(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873406
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/38 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
F16F9/38
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-177902(P2012-177902)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-35048(P2014-35048A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】武尾 覚
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
実開平01−065439(JP,U)
【文献】
特開2007−071246(JP,A)
【文献】
特開2010−116997(JP,A)
【文献】
米国特許第2163255(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のアウターシェルと当該アウターシェル内に出入り自在なピストンロッドとを備え上記アウターシェルに対する上記ピストンロッドの軸方向の相対移動に対して当該相対移動を抑制する減衰力を発生する緩衝器本体と、上記ピストンロッドに連結されて内部に上記アウターシェルの侵入を許容する筒状のダストカバーとを備えた緩衝器において、
上記ダストカバーは、上記緩衝器本体が最伸長状態にある際に、上記アウターシェルの上記ピストンロッド側端部を覆う長さに設定され、
上記ピストンロッドの外周は、筒状のベローズで覆われており、
上記ベローズは、一端が上記アウターシェルに装着され且つ他端が常時上記ダストカバー内に配置されるとともに、上記ベローズの上記一端よりも上記他端の方が大径とされていて、上記他端に向けて徐々に拡径されていることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
上記ベローズの上記他端の外周全周を上記ダストカバーの内周に摺接させたことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記アウターシェルのピストンロッド側端には、筒状のシールケースが設けられており、当該シールケースは、上記アウターチューブのピストンロッド側端の内周に装着される筒状の大径部と、当該大径部のピストンロッド側端から内方へ向けて突出するドーナツ板状のフランジ部と、当該フランジ部の内周から立ち上がる筒状の小径部と、当該小径部の外周に設けた環状のストッパを備え、上記ベローズは、一端に上記小径部の外周に嵌合する筒状の嵌合部を備え、上記ベローズは、上記嵌合部が上記フランジ部と上記ストッパとで挟持された状態で上記アウターシェルに固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記ベローズは、上記一端に上記アウターシェルのピストンロッド側端内周に挿入される環状の固定部を備え、上記アウターシェルのピストンロッド側端には、内方へ折り曲がった折曲部が設けられており、上記ベローズは、上記折曲部に上記固定部が把持された状態で上記アウターシェルに固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の緩衝器にあっては、たとえば、アウターシェルと、アウターシェル内に出入り自在に挿入されるピストンロッドとを備え、ピストンロッドがアウターシェルに対して軸方向に相対移動する際にこのピストンロッドのアウターシェルに対する相対移動を抑制する減衰力を発揮するようになっている。そして、緩衝器は、たとえば、車両における車体と車軸との間や、キャビンと車体との間に介装されて使用され、上記減衰力の発揮によって車体やキャビン等の制振対象の振動を抑制することができる。
【0003】
このように緩衝器は、外部に露出されて使用されるため、埃、塵や泥(以下、「泥等」という)がピストンロッドに付着しやすい環境にある。ピストンロッドの外周に付着した泥等は、ピストンロッドがアウターシェル内に侵入する際に、ピストンロッドの外周をシールするダストシールによって掻き落されるようになっているが、泥等が乾燥してピストンロッドに強固に付着してダストシールでうまく掻き落とすことができないと、ダストシールの内側に設けられるオイルシールの劣化を促進させてしまう恐れがあることから、ピストンロッドの外周を覆うダストカバーを取り付けて泥等からピストンロッドを保護するようにしている(たとえば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−81071号公報
【特許文献2】特開2010−175043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにダストカバーを備えた緩衝器の場合、ダストカバーの長さが長ければ長いほどピストンロッドへの泥等の付着を防止することができるのであるが、ダストカバーの長さを長くすると、アウターシェルの外表面に吹付け塗装する際にダストカバーがアウターシェルを覆ってしまい、特に、アウターシェルの上端に未塗装部分ができてしまうことになる。このようにアウターシェルに未塗装部分ができることは、アウターシェルの防錆上の観点から好ましくない。したがって、ダストカバーの全長は、特開2000−81071号公報の緩衝器のように、最伸長時に、アウターシェルの上端をわずかに覆う程度として、未塗装部分が発生しないように配慮することになるが、そうすると、アウターシェルとダストカバーとの間から泥等がダストカバー内に侵入しやすくなり、ピストンロッドの外周を保護する保護効果が薄くなってしまう。
【0006】
他方、特開2010−175043号公報に開示された緩衝器では、ダストカバーの全長は、泥等の侵入を充分に抑制できる程度に長くする代わり、吹付け塗装については、ダストカバーを装着前に行うようにしている。しかしながら、この場合、ピストンロッドの外周の摺動面まで塗装されてしまわないように、ピストンロッドをアウターシェル内に押し込んで緩衝器を最収縮状態に維持したうえでアウターシェルの外周を吹付け塗装するといった加工が必要で、吹付け塗装は緩衝器を機械にセットして行う必要があったり、ピストンロッドの外周をマスキングしてからアウターシェルを塗装するような加工が必要であったり、いずれにせよ面倒な塗装方法を採用しなければならず、塗装加工に手間と工数がかかるといった新たな問題が生じることになる。
【0007】
そこで、本発明は上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、ピストンロッドの外周を充分に保護でき、かつ、塗装加工性の悪化を招くことがない緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、筒状のアウターシェルと当該アウターシェル内に出入り自在なピストンロッドとを備え上記アウターシェルに対する上記ピストンロッドの軸方向の相対移動に対して当該相対移動を抑制する減衰力を発生する緩衝器本体と、上記ピストンロッドに連結されて内部に上記アウターシェルの侵入を許容する筒状のダストカバーとを備えた緩衝器において、
上記ダストカバーは、上記緩衝器本体が最伸長状態にある際に、上記アウターシェルのピストンロッド側端部を覆う長さに設定され、上記ピストンロッドの外周は、筒状のベローズで覆われており、上記ベローズは、一端が上記アウターシェルに装着され且つ他端が常時上記ダストカバー内に配置され
るとともに、上記ベローズの上記一端よりも上記他端の方が大径とされていて、上記他端に向けて徐々に拡径されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の緩衝器によれば、ピストンロッドの外周を充分に保護でき、かつ、塗装加工性の悪化を招かない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施の形態における緩衝器の側面図である。
【
図2】一実施の形態の一変形例における緩衝器の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝器は、
図1に示すように、筒状のアウターシェル1と当該アウターシェル1内に出入り自在なピストンロッド2を備えアウターシェル1に対するピストンロッド2の軸方向の相対移動に対して当該相対移動を抑制する減衰力を発生する緩衝器本体Dと、ピストンロッド2に連結されて内部にアウターシェル1の侵入を許容する筒状のダストカバー3と、一端4aがアウターシェル1に装着され且つ他端4bが常時ダストカバー3内に配置されてピストンロッド2の外周を覆う筒状のベローズ4とを備えて構成されている。
【0012】
緩衝器本体Dは、具体的には図示しないが、たとえば、アウターシェル1内に収容されるインナーチューブと、このインナーチューブ内に摺動自在に挿入されるピストンと、一端が上記ピストンに連結されてインナーチューブ内に移動自在に挿入されるピストンロッド2と、上記インナーチューブ内に上記ピストンによって区画した伸側室と圧側室と、伸側室と圧側室とを連通する通路とを備えて構成されている。また、伸側室および圧側室には作動油等の液体が充満されている。液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
【0013】
そして、外力によってアウターシェル1に対してピストンロッド2が軸方向に相対移動させられると、すなわち、緩衝器本体Dが外力によって伸縮させられると、上記ピストンがピストンロッド2とともに軸方向に移動して当該インナーチューブ内の伸側室或いは圧側室を圧縮して伸側室と圧側室の圧力に差圧が生じ、この差圧をピストンで受けることにより、緩衝器本体Dは、アウターシェル1とピストンロッド2の軸方向の上記相対移動を抑制する減衰力を発揮するようになっている。なお、この緩衝器本体Dは、伸側室にのみピストンロッド2が挿通される片ロッド型とされているので、図示はしないが、アウターシェル1とインナーチューブとの間の環状隙間で形成されて気体と液体が充填されるリザーバを備えており、緩衝器本体Dの伸縮に伴ってアウターシェル内に出入りするピストンロッド2の体積を補償するようになっている。つまり、この緩衝器本体Dは、片ロッド複筒型に設定されている。また、アウターシェル1の内周に直接ピストンを摺動させてアウターシェル1内に伸側室と圧側室とを区画するようにする場合には、アウターシェル1内にフリーピストンを摺動自在に挿入してアウターシェル1内にピストンロッド2の体積を補償する気室を区画するか、ブラダ等の弾性隔壁でアウターシェル1内に気体室を区画するようにしてもよく、その場合には、緩衝器本体Dを上記したインナーチューブを設けない単筒型とすることもできる。さらに、緩衝器本体Dは、片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0014】
以下、各部について詳細に説明する。まず、アウターシェル1は、筒状であっって、
図1中下端がキャップ5によって封止されるとともに、アウターシェル1のピストンロッド側端である
図1中上端には筒状のシールケース6が取り付けられている。
【0015】
シールケース6は、アウターシェル1のピストンロッド側端の内周に取り付けられる筒状の大径部6aと、当該大径部6aのピストンロッド側端から内方へ向けて突出するドーナツ板状のフランジ部6bと、当該フランジ部6bの内周から立ち上がる筒状の小径部6cと、当該小径部6cの外周に設けた環状のストッパ6dを備えており、小径部6c内には、シール部材7が収容されている。なお、ストッパ6dは、この場合、小径部6cの上端に溶接などによって取り付けられている。
【0016】
このシール部材7は、ピストンロッド2の外周に摺接してピストンロッド2の外周をシールしてアウターシェル1内からの液体の漏洩を防止するシール部7aと、ピストンロッド2の外周に付着したダストを掻き落すダストシール部7bとを備えている。
【0017】
ピストンロッド2の
図1中上端2aには、ダストカバー3が取り付けられている。このダストカバー3は、内周がピストンロッド2の外周に装着される環状の連結部3aと、連結部3aの外周から
図1中下方へ伸びるカバー本体3bとを備えて構成されている。カバー本体3bにおける内径は、アウターシェル1の外径よりも大径とされており、カバー本体3b内にアウターシェル1の侵入が可能となっていて、ダストカバー3が緩衝器本体Dの伸縮を阻害しないようになっている。
【0018】
ベローズ4は、たとえば、ゴムや合成樹脂で形成され、
図1中下端である一端4aに上記シールケース6における小径部6cの外周に嵌合する筒状の嵌合部4cを備えており、当該嵌合部4cがフランジ部6bとストッパ6dによって挟持されることでアウターシェル1にシールケース6を介して装着されている。このように、ベローズ4をアウターシェル1に装着することには、後述する
図2に示した緩衝器のように直接的にアウターシェルにベローズを取り付けるだけでなく、シールケース6等を介して間接的に取り付けることも含まれる。
【0019】
また、ベローズ4は、嵌合部4cよりも上方に蛇腹部4dを備え、蛇腹部4dよりも上端である他端4bには環状の摺接部4eが設けられていて、この摺接部4eの外周全周をダストカバー3の内周に摺接させている。
【0020】
さらに、ベローズ4は、アウターシェル1に取り付けられる一端4aよりも他端4bの方が大径とされていて、蛇腹部4dは他端4bに向けて徐々に拡径されている。
【0021】
また、緩衝器本体Dが最収縮する状態では、他端4bに設けた摺接部4eがダストカバー3の連結部3aの下端に当接して蛇腹部4dが圧縮されて縮んだ状態とされ、緩衝器本体Dが最伸長する状態では、蛇腹部4dが伸びてベローズ4の他端4bに設けた摺接部4eがダストカバー3の
図1中上方への移動に追随するので、緩衝器本体Dの伸長時にベローズ4の他端4bがダストカバー3内から外に脱落することが無いようになっている。つまり、緩衝器本体Dが最伸長した際のダストカバー3の下端位置に対してベローズ4の自然長(負荷を与えない状態における軸方向長さ)となった際の他端4bの位置が
図1中上方になるように設定されており、ベローズ4の他端4bが常時ダストカバー3内に配置されるようになっている。
【0022】
上記のようにベローズ4をアウターシェル1に取り付けると、ベローズ4は、ピストンロッド2の外周を覆い、ダストカバー3とベローズ4とでピストンロッド2の外周の空間を外部から遮断するこので、ピストンロッド2への泥等の付着を防止することができる。
【0023】
また、ベローズ4を取付けてもアウターシェル1の外表面の吹付け塗装の邪魔にならず、ダストカバー3の長さは従来の緩衝器と同等の長さで済むため、そのまま塗装してもアウターシェル1の外表面に未塗装部分を生じさせずに済み、アウターシェル1の錆を防止でき、且つ、ダストカバー3の装着前に緩衝器本体Dを最収縮状態に維持したり、ピストンロッド2をマスキングしたりしてアウターシェル1を塗装するような面倒な塗装方法を採用する必要もなく、そのまま吹き付け塗装が可能であって、塗装加工も非常に簡単である。
【0024】
このように本発明の緩衝器によれば、ピストンロッド2の外周を充分に保護でき、かつ、塗装加工性の悪化を招くことがないのである。
【0025】
また、ベローズ4の他端4bの外周をダストカバー3の内周に摺接させるようにすることでベローズ4の径方向への振動を抑制することもでき、ベローズ4とダストカバー3との打音を低減することができる。
【0026】
さらに、ベローズ4がピストンロッド2の外周を覆っていることで、アウターシェル1内の液体がシール部材7を乗り越えて外部へ滲み出てしまうことがあったとしても、ベローズ4が液体溜まりとして機能し、緩衝器外へ液体の漏洩を防止することもできる。
【0027】
なお、ベローズ4の他端4bの外周全周をダストカバー3の内周に摺接させることで、ピストンロッド2の外周の空間を外部から遮断することができ、泥等の侵入を完全に防止することができるが、ベローズ4の他端4bの外周を全周亘ってダストカバー3の内周に摺接させるのではなく、一部に隙間が生じるようになっていても、ピストンロッド2へ至る泥等の侵入経路がダストカバー3のみを備える従来の緩衝器よりも長くなって泥等がダストカバー3内に侵入しにくくなり、ピストンロッド2への泥等の付着を防止することができる。また、上記他端4bをダストカバー3の内周に全く摺接させないようにすることでもピストンロッド2へ至る泥等の侵入経路がダストカバー3のみを備える従来の緩衝器よりも長くなるので、ピストンロッド2への泥等の付着を防止することができる。
【0028】
なお、ベローズをアウターシェルに固定する構造は、上記した構造以外にも、たとえば、
図2に示すように、アウターシェル10のピストンロッド側端である
図2中上端を内側に折り曲げることで折曲部10aを設け、この折曲部10aでピストンロッド2の外周をシールするシール部材11およびピストンロッド2の外周を軸支するロッドガイド12をアウターシェル10に定着させる緩衝器の場合には、ベローズ13の一端13aにアウターシェル10のピストンロッド側端内周に挿入される環状の固定部13bを設け、折曲部10aに固定部13bを把持させてベローズ13をアウターシェル10へ固定するようにしてもよい。また、図示はしないが、アウターシェル10の折曲部10aに固定される環状の固定部13bとベローズ13を別体として、ベローズ13の一端13aの外周にフランジを設け、固定部13bの内周にロッドガイド12との間にフランジが挿入される隙間を形成する把持部を設け、固定部13bの把持部とロッドガイド12とでこのフランジを挟持して、ベローズ13をアウターシェルに固定するようにしてもよい。
【0029】
なお、固定部13bは、金属製であってもよいし、ベローズ13と同じ材料で形成してもよく、ベローズ13の蛇腹部13cをゴムとして固定部13bを金属とする場合には、たとえば、固定部13bに蛇腹部13cを形成するゴムを溶着、融着、接着等して一体化するようにしてもよい。
【0030】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1,10 アウターシェル
2 ピストンロッド
3 ダストカバー
4,13 ベローズ
4a,13a ベローズの一端
4b ベローズの他端
4c 嵌合部
6 シールケース
6a 大径部
6b フランジ部
6c 小径部
6d ストッパ
10a 折曲部
13b 固定部
D 緩衝器本体