【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットとを有するグラフト共重合体を含有する無機質焼結体製造用バインダーであって、前記ポリビニルブチラールは、重合度が800〜4000、水酸基量が20〜40モル%、ブチラール化度が60〜80モル%、かつ、ブチラール環構造のメゾ/ラセモ比率が4〜15であり、前記ポリ(メタ)アクリル酸類を構成する(メタ)アクリル酸類は、メタクリル酸類を90重量%以上含有する無機質焼結体製造用バインダーである。
以下、本発明を詳述する。
【0012】
本発明者らは、特定の構造を有するポリビニルブチラールとポリ(メタ)アクリル酸類とのグラフト共重合体を、無機質焼結体を形成するためのバインダーとして用いた場合に、得られる無機質焼結体のシート強度が充分に高く、焼成時におけるシートの欠陥が無く、かつ、熱分解性にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーは、ポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットとを有するグラフト共重合体(以下、単にグラフト共重合体ともいう)を含有する。
本発明において、「ポリビニルブチラールからなるユニット」及び「ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット」とは、グラフト共重合体中に存在している「ポリビニルブチラール」、「ポリ(メタ)アクリル酸類」のことをいう。
また、ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するグラフト共重合体は、主鎖を構成する「ポリビニルブチラールからなるユニット」又は「ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット」に、該主鎖とは異なる側鎖を構成する「ポリビニルブチラールからなるユニット」又は「ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット」が結合した分岐状の共重合体のことをいう。
【0014】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するグラフト共重合体は、グラフト共重合体であることで、セラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、高いシート強度を有するグリーンシートを得ることができ、また、均一な薄膜シートを得ることができる。これは、グラフト共重合体とすることによってバインダー樹脂中に含まれるポリビニルブチラール構造を有する部分とポリ(メタ)アクリル酸類構造を有する部分がマクロ的に相分離せず、均質にバインダー中に存在することができるためである。また、グラフト共重合体であることで、スラリーとした際の粘度上昇が小さいために過剰の有機溶剤を用いることが必要なく、調製作業性が良好であり、且つ、塗工性に優れたセラミックグリーンシート用スラリーが得られるという利点がある。
【0015】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するグラフト共重合体の構造は、用途に応じて設計される。例えば、ポリビニルブチラールからなるユニットが幹を形成し、ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットが枝を形成する場合、ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットが幹を形成し、ポリビニルブチラールからなるユニットが枝を形成する場合、また、上記の構造を持ったポリマーが混在する場合、さらに、同一ポリマー中に上記の構造を両方とも含む場合等が挙げられる。
【0016】
上記グラフト共重合体の分子量としては特に制限は無いが、数平均分子量(Mn)が10,000〜400,000で、重量平均分子量(Mw)が20,000〜800,000で、これらの比(Mw/Mn)が2.0〜40であることが好ましい。Mn、Mw、Mw/Mnがこのような範囲であると、上記グラフト共重合体をセラミックグリーンシートのバインダーとして使用した際に、シート強度が高くなる。また、スラリー粘度が高くなりすぎず、更に、無機粉末の分散性が良好となるので均一なセラミックグリーンシートを形成することができるため好ましい。
【0017】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット(以下、ポリビニルブチラールユニットともいう)の重合度は下限が800、上限が4000である。上記ポリビニルブチラールユニットの重合度が800未満であると、得られるセラミックグリーンシートのシート強度が弱くなることがあり、4000を超えると、スラリーとした際の粘度が高くなって、支持体へ塗布する際に塗布ムラが発生し、均質なセラミックグリーンシートが得られないことがある。
好ましい下限は1000、好ましい上限は3500である。
【0018】
上記ポリビニルブチラールユニットは、ポリビニルブチラールに通常含まれる酢酸ビニル単位と、ビニルアルコール単位と、ビニルブチラール単位とを有する。
【0019】
上記ポリビニルブチラールユニットにおけるビニルアルコール単位の含有量(水酸基量)は下限が20モル%、上限が40モル%である。上記水酸基量が20モル%未満であると、得られるシートの強度が弱くなり、水酸基量が40モル%を超えると、スラリーとした際の粘度が高くなり、支持体へ塗布する際に塗布ムラが発生し、均質なセラミックグリーンシートが得られない。
好ましい下限は25モル%、好ましい上限は35モル%である。
【0020】
上記ポリビニルブチラールユニットにおけるビニルブチラール単位の含有量(ブチラール化度)は下限が60モル%、上限が80モル%である。ビニルブチラール単位が60モル%未満であると、スラリーとした際の粘度が高くなり、支持体へ塗布する際に塗布ムラが発生し、均質なセラミックグリーンシートが得ることができず、ビニルブチラール単位が80モル%を超えると、得られるシートの強度が弱くなる。
好ましい下限は65モル%、好ましい上限は75モル%である。
【0021】
上記ポリビニルブチラールユニットにおける酢酸ビニル単位の含有量(アセチル基量)は特に限定されないが、セラミックグリーンシートの原料として用いる場合のシート強度を考慮すると、30モル%以下であることが好ましい。
【0022】
上記ポリビニルブチラールユニットにおけるブチラール環構造のメゾ/ラセモ比率は、下限が4、上限が15である。上記ブチラール環構造のメゾ/ラセモ比率が4未満であると、ブチラール環構造が不安定となり、焼成時における急速な分解が起こり、体積収縮に伴う割れやクラックによる無機質焼結体シートに欠陥が発生する等して、セラミックコンデンサの電気特性が低下する。15を超えると、ブチラール環構造の安定性が高くなりすぎて、焼成時における分解性が低下し、セラミック中に含まれる残留炭化物が多くなってセラミックコンデンサの電気特性が悪化する。また、該メゾ/ラセモ比率を有する樹脂を得るための製造工程時間が極端に長くなって樹脂を生産する効率が著しく損なわれてしまう。
好ましい下限は5、好ましい上限は13である。
なお、本発明において、「ブチラール環構造のメゾ/ラセモ比率」とは、ブチラール環の立体構造において、シンジオタクティック構造を有する水酸基から形成されるブチラール環構造(ラセモブチラール環)を有するブチラール基の量に対して、アイソタクティック構造を有する水酸基から形成されるブチラール環構造(メゾブチラール環)を有するブチラール基の量の比率であり、例えば、グラフト共重合体をジメチルスルホシキド等の溶剤に溶解させ、測定温度150℃においてプロトンNMRを測定し、4.5ppm付近に現れるメゾブチラール環構造に由来するピークと、4.2ppm付近に現れるラセモブチラール環構造に由来するピークの積分値を比較することや、カーボンNMRを測定し、100ppm付近に現れるメゾブチラール環構造に由来するピークと、94ppm付近に現れるラセモブチラール環構造に由来するピークの積分値を比較することによって測定することができる。
【0023】
上記ポリビニルブチラールユニットにおけるブチラール環構造のメゾ/ラセモ比率を上記範囲とするためには、ブチラール化度を適宜調整することが必要であり、ブチラール化度は低すぎても高すぎても良くなく、また、同様に水酸基量も低すぎても高すぎても良くない。適正な範囲のメゾ/ラセモ比率とするためには、ブチラール化度は60〜80モル%とし、水酸基量は20〜40モル%とする。
また、メゾ/ラセモ比率を調整するためには、ブチラール化工程の熟成温度と熟成時間を適宜調整することが有効であり、これらを調整することによって目的のメゾ/ラセモ比率を得ることができる。特に、熟成温度が低く熟成時間が短い場合には、メゾ/ラセモ比率は下限を外れ、熟成温度が高く熟成時間が長い場合には、上限を外れる場合がある。
【0024】
上記グラフト共重合体中に含まれるポリビニルブチラールユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記グラフト共重合体全体に対して、10〜90重量%が好ましい。上記ポリビニルブチラールユニットの含有量が10重量%未満であると、得られるセラミックグリーンシートのシート強度が弱くなるとなることがあり、90重量%を超えると、焼成時における分解性が低下し、セラミック中に含まれる残留炭化物が多くなってセラミックコンデンサの電気特性が悪化することがある。好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%、また、より好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は70重量%である。
【0025】
上記ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット(以下、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットともいう)は、単量体である(メタ)アクリル酸類を重合することによって得られる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸類」とは、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種をいう。
【0026】
上記(メタ)アクリル酸類のうち、(メタ)アクリル酸エステルとしては特に限定されないが、単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル及び単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
また、上記(メタ)アクリル酸類はメタクリル酸類を90重量%以上含有し、特に、単官能メタクリル酸エステルを90重量%以上含有することが特に好ましい。このことにより、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合、焼成時における分解性が高くなり、残留炭化物が少ないバインダーを得ることができる。また、スラリーとした際に適度な粘度とすることができる。
【0027】
上記単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステルは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、上記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を総称するものであり、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称するものとする。
【0028】
上記(メタ)アクリル酸エステルのなかでは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。
なかでも、焼成時における分解性が特に高く、残留炭化物が非常に少ないバインダーが得られることから、メタクリル酸エステルが好適であり、さらに、メチルメタクリレート又はイソブチルメタクリレートを構成単位として30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことが更に好ましい。
【0029】
上記(メタ)アクリル酸類は、分子内にカルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基及びエポキシ基、エーテル基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基を有するものを含有してもよい。上記(メタ)アクリル酸類が上記極性基を有するものを含有することで、無機微粒子の分散性に優れるバインダーとすることができる。
具体的には例えば、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート等のポリエチレングリコール鎖をエステル側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0030】
なかでも、分子内にカルボキシル基又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸類を含有することにより、グラフト共重合体の分子内、及び、分子間相互作用を増大することができる。これにより、得られるグラフト共重合体を含有するバインダーを用いてセラミックグリーンシートを作製した場合、高いシート強度が得られる。
【0031】
また、上記分子内にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基又はエーテル基を有する(メタ)アクリル酸類を含有することにより、バインダー内の酸素含有量が高くなり、残炭性に優れるバインダーとすることができる。上記ポリ(メタ)アクリル酸類を構成する(メタ)アクリル酸類は、分子内にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基又はエーテル基を有する(メタ)アクリル酸類を5重量%以上含有することが好ましく、10重量%以上含有することがより好ましい。
【0032】
上記グラフト共重合体中に含まれるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記グラフト共重合体全体に対して、10〜90重量%が好ましい。上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットの含有量が10重量%未満であると、焼成時における分解性が低下し、セラミック中に含まれる残留炭化物が多くなってセラミックコンデンサの電気特性が悪化することがあり、90重量%を超えると、得られるセラミックグリーンシートのシート強度が弱くなることがあったり、焼成時における急速な分解が起こり、体積収縮に伴う割れやクラックによる無機質焼結体シートに欠陥が発生したりする等して、セラミックコンデンサの電気特性が悪化することがある。好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%、また、より好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は70重量%である。
【0033】
上記グラフト共重合体中のグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルブチラールからなるユニットに対するポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの比率)は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、10〜900重量%が好ましい。上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に、焼成時のバインダーの熱分解性と、シート強度とを両立することができる。
なお、本発明において、「グラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルブチラールからなるユニットに対するポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの重量を換算し、下記式(1)を用いてグラフト率を求めることができる。
【0034】
【数1】
【0035】
上記グラフト共重合体は、更に、他のモノマーからなるユニットを有していてもよい。
上記グラフト共重合体が上記他のモノマーからなるユニットを有することにより、得られるグラフト共重合体の分子間相互作用が増大し、該グラフト共重合体をバインダーに用いることによって、シート強度が高いセラミックグリーンシートを形成することができる。更に、上記他のモノマーが極性基を有する場合には、該極性基と無機粉末の表面とが水素結合等の相互作用を起こすことにより、得られるスラリーの無機粉末の分散性を向上させ、分散剤を配合しない場合においても均一なセラミックグリーンシートを形成することができる。更に、上記他のモノマーが、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基及びエーテル基からなる群より選択される官能基を有する場合には、バインダー内の酸素含有量が高くなり、熱分解に有効なラジカルが発生することから、バインダーの焼成を助け、残留炭化物が非常に少ないグリーンシートを得ることができる。
【0036】
上記他のモノマーは特に限定されないが、分子内にカルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基及びエポキシ基、エーテル基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーが好ましい。このようなモノマーとしては、例えば、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アリルアルコール、ビニルエーテル、アリルアミン等が挙げられる。これらの他のモノマーのなかでも、得られるグラフト共重合体を含有するバインダーを用いてセラミックグリーンシートを作製した場合、より高いシート強度が得られることから、分子内にカルボキシル基を有するモノマー、分子内に水酸基を有するモノマーがより好ましい。
【0037】
上記グラフト共重合体中に含まれる他のモノマーからなるユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記グラフト共重合体全体に対して、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0038】
上記グラフト共重合体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記(メタ)アクリル酸類を含有する混合モノマーを、ポリビニルブチラールが存在する環境下において重合開始剤の存在下にてラジカル重合させる方法等が挙げられる。
上記重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられる。
上記溶液重合に用いる溶媒は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0039】
上記グラフト共重合体を製造するための具体的な操作方法としては、例えば、溶液重合法としては、温度調整機及び攪拌機付きの重合器に、ポリビニルブチラール樹脂、溶媒を仕込み、加熱しながら攪拌することによってポリビニルブチラールを溶解させた後、そこへ上記(メタ)アクリル酸類を含有するモノマーを添加して、重合器内の空気を窒素に置換してから、さらにラジカル重合開始剤を加えて(メタ)アクリル酸類を重合する方法等が挙げられる。
また、懸濁重合法としては、温度調整機及び攪拌機付きの重合器に、ポリビニルブチラール樹脂、(メタ)アクリル酸類を含有するモノマー、純水、分散剤、ラジカル重合開始剤を仕込み、重合器内の空気を窒素に置換し、モノマーをポリビニルブチラール樹脂中に膨潤させた後に昇温して、(メタ)アクリル酸類を重合する方法等が挙げられる。
更に、塊状重合法としては、温度調整機及び攪拌機付きの重合器に、ポリビニルブチラール樹脂、(メタ)アクリル酸類を含有するモノマーを添加して、加熱しながら攪拌することによってポリビニルブチラールをモノマーに溶解させた後、重合器内の空気を窒素に置換してから、さらにラジカル重合開始剤を加えて(メタ)アクリル酸類を重合する方法等が挙げられる。
【0040】
上記グラフト共重合体を製造する際のポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットのグラフト効率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
上記グラフト効率が10%未満であると、セラミックグリーンシートの強度、伸びが低下するため好ましくない。
なお、グラフト効率は以下の方法で評価できる。
得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、可溶分を(メタ)アクリル酸類のホモポリマー、不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの重量を換算し、下記式(2)を用いてグラフト効率を求めることができる。
【0041】
【数2】
【0042】
上記ラジカル開始剤は特に限定されず、例えば、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシネオデカンネート、t−ブチルパーオキシネオデカンネート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5,−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジベンゾイルパーオキシド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
これらのラジカル開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーに、可塑剤、有機溶剤、無機質微粒子、分散剤等を添加することで、無機質焼結体製造用ペーストが得られる。このような無機質焼結体製造用ペーストもまた本発明の1つである。
上記有機溶剤は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。中でも、アルコールを少量でも用いると、バインダーの粘度が下がり、取扱性に優れるペーストが得られる。
また、80℃以上の沸点を持つ有機溶剤を含有することにより、急激な乾燥が防ぐことができ、得られるグリーンシートの表面を平滑にすることができる。
【0044】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーをセラミックグリーンシート成型用のバインダーとして用いることで、セラミックグリーンシートを作製することができる。
上記セラミックグリーンシートを作製する方法としては、特に限定されず、公知の成形方法によって成形される。例えば、本発明の無機質焼結体製造用バインダーに、必要に応じて可塑剤、分散剤、消泡剤等の添加物を配合し、有機溶媒とセラミック粉末と共にボールミル等の混合装置で均一に混合してスラリーを調製し、該スラリーをPETフィルム等の支持体上にドクターブレード法等の公知の方法により湿式塗布し、有機溶剤を乾燥除去する方法が挙げられる。その他に、上記スラリーをスプレードライヤー法等により顆粒状に造粒した後、該顆粒を乾式プレス法により成形する方法等も挙げられる。
【0045】
このように得られたセラミックグリーンシートは、必要に応じて打ち抜き加工等の各種加工が施され、各種セラミック製品の製造に用いられる。例えば、積層セラミックコンデンサを製造する場合には、支持体には離型処理を施したPETフィルムが用いられ、グリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等によって塗布した後に支持体であるPETフィルムから剥離し、これを複数枚積層して加熱プレスすることで積層体を作製し、次いで、過熱焼成することによってバインダー樹脂を熱分解して除去することで製造される。