特許第5873621号(P5873621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5873621基材をコーティングするためのプロセスおよび金属合金真空蒸着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873621
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】基材をコーティングするためのプロセスおよび金属合金真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   C23C14/14 Z
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-554057(P2009-554057)
(86)(22)【出願日】2008年3月19日
(65)【公表番号】特表2010-522272(P2010-522272A)
(43)【公表日】2010年7月1日
(86)【国際出願番号】FR2008000347
(87)【国際公開番号】WO2008142222
(87)【国際公開日】20081127
【審査請求日】2010年10月6日
【審判番号】不服2014-12187(P2014-12187/J1)
【審判請求日】2014年6月25日
(31)【優先権主張番号】07290342.0
(32)【優先日】2007年3月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506166491
【氏名又は名称】アルセロールミタル・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シヨケ,パトリツク
(72)【発明者】
【氏名】シルベルベール,エリツク
(72)【発明者】
【氏名】シユミツツ,ブルノ
(72)【発明者】
【氏名】シヤレツクス,ダニエル
【合議体】
【審判長】 真々田 忠博
【審判官】 萩原 周治
【審判官】 後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−97663(JP,A)
【文献】 特開平2−73960(JP,A)
【文献】 特開平7−278798(JP,A)
【文献】 特表2007−502364(JP,A)
【文献】 特開2002−302717(JP,A)
【文献】 特開昭55−128578(JP,A)
【文献】 特開昭59−177369(JP,A)
【文献】 特開2000−96214(JP,A)
【文献】 特開平9−053173(JP,A)
【文献】 特開平10−152777(JP,A)
【文献】 米国特許第3059612(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(S)をコーティングするためのプロセスであって、亜鉛およびマグネシウムを含む金属合金層が、一定および所定の相対含有量の前記亜鉛およびマグネシウムを含有する蒸気を用いて、基材(S)に吹き付けるための蒸気ジェットコータ(7、17)を備える真空蒸着装置(1、11)によって音速で前記基材(S)上に連続的に蒸着されるプロセスであって、所定のマグネシウム含有量が4重量%から20重量%である亜鉛ベースの金属合金層が、所定のマグネシウム含有量が最初30重量%から55重量%のマグネシウムである亜鉛ベースの金属合金の浴を蒸発させることによって前記基材(S)上に連続的に蒸着され、前記金属合金の浴は誘導加熱によって過熱されており、前記最初の含有量は蒸着中一定に保たれるプロセス。
【請求項2】
所定のマグネシウム含有量が4重量%から18重量%である亜鉛ベースの金属合金層が、所定のマグネシウム含有量が最初30重量%から50重量%のマグネシウムである亜鉛ベースの金属合金の浴を蒸発させることによって前記基材上に連続的に蒸着され、前記最初の含有量は蒸着中一定に保たれる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
金属合金層が、厚さ0.1から20μmで蒸着される、請求項1および2のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項4】
前記基材(S)が金属ストリップである、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記金属ストリップが鋼ストリップである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記金属ストリップが焼付硬化性の鋼で作製されている、請求項4または5に記載のプロセス。
【請求項7】
少なくとも2種の金属元素を含む金属合金から形成されるコーティングを走行基材(S)上に連続的に蒸着させるための真空蒸着装置(1)であって、真空蒸着チャンバ(2)と、このチャンバ(2)を通して前記基材(S)を走行させるための手段とを備え、前記装置(1)はさらに、音速蒸気ジェットコータ(7)と、前記少なくとも2種の金属元素を所定および一定の比率で含む蒸気を前記コータ(7)に供給するための手段と、前記コータ(7)に供給する前記金属元素を含む金属合金浴を蒸発させるための手段(3)と、金属合金浴の組成を調節し、時間が経っても一定に保つことを可能にするための手段をさらに備え、
前記金属合金浴の組成を調節するための手段が、制御された組成の溶融金属合金を蒸発手段(3)に供給する手段を備え、
前記蒸発手段(3)が誘導加熱手段が設けられている蒸発るつぼ(3)で構成され、制御された組成の溶融金属合金を前記蒸発るつぼ(3)に供給するための前記手段が、金属インゴット供給手段に接続され加熱システムが設けられている再充填式炉(5)を備え、前記再充填式炉(5)が供給対象の蒸発るつぼ(3)に接続されており、
前記再充填式炉(5)に前記蒸発るつぼ(3)を接続する再循環パイプ(6)の形で、浴を連続的に循環させるための手段をさらに含み、
前記蒸発るつぼ(3)が前記真空チャンバ(2)内に設置され、前記再充填式炉(5)が前記真空チャンバ(2)の外に設置されている前記装置(1)
【請求項8】
少なくとも2種の金属元素を含む金属合金から形成されるコーティングを走行基材(S)上に連続的に蒸着させるための真空蒸着装置(11)であって、真空蒸着チャンバ(12)と、このチャンバ(12)を通して前記基材(S)を走行させるための手段とを備え、前記装置(11)はさらに、音速蒸気ジェットコータ(17)と、前記少なくとも2種の金属元素を所定および一定の比率で含む蒸気を前記コータ(17)に供給するための手段と、前記コータ(17)に供給する前記金属元素を含む金属合金浴を蒸発させるための手段(13)と、金属合金浴の組成を調節し、時間が経っても一定に保つことを可能にするための手段をさらに備え、
前記金属合金浴の組成を調節するための手段が、制御された組成の溶融金属合金を蒸発手段(13)に供給する手段を備え、
前記蒸発手段(13)が誘導加熱手段が設けられている蒸発るつぼ(13)で構成され、制御された組成の溶融金属合金を前記蒸発るつぼ(13)に供給するための前記手段が、金属インゴット供給手段に接続され加熱システムが設けられている再充填式炉(15)を備え、前記再充填式炉(15)が供給対象の蒸発るつぼ(13)に接続されており、
前記再充填式炉(15)と前記蒸発るつぼ(13)とが並べて設置され、金属合金浴の高さよりも下方であるが前記炉(15)および前記るつぼ(13)の底部よりも上方に位置する少なくとも1つの開口部(19)によって穿孔されている共通壁(16)を有する前記装置(11)
【請求項9】
前記蒸発るつぼ(13)が密閉チャンバ(18)内に設置され、前記再充填式炉(15)が前記密閉チャンバ(18)の外に設置される、請求項8に記載の装置(11)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材を連続的にコーティングするためのプロセスおよび、たとえば亜鉛−マグネシウム合金などの金属合金から形成されるコーティング用の真空蒸着装置に関する。上記プロセスは、特に鋼ストリップのコーティングを対象としているが、決してこれに限定されることはない。
【背景技術】
【0002】
鋼ストリップなどの基材上に合金で構成される金属コーティングを蒸着させるための様々なプロセスが知られている。これらの中でも、溶融めっきコーティングと、電着と、また真空蒸発やマグネトロンスパッタリングなど様々な真空蒸着法とに言及することができる。
【0003】
したがって、基材をコーティングする前に2種の元素の蒸気が互いに混合されるようにチャンバ内の2種の元素を同時に蒸発させることにある、国際公開第02/06558号パンフレットに記載されている真空蒸着法が知られている。
【0004】
しかしながら、このプロセスの工業的実施は困難で、長い基材長にわたって安定したコーティング組成を保証しなければならない製造には考えられない。
【0005】
合金の構成元素それぞれの層を基材上に連続して蒸着させ、その後拡散熱処理を行い、結果として可能な最も均一な組成を有する合金層を形成することも可能である。したがって、特に、純亜鉛または他の亜鉛合金のコーティングの代わりに有利に使用することができる亜鉛−マグネシウムコーティングを製造することができる。
【0006】
元素それぞれのこの連続蒸着は、特に、欧州特許第730045号明細書に記載されているように別個のるつぼの中に入れられた各元素の真空同時蒸着によって行うことができるが、従来の溶融めっき法によって別の元素のプレコーティングが施されているストリップ上への元素の真空蒸着によって行うこともできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
後に続く拡散熱処理は、熱処理中の高温におけるコーティングの酸化を防ぐために多量の不活性ガスの使用を伴うため、複雑で高価であると判明することがある。さらに、マグネシウムコーティングと拡散処理の開始との間における酸化の危険性を回避するために、外気にストリップをさらすことなく2つの工程を、一方の工程の直後に他方の工程を行うことが必要である。
【0008】
この熱処理は、過度に大きな温度上昇に適合しない一部の材料の場合に、問題を引き起こすこともある。材料の使用者によってストリップが形成される前に沈殿してはならない炭素を固溶体で多量に含有する焼付硬化性の鋼ストリップに、特に言及することができる。
【0009】
さらには、このタイプのプロセスにおいては、時間が経っても各層の厚さを非常に正確に制御することが必要であるため、長い基材長にわたって一定の組成のコーティングを得ることは非常に手際を要する。
【0010】
最後に、拡散処理により確かに合金の形成が可能となるが、基材からコーティングへと元素が拡散してしまい、したがって基材との界面が汚染されてしまうことがある。
【0011】
したがって、本発明の目的は、金属合金から形成されるコーティングを蒸着させるための真空蒸着装置および、また金属合金層で覆われる金属ストリップを作製するためのプロセスを提供することによって、先行技術のプロセスおよび装置の欠点を改善することである。真空蒸着装置およびプロセスにより、わずかなステップで簡単な工業的実施が可能となるが、様々なタイプの基材上に一定組成のコーティングを得ることも可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、本発明の第1の対象は、基材をコーティングするためのプロセスで構成される。このプロセスでは、少なくとも2種の金属元素を含む金属合金層が、一定および所定の相対含有量の上記少なくとも2種の金属元素を含有する蒸気を用いて、基材に吹き付けるための蒸気ジェットコータを備える真空蒸着装置によって音速で上記基材上に連続的に蒸着される。上記蒸気が、所定の初期含有量の上記金属元素を含有する金属合金浴を蒸発させることによって得られ、浴の上記初期含有量が蒸着中一定に保たれる。
【0013】
本発明によるプロセスは、以下のような様々な特徴を単独で、または組み合わせて備え得る:
金属元素が亜鉛およびマグネシウムである、
金属合金層が、鉄−亜鉛金属間相を含まない、
金属合金層が、主にZnMg相で構成されている、
所定のマグネシウム含有量が4重量%から20重量%である亜鉛ベースの金属合金層が、所定のマグネシウム含有量が最初30重量%から55重量%のマグネシウムである亜鉛ベースの金属合金の浴を蒸発させることによって基材上に連続的に蒸着され、最初の含有量は蒸着中一定に保たれる、
所定のマグネシウム含有量が4重量%から18重量%である亜鉛ベースの金属合金層が、所定のマグネシウム含有量が最初30重量%から50重量%のマグネシウムである亜鉛ベースの金属合金の浴を蒸発させることによって基材上に連続的に蒸着され、最初の含有量は蒸着中一定に保たれる、
金属元素の蒸発温度が、選択された蒸発圧力において大きくても100℃しか異ならない、
金属合金層が、厚さ0.1から20μmで蒸着される、
基材が金属ストリップ、好ましくは鋼ストリップである、
金属ストリップが、焼付硬化性の鋼で作製されている、
金属合金層が、主にZnMg相で構成されている。
【0014】
本発明の第2の対象は、少なくとも2種の金属元素を含む金属合金から形成されるコーティングを走行基材上に連続的に蒸着させるための真空蒸着装置で構成され、この真空蒸着装置は、真空蒸着チャンバと、このチャンバを通して基材を走行させるための手段とを備え、この装置はさらに:
音速蒸気ジェットコータと、
上記少なくとも2種の金属元素を所定および一定の比率で含む蒸気を上記コータに供給するための手段と、
上記コータに供給する、上記金属元素を含む金属合金浴を蒸発させるための手段と、
金属合金浴の組成を調節し、時間が経っても一定に保つことを可能にするための手段とをさらに備える。
【0015】
本発明による装置は、以下の変形形態を単独で、または組み合わせて備えることもできる:
金属合金浴の組成を調節するための手段が、制御された組成の溶融金属合金を蒸発手段に供給する手段を備える、
蒸発手段が、加熱手段が設けられている蒸発るつぼで構成され、制御された組成の溶融金属合金を上記蒸発るつぼに供給するための上記手段が、金属インゴット供給手段に接続され加熱システムが設けられている再充填式炉を備え、上記再充填式炉が、供給対象の蒸発るつぼに接続されている、
装置が、再充填式炉に蒸発るつぼを接続する再循環パイプの形で、浴を連続的に循環させるための手段をさらに備える、
蒸発るつぼが真空チャンバ内に設置され、再充填式炉が真空チャンバの外に設置される、
再充填式炉と蒸発るつぼとが並べて設置され、金属合金浴の高さよりも下方であるが炉およびるつぼの底部よりも上方に位置する少なくとも1つの開口部によって穿孔されている共通壁を有する、
蒸発るつぼが密閉チャンバ内に設置され、再充填式炉が密閉チャンバの外に設置される。
【0016】
本発明の第3の対象は、30から55重量%、好ましくは30から50重量%のマグネシウムを含有する亜鉛系の、本発明によるプロセスを実施するために、または本発明による装置において使用することができるインゴットで構成される。
【0017】
本発明は、音速蒸気ジェットコーティング法によって基材上に所与の組成の金属合金を蒸着させることにある。
【0018】
閉じた蒸発るつぼと蒸着チャンバとの間に生じる圧力差のおかげで、狭いスロットを通して、場合によっては音速の金属蒸気ジェットを生成することが可能である。このタイプの装置の詳細についてのより詳しい説明については、国際公開第97/47782号パンフレットを読者は参照することができる。
【0019】
JVD(Jet Vapor Deposition)装置に供給する蒸気は、合金自体の浴の直接真空蒸発から生じ、浴の組成は時間が経っても一定に保たれる。
【0020】
ここで、マグネシウムを含有する亜鉛ベース合金の例を挙げる。これらの2種の元素それぞれの蒸気圧は互いに異なる。そのため、蒸着される層の組成は、蒸着用の原材料として使用されるインゴットの組成と同じではなくなる。したがって、x軸にプロットされている浴中のマグネシウム含有量wt%に応じてy軸にプロットされているコーティング中のマグネシウム含有量wt%を示す図1からわかるように、コーティング中に16%のマグネシウム含有量を得るためには、金属浴中に48%のマグネシウムを有することが必要である。
【0021】
合金元素の蒸気圧のこの差により、蒸着に使用される合金浴の組成、実際には、対応する蒸気フラックスは時間が経つと変化し、亜鉛−マグネシウムの場合には、マグネシウムの濃縮が進行する。
【0022】
時間が経っても蒸発フラックスの組成を一定に保つためには、工業的実施の背景においてこのタイプのコーティングを蒸着させることができることが望まれる場合に浴の組成を一定に保つことを可能にする装置を提供することが必要である。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、ほんの一例として与えられている以下の詳細な説明を添付の図面を参照して読むと、明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】蒸着前の液体金属浴中のマグネシウム含有量wt%に応じてZnMgコーティング中のマグネシウム含有量wt%を示す図である。
図2】本発明による装置の第1の実施形態を示す図である。
図3】本発明による装置の第2の実施形態を示す図である。
図4】冷間圧延低炭素鋼上に蒸着されたZnMg合金の5μmコーティングの微細構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明は、マグネシウムを含有する亜鉛合金のコーティングについて言及しているが、本発明による装置はこれに限定されず、金属合金系の他の多くのコーティングを蒸着させることが可能であることは一目瞭然である。
【0026】
本発明による装置の第1の実施形態が図2により詳細に示してある。図2は、真空蒸着チャンバ2を備える装置1を示す。このチャンバ2は、好ましくは10−8から10−4バールの圧力に保たれる。このチャンバ2は、入口ロードロックおよび出口ロードロック(これらは図示せず)を有し、それらの間にたとえば鋼ストリップなどの基材Sが走行する。
【0027】
基材Sは、上記基材の性質および形状に応じて、任意の適切な手段によって走行させることができる。鋼ストリップを支承することができる回転支持ローラを、特に使用することができる。
【0028】
コーティングしなければならない基材Sの面に対向して、その長さがコーティングしようとする基材の幅に近い狭いスロットが設けられた小さい抽出チャンバ7が設置されている。このチャンバは、たとえば黒鉛で作製することができ、基材S上に蒸着させようとする液体金属が入っている蒸発るつぼ3上に直接、またはそれ以外のプロセスで取り付けることができる。蒸発るつぼ3には、抽出チャンバ7の下方に設置され常圧にある溶解炉5に接続されているパイプ4を介して液体金属が連続的に再充填される。オーバーフローパイプ6も、再充填式炉5に直接蒸発るつぼ3を接続する。要素3、4、5および6は、金属蒸気が凝縮しないように、または金属がそれら要素それぞれの壁面で凝固しないように十分に高い温度まで加熱される。
【0029】
蒸発るつぼ3および液体金属再充填式炉5には、有利には金属合金浴の撹拌および組成均一化を容易にする利点を有する誘導加熱器(図示せず)が設けられている。
【0030】
装置1を操作することが望ましい場合には、基材上に蒸着させたい金属合金の組成がまず決定され、その後、目的とするコーティングの組成を有する蒸気を浴と平衡状態で得るための、この浴の組成を決定する。この正確な組成を有する金属合金のインゴットLが生成され、その後再充填式炉5に連続的に導入される。
【0031】
インゴットLが溶融したら、蒸発るつぼ3およびパイプ6が加熱され、その後蒸発るつぼ3中で真空が作り出される。次いで、再充填式炉に含まれる液体金属が蒸発るつぼ3を満たす。装置の動作中、蒸発るつぼ3と再充電式炉5との間の高さを調節することによって、または液体金属ポンプPを作動させることによって、蒸発るつぼ3中で液体金属のレベルが一定に維持される。オーバーフローパイプ6に取り付けられている循環ポンプ(図示せず)により、一定時間後に金属の蒸発速度を大幅に低減させることになる不純物の蓄積を最小限に抑えるように、蒸発るつぼ3中に液体金属を永続的に補充することが可能となる。
【0032】
したがって、浴は連続的に補充されるため、基材をコーティングするために必要となる材料の量を最小限に抑えながらも、任意の時点で常に所要の組成を有する。
【0033】
蒸発るつぼ3それ自体には、蒸気を生じさせ、また走行する基材S上に音速の蒸気ジェットを吹き付ける抽出チャンバ7で構成されるJVDコータに供給することを可能にする加熱手段が設けられている。
【0034】
驚くべきことに、基材上に音速の金属蒸気ジェットを吹き付けることにより、元素AとBとがナノスケールで混合されているAB合金のコーティングを得ることが可能となることがわかっている。この結果は耐食性の点で極めて重要であり、この場合、AB合金コーティングの表面に、このコーティングが液体凝縮物と接触している場合にはミクロセルは生じないためである。
【0035】
音速ジェット出口オリフィスは、たとえば縦方向および横方向に蒸発範囲を調節することができるスロットなど、任意の適切な形状を有することができる。したがって、このプロセスにより、広範囲におよぶ蒸着金属表面温度、したがって広範囲におよぶ蒸発速度内に音波ジェットを維持するように蒸気出口オリフィスの幅を容易に適合させることが可能となる。さらに、コーティングしようとする基材の幅に対してその長さを適合させる可能性により、蒸着金属の損失を最小限に抑えることが可能となる。
【0036】
図3に示すような第2の実施形態においては、装置11が、チャンバ2と類似の真空蒸着チャンバ12を備える。蒸発るつぼ13が真空チャンバ12の下に設置され、パイプ14を介して真空チャンバ12に接続されている。
【0037】
再充填式炉15が蒸発るつぼ13沿いに設置され、2つの構成部品は、再充填式炉15の底に沈殿する任意の不純物が蒸発るつぼ13に導入されることを防止するように、金属合金浴の高さよりも下方であるがこれらの構成部品の底部よりも上方に設置されている連通開口部19によって穿孔されている共通壁16を共有する。
【0038】
蒸発るつぼ13はさらに、真空チャンバ12の外に設置されている密閉チャンバ18内に設置される。
【0039】
パイプ14は、コータ7と類似のJVDコータ17に供給する。
【0040】
以前と同様にして、基材上に得たいコーティングの組成がまず決定され、次いで、蒸発るつぼ13中に存在しなければならない金属浴の組成、したがって再充填式炉15に供給されなければならない金属インゴットLの組成からこれが推定される。
【0041】
誘導加熱システムが設けられている再充填式炉15内にインゴットが設置される。インゴットが溶融するにつれて、金属合金が再充填式炉15から開口部19を経由して蒸発るつぼ13へと渡る。蒸発るつぼ13それ自体に、所要の組成を有する金属合金蒸気を生成することを可能にする誘導加熱システムが設けられている。この蒸気はその後、蒸気流量を調節するためのバルブVが有利に設けられているパイプ14を経由してJVDコータ17へと運ばれる。
【0042】
再充填式炉と蒸発るつぼ13との間に連通開口部19を有すると、蒸発るつぼ13に供給するだけでなく、これらの2つの構成部品間に一定の循環をもたらすことが可能であり、それにより蒸発るつぼ13に入っている浴中のすべての点で一定の組成が確実に維持される。
【0043】
本発明によるプロセスは特に、プレコーティングが施されていても素肌のままでも金属ストリップの処理に適用するが、これに限らない。もちろん、本発明によるプロセスは、たとえばアルミニウムストリップ、ガラスストリップ、セラミックストリップなど、任意のコーティングが施されているまたは施されていない基材に使用することができる。
【0044】
プロセスは特に、引抜き加工または他の任意の適切なプロセスによって鋼が形成される前に沈殿してはならない炭素を固溶体で多量に含有する焼付硬化性の鋼ストリップなど、拡散熱処理中に特性の劣化を被りやすい基材に適用されることになる。したがって、本発明によるプロセスを実施することによって、金属合金蒸着を大部分の冶金と適合させることが可能となる。
【0045】
目的は、特に亜鉛−マグネシウムコーティングを得ることである。しかしながら、プロセスはこれらのコーティングに限定されず、好ましくはその元素の蒸発温度が大きくても100℃しか違わない金属合金系の任意のコーティングを包含する。その場合それら元素それぞれの相対含有量を制御することが容易となるためである。
【0046】
したがって、目安を言うと、亜鉛と、クロム、ニッケル、チタン、マンガン、アルミニウムなど他の元素とで作製されるコーティングに言及することができる。
【0047】
さらに、本発明によるプロセスおよび装置は、特に二元金属合金の蒸着を対象としているが、Zn−Mg−Alなどの三元金属元素の蒸着に、またはたとえばZn−Mg−Al−Siなどの四元合金の蒸着に本発明によるプロセスおよび装置を適応させることができることは言うまでもない。
【0048】
亜鉛−マグネシウム蒸着の場合、コーティングの厚さは好ましくは0.1から20μmとなる。これは、0.1μmを下回ると、基材の防食が不十分となる危険性があるからである。コーティングの厚さは20μmを超えない。これは、特に自動車または建設の分野において必要とされるレベルの耐食性をもたらすためにこの厚さを超える必要がないためである。一般に、自動車用途では、厚さを5μmに限定することができる。
【0049】
このプロセスによる蒸着は、10m/分で走行するライン上で蒸着させることができる高い蒸着速度の5μmのZnMg合金コーティングを、ジェットの目標とする向きのおかげで98%を超える材料歩留りで実現することを可能にすることが、工業的試験を行うことによってわかった。さらに、得られたコーティング層の密度は、より高い蒸気エネルギーにより優れている。したがって、図4は、冷間圧延低炭素鋼上に蒸着された5μmのZnMg合金コーティングの微細構造を示す。
図1
図2
図3
図4