿って配置された言わば縦置きの構成とされているが、これら3つの真空チャンバ30,50および70の配置方向は任意であり、例えば当該3つの真空チャンバ30,50および70が水平方向に沿って配置された言わば横置きの構成とされてもよい。また、これら3つの真空チャンバ30,50および70は、いずれも概略円筒形状のものとされたが、概略中空直方体状等の他形状のものとされてもよい。そして、これら3つの真空チャンバ30,50および70の形状等の態様、特に成膜チャンバ30の態様によっては、レーザ光透過窓38やレーザ光反射凹面鏡40等の光学系の構成が適宜に変更されてもよい。さらに、被膜分析チャンバ50およびビーム分析チャンバ70については、特段な必要性がないのであれば設けられなくてもよい。