【実施例】
【0066】
以下の実施例において本発明をさらに説明するが、実施例は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【0067】
実施例1 急性非代償性心不全(HF)を有する患者におけるMACEリスク決定のための、ST2をNT-proBNPと組み合わせた公式の誘導
受診時または処置中もしくは追跡中の時点における、ST2またはNT-proBNPのいずれかの測定は、予後判定のために有益であることが個々に示されている。予後判定のための最も強力な測定が、二つの時点でのST2の変化であることも決定されている。この分析においては、悪化中のHFの兆候および症状を有する、二つのHF診療所に通院している、確立された症候性HFを有する患者48人を評価した。sST2およびアミノ末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)の濃度の基線時(T0)および2週目(T1)の測定値を得た。1年間の追跡期間中、患者の56%において、有害心イベント(死亡、HFのための入院、および心臓移植)が報告された。このデータセットにおいてなされた一連の測定について計算された、表1に示されるROC曲線下面積(AUC)値は、全ての心イベントを転帰として使用した場合の、この時点を例示する。
【0068】
(表1)1年以内のイベントについての個々の各測定値および比値についてのROC AUC値の概要
【0069】
単純二元層別化アプローチにおいてST2比を使用して、本発明者らは、この場合、0.75というROC至適閾値を使用して、表2に示される結果を得た。
【0070】
(表2)0.75というST2比閾値を使用した1年以内の心イベントのリスクについての患者層別化の概要
【0071】
この表に見られるように、ROC至適閾値は中央値または平均値のいずれよりも低い。しかしながら、中央値のようなより高い閾値が使用された場合、相対リスクが1.9へと減少する。従って、この分析目的のためには、最も高い予後判定精度を提供する0.75という閾値が使用されるであろう。
【0072】
他の研究(Januzzi et al.,J.Am.Coll.Cardiol.50:607-613(2007);Mueller et al.,Clin.Chim.54(4):752-756(2008))において、リスク層別化または予後判定のために使用された場合、ST2とNT-proBNPとの間に相乗的な関係が存在することも観察された。このコホートにおいてその関係を確認し、かつST2およびNT-proBNPを共に使用するための最も強力な方法を同定することを試みて、様々な数学的組み合わせについて検討した。表3は、比として表されるST2の変化を、第二の時点におけるNT-proBNP値と組み合わせた場合の、単純二元分析において得られた至適な結果を表す。ST2比値についての0.75という閾値は、ROC分析により決定され、至適であることが主観的に確証された。1000pg/mlというNT-proBNP値は、1年の追跡期間内の予後判定のため理想的であると一般に見なされている。
【0073】
(表3)ST2比について0.75、NT-proBNPについて1000pg/mlという閾値を使用した、ST2比および2週目NT-proBNP値を使用した患者層別化の概要
【0074】
最高リスク患者および最低リスク患者の両方を同定するためには効果的であるが、このアプローチの弱点は、最低リスク群に極めて少数の患者が存在し、患者の大きい割合が不定の範囲に存在するという点である。
【0075】
NT-proBNP値と組み合わせられたST2比の機能的利用可能性をよりよく定義するため、以下の公式を開発した。
X=(ST2 T1/ST2 T0)+αln(NTproBNP T1)
この公式は、NT-proBNP項に関連した係数のある範囲について、ROC AUCの関数として結果を評価することにより開発された。この一連の計算からの結果は、
図1に示される。
【0076】
最大AUC値は、0.33というαの係数において達成され、最終方程式は以下のようになった。
X=(ST2 T1/ST2 T0)+0.33ln(NTproBNP T1)
感度、特異度、および相対リスク(右側軸)を比較する一連の計算において、このアルゴリズムを使用して、本発明者らは、
図2中のプロットを得た。
【0077】
このプロットにおいて、最大相対リスク値をもたらすスコア値は3.2である。
図3に例示された、このデータのROC分析は、至適閾値が3.3であることを確認している。次に高いAUC値を生じた、ST2比についての0.77、NT-proBNP比についての0.72と比較して、このスコアを使用したAUC値が0.80であることにも注目されたい。
【0078】
イベント(入院、移植、または致死)のリスクを有するこのコホート内の患者を層別化するため、3.2という閾値で、このスコアを使用した場合、低リスク患者と高リスク患者との間の明白な区別が達成される。これらの結果は表4に例示される。
【0079】
(表4)3.2というスコアカットポイントを使用した1年以内の有害イベントのリスクについての患者層別化の概要
【0080】
これらの結果を、表2に示されたST2比単独を使用した結果と直接比較すると、ST2比をNT-proBNP値と組み合わせることにより、リスク予測の評価を表す関連パラメーター;PPV、NPV、およびRRが、全て、より強力になることが例証される。
【0081】
比較のため、次に強力な値、NT-proBNP比についての層別化結果を表5に要約する。NT-proBNP比を使用した値は、ST2比を使用した場合、またはST2をNT-proBNPと組み合わせた公式からのものより、はるかに低い。
【0082】
(表5)NT-proBNP比を使用した1年以内の有害イベントのリスクについての患者層別化の概要
【0083】
(表6)ST2比およびスコアの値の比較
【0084】
図4Aに示されるような箱ひげ図を使用して、スコアおよびST2比の値の相対的な差を図示することもできる。予想通り、両方の群は、イベントクラスタと無イベントクラスタとの間の統計的に有意な分解を有していた(スコアについてはP=0.0004、ST2比についてはP=0.0013)。
【0085】
この公式から生じたスコアとST2値についての比との間の区別は、カプラン・マイヤー生存曲線により分析された場合にも観察される。
図4Bは、5.93という計算されたハザード比を有する公式スコアについての生存曲線結果を示す。以前の計算と一致して、
図5は、ST2比についてのこの同一の分析が、2.72というハザード比を有していたことを示し、それは、
図6に示されるように、NT-proBNP比について計算された2.39という値に類似している。
【0086】
カプラン・マイヤー曲線から計算されたハザード比は、コックス比例ハザード回帰分析と一致していた。表7は、三つの最も情報価値のある測定についての両方の計算からのハザード比(HR)値を要約する。
【0087】
(表7)1年追跡時のイベントのリスクについてのハザード比値の概要
【0088】
この公式を、表8に示されるように、死亡および/または移植という、より決定的な終点の予測における精度についても評価した。
【0089】
(表8)1年以内の死亡または移植についての個々の各測定値および比値についてのROC AUC値の概要
【0090】
この分析において、0.7より大きいAUCを有していた変数は、ST2比のみである。表9に示されるように、死亡または移植という転帰について、ST2比については0.85という閾値が至適であることが、ROC分析により決定された。
【0091】
(表9)ST2比ROC値
【0092】
これらの結果を、NT-proBNPの変化について一般に受け入れられている0.7という閾値と比較した場合(NT-proBNP比についてのROC至適値は0.58である)、表10に示される結果が生じた。ST2比および1年以内の死亡または移植のリスクについての至適閾値が、1年以内の任意の有害心イベントについての0.75という至適閾値より高く、0.85であったことに注目されたい。
【0093】
(表10)ST2比およびNT-proBNP比を比較した1年以内の死亡または移植のリスクについての患者層別化の概要
【0094】
各バイオマーカーは類似した予測力を有していたが、閾値より下に同定された患者5人のうち、両方のバイオマーカーによって予測されたのは1人のみであった。
【0095】
カプラン・マイヤー生存曲線分析は、この集団内で個々に考慮された場合、NT-proBNP比についての曲線は初期に分岐し、分岐したままであり、ST2比についての曲線ははるかに遅く分岐するが、ST2比およびNT-proBNP比は、転帰予測に関して機能的に識別不能であることを示した。ST2比について、HRは2.66であり(p=0.0506)、NT-proBNP比について、HRは2.60である(P=0.0201)。
【0096】
コックス比例ハザード回帰分析により得られた結果は、わずかに異なる。個々に分析された場合、HR値は、ST2比について1.94、NT-proBNP比について0.55であり、共に分析された場合、ほとんど同一であり、ST2比について2.03、NT-proBNP比について0.53であった。p値は、いずれの変数についても有意ではなく、それぞれ0.176および0.168であった。
【0097】
しかしながら、イベントが転帰パラメーターとして評価された場合に観察されたように、ST2比を第二のNT-proBNP値と組み合わせると、ROC分析の結果は、
図9に示されるように、この公式を使用した、より大きな予測精度を例証する。
【0098】
ROC分析は3.5を至適閾値として同定したが、付加的な分析は、以前に同定された3.2という閾値が、より良好な予後判定精度を提供することを確認している。カプラン・マイヤー生存分析(
図10)からのHRは、6.02であった(p=0.0060)。コックス比例ハザード回帰分析から計算されたHRは、極めて類似しており、6.08であった(p=0.016)。
【0099】
表11は、ST2比およびNT-proBNP比ならびにMACEリスクスコアについて以前に決定された値を比較する相対リスク計算の概要を提供する。
【0100】
(表11)1年以内の死亡または移植のリスクについての患者層別化の概要
【0101】
単純ボックスプロット(
図11)による例示は、MACEリスクスコア値についてのイベント群と無イベント群との間の区別を確認する。このプロットについては、p=0.002である。中央値が25〜75%境界線と重複しないことに注目されたい。ST2比およびNT-proBNP比についてのこの同一の比較は、
図12および13に示される。これらのプロットについてのp値は、それぞれ0.017および0.046であり、イベント群と無イベント群との間の区別は、MACEリスクスコアの場合ほど決定的ではない。
【0102】
結論
このデータセットから得られたように、二つの時点におけるST2値の比と、第二の時点において測定されたNT-proBNP値とを組み合わせた記載された公式は、患者が、入院、移植、または死亡として定義された有害心イベントを経験するであろうリスクの最も強力かつ正確な尺度を提供する。
【0103】
実施例2 MACEリスク予測のための、ST2をNT-proBNPと組み合わせた公式の検証解析
この実施例に記載された研究においては、Veteran Affairs Healthcare System(San Diego,California)で、急性的に不安定になったHFにより入院加療された患者150人を追跡した。ST2、BNP、NT-proBNP、および血中尿素窒素(BUN)を含む、複数の心臓関連パラメーターを測定した。入院から退院までの間の六つの時点において、血漿試料を収集した。バイオマーカー濃度を、90日目の生存と相関させた。これらの150人の患者を、行われた様々な測定と、これらの測定が行われた時点との間の協調を至適化するため、以下の基準によりさらに選別した。
1.1日目のST2値
2.2日という最低経過時間のため3日目以降のST2値
3.最終ST2値と同じ最終日のNT-proBNP値
4.退院時に生存
この選別により、残りの患者数は、全部で107人となり、90日以内のイベント(再入院または死亡)は35例、これらのイベントのうちの13例が90日以内の死亡であった。以下の分析は、90日以内の致死の予測における精度について、様々な個々の測定値を比較し、ST2をNT-proBNPと組み合わせた公式をバリデートする。
【0104】
バイオマーカーを、患者が生存したかまたは死亡したかの関数として、日毎に報告した場合、経時的な明白な区別が存在する。生存しなかった患者においては、ST2のみならず、BNPおよびNT-proBNPについての値も増加し、生存した患者においては、これらの値が減少したかまたは低いままであった。
図14〜16に、中央値が、25〜75パーセンタイルを表すエラーバーと共にプロットされる。
【0105】
この分析において、4日目(3日経過)までに、三つのバイオマーカー全てが、生存者と死者との間の中央値の最大分離を達成したが、中央値のみならず25〜75パーセンタイル値の有意な分解も達成し維持することができたのは、ST2およびNT-proBNPのみであった。
【0106】
表13に要約されたROC分析は、この観察を支持し、各バイオマーカーについての最大AUC値は、個々の4日目測定値、または基線と4日目との間の比として報告された変化についてであった。しかしながら、患者107人のこのコホートから、4日目について報告された値は60例しか存在しなかったため、4日目からの測定値を使用することの機能的強度は、この事例においては、限定されていた。分析に含まれていた患者の数を最大限にするため、3日目以降、各患者について入手可能であった最終値を得ることにより、最終(L)の値を得た。最終値についてのAUC値は、各バイオマーカーからの4日目値についての値と有意に異なっておらず、4:1測定またはL:F測定の比についてのAUC値も同様であったことが注目される。従って、この分析の残りのため使用した値は、最初(1)、最終(L)、および最終対最初(L:F)比であった。
【0107】
(表13)90日以内の致死についてのROC分析からの個々のAUC値
【0108】
図17および表14は、各バイオマーカーについてのL:F比値についてのROC分析を要約する。対比較において、いずれの曲線も、統計的に有意な分解を達成しない。
【0109】
(表14)90日以内の致死についての比のROC分析結果
【0110】
誘導のためにペプチドコホートデータを使用して決定されたように、致死リスクスコアの公式の結果は、個々の測定値または比値のいずれよりも大きなROC分析AUCを与えた。この公式についてのROC分析は、
図18に示され、ROC分析データは、表15に要約される。
【0111】
(表15)90日以内の致死についてのMACEリスクスコア公式 ROCデータ
【0112】
この分析からのROC至適値は3.52であった。ペプチドコホートデータを使用して認められたように(実施例1参照)、MACEリスクスコア公式ROC至適値はやはり3.5であったが、そのコホートにおいて、最良の予後判定(致死)精度は、3.2という値により達成された。基本の箱ひげ図(
図19)は、生存者群と死者群との間の明白な分解を示す(p<0.0001)。比較のため、ST2 R L:Fの箱ひげ図分析は、類似している(p=0.0001)(
図20)。ペプチドコホートデータを使用しても認められたように、基本のマトリックス分析および相対リスク計算は、MACEリスクスコアが最も正確な致死予測を提供することを確認する。
【0113】
(表16)最も強力な致死予測変数のマトリックス分析および相対リスク分析
【0114】
ST2比およびNTproBNP比は、いずれも、良好な相対リスク値を与えたが、MACEリスクスコアを使用した相対リスクははるかに高かった。
【0115】
結論
ペプチドコホートデータを使用して決定されたように(実施例1)、本明細書に記載されたMACEリスクスコア公式は、ROC、ハザード比、および相対リスク計算により決定されるように、特に転帰パラメーターが致死である場合、最も高い予後判定精度を提供する。これらの二つのコホートにおける閾値には、小さいが有意である可能性が高い差が存在する。実施例1に記載されたペプチドコホートは、0.75というST2比閾値および3.2というMACEリスクスコア公式閾値を有する外来患者群であり、この実施例2に記載されたVETコホートは入院患者群であり、それぞれの閾値は0.85および3.5である。この閾値の差は、入院患者状態と外来患者状態との間の疾患重度の差による可能性もあるし、または測定間の時間的な差による可能性もある。外来患者コホートにおいては測定間に2週間の時間枠が存在したが、それに対し、入院患者コホートにおいては3〜5日の時間枠であったためである。Shimpo et al.,Circulation 109(18):2186-90(2004)は、ST2値が、心筋梗塞後の最初の12時間に急速に増加することを報告した。これらの二つの実施例に記載された結果は、心不全を有する患者においてもST2レベルの動的な変化が存在することを明白に例証しているが、絶対的な動力学的パラメーターは未だ決定されていない。
【0116】
他の態様
本発明をその詳細な説明と共に説明したが、以上の説明は、本発明を例示するものであって、本発明の範囲を限定するためのものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義されることが理解されるべきである。その他の局面、利点、および修飾も、以下の特許請求の範囲に含まれる。