(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のビーム輸送ラインは、回転軸線方向の長さが短縮されて小型化が図られているが、回転軸線と交差する方向である径方向の大きさが非常に大きなものになっている。また、ビーム輸送ラインを形成する電磁石などは、径方向の外方へ張り出すように形成されたトラス状構造体によって支持されているため、回転ガントリ装置全体が、径方向に非常に大きなものになっている。そのため、回転ガントリを収容する収容スペースも広くなり、回転ガントリを設置する建屋の大型化を招来し、建設コストの低減が困難であった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、荷電粒子線照射装置の小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、荷電粒子線を被照射体へ照射する荷電粒子線照射装置であって、荷電粒子線を輸送する輸送ラインと、所定の回転軸線回りに回転可能な回転ガントリーと、を備え、輸送ラインは、
回転軸線方向に進行する荷電粒子線の進行方向を変更する第1のベント部と、第1のベント部の下流に設けられており、荷電粒子線を回転軸線と離間するように傾斜させて進行させる傾斜部
と、傾斜部の下流に設けられており、回転軸線と直交する方向へ荷電粒子線の進行方向を変更する第2のベント部と、第2のベント部の下流に設けられており、回転軸線の回転方向へ荷電粒子線の進行方向を変更する第3のベント部と、第3のベント部内を通過した荷電粒子線を、回転軸線側へ湾曲させる第4のベント部と、を有し、傾斜部内を進行した荷電粒子線を回転軸線の回転方向に旋回させ、回転方向に旋回した荷電粒子線を、回転軸線側へ湾曲させるように形成され、回転ガントリーは、被照射体を収容可能であり、かつ、輸送ラインを支持する筒体で形成され、輸送ラインの前記傾斜部は、回転ガントリーの筒体内を通過して配置されて
おり、回転ガントリーは、回転軸線が延在する方向の一端側である正面側が開放されていて被照射体が載置される治療台が配置可能となっていると共に、筒体内にて回転軸線が延在する方向のもう一端側である背面側が背面パネルで閉じられた照射室を有し、輸送ラインの傾斜部は、回転ガントリーの背面パネル及び照射室内を通過して配置されていることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る荷電粒子線照射装置は、回転軸線回りに回転可能な筒体を有する回転ガントリ
ーを備え、荷電粒子線を輸送する輸送ラインの一部が回転ガントリ
ーの筒体内を通過するように形成されている。輸送ラインの一部として
、荷電粒子線
を回転軸線と離間するように傾斜させて進行させる傾斜部が、筒体内を通過するように配置されている。このように、回転軸線から径方向へ離間する輸送ラインの傾斜部が、回転ガントリ
ーの筒体内を通過するように配置されていると、輸送ラインが筒体内(例えばエンクロージャー、照射室)を避けて配置されている場合と比較すると、輸送ラインの径方向の張り出し量を抑えることができ、装置全体の径方向の大きさを小さくすることができる。従って、荷電粒子線照射装置を収容するためのスペースを縮小し、建屋の小型化を図ることができる。建屋を小型化することで、例えば、放射線遮蔽壁に用いられるコンクリートの使用量を削減することができるので、建屋の建設コストを低減することが可能である。
また、回転軸線から径方向へ離間する輸送ラインの傾斜部が、回転ガントリーの背面パネル及び筒体内を通過するように配置されていると、輸送ラインが背面パネル及び筒体内(例えばエンクロージャー、照射室)を避けて配置されている場合と比較すると、輸送ラインの径方向の張り出し量を抑えることができ、装置全体の径方向の大きさを小さくすることができる。従って、荷電粒子線照射装置を収容するためのスペースを縮小し、建屋の小型化を図ることができる。建屋を小型化することで、例えば、放射線遮蔽壁に用いられるコンクリートの使用量を削減することができるので、建屋の建設コストを低減することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、荷電粒子線照射装置の小型化を図り、装置の収容スペースを抑え、建屋の小型化を図ることができる。従って、荷電粒子線照射装置が設置される建屋の建設コストの低減に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る荷電粒子線照射装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、陽子線治療装置(荷電粒子線照射装置)を備えた陽子線治療システムについて説明する。陽子線治療装置は、例えばがん治療に適用されるものであり、患者の体内の腫瘍(被照射体)に対して、陽子ビーム(荷電粒子線)を照射する装置である。
【0016】
図1に示すように、陽子線治療システム1は、陽子ビームを生成するサイクロトロン(粒子加速器)2、サイクロトロン2から出射された陽子ビームを輸送するビーム輸送ライン3、ビーム輸送ライン3によって輸送された陽子ビームを被照射体へ照射する陽子線治療装置10を有する。そして、陽子線治療システム1の各機器は、建屋5内に収容されている。
【0017】
サイクロトロン2で加速された陽子ビームは、ビーム輸送ライン3に沿って経路が偏向され、陽子線治療装置10に供給される。ビーム輸送ライン3には、陽子ビームの経路を偏向させるための偏向磁石や、ビーム成形を行う四重極電磁石等が設けられている。
【0018】
陽子線治療装置10は、
図2〜
図8に示すように、ビーム輸送ライン3によって導入され陽子ビームを輸送するビーム導入ライン31と、ビーム導入ライン31によって輸送された陽子ビームを被照射体へ照射するビーム照射ノズル11と、ビーム導入ライン31及びビーム照射ノズル11を支持すると共に所定の回転軸線P回りに回転可能な回転ガントリー12を備えている。
【0019】
回転ガントリー12は、
図7に示すように、回転軸線P方向に順に配置された円筒本体部13、コーン部14及び第2円筒部15を有する。これらの円筒本体部13、コーン部14及び第2円筒部15は、同軸(回転軸線P)上に配置されて連結されている。なお、円筒本体部13が配置されている方を回転ガントリー12の正面側、第2円筒部15が配置されている方を回転ガントリー12の背面側とする。
【0020】
円筒本体部13及び第2円筒部15は、薄肉構造の円筒体であり、剛性を保ちつつ軽量化できるよう構成されている。第2円筒部15は、円筒本体部13より小径とされ、コーン部14は、円筒本体部13及び第2円筒部15を連結するように円錐状に形成されている。コーン部14は、薄肉構造の筒体であり、正面側から背面側へ向かうにつれて、内径が小さくなるように形成されている。また、回転ガントリー12の回転軸線P方向の長さ(円筒本体部13の正面側の端部から第2円筒部15の背面側の端部までの長さ)は、例えば、L2=4.6m程度とされている。
【0021】
円筒本体部13の回転軸線P方向の両端部には、断面形状が例えば矩形のリング部13a,13bが設けられている。円筒本体部13は、
図2〜
図5に示すように、円筒本体部13の下方に配置されたローラー装置20によって、回転可能に支持されている。ローラー装置20は、回転ガントリー12を回転させるための駆動装置として機能する。
【0022】
円筒本体部13の正面側は開放され、円筒本体部13内への進入が可能な構成とされている。一方、円筒本体部13の背面側には、背面パネル(隔壁)16が設けられている。そして、円筒本体部13及び背面パネル16によって、照射室21が構成されている。照射室21内には、患者が横たわる寝台(治療台)22が配置可能となっている。寝台22は、ロボットアーム23によって移動可能とされている。治療を実施していない通常時には、寝台22は回転ガントリー12(照射室21)の外に配置され、治療を実施する際に寝台22は照射室21内に配置される。なお、
図7では、寝台22の図示を省略している。
【0023】
照射ノズル11は、円筒本体部13の内面側に固定され、円筒本体部13と共に回転軸線P回りに回転する。照射ノズル11は、円筒本体部13の回転と共に移動し、陽子ビームの出射方向が変更される。
【0024】
陽子線治療装置10のビーム輸送ラインであるビーム導入ライン31は、サイクロトロン2から出射された陽子ビームを輸送するビーム輸送ライン3と接続され、ビーム輸送ライン3によって輸送された陽子ビームを照射ノズル11に導入する。
【0025】
図8は、回転ガントリーに取り付けられたビーム導入ライン及びビーム照射ノズルを示す斜視図である。ビーム導入ライン31は、回転ガントリー12の回転軸線P方向に進行する陽子ビームの進行方向を偏向する第1ベント部32と、第1ベント部32の下流に設けられ、陽子ビームBを回転軸線P方向に対して傾斜させて進行させる傾斜部33と、傾斜部33の下流に設けられ、回転軸線Pと直交する方向へ陽子ビームBの進行方向を偏向する第2ベント部34と、第2ベント部34の下流に設けられ、陽子ビームBの進行方向を回転軸線Pの回転方向へ旋回させる第3ベント部35と、第3ベント部35の下流に設けられ、陽子ビームBを照射ノズル11の上方(
図2に示す状態における上方)へ進行させる直線部36と、直線部36の下流に設けられ、陽子ビームBを軸心側(回転軸線P側
)へ湾曲させる第4ベント部37と、第4ベント部37の下流に設けられ、陽子ビームBを照射ノズル11へ進行させる直線部38と、を備える。
【0026】
第1ベント部32は、陽子ビームBを湾曲させて進行方向を45度分偏向させる45度偏向電磁石によって構成されている。傾斜部33は、四重極電磁石41、ステアリング電磁石42、及びプロファイルモニター43などの光学要素を有する構成とされている。四重極電磁石41は、陽子ビームBの照射位置でのサイズや光学上の焦点位置を調整する機能を有する。ステアリング電磁石42は、ビーム軸を平行移動する機能を有する。プロファイルモニター43は、通過する陽子ビームBの形状と位置を検出する機能を有する。
【0027】
第2ベント部34は、陽子ビームBを湾曲させて進行方向を45度分偏向させる45度偏向電磁石によって構成されている。また、第2ベント部34と第3ベント部35と間には、プロファイルモニター43が配置されている。第3ベント部35は、陽子ビームBを湾曲させて進行方向を135度分偏向させる135度偏向電磁石によって構成されている。
【0028】
直線部36は、四重極電磁石41、ステアリング電磁石42、及びプロファイルモニター43を有する。第4ベント部37は、陽子ビームBを湾曲させて進行方向を135度分偏向させる135度偏向電磁石によって構成されている。直線部38は、四重極電磁石41及びプロファイルモニター43を有する。
【0029】
ここで、本実施形態の陽子線治療装置10では、回転ガントリー12に取り付けられたビーム導入ライン31の一部が、回転ガントリー12の筒体(円筒本体部13、コーン部14、第2円筒部15)内を通過して配置されている。ビーム輸送ライン3によって輸送された陽子ビームBは、第2円筒部15の背面側から内部へ導入され、第2円筒部15内、コーン部14内、背面パネル16及び円筒本体部13内を通過して、円筒本体部13を貫通して、円筒本体部13の外部へ導出される。
【0030】
回転ガントリー12は、ビーム導入ライン31を支持する第1〜第3支持部材51〜53を備えている。第1ベント部32は、第1支持部材51によって第2円筒部15に固定され、第2支持部材52によってコーン部14に固定されている。傾斜部33は、第3支持部材53によってコーン部14に固定されている。第2ベント部34は、円筒本体部13を貫通し、円筒本体部13によって支持されている。
【0031】
ビーム導入ライン31は、背面パネル16を貫通して円筒本体部13内へ進入し、照射室21内を通過するように配置されている。また、回転ガントリー12は、内部を通過するビーム導入ライン31を収容するケーシング55を備えている。ケーシング55は、ビーム導入ライン31に沿って配置され、ビーム導入ライン31を覆っている。ケーシング55は、第1〜第3支持部材51〜53を介して、又は、直接的に、円筒本体部13、コーン部14、及び第2円筒部15に固定されている。また、ケーシング55は、中性子線などの放射線を遮蔽する遮蔽材(例えば、ポリエチレンや鉛、ステンレス等など)によって構成されていることが好ましい。
【0032】
また、円筒本体部13の外周面には、円筒本体部13より外方に張り出したビーム導入ライン31を支持するための架台17が設けられている。なお、円筒本体部13より外方に張り出したビーム導入ライン31を、ビーム導入ライン張出部31aと称する。第3ベント部35、直線部36、及び第4ベント部37は、導入ライン張出部31aに含まれる。架台17は、円筒本体部13の外面に固定され、径方向の外側へ張り出している。架台17は、径方向の内側から、ビーム導入ライン張出部31aを支持している。これにより、電磁石(四重極電磁石41、135度偏向電磁石)などの荷重を円筒本体部13によって受けることができる。
【0033】
また、円筒本体部13の外周面には、回転軸線Pを挟んで対向配置されたカウンタウェイト18が設けられている。カウンタウェイト18を設置することで、円筒本体部13の外面に配置された第3ベント部35、直線部36、第4ベント部37、及び架台17に対する重量バランスが確保されている。
【0034】
そして、回転ガントリー12は、図示されていないモーターによって回転駆動され、図示されていないブレーキ装置によって回転が停止される。
【0035】
このような陽子線治療システム1では、サイクロトロン2から出射された陽子ビームBが、ビーム輸送ライン3によって輸送され陽子線治療装置10まで到達する。陽子線治療装置10まで到達した陽子ビームBは、ビーム導入ライン31によって輸送され照射ノズル11まで到達し、患者の腫瘍に対して照射される。照射ノズル11から照射される陽子ビームBの照射方向は、回転ガントリー12を回転することで調整することができる。
【0036】
このような陽子線治療装置10では、陽子ビームBを輸送するビーム導入ライン31の一部が、回転ガントリー12の第2円筒部15、コーン部14及び円筒本体部13内を通過するように形成されている。特に、ビーム導入ライン31の傾斜部33が、照射室21(円筒本体部13)内を通過するように斜めに配置され、回転ガントリー12の背面側から導入されたビーム導入ライン31を、回転ガントリー12の側部から導出することができる。そのため、照射室21を避けてビーム輸送ラインを形成する場合と比較して、ビームラインの張り出し量(軸心からの最大外径)を小さくすることができる。これにより、陽子線治療装置10の小型化を図り、陽子線治療装置10が設置される設置スペースを小さくすることができる。その結果、陽子線治療装置10を収容する建屋5の小型化を図ることができる。建屋を小型化することで、例えば、建屋の放射線遮蔽壁に用いられるコンクリートの使用量を削減することができるので、建屋の建設コストを低減することが可能である。なお、
図2に示すように、陽子線治療装置10の最大回転外径は、10.6m(L1×2)とすることができる。
【0037】
また、陽子線治療装置10では、ビーム導入ライン31の一部(傾斜部)が、背面パネル及び照射室21内を通過するように斜めに配置されてので、照射室21を避けるようにビーム導入ライン31が配置されている場合と比較すると、照射室21の背面側に配置されるビーム導入ラインの長さを短くすることができる。すなわち、陽子線治療装置10では、装置全体が回転軸線P方向にも小型化されている。
【0038】
また、本実施形態に係る陽子線治療装置10では、ビーム導入ライン(ビーム輸送ライン)31が回転ガントリー12の円筒本体部(筒体)13によって支持されている。これにより、ビーム導入ライン31を構成する光学要素である複数の電磁石が、強度部材として機能する円筒本体部13によって支持され、電磁石の重量を円筒本体部13によって受けることができるので、円筒本体部13に作用する力を好適に分散させることが可能である。また、円筒本体部13の一端側に背面パネル16が設けられているため、この背面パネル16を強度部材として機能させることができる。
【0039】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ビーム導入ライン31を構成する各要素は、所望のビーム設計に応じて、その配置や個数を適宜変更することができる。
【0040】
また、粒子加速器はサイクロトロンに限定されず、シンクロトロンやシンクロサイクロトロンでも良い。また、荷電粒子線は陽子ビームに限定されず、炭素ビーム(重粒子ビーム)などでも良い。また、回転ガントリー12の筒体は、円筒に限らず他の筒状でもよい。また、回転ガントリー12の筒体は、回転軸線P方向において、同一の形状でもよい。
【0041】
回転ガントリー12は、360°回転(揺動)するものに限定されず、360°未満の揺動を行うものでもよい。
【0042】
また、筒体の一部、例えば、側壁に切欠き部が設けられている構成でもよい。なお、筒体を通過するように配置されているとは、筒体に設けられた切欠き部にビーム導入ライン31が配置されているものも含む。
【0043】
また、背面パネルに切欠き部が設けられている構成でもよい。なお、背面パネルを通過するように配置されているとは、背面パネルに設けられた切欠き部にビーム導入ライン31が配置されているものも含む。背面パネルに設けられた切欠き部や開口部を通過するようにビーム導入ライン31が配置されていればよい。
【0044】
また、上記実施形態では、傾斜部が直線状に形成されているが、例えば、緩やかに湾曲している傾斜部でもよい。
【0045】
ビーム導入ライン31を支持するビーム導入ライン支持部は、上述した構成に限定されず、その他の構成でもよい。ビーム導入ライン支持部は、例えば、第1支持部材51、第2支持部材52、及び第3支持部材53が互いに連結され一体化されている構成でもよい。また、ビーム導入ライン支持部は、上記の第2支持部材52を使用せずに、第1支持部材51、及び第3支持部材53によって、ビーム導入ライン31を支持する構成でもよい。また、第1支持部材51は、コーン部14に固定されている構成でもよい。ビーム導入ライン支持部は、ビーム導入ライン31を挟んで、両側に支持部材が配置されている構成でもよい。
【0046】
四重極電磁石41、ステアリング電磁石42、及びプロファイルモニター43の配置は、上記実施形態に記載のものに限定されず、適宜変更することができる。また、四重極電磁石41、ステアリング電磁石42、及びプロファイルモニター43を有するものに限定されず、これらのうちの一つを備えていない荷電粒子線照射装置でもよい。
【0047】
荷電粒子線照射装置は、ビーム導入ライン31の一部(傾斜部)が、背面パネル16及び照射室21内を通過する構成に限定されない。例えば、照射室21と円筒本体部13及びコーン部14との間に、ビーム導入ライン31が通過するための十分なスペースがある場合には、照射室21と円筒本体部13及びコーン部14との間に、ビーム導入ライン31が配置された荷電粒子線照射装置でもよい。