特許第5873573号(P5873573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5873573-水性眼科組成物 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873573
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】水性眼科組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20060101AFI20160216BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20160216BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20160216BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160216BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160216BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   A61K47/44
   A61K47/34
   A61K47/14
   A61K47/10
   A61K9/08
   A61P27/02
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-551072(P2014-551072)
(86)(22)【出願日】2013年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2013082188
(87)【国際公開番号】WO2014087931
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-265841(P2012-265841)
(32)【優先日】2012年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】小紫 亮
(72)【発明者】
【氏名】水垂 陽子
(72)【発明者】
【氏名】中田 温子
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/090985(WO,A1)
【文献】 特開2009−73788(JP,A)
【文献】 特開2008−222638(JP,A)
【文献】 特開2010−120930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72,
A61K31/00−31/80,
A61K47/00−47/48,
A61P1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、水性眼科組成物。
【請求項2】
さらに、(D)緩衝剤を含有する、請求項1に記載の水性眼科組成物。
【請求項3】
さらに、(E)(A)成分及び(B)成分以外の界面活性剤を含有する、請求項1又は2に記載の水性眼科組成物。
【請求項4】
点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液又はコンタクトレンズケア用剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性眼科組成物。
【請求項5】
ドライアイ用又は目の乾きの抑制用である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性眼科組成物。
【請求項6】
(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における消泡時間を短縮させる方法。
【請求項7】
(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物に涙液安定化作用を付与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性眼科組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、泡立ちが抑制され、また、消泡時間が短縮された水性眼科組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性眼科組成物において、溶解補助剤は、水溶性の比較的低い成分の溶解等を目的として、多くの処方に配合されている。眼科分野において用いられる溶解補助剤の一つとして、界面活性剤が挙げられる。ポリオキシエチレンヒマシ油は、非イオン界面活性剤の一種であり、他の配合成分の溶解補助等を目的として、水性眼科組成物に配合されることが知られている(特許文献1)。また、モノステアリン酸ポリエチレングリコールも非イオン界面活性剤の一種であり、他の配合成分の溶解補助等を目的として、水性眼科組成物に配合されることが知られている。
【0003】
しかしながら、界面活性剤を配合した水性組成物は泡立ちやすいことが知られており、製造時又は流通時において、振動又は衝撃を与えることにより泡が発生することが避けられない。一般に、水性眼科組成物は、眼に対して安全に適用するために、製造工程においての溶解確認及び異物検査が必須である。しかるに、製造中の水性眼科組成物において泡が発生し、泡の消える速度が遅い場合、異物等と泡との見分けがつき難いために、溶解確認、異物検査の工程等で長時間を要し、製造が効率的に行えない等の問題が起こり得る。
【0004】
一方で、水性眼科組成物には、その目的に応じて様々な有効成分又は添加物を配合することが一般的に行なわれる。例えば、組成物の粘度を安定化する方法として、ゴマ油又はヒマシ油のような植物油を含有する粘膜適用組成物が開示されている(特許文献2)。また、ビタミンA類は、眼細胞の新陳代謝及び細胞呼吸等を促進して目の疲れを解消させたり、消炎作用を発揮させたりすること等を目的として、これまでにも眼科用組成物に配合されている(特許文献3)。クロロブタノールも、水性眼科組成物の添加物として知られている。
【0005】
しかしながら、水性眼科組成物に、これらの成分と特定の界面活性剤とを含有させた場合に、該水性眼科組成物に対して如何なる影響が及ぼされるかについては、容易には推認できないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−298448号公報
【特許文献2】特開2006−117656号公報
【特許文献3】特開2009−173638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ポリオキシエチレンヒマシ油とモノステアリン酸ポリエチレングリコールが共存する水性眼科組成物が、特に泡立ち易く、また泡が消え難いと言う新たな課題を見出した。本発明は、このような泡立ちし易い水性眼科組成物について、振動又は衝撃による泡の発生を抑制し、また一旦泡が発生しても、その消泡時間が短縮された、水性眼科組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリオキシエチレンヒマシ油(以下、「(A)成分」と表記することもある)と、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(以下、「(B)成分」又は「ステアリン酸ポリオキシル」と表記することもある)とを共に含有する水性眼科組成物に、ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種(以下、「(C)成分」と表記することもある)を含有させることによって、製造時及び流通時において、振動又は衝撃による泡の発生を抑制し、また、発生した泡の消泡時間を顕著に短縮できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の新規な水性眼科組成物を提供するものである。
項1−1.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、水性眼科組成物。
項1−2.(A)成分が、酸化エチレンの平均付加モル数が2〜70モルのポリオキシエチレンヒマシ油である、項1−1に記載の水性眼科組成物。
項1−3.(B)成分が、酸化エチレンの平均付加モル数が2〜150モルのモノステアリン酸ポリエチレングリコールである、項1−1又は項1−2に記載の水性眼科組成物。
項1−4.水性眼科組成物の総量を基準として、(A)成分の含有量が、総量で0.0001〜5w/v%である、項1−1乃至1−3のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−5.水性眼科組成物の総量を基準として、(B)成分の含有量が、総量で0.0001〜5w/v%である、項1−1乃至1−4のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−6.(A)成分の総含有量1質量部に対する(B)成分の含有比率が、総含有量で0.001〜100質量部である、項1−1乃至1−5のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−7.水性眼科組成物の総量を基準として、(C)成分の含有量が、総量で0.0001〜5w/v%である、項1−1乃至1−6のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−8.(A)成分の総含有量1質量部に対する(C)成分の含有比率が、総含有量で0.00002〜10000質量部である、項1−1乃至1−7のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−9.(B)成分の総含有量1質量部に対する(C)成分の含有比率が、総含有量で0.00002〜10000質量部である、項1−1乃至1−8のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−10.さらに、(D)緩衝剤を含有する、項1−1乃至1−9のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−11.水性眼科組成物の総量を基準として、(D)成分の含有量が、総量で0.01〜20w/v%である、項1−10に記載の水性眼科組成物。
項1−12.さらに、(E)成分として、(A)成分及び(B)成分以外の界面活性剤を含有する、項1−1乃至1−11のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−13.(E)成分が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマーからなる群より選択される少なくとも一種である、項1−12に記載の水性眼科組成物。
項1−14.水性眼科組成物の総量を基準として、(E)成分の含有量が、総量で0.0001〜5w/v%である、項1−12又は1−13に記載の水性眼科組成物。
項1−15.点眼剤である項1−1乃至1−14のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−16.洗眼剤である項1−1乃至1−14のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−17.コンタクトレンズ装着液である項1−1乃至1−14のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−18.コンタクトレンズケア用剤である項1−1乃至1−14のいずれかに記載の水性眼科組成物。
項1−19.ドライアイ用又は目の乾きの抑制用である、項1−1乃至1−18のいずれかに記載の水性眼科組成物。
【0010】
また、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の、水性眼科組成物における泡立ちを抑制する方法を提供するものである。
項2−1.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における泡立ちを抑制する方法。
項2−2.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における泡立ちを抑制する方法。
【0011】
また、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の、水性眼科組成物における泡の消泡時間を短縮する方法、及び使用時の滴下量のバラツキを抑制する方法を提供するものである。
項3−1.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における消泡時間を短縮させる方法。
項3−2.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における消泡時間を短縮させる方法。
項3−3.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における使用時の滴下量のバラツキを抑制する方法。
項3−4.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における使用時の滴下量のバラツキを抑制する方法。
【0012】
また、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の、水性眼科組成物における保存効力を増強する方法を提供する。
項4.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における保存効力を増強する方法。
【0013】
さらに、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の、水性眼科組成物に涙液安定化作用を付与する方法、又は涙液油層伸展作用を付与する方法を提供するものである。
項5−1.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物に涙液安定化作用を付与する方法。
項5−2.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物に涙液油層伸展作用を付与する方法。
【0014】
さらに、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の、水性眼科組成物の臭気を抑制する方法を提供するものである。
項6−1.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物ににおける臭気を抑制する方法。
項6−2.(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における臭気を抑制する方法。
【0015】
さらに、本発明は、例えば、下記の掲げる態様の使用も提供する。
項7−1.水性眼科組成物の製造のための、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種の使用。
項7−2.水性眼科組成物が、上記項1−1乃至1−18のいずれかに記載の組成物である、項7−1に記載の使用。
【0016】
さらに、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の使用も提供する。
項8−1.水性眼科組成物としての、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含む組成物の使用。
項8−2.組成物が、上記項1−1乃至1−18のいずれかに記載の組成物である、項8−1に記載の使用。
【0017】
さらに、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の組成物も提供する。
項9−1.水性眼科組成物としての使用のための、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含む組成物。
項9−2.上記項1−1乃至1−18のいずれかに記載されたものである、項9−1に記載の組成物。
【0018】
さらに、本発明は、例えば、下記に掲げる態様の水性眼科組成物の製造方法も提供する。
項10−1.水と、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油と、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールと、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種とを混合する工程を含む、水性眼科組成物の製造方法。
項10−2.水性眼科組成物が、上記項1−1乃至1−18のいずれかに記載の組成物である、項10−1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリオキシエチレンヒマシ油と、モノステアリン酸ポリエチレングリコールと、ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種とを水性眼科組成物に含有させることによって、製造時及び流通時において、振動又は衝撃による泡の発生を抑制したり、発生した泡の消泡時間を顕著に短縮したりすることができる。よって、異物等と泡との見分けがつき易く、溶解確認、異物検査工程等が短時間ですむため、製造効率が大幅に改善される。
【0020】
また、水性眼科組成物において泡の発生が抑制されることにより、使用時の1回ごとの使用量のバラツキが抑えられるため、特に1回の使用量が比較的少ない点眼剤又はコンタクトレンズ装着液において、1回毎の使用量を使用者自身がコントロールし易く、扱い易い。そのためコンプライアンスが向上し、特に水性眼科組成物が医薬品の場合等に有用である。
【0021】
また、本発明の水性眼科組成物は、別の効果として、涙液層の顕著な安定化効果、つまり涙液安定化効果を奏する。そのため、本発明の水性眼科組成物は、涙液層の破綻(ブレイクアップ)等が抑制され、ドライアイ又は目のかわきを抑制する目的で使用する点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等として、特に有用である。
【0022】
また、本発明の水性眼科組成物は、さらなる別の効果として、保存効力の顕著な増強効果を奏する。そのため、開封後の微生物汚染等による水性眼科組成物の腐敗を抑制することができる。そのため開封後に繰り返し使用するマルチドーズ型の水性眼科組成物として有用であり、中でも衛生面から高い保存効力が望まれるものの、安全性面から大量の防腐剤を配合し難い点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等として特に有用である。
【0023】
さらに、本発明の効果として、優れた涙液油層伸展効果を発現する。そのため、涙液層を破壊することなく点眼後に速やかに角膜表面に拡散することができる。そのため、水性眼科組成物に含まれる油成分が、点眼した際に涙液表面で油滴とならず、速やかに油層として展開することが可能である。これにより、涙液の蒸発抑制効果を、より効果的かつ速やかに得ることができ、ドライアイ又は目のかわきを抑制する目的で使用する点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等に特に有用である。
【0024】
また、本発明のさらなる別の効果として、ポリオキシエチレンヒマシ油とモノステアリン酸ポリエチレングリコールによる特有の臭気を抑制する効果をも発揮する。そのため、使用者が、水性眼科組成物を長期に亘り快適に使用することができ、コンプライアンスが向上し、特に水性眼科組成物が医薬品の場合等に有用である。
【0025】
本発明の水性眼科組成物は、上述した各種の優れた効果を有するものであり、より安全且つ快適に、長期に亘って有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】試験例1の結果(泡立ち率(%))を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1.水性眼科組成物]
本発明の水性眼科組成物は、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有する。
【0028】
本明細書において、水性眼科組成物とは、水の含有量が、該水性眼科組成物の総量に対して、40w/v%以上の眼科組成物を意味する。該水性眼科組成物における水の含有量は、好ましくは、85w/v%以上、より好ましくは90w/v%以上、さらに好ましくは92w/v%以上、特に好ましくは95w/v%以上である。
【0029】
本明細書において、含有量の単位「%」は「w/v%」を意味し、「g/100mL」と同義である。
【0030】
本明細書中、特に記載のない限り、略号「POE」は、ポリオキシエチレンを意味する。
【0031】
本明細書中、特に記載のない限り、略号「POP」は、ポリオキシプロピレンを意味する。
【0032】
本明細書中、特に記載のない限り、コンタクトレンズとは、ハード、酸素透過性ハード、ソフト(シリコーンハイドロゲルレンズを含む)、カラー等のあらゆるタイプのコンタクトレンズを包含する意味とする。
【0033】
以下、本発明について、具体的に説明する。
(1)ポリオキシエチレンヒマシ油
本発明の水性眼科組成物は、ポリオキシエチレンヒマシ油((A)成分)を含有する。これを後述する(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種と併用することによって、上記した本発明の優れた効果が発揮される。
【0034】
ポリオキシエチレンヒマシ油は、ヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することによって得られる公知の化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。本発明では、(A)成分として用いられるポリオキシエチレンヒマシ油における酸化エチレンの平均付加モル数は特に定めないが、例えば、2〜70モル程度である。具体的には、酸化エチレンの平均付加モル数が3であるポリオキシエチレンヒマシ油3、酸化エチレンの平均付加モル数が4であるポリオキシエチレンヒマシ油4、酸化エチレンの平均付加モル数が6であるポリオキシエチレンヒマシ油6、酸化エチレンの平均付加モル数が7であるポリオキシエチレンヒマシ油7、酸化エチレンの平均付加モル数が10であるポリオキシエチレンヒマシ油10、酸化エチレンの平均付加モル数が13.5であるポリオキシエチレンヒマシ油13.5、酸化エチレンの平均付加モル数が17であるポリオキシエチレンヒマシ油17、酸化エチレンの平均付加モル数が20であるポリオキシエチレンヒマシ油20、酸化エチレンの平均付加モル数が25であるポリオキシエチレンヒマシ油25、酸化エチレンの平均付加モル数が30であるポリオキシエチレンヒマシ油30、酸化エチレンの平均付加モル数が35であるポリオキシエチレンヒマシ油35、酸化エチレンの平均付加モル数が40であるポリオキシエチレンヒマシ油40、酸化エチレンの平均付加モル数が50であるポリオキシエチレンヒマシ油50、酸化エチレンの平均付加モル数が60であるポリオキシエチレンヒマシ油60、酸化エチレンの平均付加モル数が70であるポリオキシエチレンヒマシ油70等が挙げられる。
【0035】
これらの中で、本発明の効果を好適に発揮できるポリオキシエチレンヒマシ油の一例として、酸化エチレンの平均付加モル数が2〜70、好ましくは2〜40、さらに好ましくは3〜35、特に好ましくは10〜35のポリオキシエチレンヒマシ油を挙げることができる。特に涙液油層進展作用及び涙液安定化作用の効果を好適に発揮できるポリオキシエチレンヒマシ油の一例として、酸化エチレンの平均付加モル数が2〜35、好ましくは2〜30、さらに好ましくは2〜20、特に好ましくは2〜12のポリオキシエチレンヒマシ油を挙げることができる。
【0036】
本発明において、これらのポリオキシエチレンヒマシ油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。なお、本発明で用いるポリオキシエチレンヒマシ油は、硬化ヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することにより得られるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とは異なる化合物であり、これとは区別される。
【0037】
本発明の水性眼科組成物における、(A)成分の含有量は特に限定はなく、(A)成分の種類、併用する(B)成分及び(C)成分の種類及びその含有量、該水性眼科組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物の総量を基準として、(A)成分の含有量が、総量で0.0001〜5w/v%、好ましくは0.001〜4w/v%、より好ましくは0.002〜3w/v%、さらに好ましくは0.005〜2w/v%、特に好ましくは0.01〜1w/v%、最も好ましくは0.05〜0.5w/v%である。
【0038】
上記(A)成分の含有量は、水性眼科組成物において、涙液油層伸展作用、涙液安定化作用及び保存効力の増強作用を一層高めるという観点から好適である。また、上記(A)成分の含有量であれば、後述する(C)成分による泡立ち抑制及び消泡時間を短縮させる作用並びに臭気抑制作用が、より効果的に発揮される。
【0039】
(2)モノステアリン酸ポリエチレングリコール(ステアリン酸ポリオキシル)
本発明の水性眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、モノステアリン酸ポリエチレングリコール((B)成分)を含有する。これらと、さらに後述する(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種とを併用することによって、上記した本発明の優れた効果が発揮される。
【0040】
モノステアリン酸ポリエチレングリコールは、ステアリン酸マクロゴール、ステアリン酸ポリエチレングリコール又はステアリン酸ポリオキシルとも称される公知の化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。本発明では、(B)成分として用いられるステアリン酸ポリオキシルにおける酸化エチレンの平均付加モル数は、2〜150モル程度である。具体的には、酸化エチレンの平均付加モル数が140であるステアリン酸ポリオキシル140、酸化エチレンの平均付加モル数が70であるステアリン酸ポリオキシル70、酸化エチレンの平均付加モル数が55であるステアリン酸ポリオキシル55、酸化エチレンの平均付加モル数が45であるステアリン酸ポリオキシル45、酸化エチレンの平均付加モル数が40であるステアリン酸ポリオキシル40、酸化エチレンの平均付加モル数が35であるステアリン酸ポリオキシル35、酸化エチレンの平均付加モル数が30であるステアリン酸ポリオキシル30、酸化エチレンの平均付加モル数が25であるステアリン酸ポリオキシル25、酸化エチレンの平均付加モル数が23であるステアリン酸ポリオキシル23、酸化エチレンの平均付加モル数が10であるステアリン酸ポリオキシル10、酸化エチレンの平均付加モル数が9であるステアリン酸ポリオキシル9、酸化エチレンの平均付加モル数が4であるステアリン酸ポリオキシル4、酸化エチレンの平均付加モル数が2であるステアリン酸ポリオキシル2等が挙げられる。
【0041】
これらの中で、本発明の効果を好適に発揮できるステアリン酸ポリオキシルの一例として、酸化エチレンの平均付加モル数が2〜150、好ましくは2〜80、より好ましくは10〜70、さらに好ましくは10〜60、特に好ましくは20〜60のステアリン酸ポリオキシルを挙げることができる。
【0042】
本発明において、これらのステアリン酸ポリオキシルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明の水性眼科組成物における、(B)成分の含有量は特に限定はなく、(B)成分の種類、併用する(A)成分及び(C)成分の含有量、該水性眼科組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物の総量を基準として、(B)成分の含有量が、総量で0.0001〜10w/v%、好ましくは0.0005〜5w/v%、より好ましくは0.001〜4w/v%、さらに好ましくは0.005〜3w/v%、特に好ましくは0.01〜2.5w/v%、一層好ましくは0.05〜2.5w/v%である。
【0044】
上記(B)成分の含有量は、水性眼科組成物において、涙液油層伸展作用、涙液安定化作用及び保存効力の増強作用を一層高めるという観点から好適である。また、上記(B)成分の含有量であれば、後述する(C)成分による泡立ち抑制及び消泡時間を短縮させる作用並びに臭気抑制作用が、より効果的に発揮される。
【0045】
本発明の水性眼科組成物における、(A)成分に対する(B)成分の含有比率は、(A)成分及び(B)成分の種類、該水性眼科用組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、(B)成分の含有比率が、総含有量で0.001〜1000質量部、好ましくは0.005〜500質量部、より好ましくは0.01〜200質量部、さらに好ましくは0.05〜50質量部、特に好ましくは0.1〜10質量部であり、最も好ましくは0.1〜5質量部である。
【0046】
上記(A)成分に対する(B)成分の含有比率により、本発明の効果をより一層高めることができる。
【0047】
(3)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノール
本発明の水性眼科組成物は、上記(A)成分及び(B)成分に加えて、ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA及びクロロブタノールからなる群から選択される1種以上((C)成分)を含有する。このように、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を併用することによって、上記した本発明の優れた効果が発揮される。
【0048】
ゴマ油とは、ゴマ科ゴマ属の植物(Sesamumindicum Linne(Pedaliaceae)等)の種子から得た植物油をいう。
【0049】
本発明に用いられるゴマ油としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、公知の搾取方法及び公知の精製方法を用いて種子から得たもの、市販のもの等を使用することができる。
【0050】
ヒマシ油とは、トウダイグサ科トウゴマ属の植物(Ricinuscommunis Linne(Euphorbiaceae)等)の種子から得た植物油をいう。
【0051】
本発明の水性眼科組成物に用いられるヒマシ油としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、公知の搾取方法及び公知の精製方法を用いて種子から得たもの、市販のもの等を使用することができる。
【0052】
ビタミンAは、脂溶性ビタミンの1種であり、人体に必須の栄養素である。ビタミンAとしては、ビタミンA活性を有する物質であり、天然品、合成品のいずれも使用することができる。
【0053】
本発明で用いられるビタミンAとしては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に限定されないが、具体的には、レチノール、レチナール、レチノイン酸、これらの誘導体、塩等が挙げられる。
【0054】
誘導体の形態のビタミンAとしては、例えばパルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、酪酸レチノール、プロピオン酸レチノール、オクチル酸レチノール、ラウリル酸レチノール、オレイン酸レチノール、リノレン酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノール、δ−トコフェリルレチノエート、α−トコフェリルレチノエート、β−トコフェリルレチノエート等が挙げられる。
【0055】
塩の形態のビタミンAとしては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。
【0056】
ビタミンAは、動物材料等の天然物から単離したもの及び化学合成したもののいずれであってもよい。また、ビタミンAは、ビタミンAを油に溶解した形態のビタミンA油として用いることもできる。ビタミンA油は、動物から抽出、精製した天然油でもよく、また、ビタミンAを植物油等に溶解させたものでもよい。
【0057】
これらのビタミンAは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。これらのビタミンAの中でも、消泡時間を短縮させる作用を一層高めるという観点から、好ましくは、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール及びビタミンA油が挙げられる。
【0058】
クロロブタノールは、1,1,1−トリクロロ−2−メチル−2−プロパノールとも称される公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく、あるいは、市販品として入手することもできる。
【0059】
本発明の水性眼科用組成物における、(C)成分の含有量は特に限定はなく、(C)成分の種類、併用する(A)成分及び(B)成分の種類及び含有量、該水性眼科用組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物の総量を基準として、(C)成分の含有量が、総量で0.0001〜5w/v%、好ましくは0.0002〜1w/v%、さらに好ましくは0.0005〜0.5w/v%、特に好ましくは0.001〜0.5w/v%、一層好ましくは0.01〜0.5w/v%である。
【0060】
当業者に通常理解され得るとおり、ビタミンAの量に関する国際単位としてIUが知られている。例えば、レチノールの場合、1IU=約0.30μgのレチノールに対応し、酢酸レチノールの場合、1IU=約0.34μgの酢酸レチノールに対応し、パルミチン酸レチノールの場合、1IU=約0.55μgのパルミチン酸レチノールに対応することが周知である。
【0061】
ビタミンAの含有量がIUで表される場合、例えば、本発明の水性眼科組成物の総量を基準として、ビタミンAの含有量は、総量として200〜5000000IU/100mL、好ましくは500〜1000000IU/100mL、さらに好ましくは1000〜500000IU/100mL、特に好ましくは2000〜100000IU/100mLである。
【0062】
上記(C)成分の含有量は、水性眼科組成物において、涙液油層伸展作用、涙液安定化作用及び保存効力の増強作用を一層高めるという観点から好適である。また、泡立ち抑制及び消泡時間を短縮させる作用並びに臭気抑制作用が、より効果的に発揮される。
【0063】
本発明の水性眼科組成物における、(A)成分に対する(C)成分の含有比率は、特に制限はなく、(A)成分及び(C)成分の種類、該水性眼科用組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、(C)成分の含有比率が、総含有量で0.00002〜10000質量部、好ましくは0.0001〜1000質量部、より好ましくは0.0002〜200質量部、さらに好ましくは0.0005〜50質量部、特に好ましくは0.001〜50質量部、一層好ましくは0.01〜10質量部、より一層好ましくは0.1〜2質量部である。
【0064】
上記(A)成分に対する(C)成分の含有比率により、本発明の効果をより一層高めることができる。
【0065】
本発明の水性眼科組成物における、(B)成分に対する(C)成分の含有比率は、特に制限はなく、(B)成分及び(C)成分の種類、該水性眼科用組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物に含まれる(B)成分の総含有量1質量部に対して、(C)成分の含有比率が、総含有量で0.00002〜10000質量部、好ましくは0.0001〜1000質量部、より好ましくは0.0002〜200質量部、さらに好ましくは0.0005〜50質量部、特に好ましくは0.001〜50質量部、一層好ましくは0.005〜10質量部、より一層好ましくは0.01〜2質量部である。
【0066】
上記(B)成分に対する(C)成分の含有比率により、本発明の効果をより一層高めることができる。
【0067】
(4)緩衝剤
本発明の水性眼科組成物は、(A)〜(C)成分の他に、さらに、緩衝剤((D)成分)を含有することが好ましい。これにより、本発明の効果をより一層向上させることができる。
【0068】
本発明の水性眼科組成物に含有させることが好ましい緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。このような緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、イプシロン-アミノカプロン酸等が挙げられる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0069】
ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸及び/又はその塩を用いることができ、ホウ酸塩としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等が例示される。リン酸緩衝剤としては、リン酸及び/又はその塩を用いることができ、リン酸塩としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等が例示される。炭酸緩衝剤としては、炭酸及び/又はその塩を用いることができ、炭酸塩としては、炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等が例示される。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸及び/又はその塩を用いることができ、クエン酸塩としては、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が例示される。また、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤及びクエン酸緩衝剤として、それぞれ水和物を用いてもよい。
【0070】
より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸(オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸等)又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤(特に、ホウ酸とホウ砂との組み合わせ)及びリン酸緩衝剤(特に、リン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムとの組合せ)が好ましい。
【0071】
本発明の水性眼科組成物に上記(D)成分の緩衝剤を含有させる場合、その含有量は、該緩衝剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、該水性眼科組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物の総量を基準として、(D)成分の含有量が、総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜8w/v%、より好ましくは0.1〜5w/v%、さらにより好ましくは0.2〜3w/v%、特に好ましくは0.5〜2.5w/v%である。上記範囲であれば、本願発明の効果をより顕著に奏することができる。
【0072】
(5)(A)成分及び(B)成分以外の界面活性剤
本発明の水性眼科組成物は、さらに、(A)成分及び(B)成分以外の界面活性剤((E)成分)を含有することが好ましい。これにより、本発明の効果をより一層向上させることができる。
【0073】
(E)成分の界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0074】
非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル;POE(40)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40)、POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE−POPアルキルエーテル;POE(196)POP(67)グリコール(ポロクサマー407、プルロニックF127)、POE(200)POP(70)グリコール等のポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0075】
両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン又はその塩(例えば、塩酸塩等)等が例示される。
【0076】
陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。
【0077】
陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。
【0078】
(E)成分の界面活性剤は、好ましくは、非イオン性界面活性剤であり、さらに好ましくは、POEソルビタン脂肪酸エステル、POE硬化ヒマシ油、POE・POPブロックコポリマーであり、特に好ましくは、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロクサマー407である。
【0079】
本発明の水性眼科組成物において、上記(E)成分の界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
本発明の水性眼科組成物に上記(E)成分の界面活性剤を含有させる場合、その含有量は、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、該水性眼科組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定される。例えば、本発明の水性眼科組成物の総量を基準として、(E)成分の含有量が、総量で0.001〜3w/v%、好ましくは0.005〜2w/v%、さらに好ましくは0.01〜1w/v%、特に好ましくは0.05〜1w/v%である。上記範囲であれば、本願発明の効果をより顕著に奏することができる。
【0081】
(6)その他の成分
本発明の水性眼科組成物は、本発明の効果が奏される限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分及び/又は生理活性成分を単独又は適宜組み合わせて適当量含有してもよい。このような成分は特に制限されず、具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
【0082】
抗ヒスタミン剤又は抗アレルギー剤:例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等。
【0083】
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
【0084】
ビタミン:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
【0085】
アミノ酸:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、イプシロン−アミノカプロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等。
【0086】
消炎剤:例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、ブロムフェナクナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、プラノプロフェン、アラントイン、アズレンスルホン酸ナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム等。
【0087】
その他:例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
【0088】
また、本発明の水性眼科組成物には、発明の効果が奏される範囲であれば、その用途、製剤形態等に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
【0089】
糖:例えば、シクロデキストリン等。
【0090】
糖アルコール:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0091】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸ポリヘキサニド、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、等。
【0092】
粘稠化剤又は増粘剤:例えば、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴール4000等。
【0093】
等張化剤:例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等。
【0094】
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等。
【0095】
キレート剤:例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(エデト酸ナトリウム)等。
【0096】
本発明の水性眼科組成物に用いられる水としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第十六改正日本薬局方に基づく。
【0097】
(7)水性眼科組成物の物性
本発明の水性眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の水性眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、さらに好ましくは5.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
【0098】
また、本発明の水性眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の水性眼科組成物の浸透圧比の一例として、0.5〜5.0、好ましくは0.6〜3.0、さらに好ましくは0.7〜2.0、特に好ましくは0.9〜1.55である。浸透圧の調整は、無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十六改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)については、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いればよい。
【0099】
本発明の水性眼科組成物の粘度については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。例えば、回転粘度計(RE550型粘度計、東機産業社製、ローター:1°34‘x24)で測定した25℃における粘度が、0.01〜1000mPa・s、好ましくは0.05〜100mPa・s、さらに好ましくは0.1〜10mPa・sである。
【0100】
(8)水性眼科組成物の用途及び調製方法
本発明における水性眼科組成物の剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、液状が好ましい。本発明の水性眼科組成物の具体例として、点眼剤(点眼液又は点眼薬ともいう)[但し、点眼剤には人工涙液を含む。また点眼剤には、コンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む]、洗眼剤(洗眼液又は洗眼薬ともいう)[但し、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む]、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用品(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤、コンタクトレンズ用消毒・保存・洗浄剤(コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション))等が挙げられる。本発明の水性眼科組成物は、泡の消える時間が短く、使用時の滴下量のバラツキが少ないため、他の剤型と比較して特に一回の使用量が少なく、泡による滴下量のバラツキの影響を受けやすい、点眼剤及びコンタクトレンズ装着液として、好適に用いられる。また、泡の消える時間が短いため、製造時の異物確認が行いやすく、特に異物確認が必須とされる医薬品である点眼剤又は洗眼剤として好適である。
【0101】
また、本発明の水性眼科組成物は、保存効力が増強されているために優れた防腐作用を有している。このため、マルチドーズ型の水性眼科組成物、即ち製品を一旦開封した後、数回以上に亘り使用される水性眼科組成物に対して好適に用いられ、該水性眼科組成物を数日、あるいは数週間以上、安定して保存することができる。そのため、医薬品として特に厳密な衛生状態が望まれる点眼剤又は洗眼剤として好適に用いられる。
【0102】
本発明の水性眼科組成物を収容する容器としては、水性眼科組成物を収容する容器として通常用いられる容器を用いることができ、ガラス製であってもよく、またプラスチック製であってもよい。本発明の水性眼科組成物を収容する容器として、プラスチック製を使用する場合、該プラスチック容器の構成材質については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドのいずれか1種、または2種以上の混合体が挙げられる。また、エチレン−2,6−ナフタレート単位、アリレート単位、エチレンテレフタレート単位、プロピレン単位、エチレン単位、イミド単位のいずれか1種を主体として、他のポリエステル単位、イミド単位を含む共重合体が挙げられる。なお、本発明において例えばポリエチレンテレフタレート製容器と記載する場合は、容器の構成材質全体の重量に対し、ポリエチレンテレフタレートが50w/w%以上であるものを意味する。
【0103】
また、本発明の水性眼科組成物を収容する容器に備えられているノズル等の容器注口周辺部についても、その構造、構成素材等については特に制限されるものではない。ノズル等の容器注口周辺部の構造については、眼科組成物用容器(例えば点眼剤容器)の注出口(例えばノズル)として一般的に採用されている構造であればよく、容器本体と一体に成形されていてもよく、容器本体とは別に成形されていてもよい。注口周辺部また注出口(例えばノズル)の構成素材については、例えば、上記プラスチック容器の構成素材と同様のものが例示される。
【0104】
特に、柔軟性、コスト面、及び/又は滴下量のバラツキ抑制効果を一層良好にさせるという観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンを構成素材として含む注出口が好適である。ポリエチレンの種類としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられるが、中でも低密度ポリエチレンを構成素材として含む注出口が好適である。また、注出口としては、点眼剤容器に用いられるノズルが好適である。
【0105】
本発明の水性眼科組成物を収容する容器及び容器注口周辺部の好ましい組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレート製容器とポリエチレン製容器注口周辺部との組み合わせ、より好ましくはポリエチレンテレフタレート製点眼容器とポリエチレン製ノズルとの組み合わせ、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート製点眼容器と低密度ポリエチレン製ノズルとの組み合わせであり、このような組み合わせとすることで、本発明における滴下量のバラツキ抑制効果を一段と発揮することができる。
【0106】
本発明の水性眼科組成物は、泡の消泡時間を短縮させ、使用時の滴下量のバラツキを抑制し、毎回の使用で一定量を点眼することができるので、特に薬理活性成分及び/又は生理活性成分を含有する点眼剤として適するものである。このような点眼剤の用途として、ドライアイ用点眼剤、充血除去用点眼剤、抗菌用点眼剤、抗炎症用点眼剤、痒み抑制用点眼剤、疲れ目抑制用点眼剤、目の乾き抑制用点眼剤等が挙げられる。特に、本発明は、涙液安定化作用及び涙液油層伸展作用に優れているため、ドライアイ用点眼剤又は目の乾き抑制用点眼剤として、特に有用である。
【0107】
また、本発明は、別の観点から、水性眼科組成物の製造のための、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種の使用も提供する。
【0108】
さらに、本発明は、別の観点から、水性眼科組成物としての、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含む組成物の使用も提供する。
【0109】
さらに、本発明は、別の観点から、水性眼科組成物としての使用のための、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含む組成物を提供する。
【0110】
[2.泡立ち抑制方法]
前述したように、本発明の水性眼科組成物では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有させることによって、水性眼科組成物における泡立ちを抑制することができ、さらにその結果、溶解確認及び異物検査工程等が短時間ですむため、製造効率が大幅に改善される。
【0111】
本発明は、さらに別の観点から、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における泡立ちを抑制する方法を提供する。
【0112】
また、本発明は、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における泡立ちを抑制する方法をも提供する。
【0113】
これらの方法において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が共存するのであれば、それらの添加は同時であっても、別々であってもよく、その順序も特に限定されない。使用する(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類、それらの含有量(または配合量)、それらの比率、その他に配合する成分の種類、含有量(または配合量)、水性眼科組成物の製剤形態、容器の種類、組み合わせ、実施方法等については、前記「1.水性眼科組成物」と同様である。
【0114】
中でも、これらの方法は、水性眼科組成物が、点眼剤及びコンタクトレンズ装着液の場合に好適に適用される。
【0115】
なお、本明細書において、水性眼科組成物における泡立ちが抑制されているか否かは、後述の実施例に記載の方法によって判定することが可能である。
【0116】
[3.消泡時間の短縮方法]
前述したように、本発明の水性眼科組成物では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有させることによって、水性眼科組成物において泡の消泡時間を短縮させることができ、さらにその結果、使用時の滴下量のバラツキを抑制することができる。
【0117】
従って、本発明は、さらに別の観点から、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における消泡時間を短縮させる方法を提供する。
【0118】
また、本発明は、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における消泡時間を短縮させる方法をも提供する。
【0119】
また、本発明は、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における使用時の滴下量のバラツキを抑制する方法を提供する。
【0120】
また、本発明は、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における使用時の滴下量のバラツキを抑制する方法をも提供する。
【0121】
これらの方法において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が共存するのであれば、それらの添加は同時であっても、別々であってもよく、その順序も特に限定されない。使用する(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類、それらの含有量(または配合量)、それらの比率、その他に配合する成分の種類、含有量(または配合量)、水性眼科組成物の製剤形態、容器の種類、組み合わせ、実施方法等については、前記「1.水性眼科組成物」と同様である。
【0122】
中でも、これらの方法は、水性眼科組成物が、点眼剤及びコンタクトレンズ装着液の場合に好適に適用される。
【0123】
なお、本明細書において、水性眼科組成物における消泡時間が短縮されているか否かは、後述の実施例に記載の方法によって判定することが可能である。
【0124】
[4.保存効力の増強方法]
また、前述したように、本発明の水性眼科組成物では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有させることによって、水性眼科組成物において保存効力を増強させることができる。
【0125】
従って、本発明は、さらに別の観点から、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における保存効力を増強する方法を提供する。
【0126】
この方法において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が共存するのであれば、それらの添加は同時であっても、別々であってもよく、その順序も特に限定されない。使用する(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類、それらの含有量(または配合量)、それらの比率、その他に配合する成分の種類、含有量(または配合量)、水性眼科組成物の製剤形態、容器の種類、組み合わせ、実施方法等については、前記「1.水性眼科組成物」と同様である。
【0127】
中でも、これらの方法は、水性眼科組成物が、マルチドーズ型の水性眼科組成物、即ち製品を一旦開封した後、数回以上に亘り使用される水性眼科組成物に対して好適に用いられる。このような水性眼科組成物としてはマルチドーズ型の点眼剤、マルチドーズ型の洗眼剤、マルチドーズ型のコンタクトレンズ装着液、マルチドーズ型のコンタクトレンズケア用品等が挙げられる。
【0128】
なお、本明細書において、水性眼科組成物における保存効力が増強されているか否かは、後述の実施例に記載の方法によって判定することが可能である。
【0129】
[5.涙液安定化方法]
また、前述したように、本発明の水性眼科組成物では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有させることによって、涙液を安定化させることができ、さらにその結果、ドライアイ又は目の乾きを抑制することができる。
【0130】
従って、本発明は、さらに別の観点から、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、涙液安定化作用を該水性眼科組成物に付与する方法を提供する。
【0131】
また、本発明は、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物にドライアイ又は目の乾きを抑制する作用を付与する方法を提供する。当該方法により得られる水性眼科組成物は、ドライアイ用又は目の乾きの抑制用として好適である。
【0132】
これらの方法において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が共存するのであれば、それらの添加は同時であっても、別々であってもよく、その順序も特に限定されない。使用する(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類、それらの含有量(または配合量)、それらの比率、その他に配合する成分の種類、含有量(または配合量)、水性眼科組成物の製剤形態、容器の種類、組み合わせ、実施方法等については、前記「1.水性眼科組成物」と同様である。
【0133】
中でも、これらの方法は、水性眼科組成物が、点眼剤及びコンタクトレンズ装着液の場合に好適に適用される。
【0134】
なお、本明細書において、水性眼科組成物に涙液安定化作用が付与されているか否かは、後述の実施例に記載の方法によって判定することが可能である。
【0135】
[6.涙液油層伸展方法]
また、前述したように、本発明の水性眼科組成物では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有させることによって、涙液油層が瞬目後に短時間で広がりやすく、すなわち涙液油層伸展作用が高いため、ドライアイ又は目の乾きを抑制することができる。
【0136】
従って、本発明は、さらに別の観点から、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、涙液油層伸展作用を該水性眼科組成物に付与する方法を提供する。当該方法により得られる水性眼科組成物は、ドライアイ用又は目の乾きの抑制用として好適である。
【0137】
これらの方法において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が共存するのであれば、それらの添加は同時であっても、別々であってもよく、その順序も特に限定されない。使用する(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類、それらの含有量(または配合量)、それらの比率、その他に配合する成分の種類、含有量(または配合量)、水性眼科組成物の製剤形態、容器の種類、組み合わせ、実施方法等については、前記「1.水性眼科組成物」と同様である。
【0138】
中でも、これらの方法は、水性眼科組成物が、点眼剤及びコンタクトレンズ装着液の場合に好適に適用される。
【0139】
なお、本明細書において、水性眼科組成物に涙液油層伸展作用が付与されているか否かは、後述の実施例に記載の方法によって判定することが可能である。
【0140】
[7.臭気抑制方法]
また、前述したように、本発明の水性眼科組成物では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有させることによって、水性眼科組成物において臭気を抑制することができる。
【0141】
従って、本発明は、さらに別の観点から、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油、(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコール、並びに(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を、水性眼科組成物に含有させることにより、該水性眼科組成物における臭気を抑制する方法を提供する。
【0142】
また、本発明は、(A)ポリオキシエチレンヒマシ油及び(B)モノステアリン酸ポリエチレングリコールを含有する水性眼科組成物に、(C)ゴマ油、ヒマシ油、ビタミンA、及びクロロブタノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有させることにより、該水性眼科組成物における臭気を抑制する方法を提供する。
【0143】
この方法において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が共存するのであれば、それらの添加は同時であっても、別々であってもよく、その順序も特に限定されない。使用する(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類、それらの含有量(または配合量)、それらの比率、その他に配合する成分の種類、含有量(または配合量)、水性眼科組成物の製剤形態、容器の種類、組み合わせ、実施方法等については、前記「1.水性眼科組成物」と同様である。
【0144】
中でも、これらの方法は、水性眼科組成物が、点眼剤及びコンタクトレンズ装着液の場合に好適に適用される。
【0145】
なお、本明細書において、水性眼科組成物における臭気が抑制されているか否かは、後述の実施例に記載の方法によって判定することが可能である。
【実施例】
【0146】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び試験例において、ポリオキシエチレンヒマシ油35としては、医薬品添加物規格2003のポリオキシエチレンヒマシ油の規格に適合する酸化エチレンの平均付加モル数が35のものを用い、ポリオキシエチレンヒマシ油10としては、医薬品添加物規格2003のポリオキシエチレンヒマシ油の規格に適合する酸化エチレンの平均付加モル数が10のものを用い、ステアリン酸ポリオキシル40としては、医薬品添加物規格2003のステアリン酸ポリオキシルの規格に適合する酸化エチレンの平均付加モル数が40のものを用い、ポリソルベート80及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO60)としては、日本薬局方に適合するものを用いた。
【0147】
(試験例1:泡立ち抑制試験)
下記表1に示す水性眼科組成物を、常法に従い調製し、試験液とした。以下の方法で、実施例1〜5、比較例1及び2の水性眼科組成物の泡立ち抑制効果について評価した。
【0148】
具体的には、実施例1〜5、比較例1及び2の水性眼科組成物を、それぞれキャップ付の50mLガラス製遠沈管に30mLずつ充填した。それらをRECIPAD SHAKER SR−2w(TAITEC)を用いて、1500回振とうした。振とう終了直後、目視により、泡部分と水溶液部分を確認し、泡部分の高さを測定し、初期の泡立ちの値とした。比較例の初期の泡立ちの値を100%とし、下記式により泡立ち率(%)を算出した。
【0149】
泡立ち率(%)=(各試験液の初期の泡立ち(高さ))/(対応する比較例の初期の泡立ち(高さ))×100
【0150】
なお、対応する比較例とは、具体的には、実施例1、3及び4については比較例1であり、実施例2及び5については比較例2である。
【0151】
結果を図1に示す。図1に示すように、(C)成分を含有しない比較例1及び2では、振とう終了直後の泡立ちが顕著であったが、(C)成分としてゴマ油、ヒマシ油又はパルミチン酸レチノールを加えた実施例1〜5においては、初期の泡立ちが顕著に抑制された。
【0152】
【表1】
【0153】
(試験例2:消泡促進試験)
下記表2−1及び2−2に示す水性眼科組成物を、常法に従い調製し、試験液とした。そして、以下の方法で、実施例6〜13、比較例3〜6の水性眼科組成物の消泡促進効果について評価した。
【0154】
具体的には、実施例6〜13、比較例3〜6の水性眼科組成物を、それぞれ50mLガラス製遠沈管に30mLずつ充填し、それらをRECIPAD SHAKER SR−2w(TAITEC)を用いて、1500回振とうした。振とう終了直後、目視により、泡部分の高さを測定し、経時的に泡が減少する様子を確認しながら、泡部分の高さの測定値が振とう終了直後の半分となった時間を泡半減時間(分)として測定した。各対応する比較例の泡半減時間(分)の値を100%とし、下記式に従い、それぞれの試験液の泡半減までの消泡所要時間割合(%)を算出した。
【0155】
消泡所要時間割合(%)=(各試験液の泡半減時間(分))/(対応する比較例の泡半減時間(分))×100
【0156】
なお、対応する比較例とは、具体的には、実施例6〜9及び比較例4については比較例3、実施例10〜13及び比較例6については比較例5である。結果を表2−1及び表2−2に併せて示す。
【0157】
【表2-1】
【0158】
【表2-2】
【0159】
表2−1及び表2−2に示したとおり、ステアリン酸ポリオキシルと、ポリオキシエチレンヒマシ油とを併用することにより(比較例3及び5)、ステアリン酸ポリオキシル単独(比較例4及び6)と比較して、消泡に要する時間が顕著に延長された。しかし、さらに(C)成分であるゴマ油、ヒマシ油、パルミチン酸レチノール又はクロロブタノールを加えた実施例6〜13においては、消泡に要する時間が顕著に短縮され、消泡が促進された。
【0160】
(試験例3:臭気測定試験)
下記表3−1及び表3−2に示す組成の水性眼科組成物を、常法により調製し、試験液とした。以下の方法で、実施例14〜17及び比較例7〜9の水性眼科組成物の臭気測定試験を実施した。
【0161】
具体的には、実施例14〜17及び比較例7〜9の水性眼科組成物を、容量15mLのポリエチレンテレフタレート製点眼容器に各15mL、10本ずつ充填し、ポリエチレン製ノズルを装着した後、5本を4℃で1ヶ月間保存し、残り5本を60℃で2週間保存した。保存後の各水性眼科組成物を、腕に1滴滴下し、10円玉大に広げて臭いを嗅ぎ、VAS法で評価した。すなわち、10cmの直線のそれぞれ両端において、「全く臭気を感じない」を0mm、「我慢できないくらいの臭気を感じる」を100mmとし、各水性眼科組成物の臭気に相当する直線上の一点を被験者に示させ、0mmの点からの距離(mm)を測定して、臭気の点数とした。試験は臭いに敏感な被験者を選び、5名で行った。結果を表3−1及び表3−2に併せて示す。
【0162】
【表3-1】
【0163】
【表3-2】
【0164】
表3−1に示すように、ポリオキシエチレンヒマシ油とステアリン酸ポリオキシルとを共に配合することにより、試験液の臭気が悪化することが確認されたが(比較例7及び8)、さらにヒマシ油又はパルミチン酸レチノールを加えることにより、その臭気が顕著に抑制された(実施例14〜17)。さらに、表3−2に示したように、実施例16、17、比較例9を60℃で保存することによる経時変化後の試験においては、4℃で保存した場合に比べ比較例9ではさらに臭気は悪化したが、試験液中にさらにヒマシ油又はパルミチン酸レチノールを共存させることにより、そのような経時的な臭気の悪化も顕著に抑制された(実施例16及び17)。なお、一般的には、60℃で2週間分の熱による経時変化は、25℃で約1.5年分の熱による経時変化に該当する。
【0165】
(試験例4:保存効力試験)
下記表4に示す水性眼科組成物を、常法に従い調製した。そして、以下の方法で、実施例18及び比較例10〜13の水性眼科組成物の保存効力試験を実施した。
【0166】
まず、Staphylococcus aureus(ATCC6538)を、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト斜面培地の表面に接種して、33℃で、24時間培養した。培養菌体を白金耳で無菌的に採取し、適量の滅菌生理食塩水に浮遊させて、約1×10CFU/mLの生菌を含む細菌浮遊液を調製した。なお、浮遊液の生菌数は、別途培養して計測した。次に、15mLのCORNINGコニカルチューブ(PET)に、実施例18及び比較例10〜13の水性眼科組成物を5mLずつ充填した。これらの各水性眼科組成物に、生菌数(最終濃度)が約10CFU/mLとなるよう、Staphylococcus aureus菌液(生理食塩水で懸濁)を接種し、よく攪拌して試料とした。試料を96時間、遮光下23℃で保存した。96時間後に菌を含む試料を計数に適切な濃度となるよう調製し、レシチン・ポリソルベート80・ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト・寒天培地(SCDLP寒天培地)上に播種し、33℃にて一晩培養後、観察されたコロニー数をカウントすることにより、生菌数を求めた。結果を表4に併せて示す。
【0167】
【表4】
【0168】
表4に示したとおり、ポリオキシエチレンヒマシ油又はステアリン酸ポリオキシルのいずれか一方をリン酸緩衝剤と共に含有する試験液(比較例11及び12)では、リン酸緩衝剤のみの試験液(比較例10)と比較して、保存効力がほぼ変わらないか、かえって減弱した。また、ポリオキシエチレンヒマシ油及びパルミチン酸レチノールをリン酸緩衝剤と共に含有する試験液(比較例13)でも、リン酸緩衝剤のみの試験液(比較例10)と比較して、保存効力は減弱した。一方、全く予想外であったことに、ポリオキシエチレンヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシル及びパルミチン酸レチノールの3成分を組み合わせて含有する実施例18では、保存効力の増強効果が顕著に認められた。
【0169】
(試験例5:油層伸展試験)
下記表5−1及び表5−2に示す水性眼科組成物を、常法に従い調製した。以下の方法で、実施例19〜21、比較例14〜19の水性眼科組成物の油層伸展試験を実施した。
【0170】
まず、コーニング6ウェルプレートに生理食塩液(大塚生食注)2.5mLを分注し、各試験液を1mLずつ静かに滴下した。5分後に写真撮影を実施し、油の伸展を評価した。結果を表5−1及び表5−2に併せて示す。
【0171】
なお、表5−1及び表5−2の処方中、ズダンブラック(和光純薬製)は油の伸展を観察し易くするための着色剤である。
【0172】
油層伸展のスコア:
油層が全体に均一に伸展している・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◎
中央部の油層に若干不均一さがみられるか、壁面部に若干油層が吸着している・・○
中央部の油層が不均一であり、壁面部に若干油層が吸着している・・・・・△
油層が全体的に不均一である・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・×
【0173】
【表5-1】
【0174】
【表5-2】
【0175】
表5−1に示したとおり、ポリオキシエチレンヒマシ油及びステアリン酸ポリオキシルを併用した試験液では、ゴマ油又はヒマシ油が、生理食塩水上に均一に拡散した(実施例19〜21)。しかし、非イオン界面活性剤を含有しても、(A)成分又は(B)成分のいずれかを含まない場合には(比較例14〜17)、油層全体が不均一であった。さらに、(A)成分及び(B)成分を含有しても、(C)成分に代えて大豆油を用いた場合には、油層全体が不均一であった(比較例18及び19)。したがって、上記油層伸展効果は、(A)〜(C)成分を全て含む水性眼科組成物において、顕著に奏されることが確認された。
【0176】
(試験例6:涙液安定化試験)
下記表6に示す組成の水性眼科組成物を、常法により調製した。そして、以下の方法で、実施例22及び比較例20の水性眼科組成物の涙液安定化試験を実施した。
【0177】
具体的には、実施例22及び比較例20の水性眼科組成物を、それぞれ容量15mLのポリエチレンテレフタレート製点眼容器に15mLずつ充填し、ポリエチレン製ノズルを装着した。点眼前に、被験者の瞬目後、開眼してから5秒後の眼表面の涙液層の破綻状態(ブレイク)を涙液動態観察装置DR−1(興和株式会社製)にて撮影した。次に、各水性眼科組成物を1滴点眼した直後に、被験者の瞬目後、開眼してから5秒後の眼表面の涙液層の破綻状態を、DR−1で同様に測定した。さらに、各水性眼科組成物を1滴点眼した5分後に、被験者の瞬目後、開眼してから5秒後及び60秒後の眼表面の涙液層の破綻状態を、DR−1で同様に測定した。結果を表6に併せて示す。
【0178】
なお、涙液層のブレイク(破綻)が軽微であるほど、涙液層は安定化されており、ひいては目の乾きが改善されていると考えられる。
【0179】
涙液層のブレイクのスコア:
ブレイク無 ・・・・・・・・・・ −
軽度のブレイク有 ・・・・・・・ +
中等度のブレイク有 ・・・・・・ ++
重度のブレイク有 ・・・・・・・ +++
目が乾いて開眼を継続できず ・・ ++++
【0180】
さらに、点眼直後の刺激感、翌朝起床時の乾燥感を、VAS法で評価した。すなわち、刺激感については、10cmの直線の両端において、「全く刺激を感じない」を0cm、「これまで感じたことがある最大の刺激感」を10cmとし、各水性眼科組成物の点眼によって感じる刺激感に相当する直線上の一点を被験者に示させ、0cmの点からの距離を測定して、刺激感の点数とした。翌朝の乾燥感も同様に、10cmの直線の両端において、「全く乾燥感を感じない」を0cm、「これまで感じたことがある最大の乾燥感」を10cmとして、被験者(n=3)の乾燥感の点数を評価した。結果を表6に併せて示す。
【0181】
【表6】
【0182】
表6に示したとおり、比較例20においては、点眼直後から軽度のブレイクが起きているが、実施例22においては驚くべきことに、点眼5分後、開眼60秒時点においてもブレイクが起こらず、翌朝起床後においても乾燥感を感じなかった。さらに比較例20では非常に刺激を感じたが、実施例22では刺激を感じることはなかった。
図1