特許第5873475号(P5873475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873475
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】PFO閉鎖デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20160216BHJP
   A61B 17/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   A61B17/39 320
   A61B17/00 320
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-502154(P2013-502154)
(86)(22)【出願日】2011年12月6日
(86)【国際出願番号】JP2011078181
(87)【国際公開番号】WO2012117637
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2014年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-45211(P2011-45211)
(32)【優先日】2011年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕充
(72)【発明者】
【氏名】澤田 明
【審査官】 村上 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−050592(JP,A)
【文献】 特表2008−534139(JP,A)
【文献】 特開2011−019763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体の内部に形成されるルーメンに一対の針部材が進退動可能に配置される医療用デバイスであるPFO閉鎖デバイスであって、
前記針部材の先端部自然状態において先端に向かって広がるように曲がっている曲げ部が形成され、
前記筒体の先端部における前記ルーメンは、外周面へ向かって曲がって形成され、前記曲げ部を収容可能であり、前記ルーメンに沿う方向と直交する直交断面における内壁面の形状は、第1の方向が当該第1の方向と直交する第2の方向と比べて相対的に長く形成され
前記針部材は、前記自然状態において直線的に延びる直線部の先端側に前記曲げ部が形成され、
前記針部材の曲げ方向が前記ルーメンの曲げ方向と常に一致するように、前記直線部に沿う基準線から前記針部材の最先端までの最大離隔距離が、前記第2の方向の前記内壁面の幅よりも大きいことを特徴とするPFO閉鎖デバイス
【請求項2】
前記針部材は、基端部が他の部材に対して軸回転可能に接続された、請求項1に記載のPFO閉鎖デバイス。
【請求項3】
前記針部材が配置されるルーメンの内壁面には、先端方向に径が小さくなる段差部が形成され、前記針部材は、前記段差部を挿通不能な大きさのストッパが固定される、請求項1または2に記載のPFO閉鎖デバイス。
【請求項4】
生体組織に存在する欠損の周辺にある生体組織を前記針部材と共働して針部材との間に挟持する挟持部材と、
前記筒体の基端部に設けられ前記針部材および挟持部材を操作する手元操作部と、
前記針部材および挟持部材に電気エネルギを供給する電気エネルギ供給手段と、を更に有し、
前記生体組織を前記針部材および挟持部材により挟持して前記電気エネルギ供給手段から電気エネルギを供給し前記生体組織を接合することで欠損を閉鎖する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のPFO閉鎖デバイス。
【請求項5】
前記手元操作部は、
前記電気エネルギ供給手段と電気的に接続する接触部材と、
前記針部材を移動させる操作部材と、
前記操作部材に設けられるとともに前記針部材が軸回転可能に接続され、前記操作部材の移動によって前記接触部材と接触する端子と、
前記端子が前記操作部材と接触する際に、前記針部材を前記端子に対して押圧する導通補助部と、を有する、請求項4に記載のPFO閉鎖デバイス。
【請求項6】
一対の前記針部材が前記ルーメン内を先端側へ移動することで相互に離反するように拡開する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のPFO閉鎖デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用デバイスに関し、特に、体腔内に挿通されるPFO閉鎖デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、脳卒中や偏頭痛の心原性要因として卵円孔開存症(以下、PFO:Patent Foramen Ovale)が挙げられている。PFOは、胎児期の心臓における血液を左右短絡させる卵円孔が成人になっても残っている症状であり、成人の20〜30%が保有していると言われている。
【0003】
卵円孔は、心臓の二次中隔(Septum Secundum、以下、心房中隔)に生じ、通常時の心臓では、左心房の圧力が右心房側の圧力を上回るので、一次中隔(Septum Primum、以下、卵円孔弁)により閉塞されているが、緊張時(例えば、咳をしたとき、踏ん張るとき)などに右心房側の圧力が左心房側の圧力を上回ると、卵円孔弁が左心房側に開き、右心房側(静脈側)から左心房側(動脈側)に血液が流れ込むことになる。この血液中に血栓が含まれていると、血栓は、静脈側から動脈側に移ることになり、左心房→左心室→大動脈→脳へと流れ、脳卒中や偏頭痛などの要因になる。
【0004】
このような疾患に対する処置として、経皮的カテーテル手技による処置が、開心術と同じ効果が得られるならば、望ましい方法とされている。
【0005】
経皮的カテーテルを用いた閉鎖術のデバイスは、先天性の心房中隔欠損症(ASD)、PFO、心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)といった欠損を閉鎖する場合にも使用できるが、従来のデバイスは、欠損を閉鎖するディスク状の膜やアンカー部材を使用して卵円孔弁と心房中隔を挟むものであり、これらは体内に留置される。
【0006】
前記膜やアンカー部材は、体にとっては異物であり、しかも、血栓が付着しやすい。特に、左心房側のディスク状膜などに血栓が付着すると、これが流れて脳卒中の原因となる可能性があり、肉厚の薄い卵円孔弁を破損する虞もある。また、これら部材は、挟み込んだ状態で位置固定されず、位置ズレを起こす可能性もある。
【0007】
このため、最近では、卵円孔弁と心房中隔を一対の電極により挟持し、両電極から電気エネルギを印加することにより組織を接合させるPFO閉鎖デバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このPFO閉鎖デバイスは、一対の電極である穿刺部と挟持部材を使用し、穿刺部を卵円孔弁に穿刺した後、挟持部材との間で卵円孔弁と心房中隔を挟持し、生体組織に電気エネルギを印加し接合を行うものである。このデバイスを使用すれば、体内に異物を留置せず、構成が簡単で、手技も容易となり、確実に卵円孔弁と心房中隔を接合できる。そして、穿刺部の先端側に、相互に拡開縮小可能に曲がった複数の針部材を備えるようにすることにより、拡開した複数の針部材が広い範囲で卵円孔弁と接し、穿刺後の卵円孔弁と心房中隔を広い範囲で挟持し、生体組織の融着範囲を広くすることが可能となっている。
【0008】
しかしながら、針部材の先端部分が曲がっていると、手技を行う過程において、針部材や挟持部材を操作するための手元操作部を回転させる際などに、カテーテル内で針部材が回転してねじれ、針部材がカテーテルと干渉して突出が困難となる虞がある。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するものであり、針部材の方向とカテーテルの先端の方向を一致させてカテーテルと針部材の干渉を抑制して安全性を向上可能なPFO閉鎖デバイスを提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−50592号公報
【発明の概要】
【0011】
上記目的を達成する本発明に係るPFO閉鎖デバイスは、筒体の内部に形成されるルーメンに一対の針部材が進退動可能に配置される医療用デバイスであるPFO閉鎖デバイスであって、前記針部材の先端部自然状態において先端に向かって広がるように曲がっている曲げ部が形成され、前記筒体の先端部における前記ルーメンは、外周面へ向かって曲がって形成され、前記曲げ部を収容可能であり、前記ルーメンに沿う方向と直交する直交断面における内壁面の形状は、第1の方向が当該第1の方向と直交する第2の方向と比べて相対的に長く形成されている。前記針部材は、前記自然状態において直線的に延びる直線部の先端側に前記曲げ部が形成され、前記針部材の曲げ方向が前記ルーメンの曲げ方向と常に一致するように、前記直線部に沿う基準線から前記針部材の最先端までの最大離隔距離が、前記第2の方向の前記内壁面の幅よりも大きいことを特徴とするPFO閉鎖デバイスである
【0012】
本発明に係るPFO閉鎖デバイスは、筒体の先端部におけるルーメンが、針部材の曲げ部を収容可能であり、ルーメンに沿う方向と直交する断面におけるルーメンの内壁面形状が一方向に長く形成されるため、針部材に回転力が作用しても、針部材はルーメンの内壁面によって保持されて回転が抑制される。したがって、針部材の曲げ方向がルーメンの断面が長く形成される方向と一致して保たれ、針部材の筒体との干渉を抑制し安全性が向上する。
【0013】
前記針部材が、自然状態において直線的に延びる直線部の先端側に曲げ部が形成され、前記針部材の曲げ方向が前記ルーメンの曲げ方向と常に一致するように、前記直線部に沿う基準線から前記針部材の最先端までの最大離隔距離が、前記第2の方向と直交する方向の前記内壁面の幅よりも大きいので、針部材の回転がルーメンの内壁面によってより確実に抑制される。
【0014】
前記針部材の基端部が、他の部材に対して軸回転可能に接続されれば、接続される他の部材から回転力を受けないため、針部材に回転力が作用し難くなり、針部材の筒体との干渉をより確実に抑制できる。
【0015】
前記針部材が配置されるルーメンの内壁面に、先端方向に径が小さくなる段差部が形成され、前記針部材に、前記段差部を挿通不能な大きさのストッパが固定されれば、針部材の突出量が制限され、安全性が向上する。
【0016】
生体組織に存在する欠損の周辺にある生体組織を前記針部材と共働して針部材との間に挟持する挟持部材と、前記筒体の基端部に設けられ前記針部材および挟持部材を操作する手元操作部と、前記針部材および挟持部材に電気エネルギを供給する電気エネルギ供給手段と、を更に有し、前記生体組織を前記針部材および挟持部材により挟持して前記電気エネルギ供給手段から電気エネルギを供給し前記生体組織を接合することで欠損を閉鎖するようにすれば、針部材の筒体との干渉を抑制することで、生体組織を良好に挟持して欠損を閉鎖できる。
【0017】
前記手元操作部が、前記電気エネルギ供給手段と電気的に接続する接触部材と、前記針部材を移動させる操作部材と、前記操作部材に設けられるとともに前記針部材が軸回転可能に接続され、前記操作部材の移動によって前記接触部材と接触する端子と、前記端子が前記操作部材と接触する際に、前記針部材を前記端子に対して押圧する導通補助部と、を有するようにすれば、針部材に回転力を作用し難くして針部材の筒体との干渉を低減させつつ、端子に回転可能に接続される針部材を端子に対して確実に導通させることができる。
【0018】
一対の前記針部材が前記ルーメン内を先端側へ移動することで相互に離反するように拡開するようにすれば、2本の針部材を広い範囲に突出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る医療用デバイスを示す概略断面図である。
図2】本実施形態に係る医療用デバイスを示す要部斜視図である。
図3図2の3−3線に沿うカテーテル先端部の断面図である。
図4】本実施形態に係る医療用デバイスのカテーテル先端部の平面図である。
図5図3の5−5線に沿うカテーテル先端部の断面図である。
図6図5の6−6線に沿うカテーテル先端部の断面図である。
図7】本実施形態に係る医療用デバイスの手元操作部を示す平面図である。
図8図2の8−8線に沿う手元操作部の断面図である。
図9図2の8−8線に沿う手元操作部の拡大断面図である。
図10】スライド部を後退させる際を示す手元操作部の拡大断面図である。
図11図7の11−11線に沿う連結機構を示す断面図である。
図12図7の12−12線に沿うロック−アンロック機構部分の断面図である。
図13図12の13−13線に沿う断面図である。
図14】針操作レバーを操作する際の手元操作部を示す平面図であり、(A)は操作前、(B)は操作後を示す。
図15】スライド部を後退させる際の手元操作部を示す拡大平面図であり、(A)は後退中、(B)は後退後を示す。
図16】出力コネクタを手元操作部の入力コネクタに接続した際の手元操作部を示す拡大平面図である。
図17】針操作レバーを後退させた際の手元操作部の平面図である。
図18】操作ワイヤーを卵円孔に挿入した際の断面概略図である。
図19】卵円孔弁を保持し穿刺部を穿刺した状態の断面概略図である。
図20】針部材を突出させた際のカテーテル先端部の平面図である。
図21】穿刺部と挟持部材とにより卵円孔弁及び心房中隔を挟持した際の断面概略図である。
図22】(A)〜(D)は医療用デバイスの操作状態を示す概略図である。
図23】針部材の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0021】
本発明の実施形態に係る医療用デバイスは、PFO閉鎖デバイスであり、図1〜3を参照してまず概説する。なお、図2では、紙面の都合上、手元操作部70のみを縮小した状態で記載している。
【0022】
PFO閉鎖デバイスは、カテーテル本体10の基端に手元操作部70が取り付けられて構成されるカテーテル1(筒体)と、手元操作部70に基端が連結可能であって内部にカテーテル本体10が挿通可能なガイディングカテーテル3と、生体組織M(M1,M2の総称)を融着あるいは壊死させるための電気エネルギを供給するエネルギ供給手段4と、を有している。カテーテル1は、カテーテル本体10の先端部分に設けられ、卵円孔弁M2及び心房中隔M1を挟持する挟圧手段Kと、挟圧手段Kによる手技を安定かつ正確に行なうための位置決め保持手段60(図2参照)と、を備えている。なお、以下の説明において、デバイスの手元操作部70側を「基端側」、挟圧手段K側を「先端側」と称す。また、「カテーテル」とは、医療用に使用される管体を含むものを表すものである。
【0023】
デバイスの使用に当っては、まず、ガイディングカテーテル3を、例えば、大腿静脈Jから挿入するが、このガイディングカテーテル3は、内部にカテーテル本体10の先端に設けられた挟圧手段Kをカテーテル本体10と共に収納した状態で挿入する。先端が手技を行なう心臓の部位まで到達した後、手元操作部70を操作して挟圧手段Kをカテーテル本体10から突出させ、卵円孔の欠損O(以下、単に卵円孔Oと称することもある)が生じている心臓の心房中隔M1と卵円孔弁M2の組織を挟持する。この挟持状態で挟圧手段Kに電気エネルギを供給し、両組織を加熱融着し、欠損Oを閉鎖する。すなわち、挟圧手段Kは、加熱部として機能する。なお、図中、「L」は左心房、「R」は右心房を示す。
【0024】
挟圧手段Kは、心房中隔M1の一側面に直接接触する挟持部材11と、卵円孔弁M2に穿刺する穿刺部材12とから構成されている。挟持部材11は、図2に示すように、全体的に扁平な板状の平板部11aと、平板部11aの基端部に接続された一対の線材部11bとから構成され、カテーテル本体10の先端に固定された先端チップ40のルーメンL3,L4(図3参照)により、その平面位置が規制されている。また、挟持部材11は、2本の線材部11bを軸方向に進退させることにより、先端チップ40から突出して穿刺部材12との間に所定の挟持幅を形成したり、先端チップ40内に入り込むとき穿刺部材12側に向って接近し生体組織Mを挟持するように変位する。
【0025】
一方、穿刺部材12は、互いに離間する2本の針部材12aを備え、針部材12aが、先端チップ40に形成されたルーメンL1,L2(図3参照)に進退可能に保持されており、針部材12aを軸方向に進退させることにより鋭利な先端部が先端チップ40より出没し得るようになっている。
【0026】
各々の針部材12aは、軸直角断面が円形の、先端が鋭利に尖った極めて細い部材であり、各々の針部材12aには、図4,5に示すように、外部から力が作用しない自然状態において略直線的に延びている直線部12dと、直線部12dの先端側で滑らかな円弧状に曲がっている曲げ部12bとが形成される。なお、曲げ部12bは、滑らかに曲がらずに、屈曲して形成されてもよい。針部材12aの曲げ部12bよりも基端側には、針部材12aよりも径の大きい先端ストッパ12cが固定されている。
【0027】
先端チップ40に形成されるルーメンL1,L2は、先端側の開口する部位の近傍にて、先端チップ40の外周面へ向かって曲がって形成される。そして、ルーメンL1,L2は、曲がって形成される部位において、ルーメンL1,L2に沿う方向と直交する直交断面Z(図5参照)における内壁面形状が、ルーメンL1,L2の曲がる方向(第1の方向)に長軸を有する楕円形の断面を有している(図6参照)。なお、図5の断面図は、図3における5−5線に沿ってルーメンL2の近傍で屈曲する面における断面図である。すなわち、ルーメンL1,L2には、各々の針部材12aの曲げ部12bを挟むように内壁面41が形成される。内壁面41の直交断面Zにおける楕円短軸方向の幅Xは、図3に示すように、針部材12aの直線的に延びる直線部12dに沿う基準線Aから最先端までの最大離隔距離Yよりも小さく形成される。したがって、手元操作部70を回転させるなどの手技によってルーメンL1,L2内で針部材12aに回転力が作用しても、針部材12aは内壁面41によって保持されて回転が抑制され、針部材12aの曲げ方向がルーメンL1,L2の曲げ方向と常に一致する。なお、針部材12aの数は、2本に限定されず、1本であっても3本以上であってもよい。
【0028】
先端チップ40のルーメンL1,L2には、段差部42が形成されており、段差部42よりも基端側のルーメンの内径は、針部材12aに固定される先端ストッパ12cよりも大きく、段差部42よりも先端側の内径は、先端ストッパ12cよりも小さくなっている。したがって、段差部42よりも基端側のルーメンでは、針部材12aに固定される先端ストッパ12cが収容されて移動可能であるが、段差部42よりも先端側へは、先端ストッパ12cが段差部42に阻害されて侵入不能となっており、針部材12aの突出量が規制される。なお、本実施形態では、段差部42は、先端チップ40とカテーテル本体10との境界部に形成されているが、段差部42の位置はこれに限定されず、例えば先端チップ40内に形成されてもよく、またはカテーテル本体10内に形成されてもよい。
【0029】
挟持部材11や穿刺部材12は、いずれも電極部材(加熱部)として機能するものであるが、挟持部材11の線材部11bや穿刺部材12は、カテーテル本体10内を挿通し、後述の手元操作部70に設けられる入力コネクタ75、これに嵌合されるプラグである出力コネクタ87(図1参照)、出力コネクタ87の電極端子と接続された導線d(d1、d2の総称)及び制御部5を介してエネルギ供給手段4と電気的に接続される。また、導線d1又はd2のいずれか一方(本実施形態では導線d1)には、エネルギ供給手段4からの電流をオンオフ制御するために、足元に設置するフットスイッチSWが設けられている。なお、フットスイッチSWではなく、手元で操作しやすいスイッチであってもよい。
【0030】
手元操作部70は、生体組織に存在する欠損の周辺にある生体組織Mを挟持する一対の電極部材からなる挟圧手段Kを、カテーテル本体10の先端から出没自在に操作する部分であるが、ここには、手をあまり動かすことなく小さな領域内ですべての操作を行うことができるように、下記する手段などが一括して設けられている。
【0031】
つまり、手元操作部70には、図2に示すように、一方の電極部材である穿刺部材12を操作する針操作レバー78と、他方の電極部材である挟持部材11を操作するスライド部100と、挟圧手段Kの操作を補助するもので、手元操作部70およびカテーテル本体10の内部に軸方向移動可能に挿通された操作ワイヤー14と、操作ワイヤー14を操作するために操作ワイヤー14の基端部に連結される把持部20と、スライド部100のスライド移動をロック−アンロックするロック−アンロック機構102(図12参照)を操作すると共に、操作ワイヤー14の軸方向移動をロックする押し片109と、熱エネルギを付与するエネルギ供給手段4と接続する電極端子を備えた入力コネクタ75と、が設けられている。
【0032】
操作ワイヤー14の先端には先端部材68が設けられ、基端に把持部20が設けられる。操作ワイヤー14の材料は、例えばニッケルチタン合金、ステンレス等が適用できるが、これらに限定されない。また、先端部材68の材料は、例えばニッケルチタン合金、銀ろう等が適用できるが、これらに限定されない。そして、操作ワイヤー14と把持部20の間の引張力に対する破断強度が、操作ワイヤー14と先端部材68の間の引張力に対する破断強度よりも低くなっている。このような構成とすることで、把持部20を強く牽引した際に、生体内で操作ワイヤー14から先端部材68が脱落する前に操作ワイヤー14と把持部20の間で破断は生じ、安全性が向上する。
【0033】
手元操作部70には、図7に示すように、各種手順の工程を目視可能とするため、術者が正しい操作を行うように導くための種々の表示が表面部分に付された、工程表示部H(H1〜H5の総称)が設けられている(工程表示部H5は図14(B)を参照)。
【0034】
工程表示部Hは、押し片109を操作し、操作ワイヤー14を牽引する牽引工程の表示部H1と、穿刺部材12が生体組織を穿刺する穿刺工程の表示部H2と、スライド部100をスライド移動させ生体組織の挟持あるいは解放を行うスライド部移動工程の表示部H3と、入力コネクタ75をエネルギ供給手段4と接続する接続工程の表示部H4と、穿刺部材12を生体組織から後退させる穿刺部後退工程の表示部H5(図14(B)参照)とから構成され、それぞれ絵表示、番号および移動方向の矢印を用いて各工程をイメージさせる表示をしている。
【0035】
針操作レバー78に関して、穿刺部材12を穿刺する方向に移動(図14(A)に示す状態から図14(B)に示す状態)させると、フールプルーフ機能として、針操作レバー78の下面から、次に移動する方向の表示と、操作工程の順番を示す番号が現れるようになっている。
【0036】
さらに手元操作部70を詳述すると、手元操作部70は、図2に示すように、ガイディングカテーテル3が連結される側の本体部71と、本体部71の基端側に本体部71に対して近接離間するようにガイドバー(ガイド部)88A,88B,88Cを介して連結されたスライド部100と、を有し、本体部71の上面には穿刺部材12を操作する針操作レバー78が設けられている。
【0037】
本体部71の表面側(上面側)には、図7に示すように、凹部77が形成され、ここに針操作レバー78が長手方向(白抜き矢印参照)に摺動可能に設けられている。針操作レバー78は、図8〜10に示すように、本体部71に形成されたスリット(不図示)を挿通して内部空間76に達するように突出されたブラケット80を有し、このブラケット80に、針部材12aの基端側に設けられた端子81が連結されている。端子81には、針部材12aが回転可能に貫通する貫通孔(不図示)が形成される。針部材12aは、端子81の貫通孔の両側に、貫通孔の内径よりも径の大きい接続チップ12eが固定されており、針部材12aが端子81に対して回転可能に接続される。したがって、針操作レバー78をスリットに沿って摺動させると、端子81は、図9に示すように本体部71の内部に形成されたガイド溝82に沿って摺動し、回転を許容しつつ針部材12aを進退させるようになっている。
【0038】
本体部71の内部空間76の略中央には、後に詳述する主管63が挿通されている。主管63の基端側は、スライド部100に接着剤などにより連結され(図12参照)、スライド部100のスライド動作に応じて本体部71にガイドされて摺動する。
【0039】
内部空間76内の主管63には、基端近傍に端子83が取り付けられ(図8参照)、主管63の摺動に伴って端子83も摺動するようになっている。端子83には、挟持部材11の線材部11bが接続されている。
【0040】
これら端子81,83の移動終端位置には、スイッチとして機能する接触部材84,85が設けられている。勿論、穿刺部材12の電気系統と挟持部材11の電気系統とは、導通しないように絶縁されている。
【0041】
接触部材84,85は、導線d3,d4によって入力コネクタ75の両極に接続されており、針部材12aと線材部11bの移動に伴って移動する端子81,83と接すると、端子81,83と接したまま後退する構造となっている。すなわち、接触部材84,85と端子81,83は一定の長さの接触範囲を有しており、生体の個体差を吸収しつつ接触できるようになっている。
【0042】
また、図9,10に示すように、針部材12aに設けられる接続チップ12eの移動終端位置には、ばね部材(弾性部材)である導通補助部86が設けられており、接続チップ12eが移動することで、接続チップ12eを端子81に対して押し付ける構造となっている。すなわち、針部材12aを端子81に対して回転可能に連結したことで、端子81と針部材12aの間の電流の流れが不安定になる可能性があるが、導通補助部86が、回転可能な接続チップ12eを端子81に対して押し付けるため、端子81と接続チップ12eの間の接触抵抗を低減でき、電流の流れを安定させることができる。ばね部材は、端子81と一定の長さの接触範囲を有しており、生体の個体差を吸収しつつ接触できるようになっている。
【0043】
ガイドバー88A,88Bは、本体部71の内部の溝96A,96B内に設けられ、ガイドバー88Cは、不図示の溝内に設けられる。
【0044】
操作ワイヤー14は、主管63内に設けられ、軸方向に牽引操作し挟圧手段Kの操作を補助する機能を有するもので、主管63内で軸線を中心として360度回転可能となっている。操作ワイヤー14が360度回転可能であれば、操作ワイヤー14の先端を卵円孔Oの近傍まで挿入し、これを回転的に位置変位させることにより卵円孔Oに挿通させることができる。この結果、卵円孔Oの状態が種々変形していても、その形状状態如何に拘わらず、デバイスの先端を卵円孔Oに挿通させることができ、手技を容易化、迅速化を図ることができる。
【0045】
本体部71の先端部には、連結機構90(図2参照)の押ボタン93が設けられている。連結機構90は、本体部71に対するYコネクタ72の脱着を容易にするためのもので、押ボタン93を押した状態で、Yコネクタ72の基端部に設けられたフランジ部を本体部71に形成された挿通孔に嵌合させた後、押ボタン93の押圧を開放すると、図11に示すように、Yコネクタ72のフランジ部が摺動部材91の係合孔94に係合する。そして、摺動部材91がバネ部材92により弾発されて、フランジ部の抜け止め機能が発揮され、さらに押ボタン93を押すことで、Yコネクタ72が脱着可能となる構成となっている。
【0046】
なお、手元操作部70の先端には、図2に示すように、造影剤などを注入することができるYコネクタ72を連結機構90により連結することが好ましいが、Yコネクタ72を使用しない場合には、本体部71にフランジ部を有するガイディングカテーテル3を直接連結することができる。
【0047】
本体部71の基端部には、出力コネクタ87の外形形状に対応した接続孔74が設けられており、この接続孔74の内部に、入力コネクタ75の電極端子が配置されている(図7参照)。
【0048】
ガイドバー88Aは、側辺の一部が接続孔74に入り込むように配置されており、接続孔74に入り込んだガイドバー88Aは、出力コネクタ87の接続孔74への挿通を阻害して、出力コネクタ87の入力コネクタ75との接続を防止する。ガイドバー88Aの側辺の一部には、切欠部89(図9参照)が形成されており、スライド部100と共にガイドバー88Aおよび主管63が本体部71に対して後退させると、図10に示すように、この切欠部89が接続孔74と一致して、出力コネクタ87が入力コネクタ75と接続可能となる。また、スライド部100の後退により、主管63に固定されている端子83が接触部材85に接触して挟持部材11と入力コネクタ75とが電気的に接続する。
【0049】
このような構成を備えることで、手技中でも最も肝心な手技であって慎重さが要求されるエネルギ供給手段4と入力コネクタ75との接続を、生体組織Mの挟持が完了した後でなければ行えない構成になり、手技の安全性が高められる。
【0050】
また、図7に示すように、本体部71には、入力コネクタ75に隣接して開設された窓73が設けられている。そして、ガイドバー88Aには、切欠部89の近傍に「OK」表示部H6(図9参照)が表記されており、さらに、「OK」表示部H6から一定のピッチで数字(1〜5)が三角矢印と共に順に表記されている。
【0051】
スライド部100を本体部71から後退させることで、位置決め保持手段60をカテーテル本体10内に引き込み回収すると、手元操作部70では、ガイドバー88Aに表記された数字が、カウントダウンするように順番に窓73に現れ、挟持部材11を導通可能とする端子83が接触部材85に接すると、最終的に「OK」表示部H6が窓73に現れる構成となっている。
【0052】
図12,13に示すロック−アンロック機構102は、スライド部100に設けられ、押し片109を押圧することによってスライド部100のスライド移動をロック−アンロックすると共に、操作ワイヤー14の軸方向移動をロック−アンロックする。
【0053】
ロック−アンロック機構102は、作動部材104を摺動させることによりスライド部100と本体部71とを連結したり、ロックを外すことによりスライド移動を可能にするスライド部用の第1ロック部R1と、操作ワイヤー14の先端部に設けられた、後述の位置決め保持手段60が生体組織Mを保持あるいは位置決めするとき、操作ワイヤー14の軸線方向の進退操作を一時的に停止させる操作ワイヤー用の第2ロック部R2と、を併有している。
【0054】
第1ロック部R1は、スライド部100に形成されたスライド孔103内に摺動自在に設けられた作動部材104と、作動部材104に一体的に設けられ、本体部71に対しスライド部100の移動を規制する規制ロッド110とから構成されている。図12,13中の符号「107」はバネである。
【0055】
規制ロッド110には、本体部71の係合凹部111bと係合する係合突起111aが先端に設けられているので、作動部材104を押圧すると、係合突起111aと係合凹部111bとの係合が解除され、スライド部100は、本体部71に対しスライド可能になる。したがって、スライド部100を後退動作させれば、挟持部材11を穿刺部材12に対し近接作動させることができる。また、作動部材104には第2ロック部R2も設けられ、作動部材104の押圧により第2ロック部R2も解除されることになる。
【0056】
このように押し片109及び作動部材104を操作することにより、第1ロック部R1の解除と、第2ロック部R2の解除とが連動されるため、挟持部材11のカテーテル内への格納操作と、長尺な操作ワイヤー14を左心房側から引き抜く際に、必ず操作ワイヤー14を直状にする操作とを連動させることでき、生体組織Mを損傷させる可能性がある操作ワイヤー14が湾曲している状態での牽引操作や、挟持状態にある挟持部材11の後退動作を未然に防止でき、生体組織Mを損傷あるいは破断する事態を未然に防止できる。
【0057】
一方、操作ワイヤー14用の第2ロック部R2は、作動部材104に形成された係止部105と、操作ワイヤー14に固定される、操作ワイヤー14の外径よりも大きな大径部106とから構成されている。大径部106の材料は、例えばステンレスパイプ等が適用できる。大径部106は、操作ワイヤー14に対して、溶接、接着または融着等の材料に応じた公知の技術により固定される。第2ロック部R2は、操作ワイヤー14の軸線方向の進退操作を一時的に停止させるために、作動部材104に設けられた係止部105を、広幅部G1と狭幅部G2とを有する楔形通孔としている。このように楔形通孔をとすれば、操作ワイヤー14を通孔内で移動させるのみで、大径部106の挟持がより強力となり、別途加圧手段などを設けなくても、操作ワイヤー14を固定位置に保持でき、手技を容易に、安全かつ確実に行なうことができる。
【0058】
手技を行う場合、位置決め保持手段60が生体組織Mの保持や位置決めを行った後に、穿刺部材12による穿刺操作を行うが、生体組織Mの保持や位置決めは、操作ワイヤー14を牽引して行う。操作ワイヤー14を牽引して生体組織Mの保持や位置決めを行っても、保持状態や位置決め状態を維持していなければ、穿刺操作を行うことができない。したがって、第2ロック部R2は、操作ワイヤー14を牽引操作したときに、大径部106を係止部105(場合によっては通孔の口縁部105a)に係止し、操作ワイヤー14を一時的にロックした状態にし、操作ワイヤー14を持つ手を離しても、前記保持状態や位置決め状態を維持できるようにし、穿刺部材12による穿刺操作のみを単独で行うことを可能にしている。
【0059】
また、ロックを解除すれば、保持部62における弾性線材66,67の弾性により操作ワイヤー14の先端部分は自動的に直状になり、卵円孔弁M2の保持状態を簡単に解除できる。
【0060】
スライド部100の操作ワイヤー14が挿通される内部通路には、大径部106が基端方向へ通り抜け不能な大きさの移動規制孔108が形成されている。したがって、操作ワイヤー14を牽引する際、操作ワイヤー14に固定された大径部106が移動規制孔108に達するまでは牽引可能であるが、それ以上は、操作ワイヤー14をスライド部100に対して移動させることが不能となっている。
【0061】
図1に示すエネルギ供給手段4は、挟圧手段Kに電気エネルギを供給するもので、公知のシステム構成のため詳述は避けるが、制御の容易性からすれば、直流電源や交流電源を問わず、電気的なものが好ましい。ただし、これのみでなく、挟圧手段Kにより挟持した卵円孔弁M2と心房中隔M1とを熱により溶融し、コラーゲンやエラスチンなどの接着因子で圧着させることが可能なエネルギを供給できるものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、超音波、レーザー、マイクロ波あるいは高周波などを使用することもできる。
【0062】
位置決め保持手段60は、図2に示すように、概して、穿刺部材12を卵円孔Oに対し位置決めする位置決め部61と、穿刺部材12の穿刺方向に対し卵円孔弁M2を後退不能に保持する保持部62とから構成され、常時はガイディングカテーテル3内に収納されているが、使用時には、図示のように操作ワイヤー14及び主管63を操作することによりガイディングカテーテル3から押し出される。
【0063】
さらに詳述すれば、先端チップ40に形成された中央のルーメンL5には、主管63と、主管63内で軸方向に進退自在に設けられた操作ワイヤー14が設けられている(図3参照)。主管63は、基端側がスライド部100に固定的に保持され、このデバイスの中心軸的な機能を発揮するものであるが、またカテーテル本体10を補強するものでもあり、さらに、位置決め保持手段60をカテーテル本体10内に引き込み回収するものでもある。操作ワイヤー14は、カテーテル本体10の先端から主管63内を通りスライド部100の内部通路を通って、後端より突出されている。操作ワイヤー14の基端部には、操作ワイヤー14を進退動させたり回転させるために術者が指で把持するための把持部20が連結されている。
【0064】
主管63の先端部には、位置決め保持手段60の位置決め部61が設けられている。位置決め部61は、卵円孔Oに対し穿刺部材12を位置決めするもので、図2に示すように、操作ワイヤー14の操作により拡開縮小作動される一対の第1弾性線材66から構成されている。第1弾性線材66の基端は、主管63の外面に取り付けられ、先端は、内部に操作ワイヤー14が挿通された中間スリーブ体64の基端側に取り付けられている。
【0065】
位置決め部61は、操作ワイヤー14を軸方向に進退させる操作により、主管63に取り付けた基端を支点として第1弾性線材66を外方に変位させ、各第1弾性線材66が卵円孔Oの内縁を略等しい弾性力で押圧し、穿刺部材12を卵円孔Oに対して調心する。つまり、両第1弾性線材66間に位置する穿刺部材12を卵円孔Oの中央部に位置させる機能を発揮する。
【0066】
一方、保持部62は、穿刺部材12が卵円孔弁M2を穿刺しやすいように背面側から保持するもので、図2に示すように、操作ワイヤー14の先端部に設けられた先端部材68、先端スリーブ体65、及び、中間スリーブ体64と先端スリーブ体65とを連結する一対の第2弾性線材67を有している。先端部材68は操作ワイヤー14の先端に固定され、先端スリーブ体65及び中間スリーブ体64は内部に操作ワイヤー14が挿通され、第2弾性線材67は基端が中間スリーブ体64の先端に溶着され、先端側が先端スリーブ体65に溶着されている。
【0067】
これら中間スリーブ体64、先端スリーブ体65、両スリーブ体64,65を連結する第2弾性線材67、先端部材68は、操作ワイヤー14の先端部を屈曲または湾曲させる湾曲機構Wを構成している。
【0068】
湾曲機構Wは、卵円孔弁M2を保持するために用いられるものである。穿刺部材12が卵円孔弁M2を穿刺するとき、薄い卵円孔弁M2は背面側から保持すると穿刺が容易になる。したがって、湾曲機構Wは、操作ワイヤー14を軸方向に後退させることにより、先端部材68と第1弾性線材66の先端側との間で第2弾性線材67を屈曲乃至湾曲させ、先端部材68及び先端スリーブ体65により卵円孔弁M2を背面側から保持するようにしている。つまり、湾曲機構Wは、主管63に取り付けた第1弾性線材66の先端側を支点として、操作ワイヤー14の先端部が屈曲乃至湾曲するようになっている。
【0069】
ただし、保持部62の湾曲機構Wは、位置決め部61の第1弾性線材66が穿刺部材12を卵円孔Oに対して調心して位置決めを行った後に、湾曲して卵円孔弁M2を保持するように構成する必要があるので、第1弾性線材66が第2弾性線材67に先んじて変形する必要があることから、本実施形態では両弾性部材の剛性を変えている。
【0070】
本体部71に対しスライド部100を進退させると、スライド部100に固着されている主管63をカテーテル本体10の中央のルーメンL5内に引き込むことができ、これに伴って位置決め保持手段60全体をカテーテル本体10内に回収できる。
【0071】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0072】
(前工程)
術者は、大腿静脈よりイントロデューサー(ダイレータをロングシースに挿入した組立体)を挿入する。ロングシース先端を右心房Rを介し、左心房Lまで到達させた後、ロングシースより、ダイレータを抜去する。
【0073】
次に、ロック−アンロック機構102における第1ロック部R1の押し片109をスライド部100の内方に押圧し、作動部材104をスライド孔103内で下降させ、規制ロッド110の規制を外す。これにより、スライド部100は本体部71に対し可動状態になる。なお、接続孔74にはガイドバー88Aの側辺の一部が入り込み、出力コネクタ87の入力コネクタ75への接続が阻害されており、予期しないエネルギ供給手段4からの電力供給が確実に抑制され、安全性が確保されている。
【0074】
スライド部100を本体部71に対し後退させるとともに、針操作レバー78も後退させると、挟持部材11の線材部11bや穿刺部材12などがカテーテル本体10内に収納された状態となる。
【0075】
この状態で、ロングシース内に挿入し、大腿静脈J・右心房Rを通り、左心房Lまで到達させる。
【0076】
カテーテル本体10の先端が左心房Lに到達すると、スライド部100を本体部71に対して前進させる。これにより、端子および線材部11bを介して挟持部材11の平板部11aがカテーテル本体10の先端から突出し、また主管63を前進移動させるとともに、ロック−アンロック機構102の押し片109を押圧し、作動部材104に形成された通孔105の狭幅部G2に、操作ワイヤー14の大径部106が当らない状態、つまり第2ロック部R2をアンロック状態とし、操作ワイヤー14をフリーな状態にする。
【0077】
そして、主管63の先端から操作ワイヤー14の先端を先端スリーブ体65から突出させる。この突出状態は、先端部材68にX線不透過マーカーを設けているので、外部から視認することができる。操作ワイヤー14は、360度回転可能であるため、操作ワイヤー14を回転しながら前進でき、左心房Lに容易に挿通させることができる。
【0078】
操作ワイヤー14が左心房Lに挿入されている状態で、右心房Rに挟持部材11が到達するまで、手元操作部70を引く。このとき操作ワイヤー14の先端は先端スリーブ体65から突出し、左心房L内に挿入されている。
【0079】
(1)操作ワイヤーの牽引工程(なお、図面中では、工程の順番を丸数字で表示しているが、明細書では括弧書きの数字とする。以下同様。)
図7に示すように、牽引工程の表示部H1には、把持部20を牽引する表示が番号(1)と共に付されている。この表示にしたがって、術者は、操作ワイヤー14の先端位置の確認後、図22(B)に示すように、操作ワイヤー14先端の先端部材68が先端スリーブ体65に当接するまで、把持部20を牽引して操作ワイヤー14を後退させる(後退量は図22Bの「δ1」)。
【0080】
操作ワイヤー14を後退させると、大径部106も後退するが、ロック−アンロック機構102では、押し片109を押圧しない限りバネ107の弾発力により作動部材104が上方に付勢されているために、操作ワイヤー14は、楔形の通孔105の狭幅部G2と内部通路Qbの内周面との間で常時挟圧保持されているので、操作ワイヤー14の後退は、引く動作を円滑に行うことができる。そして、本体部71を操作し、第2弾性線材67、挟持部材11及び穿刺部材12を卵円孔弁M2の近傍に位置させ、保持部62全体を左心房L側に挿入する。
【0081】
操作ワイヤー14をさらに後退させると(後退量は図22Cの「δ2」)、この後退させる操作力が、操作ワイヤー14により、先端部材68、先端スリーブ体65、第2弾性線材67及び中間スリーブ体64を介して、基端が主管63に取り付けられた第1弾性線材66に伝達され、第1弾性線材66を、図22(C)に示すように、径方向外方に向って円弧状に突出変形させる。ただし、この時点では第2弾性線材67は変形していない。
【0082】
この結果、第1弾性線材66は、卵円孔Oの口縁部分を押し広げつつ変形することになるので、第1弾性線材66の直近に設けられている穿刺部材12を卵円孔Oに対して調心し、穿刺部材12を卵円孔Oの中心に位置させる。
【0083】
さらに操作ワイヤー14を後退操作し、図22(D)に示すように、中間スリーブ体64の後端が主管63の先端に当接すると、第1弾性線材66はあまり変形せず、先端側の第2弾性線材67が、操作力により径方向外方に向って円弧状に突出変形する。この結果、図18に示すように、左心房L内において、先端部材68と先端スリーブ体65が穿刺部材12に近付くように湾曲するので、先端部材68と先端スリーブ体65は、卵円孔弁M2の左心房側の面に当接し、これを保持することになる。
【0084】
次に、図12,13に示すロック−アンロック機構102における第2ロック部R2において、大径部106を楔形通孔である係止部105に押し込み、操作ワイヤー14をロックする。この結果、術者が把持部20から手を放しても保持状態は確実に維持され、卵円孔弁M2の保持が緩むことはなく、術者は、片手のみで針操作レバー78を前進させることができる。
【0085】
そして、操作ワイヤーの牽引工程において、術者が把持部20を強く引き過ぎた場合には、操作ワイヤー14と把持部20の間の破断強度が、操作ワイヤー14と先端部材68の間の破断強度よりも低いため、先端部材68が操作ワイヤー14から破断する前に、基端部材21が操作ワイヤー14から破断する。このため、先端部材68が操作ワイヤー14から脱落することが抑制され、血管内に先端部材68が取り残されず、先端部材68が血流によって運ばれて血管の閉塞等の障害を引き起こす可能性を抑制できる。また、仮に、基端部材21が操作ワイヤー14から破断しない場合であっても、必要以上に操作ワイヤー14を牽引すると、操作ワイヤー14に固定された大径部106が、スライド部100の移動規制孔108に到達する。大径部106は、移動規制孔108を通り抜けることができないため、これ以上の操作ワイヤー14の牽引が不能となり、操作ワイヤー14と先端部材68の間の引張力の上昇が制限されて、先端部材68が操作ワイヤー14から脱落することが抑制される。
【0086】
(2)穿刺工程
針操作レバー78を矢印方向に前進させると(図14参照)、穿刺部材12がカテーテル本体10の先端から突出し、図19に示すように、卵円孔弁M2の所定位置に穿刺部材12が穿刺される。このとき、図20に示すように、穿刺部材12に曲げ部12bが形成されており、かつルーメンL1,L2も湾曲して形成されているため、2本の針部材12aが外方へ拡開しつつ突出する。したがって、2本の針部材12aが広い範囲に突出し、生体組織Mを広い範囲で保持することができる。また、針部材12aの先端部分が自然状態において滑らかな円弧状に曲がった形状であるため、卵円孔弁M2に対してより垂直(起きた角度)で当接し、確実な穿刺が可能である。
【0087】
そして、ルーメンL1,L2が、直交断面Zにおいて曲げ方向に長い断面を有しており(図6参照)、曲げ部12bを挟む内壁面41が形成されているため、手元操作部70を回転させるなどの手技によってルーメンL1,L2内で針部材12aに回転力が作用しても、針部材12aは内壁面41によって保持されて回転が抑制される。したがって、針部材12aの曲げ方向がルーメンL1,L2の曲げ方向と常に一致して保たれ、針部材12aの鋭利な先端がルーメンL1,L2を構成する部材(先端チップ40)と干渉しない。したがって、針部材12aの鋭利な先端による先端チップ40の損傷を抑制でき、かつ滑らかな突出が可能となって安全性が向上する。
【0088】
また、手元操作部70において、針部材12aが端子81と回転可能に接続されているため、手元操作部70を回転させるなどの手技を行っても、針部材12aに捻れが生じ難く、針部材12aの他の部材との干渉をより確実に低減できる。
【0089】
そして、針部材12aに先端ストッパ12cが固定されており、先端ストッパ12cの移動を規制する段差部42がルーメンL1,L2に形成されているため、針部材12aが、段差部42および先端ストッパ12cによって規定される一定長さ以上は突出せず、安全性が向上する。
【0090】
穿刺部材12を穿刺する方向に移動させると、手元操作部70では、図14(B)に示すように、下面から、次に移動する方向の表示と、操作工程の順番を示す番号が現れる。
【0091】
穿刺部材12の位置は、位置決め保持部62により定められるので、ズレるおそれはなく、また一旦穿刺部材12を穿刺すると、穿刺部材12の位置は、卵円孔弁M2との関係では固定的な位置となる。したがって、術者は、穿刺操作が極めて容易になる。
【0092】
穿刺が完了すると、スライド部100を本体部71に対しさらに前進させる。これにより、端子及び線材部11bを介して挟持部材11の平板部11aがカテーテル本体10の先端から突出する。
【0093】
そして、手元操作部70では、針操作レバー78に取り付けられている端子81が前進して接触部材84に接触し、穿刺部材12と入力コネクタ75との間が電気的導通状態になる(図10参照)。
【0094】
更に、手元操作部70では、針操作レバー78に取り付けられている端子81が前進して針部材12aに固定された接続チップ12eが導通補助部86に当接し、接続チップ12eが導通補助部86によって端子81に対して押し付けられる。これにより、回転可能な接続チップ12eと端子81の間の接触抵抗が低減され、電気エネルギを印加する際の電流の流れを安定させることができる。
【0095】
(3)スライド部の移動工程
平板部11aが心房中隔M1に対向する位置になると、図15(A)に示すように、スライド部100を本体部71より後退させる。この時点においても、接続孔74にガイドバー88Aの一部が入り込んで出力コネクタ87の入力コネクタ75への接続が阻害されており、安全性が確保されている。
【0096】
スライド部100の後退により、図2に示す線材部11bを介して平板部11aが後退され、線材部11bの折曲部11cが先端チップ40のルーメン内に入るときの影響を受け、平板部11aは穿刺部材12に近付くように変位する。この変位により平板部11aは、心房中隔M1を卵円孔弁M2に向って押圧し、心房中隔M1と卵円孔弁M2が肉厚方向、つまり操作状態では前後方向の位置が固定され、図21に示すように、挟持部材11と穿刺部材12の間に心房中隔M1と卵円孔弁M2が存在している状態となる。
【0097】
この段階で、図12,13に示すロック−アンロック機構102における第2ロック部R2のロックを解除すべく、押し片109を押し、操作ワイヤー14のロックを解除すれば、操作ワイヤー14と先端部材68による第1弾性線材66と第2弾性線材67の加圧がなくなり、第1弾性線材66と第2弾性線材67が自らの弾性力により直状に伸びた状態になる。この状態で、図15に示すようにスライド部100を後退操作すると、主管63を介して位置決め保持手段60全体がカテーテル本体10のルーメンL5内に回収される。図15(B)に示すように、「OK」表示部H6が窓73に現れると回収が終了したことが分かる。
【0098】
一方、手元操作部70では、主管63に取り付けられている端子83も後退して接触部材85に接触し、挟持部材11と入力コネクタ75との間が電気的導通状態になる。そして、ガイドバー88Aの切欠部89が接続孔74と一致して、出力コネクタ87が初めて入力コネクタ75に接続可能となる。
【0099】
(5)接続工程
この段階でのスライド部100の後退は、生体組織Mの挟持と、端子83と接触部材85との接触状態を一挙に行うことになる。しかも、穿刺部材12側の端子81と接触部材84とは先に電気導通可能状態となっているので、挟持部材11と穿刺部材12の両者とも電気エネルギを供給可能な状態となる。
【0100】
そして、図16に示すように、出力コネクタ87を入力コネクタ75に接続すると、エネルギ供給手段4からの電力供給が可能な状態となる。
【0101】
この後、スイッチSWを作動させることで、制御部5により制御された所定の電気エネルギが挟持部材11と穿刺部材12に供給され、心房中隔M1と卵円孔弁M2が加熱される。
【0102】
融着温度を維持しつつ加熱を継続すると、心房中隔M1と卵円孔弁M2の組織が溶融し、コラーゲンやエラスチンなどの接着因子により相互に融着される。電気エネルギの制御部5は、出力を低く制御し、血栓の付着が生じにくくしているので、挟持部材11と穿刺部材12の一部が血液中に露出していても、挟持部材11や穿刺部材12に血栓の付着を防止できる。
【0103】
(6)穿刺部後退工程
融着が完了すると、図16に示す針操作レバー78を番号(5)の近傍に表示されている矢印の表示に従い後退させて図17の状態とし、穿刺部材12を先端チップ40内に収容する。これにより、針操作レバー78と共に移動する端子81が接触部材84から離れて(図8参照)、挟圧手段Kへの電気導通可能状態が解除される。この後、出力コネクタ87を入力コネクタ75から取り外す。そして、連結機構90の押ボタン93を押し、Yコネクタ72と本体部71との連結を解除することでガイディングカテーテル3と本体部71との連結を解き、本体部71を生体から離すように後退させると、ガイディングカテーテル3をガイドとしてデバイスが引き出される。この後、ガイディングカテーテル3を生体から抜去すると、手技は完了する。
【0104】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、本実施形態では、PFOの欠損を閉鎖する治療に使用されるものについて説明したが、これのみに限定されるものではなく、左心耳閉鎖デバイス(Left Atrial Appendage)といった通路状の欠損を閉鎖する場合や、あるいは所定の部位の生体組織Mを熱的に壊死させる場合にも使用可能である。
【0105】
また、針部材が突出する構造を備えた医療用デバイスであれば、本実施形態のようなエネルギを印加するものでなくてもよい。例えば、本発明は、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の治療法として、心臓の肥大部分にエタノールを注入して壊死させる経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)に用いられるデバイス等にも適用できる。したがって、針部材は、内部に薬剤等が注入可能な中空針であってもよい。また、針部材12aの針先端が、図4,5のようにテーパ状に傾斜して形成されるのではなしに、図23に示すように、円錐形状に形成されて最先端12fが針の断面中心に位置するように形成されてもよい。
【0106】
また、ルーメンL1,L2に沿う方向と直交する直交断面ZにおけるルーメンL1,L2の内壁面形状(図6参照)は、楕円形でなくても、一方向へ長ければ特に限定されず、例えば、長円形、長方形または菱形等とすることもできる。
【0107】
さらに、本出願は、2011年3月2日に出願された日本特許出願番号2011−045211号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0108】
1 カテーテル(筒体)、
4 エネルギ供給手段、
10 カテーテル本体、
11 挟持部材、
12 穿刺部材、
12a 針部材、
12b 曲げ部、
12c 先端ストッパ、
12d 直線部、
12e 接続チップ、
40 先端チップ(先端部)、
41 内壁面、
42 段差部、
70 手元操作部、
81 端子、
84 接触部材、
86 導通補助部、
A 基準線、
L1〜K5 ルーメン、
M 生体組織、
M1 心房中隔、
M2 卵円孔弁、
O 欠損、
X 内壁面の最小幅、
Y 最大離隔距離、
Z 直交断面。
図1
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