(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
安全キャビネットは、作業空間の前面に形成された上下スライド式の前面シャッタ下方の作業開口部より安全キャビネット外の空気を吸い込むことで、エアバリアを形成し、安全キャビネットの作業空間と安全キャビネット外の雰囲気を、物理的に遮断している。作業開口部から吸い込まれた空気は、安全キャビネットの内部を通り、安全キャビネットに設置された排気用HEPAフィルタで、塵埃とともに感染物質を除去し、清浄空気として安全キャビネットの装置外に排気される。作業開口部から排気用HEPAフィルタへ空気を誘導する送風手段は、安全キャビネット装置内部に装備している場合と、安全キャビネット装置外に設置されている場合がある。
【0003】
安全キャビネットの構造による分類のバイオハザード対策用クラスIキャビネットの場合、安全キャビネット外の空気をそのまま安全キャビネットの作業空間に取り込み、作業空間上部に給気用HEPAフィルタのない構造である。作業空間で感染物質を取り扱う場合などで、作業者の安全性を確保すべき作業で、かつ無菌操作が不要な作業に使用される。
以上の構成により、バイオハザード対策用クラスIキャビネットでは、作業開口部のエアバリアと排気用HEPAフィルタにより、作業空間内で取り扱う感染物質が安全キャビネット外に漏れないように構成している。
【0004】
安全キャビネットの作業空間内で、装置を取り扱う作業の一つに、遠心分離機の蓋を開けるという作業がある。遠心分離機内では感染性のある実験材料を、回転撹拌するので、内部では飛沫(エアロゾル)が多量に発生している状態である。さらに、遠心分離機の蓋を開ける瞬間に、内部の飛沫(エアロゾル)が遠心分離機外に放出される。このように、感染性のある飛沫(エアロゾル)が放出される可能性があるため、安全キャビネットの作業空間内で遠心分離機の蓋を開けることによる外部への感染物質の拡大を防止している。
【0005】
従来技術による遠心分離機を安全キャビネットに組み込んだ構造を、特許文献1(特開2007−111596号公報)に示す。遠心分離機の回転分離槽を作業空間の下流側(下面)に配置し、実施の形態に記載のように、シャッタ下の通気孔から入った気流は、作業台下面に形成した遠心分離機下方の分離槽を囲うように流れ、リターンダクトに導かれる。
この構成により、遠心分離機上方の作業空間の清浄空気を維持し、かつ、シャッタ下の通気孔によるエアバリアで、作業空間と安全キャビネット外部を隔離している。エアバリアのための気流は、作業空間下面に形成した遠心分離機下方を通り、リターンダクトに導かれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来技術の遠心分離機を組み込んだ安全キャビネットを特許文献1(特開2007−111596号公報)に示す。文献1には、作業空間下面の作業台面に蓋を形成し、その下方に遠心分離機の分離槽を形成している。作業空間から降りてきた気流は、作業空間の通気孔、作業台面と遠心分離機分離槽の間の空間、シャッタ下の通気孔の3箇所から吸い込まれ、リターンダクトに導かれている。シャッタ下の通気孔から吸い込まれた気流は、遠心分離機の分離槽下方のリターンダクトを通り、送風機に導かれる。この構成により、作業空間の清浄気流である清浄度を維持しつつ、シャッタ下の気流により、作業空間と安全キャビネット外の空間を、物理的に隔離している。
【0008】
従来技術による遠心分離機を組み込んだ安全キャビネットでは、シャッタ下方から吸い込んだ気流が、遠心分離機の下方を通り、リターンダクトに導かれるため作業台面の遠心分離機位置が変わると、シャッタ下方から吸い込まれる気流の状態が変わる可能性がある。
【0009】
また、遠心分離機の分離槽が大きい容量のものや自立型の遠心分離機を導入したい場合、シャッタ下方から吸い込まれた気流が、キャビネットに組み込んだ装置が障害となり、効率よく排気されずエアバリアを形成できない可能性があり、かつシャッタ開口部高さが200mm程度で小さいため、大きな遠心分離機の蓋を開ける作業では、作業性が非常に悪かった。
【0010】
安全キャビネットの場合、日本工業規格 JIS K3800 バイオハザード対策用クラスIIキャビネットに記載のように、気流の状態が変わった場合、枯草菌芽胞を使用した物理的隔離性能を再び評価する必要がある。クラスIキャビネットにおいては、上記規格の作業者の安全性に関する気流バランス性能を評価する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、安全キャビネットにおいて、作業空間に組み込む装置の位置、大きさ、機器の操作、例えば遠心分離機のような蓋を開閉する操作により流入気流が影響されない安全キャビネットを提供することにある。
【0012】
また、感染性のある材料が作業空間に淀まないことを重要な機能とする安全キャビネットにおいて、作業空間で発生した感染性のある飛沫(エアロゾル)が作業空間に滞留することが無く、最短距離で排気することが可能な安全キャビネットを提供できる。
【0013】
作業開口が400mm以上と広い場合、開口部中央付近の風速が遅くなるので、エアバリアを確保するには、上下スライド式の前面シャッタ構造とし、作業時は作業開口を200mm程度に設定するか、作業開口部全体の風速を上げる必要があり、排気ファンの排気風量が上がるとともに建物の熱負荷が大きくなる。
【0014】
本発明の他の目的は、作業開口部の風速分布を改善し、スライド式の前面シャッタを不要とし、必要最小限の風速でエアバリアを確保することにより、消費電力を抑制し、建物の熱負荷を抑制することにある。また、例えば、遠心分離機等の組み込み装置の蓋を開けた状態でも安全キャビネットの基本性能が影響されない気流構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、作業者が作業をする作業空間と、該作業空間の前面に形成する前面シャッタと、該前面シャッタ下部の前記作業空間に連接する作業開口部と、該作業開口部から空気を吸い込み、前記作業空間の空気を空気清浄手段を介して安全キャビネット外へ送風機により排気する排気手段と、を有する安全キャビネットであって、前記作業開口部の上方の前面シャッタを固定し、該前面シャッタの下側に前記作業空間の内側方向に、水平から
下向きに30〜60°傾斜した前面シャッタ整流板を形成し、前記作業空間内の左右の側壁面を設け、該側壁面と前記安全キャビネットの側面とで側面排気流路を形成し、前記左右の側壁面に第1のスリット又はパンチング孔を形成し、該第1のスリット又はパンチング孔は、前記前面シャッタ整流板の延長線方向の下側に、前記作業空間の前方から背面に向かって開口面積が小さくなるように形成し、前記作業空間の空気を該第1のスリット又はパンチング孔を介して前記側面排気流路に送り、前記空気清浄手段を介して排気することを特徴とする。
【0017】
また、上記安全キャビネットにおいて、前記作業空間の天井板と前記空気清浄手段のHEPAフィルタとの間にチャンバを設け、前記側面排気流路は該チャンバに接続され、前記天井板の奥側に横方向に第2のスリットを形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安全キャビネットの作業空間内に、分析器や観察器などの装置を組み込み、配置したり固定したりした場合、作業開口部に形成される吸い込み気流(流入気流)の風速及び気流の状態が、装置の位置、大きさ、機器の操作、例えば遠心分離機のような蓋を開閉する操作により流入気流が影響されない安全キャビネットを提供できる。
【0019】
また、感染性のある材料が作業空間に滞留しないことを重要な機能とする安全キャビネットにおいて、作業空間で発生した感染性のある飛沫(エアロゾル)が、作業空間に滞留することなく最短距離で排気することが可能な安全キャビネットを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1を示す遠心分離機を搭載したクラスIタイプの安全キャビネットの外観斜視図及びその縦断面図を示し、
図2は、
図1の安全キャビネットの正面断面図及び側面断面図を示す。
クラスIタイプの安全キャビネットは、一般に作業者の保護を目的に、全面開口部から空気を流入させてエアロゾルの排出を防止する構造となっており、室内の空気を直接流入し、排気はHEPAフィルタを通して排出する構成である。
図1、
図2に示す本発明の安全キャビネットは、このクラスIの構成をベースにし改良したものである。
【0022】
図1及び
図2において、10は安全キャビネット、11は作業者が作業する作業空間、12は作業空間の開口部の上側に配置された固定式前面シャッタ、13は固定式前面シャッタ12の先端に配置された前面シャッタ整流板、14はHEPAフィルタ、15は送風機、16は排気ダクト、17は排気の気流、18は作業空間の開口部、19は安全キャビネット外部から入る流入気流、20は作業空間の左右壁31に配置した排気用スリット、21は作業空間の下側に配置した遠心分離機、22は遠心分離機21の蓋、23は感染物質を示す。
24は作業空間の左右に配置した側面排気通路、25は作業空間から側面排気通路24にスリット20(第1のスリットという)を介して流れる空気の流れで、26は側面排気通路24内を流れる空気の流れを示す。
27は作業空間内が負圧であることを示し、28は作業空間の天井板41の奥側に配置したスリット(第2のスリットという)、29はキャスタで、30は作業空間の左右の側壁面のスリット20及び天井板41の奥側のスリット28より排気される空気が集まるチャンバ(第1のチャンバという)、31は作業空間の左右の側壁面、32はHEPAフィルタ14通過後の空気を送風機15により排気するためのチャンバ(第2のチャンバという)で、33はキャビネット本体の上部前面部、50はキャビネット本体の下部前面部、51はキャビネット本体の側面部である。
【0023】
次に、本発明の安全キャビネットの構成について説明する。
図1及び
図2において、作業空間11の開口部18の上部に固定式前面シャッタ12を配置し、固定式前面シャッタ12の下側先端には、前面シャッタ整流板13を作業空間内側に傾斜させて形成し配置している。
この前面シャッタ整流板13を形成せず、固定式前面シャッタ12のみの場合、作業空間への空気の流入気流19は固定式前面シャッタ12の下面と作業空間の開口部18の全周側壁に沿って風速が高くなり、作業空間18の中央付近の風速が低くなるという風速分布ができる可能性がある。
この風速分布におけるアンバランスを解消するため、前面シャッタ整流板13を配置している。この効果については後で説明する。
【0024】
作業空間11の上側には、天井板41を形成し、天井板41の上部には天井面とHEPAフィルタ14を配置する面とで空間を形成し、作業空間11から排気される空気を集めるチャンバ30を形成する。チャンバ30内の空気は、HEPAフィルタ14に吸い込まれ、塵埃や感染物質23などをろ過する。HEPAフィルタ14を通過した清浄空気は、送風機15により排気ダクト16を介して安全キャビネット10の外部へ排気される。この送風機15が設置された清浄空気の空間のチャンバ32を形成する。
【0025】
また、作業空間11の左右の側壁面31と安全キャビネット10の側面部51とで空間を形成し、作業空間11内の空気をこの空間に流し、側面排気流路24を形成する。作業空間の左右に形成された側面排気流路24の上部は第1のチャンバ30に接続される。
また、作業空間11内の空気は、作業空間の左右の壁面に形成したスリットを通過して側面排気流路24に流れる。なお、
図1及び
図2には、作業空間の左右の側壁面に垂直方向に細長い縦長のスリットの孔を形成しているが、パンチング孔でも楕円形の孔でも構わない。
また、天井板41の奥の方には幅方向に細長い第2のスリット28を複数個配置し、作業空間内の奥側の空気が上方に流れるように形成している。
【0026】
固定式前面シャッタ12の下方に配置されている前面シャッタ整流板13は、作業開口部18の風速分布を改善するために設けられたものであり、長さは50〜150mm、固定角度は、固定式前面シャッタ12から作業空間11に向かって、水平から30〜60°傾けて固定されている。材質は、透明ガラスにSUS製のフレームで囲まれたもの、または鋼板製でも良い。また、前面シャッタ整流板4の延長線上に沿って、作業空間11に設けられた排気用の左右側面スリット20は、キャビネット外から入る流入気流を整流するために作業空間11の前方から背面に向かって徐々に開口面積が小さくなっている構造である。
【0027】
また、安全キャビネット10の作業空間内の下部には、遠心分離機21を搭載する。遠心分離機21の搭載は、
図7に示すように安全キャビネット10の下部前面板50を外し、キャスタ50の付いた遠心分離機21を作業空間の下部まで移動して設置、固定する。また作業者が作業し易いように遠心分離機の蓋22を開けたとき、作業空間の奥側に倒れるように設置する。設置後は、安全キャビネットの下部前面板50を取り付ける。
また、キャビネット10の下部前面板50は、両側をねじ留めして固定しても、片側にヒンジを設け、扉として固定しても良い。安全キャビネットの脚部にはキャスタ29を設け、移動時に軽い力で動かせるようにしている。
【0028】
次に、本発明の安全キャビネットの構成において、空気の流れについてボクセル解析した結果について説明する。先ず、
図3A〜
図3Cにおいて、前面シャッタ整流板13は形成しないで、作業空間の左右壁面31に形成したスリット20を垂直方向に3列として、その形状は細長い縦長の孔で、スリットを配置した領域は壁面のほぼ中央とし、全体が矩形の範囲に形成した場合の空気の流れを解析する。
【0029】
図3Aは、解析する安全キャビネットの解析用簡易モデルの斜視図及びその縦断面図を示す。
図3Aの安全キャビネットの解析用簡易モデルにおいて、キャビネットの横幅(L2)は850mm、高さ(L1)は1950mm、奥行(L3)は780mm、作業空間の開口部の幅(L6)は650mm、作業空間の開口部の高さ(L5)は550mmとしている。また、平均風速は0.5m/sである。
また、スリット20は、100mm×10mmの孔を片側に60ヶ形成した構成である。
【0030】
また、
図3Aに示した解析用簡易モデルを解析する条件を
図3Bに示す。
図3Bは解析する条件を示し、
図3B(a)は断面計算の設定を表す入力部を示し、
図3B(b)は解析する範囲を示している。
図3B(a)において、安全キャビネットの解析用簡易モデルの高さ方向をy方向、幅方向をx方向、奥行方向をz方向とすると、y方向に断面数を300とし、z方向を175、x方向を175に分割して解析とすると、ボクセルサイズ表示は約920万セルとなり、解析範囲は
図3B(b)に示すようにキャビネット全体を包括する範囲である。
【0031】
上記の解析条件により解析した結果を
図3Cに示す。
図3Cは、
図3A(b)に示す安全キャビネットの縦断面の部分の空気の流れを示す。
図3Cにおいて、100は作業空間の開口部の下側の空気の流れを示し、120は天井板41上部のチャンバ30の空気の流れを示し、130は排気用チャンバ32の空気の流れを示す。この100〜130の領域が風速の高い部分で、図では風速を矢印の線で表しており、黒い束となっている部分は風速が高いことを表している。そして、この図において、平均風速0.5m/sに対し、1m/s程度の空気の流れである。また、作業空間内において、矢印で表しているように流入した空気は、開口部より流入し奥の方へ流れ、前面シャッタ整流板を有していないため作業空間の開口部上側端部で巻き込むように流れたりして乱流を生じて、左右の側壁面のスリット20より排気される。
【0032】
次に、前面シャッタ整流板13を配置したときの空気の流れについて解析する。
図4Aは、固定式前面シャッタ12の先端に前面シャッタ整流板13を作業空間側に傾斜して配置した構成を示す。作業空間内の左右の側壁に形成したスリット20は、
図3Aと同じで、100mm×10mmの孔を60ヶ(両側)形成している。この
図4Aの構成における空気の流れを
図4Bに示す。
図4Bにおいて、風速が高い箇所は丸(点線)で囲んだ部分で、140は作業空間の開口部の下側の空気の流れを示し、150は作業空間の開口部の上側の空気の流れを示し、160は天井板上部のチャンバ30の空気の流れで、170は排気用のチャンバ32の空気の流れを示す。
【0033】
また、作業空間内において、開口部より流入した空気のうち前面シャッタ整流板13に沿って流入した空気は、作業空間の上側に巻き込まれ、乱流を生じる。
すなわち、左右の側面壁のスリット20の配置を同じとし、前面シャッタ整流板13を配置した場合、スリット20の形成が
図3Aの構成と同じであるため作業空間における空気の流れはほぼ同じと判断する。
【0034】
次に、前面シャッタ整流板13を配置し、スリット20を配置し、スリット20の配置を変えたときの空気の流れについて解析する。
図5Aは、固定式前面シャッタ12の先端に前面シャッタ整流板13を作業空間側に傾斜して配置し、作業空間の左右の側壁面に形成したスリット20の配置を前面シャッタ整流板13の延長方向より下側に配置した構成を示し、この構成の空気の流れを解析する。
【0035】
図5Aは、前面シャッタ整流板13を開口部上部に形成し、前面シャッタ整流板13の延長方向40の下側にスリット20を配置した安全キャビネットの解析簡易モデルの断面斜視図を示し、
図5A(b)は側面図を示す。
図5A(b)に示すように、スリット20は前面シャッタ整流板13の延長線40の下側に3列配置し、その配置の範囲は略三角形である。
【0036】
図5A(a)に示した構成の空気の流れの解析結果を
図5Bに示す。
図5Bにおいて、風速が高い部分は、丸(点線)で囲んだ箇所で、180は作業空間の開口部の下側の空気の流れを示し、190は作業空間の開口部の上側の空気の流れを示し、200は天井板41上部のチャンバ30の空気の流れを示し、210は排気用チャンバ32の空気の流れを示す。
また、この構成において、作業空間内の空気の流れをみると、開口部より流入した空気の中で前面シャッタ整流板13に沿って流入した空気は、上側への巻き込まれは小さく、前面シャッタ整流板13の延長線方向の下側に配置したスリット20に集中し、排気される。そして、
図4Bのスリット20全体の配置が矩形状の場合の空気の流れと比較すると、
図5Bのスリット20全体の配置が整流板13の延長線より下側に配置し、略三角形の空気の流れの場合の方がスリット20における風速が高くなっている。
【0037】
このように、開口部の上側に前面シャッタ整流板13を作業空間の内側に傾斜して配置し、作業空間の左右の側面壁に配置するスリット20の範囲を整流板13の延長線方向の下側にし、スリット20の配置全体を略三角形状にする構成で、遠心分離機の蓋を開けたときエアロゾルの開口部からの放出を防止できる。
【0038】
次に、
図5Aに示した安全キャビネットの解析簡易モデルにおける作業空間の中央部の水平方向の空気の流れの解析結果を
図5Cに示す。
図5Cにおいて、作業空間からスリット20を通過し、側面排気流路24内を風速の高い空気が多く流れ、作業空間内は中央の風速が低く、両側の風速が高くなっている。また、作業空間の奥側は風速が低く、淀む可能性がある。
【0039】
次に、
図5Aに示した安全キャビネットの解析用簡易モデルにおける作業空間及び排気の部分の正面中央断面における空気の流れの解析結果を
図5Dに示す。
図5Dにおいて、作業空間の開口部から中央付近の空気の流れは作業空間の中央の風速が低く、左右の側壁に近づくにつれて風速は高くなり、スリット20のある箇所はさらに高くなっている。すなわち、スリット20を3列垂直方向に配置しているが、その部分の風速が高いことが分かる。また、側面排気流路24及び天井板上のチャンバ30内は、風速が高く、排気用のチャンバ32の排気ダクトの部分の風速が高い。また、作業空間の中央上部の風速は低い。
【0040】
次に、作業空間の上部に配置した天井板41の奥側にスリット28を配置した場合の空気の流れについて解析し、その解析結果について説明する。
図6Aは、スリット28を配置した安全キャビネットの解析用簡易モデルの縦断面斜視図及び天井板41の平面図を示す。
この解析用簡易モデルは、作業空間の開口部上部に前面シャッタ整流板13を配置し、整流板13の延長線方向より下側にスリット20を配置し、この整流板13の延長線方向より下側に複数のスリット20を縦に3列配置し、スリット全体の範囲を略三角形状とし、天井面41の奥側に幅方向にスリット28を配置した構成である。また、この構成で丸Aの部分が空気が淀み易い箇所である。
【0041】
この
図6Aの構成における空気の流れの解析結果を
図6Bに示す。
図6Bにおいて、作業空間の開口部より流入した空気は、直進し、左右の側壁面31のスリット20より排気する流れがあり、整流板13に沿って流入する空気は、左右の側壁面のスリット20の方向に向かうものと、作業空間の天井板の奥側のスリット28に向かうものが存在することが分かる。
そして、作業空間の奥側上方に空気が淀み易かったが、天井板の奥側に配置したスリット28により淀みは解消されている。
【0042】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2の前面シャッタ整流板13を先端に配置した前面シャッタ80を上下にスライドできるように形成し、作業者が安全キャビネットの開口部の高さを作業内容に応じて調整できる構成を
図8に示す。
図8において、前面シャッタ80は、安全キャビネットの上部前面部33と上部前面部裏板42とで挟むように形成し、スライドできる構成とする。
また、作業者が作業する際、前面シャッタ整流板13が作業の妨げになる場合は外すことができるように着脱自在にすることもできる。
また、前面シャッタ80は作業空間内が見えるように透明とする。実施例1の場合においては固定式にしているため不透明でも良い。
また、前面シャッタ80の外側の中央には作業者の手で上下スライド操作ができるように取手を形成する。
【0043】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3の遠心分離機21を蓋22が開いたら排気の送風機15の回転数を増加し、遠心分離機21内のエアロゾルが作業空間の開口部より放出されない構成について、
図9を用いて説明する。
図9において、21は遠心分離機、22は遠心分離機の蓋、60は遠心分離機の蓋22の開閉を検知するセンサ、61は蓋開閉センサ入力回路、62は蓋の開閉を検知する検知回路、63はモータをコントロールするコントローラ、64は送風機15を駆動するモータ、15は送風機である。
【0044】
次に、
図9の動作について説明する。先ず、作業者は、試料を遠心間に入れ、遠心間をロータに挿入し、ロータを遠心分離器の蓋を開け、分離器のチャンバに納めて蓋を閉め、遠心分離機のSWを入れ動作する。動作が完了すると、遠心分離機の蓋を開け、ロータを取り出して蓋を閉める。蓋の部分に配置した開閉センサ60を設置し、遠心分離機の蓋が開いたとき蓋開の信号が蓋開閉センサ入力回路61に送られ、検知回路62により蓋が開になったことを検知する。
遠心分離器の蓋が開となったことを検知すると、モータのコントローラ63が回転しているパワーを一時的に所定時間増加し、モータ64の回転数を上げ、送風機15の風力を増加する。
【0045】
このような構成にすることで、遠心分離機の蓋を開けたとき遠心分離機のチャンバ内のエアロゾルが作業空間から左右の側壁のスリット20及び天井板41の奥側のスリット28より排気され、作業空間の開口部からは放出されない。
従って、作業者の安全性はより向上する。
また、遠心分離機21と安全キャビネット10は一体となっていないので、コネクタを介して接続するか、ワイヤレスでセンサ出力をキャビネット本体に送信するなどして接続する。
また、遠心分離機の蓋の開閉を検知するセンサには、光センサを用い、蓋の一部の面に発光し、蓋の面の反射を受光して蓋の開閉を検知する方法や、磁束でON−OFFするリードスイッチを内蔵したものや、μスイッチなどメカスイッチなどがある。
【0046】
(実施例4)
次に、本発明の実施例4の安全キャビネットの開口面と作業空間の左右の側壁面のスリット20の最適な面積比及び風速について説明する。
本発明の遠心分離機用クラスIタイプの安全キャビネットにおいて、作業空間の左右の側壁に配置したスリット20の全体の最適な開口面積を求める。
この左右側壁のスリット20の開口の大きさを求める方法として、安全キャビネットの機内抵抗において、作業空間から排気しスリット20を通過するときの速度変化による抵抗を、送風機15の特性により2〜3Paになるように定める。
このような抵抗によれば、送風機の能力を上げる必要もなく、効率良く排気することができる。また、この抵抗値が高すぎる場合は送風機の能力を上げる必要があり、逆に抵抗値が低すぎる場合はスリット20の1ヶ当たりの風速が低く、作業空間中央に発生するエアロゾルをスリット20に引きつける力が弱く、効率良く排気できない。
【0047】
ここで、機内抵抗とは流路において、速度変化が生じるところでは圧力損失が発生し、速度変化による圧力損失ΔPは次式で表される。
【0048】
ΔP=η×(1/2)×ρ×(V1
2−V2
2) (数1)
(数1)において、ηは圧力損失係数、ρは流体の密度(空気の場合は1.2)、V1は速度が変化する前の速度、V2は速度が変化した後の速度を表す。
また、圧力損失係数ηは流路内の材質、流体速度等で変わってくるが、大型の場合1以上になることはないため概略的な計算では1を使用しても良い。
【0049】
次に、
図3A(a)に示した安全キャビネットの解析用簡易モデルに表した寸歩を用いて、作業空間の開口部及び作業空間の左右の側壁のスリット20について説明する。
作業空間の開口部すなわち空気流入の開口部の面積S
INは、
S
IN=0.65m(横幅)×0.55m(縦)=0.36m
2
である。
【0050】
また、スリット20の総面積S
OUTは、1ヶのスリットの面積が100mm×10mmで、片側に40ヶ配置しているので、
S
OUT=0.1m×0.01mm×40ヶ×2=0.08m
2
となる。
従って、本発明の構成において、最適な作業空間の開口面積と左右の側壁のスリットの総面積との比は、S
IN/S
OUT=0.22‥ となる。よって、最適な作業空間の開口面積と左右の側壁のスリットの総面積との比は0.1〜0.3の範囲であれば良い。
【0051】
次に、本発明の安全キャビネットの風速について説明する。
先ず、作業空間内の風量Qは、開口部に流入する空気の速度が通常0.5m/sであるから開口部の面積との積により、
Q=0.36(m
2)×0.5(m/s)×60(s)
=10.7(m
3/min)
となり、Qは10.7m
3/sとなる。
従って、作業空間内の左右の側壁面のスリットの風速Vは、
V=10.7(m
3/min)/0.08(m
2)/60(s)=2.23(m/s) となる。
従って、作業空間内の左右の側壁面のスリットの風速と開口部に流入する空気の風速の比は4.4となる。よって、作業空間内の左右の側壁面のスリットの風速と開口部に流入する空気の風速の比は概略4倍強程度あれば良い。
【0052】
この構成により、作業開口部18の風速分布が改善され、作業開口部18の高さが400mmを超えるような広い開口の場合でもエアバリアを確保できるようになり、作業性が改善された。また、安全キャビネット10に組み込む遠心分離機、分析器または観察器などの装置での実験作業時に発生した感染物質23を作業空間11から効率良く作業空間の左右に設置された側面排気流路24に排出される。作業空間11の背面から排気しない構成のため、安全キャビネット10内に大型装置を搭載する場合でも、奥行スペースが最小にでき、搬入経路と設置スペースの確保が可能となり、かつ安全キャビネット10に組み込む遠心分離機、分析器または観察器などの装置21の開閉式の蓋22が上下に移動する構造の場合でも、排気経路を妨げられることなく、安定した気流を形成でき、安心して作業を行えるようになった。