【実施例】
【0068】
先ず、実施例、比較例における融解熱量、透気度(ガーレー秒)、平均流量孔径、最大孔径、及び透過性インデックスの測定方法について述べる。
【0069】
[融解熱量の測定方法]
熱流束示差走査熱量計(島津製作所社製;熱流束示差走査熱量計DSC−50)を用い、以下に示す方法により行った。
【0070】
サンプル10〜20mgを、室温から100℃まで50℃/分で加熱し、その後10℃/分で365℃まで加熱する(第一ステップ)。次に、350℃まで−10℃/分の速度で冷却し、350℃で5分間保持する。さらに350℃から330℃まで−10℃/分の速度で冷却、330℃から305℃まで−1℃/分の速度で冷却する(第二ステップ)。次に−50℃/分の速度で305℃から100℃まで冷却した後、10℃/分の速度で100℃から365℃まで加熱する(第三ステップ)。なお、サンプリングタイムは0.5秒/回である。第一ステップの吸熱量は303〜353℃の区間、第二ステップの発熱量は318〜309℃の区間、第三ステップの吸熱量は吸熱カーブの終端を基点として48℃の区間を積分して求めるが、この第三ステップにおける吸熱量を融解熱量とする。
【0071】
[透気度(ガーレー秒)の測定方法]
JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)に規定のガーレー透気度試験機と同一構造の王研式透気度測定装置(旭精工社製)を用いて測定した。測定結果は、ガーレー秒で表す。
【0072】
[平均流量孔径の測定方法]
細孔分布測定器(パームポロメータ CFP−1500A:Porous Materials,Inc社製)により、液体として、GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸;Porous Materials,Inc社製)を用い、バブルポイント法(ASTM F316−86、JISK3832)により測定し、前記のようにして次の式により求めた。
平均流量孔径d(μm)=cγ/P
(Pは圧力(Pa)、cは2860、γは液体の表面張力(dynes/cm))
【0073】
[最大孔径の測定方法]
細孔分布測定器(パームポロメータ CFP−1500A:Porous Materials,Inc社製)により、液体として、GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸;Porous Materials,Inc社製)を用い、バブルポイント法(ASTM F316−86、JISK3832)により測定した。具体的には、膜全面が液体で濡れている状態で片面のガス圧を高めていったとき、ガス圧が膜の毛細管力を超えて透過が始まる圧力(最低圧力)を測定し、この最低圧力をPとして上記の式(最大孔径=cγ/P)から算出される値である。
【0074】
[透過性インデックス]
前記の方法で測定された透気度(ガーレー秒)及び平均流量孔(nm)と下記の方法で計測された捕集層の厚み(nm)から次の式により求められた値である。
透過性インデックス=捕集層の厚み(nm)/[(平均流量孔径(nm))
2×ガーレー秒]
【0075】
[捕集層の厚みの計測]
得られた変性PTFE製微細孔径膜にイソプロピルアルコール(IPA)を浸透させた後IPAが乾かないようにしながらフッ素樹脂製微細孔径膜を蒸留水に浸漬し、IPAを水に置換する。これを液体窒素のバスに沈め浸漬し、液体窒素中で、カミソリナイフで切断する。この破断面をSEMで観察して捕集層のみの厚みを計測し、捕集層の厚みとする。
【0076】
実施例1
[ディスパージョンの調整]
前記式(II)で表され、式(II)中のmが283、Rfがパーフルオロメチル−CF
3基であるPFA変性PTEE(IRスペクトルでPAVEの吸収があり、第三ステップの融解熱量23.1J/g、以下単に「PTFE」と表わすことがある)の水性ディスパージョン(分散媒:水、固形分濃度約55質量%)と、MFAラテックス(ソルベイソレクシス社製、PFAディスパージョンD5010)及びPFAディスパージョン920HP(三井・デュポンフロロケミカル社製)を用いて、MFA/(PTFE+MFA+PFA)及びPFA/(PTFE+MFA+PFA)が各2%(フッ素樹脂、すなわちPTFE、MFA、PFAの固形分の体積比)である変性PTEEのディスパージョンを調整した。さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度0.003g/mlとなるように添加して変性PTEEのディスパージョンを調整した。
【0077】
[成膜工程:変性PTFE(フッ素樹脂)製無孔質膜の作製]
次に、厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に雛がないように広げて固定し、前記で調整したディスパージョンを滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにして変性PTEEのディスパージョンをアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。この箔を80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定された変性PTEE薄膜(変性PTEE製無孔質膜)を形成させた。変性PTEE薄膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm
3)から算出した前記変性PTEE製無孔質膜の平均厚さは約2.4μmであった。
【0078】
次に、PFAディスパージョン920HP(三井・デュポンフロロケミカル社製)を蒸留水で4倍の容積に薄めた後、分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度0.003g/mlとなるように添加して、4倍希釈のPFAディスパージョンを調整した。
【0079】
[試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製]
前記で得られたアルミ箔上に固定された変性PTFE樹脂薄膜を、ガラス平板の上に、皺がないように広げて固定し、前記で調整した4倍希釈のPFAディスパージョンを滴下した後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにして4倍希釈のPFAディスパージョンをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、公称孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(多孔質体支持体、住友電工ファインポリマー社製、商品名:ポアフロンFP−045−80、平均流量孔径:0.173μm、気孔率:74%、ガーレー秒=10.7秒)を被せた。
【0080】
その後80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で10時間加熱の各工程を経た後自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上にPTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAで前記変性PTEE製無孔質膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸により溶解除去して、試験体を得た。この試験体のガーレー秒は5000秒以上で、変性PTEE製無孔質膜側から室温でエタノールを接触させてみたが、浸透するような孔は無かった。エタノールが浸透しない実質的に無孔質の膜を含むフッ素樹脂膜複合体(多孔質樹脂膜複合体)であることが示された。
【0081】
[延伸]
1.低温延伸工程
次に、特別製の横軸延伸機にて、入口チャック幅230mm、出口690mm、延伸ゾーンの長さ1m、ライン速度6m/分、25℃で、3倍の延伸を行った。この延伸後の試験体の、試薬GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸:Porous Materials社製)での平均流量孔径及び最大孔径は、いずれも測定限界の20nmより小さく、ガーレー秒(透過係数)は4500秒であった。
2.高温延伸工程
次に、特別製の横軸延伸機にて、入口チャック幅300mm、出口750mm、延伸ゾーンの長さ1m、ライン速度6m/分、140℃で、2.5倍の延伸を行い、変性PTEE製微細孔径膜を得た。この変性PTEE製微細孔径膜の、試薬GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸:Porous Materials社製)での平均流量孔径は32.7nmであり、最大孔径は45.6nmであった。従って、最大孔径と平均流量孔径の差は12.9nmで、(最大孔径−平均流量孔径)/平均流量孔径=38.2%であった。又、ガーレー秒(透過係数)は88秒、捕集層の厚みは1.0μmであり、透過性インデックスは0.0106となった。上記の測定結果を表1に示す。又、低温延伸工程後、高温延伸工程後の試験体の電子顕微鏡写真を、
図1〜3に示す。
【0082】
実施例2
PFA変性PTEEの代わりに、前記式(I)で表され、式(I)中のmが148であるFEP変性PTEE(IRスペクトルでHFPの吸収があり、第三ステップの融解熱量31.0J/g、以下単に「PTFE」と表わすことがある。)の水性ディスパージョン(分散媒:水、固形分濃度約55質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、低温延伸工程後及び高温延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒を測定し、又、高温延伸工程後については得られた変性PTEE製微細孔径膜について捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0083】
実施例3
低温延伸工程での延伸の温度を25℃から15℃に変えた以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、低温延伸工程後及び高温延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒を測定し、又、高温延伸工程後については得られた変性PTEE製微細孔径膜について捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0084】
比較例1
PFA変性PTEEの代わりに、PTFE単独重合体からなる水性ディスパージョン34JR(三井デュポン・フロロケミカル社製、粒子の一次粒子径:250nm、第三ステップの融解熱量53.4J/g)を用い、高温延伸工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(フッ素樹脂製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0085】
比較例2
PFA変性PTEEの代わりに、PTFE単独重合体からなる水性ディスパージョン(三井デュポン・フロロケミカル社製、粒子の一次粒子径:240nm、第三ステップの融解熱量34.9J/g)を用い、高温延伸工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(フッ素樹脂製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0086】
比較例3
PFA変性PTEEの代わりに、PTFE単独重合体(旭硝子社製:AD911:第三ステップの融解熱量30.0J/g)からなる水性ディスパージョン(分散媒:水、固形分濃度約55質量%)を用い、高温延伸工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(フッ素樹脂製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0087】
比較例4
延伸工程において低温延伸工程を行なわず高温延伸工程のみを行った以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0088】
比較例5
高温延伸工程の温度を140℃から60℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生した。
【0089】
比較例6
高温延伸工程の温度を140℃から80℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生した。
【0090】
実施例4
高温延伸工程の温度を140℃から100℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生することなく変性PTFE製微細孔径膜(多孔質膜)が得られた。しかし、得られた変性PTEE製微細孔径膜には光の透過ムラが見られ、延伸にムラがあった。
【0091】
実施例5
高温延伸工程の温度を140℃から100℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生することなく変性PTEE製微細孔径膜(多孔質膜)が得られた。しかし、得られた変性PTEE製微細孔径膜には光の透過ムラが見られ、延伸にムラがあった。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
以上の結果より、次のことが示されている。
25℃で延伸を行った後さらに140℃で延伸を行った実施例1〜3では、平均流量孔径が40nm以下であるにも係らず、最大孔径と平均流量孔径の差異は15nm未満であり、かつ(最大孔径−平均流量孔径)/平均流量孔径は0.5以下であり、孔径分布が狭い変性PTFE製微細孔径膜が得られている。又、実施例1〜3で得られた変性PTEE製微細孔径膜は、透過性インデックスが0.009以上であり透過性も優れている。
【0095】
一方、低温延伸工程又は高温延伸工程を行わなかった比較例1〜4では、最大孔径と平均流量孔径の差異は15nmを超えており、かつ(最大孔径−平均流量孔径)/平均流量孔径は0.5を超えており、得られたフッ素樹脂製微細孔径膜の孔径分布が広いことが示されている。さらに、比較例1、2及び4では、透過性インデックスが0.009よりも小さく透過性に劣ることも示されている。
【0096】
又、比較例3では、単独重合のPTFEであって融解熱量が32J/g未満のフッ素樹脂が、実施例の変性PTFEの代わりに用いられているが、低温延伸工程後の段階で、実施例よりも、最大孔径、平均流量孔径及び最大孔径と平均流量孔径の差異が大きい。この結果より、単独重合のPTFEを用いた場合は、分画性能及び透過性が実施例の場合と同等に優れるフッ素樹脂製微細孔径膜の製造が困難であることが示されている。
【0097】
比較例5、6及び実施例3、4は、高温延伸工程の温度を変更した以外は実施例2と同じ条件で変性PTEE製微細孔径膜の作製を行った例であるが、高温延伸工程を60℃で行った比較例5、80℃で行った比較例6では高温延伸工程で試験体に裂けが発生した。一方、高温延伸工程を100℃で行った実施例4、120℃で行った実施例5では、高温延伸工程で、試験体に裂けは発生せず延伸を行うことができた。この結果より、高温延伸工程(二回目の延伸)は80℃を超える温度で行う必要があることが示されている。なお実施例4、5では、延伸を行うことができたものの、得られた変性PTEE製微細孔径膜には光の透過ムラが見られ、延伸にムラがあった。この結果より、高温延伸工程の好ましい温度は120℃を超える温度であることが示されている。