特許第5873403号(P5873403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873403
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】スポット溶接用電極チップ
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20160216BHJP
   B23K 11/36 20060101ALI20160216BHJP
   B23K 35/04 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   B23K11/30 320
   B23K11/36 310
   B23K35/04
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-155499(P2012-155499)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-14862(P2014-14862A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100131750
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 芳通
(74)【代理人】
【識別番号】100146112
【弁理士】
【氏名又は名称】亀岡 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100167335
【弁理士】
【氏名又は名称】武仲 宏典
(74)【代理人】
【識別番号】100164998
【弁理士】
【氏名又は名称】坂谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊夫
【審査官】 水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−226465(JP,A)
【文献】 実開昭55−055283(JP,U)
【文献】 西独国特許出願公開第03509629(DE,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/30
B23K 11/36
B23K 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上重ねた金属板の両面を一対の電極で挟み込んで通電することによりこれらの金属板を接合するスポット溶接に用いられる電極チップであって、
いずれも銅系材料からなる中心部分と外縁部分と、これらの接合面に介在する、電気抵抗率が1Ω・m以上の非導電性膜と、からなり、
さらに、前記中心部分は、先端側の円柱部と後端側のフランジ部とからなり、前記外縁部分は、その内周部が、前記非導電性膜を介して前記中心部分の円柱部に摺動可能に嵌挿されているとともに、その後端部が、弾性体からなる加圧力調整部材を介して前記中心部分のフランジ部に接続されていることによって、前記2枚以上重ねた金属板に対する当該外縁部分による加圧力が調整可能に構成されている
ことを特徴とするスポット溶接用電極チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚以上重ねた金属板の両面を一対の電極で挟み込んで通電することにより金属板を接合するスポット溶接に用いられる電極チップに関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接は、一般に2枚以上の金属板を重ねたのち、その重ね合わせ部の両面から一対の電極で挟み込み、電流を流して抵抗発熱により金属板の接合界面を溶融させて接合するものである。
【0003】
スポット溶接では、電極を金属板に押し付ける加圧力、電流値、通電時間が主要な3つの制御因子である。
【0004】
このうち、電流値は特に重要な因子である。電流値が低すぎると、溶融して形成されるナゲットの径が小さく、接合強度が不足する。一方、電流値が高すぎると、チリが発生しナゲット径は大きくなるが、継手強度がばらつくため好ましくない。このため、ナゲット径が確保できる電流値から、チリが発生し始める電流値までが、スポット溶接の適正電流範囲(ウェルドローブ)となる。この適正電流範囲(ウェルドローブ)を広げることができるとスポット溶接が容易となる。
【0005】
スポット溶接の適正電流範囲(ウェルドローブ)を広げることができる電極チップ(電極)として、従来種々の提案がなされている。
【0006】
[従来技術1]
例えば、特許文献1には、中心部分が銅系材料、外縁部分が鉄系材料からなるスポット溶接用複合型電極が開示されている。
【0007】
この複合型電極は、溶接時の加圧力は外縁部分で受け、電流は中心部分を通すように導電率の異なる二種の材料で構成したものであり、高い電流密度で被溶接物に通電することができ、必要な大きさのナゲットを容易に得ることができるとともに、連続打点を長時間繰り返しても中心部分の直径の拡大が有効に抑制され、健全な溶接品質を保つことができ、電極寿命が大幅に改善されるとしている。
【0008】
[従来技術2]
また、特許文献2には、中心部分が銅系材料、外縁部分がセラミックスまたはサーメットからなるスポット溶接用電極が開示されている。
【0009】
この電極も、上記従来技術1と同様、溶接時の加圧力は外縁部分で受け、電流は中心部分を通すように導電率の異なる二種の材料で構成したものであり、連続打点を長時間繰り返しても中心部分の直径の拡大が有効に抑制され、特別の大電流を通電しなくとも、常に、必要な電流密度を確保でき、この結果、健全な溶接品質を安定して維持することができるとしている。
【0010】
[従来技術3]
また、特許文献3には、アルミニウムもしくはアルミニウム合金板、これらの表面に金属めっきを施した材料、またはめっき鋼板の抵抗スポット溶接にあたり、被溶接板の板厚をtとした際に導電率が75(IACS%)以上でその直径が2.5×t1/2(mm)以上の金属を芯材とし、その周囲に芯材よりも導電率が40(IACS%)以上低く、かつ融点が前記アルミニウムもしくはアルミニウム合金、または前記めっき金属より高い金属を被覆した抵抗スポット溶接用電極が開示されており、その実施例には、芯材として銅系材料、被覆材として鉄、ステンレス、チタン、ニッケル、ニッケル合金、モリブデン、タングステンが例示されている。
【0011】
この電極も、上記従来技術1および2と同様、溶接時の加圧力は外縁部分で受け、電流は中心部分を通すように導電率の異なる二種の材料で構成したものであり、チリの発生を防止することで、電極寿命を飛躍的に向上することができるとしている。
【0012】
上記従来技術1〜3のスポット溶接用電極は、いずれも、中心部分と外縁部分とに分けて構成され、中心部分には銅系材料を用いる点では、本願発明のスポット溶接用電極チップと共通している。
【0013】
しかしながら、本願発明のスポット溶接用電極チップは、後述するように、いずれも銅系材料からなる中心部分と外縁部分との接合面に非導電性膜を介在させて絶縁することで、ナゲット領域の溶融金属が被溶接部材の間から飛び出すのを阻止することにより中チリの発生を防止するとともに、電極外縁部から効率的に冷却することにより表チリの発生をも防止することを特徴とするものである。
【0014】
これに対し、特許文献1および3に開示されたスポット溶接用電極は、外縁部に金属材料を用いていることから、その熱伝導率は十分高いため、外縁部からの冷却作用により、表チリの発生を防止する機能は有するものの、その絶縁性は不足するため、ナゲット領域が拡大し、溶融金属の飛び出しが阻止できなくなり、中チリの発生を効果的に防止することができない。
【0015】
一方、特許文献2に開示されたスポット溶接用電極は、外縁部にセラミックスまたはサーメットを用いていることから、その絶縁性は十分高いため、ナゲット領域の溶融金属が被溶接部材の間から飛び出すのを阻止することにより中チリの発生を防止する機能は有するものの、その熱伝導率は低いため、外縁部からの冷却作用が不足し、表チリの発生を効果的に防止することができない。
【0016】
したがって、従来のスポット溶接用電極には、いまだ改善の余地があり、スポット溶接の適正電流範囲(ウェルドローブ)をさらに拡大しうるスポット溶接用電極チップの提供が強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平1−210179号公報
【特許文献2】特開平1−210180号公報
【特許文献3】特開平5−318140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、スポット溶接の適正電流範囲(ウェルドローブ)をさらに拡大しうるスポット溶接用電極チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明は、2枚以上重ねた金属板の両面を一対の電極で挟み込んで通電することによりこれらの金属板を接合するスポット溶接に用いられる電極チップであって、いずれも銅系材料からなる中心部分と外縁部分と、これらの接合面に介在する、電気抵抗率が1Ω・m以上の非導電性膜と、からなり、さらに、前記中心部分は、先端側の円柱部と後端側のフランジ部とからなり、前記外縁部分は、その内周部が、前記非導電性膜を介して前記中心部分の円柱部に摺動可能に嵌挿されているとともに、その後端部が、弾性体からなる加圧力調整部材を介して前記中心部分のフランジ部に接続されていることによって、前記2枚以上重ねた金属板に対する当該外縁部分による加圧力が調整可能に構成されていることを特徴とするスポット溶接用電極チップである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るスポット溶接用電極チップは、いずれも銅系材料からなる中心部分と外縁部分との接合面に非導電性膜を介在させて絶縁するとともに、前記外縁部分による加圧力を調整可能に構成したことで、ナゲット領域の溶融金属が被溶接部材の間から飛び出すのを阻止することにより中チリの発生をさらに確実に防止するとともに、電極外縁部から効率的に冷却することにより表チリの発生をも防止することが可能となり、スポット溶接の適正電流範囲(ウェルドローブ)をさらに拡大できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係るスポット溶接用電極チップの概略構成を示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)におけるAA線矢視図である。
図2】本発明の第2実施形態に係るスポット溶接用電極チップの概略構成を示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)におけるAA線矢視図である。
図3】実施例で用いた電極チップの概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記課題を解決するため、本発明者らは、まず、チリ発生のメカニズムについて検討を行った。すなわち、チリの種類には、重ね合わせた板間から発生する「中チリ」と、金属板の表面から発生する「表チリ」とがある。このうち、「中チリ」は、2枚以上重ねた金属板の重ね合わせ部を表裏から一対の電極チップで押さえ込んで通電した際に、溶融領域(ナゲット領域)が大きくなりすぎるとその体積膨張により重ね合わせ部の板同士の間隔(以下、「板間」という。)が広がり、溶融物の一部がその板間から外に飛び出すことで発生する。一方、「表チリ」は、金属板の表面(重ね合わせ面でない面)まで溶融領域が広がることで発生する。
【0024】
したがって、本発明者らは、電極チップで加圧しつつ通電することで形成される溶融領域の周囲を加圧することで、溶融物の一部が板間から飛び出すのを阻止することにより中チリの発生を防止することができ、一方、電極チップの周囲から冷却することで、電極チップ周囲の金属板表面まで溶融領域が広がることを阻止することにより表チリの発生を防止することができるのではないかと考えた。
【0025】
そして、上記溶融物の板間からの飛び出し阻止および金属板表面までの溶融領域の拡大阻止という2種類の相異なる作用を同時に奏させるためには、具体的には、電極チップを中心部分と外縁部分とに分け、それらの接合面に非導電性膜を介在させて絶縁するように構成し、前記中心部分により金属板の重ね合わせ部を加圧しつつ通電する際に、前記外縁部分で電極チップ周縁の重ね合わせ部を加圧することで実現できると考えた。
【0026】
そこで、後記[実施例]にて説明する実証試験を行った結果、確証が得られたので、さらに検討を加え、本発明を完成するに至った。
【0027】
本発明に係るスポット溶接用電極チップは、いずれも銅系材料からなる中心部分と外縁部分と、これらの接合面に介在する、電気抵抗率が1Ω・m以上の非導電性膜と、からなることを特徴とする。
【0028】
以下、本発明について図面を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0029】
[第1実施形態]
図1に、本発明の一実施形態に係るスポット溶接用電極チップの概略構成を示す。ここに、符号1は中心部分、符号2は外縁部分、符号3は非導電性膜を示している。
【0030】
先ず、電極チップの構造としては、一体型とキャップ型のいずれでもよいが、中心部分1は、通電を受け持つため、図示しない溶接機のアダプタないしホルダの通電部と直接接触するような構造とする。
【0031】
一方、外縁部分2は、電極チップの根元側から加えられる加圧力の一部もしくは全部が、直接、または中心部分1および非導電性膜3を介して間接的に外縁部分2に伝えられるような構造とすればよい。中心部分1と外縁部分2との接合面には非導電性膜3を介在させるが、この非導電性膜3を、あらかじめ前記接合面の中心部分1側あるいは外縁部分2側に被覆しておき、その後、中心部分1と外縁部分2とを接合すればよい。この接合は、連続的なスポット溶接作業で外縁部分2が脱落しない程度に両者が結合しておればよく、機械的叩き込みによる嵌合、接合面へのねじ切りによる螺合、焼き嵌め、鋲止めなど、種々の手段が採用できる。なお、電極チップ先端の形状としては、本例では円錐台型を例示したが、ラジアス型、ドームラジアス型など、いずれの形状のものを採用してもよい。
【0032】
次に、電極チップの材料としては、中心部分1は、スポット溶接の際に大電流をロスなく通電させるために、電気抵抗の小さい、すなわち、導電率の高い銅系材料を用いる必要がある。銅系材料としては、具体的には、純銅の他、導電率を保ちながら強度・耐熱性を高めた、銅−クロム合金、アルミナ分散銅などが使用できる。なお、高強度鋼板などをスポット溶接する際には接合面を十分に接触させるために加圧力を高める必要があるので、強度・耐熱性が高いものを選択するのが推奨される。
【0033】
また、外縁部分2は、通電はしないものの、ナゲット領域の周囲を加圧するとともに効率的に冷却するため、熱伝導性に優れた銅系材料を用いる。銅系材料としては、中心部分1と同じく、純銅の他、強度・耐熱性を高めた、銅−クロム合金、アルミナ分散銅などが使用できる。なお、中心部分1と外縁部分3とでは、必ずしも同じ銅系材料を用いる必要はなく、例えば、中心部分1には導電性に優れた純銅を用い、外縁部分3には強度・耐熱性に優れた銅−クロム合金あるいはアルミナ分散銅を用いることもできる。
【0034】
スポット溶接の際に電極チップの中心部分1で加圧しつつ通電している領域の外側にまでも電流が流れてその外側領域が溶融ないし軟化すると、ナゲット領域が溶融する際の熱膨張の圧力で被溶接金属板が変形し、溶融金属が板間から外部に噴出することで中チリとなる。したがって、中チリを抑制するためには、スポット溶接部の外周部を通電することなく加圧して、ナゲット領域の溶融金属が板間から外部に噴出することを阻止すればよい。そのため、中心部分1と外縁部分2の接合面に絶縁性の高い、すなわち、電気抵抗率の高い非導電性膜3を配置すればよい。中心部分1および外縁部分2の材料(例えば、純銅もしくは銅−クロム合金)の電気抵抗率がおよそ1×10−7Ω・mであることから、非導電性膜3の材料としては、それより電気抵抗率が大幅に高い1Ω・m以上、好ましくは1×10Ω・m以上、さらに好ましくは1×10Ω・m以上の材料を用いる。そのような材料としては、セラミックス、合成樹脂などが挙げられるが、より具体的には、セラミックスとしては、AlN、ZrO、BeO、SiC−BeOなど、合成樹脂としては、ポリエチレン、テフロン(登録商標)などが例示できる。また、非導電性膜3の厚みは、中心部分1から外縁部分2への通電を確実に阻止するため、0.001mm以上とすればよいが、厚みが大きすぎると外縁部分2による冷却作用が減殺されるので、1.0mm以下とするのが好ましい。なお、非導電性皮膜3は、その使用する材料に応じて、例えば、中心部分1と外縁部分2の接合面に皮膜材料を蒸着した後に熱処理する方法、前記接合面に皮膜材料をメッキする方法、板状の皮膜材料を前記接合面の形状に合わせて加工したものを貼り付ける方法など、周知の方法を適宜選択して用いることにより容易に形成することができる。
【0035】
このように、本発明に係る電極チップは、その先端の形状が、非導電性膜3膜の厚みの部分を除いて、銅系材料のみで形成されるので、チップ先端が長時間のスポット溶接によりダメージを受けた場合でも、ブラッシングでチップ先端の形状を容易に再生させることができるという効果も有する。
【0036】
[第2実施形態]
前記第1実施形態では、電極チップの中心部分1と外縁部分2との接合面に非導電性膜3を介在させて接合(固着)し一体化した例を示したが、図2に示すように、中心部分1は、先端側の円柱部1aと後端側のフランジ部1bとからなるものとし、外縁部分2は、その内周部2aが、前記非導電性膜3を介して前記中心部分1の円柱部1aに摺動可能に嵌挿されているとともに、その後端部2bが、弾性体からなる加圧力調整部材4を介して中心部分1のフランジ部1bに接続されているものとする。
【0037】
このような構成を採用することで、弾性体の種類や構造を変更することにより、外縁部分2による加圧力が調整可能となり、中チリの発生をさらに確実に防止することができるようになり、スポット溶接の適正電流範囲をより拡大することが可能となる。
【0038】
弾性体としては、コイルばね、板ばね、ゴム、シリコンゴム等を例示できるが、スポット溶接の連続打点の長時間繰り返しに耐えるだけの十分な強度を有し、かつ、電極チップの中心部分1と外縁部分2とで加圧力の差異を付与できるものであれば、その材質および形態を問わない。
【0039】
なお、本実施形態では、図2に示すように、非導電性膜3を中心部分1側に被覆して絶縁する例を示したが、これに代えて、外縁部分2側に被覆しても同様の絶縁作用が得られる。また、本実施例では、同じく図2に示すように、中心部分1のフランジ部1bと加圧力調整部材としてのコイルばね4との間に非導電性膜3を介在させて絶縁する例を示したが、加圧力調整部材としてゴムあるいはシリコンゴムを用いる場合は、これらの材料はもともと絶縁性を有しているので、中心部分1のフランジ部1bと加圧力調整部材4との間の非導電性膜3を省略することができる。
【実施例】
【0040】
本発明に係るスポット溶接用電極チップの適用性について確証するため、スポット溶接機にて、種々の電極チップを用いて溶接試験を行った。
【0041】
本実施例では、電極チップの形態として、ドームラジアス形状のキャップ型チップを用いた。
【0042】
図3に本実施例で用いた電極チップの概略構成を示す。同図において、(a)はチップ全体が純銅で一体に形成されたもの、(b)は中心部分と外縁部分とが膜で隔絶されて形成されたもの、(c)は中心部分と外縁部分とが膜で隔絶されるとともに、外縁部分が中心部分とコイルばね(弾性体)で結合されたものである。そして、(b)の場合は、中心部分および外縁部分の材料と膜の材料とを種々変化させ、また(c)の場合は、中心部分および外縁部分の材料と膜の材料とを種々変化させるとともに、コイルばねのばね定数を変更することで中心部分と外縁部分との加圧力の比率を変化させて溶接実験を行った。なお、(b)、(c)の場合とも、中心部分と外縁部分の材料は同一とした。また、電極チップの各部の寸法は、図3中に記載したとおりである。
【0043】
溶接条件は以下のとおりである。
・全加圧力:400kN
・電極ホルダ:銅−クロム合金
・初期加圧時間:0.90秒
・通電時間:0.25秒
・電流値:4〜12kA
・被溶接鋼板:鋼種…JSC980Y
組成…0.20C−1.0Si−2.0Mn
板厚…1.2mm
引張強度…1020MPa
【0044】
そして、上記被溶接鋼板を2枚重ねしたものに対して、各電極チップを用いて、溶接電流を低電流側から順次増加させてスポット溶接を行い、ナゲット径(単位:mm)が4√t(ただし、t:板厚[単位:mm])となる最低電流値と、チリが発生し始める限界電流値とをそれぞれ求めた。また、そのチリが発生した試験で得られた継手を断面観察してチリの種類を特定した。そして、最低電流値から限界電流値までの幅(適正電流範囲)が3.0kA以上の場合を良好な溶接方法と判断した。
【0045】
下記表1に試験条件および測定結果を示す。
【0046】
同表において、試験No.1は、従来の、チップ全体が一体に形成された電極チップを用いたスポット溶接に相当する参考例である。この参考例のチリ限界電流は7.0kA、適正電流範囲は2.0kAであった。
【0047】
そして、試験No.2〜5,8〜16は、本発明の要件を全て満たす発明例である。いずれの発明例も、チリ限界電流が大きく上昇した結果、適正電流範囲は3.0kA以上に達しており、上記参考例の適正電流範囲よりも大幅に広くなっていることがわかる。
【0048】
これに対して、試験No.6,7は、本発明の要件のいずれかを満たさない比較例である。これらの比較例の適正電流範囲は2.0〜2.5kAであり、上記参考例の適正電流範囲とほぼ同等か少し広い程度であり、十分な改善効果が得られていないことがわかる。
【0049】
以上の結果より明らかなように、本発明に係るスポット溶接用電極チップを用いることで、より確実にチリの発生を防止することができるようになり、その結果、チリ限界電流が大きく上昇し、スポット溶接の適正電流範囲(ウェルドローブ)を大幅に拡大できることが確認された。
【0050】
【表1】
【符号の説明】
【0051】
1…中心部分
1a…円柱部
1b…フランジ部
2…外縁部分
2a…内周部
2b…後端部
3…非導電膜
4…加圧力調整部材(弾性体)
図1
図2
図3