(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、従来技術の問題点を解決するために、鋭意実験、検討を重ねた。その結果、異形鋼線において強度と低サイクル疲労特性とを両立するため、フェライト−パーライト組織又はパーライト組織の金属組織を調整する。それとともに、伸線加工工程及び異形圧延工程の条件を制御することにより、異形鋼線の長手方向の中空扇形の形状をした断面の長手方向の<110>方位や肉厚方向の<100>方位の集合組織やその断面の内面側両端内角Rの寸法精度を制御することが可能となることを見出した。以下、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の断面を、長手方向に垂直な断面、中空扇形の形状をした断面、又は、単に、断面と言うことがある。なお、以下、海底ケーブル保護管用異形鋼線は異形鋼線であり、単に異形鋼線と言う場合がある。
【0014】
さらに、本発明者らは、異形鋼線の特性が、伸線加工及び異形圧延によって形成される集合組織によって、大きく変化すること、集合組織の制御により、高強度な異形鋼線の低サイクル疲労特性を向上させることが可能になること、また、集合組織の制御には、伸線加工及び異形圧延の条件が重要であることを見出した。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る異形鋼線の、長手方向に垂直な断面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る異形鋼線におけるEBSD測定面(TD面)と、長手方向及び肉厚方向を示す斜視図である。
図3は、同異形鋼線を、光通信ファイバーを中心として、3本を円筒状に組み合わせて形成した耐圧層の、長手方向に垂直な断面を示す図である。
図3に示すように、海底ケーブル等の耐圧層10は、光通信ファイバー8を中心として、長手方向に垂直な断面の形状が中空扇形の異形鋼線9を3本、長手方向の断面で組み合わせて円筒状に形成したものである。異形鋼線9の長手方向に垂直な断面の形状は、
図1に示すように、半径が異なり、中心角が120°である外面及び内面の2つの円弧と、中心軸で120°で交差する両端面とからなる中空扇形である。
図1に示すように、この中空扇形の形状をした断面において、内面の円弧側を内面側表層部2とし、外面の円弧側を外面側表層部1とする。このような異形鋼線9の断面の形状は、熱間圧延によって製造された素材鋼線を伸線加工し、伸線加工により得た中間鋼線に異形圧延を施して成形される。
【0016】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の金属組織は、引張強度及び冷間加工性に優れるパーライトとフェライトとからなり、集合組織は、異形鋼線の長手方向の断面において長手方向の<110>方位が集積した、即ち、異形鋼線の伸線加工方向である長手方向に<110>方位が配向したものである。異形鋼線の引張強度を高めるには、一定方向に方位が集積する度合いを表す集積度において、ランダムな結晶方位を集積度が1の基準として、長手方向の<110>方位の集積度を高めることが必要である。しかし、この集積度が高くても、異形鋼線の長手方向の中空扇形の形状をした断面の内面側表層部と外面側表層部とにおいて、長手方向の<110>方位の集積度の均一性を損なうと、低サイクル疲労特性が低下することを、本発明者らは見出した。ここで、異形鋼線の中空扇形の形状をした断面の長手方向の<110>方位とは、体心立方格子結晶における、{110}結晶面の法線方向を向いた結晶方位を表すものとする。即ち、長手方向の<110>方位が集積するということは、{110}結晶面が長手方向に対して垂直な断面に平行に集積することを意味している。
【0017】
そこで、本発明者らは、異形鋼線の長手方向の中空扇形の形状をした、
図1に示すような、断面の内面側表層部2及び外面側表層部1とで、長手方向の<110>方位の集積度の差を小さくするための検討を行った。その結果、伸線加工時、又は、異形圧延時において、異形圧延時の圧延機のローラーの作動直径を制御し、圧延機のローラー表面と中間鋼線との摩擦係数を制御することによって、異形鋼線の長手方向の断面における<110>方位の集積度を内面側表層部2と外面側表層部1とで均一に保つことができることや、さらに、低サイクル疲労特性の劣化を防止できることを、本発明者らは見出した。更に、本発明者らは、異形鋼線の長手方向の断面における肉厚方向の肉厚中心部3で、長手方向に垂直な肉厚方向の<100>方位の集積度の低下を抑制することにより、低サイクル疲労特性を改善できるという知見を得た。
【0018】
以下に、上述の知見に基づきなされた本発明の実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線と、その製造方法と、耐圧層とを詳細に説明する。
【0019】
まず、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の成分組成とその限定理由について説明する。なお、下記の元素の含有量に関する%は、質量%を意味する。
【0020】
C:0.30%〜1.10%
Cは、セメンタイトを生成し、強度を高める元素である。C含有量が0.30%未満であると、鋼の加工硬化率が低く、伸線加工及び異形圧延後、引張強度を高めることができない。そのため、C含有量の下限を0.30%とする。さらに、引張強度を高めるためには、C量を0.60%以上にすることが好ましく、0.70%以上にすることがより好ましい。一方、C含有量が1.10%を超えると、初析セメンタイトが生成して冷間加工性が劣化する。さらに、C含有量が1.10%を超えると、伸線加工工程や異形圧延工程において異形鋼線の破断が発生するため、C含有量の上限を1.10%とする。また、C含有量は、1.00%以下が好ましく、0.90%以下がより好ましい。
【0021】
Si:0.10%〜1.50%
Siは、脱酸元素であり、固溶強化にも寄与する。引張強度を高めるには、0.10%以上のSiを含有させることが必要である。Si含有量は0.15%以上が好ましい。一方、Si含有量が1.50%を超えると、Al
2O
3−SiO
2系複合介在物が硬質化するため、異形鋼線の低サイクル疲労特性が劣化する。そのため、Si含有量の上限を1.50%とする。さらに、Si含有量は、1.00%以下が好ましく、0.50%以下がより好ましい。
【0022】
Mn:0.20%〜1.50%
Mnは、脱酸やSの固定に必要な元素であり、鋼の引張強度の向上にも有効な元素である。そのため、0.20%以上を含有する必要がある。Mn含有量は0.30%以上が好ましく、0.40%以上がより好ましい。一方、Mn含有量が1.50%を超えると鋼中にMnSなどの偏析が生じて冷間加工性が劣化するため、Mn含有量の上限を1.50%とする。また、MnSの生成を抑制して低サイクル疲労特性の向上を図るには、Mn含有量を1.00%以下にすることが好ましく、0.70%以下にすることがより好ましい。
【0023】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線においてP、及び、Sは不純物であり、以下のように制限される。
【0024】
P:0.020%以下
Pは不純物であり、鋼中に存在すると、結晶粒界に偏析して延性を低下させる。そのため、延性を確保する観点から、P含有量を0.020%以下に制限する必要がある。好ましくはP含有量を0.015%以下に制限する。P含有量の下限は0%を含むが、0%にすることは工業的に困難であるため、P含有量の下限を0.0005%としてもよい。
【0025】
S:0.020%以下
Sは不純物であり、鋼中に存在すると、硫化物を形成する。例えば、Mnと結合して、粗大なMnSを形成し、延性を劣化させる。そのため、延性を確保する観点から、S含有量を0.020%以下に制限する必要がある。好ましくはS含有量を0.015%以下に制限する。S含有量の下限は0%を含むが、0%にすることは工業的に困難であるため、S含有量の下限を0.0005%としてもよい。
【0026】
以上が、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の基本的な成分組成であり、残部は、鉄及び不純物である。なお、「残部は、鉄及び不純物である」における「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから不可避的に混入するものを指す。
【0027】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線は、更に、Cr、Bの一種以上を含有してもよい。
【0028】
Cr:0.01%〜1.00%
Crは、パーライトのラメラー間隔を微細化させ、引張強度を向上させる元素である。伸線加工後及び異形圧延後の引張強度を向上させるためには、Crを0.01%以上含有することが好ましい。より好ましくは0.10%以上のCrを含有し、更に好ましくは、0.20%以上を含有する。一方、Cr含有量が1.00%を超えると恒温熱処理時のパーライト変態が遅延し、生産性が低下することがある。そのため、Cr含有量の上限は1.00%が好ましい。またCr含有量は、より好ましくは、0.70%以下とし、更に好ましくは0.50%以下とする。
【0029】
B:0.0004%〜0.0030%
Bは、粒界に偏析して初析フェライトや上部ベイナイトの生成を抑制する元素である。冷間加工性を高めるために、Bを0.0004%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.0005%以上のBを含有する。一方、B含有量が0.0030%を超えると、冷間加工性や低サイクル疲労特性を損なうことがあるため、B含有量の上限を0.0030%にすることが好ましい。より好ましくは、B含有量の上限を0.0020%とする。
【0030】
Nは、不純物であり、鋼中に存在すると、窒化物を形成して低サイクル疲労特性を劣化させる。さらに、歪時効によって延性を劣化させる。なお、不純物であるNの含有量は特に規定しないが、延性を確保する観点から、N含有量は0.006%以下とすることが望ましい。
【0031】
Cuは、不純物であり、鋼中に存在すると、熱間加工時に、赤熱脆性などによる割れを引き起こす。そのため、Cu含有量を0.05%以下とすることが望ましい。Cu含有量の下限を0%にすることは工業的に困難であり、不可避的に、スクラップなどから、0.005%程度は混入する。また、Cu含有量は、0.005%〜0.05%混入することもある。
【0032】
Niは、不純物であり、鋼中に存在すると、冷間加工性を劣化させる。そのため、Ni含有量を0.05%以下とすることが望ましい。Ni含有量を0%にすることは工業的に困難であり、不可避的に、スクラップなどから、0.005%程度は混入する。また、Ni含有量は、0.005%〜0.05%混入することもある。
【0033】
上述したように、Cu、Ni及びNは不純物である。しかしながら、Cu及びNiは製鋼時にスクラップから混入する可能性がある。そのため、Cu含有量及びNi含有量は0.05%以下とすることが望ましい。また、N含有量は、0.006%以下とすることが望ましい。
【0034】
次に、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の金属組織について説明する。異形鋼線の金属組織は、伸線加工によって高強度を得るため、フェライト−パーライト組織、又は、パーライト単独組織とする。これらの金属組織は、光学顕微鏡によって判別することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な断面の集合組織について説明する。異形鋼線の長手方向に垂直な断面は中空扇形の形状をしている。通常、フェライト−パーライト組織、又は、パーライト単独組織を有する鋼は、減面率の増加とともに、異形鋼線の長手方向の断面において長手方向の<110>方位が集積した集合組織が発達する。ここで、減面率とは、加工により減少した断面積即ち減少断面積を、加工前の断面積で除して百分率で表した値である。本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の引張強度は、断面の長手方向の<110>方位の集積度を高めることによって上昇する。しかしながら、低サイクル疲労特性を向上させるためには、異形鋼線の長手方向に垂直な断面の法線方向、即ち肉厚方向の<100>方位の集積度を高めることが必要である。
【0036】
異形鋼線の長手方向に垂直な断面の集合組織は、断面の周方向の中央部のTransverse Direction面、即ち、長手方向と肉厚方向とに平行な面において測定される。以下、Transverse Direction面を単にTD面と言う。TD面については、
図2にTD面5として示されている。
図2に示す本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線のTD面5において、長手方向7の<110>方位及び肉厚方向6の<100>方位の集積度は、電子線後方散乱回折法(EBSD)によって測定される。測定した集合組織は、結晶方位が異形鋼線の長手方向7に垂直な方向である法線方向即ち肉厚方向6、又は、異形鋼線の長手方向7に平行な圧延方向などを軸とした材料座標系に対し、完全にランダム方位であった場合を1とした集積度の度合いで示される。例えば、異形鋼線のTD面における肉厚方向の<100>方位の集積度が4の場合、完全に方位がランダムに配置されている場合と比較して、肉厚方向に向いている<100>方位の頻度が4倍であることを意味している。
【0037】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の圧延方向に平行な長手方向の<110>方位の集積度は、長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面の周方向の肉厚中央部などで測定される。具体的には、
図1に示すこの断面の肉厚方向の肉厚中央部3、並びに、内面側表層部2及び外面側表層部1の3箇所で測定する。断面の肉厚方向の肉厚中央部3は、断面の肉厚方向の中心から、それぞれ、内面側表層部2及び外面側表層部1に向かって、肉厚の10%の範囲とする。よって、この中空扇形の形状をした断面の肉厚中央部3の厚みは肉厚の20%の範囲である。さらに、この断面の内面側表層部2及び外面側表層部1は、それぞれ、断面の内面側及び外面側の表面から、肉厚の10%までの部位とする。
【0038】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面において、肉厚方向の肉厚中央部、並びに、内面側表層部及び外面側表層部の何れかの部位で、長手方向の<110>方位の集積度が2.0未満である場合は、引張強度が低下する。一方、この断面において、肉厚方向の肉厚中央部、並びに、内面側表層部及び外面側表層部の何れかの長手方向の<110>方位の集積度が4.0を超えると、低サイクル疲労特性が低下する。また、引張試験を行った際に脆性破壊し、結果として引張強度が低下する。これは、特定方位の集積度が高くなったことで、特定方向の転位のすべりが容易となり、異形鋼線の圧延方向に平行な長手方向において、長い距離に亘って疲労亀裂の伝播が引き起こされたことが原因である。また、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面において、内面側表層部及び外面側表層部の強度が不均一になることも、引張強度が低下する原因である。したがって、この中空扇形の形状をした断面において、肉厚方向の肉厚中央部、並びに、内面側表層部及び外面側表層部の長手方向の<110>方位の集積度を2.0〜4.0とする。
【0039】
さらに、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面において、断面の内面側表層部及び外面側表層部で測定した長手方向の<110>方位の集積度の差の絶対値が0.3を超えると、引張強度の均一性が低下する。そして、引張強度の均一性が低下した結果、低周波の外力が作用した際に、その影響が中空扇形の形状をした断面の内面側と外面側とで異なる。そのため、異形鋼線の耐久性、即ち、低サイクル疲労特性が劣化する。したがって、この中空扇形の形状をした断面において、断面の内面側表層部及び外面側表層部で測定した長手方向の<110>方位の集積度の差の絶対値が0.3以下である必要がある。
【0040】
また、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の製造方法における伸線加工工程及び異形圧延工程によって、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面において、長手方向の<110>方位の集積度を高めることができる。この場合、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面において、特定方向の転位のすべりが容易となり、長い距離に亘って疲労亀裂が伝播してしまう。そのため、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面において、長手方向の<110>方位の集積を抑制するとともに、法線方向、即ち肉厚方向の<100>方位の結晶方位の集積度の低下を抑制する。よって、等軸結晶粒からなる多結晶体での結晶粒微細化効果と同様に、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面を、結晶粒界での転位のすべりを抑制することで、異形鋼線の長手方向への亀裂の伝播を防止することとした。
【0041】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面では、断面の肉厚中央部の法線方向、即ち肉厚方向の<100>方位の集積度を1.2以上にすることにより、異形鋼線の低サイクル疲労特性を向上させることができる。好ましくは、肉厚方向の<100>方位の集積度を1.3以上、より好ましくは1.4以上とする。一方、この中空扇形の形状をした断面では、断面の肉厚中央部の肉厚方向の<100>方位の集積度が、3.8を超えても、低サイクル疲労特性を向上させる効果が飽和する。そのため、この断面における肉厚中央部の肉厚方向の<100>方位の集積度の上限を3.8とする。したがって、この中空扇形の形状をした断面において、断面の肉厚中央部の法線方向、即ち肉厚方向の<100>方位の集積度を、1.2〜3.8とする。
【0042】
続いて、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面における集合組織の測定方法について説明する。
図2に示すように、異形鋼線の長手方向7に垂直な中空扇形の形状をした断面の周方向の中心のTD面5を測定面とし、試料を調整する。即ち、異形鋼線の長手方向7に垂直な中空扇形の形状をした断面を見たとき、円弧状の湾曲した外周に沿って測った長さを板幅Wとし、円弧の端点から、外周上を円弧に沿ってW/2の位置の法線上で試料を切断する。この切断面がTD面5、即ち測定面である。
【0043】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面において、TD面を測定面とする集合組織の解析手法は、本発明者らが見出した知見に基づいている。従来、パーライト組織を多く含む鋼に、大きな塑性加工を加えた場合、EBSDによる集合組織の解析を、法線方向に垂直な面、即ち法線面、又は、長手方向に垂直な面、即ち、横断面で行う場合、EBSDの方位データの元になる菊池線という情報が極めて得られ難いという問題があった。しかし、本発明者らは、この問題を、TD面で測定することにより解決した。
【0044】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の集合組織を測定するための試料の作成方法を説明する。異形圧延工程を経た後の異形鋼線を、歪み及び熱が加わらないようにしながら、長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面の、外周に沿って測った長さを板幅Wとし、外周の端点から、外周に沿ってW/2の位置の法線上で、湿式の高速カッターなどで機械的に切断して、試料を得る。その後、得られた試料の測定面、即ち、TD面を研磨する。研磨は、まず機械研磨で行われる。機械研磨の後の仕上げに行う鏡面研磨には、粒径が1μm〜3μmのアルミナ又はダイヤモンド粒子を含浸させたバフ布を使用する。更に、測定面であるTD面の歪を除去するために公称0.05μm径のコロイダルシリカ研磨液により振動研磨を行う。更には、電解研磨等により、TD面の表面を化学的に溶解して仕上げるのが望ましい。
【0045】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の集合組織の測定方法を説明する。集合組織、即ち、結晶方位の測定は、TSL社製EBSD装置を使用して行う。まず、上述の方法によって得られた試料の測定面、即ちTD面の法線方向が電子線の入射方向に対して約70°をなすようにステージを傾ける。次に、傾けたステージに対して、電子線を照射して、微小ステップでスキャンする。そして、スキャンした電子線の非弾性散乱の干渉によって発生するEBSDパターンをCCDカメラで撮影する。この集合組織の測定方法において、結晶方位の情報を得る領域、及びスキャンするステップを特に限定する必要はない。しかしながら、フェライト及びパーライトブロックの大きさを考慮すると、適切な領域は40μm×40μmであり、適切なステップは0.5μmである。この適切な領域でステップの情報を取得して計算機上で再構築することにより、集合組織を示す逆極点図、即ち、結晶方位マップを得ることができる。
【0046】
上述の方法により得られたこの結晶方位マップを基に、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面における、肉厚方向の肉厚中央部、並びに、内面側表層部及び外面側表層部の各部位の集合組織に関するデータ、即ち、結晶方位の集積度を求める。結晶方位の集積度は、TSL社OIM−Analysis上で計算され、結晶方位が測定面であるTD面、異形鋼線の圧延方向即ち長手方向などを軸とした材料座標系に対し、完全にランダム方位であった場合を1とした集積度の度合いで示される。上述の方法によって、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面における、肉厚方向の肉厚中心部並びに内面側表層部及び外面側表層部での集合組織を測定する。また、この中空扇形の形状をした断面における、肉厚方向の肉厚中心部では、長手方向の<110>方位及び法線方向の<100>方位の集積度を求める。また、この中空扇形の形状をした断面における、内面側表層部及び外面側表層部では、長手方向の<110>の方位の集積度を求める。
【0047】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の寸法精度評価方法について説明する。本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線は、長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面を有し、光通信ファイバーを中心として、この異形鋼線を3本組み合わせて円筒状に形成して使用される。そのため、非常に優れた寸法精度が要求される。異形鋼線の長手方向に垂直な断面の寸法精度は、
図1に示す中空扇形の形状をした断面の内側面両端内角Rの比、即ち寸法精度指標で評価される。即ち、十分な寸法精度を得るためには、内面側両端内角Rを、それぞれ、R1、R2とした場合、R1に対するR2の比、即ち、R2/R1で表される寸法精度指標が0.5〜2.0である必要がある。寸法精度指標が0.5未満である場合、または、2.0を超える場合、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面が、この断面の外周の1/2の位置と内周の1/2の位置とを結んだ法線上を軸にして非対称になってしまい、光通信ファイバーを中心として、3本の異形鋼線を円筒状にすることができない。
【0048】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の機械的特性について説明する。異形鋼線の機械的特性は、引張試験によって得られる引張強度と低サイクル疲労試験によって得られる低サイクル疲労係数Aとによって評価を行う。本実施形態に係る異形鋼線の引張強度は、JIS Z 2241に準拠した引張試験によって試験を行う。光ファイバーなどの保護管に用いられる異形鋼線の引張強度としては1200MPa以上が要求されることが多い。引張強度が、1200MPa以上であると、海底ケーブル等を海底に設置する際に潮力などを受けても、ケーブルが破断しない。一方、伸線加工及び異形圧延加工によって、異形鋼線の引張強度を高める場合、工業的に3000MPaを超える強度を得ることは難しい。そのため、異形鋼線の引張強度は、1200MPa〜3000MPaが好ましい。また、異形鋼線の疲労特性は、低サイクル疲労試験によって得られる低サイクル疲労係数によって評価をする。低サイクル疲労試験は、評点間距離を8mmとし、歪振幅Δεを2%〜6%とする。さらに、歪速度ε´を0.4%/秒とし、試験波形を繰返速度0.050Hzの三角波として歪を負荷する。式(1)に示すように、この試験により得られた破断までの繰返数、即ち、破断繰り返し数Nfを歪振幅Δε
-0.3885で除して得られるのが、低サイクル疲労係数Aである。低サイクル疲労係数Aが15以上であれば、例えば、海洋に、船上から通信ケ−ブルを敷設する際の荒天、波浪等による低周波の外力による破断の可能性を顕著に低下させることができる。低サイクル疲労係数Aが300を超えることは、工業的に難しいため、異形鋼線の疲労特性を評価する指標である低サイクル疲労係数Aは、15〜300が好ましい。
A=Nf/Δε
-0.3885 式(1)
【0049】
次に、本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の製造方法について説明する。異形鋼線の素材となる素材鋼線は、転炉等従来の方法で、成分を調整した鋼片を熱間圧延することで得られる。得られた素材鋼線の化学成分は、例えば、質量%で、C:0.30%〜1.10%、Si:0.10%〜1.50%、Mn:0.20%〜1.50%を含有し、P:0.020%以下、S:0.020%以下に制限され、残部がFe及び不純物からなる。また、この素材鋼線の金属組織は、フェライト−パーライト組織又はパーライト組織からなる。ここで、熱間圧延の条件は特に規定しないが、例えば、鋼片の加熱温度を1000℃〜1200℃とし、オーステナイト域で熱間圧延を行い、冷却すればよい。次に、熱間圧延をして得られた素材鋼線は、線径を伸線加工によって調整され、オ−ステナイト域まで加熱され、その後冷却された後、恒温変態を起こすためのパテンティング処理を施され、中間鋼線となる。
【0050】
上述の伸線加工工程において、素材となる素材鋼線を伸線加工して、中間鋼線は得られる。その後、得られた中間鋼線は、異形圧延を行って、異形鋼線として製造される。伸線加工は、冷間で、ダイスを用いて引抜加工することによって行われる。異形圧延工程は、平圧延、第一の異形圧延及び第二の異形圧延からなる。具体的には、異形圧延工程は、中間鋼線を長手方向の断面形状を円形から板状に成形する平圧延と、平圧延後に、平圧延で得られた中間鋼線の幅方向の端面の形状を調整する第一の異形圧延と、その後の第一の異形圧延で得られた中間鋼線の長手方向即ち圧延方向に垂直な断面が中空扇形になるように、第一の異形圧延で得られた中間鋼線に対して曲げ加工を行う第二の異形圧延からなる。このように、中間鋼線は、異形圧延工程を経て、異形鋼線となる。ここで、平圧延後の端面の形状の調整及び長手方向に垂直な断面が中空扇形になるような曲げ加工は、孔型ロールを用いた異形圧延である。
【0051】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の製造方法において、長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面の集合組織を制御するためには、伸線加工工程では、伸線加工による断面積の減少の度合いが極めて重要である。この伸線加工による断面積の減少の度合いは、伸線加工割合とされる。この伸線加工割合は、素材鋼線の断面積から異形鋼線の断面積を減じた全減少断面積に対する、素材鋼線の断面積から中間鋼線の断面積を減じた減少断面積の比であり、百分率で表される。即ち、伸線加工割合とは、伸線加工工程において減少した断面積を、素材鋼線の断面積から異形鋼線の断面積を減じた値で除して、百分率で表した値である。以下、素材鋼線の断面積から異形鋼線の断面積を減じた値は総減面積と、伸線加工割合を伸線加工による減少断面積割合ということがある。本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の製造方法では、素材となる素材鋼線から中空扇形の形状をした断面を有する異形鋼線に加工するまでの総減面積のうち、伸線加工による減少断面積割合、即ち、伸線加工割合を30%〜85%とする。
【0052】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の製造方法において、伸線加工割合が30%未満であると、異形鋼線の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面の長手方向の<110>方位の集積度が2.0未満になり、引張強度が低下する。一方、伸線加工割合が85%を超えると、この断面の長手方向の<110>方位の集積度が4.0を超え、低サイクル疲労特性が劣化する。もしくは、この断面の肉厚中心部における肉厚方向の<100>方位の集積度が1.2未満に低下し、低サイクル疲労特性が劣化する。
【0053】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線の製造方法における異形圧延工程では、異形圧延を行う圧延機のローラーの作動直径、及び、圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数が重要である。異形圧延を行う圧延機のローラーの作動直径が350mmを超えると、異形圧延を行う際に、中間鋼線が、圧延方向へ所定以上に延びてしまい、必要な寸法精度が得られない。また、異形圧延を行う際に、圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数が0.2を超える場合においても、中間鋼線が、圧延方向へ所定以上に延びてしまい、中間鋼線の幅方向への塑性変形流動が不足して、必要な寸法精度が得られない。さらに、この場合、表面疵が発生することがある。また、異形圧延を行う圧延機のローラーの作動直径が350mmを超える場合、もしくは、圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数が0.2を超える場合は、異形鋼線の長手方向の中空扇形の形状をした断面の内面側表層部と外面側表層部との塑性変形流動に大幅な差異が生じてしまう。塑性変形流動に大幅な差異が生じると、この断面の内面側表層部と外面側表層部とにおいて、異形鋼線の長手方向の<110>方位の集積度の差の絶対値が0.3を超え、低サイクル疲労特性が劣化する。そのため、異形圧延を行う際の、圧延機のローラーの作動直径の上限を350mmとする。また、異形圧延を行う際の、圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数の上限を0.2とする。
【0054】
一方、異形圧延工程において、異形圧延を行う圧延機のローラーの作動直径が210mm未満の場合は、異形鋼線の長手方向の中空扇形の形状をした断面を安定的に造り込むことが困難になる。また、異形圧延を行う圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数が0.05未満の場合においても、中空扇形の形状をした断面を安定的に造り込むことが困難になる。さらに、異形圧延を行う圧延機のローラーの作動直径が210mm未満の場合、もしくは、異形圧延を行う圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数が0.05未満の場合には、第二の異形圧延において、第一の異形圧延を経た鋼線の孔型ロールへ入線量が、不十分になってしまう。そのため、異形鋼線の寸法精度が低下し、必要な寸法精度指標が得られない。さらに、異形圧延を行う圧延機のローラーの作動直径が210mm未満の場合、もしくは、異形圧延を行う圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数が0.05未満の場合には、例えば第二の異形圧延において、圧延機のローラーの隙間に中間鋼線がはみ出して、疵の原因になることがある。そのため、異形圧延を行う際の、圧延機のローラーの作動直径の下限を210mm、圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数の下限を0.05とする。
【0055】
また、異形圧延工程において、異形圧延を行う際の、圧延機のローラーの入側の張力を調整するバックテンションの制御は、非常に重要である。その理由は、このバックテンションの制御により、異形鋼線の表面疵を防止し、かつ、寸法精度を確保することができるからである。異形圧延を行う際、バックテンションが圧延機のローラーの入側の中間鋼線の破断荷重の2%未満であると、圧延機のローラーへの入線が、例えば上下左右に振動するなど、不安定になる。異形圧延を行う際、圧延機のローラーへの入線が不安的になると、異形鋼線の表面に疵が発生しやすくなる。さらに、異形圧延を行う際、圧延機のローラーへの入線が不安的になると、異形鋼線の必要な寸法精度が得られない。一方、異形圧延を行う際、バックテンションが圧延機の入側の中間鋼線の破断荷重の7%を超えると、圧延機のローラーによる加工によって、不安定な塑性変形が生じてしまい、結果として異形鋼線の寸法精度を損なうことになる。
【0056】
異形圧延工程において、異形圧延を行う際の、圧延機のローラーの入側の中間鋼線とは、その前の圧延により加工された中間鋼線である。即ち、その前の圧延により加工された中間鋼線とは、平圧延の場合は伸線加工を経た中間鋼線を、端面の形状調整を行う第一の異形圧延の場合は平圧延を経た中間鋼線を、曲げ加工を行う第二の異形圧延場合は第一の異形圧延後の中間鋼線を意味している。そして、それぞれの中間鋼線の破断荷重を、圧延機のローラーの入側の中間鋼線の破断荷重とする。この破断荷重は、異形圧延の張力を調整するバックテンションを制御するために、予め前工程で加工された中間鋼線の引張試験により測定される。そして引張試験により測定された破断荷重に基づいてバックテンションを制御する。
【0057】
本実施形態に係る海底ケーブル保護管用異形鋼線は次のように使用される。まず、
図3に示すように、異形鋼線9の長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面の内面側表層部を、光通信ファイバー8を中心として当て、長手方向に異形鋼線3本を円筒状に組み合わせて耐圧層10を形成する。この耐圧層10は、海底ケーブル保護管として使用される。つまり、
ケーブルは、3本の異形鋼線9と光通信ファイバー8とを有し、その3本の異形鋼線9が、光通信ファイバー8を中心として円筒状に組み合わされている。なお、本実施形態に係る耐圧層が備える異形鋼線は、組み合わせて円筒状になるのであれば、本数は限定されず、例えば2本や4本でも構わない。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0059】
まず、表1に示す成分の鋼片を1100℃に加熱した後、熱間圧延を行った。この熱間圧延によって、線径が4.0mm〜6.5mmの素材鋼線を製造した。得られた素材鋼線の金属組織はフェライト−パーライト又はパーライト単独の組織であった。伸線加工工程の前処理として、この素材鋼線の表面のスケールを、曲げ加工とショットブラストとによって除去した。このショットブラスト後に、素材鋼線を洗浄して、その後に潤滑剤を塗布して、その後に乾燥させた。そして得られた素材鋼線に対して、パテンティング処理を施し、伸線加工工程において伸線加工を行った。
【0060】
【表1】
【0061】
伸線加工工程における伸線加工は、ダイスアプローチ全角が10°〜14°の複数のダイスを用いて行った。各ダイスによる減面率は15%〜35%とした。次の異形圧延工程において、伸線加工後の中間鋼線に対し、平圧延を行った。この平圧延は、円形の形状を有する中間鋼線の長手方向の断面に対して、平ロールによって異形圧延をおこなうものである。平圧延を経た後、第一の異形圧延では、平圧延を経た中間鋼線に対して、平ロールに接触していなかった中間鋼線の幅方向の端面を斜めに圧下する異形圧延を行った。この異形圧延によって、第一の異形圧延を経た中間鋼線の長手方向の断面の形状は台形となった。そして、第一の異形圧延を経た後、第一の異形圧延を経た中間鋼線に対して、第二の異形圧延では、第一の異形圧延によって加工された中間鋼線の長手方向の台形の形状をした断面において、台形の短辺の中心から短辺に沿って外側に押し出すように、異形圧延を行った。また、第二の異形圧延では、第一の異形圧延によって加工された中間鋼線の長手方向の台形の形状をした断面において、台形の長辺の端部を外側から内側に押し込むように、異形圧延を行った。この第二の異形圧延によって、長手方向の断面が中空扇形の形状をした異形鋼線が得られた。
このとき、異形圧延工程において、圧延機のローラーの入側に張力検出器及び張力付加装置を設置し、バックテンションの負荷及び制御を行った。なお、伸線加工工程後、及び異形圧延工程の各圧延後にその前工程により得られたそれぞれの中間鋼線の破断荷重を引張試験によって測定した。そして、測定により得られた各破断荷重に基づいてバックテンションの制御を行った。
【0062】
素材である素材鋼線の半径即ち線径と断面積、伸線加工後の中間鋼線の半径即ち伸線径と断面積、異形圧延後の異形鋼線の断面積を製造条件とともに表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
伸線加工工程及び異形圧延工程を経て得られた異形鋼線の、長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面の周方向の中心のTD面を測定面とし、EBSDにより、集合組織を測定した。なお、測定前に、異形鋼線の測定面に対し鏡面研磨を行い、更に歪を除去するために振動研磨を行った。また、EBSDによる集合組織の測定は、長手方向に垂直な中空扇形の形状をした断面の周方向の中心軸上、また、この断面の肉厚方向では、肉厚中心部並びに内面側表層部及び外面側表層部で行った。また、この異形鋼線の金属組織は、光学顕微鏡で観察した結果、フェライト−パーライト組織、又は、パーライト単独の組織であった。
【0065】
異形鋼線の引張強度は、JIS Z 2241に準拠してインストロン型引張試験機を用いて測定した。表3に示すように、引張強度が1200MPa以上のものを、十分な強度を有するものとした。また、異形鋼線の低サイクル疲労試験は、評点間距離を8mmとする試験片を用いて、片振り引張試験で行った。この低サイクル疲労試験は、歪振幅Δε:2%〜6%の間で、歪速度ε´:0.4%/秒、試験波形:繰返速度0.050Hzの三角波で歪を負荷した。この低サイクル疲労試験において、試験片が破断するまでの繰返数Nfを測定した。この試験結果を、式(1)のA=Nf/Δε
-0.3885に代入し、低サイクル疲労係数Aを算出した。この低サイクル疲労係数Aが15以上である場合、表3に示すように、海底ケーブルの敷設時に十分な低サイクル疲労特性を持つものとした。
【0066】
異形鋼線の疵は、表3に示すように、0〜3の疵評点により評価を行った。まず、異形鋼線の表面疵の判別は、軍手をはめた触手、及び表面を目視で観察することにより行った。具体的には、製造した異形鋼線から10m〜20mの長さの試料を採取した。次に、軍手をはめた掌中で採取した試料の全長を滑らせながら触った。この時、なめらかに滑らすことができ、いわゆる「ケバ」が認められない試料を「疵が全く存在しない」として疵評点を0とした。また、この評価方法において、軍手が試料の表面に引っ掛かり、ケバが認められた場合を1〜3の疵評点とした。疵評点が1とは、軍手が試料の表面の部位が、疵限度見本写真と比較して、その見本写真よりも小さい場合であり、許容できると判断した。また、疵評点が2とは、軍手が試料の表面その部位を、疵限度見本写真と比較した結果、その見本写真よりも大きい場合である。また、疵限度見本写真と比較して、疵が非常に大きく、操業中に断線が発生した場合には、疵評点を3とした。また、表3において、寸法精度指標が0.5〜2.0である場合にのみ寸法精度はgoodとし、それ以外の場合はno goodと表示した。
【0067】
上述の結果を表3に示した。本発明例01〜13は、本発明に必要な集合組織の集積度及び寸法精度を満たし、また、引張強度及び低サイクル疲労係数Aの十分な機械的特性が得られていた。さらに、表2に示したように製造条件が好適であった。
一方、比較例14〜16は、肉厚中央部における集合組織や長手方向の断面における集合組織が、本発明に必要な条件を満たしていなかった。さらに、比較例14〜16は、製造条件において、伸線加工割合が高く、好適ではなかった。これらの結果、低サイクル疲労特性が低下していた。
【0068】
【表3】
【0069】
比較例17〜19は、異形鋼線の長手方向の断面の内面側表層部及び外面側表層部への<110>方位の集積度が不足していた。さらに、比較例17〜19は、伸線加工割合が十分ではなかった。これらの結果、引張強度が低下していた。
比較例20は、製造条件において、異形圧延時のバックテンションが十分ではなかったため、寸法精度指標が本発明に必要な範囲を満たしておらず、表面性状が悪化していた。
比較例21は、製造条件において、異形圧延時のバックテンションが高く好適ではなかったため、孔型ロールへの鋼線の入線量が不足していた。そのため、寸法精度指標が本発明に必要な範囲を満たしておらず、表面性状が悪化していた。
【0070】
比較例22〜24は、必要な寸法精度が得られなかっただけでなく、異形鋼線の長手方向の内面側表層部と外面側表層部において、塑性変形流動に大幅な差異が生じ、これに起因して、異形鋼線の内面側表層部と外面側表層部との長手方向の<110>の集積度の差の絶対値が本発明の範囲を超えていた。また、比較例22〜24は、表面疵が発生していた。
さらに、比較例22〜24は、異形圧延において圧延機のローラーの表面と中間鋼線とのローラー摩擦係数が大きく好適ではなかったため、中間鋼線が、圧延方向へ所定以上に延びてしまい、中間鋼線の幅方向への塑性変形流動が不足して、十分な低サイクル疲労係数Aを得られなかった。
これらの結果、比較例22〜24は、低サイクル疲労特性が劣化していた。
【0071】
比較例25〜27は、異形鋼線の長手方向の断面の内面側表層部及び外面側表層部とで、塑性変形流動に大幅な差異が生じて、異形鋼線の長手方向の断面の内面側表層部と外面側表層部とで長手方向の<110>の集積度の差が本発明の範囲を超えていた。そのうち比較例25及び26は、寸法精度指標が本発明に必要な範囲を満たしておらず、また、表面に疵が発生し、表面性状が悪化していた。
さらに、比較例25〜27は、異形圧延において圧延機のローラーの作動直径が大きく好適ではなかったため、十分な低サイクル疲労係数Aを得られなかった。
これらの結果、比較例25〜27は、低サイクル疲労特性が劣化していた。
【0072】
比較例28及び29は、異形鋼線の長手方向の断面の寸法精度指標が本発明に必要な範囲を下回り、表面性状が悪化していた。また、比較例28及び29は、表面の疵が発生していた。さらに、比較例28及び29は、異形圧延において圧延機のローラーの作動直径が小さく十分ではなかったため、ロールへの入線量が不十分になってしまい、中間鋼線の噛み出しが発生した。
比較例30及び31は、異形鋼線の長手方向の断面の寸法精度指標が本発明に必要な範囲を上回ってしまい、表面性状が悪化していた。さらに、比較例30及び31は、圧延機のローラーの表面と中間鋼線との摩擦係数が十分ではなかったため、孔型ロールへの入線量が不十分となっていた。
【0073】
比較例32は鋼種の化学組成においてC含有量が、0.15%と本発明の範囲を下回っていた。その結果、異形鋼線の加工硬化率が低く、引張強度が低くなっていた。
比較例33は、鋼種の化学組成においてC含有量が1.20%と本発明の範囲を上回っていた。その結果、初析セメンタイトの析出により冷間加工性が低下しており、また、十分な低サイクル疲労係数Aが得られず、低サイクル疲労特性が劣化していた。