(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化カルシウム散布手段は、粉体又は粒子状の酸化カルシウムを収容する酸化カルシウム貯槽と、前記酸化カルシウム貯槽内の酸化カルシウムを土壌の上に散布するカルシウム散布装置とを搭載している自動車であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の土壌浄化システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1に開示された、VOC含有土壌を原位置で浄化するようにした従来の土壌浄化装置又は土壌浄化方法では、例えば地面の下の深い位置に空気を供給する配管等を土中に埋設する必要があり、したがって装置一式を他の土地に移動させ又は移設するのが容易でないので、VOCで汚染された散在する土地のVOC含有土壌を浄化するのには適していない、といった問題がある。とくに、広い地域にわたって多数の土地で発生したVOC含有土壌を受け入れて浄化する事業を営む者にとっては、このような土壌浄化装置又は土壌浄化方法は実用的なものではない。
【0006】
また、例えば特許文献4に開示された、掘削により生じたVOC含有土壌を受け入れて浄化するようにした従来のプラント型の土壌浄化装置は、例えば特定の箇所のVOCで汚染された土地におけるシールド工事等で発生するVOC含有土壌を容器に受け入れて該容器内で浄化するものであり、その処理量ないしは処理能力は比較的小さいものである。このため、広い地域にわたってVOCで汚染された多数の土地で発生する大量のVOC含有土壌(例えば、数百〜数千トン/日)を受け入れて浄化する事業を営む者にとって実用的なものではない、といった問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、広い地域にわたって多数の土地で発生する大量のVOC含有土壌を受け入れて効果的に浄化することができる土壌浄化システムを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた、本発明に係る土壌浄化システムは、土壌収容建屋と、酸化カルシウム散布手段と、トラクタと、散水手段と、ボイラとを備えている。ここで、土壌収容建屋は、地面又は基礎(例えば、ベタ基礎)の上に設置され、外界と仕切られた建屋内空間を画成する天井壁及び縦壁を有し、
その内部に搬入されたVOC含有土壌をその内部
の床面の上に収容する。酸化カルシウム散布手段は、土壌収容建屋内の土壌の上に粉体又は粒子状の酸化カルシウム(生石灰;CaO)を散布する。トラクタは、その後部ないしは後端部に耕耘装置を有し、土壌収容建屋内の土壌の上を耕耘走行する。散水手段は、土壌収容建屋内において酸化カルシウム散布手段の最上部より高く、かつトラクタの最上部よりも高い位置に配置され、土壌に高温水を散布する。ボイラは、土壌収容建屋外に配置され、土壌収容建屋内の空気を取り入れて該空気で燃料を燃焼させ、該燃焼による熱で水を気化(沸騰)させて水蒸気を生成する。
【0009】
本発明に係る土壌浄化システムを構成する散水手段は、それぞれ土壌収容建屋内に設定された複数の散水区画に個別に散水する複数の区画散水器と、これらの区画散水器の
うちのどの区画散水器から散水する
かを制御する散水制御器とを備えている。各区画散水器は、高温水生成器と、高温水散布器と、水蒸気通路開閉弁と、水通路開閉弁とを備えている。
【0010】
ここで、高温水生成器は、ボイラで生成された水蒸気と水とが、それぞれ水蒸気通路と水通路とを介して供給され、該水蒸気と該水とを混合して80〜100℃の高温水を生成する。高温水散布器は、高温水生成器で生成された高温水を、該区画散水器に対応する散水区画の土壌の表面に散布する。水蒸気通路開閉弁は、高温水散布器に水蒸気を供給する水蒸気通路を開閉する一方、水通路開閉弁は、高温水散布器に水を供給する水通路を開閉する。そして、散水制御器は、ある(任意の)散水区画が散水されるときに、該散水区画に対応する区画散水器の水蒸気通路開閉弁及び水通路開閉弁を開いて、該区画散水器の高温水散布器から高温水を放出(散布)させる。
【0011】
本発明に係る土壌浄化システムは、トラクタの位置を検出して散水制御器に送信するトラクタ位置検出手段を備えているのが好ましい。この場合、散水制御器は、トラクタがある(任意の)散水区画を耕耘走行しているときに、トラクタ位置検出手段によって検出されたトラクタの位置に基づいて、トラクタ走行方向に関してトラクタが耕耘走行している散水区画の前側に隣接する1つ又は複数の散水区画に高温水が散布されるように、複数の区画散水器の水蒸気通路開閉弁及び水通路開閉弁を開閉制御するようになっているのが好ましい。
【0012】
本発明に係る土壌浄化システムにおいて、トラクタが複数台配備されている場合、トラクタ位置検出手段は、これらの複数のトラクタの位置を検出して散水制御器に送信するようになっているのが好ましい。このとき、散水制御器は、トラクタ位置検出手段によって検出された複数のトラクタの位置に基づいて、複数のトラクタが走行している各散水区画の前側に隣接する各散水区画に高温水が散布されるように、複数の区画散水器の水蒸気通路開閉弁及び水通路開閉弁を開閉制御するようになっているのが好ましい。
【0013】
本発明に係る土壌浄化システムにおいて、酸化カルシウム散布手段は、粉体又は粒子状の酸化カルシウムを収容する酸化カルシウム貯槽と、酸化カルシウム貯槽内の酸化カルシウムを土壌の上に散布するカルシウム散布装置とを搭載している自動車であるのが好ましい。
【0014】
本発明に係る土壌浄化システムにおいて、トラクタは、該トラクタの後部ないしは後端部に付設され、下側が開かれた箱状の空間部を形成する上壁及び周壁を有し、耕耘装置の上方及び側方を覆う耕耘装置カバーと、該トラクタの内燃機関の排気通路に接続され、耕耘装置カバー内又は耕耘装置カバーの下方において耕耘装置によって耕耘されている土壌に内燃機関の排気ガスを吹き付ける排気ガス吹付手段とを備えているのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る土壌浄化システムによれば、土壌収容建屋内のVOC含有土壌の上に酸化カルシウムを散布した上で、トラクタの前方の散水区画に高温水を散布しつつトラクタを耕耘走行させて耕耘装置でVOC含有土壌を耕耘すれば、酸化カルシウムと高温水との反応によって発生する熱により、耕耘されているVOC含有土壌の温度が上昇し、該VOC含有土壌中のVOCが気化して空気中に放出される。その際、該散水区画において区画散水器から土壌に散布される水は80〜100℃の高温水であるので、高温水の顕熱によりVOC含有土壌の温度の上昇が促進される。よって、VOC含有土壌中のVOCを効果的に除去してVOC含有土壌を効果的に浄化することができる。また、空気中に気化したVOCをボイラで燃焼又は分解させて無害化することができる一方、ボイラで生成された水蒸気で前記高温水を生成することができる。
【0016】
一方、土壌収容建屋は、基本的には天井壁と縦壁とで建屋内空間を画成する単純な箱型の建造物であるので、その内部に適宜に支柱を設置すれば、床面積ないしは建屋面積が非常に大きく大量のVOC含有土壌を搬入ないしは収容することができる土壌収容建屋を容易に設置することができる。そして、広い床面積(例えば、1000〜2000m
2)をもつ土壌収容建屋内に複数台ないしは多数台のトラクタを投入することにより、非常に大量のVOC含有土壌を短時間で効果的に浄化することができる。したがって、本発明に係る土壌浄化システムは、VOCで汚染された多数の土地で広域的に発生する大量のVOC含有土壌(例えば、数百〜数千トン/日)を受け入れて浄化する事業においても有効に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る土壌浄化システムを具体的に説明する。
図1に示すように、本発明に係る土壌浄化システム1においては、地面2又は地面2の上の基礎(例えば、コンクリート製のベタ基礎)の上に設置され、その底面3(又は床面)の上にVOC含有土壌4又は浄化された清浄土壌4’を収容する土壌収容建屋5が設けられている。土壌収容建屋5は、外界と仕切られ基本的には外界に対して閉じられた建屋内空間6を画成する天井壁7(又は屋根)及び縦壁8(又は側壁)を有している。
【0019】
この土壌収容建屋5内へは、ダンプトラック(図示せず)を用いて大量のVOC含有土壌4が搬入される。なお、VOC(揮発性有機化合物)としては、例えば第一種特定有害物質(四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、シス1,2-ジクロロエチレン、1,3-ジクロロプロペン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン)などが挙げられる。
【0020】
土壌収容建屋5の床面積ないしは建屋面積は、予定しているVOC含有土壌の処理量、VOC含有土壌の浄化に要する時間等に応じて好ましく設定されるが、各地のVOC含有土壌4を受け入れて浄化する事業を営む場合は、例えば、1つの土壌収容建屋5の床面積を1000〜2000m
2程度とし、VOC含有土壌4の処理量が多い場合は、このような土壌収容建屋5を複数設けるのが実用的である。また、土壌収容建屋5の高さは、ダンプトラックの最大限に傾斜している荷台の高さ(6〜7m程度)より数メートル(例えば2〜3m)高ければ、とくに制限されないが、10〜12m程度とするのが実用的である。なお、ダンプトラックの最大限に傾斜している荷台の高さは、一般に、土壌収容建屋5内に配備される他の種々の車両の最上部よりもかなり高い。
【0021】
詳しくは図示していないが、VOC含有土壌を積載しているダンプトラックは、土壌収容建屋5に設けられた開閉可能な車両出入口(図示せず)を経由して土壌収容建屋5内に入り、その荷台を傾斜させて重力によりVOC含有土壌を底面3の上に落下させる。そして、ダンプトラックから落下した山盛り状のVOC含有土壌4は、ブルドーザ10を用いて、その上面(表面)がほぼ水平な平坦面となるように地ならし(平坦化)され、かつキャタピラで、車輪で走行する車両がその上を走行できる程度に踏み固められる。なお、ローラ車を用いてVOC含有土壌4を踏み固めるようにしてもよい。
【0022】
VOC含有土壌4を下したダンプトラックには、ブルドーザ10及び油圧ショベル11(パワーショベル)を用いて、VOCが除去され浄化された清浄土壌4’が積載される。このように清浄土壌4’を積載したダンプトラックは、車両出入口を経由して土壌収容建屋5を退去する。このようなVOC含有土壌4の搬入及び清浄土壌4’の搬出は、複数のダンプトラックを用いて次々に実施される。なお、土壌収容建屋5には、VOC含有土壌4が載置された領域と清浄土壌4’が載置された領域とが、水平方向に離間して存在するので、ダンプトラックは、VOC含有土壌を下した後、適宜に移動して清浄土壌4’を積載する。
【0023】
土壌収容建屋5内には、地ならし(平坦化)され、適度に踏み固められたVOC含有土壌4(例えば厚さ0.3〜0.6m)の上面に、粉体の酸化カルシウム又は粒子状(例えば、粒子径が0.1〜0.5mmの粒子)の酸化カルシウムを散布する酸化カルシウム散布車12(以下「CaO散布車12」という。)が配備されている。CaO散布車12は、粉体又は粒子状の酸化カルシウムを収容する酸化カルシウム貯槽13と、酸化カルシウム貯槽13内の酸化カルシウムを土壌の上におおむね均一に散布するカルシウム散布装置14とを備えている。CaO散布車12は全輪駆動(4輪駆動)の車両であり、走行環境が悪いVOC含有土壌4又は清浄土壌4’の上を支障なく走行することができる。さらに、土壌収容建屋5内には、VOC含有土壌4又は清浄土壌4’の上面を耕耘走行し又は非耕耘走行するトラクタ15が配備されている。なお、ブルドーザ10、油圧ショベル11、CaO散布車12及びトラクタ15は、それぞれ、土壌収容建屋5の床面積ないしはVOC含有土壌4の処理量に応じて複数台配備するのが好ましい。
【0024】
また、土壌収容建屋5内には、VOC含有土壌4の表面に高温水を散布又は放出する散水装置16(散水手段)が配設され、この散水装置16は複数ないしは多数の区画散水器17を備えている。各区画散水器17は、水通路18を介して供給される水と、水蒸気通路19を介して供給される低圧(例えば、1〜2kgf/cm
2G、200000〜300000Pa)の水蒸気とを混合して80〜100℃の高温水を生成する高温水生成器20と、高温水生成器20によって生成された高温水を、該区画散水器17に対応する散水区画の土壌の表面におおむね均一に散布する多数のノズルを有する高温水散布器21とを備えている。散水装置16は、ダンプトラック、油圧ショベル10、ブルドーザ11、CaO散布車12、トラクタ15等の走行又は動作の妨げとならないように、比較的高い位置(例えば、底面3の上方8〜10m)に配設されている。
【0025】
図2に詳しく示すように、各区画散水器17の高温水生成器20の水導入ポート20aには、水通路18から分岐した分岐水通路18aが接続されている。また、高温水生成器20の水蒸気導入ポート20bには、水蒸気通路19から分岐した分岐水蒸気通路19aが接続されている。さらに、高温水生成器20の高温水排出ポート20cには、高温水散布器21の一部をなし上下方向に伸びる1本の高温水供給管21aが接続されている。そして、分岐水通路18aに第1電磁開閉弁22が介設される一方、分岐水蒸気通路19aに第2電磁開閉弁23が介設されている。ここで、第1電磁開閉弁22及び第2電磁開閉弁23は、コンピュータを備えた散水制御器Cによって開閉制御されるようになっている。散水制御器Cは、各区画散水器17の散水態様、例えばどの区画散水器17から散水するかなどを制御する。
【0026】
高温水散布器21は、高温水供給管21aの下端部に接続され水平方向に伸びる1本の中央管21bと、水平面内において中央管21bと垂直な方向に伸びる互いに平行な複数の枝管21cとを有している。各枝管21cは中央管21bに接続される一方、その下部には、高温水をおおむね下向きに放出ないしは散布する複数のノズル21dが取り付けられている。ここで、高温水散布器21は、トラクタ15が耕耘走行する方向に中央管21bが伸びるように配置される。なお、トラクタ15の耕耘走行は、土壌収容建屋5が平面視で矩形の場合は、この矩形の長辺と平行な方向に行うのが好ましい。
【0027】
中央管21bの長さL1は、例えばトラクタ15の前後方向の長さないしは全長(例えば、4〜6m)の1〜3倍程度の長さに設定され、枝管21cの長さL2は、例えばトラクタ15の耕耘装置の車幅方向の寸法(例えば、2〜3m)と同程度の長さに設定される。互いに平行な枝管21cの間隔は、例えば0.1〜0.3m程度に設定される。また、各枝管21cに取り付けられる複数のノズル21dの間隔は、例えば0.05〜0.15m程度に設定される。したがって、高温水散布器21は、VOC含有土壌4の上において、平面視で縦及び横の寸法がそれぞれL1及びL2である矩形の領域と、この領域より外側にやや広がった周辺領域(例えば、0.2〜0.5m広がった領域)とに高温水を散布することができる。
【0028】
図3中に破線で示すように、土壌収容建屋5の建屋内空間6は、平面視で矩形をなす複数ないしは多数の散水区画Rに区画されている。なお、各散水区画R間には物理的な区画部材ないしは仕切り部材が存在するわけではなく、建屋内空間6が抽象的ないしは観念的に区画されているだけである。そして、これらの散水区画Rにそれぞれ区画散水器17が配設されている。平面視では、散水区画Rの形状は、区画散水器17の全体的な形状、すなわち縦及び横の寸法がそれぞれL1及びL2である矩形の形状に対応するように設定されている。すなわち、平面視では、各散水区画Rの形状は、該散水区画R内に1つの区画散水器17が、これと隣り合う区画散水器17と適切な間隔(例えば、0.2〜0.3m)を保って収容されるように設定される。換言すれば、平面視で、矩形の各散水区画R内に、全体的な形状が該散水区画Rの矩形よりやや小さい矩形である1つの区画散水器17が配設されている。
【0029】
かくして、複数の区画散水器17のうちの任意の区画散水器17において、散水制御器Cによって第1電磁開閉弁22及び第2電磁開閉弁23が開かれたときには、高温水生成器20によって生成された80〜100℃の高温水が、その高温水散布器21の各ノズル21dからおおむね下向きに放出され、この区画散水器17の下方の散水領域R(平面視で、縦及び横の寸法がそれぞれL1及びL2である矩形よりやや広い領域)に散布される。ここで、散水制御器Cは、任意の1つ又は複数の区画散水器17の第1電磁開閉弁22及び第2電磁開閉弁23を、任意のタイミング及び開弁時間で開閉することができる。すなわち、散水制御器Cは、任意の散水区画Rに、任意のタイミング及び任意の開弁時間で高温水を散布することができる。
【0030】
また、土壌浄化システム1には、土壌収容建屋5内のトラクタ15の位置を検出するトラクタ位置検出手段Dが設けられている。詳しくは図示していないが、トラクタ位置検出手段Dは、各トラクタ15に搭載された発信機(図示せず)から発信される該トラクタ15に固有の波長又は波形をもつ電波を複数の地点で検出することにより、土壌収容建屋5内における該トラクタ15の位置を検出し、検出結果を散水制御器Cに送信する。これにより、散水制御器Cは、常時、走行中又は停止中の各トラクタ15の位置を認識又は把握することができる。したがって、散水制御器Cは、各トラクタ15の位置に応じて、任意の散水区画R(例えば走行中のトラクタ15の前方の散水区画Rなど)に、任意のタイミング及び開弁時間で高温水を散布することができる。
【0031】
さらに、土壌浄化システム1には、土壌収容建屋5の外部に配置され、土壌収容建屋5内の空気を取り入れて該空気で燃料を燃焼させ、該燃焼による熱で水を気化させて水蒸気を生成するボイラ25が設けられている。ボイラ25にはバーナ26(燃焼器)が設けられ、このバーナ26には、土壌収容建屋5内の空気がブロワ27(送風機)により空気通路28を介して供給される一方、燃料通路29を介して液体燃料(例えば、灯油等)又は気体燃料(例えば、天然ガス、プロパンガス等)が供給される。また、ボイラ25には蒸発器30が設けられ、この蒸発器30には水供給管31を介して水が供給される。
【0032】
蒸発器30としては、缶型蒸発器(蒸発缶)又は管型蒸発器を用いることができる。そして、蒸発器30内の水はバーナ26で発生する高温(例えば、800〜1000℃)の燃焼ガスにより加熱されて沸騰し、これにより低圧(例えば、1〜2kgf/cm
2G、200000〜300000Pa)の水蒸気(スチーム)が生成される。この水蒸気は、水蒸気通路19を介して散水装置16(高温水生成器20)に供給される。
【0033】
土壌収容建屋5内の空気は、ブロワ27によりバーナ26に送られ、燃料の燃焼に使用される。一方、後で説明するように、土壌収容建屋5内の空気には、VOC含有土壌4から気化して該空気中に放出されたVOCが含まれているが、このVOCはバーナ26内で燃焼し又は分解され、完全に無害化される。ここで、土壌収容建屋5内には、このようにバーナ26に送られた空気に相応する量の外部の空気が、空気導入口(図示せず)又は車両出入口まわりの隙間等を経由して流入するので、土壌収容建屋5内は減圧状態とはならない。
【0034】
図4に示すように、トラクタ15は、車体35に搭載された内燃機関36(例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)を動力源とする全輪駆動(4輪駆動)の自動車であり、内燃機関36の出力軸ないしはクランクシャフト(図示せず)のトルクが、変速機37(トランスミッション)及びトルク伝達機構(図示せず)を介して、前輪38及び後輪39に伝達されるようになっている。
【0035】
トラクタ15は、詳しくは図示していないが、運転席40に乗っている運転者がステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー等の操作機器を操作する有人運転を行うことができるようになっている。さらに、トラクタ15は、無線通信装置(図示せず)及び車載ビデオカメラ(図示せず)等を用いて、土壌収容建屋5の外部から遠隔操作で無人運転を行うことができるようになっている。また、トラクタ15には、その位置をトラクタ位置検出手段Dが検出できるように、該トラクタ15に固有の波長又は波形をもつ電波を発信する発信機(図示せず)を搭載している。
【0036】
トラクタ15の後部ないしは後端部には、回転式の耕耘装置41と、耕耘装置カバー42と、排気ガス吹付器43とが付設されている。耕耘装置41は、耕耘軸44(回転シャフト)に取り付けられ矢印Pで示す方向に回転してVOC含有土壌4を耕耘する複数の耕耘爪45を有している。これらの耕耘爪45へは、変速機37の出力軸(図示せず)のトルクの一部が、動力伝達軸46と動力伝達ケース47とを介して伝達される。なお、複数の耕耘爪45は、トラクタ15の車幅方向に適当な間隔をあけて配置されている(
図5参照)。耕耘装置41は、車体35内に配設された油圧シリンダ(図示せず)により、連結機構49を介して上下に移動させることができるようになっている。
【0037】
すなわち、トラクタ15は、図示していないが、油圧シリンダの2つの油室に供給する油圧の供給状態を切り換えることにより、その運転状態を、耕耘装置41を上側の位置に保持しVOC含有土壌4を耕耘せずに走行する状態(非耕耘走行)と、耕耘装置41を下側の位置に保持しVOC含有土壌4を耕耘しつつ走行する状態(耕耘走行)とに切り換えることができる。なお、本明細書において、「耕耘」は、ほぼ水平方向に広がる種々の土壌を、耕耘爪等で鋤き返しながら、又は耕しながら砕き又はかき混ぜる操作を意味する。
【0038】
図5に拡大して示すように、耕耘装置カバー42は、上壁51と左側壁52と右側壁53と前壁54(
図3参照)と後壁55とを有する、下側が開かれた略直方体の箱形部材であり、耕耘装置41の上方及び側方(前後左右)を覆う(囲む)ように形成されている。左側壁52、右側壁53及び前壁54は、それぞれ、その下端がトラクタ15の走行面(VOC含有土壌4又は清浄土壌4’の上面)との接触を避けるため、該下端が後輪39の最下部よりもやや上側(例えば、5〜15cm上側)の部位に位置するような形状に形成されている。
【0039】
また、後壁55は、耕耘時におけるVOC含有土壌4の後方への掻き出しの妨げとならないように、あるいは耕耘装置カバー42内に耕耘されたVOC含有土壌4が過剰に滞留しないように、その下端が左側壁52又は右側壁53の下端よりも多少高い部位(例えば、5〜10cm上、あるいは耕耘軸34とおおむね同一の高さ)に位置するような形状に形成される。なお、前壁54を設けず、トラクタ15の車体35の後端面を前壁44として利用してもよい。
【0040】
排気ガス吹付器43は、内燃機関36の、車体前後方向に伸びる排気通路57に接続された、車体左右方向に伸びる排気管58と、排気管58に取り付けられ、耕耘装置カバー42内又は耕耘装置カバー42の下方において耕耘装置41によって耕耘されているVOC含有土壌4に排気ガスを吹き付ける複数のノズル59とを備えている。
【0041】
なお、トラクタ15として、内燃機関36の排気ガスを耕耘されているVOC含有土壌4に吹き付ける機構を備えていない普通のトラクタ、すなわち
図4及び
図5に示すトラクタ15から耕耘装置カバー42と排気ガス吹付器43とを除去したトラクタを用いてもよい。
【0042】
以下、土壌浄化システム1におけるVOC含有土壌4の具体的な浄化の手順ないしは浄化方法を説明する。VOC含有土壌4の浄化の手順は、およそ下記の5つの工程、すなわち土壌搬入工程と、地ならし工程と、酸化カルシウム散布工程と、高温水散布・耕耘工程と、VOC処理・水蒸気生成工程とを有している。以下、これらの工程における具体的な操作ないしは動作を説明する。
【0043】
(1) 土壌搬入工程
土壌搬入工程では、荷台にVOC含有土壌を積載したダンプトラックを、外部から車両出入口を経由して土壌収容建屋5内に進入させ、荷台を傾斜させてVOC含有土壌を重力で土壌収容建屋5の底面3の上に自然落下させる。これにより、VOC含有土壌は、土壌収容建屋5の底面3の上に山盛り状に載置される。このようなダンプトラックによるVOC含有土壌の搬入は、所定量のVOC含有土壌が土壌収容建屋5内に搬入されるまで(例えば、50散水区画分の土壌、床面積500m
2分の土壌等)、複数のダンプトラックを用いて次々に行われる。
【0044】
(2) 地ならし工程
地ならし工程では、土壌収容建屋5の底面3の上に載置された多数の山盛り状のVOC含有土壌4を、ブルドーザ10を用いて、その上面(表面)がおおむね水平かつ平坦となるように地ならし(平坦化)する。これと同時に、ブルドーザ10のキャタピラで、VOC含有土壌4を、車輪で走行する車両、すなわちCaO散布車14、トラクタ15、ダンプトラック等がその上を走行することができる程度に踏み固める。なお、ローラ車(ロードローラ)を用いてVOC含有土壌4を踏み固めるようにしてもよい。
【0045】
(3) 酸化カルシウム散布工程
酸化カルシウム散布工程では、土壌収容建屋5内の地ならしされたVOC含有土壌4(例えば、厚さ0.3〜0.6m)の上面ないしは表面に、CaO散布車12を用いて、粉体又は粒子状の酸化カルシウムを散布する。酸化カルシウムの散布量は、多ければ多い程、後で説明するVOC含有土壌4の温度上昇効果、すなわちVOC含有土壌4からのVOC除去効果が高まるが、VOC含有土壌1トン当たり10〜100kg程度、とくに40〜60kg程度の酸化カルシウムを散布するのが実用的である。
【0046】
(4) 高温水散布・耕耘工程
高温水散布・耕耘工程では、トラクタ15を土壌収容建屋5内のVOC含有土壌4の上を走行させ、回転式の耕耘装置41の耕耘爪45で土壌を耕耘する一方、走行しているトラクタ15の前方の散水区画RのVOC含有土壌4の上に、80〜100℃の高温水をスプレー状で散布する。
【0047】
具体的には、まずトラクタ位置検出手段Dによって検出されたトラクタ15の位置が散水制御器Cに送信される。そして、散水制御器Cは、例えばトラクタ走行方向に関してトラクタ15が耕耘走行している散水区画Rの前側に隣接する1つ又は複数の散水区画Rに高温水が散布されるように、該散水区画Rに対応する区画散水器17の第1電磁開閉弁22及び第2電磁開閉弁23を、所定時間(所定量の高温水を散布することができる時間)開弁する。トラクタ15が走行すれば、これに伴って高温水を散布する散水区画Rも、散水制御器Cによって前方に移動させられる。高温水の散布量は、酸化カルシウムの散布量に対して30〜40重量パーセントの範囲に設定するのが実用的である。
【0048】
この高温水散布・耕耘工程では、トラクタ15は、その上を通り過ぎる少し前(例えば5〜20秒前)に高温水が散布されている、上面(表面)に酸化カルシウムが散布されたVOC含有土壌4の上を、耕耘爪45(耕耘装置41)でVOC含有土壌4を耕耘しつつ走行する。その際、高温水と酸化カルシウムとVOC含有土壌4とがかき混ぜられ、高温水と酸化カルシウムとが下記の反応式(1)で示すように迅速に反応する。
CaO+H
2O→Ca(OH)
2+65kJ/g-mol…………………………………(1)
【0049】
これにより、酸化カルシウム1kg当たり約1160kJ(65×1000/56=1160)、すなわち約278kcal(1160/4.18=278)の反応熱が生成される。その結果、例えば1トンのVOC含有土壌4に50kgの酸化カルシウムを散布した場合、このVOC含有土壌4に約13900kcal(278×50=13900)の熱が加えられる。
【0050】
このため、例えば1トンのVOC含有土壌4に50kgの酸化カルシウムを散布した場合、このVOC含有土壌4に約13900kcal(278×50=13900)の熱が加えられるので、VOC含有土壌4の熱容量を土壌の平均的な熱容量である0.25kcal/kg・℃とすれば、その温度はおおむね55℃上昇する(13900/(1000×0.25)=55)。例えば、例えばVOC含有土壌4の温度が20℃である場合、その温度は約おおむね75℃まで上昇することになる。このとき、VOC含有土壌4には80〜100℃の高温水が散布されるので、高温水の顕熱によって、VOC含有土壌4の温度はさらに上昇する。
【0051】
さらに、このように耕耘されているVOC含有土壌4に、排気ガスノズル59から排出される内燃機関36の高温(例えば、ガソリンエンジンでは600〜800℃)の排気ガスが大量に(例えば、2000cc、2500rpmのガソリンエンジンで、毎分約5m
3)吹き付けられので、排気ガスの顕熱により耕耘されているVOC含有土壌4の温度がさらに約5〜10℃上昇する。
【0052】
また、内燃機関36の排気ガスには、例えば15〜20体積%の二酸化炭素が含まれているが、この二酸化炭素がVOC含有土壌4中の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムと接触したときに、下記の反応式(2)、(3)で示すように反応し、その反応熱によってVOC含有土壌4の温度がさらに上昇する。
CaO+CO
2→CaCO
3+175kJ/g-mol……………………………………(2)
Ca(OH)
2+CO
2→CaCO
3+H
2O+69kJ/g-mol……………………(3)
【0053】
前記のとおり、耕耘装置41ないしは耕耘爪45の上方と前後左右の大部分は、耕耘装置カバー42によって覆われている(囲まれている)ので、排気ガスノズル59から排出された排気ガスは、耕耘爪45によって耕耘されているVOC含有土壌4の周囲に比較的長く滞留する。このため、耕耘されているVOC含有土壌4と接触する空気ないしは排気ガス中の二酸化炭素濃度は、比較的高い状態に維持される(例えば10〜15体積%)。
【0054】
ここで、反応式(2)によれば酸化カルシウム1kg当たり約748kcal(175×1000/(56×4.18)=748)の反応熱が生成され、反応式(3)によれば水酸化カルシウム1kg当たり約223kcal(69×1000/(74×4.18))の反応熱が生成される。しかしながら、VOC含有土壌4中のすべての酸化カルシウム又は水酸化カルシウムと反応することができる量の二酸化炭素が存在せず、また反応式(2)又は反応式(3)による反応の反応速度は、比較的緩慢であるので、これらの反応によるVOC含有土壌4の温度上昇は5〜10℃であるものと推定される。
【0055】
かくして、トラクタ15の耕耘爪45によって耕耘されているVOC含有土壌4は、おおむね65〜75℃上昇する。つまり、土壌収容建屋5内の気温が平均的な20℃であるときには、耕耘爪45によって耕耘されているVOC含有土壌4の温度は、迅速に85〜95℃まで上昇し、この状態から徐々に冷却することになる。その際、VOC含有土壌4に含まれているVOCは気化し、VOC含有土壌4は浄化されて清浄土壌4’となる。なお、以上の計算は、1トンのVOC含有土壌4に50kgの酸化カルシウムを散布した場合のものであるので、これより酸化カルシウムの散布量を増やせば、散布量に応じてVOC含有土壌4の温度がさらに上昇し、例えば100〜130℃に達する。
【0056】
(5) VOC処理・水蒸気生成工程
VOC処理・水蒸気生成工程では、土壌収容建屋5内の空気に含まれるVOCを処理ないしは除去するとともに、高温水を生成するための水蒸気を生成する。このVOC処理・水蒸気生成工程は、VOC含有土壌4を浄化するための前記の各工程と並行して常時実施される。
【0057】
前記のとおり、高温水散布・耕耘工程では、VOC含有土壌4中のVOCが、土壌収容建屋5内の空気中に気化する。そこで、土壌収容建屋5内の空気を、ブロワ27により空気通路28を介してボイラ25のバーナ26に送り、該空気に含まれているVOCを燃焼又は分解させるようにしている。したがって、土壌収容建屋5内のVOC含有土壌4から気化したVOCは大気中には排出されない。ここで、ブロワ27によりバーナ26に送られる空気と同一量の空気が、外部から土壌収容建屋5の車両出入口あるいは隙間などを経由して土壌収容建屋5内に流入するので、土壌収容建屋5内の空気のVOC濃度は低水準に維持される。
【0058】
本発明に係る土壌浄化システム1によれば、土壌収容建屋5内のVOC含有土壌4の上に酸化カルシウムを散布した上で、高温水を散布しつつトラクタ15を走行させて耕耘装置41(耕耘爪45)でVOC含有土壌4を耕耘すれば、酸化カルシウムと水の反応によって発生する熱により、耕耘装置41により耕耘されているVOC含有土壌4の温度が上昇し、該VOC含有土壌4中のVOCが気化して空気中に放出される。その際、高温水が散布され、かつ高温の排気ガスが耕耘されているVOC含有土壌4に吹き付けられるので、該VOC含有土壌4の温度の上昇が促進される。また排気ガス中の高濃度の二酸化炭素と酸化カルシウム又は水酸化カルシウムとの反応により熱が発生するので、VOC含有土壌4の温度の上昇がさらに促進される。よって、VOC含有土壌4中のVOCを効果的に除去してVOC含有土壌4を効果的に浄化することができる。さらに、空気中に気化したVOCをボイラ25のバーナ26で燃焼又は分解させて無害化ないしは処理することができる一方、ボイラ25で生成された水蒸気で前記高温水を生成することができる。
【0059】
一方、土壌収容建屋5は、基本的には天井壁7と縦壁8とで建屋内空間6を画成する単純な箱形の建造物であるので、その内部に適宜に支柱を設置すれば、床面積ないしは建屋寸法が非常に大きく大量のVOC含有土壌を搬入ないしは収容することができる土壌収容建屋5を容易に設置することができる。そして、広い床面積(例えば、1000〜2000m
2)をもつ土壌収容建屋5内に複数のトラクタ15を投入することにより、大量のVOC含有土壌4を効果的に浄化することができる。したがって、本発明に係る土壌浄化システム1ないしは土壌浄化方法は、VOCで汚染された多数の土地で広域的に発生する大量のVOC含有土壌(例えば、数百〜数千トン/日)を受け入れて浄化する事業においても有効に用いることができる。
【解決手段】土壌浄化システム1は、土壌収容建屋5と、酸化カルシウム散布車13と、トラクタ15と、散水装置16と、ボイラ25とを備えている。散水装置16は、それぞれ土壌収容建屋5内に設定された複数の散水区画に個別に散水する複数の区画散水器17と、これらの区画散水器17の散水態様を制御する散水制御器とを備えている。各区画散水器17は、高温水生成器20と高温水散布器21とを備えている。ボイラ25のバーナ26は、土壌収容建屋5内の空気で燃料を燃焼させ、該空気中のVOCを処理又は除去する。高温水生成器20は、ボイラ25で生成された水蒸気と水とを混合して高温水を生成し、この高温水は高温水散布器21によりVOC含有土壌の上に散布される。