特許第5873634号(P5873634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873634
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】電着塗装装置及び電着塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/00 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   C25D13/00 C
   C25D13/00 304
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-3384(P2011-3384)
(22)【出願日】2011年1月11日
(65)【公開番号】特開2012-144769(P2012-144769A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 章嗣
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−285411(JP,A)
【文献】 特開2003−013286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 9/00− 9/12
C25D13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着槽に満たされた電着液に被塗布物を浸漬して、前記被塗布物を前記電着槽内で搬送しながら電着塗装可能な電着塗装装置であって、
前記電着槽内で前記電着液を攪拌可能な攪拌手段と、を備え、
前記攪拌手段は、前記被塗布物に対し前記電着液を吐出する複数の吐出部をそれぞれ有する第1及び第2循環系を少なくとも備え、
前記第1循環系の吐出部は前記電着槽の一方の側面に沿って設けられ、前記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して第1鋭角をなす方向に前記電着液を吐出する一方、前記第2循環系の吐出部は前記電着槽の他方の側面に沿って設けられ、前記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して前記第1鋭角より大きい第2鋭角をなす方向に前記第1循環系より高出力で前記電着液を吐出して、前記電着槽の前記一方の側面側での前記電着液の撹拌を促進すること、
を特徴とする電着塗装装置。
【請求項2】
前記第1及び第2循環系は、夫々、複数のノズルを具備して構成され
これら第1及び第2循環系の複数のノズルは、前記被塗布物の搬送方向に沿って互いに交互に配設されたこと、
を特徴とする請求項1記載の電着塗装装置。
【請求項3】
記第1循環系の吐出部近傍には、前記電着槽内の前記電着液を吸い込み可能な第3循環系が配設されたこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の電着塗装装置。
【請求項4】
記第1循環系は、前記被塗布物の搬送方向を軸にして、10°から40°の間で吐出可能となるように配設されたこと、
を特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の電着塗装装置。
【請求項5】
前記第2循環系は、前記被塗布物の搬送方向を軸にして、50°から80°の間で吐出可能となるように配設されたこと、
を特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の電着塗装装置。
【請求項6】
電着槽に満たされた電着液に被塗布物を浸漬し、
前記電着槽内で前記被塗布物を搬送しながら前記電着液を塗布する電着塗装方法であって、
前記電着槽内で前記電着液を撹拌手段により撹拌し、
前記撹拌手段を構成する複数の吐出部をそれぞれ有する第1及び第2循環系により前記被塗布物の搬送方向に対向する方向に向かって前記電着液を吐出し、
前記電着槽の前記被塗布物の一方の側面に沿って設けられた前記第1循環系の吐出部は前記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して第1鋭角をなす方向に前記電着液を吐出する一方、前記電着槽の他方の側面に沿って設けられた前記第2循環系の吐出部は前記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して前記第1鋭角より大きい第2鋭角をなす方向に前記第1循環系より高出力で前記電着液を吐出して、前記電着槽の前記一方の側面側での前記電着液の撹拌を促進すること、
を特徴とする電着塗装方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装装置及び電着塗装方法に関し、特に、電着槽内で電着液を撹拌することで、被塗布物への異物の付着を抑制することが可能な電着塗装装置及び電着塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電着塗装装置及び電着塗装方法は、電着槽内で電着液を撹拌する技術に関し、ノズルにより電着槽内に電着液を吐出することで、電着槽内で電着液の流れを作り、電着槽の一端部側から他端部側に亘って槽全体で撹拌している。
【0003】
このように電着槽内で電着液を攪拌可能なものとして、例えば、特許文献1には、電着槽内で電着液を車両の搬送方向に対して同方向に還流させる、いわゆる、順流回転攪拌方式といわれる表面処理装置が開示されている。
【0004】
一方、上記特許文献1の順流回転撹拌方式に対し、例えば、特許文献2には、電着槽内で電着液を車両の搬送方向に対向させる、すなわち、反対方向に還流させる、いわゆる、対向流回転撹拌方式といわれる浸浸型表面処理装置及び浸浸型表面処理方法が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、電着槽内での車両の搬送方向に対して反対方向に還流させるととともに、電着液をスパイラル状或いは螺旋状に撹拌させる電着塗装方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−20094号公報
【特許文献2】特開2002−206195号公報
【特許文献3】特開2010−47789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1は、車両の搬送方向と電着液の流れとが同じ方向に向かっているため、車両に対する電着液の相対速度が小さくなる。このため、上記特許文献1では、車両に対する電着液の撹拌効果を低減させてしまう。
【0008】
これにより、上記特許文献1では、車両に異物(被塗布物に予め付着していた鉄粉等の塵)が付着したまま、電着塗装してしまい、外観上の仕上がりに悪影響を与えてしまう技術的課題がある。
【0009】
一方、上記特許文献2は、上記特許文献1とは異なり、車両の搬送方向と電着液の流れとが反対となっているため、車両に対する電着液の相対速度が大きくなる。このため、上記特許文献2は、車両に対する電着液の撹拌効果を高めている。
【0010】
また、上記特許文献3も、上記特許文献2と同様に、車両に対する電着液の相対速度が大きくなるとともに、電着液をスパイラル状或いは螺旋状に撹拌させることで、上記特許文献2よりも車両に対する電着液の撹拌効果を高めている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献2及び3では、上述したように、車両に対する電着液の相対速度を大きくすることで、車両に対する電着液の撹拌効果を高めているものの、次車両或いは後方の車両に、前方の車両から排出された異物が降りかかってしまう可能性がある。
【0012】
このように、上記特許文献2及び3では、次車両或いは後方の車両に前方の車両から排出された異物が降りかかることで、異物が付着してしまい、複数の車両を連続的に電着槽に搬入して行う電着工程の生産性を向上させることについては改良の余地がある。
【0013】
本発明の目的は、上記従来の実状に鑑みて、次車両或いは後方の車両への異物の付着を抑制することで、複数の車両を連続的に電着槽に搬入して行う電着工程の生産性を向上せることが可能な電着塗装装置及び電着塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を解決するために、本発明に係る電着塗装装置は、電着槽に満たされた電着液に被塗布物を浸漬して、上記被塗布物を上記電着槽内で搬送しながら電着塗装可能なものであって、上記電着槽内で上記電着液を攪拌可能な攪拌手段と、を備え、上記攪拌手段は、上記被塗布物に対し上記電着液を吐出する複数の吐出部をそれぞれ有する第1及び第2循環系を少なくとも備え、上記第1循環系の吐出部は上記電着槽の一方の側面に沿って設けられ、上記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して第1鋭角をなす方向に上記電着液を吐出する一方、上記第2循環系の吐出部は上記電着槽の他方の側面に沿って設けられ、上記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して上記第1鋭角より大きい第2鋭角をなす方向に上記第1循環系より高出力で上記電着液を吐出して、上記電着槽の上記一方の側面側での上記電着液の撹拌を促進する。
【0016】
また、本発明に係る電着塗装装置は、上記第1及び第2循環系が、夫々、複数のノズルを具備して構成され、これら第1及び第2循環系の複数のノズルは、上記被塗布物の搬送方向に沿って互いに交互に配設されて構成されている。
【0017】
また、本発明に係る電着塗装装置は、上記第1循環系の吐出部近傍には、上記電着槽内の上記電着液を吸い込み可能な第3循環系が配設されて構成されている。
【0018】
また、本発明に係る電着塗装装置は、上記第1循環系が、上記被塗布物の搬送方向を軸にして、10°から40°の間で吐出可能となるように配設されて構成されている。
【0019】
また、本発明に係る電着塗装装置は、上記第1循環系が、上記被塗布物の搬送方向を軸にして、50°から80°の間で吐出可能となるように配設されて構成されている。
【0020】
このような課題を解決するために、本発明に係る電着塗装方法は、電着槽に満たされた電着液に被塗布物を浸漬し、上記電着槽内で上記被塗布物を搬送しながら上記電着液を塗布し、上記電着槽内で上記電着液を撹拌手段により撹拌し、上記撹拌手段を構成する複数の吐出部をそれぞれ有する第1及び第2循環系により上記被塗布物の搬送方向に対向する方向に向かって上記電着液を吐出し、上記電着槽の上記被塗布物の一方の側面に沿って設けられた上記第1循環系の吐出部は上記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して第1鋭角をなす方向に上記電着液を吐出する一方、上記電着槽の他方の側面に沿って設けられた上記第2循環系の吐出部は上記被塗布物の搬送方向と反対方向に対して上記第1鋭角より大きい第2鋭角をなす方向に上記第1循環系より高出力で上記電着液を吐出して、上記電着槽の上記一方の側面側での上記電着液の撹拌を促進する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電着塗装装置及び電着塗装方法によれば、次車両或いは後方の車両への異物の付着を抑制することで、複数の車両を連続的に電着槽に搬入して行う電着工程の生産性を向上せることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】本発明の一実施の形態である電着塗装装置の構成について、上方から模式的に示す平面図である。
図1B】本発明の一実施の形態である電着塗装装置の構成について、車両の搬送方向に対し、左方側から模式的に示す左方側面図である。
図1C】本発明の一実施の形態である電着塗装装置の構成について、車両の搬送方向に対し、右方側から模式的に示す右方側面部である。
図2図1AにおけるA部を拡大して示す拡大平面図である。
図3A】本発明の一実施の形態である電着塗装装置による電着槽内での電着液の流れを電着塗装装置の上方から模式的に示す平面図である。
図3B】本発明の一実施の形態である電着塗装装置による電着槽内での電着液の流れを電着塗装装置の側方から模式的に示す側方図である。
図4図3AにおけるB部を拡大した示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態の電着塗装装置100について、図を用いて説明する。まず、本発明の一実施の形態である電着塗装装置100の構成について、図1A図1B及び図1Cを用いて説明する。
【0025】
図1Aは、本発明の一実施の形態である電着塗装装置100の構成について、上方から模式的に示す平面図であり、図1Bは、本発明の一実施の形態である電着塗装装置100の構成について、車両99の搬送方向に対し、左方側から模式的に示す左方側面図であり、図1Cは、本発明の一実施の形態である電着塗装装置100の構成について、車両99の搬送方向に対し、右方側から模式的に示す右方側面図である。
【0026】
図1A図1B及び図1Cに例示されるように、本実施の形態の電着塗装装置100は、この電着塗装装置100の主たる構成である電着槽101内に電着液を満たして構成されている。
【0027】
この電着槽101は、上述したように、電着液を満たして構成されており、車両99の搬送方向を基準にして、前側面部102、底面部103、右側面部104、左側面部105及び後側面部106からなる船型をなして構成されている。
【0028】
この電着槽101を構成する前側面部102の近傍には、第1ポンプ107が配設されている。この第1ポンプ107は、後述する第2ライン116を介して電着槽101内の電着液を吸い込む役目を果たしている。
【0029】
そして、第1ポンプ107には、第1フィルター108が連設されている。すなわち、第1ポンプ107は、電着槽101内の電着液を吸い込んで、第1フィルター108に送っている。
【0030】
この第1フィルター108には、第1ライン109が配設されている。すなわち、第1ポンプ107により送り込まれた電着液は、第1フィルター108により電着液に混入している異物がろ過され、第1ライン109に送り込まれている。
【0031】
また、電着槽101を構成する後側面部106の近傍には、第2ポンプ110が配設されている。この第2ポンプ110は、第1ポンプ107と同様に、後述する第2ライン116を介して電着槽101内の電着液を吸い込む役目を果たしている。
【0032】
そして、第2ポンプ110には、第2フィルター111が連設されている。すなわち、第2ポンプ110は、第1ポンプ107と同様に、電着槽101内の電着液を吸い込んで、第2フィルター111に送っている。
【0033】
この第2フィルター111には、第1フィルター108と同様に、第1ライン109が配設されている。すなわち、第2ポンプ110により送り込まれた電着液は、第2フィルター111により電着液に混入している異物がろ過され、第1ライン109に送り込まれている。
【0034】
また、電着槽101を構成する底面部103には、底面循環系112が配設されている。この底面循環系112は、第1ライン109に連設されている。すなわち、底面循環系112には、第1フィルター108及び第2フィルター111によりろ過された電着液が第1ライン109を介して送り込まれている。
【0035】
そして、底面循環系112は、複数のノズル112aからノズル112kにより構成されている。これら複数のノズル112aからノズル112kは、何れも、車両99の搬送方向に向かって電着液を吐出可能となるように配設されている。
【0036】
このように、電着槽101の底面部103に配設された底面循環系112が車両99の搬送方向に向かって電着液を吐出可能となるように配設されているため、車両99の底面側では、電着液の順流が形成される。
【0037】
また、電着槽101を構成する右側面部104には、右側面循環系113(第1循環系)が配設されている。この右側面循環系113は、底面循環系112と同様に、第1ライン109に連設されている。
【0038】
すなわち、右側面循環系113には、底面循環系112と同様に、第1フィルター108及び第2フィルター111によりろ過された電着液が第1ライン109を介して送り込まれている。
【0039】
そして、右側面循環系113は、底面循環系112と同様に、複数のノズル113aからノズル113gにより構成されている。これら複数のノズル113aからノズル113gは、何れも車両99の搬送方向に対向して電着液を吐出可能となるように配設されている。
【0040】
また、電着槽101を構成する左側面部105には、左側面循環系114(第2循環系)が配設されている。この左側面循環系114は、底面循環系112及び右側面循環系113と同様に、第1ライン109に連設されている。
【0041】
すなわち、左側面循環系114には、底面循環系112及び右側面循環系113と同様に、第1フィルター108及び第2フィルター111によりろ過された電着液が第1ライン109を介して送り込まれている。
【0042】
そして、左側面循環系114は、底面循環系112及び右側面循環系113と同様に、複数のノズル114aからノズル114gにより構成されている。これら複数のノズル114aからノズル114gは、右側面循環系113の複数のノズル113aからノズル113gと同様に、何れも車両99の搬送方向に対向して電着液を吐出可能となるように配設されている。
【0043】
このように、電着槽101の右側面部104及び左側面部105に配設された右側面循環系113及び左側面循環系114が車両99の搬送方向に対向して電着液を吐出可能となるように配設されているため、車両99の側面側及び上面側では、電着液の対向流が形成される。
【0044】
以上のように、本実施の形態の電着塗装装置100は、第1ポンプ107、第1フィルター108、第1ライン109、第2ポンプ110、第2フィルター111、底面循環系112、右側面循環系113、左側面循環系114、後述する吸込循環系115(第3循環系)及び後述する第2ライン116により電着液を循環させている。すなわち、本実施の形態の電着塗装装置100は、電着液を循環させることで、電着液の再利用を図っている。
【0045】
また、本実施の形態の電着塗装装置100は、底面循環系112、右側面循環系113及び左側面循環系114により電着槽101内での電着液の撹拌を可能にしている。そして、これら右側面循環系113及び左側面循環系114は、車両99の側面側及び上面側で対向流を形成している。
【0046】
このため、電着塗装装置100は、車両99の側面側及び上面側で、この車両99に対する電着液の相対速度を大きくすることが可能になる。これにより、電着塗装装置100は、右側面循環系113及び左側面循環系114により車両99に対する撹拌効果を高めることが可能になる。
【0047】
ここで、本実施の形態の右側面循環系113及び左側面循環系114は、上述したように、車両99の側面側及び上面側で、電着液の対向流を形成しているが、これに加えて、車両99の一方の側面側から他方の側面側への流れが形成されている。
【0048】
以下、本実施の形態の右側面循環系113及び左側面循環系114の構成について、図2を用いて説明する。図2は、図1AにおけるA部を拡大して示す拡大平面図である。本実施の形態において、右側面循環系113及び左側面循環系114は、互いに異なる出力で電着液を吐出している。
【0049】
具体的には、右側面循環系113は、左側面循環系114よりも低出力で電着液を吐出している。これにより、電着槽101内における車両99の側面側及び上面側で撹拌されている電着液は、車両99の搬送方向に対向して流れるとともに、左側面部105側から右側面部104側に向かって流れている。
【0050】
また、右側面循環系113及び左側面循環系114は、車両99側に向かって互いに異なる角度で電着液を吐出している。具体的には、右側面循環系113は、右側面部104から10°から40°の間で車両99側に向かって延出して配設されている(図2におけるθ1。)。すなわち、右側面循環系113は、右側面部104から45°よりも小さい角度で車両99側に向かって延出して配設されている。このため、右側面循環系113は、電着槽101内の電着液の車両99の後方側への攪拌を促進している。
【0051】
一方、左側面循環系114は、左側面部105から50°から80°の間で車両99側に向かって延出して配設されている(図2におけるθ2.)。すなわち、左側面循環系114は、左側面部105から45°よりも大きい角度で車両99側に向かって延出して配設されている。このため、左側面循環系114は、電着槽101内の電着液の右側面部104側への攪拌を促進している。
【0052】
このように、右側面循環系113は、電着液の車両の後方側への攪拌を促進しており、左側面循環系114は、電着液の車両99の側方側への攪拌を促進しているため、電着槽101内における車両99の右側面側での電着液の撹拌を促進している。
【0053】
そして、右側面循環系113は、上述したように、左側面循環系114よりも低出力で電着液を吐出しているため、電着槽101内における車両99の右側面側での電着液の撹拌を促進している。
【0054】
また、本実施の形態において、右側面循環系113の最も上流側に位置するノズル113gは、左側面循環系114の最も上流側に位置するノズル114gよりも上流側に配設されている。
【0055】
これに対し、左側面循環系114のノズル114gの方が右側面循環系113のノズル113gよりも上流側に配設された場合、ノズル114gにより右側面部104側に吐出された電着液が電着槽101の後方側に撹拌されない可能性が考えられる。
【0056】
したがって、右側面循環系113のノズル113gが、左側面循環系114のノズル114gよりも上流側に配設されているため、左側面循環系114のノズル114gにより右側面部104側に吐出された電着液を電着槽101の後方側に撹拌することが可能になる。
【0057】
そして、右側面循環系113のノズル113aからノズル113gは、略等間隔で配設されている。また、左側面循環系114のノズル114aからノズル114gも、略等間隔で配設されている。すなわち、これら右側面循環系113のノズル113aからノズル113gと左側面循環系114のノズル114aからノズル114gとは、車両99の搬送方向に沿って互いに交互となるように配設されている。
【0058】
このように、右側面循環系113のノズル113aからノズル113gと左側面循環系114のノズル114aからノズル114gとが、車両99の搬送方向に沿って互いに交互に配設されているため、左側面循環系114の各ノズルにより右側面部104側に撹拌された電着液を、右側面循環系113の各ノズルにより電着槽101の後方側に撹拌することが可能になる。
【0059】
したがって、本実施の形態の電着塗装装置100は、電着槽101内で対向流を維持しながら、車両99の右側面側での電着液の撹拌を促進している。これにより、本実施の形態の電着塗装装置100によれば、車両99cから排出した異物が次の車両99bに降りかかり難くなる。
【0060】
また、本実施の形態において、電着槽101を構成する右側面部104には、電着槽101内の電着液を吸い込むための吸込循環系115が配設されている。ここで、本実施の形態の電着塗装装置100は、上述したように、右側面循環系113及び左側面循環系114により電着槽101内で対向流を維持しながら、車両99の右側面側での電着液の撹拌を促進している。
【0061】
すなわち、本実施の形態の吸込循環系115は、車両99の右側面側に配設されているため、電着液を吸い込み易くなっている。これにより、次の車両99への異物の混入をより確実に抑制することが可能になる。
【0062】
なお、吸込循環系115を構成する複数の吸込路の夫々は、右側面部104を軸にして、10°から80°の間で右側面部104の外方に延出して配設さている(図2に示すθ3.)。この角度は、電着槽101での対向流を妨げない角度であれば特に限定されない。
【0063】
このように、本実施の形態の電着塗装装置100は、電着液の電着槽101内での対向流を維持しながら、車両99の右側面側での流れを促進しているため、次の車両99への異物の混入を抑制することが可能になる。
【0064】
よって、本実施の形態の電着塗装装置100によれば、次の車両99への異物の混入を抑制することが可能になるため、複数の車両99を連続的に電着槽101に搬入して行う電着工程の生産性を向上させることができる。
【0065】
次に、本実施の形態の電着塗装装置100による電着液の流れについて、図3A図3B及び図4を用いて説明する。図3Aは、本発明の一実施の形態である電着塗装装置100による電着槽内での電着液の流れを電着塗装装置100の上方から模式的に示す平面図であり、図3Bは、本発明の一実施の形態である電着塗装装置100による電着槽内での電着液の流れを電着塗装装置100の側方から模式的に示す側方図である。また、図4は、図3AにおけるB部を拡大した示す拡大平面図である。
【0066】
図3A及び図3Bに例示されるように、電着塗装装置100の主たる構成である電着槽101内に等間隔で複数の車両99が搬入される。このとき、電着槽101内では、底面循環系112、右側面循環系113及び左側面循環系114から電着液が吐出されている。このように、底面循環系112、右側面循環系113及び左側面循環系114から電着液が吐出されているため、電着槽101内で電着液が撹拌されている。
【0067】
本実施の形態において、右側面循環系113は、この右側面循環系113が配設された電着槽101の右側面部104を軸にして、10°から40°の間で車両99側に向かって電着液を吐出している。
【0068】
すなわち、右側面循環系113は、右側面部104を軸にして、少なくとも45°より小さい角度で車両99側に向かって電着液を吐出しているため、車両99の後方側に向かって電着液の撹拌を促進している。
【0069】
一方、左側面循環系114は、この左側面循環系114が配設された電着槽101の左側面部105を軸にして、50°から80°の間で車両99側に向かって電着液を吐出している。
【0070】
すなわち、左側面循環系114は、左側面部105を軸にして、少なくとも45°より大きい角度で車両99側に向かって電着液を吐出しているため、車両99の幅方向側に向かって電着液の撹拌を促進している。
【0071】
このとき、右側面循環系113は、左側面循環系114によりも少ない吐出量で電着液を吐出している。このため、右側面循環系113による車両99の後方側に向かって流れる電着液の流れより、左側面循環系114による車両99の幅方向側に向かって流れる電着液の流れの方が、強い流れになる。
【0072】
これにより、電着槽101内を流れる電着液は、車両99の右側面側を流路として、車両99の後方側に流れていく。このように、電着槽101内を流れる電着液が、車両99の右側面側を流路として、車両99の後方側に流れることで、車両99内から排出された異物が次の車両99に降りかからないようになっている。
【0073】
また、右側面循環系113の最も上流側に位置するノズル113fは、左側面循環系114の最も上流側に位置するノズル114fよりも上流側に配設されている。そして、右側面循環系113は、複数のノズル113aからノズル113fを右側面部104に沿って等間隔で配設している。
【0074】
また、左側面循環系114も、複数のノズル114aからノズル114fを左側面部105に沿って等間隔で配設している。すなわち、これら右側面循環系113のノズル113aからノズル113fと左側面循環系114のノズル114aからノズル114fとは、互いの交互に配設している。
【0075】
ここで、左側面循環系114の最も上流側に位置するノズル114fが右側面循環系113の最も上流側に位置するノズル113fよりも上流側に配設された場合、ノズル114gにより車両99の幅方向に向かって流れる電着液が車両99の後方に向かって流れ難くなる。
【0076】
これに対し、本実施の形態の左側面循環系114のノズル114fは、右側面循環系113のノズル113fよりも下流側に配設されているため、ノズル113fにより車両99の後方側への流れが促進される。
【0077】
また、右側面循環系113のノズル113aからノズル113fと左側面循環系114のノズル114aからノズル114fとが、互いに交互に配設されているため、ノズル114aからノズル114fにより車両99の幅方向側に促進された電着液の流れが、ノズル113aからノズル113fにより車両99の後方側に促進される。
【0078】
このように、本実施の形態の電着塗装装置100によれば、車両99の後方側への流れ、いわゆる対向流を維持しながら、左側面循環系114により車両99の右側面側を流路として電着液を撹拌することが可能になる。
【0079】
また、電着槽101の右側面部104には、吸込循環系115が配設されている。すなわち、電着液の流路となる右側面部104側に吸込循環系115が配設されることで、電着槽101内で撹拌している電着液を電着槽101内から外方に排出し易くなる。
【0080】
以上のように、本実施の形態の電着塗装装置100によれば、次の車両99b或いは後方の車両99aへの車両99cから排出された異物の付着を抑制することで、複数の車両99を連続的に電着槽101に搬入して行う電着工程の生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0081】
99 車両(被塗布物)
100 電着塗装装置
101 電着槽
113 右側面循環系(第1循環系)
114 左側面循環系(第2循環系)
115 吸込循環系(第3循環系)
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4