特許第5873670号(P5873670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873670
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】アングルヘッド型工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
   B23Q 5/04 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   B23Q5/04 520C
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-198096(P2011-198096)
(22)【出願日】2011年9月12日
(65)【公開番号】特開2013-59814(P2013-59814A)
(43)【公開日】2013年4月4日
【審査請求日】2014年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】591286982
【氏名又は名称】株式会社MSTコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】溝口 春機
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−137351(JP,A)
【文献】 特開2004−058196(JP,A)
【文献】 特開平10−015703(JP,A)
【文献】 国際公開第00/71286(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸(M)に着脱可能に嵌合されるシャンク部(10)と、そのシャンク部(10)を回転自在に支持して工作機械の固定部材(D)に固定されるホルダ本体(20)と、そのホルダ本体(20)に設けられたチャック部(30)とからなり、そのチャック部(30)のケーシング(27、31)はホルダ本体(20)に一体とされて、そのケーシング内の従動軸(40)に、ホルダ本体(20)内を通るシャンク部(10)の駆動軸(13)から回転力伝達手段(26、34、35a、35b、35)を介してその回転力が伝達可能となっているアングルヘッド型工具ホルダにおいて、
上記従動軸(40)上記ケーシング及び回転力伝達手段を貫通てその貫通孔(40a)の両開口から抜き差し可能かつその差し込み状態に固定可能及び回転力伝達手段に対し回転方向に固定可能となって、その従動軸(40)に切削工具(A)装着されるものであって、
上記回転力伝達手段がギア機構からなって、上記貫通孔(40a)が前記回転力伝達手段の最終段のギア(35)の軸心孔及びその軸心孔の両側の上記ケーシングに設けたベアリング(33a)の内孔からなり、その貫通孔(40a)は、軸方向全長に亘り同一径で両端が開口して上記従動軸(40)がその両開口から抜き差し可能となっており、
上記最終段のギア(35)にその軸心孔内に突出するキー(42a)設けられているとともに、上記従動軸(40)の外周面に軸端に開口する軸方向の溝(42)形成されて、その溝(42)に前記キー(42a)前記軸端開口から嵌って、前記従動軸(40)貫通孔(40a)に抜き差し可能となっているとともに、最終段のギア(35)に対して回転方向に固定可能となっていることを特徴とするアングルヘッド型工具ホルダ。
【請求項2】
上記回転力伝達手段が、上記駆動軸(13)に取付けた駆動側ベベルギア(26)と、その駆動側ベベルギア(26)に噛み合った従動側ベベルギア(34)と、その従動側ベベルギア(34)に並列された複数段の平ギア(35a、35b、35)の群とからなるギア機構からなって、前記平ギア群は、並列した一端の平ギア(35a)が前記従動側ベベルギア(34)と同一軸(32a)に取付けられて一体に回転するようになっているとともに、その一端の平ギア(35a)以外の各段の平ギア(35b、35)相互に噛み合って他端の平ギア(35)が上記最終段のギア(35)となっており、
上記チャック部(30)の軸心(c)は上記ホルダ本体(20)の軸心(a)に対し側方に偏位して、そのチャック部(30)のケーシング(27)は、その偏位した反対側がホルダ本体(20)に対して後退した没部(27a)形成されて、その没部(27a)から前記最終段の平ギア(35)に向かって真っ直ぐ平ギア群の全長に亘って延びているとともに、チャック部30の前記没部(27a)の反対側のケーシング(31)も前記最終段の平ギア(35)に向かって真っ直ぐ平ギア群の全長に亘って延びていることを特徴とする請求項1に記載のアングルヘッド型工具ホルダ。
【請求項3】
上記従動軸(40)は、上記最終段の平ギア(35)の軸心孔に嵌る筒状部(41a)と、その筒状部(41a)一端の鍔部(41b)と、その筒状部(41a)他端に嵌るカバー(43)とからなり、前記従動軸(40)最終段の平ギア(35)の軸心孔に嵌った状態で、前記鍔部(41b)とカバー(43)で上記ケーシングまれ、前記筒状部(41a)のカバー(43)の後端に止め輪(44)が嵌合されて、前記従動軸(40)前記ケーシングに回転可能かつ抜け止めして取付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアングルヘッド型工具ホルダ。
【請求項4】
上記従動軸(40)は工具取付孔(40c)を有しており、その工具取付孔(40c)には、切削工具(A)を焼き嵌め固定したチャック(47)を装着できる機能が備えられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載のアングルヘッド型工具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械の主軸に取付けられる工具ホルダであって、切削工具が主軸に対し傾いて切削するアングルヘッド型工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
アングルヘッド型工具ホルダ(通常、単に「アングルヘッド」という。)は、この発明の一実施形態を示す図1(a)、図2を参照して説明すると、例えば、マシニングセンタ等の工作機械の主軸Mに着脱可能に嵌合されるシャンク部10と、そのシャンク部10を回転自在に支持して工作機械の固定部材Dに固定されるホルダ本体20と、そのホルダ本体20に設けられたチャック部30とからなる。そのチャック部30のケーシング27、31はホルダ本体20に一体とされて、そのケーシング内の従動軸40に、ホルダ本体20内を通るシャンク部10の駆動軸13、回転力伝達手段(ベベルギア26、34、平ギア35a等)を介しその回転軸心を駆動軸13の回転軸心に対し傾斜方向(例えば、直角方向)に変換して回転力が伝達可能となっている構成である(特許文献1図1参照)。
【0003】
また、この種の工具ホルダにおいて、切削工具Aの向きを上記主軸Mの軸心に対し角度を持った軸周りの任意の角度に調整し得るようにしたものがある(特許文献2図1図2図8等 特許文献3請求項1 図1図3図10等参照)。
【0004】
ところで、現在、機械加工における加工ワーク(被削材)は多岐にわたっており、その一例として、航空機部品のウィングリブなどの削り出し加工においては、5軸制御マシニングセンタを用いて、1段取りで最終形状まで加工ができるようになっている。また、工程集約をはかり、加工効率を上げ、コストダウンを目指す取組みが進んでいる。このとき、アングルヘッド型工具ホルダは、主軸の軸心に対し傾いて切削できるため、さらに工程集約に貢献し、加工効率を上げることができる。
また、小さな内径加工として、小さな平ギアを連結してコンパクトなヘッドを有する工具ホルダが提案されており、その構造は、主軸軸心の同一軸上に並列に平ギアを配列している(特許文献4図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−130423号公報
【特許文献2】実開昭63−147241号公報
【特許文献3】特開2006−123047号公報
【特許文献4】特開2010−137351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1等に記載のアングルヘッド型工具ホルダは、同文献1図1から理解できるように、チャック部30の軸方向c(本願図1(a)参照)に対し、直角方向の一方側に切削工具Aを取付るようになっている。このため、例えば、固定部材Dに固定されるホルダ本体20の共回り阻止ピンP側に切削工具Aを取付けた工具ホルダの場合(本願図1参照)、本願図5に示すように、ワークWに対しシャンク部10(主軸M)がその軸方向cに相対的にLの長さ移動すると、切削工具Aによって主軸Mの軸方向におけるワークWの切削長さは、そのワークWがホルダ本体20の凹部壁面(特許文献1図1では共回り阻止ピンPの取付け部壁面)に当るまでの長さLであり、通常、L>Lであることから、シャンク部10のワークWに対する相対的な移動長さLより短いこととなって、工作機械の性能を十分に活用し得ないこととなる。
このため、従来では、その相対的な移動長さL(=L)の切削作用を得ようとする場合、切削工具Aを取付けた方向と反対方向に切削工具Aを取付けた工具ホルダに取替えて行なっている。この作業は繁雑であるとともに、2つの工具ホルダを持つこととなって無駄である。
【0007】
また、特許文献1記載のアングルヘッド型工具ホルダは、外形をスリムにして工作機械において取り扱いやすいものにするようにとの改善要求に対して、その解決する手段を種々提供するものであった。しかし、そのようなアングルヘッドにおいても、干渉回避やさらなるコンパクト性を求める要望が多い。
例えば、油圧シリンダー部品の中に筒状形状(図6(a)のワークW参照)の内側に溝加工する場合があるが、そのワークWの内径が小さく、特許文献1記載等の従来のアングルヘッド型工具ホルダではそのヘッドが大きく、その穴に入っていかないことが多い。また、航空機部品のウィングリブの場合、壁面の根元部分(図6(b)のワークW参照)に孔加工を行うが、ヘッドとワークW底面が干渉するとともに壁面が深い為、同様に、従来のアングルヘッド型工具ホルダでは加工できないことが多い。
【0008】
特許文献2、3等に記載の切削工具Aの向きを上記主軸Mの軸心に対し角度を持った軸周りの任意の角度に調整し得るようにした工具ホルダは、切削工具Aの軸方向を調整し得ることから、ワークWに対するシャンク部10の軸方向相対的移動長さLに切削工具Aの切削長さを対応させ易いが、その角度調整機構が煩雑となっている。
また、特許文献4記載の工具ホルダは、主軸軸心上に平ギアを並列配列(ギアトレイン)してコンパクトなヘッドを実現しているため、穴の内面加工には適している。しかし、航空機部品の壁面加工ではボディが干渉し、深い位置の加工は困難である。仮に、アングルヘッドを長く延ばしても、ギアトレイン部が細く剛性がないため、切削時のワークからの反力によって曲がる等により、円滑・高精度の加工ができない。
【0009】
この発明は、以上の実状の下、特許文献1等に記載のアングルヘッド型工具ホルダにおいて、切削工具の取付け得る方向をその軸方向における左右の両方向(リバーシブル)とすることを第1の課題、チャック部をコンパクトにすることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の課題を達成するために、この発明は、チャック部30の切削工具Aの装着孔をチャック部30の両側面に貫通させ、その貫通孔の両開口から切削工具を装着可能とすることとしたのである。
すなわち、従来では、例えば、特許文献1に記載の従動軸(同文献図5符号:40)は、ケーシング及びベベルギア(同G2)を貫通させてその貫通孔に抜き差し可能となっているが、これらの工具ホルダは、チャック部への切削工具Aの取付け態様は一つであり(切削作業者は、一つの工具ホルダへの切削工具Aの付け替えは行なっておらず)、前記特許文献1記載の従動軸も切削工具の取付位置逆方向開口から貫通孔に切削工具を装着・固定し得るようになっていない。
【0011】
この発明は、その一つの工具ホルダには一つの切削工具の取付け態様と言う固定概念を破り、前記貫通孔の両開口から切削工具を装着可能として、一つの工具ホルダに切削工具をその刃が軸方向左右逆に取付け得るようにすることにより、従来に無かった切削態様、例えば、下記のように、図5において、シャンク部10のワークWに対する相対的な移動長さLに対し、切削工具Aによって主軸Mの軸方向におけるワークWの切削長さLが同じ(L=L)とし得る等の態様を得ることができる。
なお、チャック部の両側面に切削工具を取付ける工具ホルダ(両刃工具ホルダ)もあるが、この工具ホルダは、2つの切削工具を装着して使用するのが前提であり、一方の切削工具でもって切削する際、他方の切削工具が邪魔となる場合がある。
【0012】
この発明の構成としては、そのチャック部のケーシングはホルダ本体に一体とされて、そのケーシング内の従動軸に、ホルダ本体内を通るシャンク部の駆動軸から回転力伝達手段を介しその回転力が伝達可能となっているアングルヘッド型工具ホルダにおいて、前記従動軸、ケーシング及び回転力伝達手段を貫通てその貫通孔の両開口から抜き差し可能かつその差し込み状態に固定可能及び回転力伝達手段に対し回転方向に固定可能となって、その従動軸に切削工具装着される構成を採用することができる。
この従動軸の貫通孔両開口への抜き差しによるリバーシブル化によって、工具ホルダのコンパクト化と汎用性を高めることができる。
その貫通孔の構成としては、例えば、上記回転力伝達手段をギア機構としてその最終段ギアの軸心孔及び上記ケーシングの孔からなるものとすることができる。
このとき、そのケーシングの孔は、前記最終段のギアの軸心孔の両側の前記ケーシングに設けたベアリングの内孔とすることができ、上記貫通孔は、軸方向全長に亘り同一径で両端が開口して従動軸がその両開口から抜き差し可能となっており、最終段のギアにその軸心孔内に突出するキー設けられているとともに、従動軸の外周面に軸端に開口する軸方向の溝形成されて、その溝にキー軸端開口から嵌って、従動軸貫通孔に抜き差し可能となっているとともに、最終段のギアに対して回転方向に固定可能となっているものとすることができる。
【0013】
上記第2の課題を達成するために、この発明は、アングルヘッド型工具ホルダにおいて、駆動軸から従動軸を介した切削工具までの回転力伝達を特許文献4の平ギアトレイン構造とし、その平ギアトレイン構造のケーシング軸心をホルダ本体の軸心に対し偏位させることとしたのである(本願図1(a)参照)。
このように、両軸心a、cを偏位させることによって、ホルダ本体に対して平ギアトレイン構造のチャック部(アングルヘッド部)は細くコンパクトとし得る。また、その両軸心の偏位によって、ホルダ本体の軸心上に切削工具Aを位置させることができるため(図1(a)、図5参照)、その軸心からの切削工具Aのオーバハング量が少なくなり、エンドミル加工のような横送り切削においての倒れを少なく抑えることができる。
【0014】
この発明の構成としては、アングルヘッド型工具ホルダにおいて、シャンク部の駆動軸からチャック部従動軸への回転力伝達手段を、その駆動軸に取付けた駆動側ベベルギアと、その駆動側ベベルギアに噛み合った従動側ベベルギアと、その従動側ベベルギアに並列された複数段の平ギアの群とからなるギア機構からなるものとし、その平ギア群は、並列した一端の平ギアが前記従動側ベベルギアと同一軸に取付けられて一体に回転するようになっているとともに、その一端の平ギア以外の各段の平ギア相互に噛み合って他端の最終段の平ギアの軸心孔及びチャック部ケーシングの孔が同一軸の貫通孔となっており、チャック部の軸心はホルダ本体の軸心に対し側方に偏位して、チャック部のケーシングは、その偏位した反対側がホルダ本体に対して後退した没部形成されて、その没部から前記最終段の平ギアに向かって真っ直ぐ平ギア群の全長に亘って延びているとともに、チャック部の前記没部反対側のケーシングも前記最終段の平ギアに向かって真っ直ぐ平ギア群の全長に亘って延びている構成とすることができる。
【0015】
上記両発明において、上記貫通孔をギア機構の最終段ギアの軸心孔及びチャック部ケーシングの孔からなるものとした場合、上記従動軸は、最終段ギアの軸心孔に嵌る筒状部と、その筒状部一端の鍔部と、その筒状部他端に嵌るカバーとからなり、従動軸最終段の平ギアの軸心孔に嵌った状態で、前記鍔部とカバーでケーシングまれ、筒状部のカバーの後端に嵌合する止め輪でもって、従動軸をケーシングに回転可能かつ抜け止めして取付けるようにすることができる。このとき、鍔部及びカバーがケーシングに圧接すれば、ケーシング内へのクーラント等の浸入を防ぐシール機能を発揮するものとなる。このシール機能は、従動軸を貫通孔のどちらの開口から装着しても担保される。
【0016】
従動軸への切削工具の装着は、切削工具を、焼き嵌め式、サイドロック式、コレットチャック式等によって従動軸の装着孔(切削工具取付孔)に直接に行なって良いが、従動軸の軸心孔にチャックを装着し、そのチャックによって切削工具を取付けるようにすることができる。そのチャックは、従来周知のコレット式、焼き嵌め式、サイドロック式等が考えられる。このとき、前記装着孔は、下記の引きボルト48のねじ込みによる等のその切削工具を焼き嵌め固定したチャックを装着し得る機能を備えるものとして、前記焼き嵌め式とすれば、そのチャック構造をコンパクトなものとし得るとともに、切削工具を装着する従動軸にこのチャックを嵌めた時、その剛性は、両者の厚み等で担保されるため、従動軸のチャック挿入用筒状部の厚みも薄くし得る。
【発明の効果】
【0017】
この発明は以上のように構成して、切削工具の取付位置をリバーシブルとしたので、一のアングルヘッド型工具ホルダによって広範囲に及ぶ加工を行なうことができる。また、コンパクト化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の一実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は部分右側面図
図2】同実施形態の要部切断正面図
図3a】同実施形態の要部の左側からの分解斜視図
図3b】同右側からの分解斜視図
図4】(a)、(b)は同実施形態のそれぞれ作用説明用断面図
図5】同実施形態の作用説明図
図6】(a)、(b)は同実施形態のそれぞれ作用説明図
図7】(a)〜(c)は切削工具の各取付け態様図
図8】(a)〜(c)は切削工具の他の各取付け態様図
図9】(a)〜(c)は切削工具のさらに他の各取付け態様図
図10】切削工具のさらに他の取付け態様図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図1図4に示し、この実施形態のアングルヘッド型工具ホルダも、従来と同様に、工作機械の主軸Mに着脱可能に嵌合されるシャンク部10と、そのシャンク部10を回転自在に支持するホルダ本体20と、そのホルダ本体20に設けられたチャック部30とからなり、それらの軸方向(シャンク部10及びホルダ本体20の軸心a、チャック部30の軸心c)は同一方向となっているとともに、シャンク部10(ホルダ本体20)の軸心aに対しチャック部30の軸心cはシャンク部10(ホルダ本体20)の径方向(側方)に偏位している。
【0020】
シャンク部10は、主軸Mのテーパー孔に嵌るテーパーコーン部11と、切削工具マガジンのブラケットに嵌る環状溝を設けた鍔部分12と、テーパーコーン部11に続く駆動軸となる軸部分13(以下、「駆動軸13」と称する。)とからなる。
【0021】
ホルダ本体20は、駆動軸13が貫通するベアリングケース(ケーシング)21と、このベアリングケース21の側面にボルト止めされた共回り阻止ピンPのブロック22とからなる。共回り阻止ピンPは、この工具ホルダを主軸Mにセットすると(取付けると)、工作機械の固定部材Dの孔に嵌ってベアリングケース21(ホルダ本体20)を工作機械に固定する。
また、ベアリングケース21とシャンク部10の鍔部分12との間にオリエンテーションリング14が設けられており、このオリエンテーションリング14は鍔部分12の周囲任意位置においてボルト15のねじ込みによってその鍔部分12(シャンク部10)に固定され、この任意位置の固定によって、この工具ホルダの自動工具交換装置(ATC)へのセット時及び工具マガジン格納時における主軸Mのドライブキー(図示せず)と共回り阻止ピンPの位相関係を0〜360度の範囲で調整する。
【0022】
上記駆動軸13はベアリング23、カラー24を介してベアリングケース21に同一軸心で回転自在に支持され、これによって、シャンク部10はホルダ本体20に回転自在に支持される。また、駆動軸13先端雄ねじ部13aにカラー25a、座金25bを介してナット25がねじ込まれてベアリング23の内輪、カラー24が駆動軸13と一体となっている。さらに、その駆動軸13先端部にカラー26aを介在して駆動側ベベルギア(傘歯車)26が嵌められ、このベベルギア26はキー(図示せず)を介して止めネジ(図示せず)により駆動軸13に固定されている。
【0023】
ベアリングケース21の外周にケーシング27の基部が同一軸心で嵌って、このケーシング27によってベアリングケース21を覆うとともにチャック部30のケーシングの一部が形成されている。そのケーシング27のテーパーコーン部11側周囲4等分位に六角ボルト28が挿入されている。この六角ボルト28は、ベアリングケース21外周のアリ溝28aに嵌った半割ナット28bにねじ込まれており、ベアリングケース21に対しケーシング27を軸心周りの任意位置に回して六角ボルト28を半割ナット28bにねじ込むことによって、半割ナット28bがアリ溝28a内面に圧接してその任意位置でベアリングケース21にケーシング27が固定される(特許文献3段落0020、同0023参照)。このため、その固定位置を任意に設定することによって、共回り阻止ピンPに対するシャンク部10の軸心a回りの切削工具Aの取付け方向を任意の位置とすることができる。
【0024】
上記ケーシング27のチャック部30に延びる部分は、ホルダ本体20の軸心aに対し側方に偏位して没部27a形成され、その没部から下記平ギア群(ギアトレイン)の全長に亘って真っ直ぐ延びている。その真っ直ぐ延びたケーシング27にチャック部30のケーシング(カバー)31がねじ止めされている(図1(b)参照)。このケーシング31も同様に平ギアトレインの全長に亘って真っ直ぐ延びている。
【0025】
このケーシング27、31内に駆動軸13に直交する第1従動軸(中軸)32a、第2従動軸(中軸)32b及び第3従動軸(先軸)40が並列にベアリング33aを介して回転自在に設けられている。この従動軸の数(下記平ギア35a等のギアトレイン)は、チャック部30の長さ(軸心c方向)に応じて適宜に決定し、その先端が切削工具Aを装着するヘッドとなる。
その第1従動軸32aに上記駆動側ベベルギア26に噛み合う従動側ベベルギア34がキー(図示せず)を介して取付けられ、その第1従動軸32a及び第2、第3従動軸32b、40には相互に噛み合う平歯車(平ギア)35a、35b、35が同様にキー(図示せず)を介して取付けられている。このため、駆動軸13の回転力は、その伝達方向が両ベベルギア26、34によって直角方向に変更された後、各平ギア35a、35b、35を介してヘッドを構成する第3従動軸40に伝達される。第3平ギア35は、第3従動軸40を回転自在に支持するそのギア35の軸心孔の両側のケーシング31に設けたベアリング33aにカラー33bを介して回転自在に支持されている。
【0026】
そのベアリング33a及びカラー33bの内周面で形成される孔40aは軸方向全長に亘り同一径で両端が開口し、第3従動軸40はその貫通孔40aの両開口から抜き差し自在となっている。
この第3従動軸40は、図3a、図3bに示すように、円筒部41aとその一端部の鍔部41bとから成り、その円筒部41aに軸端に開口する軸方向の溝42が形成されている。このため、第3従動軸40を貫通孔40aに装着(挿入)する際、この溝42に上記第3平ギア35の内面に設けられたキー42aが前記軸端開口から嵌まることによって、第3従動軸40は貫通孔40aに抜き差しし得るとともに、第3平ギア35と一体になる。すなわち、第3従動軸40は第3平ギア35と回転方向に固定されて一体に回転する。
【0027】
第3平ギア35内に嵌った(装着された)第3従動軸40は、図4(a)、(b)に示すように、貫通孔40aの両開口の何れか一方から筒状部先端が突出し、その筒状部先端にカバー43を嵌めた後、筒状部41a先端の溝44aに止め輪(ストップリング)44を嵌めることによって抜け止めされて、チャック部30のヘッドが構成される。このとき、鍔部41b及びカバー43がケーシング27、31(ベアリング33a)に圧接することによって、ベアリング33a(ケーシング27、31)内へのクーラント等の浸入を防ぐシール機能を発揮する。このため、第3従動軸40を貫通孔40aのどちらの開口から入れても、そのシール機能は担保される。
【0028】
第3従動軸40には焼き嵌め式チャック47が嵌入され、そのチャック47の後部に第3従動軸40の引きボルト48をねじ込むことによって、チャック47が第3従動軸40のテーパー状工具取付孔40cに引き込まれて固定される。このため、チャック47に所要の切削工具Aを焼き嵌めによって取付け、その切削工具A付チャック47を第3従動軸40に嵌め込み固定することによって、この工具ホルダに切削工具Aが取付けされる。このとき、そのチャック47の第3従動軸40への取付け方向を、図4(a)、(b)に示すその軸方向の左右逆とすることによって、この工具ホルダに対する切削工具Aの取付け方向が2通りとなる。図中、49は周囲14等分位に設けられた引きボルト48の軸受け鋼球である。
【0029】
このように、焼き嵌め式チャック47であると、その大きさも小さいコンパクトなものとし得るとともに、第3従動軸40にこのチャック47を嵌めた時、その剛性は、両者の厚み等で担保されるため、従動軸40の筒状部41aの厚みも薄くし得る。因みに、軸方向にスリットを入れたコレット式チャック(図7(a)参照)であると、チャック47の剛性が低いため、前記第3従動軸40とチャック47の剛性は第3従動軸40で主に担保しなくてはならず、勢い、筒状部41aの厚みは厚くせざるを得ない。
【0030】
また、図1(a)、図2に示されるように、チャック部30の軸心c上に平ギア35a、35b、35のギアトレインが位置し、かつ第3従動軸40、カバー43及びベアリング33a等の構成が軸心cに対してほぼ対称となっている等から、チャック部30は、その軸心cに対してその周りの重量偏位が極力生じないようになっている。このため、第3従動軸40の取付けを左右逆にしても(図4(a)又は同(b))、剛性の変化もなく、重量の偏位も大きく変化しない。
【0031】
さらに、通常、マシニングセンタでは、その大きさに応じて、ATC及び工具マガジンに、安全に工具交換を行なうために最大工具径が設定されている。特に小型マシニングセンタの場合、最大工具径は小さく、例えば直径80mm以内の制限も多い。また、小型マシニングセンタの利用は年々増加傾向にある。
この実施形態の工具ホルダは、チャック部30一側のケーシング27はホルダ本体20の軸心aに対し側方に偏位して没部27a形成され、その没部27aからヘッド(最終段の平ギア35)に向かって真っ直ぐ延びているとともに、他側ケーシング31も同様にヘッドに向かって真っ直ぐ延びているため、チャッック部30は剛性の高いコンパクトな構成となっており、例えば、ヘッドの幅(チャック47の突出側面と引きボルト48の頭側面の間の長さ)が31.5mm、そのホルダ本体20の軸心c周りにこの工具ホルダが回転した際の円(外接円)は36mm径となって、ATCの取替え制限範囲内に十分に入るものである。すなわち、この実施形態の工具ホルダは、切削工具Aの突出しを十分確保した上で、ATC交換が可能である。
因みに、最大工具径は、工具ホルダと工具を含むもので、アングルヘッドの場合は、ヘッド部と工具を含むことになる。このとき、工具取付け位置が主軸軸心aからオーバハングした位置にあると、簡単に制限を超えてしまい自動交換が行なえないこととなる。
【0032】
この実施形態の工具ホルダは以上の構成であり、従来と同様に、工具ホルダを主軸Mに取付けるとともに、その工具ホルダに切削工具Aを取付けて、シャンク部10を回転させると、駆動軸13、ベベルギア26、34、平ギア35a(従動軸32a)、平ギア35b(従動軸32b)、平ギア35を介して第3従動軸(先軸)40が回転し、チャック47を介して切削工具Aが回転する。その回転する切削工具AをワークWに当てることによってワークWの切削作用が行なわれる。
【0033】
このとき、図5に示すように、ワークWに対しシャンク部10(主軸M)がその軸方向に相対的にLの長さ移動可能とすると、切削工具Aによって主軸Mの軸方向におけるワークWの切削長さは、図3a、図4(a)に示す切削工具Aの取付け態様であると、そのワークWがホルダ本体20のケーシング27の凹部(没部27a)壁面に当るまでの長さLである。一方、図3b、図4(b)に示す切削工具Aの取付け態様であると、その相対的移動長さLと同じLとなる。すなわち、干渉域が緩和され、ワーク壁面の加工範囲が広がり、切削工具AをワークWの任意位置まで位置させる範囲が広がる。
【0034】
また、図4(a)の場合、主軸Mの軸心a上に切削工具Aがあるため、切削工具Aの軸心aからのオーバハング量が少なくなり、エンドミル加工のような横送り切削において倒れを少なく抑えることができる。また、図1(a)、図2に示すように、切削工具Aがホルダ本体20及びチャック部30の横断面内に位置するため、狭い穴内において加工する場合に有効となる。
【0035】
さらに、この実施形態の工具ホルダは、高トルクで剛性の高い、かつコンパクトなものとなっていることから、航空機部品の加工のように、図6(a)に示す小さな穴の内面加工や同(b)に示す狭い溝の内面加工、さらに、リーチの深い壁面加工等を円滑に行える。また、切削工具Aの取付位置を交換し得るリバーシブルになっていることで、現在、困っている種々の加工に対して柔軟に対応し得ると共に、特殊のアングルヘッドを複数台必要とするユーザーにとって、1台で幅広く対応できることとなる。一般にアングルヘッドは高価な道具であることから、大幅なコストダウンとなり、経済的となる。
【0036】
この切削工具Aの取付け態様の変更は、工具ホルダを主軸Mから取外すことなく、切削工具A付のチャック47を先軸(第3従動軸)40と共に第3ベアリング33a(第3平ギア35)の孔40aから取外してその切削工具Aの取付け方向を変える、すなわち、図4(a)から同(b)又は同(b)から同(a)の取付け態様に変更することによって行なうことができる。但し、通常は、主軸Mから工具ホルダを取外して切削工具Aの取付け方向を変えるため、工具ホルダを主軸Mから取外してその変更をしても良いことは勿論である。
【0037】
因みに、この工具ホルダは、駆動側ベベルギア26から従動軸40までに至るケーシング27、31等からなる外形フォルム(図1(a)X−X以降)が従来にない形状となっているため、その形状(意匠)が、この種のアングルヘッド型工具ホルダにおいて新規なものとなっている。
【0038】
チャック47は、焼き嵌め式に限らず、図7(a)に示すコレット式、同(b)に示すサイドロック式等の公知のものを適宜に採用し得る。サイドロック式の場合、サイドロックねじ50を周囲等分位置に複数設けたり、図9(a)に示す両サイドロック式としたりすることができる。
また、チャック47を設けず、第3従動軸(先軸)40をチャックとした場合、例えば、図8(a)示す焼き嵌め式としたり、同(b)に示すサイドロック式としたり、同(c)に示す、第3従動軸40にコレットナット51をねじ込み可能とし、このコレットナット51によって切削工具Aを取付けたコレットチャック52を締付け固定するコレット式としたりし得る。この第3従動軸40をチャックとし、切削工具Aを焼き嵌め式、サイドロック式とすれば、第3従動軸40の貫通孔40aの両開口への抜き差しによるリバーシブル化と相俟ってさらにコンパクト化と汎用性を兼ね備えた工具ホルダとなる。
【0039】
切削工具Aは、上記のドリルのみならず、図7(c)、図9(c)に示すねじタップとしたり、図10に示すサイドカッタAとしたりし得て、幅広い切削工具Aを取付け得る。そのサイドカッタAの場合、取付けボルト53をスペーサ54を介してねじ込み可能として取付ける方式等の公知のものを適宜に採用し得る。この場合も、第3従動軸40の軸方向両端に取付けボルト53等でもってサイドカッタAを取付けるようにすることができる。
【0040】
上記第3従動軸40をチャックとした場合、図9に示すように、その両端から切削工具Aを取付け可能とし、その切削工具Aを、それぞれ、サイドねじ50で固定する両サイドロック式としたり(同図(a)、(c))、コレット式としたり(同図(b))することができる。
このとき、従動軸40の両側に装着する切削工具Aを異種のものとすることができる。例えば、一方を穴開けドリル、他方をねじタップとすることによって、ドリルで穴を形成した後、ねじタップでもってその穴内面にねじ山を形成できる。
また、その切削工具Aの装着手段も、第3従動軸40の両端を同一とせず、一方は焼き嵌め、他方はコレット式等と異なる態様とし得る。
【0041】
上記実施形態では、回転力伝達手段をベベルギア26、34、平ギア35a、35b、35の歯車機構(ギア機構)で構成したが、その歯車機構に代えてユニバーサルジョイント(特許文献3図4参照)等の他の手段を使用することができる。
また、駆動軸13の軸心と従動軸40の軸心の傾斜角度は、直角(90度)に限らず、45度、60度等と任意である。その傾斜角度に応じて、回転伝達手段の構成も変更、例えば、ギア機構では、ベベルギア26、34の歯の傾きをその角度に対応させる。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
10 シャンク部
11 テーパーコーン部
12 鍔部分
13 軸部分(駆動軸)
20 ホルダ本体
21 ホルダ本体のベアリングケース
22 共回り阻止ピンPのブロック
23 ベアリング
26 駆動側ベベルギア
27 ベアリングケースのケーシング
30 チャック部
31 チャック部のケーシング(カバー)
32a、32b 第1、第2従動軸(中軸)
33a ベアリング
34 従動側ベベルギア
35 最終段ギア(平ギア)
35a、35b 平ギア
40 第3従動軸(先軸)
40a 貫通孔
40c 従動軸の切削工具取付孔
42 第3従動軸のキー溝
42a キー
44 第3従動軸の止め輪
47 チャック
A 切削工具
図1
図2
図3a
図3b
図4
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図6
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図8
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図10