特許第5873389号(P5873389)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5873389変性ポリテトラフロオロエチレン製微細孔径膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873389
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】変性ポリテトラフロオロエチレン製微細孔径膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20160216BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C08J9/00 ACEW
   B01D71/36
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-112670(P2012-112670)
(22)【出願日】2012年5月16日
(65)【公開番号】特開2013-237808(P2013-237808A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】林 文弘
(72)【発明者】
【氏名】大矢 彩
(72)【発明者】
【氏名】宇野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】片山 寛一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 泰弘
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−094579(JP,A)
【文献】 特開2007−077323(JP,A)
【文献】 特開2011−052175(JP,A)
【文献】 特開昭59−005037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−42
B01D 71/32−36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリテトラフロオロエチレンの粉末を膜状に成形して膜状成形品を得る成膜工程、前記膜状成形品を前記変性ポリテトラフロオロエチレンの融点以上に加熱して無孔質膜状成形品を得る焼結工程、及び、前記無孔質膜状成形品を延伸して多孔質化する延伸工程を有し、前記変性ポリテトラフロオロエチレンの融解熱量が32J/g未満であり、かつ前記延伸工程が、80℃以下で少なくとも1方向へ延伸する低温延伸工程及び前記低温延伸後に行われ80℃を超える温度で少なくとも1方向へ延伸する高温延伸工程を有すること特徴とする変性ポリテトラフロオロエチレン製微細孔径膜の製造方法。
【請求項2】
前記低温延伸工程が、30℃未満で行われることを特徴とする請求項1に記載の変性ポリテトラフロオロエチレン製微細孔径膜の製造方法。
【請求項3】
前記変性ポリテトラフロオロエチレンの粉末が、ヘキサフルオロプロピレン変性ポリテトラフロオロエチレン又はパーフルオロアルキルビニルエーテル変性ポリテトラフロオロエチレンの粉末であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の変性ポリテトラフロオロエチレン製微細孔径膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)やパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)等が少量共重合されたポリテトラフルオロエチレン(以下、「変性PTFE」と言う)からなる微細孔径膜(以下、「変性PTFE製微細孔径膜」と言う)の製造方法に関する。具体的には、変性PTFEの樹脂粒子を膜状に成形後加熱して無孔質化し、得られた無孔質膜を延伸して多孔質化する変性PTFE製微細孔径膜の製造方法に関する。本発明は、又、前記の製造方法により得られ、孔径分布が狭いとともに濾過膜として用いた場合の処理液の透過性に優れる変性PTFE製微細孔径膜に関する。本発明は、さらに、前記変性PTFE製微細孔径膜をその構成要素とする多孔質樹脂膜複合体、及び前記多孔質樹脂膜複合体を濾過膜として用いるフィルターエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂製微細孔径膜とは、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と言う)等のフッ素樹脂を主原料として形成された膜状の多孔質体であってその孔径が微細なものである。フッ素樹脂製微細孔径膜の中でもPTFEを主体として形成されているPTFE製微細孔径膜(PTFE多孔質体)は、耐薬品性、耐熱性に優れるので、微細な粒子を濾過するための濾過膜(フィルター)等として用いられている。
【0003】
PTFE多孔質体の製造方法として、例えば、特許文献1には、PTFEファインパウダーに押出助剤を配合して混合後に所望の形状にペースト押出成形を行い、その押出成形品を加熱して345℃付近の高融点を残した半焼性状態とし、その後に延伸して多孔質化する方法が開示されている。ここで使用されるPTFEファインパウダーとは、テトラフルオロエチレンを乳化重合して生成した粒径が0.15μm〜0.35μmのPTFE粒子(一次粒子)からなるもの(乳化重合品)を乾燥し数百μm〜数千μmに造粒した粉体である。
【0004】
上記の方法では、押出成形品を延伸することにより成形品が多孔質化される。しかしこの方法は、基本的に粉体成形であり成形品を完全溶融しないことから延伸前から粒子間に空隙が存在する。従って、多孔質化された成形品(多孔質体)には大きな孔が生成しやすく、優れた濾過性能を有する微小孔径膜を製造することは困難であった。
【0005】
そこで、PTFEファインパウダー等の粉末を膜状に成形した後、PTFEの融点以上に加熱、焼結し、空気の透過性やアルコールの透過性が消失するまで完全溶融して無孔質化し、その後延伸して多孔質化する方法が特許文献2等で開示されている。又、特許文献3では、PTFE等のフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したディスパージョンを平滑なフィルム上に塗布した後、分散媒の乾燥及びフッ素樹脂粉末の焼結を行ってフッ素樹脂粉末を完全溶融することにより、ボイドやクラック等の欠陥が少ない無孔質のフッ素樹脂薄膜が得られること、この無孔質のフッ素樹脂薄膜を延伸して多孔質化することにより、微細孔を有し気孔率も高くかつ欠陥がないフッ素樹脂薄膜(フッ素樹脂製微細孔径膜)が得られることが開示されている。さらに、特許文献2や3では、分子量の指標である融解熱量が32J/g以上であるPTFEを使用すると、延伸加工性が良いと記載されている。
【0006】
さらに又、特許文献4では、前記の、完全溶融して無孔質化した後に延伸多孔質化する方法において、より孔径が小さい多孔質膜、特に平均流量孔径が45nm以下の多孔質膜を製作するためには、30℃以下で延伸すると良いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−332342号公報
【特許文献2】特開2007−7732号公報
【特許文献3】特許4371176号公報
【特許文献4】特開2010−94579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、フィルターエレメントに使用する濾過膜としてより優れた分画性能を得るため、平均流量孔径と最大孔径間の差異がより小さく、孔径分布が狭い微細孔径膜が望まれている。さらに、濾過膜としてフィルターエレメントに使用され大きな処理流量を得るため、処理液(フィルターエレメントに濾過される液)の透過性に優れる微細孔径膜が望まれている。
【0009】
ここで、平均流量孔径とは、細孔径分布測定器等を用いるバブルポイント法(ASTM F316−86、JISK3832)により、膜に加えられる差圧と膜を透過する空気流量との関係を、膜が乾燥している場合と膜が液体で濡れている場合について測定し、得られたグラフをそれぞれ乾き曲線及び濡れ曲線とし、乾き曲線の流量を1/2とした曲線と、濡れ曲線との交点における差圧をP(Pa)としたとき、式d=cγ/Pで表されるd(μm)の値であり、孔径の平均に対応した指標である(cは定数で2860であり、γは液体の表面張力(dynes/cm)である)。
【0010】
又、最大孔径とは、上記の、細孔径分布測定器等を用いるバブルポイント法により計測される値であり、孔径の分布の上限に対応した指標である。具体的には、膜全面が液体で濡れている状態で片面の空気圧を高めていったとき、膜の毛細管力を超えて空気の透過が始まる圧力(最低圧力)を測定し、この最低圧力をP1として上記の式(最大孔径=cγ/P1)から算出される。又、最近PMI社では、2つの液の組合せによる新しいバブルポイント法を開発しており、この方法により1nm〜数十nmの孔径の測定が可能である(インターネット:pmiapp.com/products/liquid -liquid-porometer.html 等)。
【0011】
しかしながら前記の方法によれば、平均流量孔径が50nm以下の微細孔を有しかつ欠陥が少ないフッ素樹脂製微細孔径膜が得られるものの、処理液の透過性については必ずしも近年の要請を満たすものではなかった。特に、本発明者が鋭意検討した結果、孔径をより小さく調整した場合には透過性が劣り処理流量が小さくなりやすいことが見出された。処理流量が小さくなると、所定の処理量を得るためには、膜面積の増大やポンプの容量の増大等を要し設備の大型化が必要となる。さらに、平均流量孔径が40nm以下となると、平均流量孔径と最大孔径の差(孔径分布)が広がることが本発明者により見出された。
【0012】
孔径分布が広くなると、微細な異物を高い除去効率(充分な分画性能)で除去できない。すなわち、分画性能が低下する。そこで、孔径を非常に小さくした場合、例えば平均流量孔径を40nm以下に調整した場合であっても、平均流量孔径と最大孔径間の差異が小さく分画性能に優れるとともに、透過性にも優れるフッ素樹脂製微細孔径膜の開発が望まれている。
【0013】
本発明は、従来の方法により製造されるフッ素樹脂製微細孔径膜と比べて平均流量孔径と最大孔径間の差異が小さく分画性能に優れるとともに、透過性にも優れるフッ素樹脂製微細孔径膜を製造できる方法、及び、この方法により製造され、分画性能及び透過性がともに優れるフッ素樹脂製微細孔径膜を提供することを課題とする。又本発明は、前記フッ素樹脂製微細孔径膜を用いる多孔質樹脂膜複合体、並びに前記多孔質樹脂膜複合体を用いたフィルターエレメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、フッ素樹脂粉末(粒子)を膜状に成形し、得られた成形品を加熱してフッ素樹脂粉末を完全溶融して無孔質化し、その後延伸して多孔質化する方法において、原料のフッ素樹脂粒子として融解熱量が32J/g未満の変性PTFEを使用するとともに、延伸を、80℃以下での延伸及び80℃を超える温度での延伸の少なくとも2工程で行うことにより、40nm以下の平均流量孔径を有するとともに、平均流量孔径と最大孔径間の差異がより小さくかつ透過性にも優れるフッ素樹脂製微細孔径膜が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
請求項1に記載の発明は、変性PTFEの粉末を膜状に成形して膜状成形品を得る成膜工程、前記膜状成形品を前記変性PTFEの融点以上に加熱して無孔質膜状成形品を得る焼結工程、及び、前記無孔質膜状成形品を延伸して多孔質化する延伸工程を有し、前記変性PTFEの融解熱量が32J/g未満であり、かつ前記延伸工程が、80℃以下で少なくとも1方向へ延伸する低温延伸工程及び前記低温延伸後に行われ80℃を超える温度で少なくとも1方向へ延伸する高温延伸工程を有することを特徴とする変性PTFE製微細孔径膜の製造方法である。
【0016】
本発明の製造方法において原料の変性PTFEの粉末とは、変性PTFEの微細粒子からなる粉体である。変性PTFEの微細粒子(変性PTFE粉末)を液体(分散媒)に分散した乳液である変性PTFEディスパージョンも、原料の変性PTFEの粉末として用いることができる。変性PTFEの粉末としては、例えば、変性PTFEの微細粒子からなる粉体であり乳化重合により製造される変性PTFEファインパウダーや懸濁重合により製造される変性PTFEモールディングパウダーを挙げることができる。
【0017】
変性PTFEの粉末を膜状に成形して所定の形状寸法の膜状成形品を得る方法は、粉体から膜を成形するための公知の方法、例えば、特許文献1に記載のペースト押出や、特許文献2に記載の方法等により行うこともできる。又、変性PTFEディスパージョン等を用い、特許文献3に記載の方法等により膜状成形品を得ることもできる。具体的には、変性PTFEディスパージョンを平坦な板上に塗布して製膜し分散媒を乾燥して除去する方法(キャスティング法)によることもできる。この方法によれば、変性PTFE製無孔質膜中のボイド等の欠陥の生成を大きく抑制でき、膜は配向がなく等方的で均質となり、延伸において収縮・変形することもなく均質な微細孔径膜を得ることができる。変性PTFEは、通常、溶融粘度が高く溶融押出が困難である又その溶液の作製も困難であるので、前記のような方法が一般的に採用される。
【0018】
変性PTFEとは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、アルキルビニルエーテル(PAVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等が少量、好ましくはテトラフルオロエチレンに対して1/50(モル比)以下共重合されたPTFEを言う。
【0019】
成膜工程で得られた膜状成形品は、膜を構成する変性PTFEの融点以上に加熱され、変性PTFEの粉末を完全溶融させる(焼結工程)。変性PTFEの粉末を完全溶融した結果、無孔質膜状成形品(変性PTFE製無孔質膜)が作製される。無孔質膜状成形品とは、膜を貫通する孔がほとんどない膜を意味するが、具体的には、ガーレー秒が5000秒以上の膜が好ましい。変性PTFEの粉末の溶融を完全にしてガーレー秒の大きい無孔質膜状成形品を作製するために、原料の融点より高い温度で加熱されることが好ましく、又樹脂の分解や変性を抑制するために加熱温度は、450℃以下の温度が好ましい。
【0020】
このようにして得られた無孔質膜状成形品は、延伸されて多孔質化される。延伸の前には、変性PTFEの融点以上に昇温した後ゆっくりと結晶融点以下へ徐冷する方法、又は変性PTFEの融点よりもやや低い温度で一定時間加熱する方法(以下、「定温処理」と言うことがある)によりアニールをすることが好ましい。アニールは、特許文献3に記載の方法と同様にして行うことができる。
【0021】
アニールすることにより、延伸前に変性PTFEの樹脂の結晶化度を飽和させることができ、多孔質膜の製造においてより孔径の再現性を高くすることができる。なお、結晶化プロセスでは徐冷速度が低いほどあるいは定温処理時間が長いほど結晶化度が高まり融解熱量が高くなる傾向がある。一方、徐冷速度が高いほどあるいは定温処理時間が短いほど結晶化度は低くなり、融解熱量が低くなる傾向がある。
【0022】
本発明の製造方法は、
1)原料の変性PTFEとして、融解熱量が32J/g未満のものを用いること、
2)延伸工程が、80℃以下で少なくとも1方向へ延伸する低温延伸工程及び前記低温延伸後に行われ80℃を超える温度で少なくとも1方向へ延伸する高温延伸工程を有することを特徴とする。これらの特徴により、40nmの平均流量孔径を有するとともに、平均流量孔径と最大孔径間の差異がより小さくかつ透過性にも優れる変性PTFE製微細孔径膜が得られる。
【0023】
変性PTFE(フッ素樹脂)の融解熱量とは、次に示す方法により測定した値である。
1)被測定試料(変性PTFE)を、室温から100℃まで50℃/分で加熱し、その後10℃/分で365℃まで加熱する(第一ステップ)。
2)次に、350℃まで−10℃/分の速度で冷却し、350℃で5分間保持する。さらに350℃から330℃まで−10℃/分の速度で冷却、330℃から305℃まで−1℃/分の速度で冷却する(第二ステップ)。
3)次に−50℃/分の速度で305℃から100℃まで冷却した後、10℃/分の速度で100℃から365℃まで加熱する(第三ステップ)。
この第三ステップにおける加熱の際の吸熱量を融解熱量とする。
【0024】
変性PTFEの融解熱量は、変性PTFE(フッ素樹脂)の結晶化傾向により調整することができ、結晶化傾向が高い程、融解熱量が大きくなる。又変性PTFEの樹脂の結晶化度は、樹脂の分子量や無孔質膜を形成した後のアニール条件を変えること等により調整することができる。
【0025】
本発明の製造方法の延伸工程においては、80℃以下で延伸した後更に80℃を超える温度で延伸を行う。すなわち、80℃以下で延伸する低温延伸工程及び80℃を超える温度で延伸する高温延伸工程の少なくとも2段階の延伸工程が行われる。延伸を、温度を変えて行う結果、最大孔径と平均流量孔径の差が小さく濾過性能が良いとともに、透過性に優れた変性PTFE製微細孔径膜が得られる。
【0026】
延伸は、低温延伸及び高温延伸のいずれについても、1軸延伸又は2軸延伸で行うことができるが2軸延伸が好ましい。又、低温での延伸及び高温での延伸のそれぞれで異なった方向への延伸を行ってもよい。
【0027】
延伸により無孔質膜状成形品(変性PTFE製無孔質膜)が多孔質化され孔が形成される。延伸の大きさを増大するとともにその孔径が増大し平均流量孔径も増大して行く。従って、所望の平均流量孔径が得られるように、低温での延伸及び高温での延伸の程度が選択される。好ましくは、低温延伸工程と高温延伸工程とで同程度の延伸率となるように延伸が行われる。
【0028】
上記の本発明の製造方法によれば、平均流量孔径が小さい変性PTFE製微細孔径膜を製造することができるが、平均流量孔径が40nm以下の場合であっても、変性PTFE製微細孔径膜の平均流量孔径と最大径の差異を小さく(孔径分布が狭く、従って濾過性能に優れ)、かつ透過性が高いものとすることができる。従って、本発明の製造方法により得られた変性PTFE製微細孔径膜を微細粒子除去のための濾過膜として用いると、微細な粒子を確実に除去することができ、高い除去効率を達成することができるとともに、濾過の処理流量を大きくすることができ、膜面積の増大、ポンプの容量の増大、設備が大型化等の問題を解決することができる。
【0029】
請求項2に記載の発明は、前記低温延伸工程が、30℃未満で行われることを特徴とする請求項1に記載の変性PTFE製微細孔径膜の製造方法である。
【0030】
30℃未満で延伸を行った後、80℃を超える温度での延伸を行うことにより、製造される変性PTFE製微細孔径膜の透過性をより向上させることができるので好ましい。より好ましくは、低温延伸工程を20℃未満で行う場合であり、透過性をさらに向上させることができる。
【0031】
請求項3に記載の発明は、前記変性PTFEの粉末が、PFA変性PTFE又はFEP変性PTFEの粉末であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の変性PTFE製微細孔径膜の製造方法である。
【0032】
原料の変性PTFEの粉末として、PFA変性PTFE又はFEP変性PTFEの粉末を用いることにより、耐熱性、化学安定性が高いとともに、孔径分布がより狭く平均流量孔径と最大径の差異がより小さい変性PTFE製微細孔径膜が得られるので好ましい。
【0033】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の変性PTFE製微細孔径膜の製造方法により製造され、平均流量孔径が40nm以下であることを特徴とする変性PTFE製微細孔径膜である。前記の本発明の製造方法により製造される変性PTFE製微細孔径膜は、平均流量孔径が40nm以下との微細な孔径を有する場合であっても、前記のように、その平均流量孔径と最大径の差異が小さく(孔径分布が狭く、従って濾過性能に優れ)、かつ透過性が高いものである。そして、微細粒子除去のための濾過膜として好適に用いられ、微細な粒子を確実に除去することができ、高い除去効率を達成することができるとともに、濾過の処理流量を大きくすることができる。
【0034】
請求項5に記載の発明は、平均流量孔径と最大孔径の差が15nm未満であることを特徴とする請求項4に記載の変性PTFE製微細孔径膜である。
【0035】
微細な粒子を確実に除去することができ、高い除去効率を達成するためには、微細孔径膜の平均流量孔径が小さく、かつその平均流量孔径と最大径の差異が小さい(孔径分布が狭い。寸法精度が高いと言う)ことが望まれる。中でも、平均流量孔径が40nm以下であり、平均流量孔径と最大孔径の差が15nm未満である場合は、微細な粒子をより確実に除去することができ、微細粒子の高い除去効率を達成するとの効果がより大きくなるので好ましい。
【0036】
請求項6に記載の発明は、(最大孔径−平均流量孔径)/平均流量孔径の値が0.5以下であることを特徴とする請求項5に記載の変性PTFE製微細孔径膜である。平均流量孔径が40nm以下であり、平均流量孔径と最大孔径の差が15nm未満であり、かつ平均流量孔径と最大孔径の差が、平均流量孔径に対し50%以下の大きさである場合は、前記の効果がさらに顕著になるとともに、より微細な粒子を高い除去効率で除去できるのでより好ましい。
【0037】
請求項7に記載の発明は、膜厚(nm)/[(平均流量孔径(nm))×ガーレー秒]で表される透過性インデックスが0.009以上であることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の変性PTFE製微細孔径膜である。本発明の変性PTFE製微細孔径膜は、優れた気孔率を有し、濾過膜として用いた場合大きな処理速度を得ることができる。前記の式で表される透過性インデックスは、気孔率の大小を示す指標であり、透過性インデックスが0.009以上の変性PTFE製微細孔径膜を濾過膜として用いた場合、膜を透過する流束(流量)を大きくすることができ、大きな処理速度を得ることがでるので好ましい。
【0038】
請求項8に記載の発明は、請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の変性PTFE製微細孔径膜を、この変性PTFE製微細孔径膜よりも平均流量孔径が大きくかつ破断荷重が高い多孔質支持体上に固定してなることを特徴とする多孔質樹脂膜複合体である。
【0039】
前記の変性PTFE製微細孔径膜を濾過膜として用いる場合、圧力損失を小さくし濾過の処理速度を大きくするため、膜の厚みは薄い方が好ましく、通常50μm以下が好ましい。しかしこのような厚みでは、濾過膜としての十分な強度が得られない場合がある。そこで、変性PTFE製微細孔径膜を、より平均流量孔径が大きくかつ破断荷重が高い多孔質支持体上に固定して、複合体として使用することが好ましい。多孔質支持体は平均流量孔径が大きいので、変性PTFE製微細孔径膜と組合せても濾過の処理速度等を低下させることはなく、又破断荷重が高いので機械的強度も優れた多孔質樹脂膜複合体が得られる。
【0040】
多孔質支持体は、複合体に機械的強度を付与するものであり、一方複合体が濾過膜として用いられたときには、濾過膜としての特性、例えば処理能力、処理速度等を阻害しないことが望まれる。そこで、多孔質支持体としては、機械的強度や耐薬品性、耐熱性に優れるPTFE製の多孔質体が好ましく用いられ、かつ、その孔径(平均流量孔径)がそれと組合される変性PTFE製微細孔径膜の孔径(平均流量孔径)より大きいだけでなく気孔率が高いことも望まれる。具体的には、PTFE膜を延伸して、100nm以上好ましくは200nm以上の孔を形成して製造されたPTFE製多孔質体であって、充分な機械的強度を付与する厚さを有するものが好ましく用いられる。
【0041】
本発明の多孔質樹脂膜複合体は、前記変性PTFE製無孔質膜を、多孔質支持体に貼り合わして複合体を作製した後、この複合体を延伸することにより得られる。延伸により、複合体を構成する前記変性PTFE製無孔質膜も延伸され、本発明の変性PTFE製微細孔径膜となる。
【0042】
本発明の、多孔質樹脂膜複合体は、その構成要素である変性PTFE製微細孔径膜の優れた効果、すなわち微細粒子除去のための濾過膜として用いた場合、微細な粒子を確実に除去することができ、高い除去効率を達成することができるとともに、濾過の処理流量を大きくすることができるとの効果を保持するとともに、高い機械的強度を有する。又、多孔質樹脂膜複合体とすることにより変性PTFE製微細孔径膜のみの場合と比べて、その使用時や加工する際のハンドリングが容易となる。従って、この多孔質樹脂膜複合体は、微細粒子を濾過するためのフィルターエレメント等に、微細粒子を濾過するための濾過膜として好適に用いられる。そこで、本発明はさらに、請求項9として、請求項8に記載の多孔質樹脂膜複合体を濾過膜として用いることを特徴とするフィルターエレメントを提供する。
【発明の効果】
【0043】
本発明の変性PTFE製微細孔径膜の製造方法により、平均流量孔径が40nm以下の場合であっても平均流量孔径と最大径の差異を小さく(孔径分布が狭く)かつ透過性が高い変性PTFE製微細孔径膜を製造することができる、この製造方法により得られる本発明の変性PTFE製微細孔径膜は、平均流量孔径が40nm以下であるにもかかわらず、平均流量孔径と最大径の差異が小さくかつ透過性が高いので、微細粒子除去のための濾過膜として用いると、微細な粒子を確実に除去することができ、高い除去効率を達成することができるとともに、濾過の処理流量を大きくすることができる。
【0044】
さらに、この変性PTFE製微細孔径膜を多孔質支持体上に固定してなる本発明の多孔質樹脂膜複合体は、微細粒子除去のための濾過膜として用いることができ、濾過膜としての前記の優れた効果を達成することができる。従って、この多孔質樹脂膜複合体を濾過膜として用いた本発明のフィルターエレメントにより、微細な粒子を確実に除去することができ、高い除去効率を達成することができるとともに、濾過の処理流量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】実施例1で得られる中間体(低温延伸工程後)の表面の電子顕微鏡写真である。
図2】実施例1で得られる製品(高温延伸工程後)の表面の電子顕微鏡写真である。
図3】実施例1で得られる製品(高温延伸工程後)の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
次に、本発明を実施するための具体的な形態を説明する。なお、本発明はここに述べる形態に限定されるものではない。
【0047】
本発明において原料として好適であるHFPとテトラフルオロエチレンとの共重合体、又はPAVEとテトラフルオロエチレンとの共重合体である変性PTFEは、それぞれ下記構造式(I)又は下記構造式(II)で表される。
【0048】
【化1】
【0049】
【化2】
【0050】
構造式(I)、構造式(II)中のmは、50以上が好ましい。この場合は、前記共重合体を構成するモノマーとしてはテトラフルオロエチレンが主体であり、その融点は320℃以上と比較的高い。この場合(特にmが100以上の場合)の共重合体は、溶融粘度が高く溶融押出が困難であり、溶融押出可能な熱可塑性樹脂のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)やテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体(PFA)とは区別される。なお、mが400を超えると、HFPやPAVEを共重合させる効果、すなわち、平均流量孔径と最大径の差異をより小さくできるとの効果が得られにくくなるので、mは50〜400の範囲が好ましい。
【0051】
構造式(I)、構造式(II)中のnは重合度を表わす。nの範囲は特に限定されないが本発明の原料としては、前記第3ステップでの融解熱量が18〜32J/gの範囲(となるような分子量)の共重合体が好ましく用いられる。分子量が高すぎると気孔率(すなわち透過性インデックス)が低下する傾向があり、分子量が低すぎるとピンホールを生じる、延伸時に破れ易くなる等の傾向がある。又、前記式(II)中のRfは、パーフルオロアルキル基を表わし、好ましくは、炭素数が3のパーフルオロプロピル−C又は炭素数が1のパーフルオロメチル−CFである。
【0052】
なお、本発明の変性PTFE製微細孔径膜を構成する前記共重合体は、本発明の趣旨を損ねない範囲で、HFP又はPAVEに加えて他の単量体を共重合させたものでもよい。又、HFP及びPAVEを共に共重合させたものでもよい。
【0053】
本発明の製造方法において成膜工程(無孔質膜の形成工程)は、例えば、次に示す方法により行うことができる。
【0054】
(1)変性PTFEのファインパウダーに押出助剤を加えた後、シート状、あるいはチューブ状にペースト押出成形し、必要に応じて圧延する方法。
【0055】
(2)変性PTFEのファインパウダーを圧縮成型により円筒状に成形した後、融点以上にした後、回転させながら切削によって20μm程度の薄いフィルムを作製する方法。
【0056】
(3)変性PTFEのディスパージョンを平滑な箔上に塗布(キャスティング)した後、分散媒を乾燥し、さらに重合体の融点以上に加熱して焼結する方法(すなわち、前記のキャスティング法。特許文献3に記載の方法)。
【0057】
(1)の方法に使用される変性PTFEファインパウダーは、テトラフルオロエチレン及びHFPやPAVE等の共重合される単量体の乳化重合で製造される粒子ラテックス(粒子径:150〜350nm)を凝析、乾燥、造粒した粉体(径:300〜600μm、)である。乳化重合では、テトラフルオロエチレンモノマー及び共重合される単量体(HFPやPAVE等)を水中で重合させながら真球に近い粒子(一次粒子)を150〜350nm程度まで成長させる。
【0058】
(2)の方法に使用される変性PTFEファインパウダーは、(1)の方法に使用されるものと同じ粉体である。
【0059】
(3)の方法に使用される変性PTFEのディスパージョンは、テトラフルオロエチレン及び共重合される単量体(HFP又はPAVE等)の乳化重合等により製造される。
【0060】
変性PTFEのディスパージョンの分散媒は、通常、水等の水性媒体である。ディスパージョン中の変性PTFEの樹脂粒子の含有量は20〜50体積%の範囲が好ましい。ディスパージョン中に、さらにノニオン性で分子量が1万以上の水溶性ポリマーを含有する場合、これらはディスパージョンの分散に影響しないとともに水分乾燥時にゲル化して膜を形成し欠陥がさらに少ない変性PTFEの薄膜(変性PTFE製無孔質膜)が得られるので好ましい。ノニオン性で分子量が1万以上の水溶性ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0061】
この方法に使用される平滑な箔とは、ディスパージョンと接する側の表面に孔や凹凸が観測されない平滑なフィルムである。平滑な箔としては、柔軟性を有し、膜の形成後、酸等による溶解除去が容易な金属箔が好ましい。金属箔の中でもアルミ箔は、柔軟性及び溶解除去の容易さの点で、又入手の容易さの点で特に好適である。
【0062】
平滑な箔の厚さの範囲は特に限定されないが、柔軟性を有する厚さが望ましく、又、膜の形成後平滑な箔の除去を行う場合は除去が困難とならない厚さが望ましい。例えば、平滑な箔を溶解除去する場合は、容易に溶解除去される厚さが望まれる。
【0063】
この方法では、平滑な箔上にディスパージョンを単に塗布する方法等によりキャスティングした後、分散媒の乾燥が行われる。乾燥は、分散媒の沸点に近い温度又は沸点以上に加熱することにより行うことができる。乾燥により変性PTFEの樹脂からなる皮膜が形成されるが、この皮膜を変性PTFEの融点以上に加熱して焼結することにより無孔質の変性PTFEの薄膜(変性PTFE製無孔質膜)を得ることができる。乾燥と焼結の加熱を同一工程で行ってもよい。
【0064】
前記の成膜工程で得られた変性PTFE製無孔質膜は、好ましくはアニールされる。アニールは、無孔質膜を構成する変性PTFEの融点以上に昇温した後ゆっくりと結晶融点以下へ徐冷する方法や、定温処理により行われる。徐冷は、例えば10℃/分以下の冷却速度で行われる。定温処理は、例えば変性PTFEの融点ピークから2℃から10℃低い温度で、30分以上から10時間保持して行われる。
【0065】
成膜工程で得られた(又はさらにアニールされた)変性PTFE製無孔質膜は、前記のようにして80℃以下の温度で延伸された後、さらに80℃を超える温度で延伸されて、本発明の変性PTFE製無孔質膜が得られる。最初の延伸の温度は、80℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、19℃以下であればさらに好ましい。
【0066】
本発明の変性PTFE製微細孔径膜を多孔質支持体に貼り合わすことにより、さらに機械的強度にも優れた多孔質樹脂膜複合体を作製することができる。多孔質樹脂膜複合体の製造方法としては、例えば、次の工程1〜4からなる方法を挙げることができる。
【0067】
工程1:平滑な箔上に、変性PTFEの樹脂粒子を分散媒中に分散したディスパージョンを塗布した後、前記分散媒を乾燥し、さらに変性PTFEの融点以上に加熱して焼結し、変性PTFE製無孔質膜を形成する。
工程2:必要により工程1を繰返した後、前記変性PTFE製無孔質膜上に多孔質支持体を貼り合せる。変性PTFE製無孔質膜と多孔質支持体との貼り合せには、PTFEよりも融点の低い熱可塑性の樹脂例えばPFAを接着剤として用いて行ってもよい。
工程3:工程2の後、前記平滑な箔を除去して前記変性PTFE製無孔質膜及び多孔質支持体からなる複合体を得る。平滑な箔の除去の方法は特に限定されないが、平滑な箔が金属箔の場合は、酸等により溶解除去する方法を挙げることができる。
工程4:前記複合体を延伸する。前記のように、延伸前にアニールをすることにより、延伸前の変性PTFEの樹脂の結晶化度を飽和させることができ、その結果、高い気孔率(大きな透過性インデックス)が得られ、より孔径の再現性を高くして製造することが可能となるので好ましい。
【実施例】
【0068】
先ず、実施例、比較例における融解熱量、透気度(ガーレー秒)、平均流量孔径、最大孔径、及び透過性インデックスの測定方法について述べる。
【0069】
[融解熱量の測定方法]
熱流束示差走査熱量計(島津製作所社製;熱流束示差走査熱量計DSC−50)を用い、以下に示す方法により行った。
【0070】
サンプル10〜20mgを、室温から100℃まで50℃/分で加熱し、その後10℃/分で365℃まで加熱する(第一ステップ)。次に、350℃まで−10℃/分の速度で冷却し、350℃で5分間保持する。さらに350℃から330℃まで−10℃/分の速度で冷却、330℃から305℃まで−1℃/分の速度で冷却する(第二ステップ)。次に−50℃/分の速度で305℃から100℃まで冷却した後、10℃/分の速度で100℃から365℃まで加熱する(第三ステップ)。なお、サンプリングタイムは0.5秒/回である。第一ステップの吸熱量は303〜353℃の区間、第二ステップの発熱量は318〜309℃の区間、第三ステップの吸熱量は吸熱カーブの終端を基点として48℃の区間を積分して求めるが、この第三ステップにおける吸熱量を融解熱量とする。
【0071】
[透気度(ガーレー秒)の測定方法]
JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)に規定のガーレー透気度試験機と同一構造の王研式透気度測定装置(旭精工社製)を用いて測定した。測定結果は、ガーレー秒で表す。
【0072】
[平均流量孔径の測定方法]
細孔分布測定器(パームポロメータ CFP−1500A:Porous Materials,Inc社製)により、液体として、GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸;Porous Materials,Inc社製)を用い、バブルポイント法(ASTM F316−86、JISK3832)により測定し、前記のようにして次の式により求めた。
平均流量孔径d(μm)=cγ/P
(Pは圧力(Pa)、cは2860、γは液体の表面張力(dynes/cm))
【0073】
[最大孔径の測定方法]
細孔分布測定器(パームポロメータ CFP−1500A:Porous Materials,Inc社製)により、液体として、GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸;Porous Materials,Inc社製)を用い、バブルポイント法(ASTM F316−86、JISK3832)により測定した。具体的には、膜全面が液体で濡れている状態で片面のガス圧を高めていったとき、ガス圧が膜の毛細管力を超えて透過が始まる圧力(最低圧力)を測定し、この最低圧力をPとして上記の式(最大孔径=cγ/P)から算出される値である。
【0074】
[透過性インデックス]
前記の方法で測定された透気度(ガーレー秒)及び平均流量孔(nm)と下記の方法で計測された捕集層の厚み(nm)から次の式により求められた値である。
透過性インデックス=捕集層の厚み(nm)/[(平均流量孔径(nm))×ガーレー秒]
【0075】
[捕集層の厚みの計測]
得られた変性PTFE製微細孔径膜にイソプロピルアルコール(IPA)を浸透させた後IPAが乾かないようにしながらフッ素樹脂製微細孔径膜を蒸留水に浸漬し、IPAを水に置換する。これを液体窒素のバスに沈め浸漬し、液体窒素中で、カミソリナイフで切断する。この破断面をSEMで観察して捕集層のみの厚みを計測し、捕集層の厚みとする。
【0076】
実施例1
[ディスパージョンの調整]
前記式(II)で表され、式(II)中のmが283、Rfがパーフルオロメチル−CF基であるPFA変性PTEE(IRスペクトルでPAVEの吸収があり、第三ステップの融解熱量23.1J/g、以下単に「PTFE」と表わすことがある)の水性ディスパージョン(分散媒:水、固形分濃度約55質量%)と、MFAラテックス(ソルベイソレクシス社製、PFAディスパージョンD5010)及びPFAディスパージョン920HP(三井・デュポンフロロケミカル社製)を用いて、MFA/(PTFE+MFA+PFA)及びPFA/(PTFE+MFA+PFA)が各2%(フッ素樹脂、すなわちPTFE、MFA、PFAの固形分の体積比)である変性PTEEのディスパージョンを調整した。さらに分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度0.003g/mlとなるように添加して変性PTEEのディスパージョンを調整した。
【0077】
[成膜工程:変性PTFE(フッ素樹脂)製無孔質膜の作製]
次に、厚さ50μmのアルミ箔をガラス平板の上に雛がないように広げて固定し、前記で調整したディスパージョンを滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフト(ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにして変性PTEEのディスパージョンをアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。この箔を80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に固定された変性PTEE薄膜(変性PTEE製無孔質膜)を形成させた。変性PTEE薄膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm)から算出した前記変性PTEE製無孔質膜の平均厚さは約2.4μmであった。
【0078】
次に、PFAディスパージョン920HP(三井・デュポンフロロケミカル社製)を蒸留水で4倍の容積に薄めた後、分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度0.003g/mlとなるように添加して、4倍希釈のPFAディスパージョンを調整した。
【0079】
[試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製]
前記で得られたアルミ箔上に固定された変性PTFE樹脂薄膜を、ガラス平板の上に、皺がないように広げて固定し、前記で調整した4倍希釈のPFAディスパージョンを滴下した後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス鋼製のスライドシャフトを滑らすようにして4倍希釈のPFAディスパージョンをアルミ箔一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、公称孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(多孔質体支持体、住友電工ファインポリマー社製、商品名:ポアフロンFP−045−80、平均流量孔径:0.173μm、気孔率:74%、ガーレー秒=10.7秒)を被せた。
【0080】
その後80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で10時間加熱の各工程を経た後自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上にPTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAで前記変性PTEE製無孔質膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。次いで、アルミ箔を塩酸により溶解除去して、試験体を得た。この試験体のガーレー秒は5000秒以上で、変性PTEE製無孔質膜側から室温でエタノールを接触させてみたが、浸透するような孔は無かった。エタノールが浸透しない実質的に無孔質の膜を含むフッ素樹脂膜複合体(多孔質樹脂膜複合体)であることが示された。
【0081】
[延伸]
1.低温延伸工程
次に、特別製の横軸延伸機にて、入口チャック幅230mm、出口690mm、延伸ゾーンの長さ1m、ライン速度6m/分、25℃で、3倍の延伸を行った。この延伸後の試験体の、試薬GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸:Porous Materials社製)での平均流量孔径及び最大孔径は、いずれも測定限界の20nmより小さく、ガーレー秒(透過係数)は4500秒であった。
2.高温延伸工程
次に、特別製の横軸延伸機にて、入口チャック幅300mm、出口750mm、延伸ゾーンの長さ1m、ライン速度6m/分、140℃で、2.5倍の延伸を行い、変性PTEE製微細孔径膜を得た。この変性PTEE製微細孔径膜の、試薬GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸:Porous Materials社製)での平均流量孔径は32.7nmであり、最大孔径は45.6nmであった。従って、最大孔径と平均流量孔径の差は12.9nmで、(最大孔径−平均流量孔径)/平均流量孔径=38.2%であった。又、ガーレー秒(透過係数)は88秒、捕集層の厚みは1.0μmであり、透過性インデックスは0.0106となった。上記の測定結果を表1に示す。又、低温延伸工程後、高温延伸工程後の試験体の電子顕微鏡写真を、図1〜3に示す。
【0082】
実施例2
PFA変性PTEEの代わりに、前記式(I)で表され、式(I)中のmが148であるFEP変性PTEE(IRスペクトルでHFPの吸収があり、第三ステップの融解熱量31.0J/g、以下単に「PTFE」と表わすことがある。)の水性ディスパージョン(分散媒:水、固形分濃度約55質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、低温延伸工程後及び高温延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒を測定し、又、高温延伸工程後については得られた変性PTEE製微細孔径膜について捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0083】
実施例3
低温延伸工程での延伸の温度を25℃から15℃に変えた以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、低温延伸工程後及び高温延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒を測定し、又、高温延伸工程後については得られた変性PTEE製微細孔径膜について捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0084】
比較例1
PFA変性PTEEの代わりに、PTFE単独重合体からなる水性ディスパージョン34JR(三井デュポン・フロロケミカル社製、粒子の一次粒子径:250nm、第三ステップの融解熱量53.4J/g)を用い、高温延伸工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(フッ素樹脂製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0085】
比較例2
PFA変性PTEEの代わりに、PTFE単独重合体からなる水性ディスパージョン(三井デュポン・フロロケミカル社製、粒子の一次粒子径:240nm、第三ステップの融解熱量34.9J/g)を用い、高温延伸工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(フッ素樹脂製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0086】
比較例3
PFA変性PTEEの代わりに、PTFE単独重合体(旭硝子社製:AD911:第三ステップの融解熱量30.0J/g)からなる水性ディスパージョン(分散媒:水、固形分濃度約55質量%)を用い、高温延伸工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(フッ素樹脂製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0087】
比較例4
延伸工程において低温延伸工程を行なわず高温延伸工程のみを行った以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行った。又、実施例1と同様にして、延伸工程後の最大孔径、平均流量孔径、ガーレー秒、捕集層の厚み、透過性インデックスを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0088】
比較例5
高温延伸工程の温度を140℃から60℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生した。
【0089】
比較例6
高温延伸工程の温度を140℃から80℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生した。
【0090】
実施例4
高温延伸工程の温度を140℃から100℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生することなく変性PTFE製微細孔径膜(多孔質膜)が得られた。しかし、得られた変性PTEE製微細孔径膜には光の透過ムラが見られ、延伸にムラがあった。
【0091】
実施例5
高温延伸工程の温度を140℃から100℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、ディスパージョンの調整、成膜工程(変性PTEE製無孔質膜の作製)、試験体(多孔質樹脂膜複合体)の作製、及び延伸を行ったところ、高温延伸工程で試験体に裂けが発生することなく変性PTEE製微細孔径膜(多孔質膜)が得られた。しかし、得られた変性PTEE製微細孔径膜には光の透過ムラが見られ、延伸にムラがあった。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
以上の結果より、次のことが示されている。
25℃で延伸を行った後さらに140℃で延伸を行った実施例1〜3では、平均流量孔径が40nm以下であるにも係らず、最大孔径と平均流量孔径の差異は15nm未満であり、かつ(最大孔径−平均流量孔径)/平均流量孔径は0.5以下であり、孔径分布が狭い変性PTFE製微細孔径膜が得られている。又、実施例1〜3で得られた変性PTEE製微細孔径膜は、透過性インデックスが0.009以上であり透過性も優れている。
【0095】
一方、低温延伸工程又は高温延伸工程を行わなかった比較例1〜4では、最大孔径と平均流量孔径の差異は15nmを超えており、かつ(最大孔径−平均流量孔径)/平均流量孔径は0.5を超えており、得られたフッ素樹脂製微細孔径膜の孔径分布が広いことが示されている。さらに、比較例1、2及び4では、透過性インデックスが0.009よりも小さく透過性に劣ることも示されている。
【0096】
又、比較例3では、単独重合のPTFEであって融解熱量が32J/g未満のフッ素樹脂が、実施例の変性PTFEの代わりに用いられているが、低温延伸工程後の段階で、実施例よりも、最大孔径、平均流量孔径及び最大孔径と平均流量孔径の差異が大きい。この結果より、単独重合のPTFEを用いた場合は、分画性能及び透過性が実施例の場合と同等に優れるフッ素樹脂製微細孔径膜の製造が困難であることが示されている。
【0097】
比較例5、6及び実施例3、4は、高温延伸工程の温度を変更した以外は実施例2と同じ条件で変性PTEE製微細孔径膜の作製を行った例であるが、高温延伸工程を60℃で行った比較例5、80℃で行った比較例6では高温延伸工程で試験体に裂けが発生した。一方、高温延伸工程を100℃で行った実施例4、120℃で行った実施例5では、高温延伸工程で、試験体に裂けは発生せず延伸を行うことができた。この結果より、高温延伸工程(二回目の延伸)は80℃を超える温度で行う必要があることが示されている。なお実施例4、5では、延伸を行うことができたものの、得られた変性PTEE製微細孔径膜には光の透過ムラが見られ、延伸にムラがあった。この結果より、高温延伸工程の好ましい温度は120℃を超える温度であることが示されている。
図1
図2
図3