(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るモータ制御装置の複数の実施形態、および、本発明に係るモータ制御装置を搭載した空気調和機について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、複数の実施形態を説明するための図において、共通の構成要素には原則として共通の符号を付し、その重複した内容説明を省略する。
【0015】
《第1実施形態》
〈本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の全体構成〉
はじめに、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置の全体構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置11Aの全体構成を表すブロック図である。
【0016】
第1実施形態に係るモータ制御装置11Aについて、三相インバータ回路17Aを用いて三相同期モータ15(本発明の“三相モータ”に相当する。具体的には、例えば直流ブラシレスモータなどを用いる。)の駆動制御を行う場合を例に挙げて説明する。
【0017】
第1実施形態に係るモータ制御装置11Aは、第1〜第6のスイッチング素子SIup,SMun,SIvp,SMvn,SIwp,SMwnに係る接合部温度Tjと、三相インバータ回路17Aに流れる回路電流Ioとに基づいて、三相インバータ回路17Aの駆動に用いる変調方式を切り替えることにより、高効率運転の的確な遂行を図るものである。
【0018】
詳しく述べると、第1実施形態に係るモータ制御装置11Aは、
図1に示すように、直流電源13と、PWM駆動によって三相同期モータ15の駆動制御を行う三相インバータ回路17Aと、電磁誘導式の架線電流センサ19と、接合部温度検出部21と、変調方式制御部23と、インバータ駆動回路25と、を備えて構成されている。
【0019】
直流電源13は、例えば蓄電池である。ただし、直流電源13として、詳しくは後記するように、例えばコンバータ回路100A(
図18参照)などを採用してもよい。
【0020】
三相インバータ回路17Aは、パルス幅変調波信号(PWM信号)に基づいて、直流電源13から与えられた直流電力を、u相・v相・w相の擬似正弦波である三相交流電力に変換し、変換後の擬似正弦波である三相交流電力を三相同期モータ15へ供給することで、三相同期モータ15の駆動制御を行う機能を有する。
【0021】
三相インバータ回路17Aは、
図1に示すように、第1〜第6のスイッチング素子SIup,SMun,SIvp,SMvn,SIwp,SMwnを有する。
なお、以下の説明において、第1〜第6のスイッチング素子SIup,SMun,SIvp,SMvn,SIwp,SMwnを総称する場合は、“第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwn”と略記する。
第1、第3、第5のスイッチング素子(上アームのスイッチング素子)SIup,SIvp,SIwpとしては、IGBT構造の半導体素子を用いる。一方、第2、第4、第6のスイッチング素子(下アームのスイッチング素子)SMun,SMvn,SMwnとしては、MOSFET構造の半導体素子を用いる。
【0022】
第1および第2のスイッチング素子SIup,SMunは、第1の接続点Nd1を介して直列接続されている。第1および第2のスイッチング素子SIup,SMunのそれぞれには、還流ダイオードDupおよび寄生ダイオードDunが逆並列接続されている。第1の接続点Nd1は、三相同期モータ15のu相動力線に接続されている。以下の説明において、第1のスイッチング素子SIupを第1の上アームUA1と呼び、第2のスイッチング素子SMunを第1の下アームLA1と呼ぶ場合がある。
【0023】
第3および第4のスイッチング素子SIvp,SMvnは、第2の接続点Nd2を介して直列接続されている。第3および第4のスイッチング素子SIvp,SMvnのそれぞれには、還流ダイオードDvpおよび寄生ダイオードDvnが逆並列接続されている。第2の接続点Nd2は、三相同期モータ15のv相動力線に接続されている。以下の説明において、第3のスイッチング素子SIvpを第2の上アームUA2と呼び、第4のスイッチング素子SMvnを第2の下アームLA2と呼ぶ場合がある。
【0024】
第5および第6のスイッチング素子SIwp,SMwnは、第3の接続点Nd3を介して直列接続されている。第5および第6のスイッチング素子SIwp,SMwnのそれぞれには、還流ダイオードDwpおよび寄生ダイオードDwnが逆並列接続されている。第3の接続点Nd3は、三相同期モータ15のw相動力線に接続されている。以下の説明において、第5のスイッチング素子SIwpを第3の上アームUA3と呼び、第6のスイッチング素子SMwnを第3の下アームLA3と呼ぶ場合がある。
【0025】
第1および第2のスイッチング素子SIup,SMunの直列接続回路、第3および第4のスイッチング素子SIvp,SMvnの直列接続回路、および、第5および第6のスイッチング素子SIwp,SMwnの直列接続回路のそれぞれは、正の直流母線PLおよび負の直流母線NLの間に、相互に並列に接続されている。
【0026】
架線電流センサ19は、
図1に示すように、負の直流母線NLに近接させて設けられている。負の直流母線NLは接地されている。架線電流センサ19は、直流電源13から三相インバータ回路17Aへと流れる回路電流Ioを検出する機能を有する。架線電流センサ19は、本発明の“電流検出部”に相当する。架線電流センサ19で検出された回路電流Ioは、後記する接合部温度推定部31および変調方式制御部23の変調方式判定部37へとそれぞれ送られる。
【0027】
接合部温度検出部21は、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度Tjを検出する機能を有する。接合部温度検出部21は、本発明の“温度検出部”に相当する。
なお、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度を“スイッチング素子に係る接合部温度”と総称する場合がある。接合部温度検出部21は、温度実測部30および接合部温度推定部31からなる。
【0028】
温度実測部30は、第1〜第6のスイッチング素子SIup,SMun,SIvp,SMvn,SIwp,SMwnが実装された基板(不図示)の温度を実測する機能を有する。温度実測部30は、直流電源Vddと接地端子との間に、プルアップ抵抗33およびサーミスタ35を直列接続して構成されている。プルアップ抵抗33およびサーミスタ35は、基板上に直接実装されている。これは、例えばヒートシンクなどにプルアップ抵抗33およびサーミスタ35を基板に対して間接的に設ける場合と比べて、基板温度の検出精度が高まり、ひいてはスイッチング素子に係る接合部温度Tjの推定精度が高まるからである。プルアップ抵抗33およびサーミスタ35の接続点P1の電位(基板温度情報)は、接合部温度推定部31へと送られる。なお、サーミスタ35は、MOSFETを実装している基板の温度を検出するために、同MOSFETと同一基板に実装するものを想定している。
【0029】
接合部温度推定部31は、スイッチング素子に係る接合部温度Tjを推定する機能を有する。具体的には、接合部温度推定部31は、温度実測部30で実測された基板温度情報(接続点P1の電位)と、予め取得してある、基板と第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnとの各間の熱抵抗に係る情報を用いて、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度Tjを推定する。
【0030】
変調方式制御部23は、変調方式判定部37および変調方式指令部39からなる。変調方式判定部37は、後記する変調方式判定情報を記憶している。変調方式判定部37は、変調方式情報、接合部温度推定部31で推定されたスイッチング素子に係る接合部温度Tj、および、架線電流センサ19で検出された三相インバータ回路17Aに流れる回路電流Ioに基づいて、三相インバータ回路17AをPWM駆動する際に用いる変調方式を判定する機能を有する。変調方式指令部39は、変調方式判定部37で判定された変調方式を用いて三相インバータ回路17AをPWM駆動するように、インバータ駆動回路25へ指令情報を送る機能を有する。
【0031】
なお、変調方式制御部23、および、接合部温度推定部31は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えた不図示のマイクロコンピュータ(以下“マイコン”という。)により構成される。このマイコンは、ROMに記憶されているプログラムを読み出して実行し、接合部温度推定部31、変調方式判定部37、および、変調方式指令部39を含む各種機能部の実行制御を行うように機能する。
【0032】
インバータ駆動回路25は、変調方式制御部23の変調方式指令部39から送られてきた変調方式に係る指令情報にしたがって、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング制御(PWM制御)を行うことにより、三相インバータ回路17Aを所定の変調方式を用いて駆動させる機能を有して構成されている。
【0033】
〈二相変調および三相変調〉
ここで、本発明の第1実施形態に係る三相インバータ回路17Aの駆動に用いる変調方式の理解を容易にするために、二相変調および三相変調について、
図2および
図3を参照して説明する。
【0034】
図2は、三相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図3は、上下60度固定二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図2および
図3において、横軸に位相〔度〕を示し、縦軸にPWM制御波形のデューティ〔%〕を示している。
なお、
図4〜
図5、
図9〜
図11、
図14〜
図17においても、
図2および
図3と同様、横軸に位相〔度〕を示し、縦軸にPWM制御波形のデューティ〔%〕を示している。
【0035】
図1に示すような三相インバータ回路17Aを用いて三相同期モータ15をPWM制御によって駆動する場合は、一般に三相変調を用いる。三相変調では、
図2に示すように、u相・v相・w相のそれぞれの電圧について電気角180度の位相区間に亘ってPWM制御を行う。
【0036】
これに対し、二相変調では、三相同期モータ15のモータ電流が相電圧ではなく相間電圧により決定されることを利用して、相間電圧を確保しつつ各相電圧を所定期間ごとに三相インバータ回路17Aの各スイッチング素子を常時オンすることにより、
図3に示すように、1相ごとに高位電源レベルまたは低位電源レベルに電気角π/3(60度)だけ順次固定するようにPWM制御を行う。
図3に示すような二相変調を、特に上下60度固定二相変調と呼ぶ。
【0037】
要するに、上下60度固定二相変調は、三相インバータ回路17Aの第1〜第3の上アームUA1,UA2,UA3および第1〜第3の下アームLA1,LA2,LA3を構成する第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnを60度ずつ、高位電源レベル(100%デューティ制御)または低位電源レベル(0%デューティ制御)に順次固定して二相変調を行うものである。
【0038】
三相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合、
図2に示すように、位相の変化に対する三相の各電圧Vu,Vv,Vwのデューティは、略正弦波状に推移する。このため、PWM制御波形のキャリア周波数が高くなり、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失が増加して、三相インバータ回路17Aの運転効率を低下させてしまう。
【0039】
これに対し、上下60度固定二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合は、
図3に示すように、u相電圧では60度〜120度の位相区間、w相電圧は180度〜240度の位相区間、v相電圧は300度〜360度の位相区間のそれぞれにおいて、100%デューティ制御(高位電源レベル)が行われる。また、u相電圧では240度〜300度の位相区間、w相電圧は0度〜60度の位相区間、v相電圧は120度〜180度の位相区間のそれぞれにおいて、0%デューティ制御(低位電源レベル)が行われる。
【0040】
三相インバータ回路17Aを上下60度固定二相変調を用いて駆動した場合、三相の各電圧Vu,Vv,Vwのそれぞれに関し、3分の1に相当する位相区間ではスイッチングを行っていない(100%デューティ制御、または、0%デューティ制御)。このため、この3分の1に相当する位相区間では、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失は生じない。その結果、三相インバータ回路17Aの運転効率を向上させることができる。
【0041】
また、1相ごとに、高位電源レベル(100%デューティ制御)または低位電源レベル(0%デューティ制御)に電気角2π/3(120度)だけ順次固定して、三相インバータ回路のスイッチング損失を低減し、相電圧の振幅が小さい場合にこの二相変調方式を停止して三相モータに三相電圧を印加する技術も知られている(例えば、特開2006−217673号公報や特開2005−229676号公報参照)。このような二相変調を、固定120度二相変調と呼ぶ。このうち、特に、二相変調の固定相を直流電圧の高位電源レベル(100%デューティ制御)に固定したものを、上固定120度二相変調と呼び、二相変調の固定相を直流電圧の低位電源レベル(0%デューティ制御)に固定したものを、下固定120度二相変調と呼ぶ。
【0042】
要するに、上固定120度二相変調は、三相インバータ回路17Aの第1〜第3の上アームUA1,UA2,UA3および第1〜第3の下アームLA1,LA2,LA3を構成する第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnを120度ずつ順次固定して二相変調を行うものである。また、下固定120度二相変調は、三相インバータ回路17Aの第1〜第3の上アームUA1,UA2,UA3および第1〜第3の下アームLA1,LA2,LA3を構成する第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnを120度ずつ順次固定して二相変調を行うものである。
【0043】
図4は、上固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図5は、下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
【0044】
上固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合は、
図4に示すように、三相の各電圧Vu,Vv,Vwのそれぞれに関し、3分の1に相当する位相区間ではスイッチングを行っていない(100%デューティ制御)。したがって、
図4に示す上固定120度二相変調を用いてPWM制御を行う場合は、
図2に示す三相変調のように約15%から約85%の範囲のデューティでPWM制御を行う場合に比べて、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失を低減させることができる。その結果、三相インバータ回路17Aの運転効率を向上させることができる。
【0045】
また、下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合は、
図5に示すように、三相の各電圧Vu,Vv,Vwのそれぞれに関し、3分の1に相当する位相区間ではスイッチングを行っていない(0%デューティ制御)。したがって、下固定120度二相変調を用いてPWM制御を行う場合は、
図2に示す三相変調のように約15%から約85%の範囲のデューティでPWM制御を行う場合に比べて、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失を低減させることができる。その結果、三相インバータ回路17Aの運転効率を向上させることができる。
【0046】
〈IGBTおよびMOSFETの特性〉
次に、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnとして用いられる、IGBTおよびMOSFETの特性について説明する。
図6は、IGBTとMOSFETの電流に対する電圧の関係を表す特性図である。
図7は、IGBTとMOSFETの電流に対する損失の関係を表す特性図である。
図6では、横軸に電流、縦軸に電圧を表している。
図7では、横軸に電流、縦軸に損失を表している。
【0047】
IGBTのコレクタ電流に対するコレクタ−エミッタ間電圧の特性は、
図6に示すように、コレクタ電流の立ち上がり区間において急増し、その後、なだらかな略線形の増加特性を描く。一方、MOSFETのドレイン電流に対するドレイン−ソース間電圧の特性は、すべての電流区間においてなだらかな略線形の増加特性を描く。IGBTに係るコレクタ−エミッタ間電圧の特性と、MOSFETに係るドレイン−ソース間電圧の特性とは、
図6に示すように、臨界点において交差している。要するに、臨界点に比べて低負荷領域(低入力領域)では、IGBTに係るコレクタ−エミッタ間電圧の特性がMOSFETに係るドレイン−ソース間電圧の特性を上回っているが、臨界点に比べて高負荷領域(高入力領域)では、前記両者の関係が逆転している。
【0048】
図6に示すような特性関係に起因して、
図7に示すように、臨界点に比べて低負荷領域(低入力領域)では、IGBTに係る損失特性がMOSFETに係る損失特性を上回っているが、臨界点に比べて高負荷領域(高入力領域)では、前記両者の関係が逆転している。つまり、MOSFETの損失は、低負荷領域ではIGBTと比べて小さいが、高負荷領域では、IGBTと比べて大きくなる。これは、MOSFETの損失が電流の2乗で増大するからである。
【0049】
すなわち、
図7に示すように、MOSFETは、低負荷領域(低入力領域)ではIGBTと比べても低損失となるが、高負荷領域(高入力領域)では逆にIGBTと比べても損失が増えてしまう。これは、MOSFETのオン抵抗に正の温度特性があるために、高負荷時(高入力時)にはオン抵抗がさらに大きくなることと、損失が電流の2乗で増大するためである。したがって、三相インバータ回路17Aの高効率運転を図るためには、低負荷時(低入力時)にはMOSFET側への電流通流率を増やし、高負荷時(高入力時)にはIGBT側への電流通流率を増やすといったように、各負荷領域における各スイッチング素子の損失の大小関係に合わせて、それぞれのスイッチング素子への電流通流量を変えることを考慮して変調方式を切り替えることが好ましい。
【0050】
こうした観点から、前記の特許文献1では、IGBTとMOSFETを組み合わせたインバータ回路を備えるインバータ装置を提案している。この技術では、インバータ回路の上アームにIGBT、下アームにMOSFETを備えたインバータ回路において、負荷の大きさに応じて、三相変調と上下60度固定二相変調との切り替えを行う構成を採用している。負荷の大小に係る判定には、モータ電流、インバータ回路への入力電圧、スイッチング素子に係るオン・オフのデューティの大きさ、または、モータの回転速度を用いる。
【0051】
ところが、MOSFETのオン抵抗には正の温度特性があるため、同MOSFETの温度によってオン抵抗の値が変化する。このため、三相変調または二相変調を用いて同じ電流を通電させた場合でも、素子温度の高低によってMOSFETで発生する導通損失は変化してしまう。しかも、MOSFETでは、高負荷時における温度上昇の割合がIGBTと比べて大きくなっている。したがって、負荷の大きさに応じて、単に三相変調と上下60度固定二相変調とを切り替えただけでは、MOSFETに温度変化が生じた場合は、高効率運転を維持することができない。
【0052】
図8は、三相インバータ回路17Aを、複数の変調方式を用いて駆動した場合の、MOSFETの接合部温度(チャネル温度)と回路損失との関係を表す特性図である。
図8において、横軸にチャネル温度〔摂氏度〕を、縦軸に回路損失〔W〕を表している。
なお、回路損失の特性パラメータ(変調方式)としては、三相変調、上下60度固定二相変調、上固定120度二相変調、および、下固定120度二相変調を表している。
【0053】
図8に示すように、いずれの二相変調方式を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合であっても、三相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合に比べて、回路損失は小さい。また、MOSFETの低温時(約40°C以下)では、下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合が、最も低損失となる。これに対し、MOSFETの高温時(約40°Cを超える)では、上固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合が、最も低損失となっている。
【0054】
これは、高温時におけるMOSFETのオン抵抗は、低温時のそれと比べて大きくなるため、このオン抵抗の増大に伴って、同MOSFETの導通損失が大きくなるからである。例えば、MOSFETの接合部温度(チャネル温度を包括する概念である。以下、同じ。)が高いときに、下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合は、
図8に示すように、上固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合と比べて、回路損失が大きくなる。そのため、MOSFETの接合部温度が高い場合は、仮に低負荷時(低入力時)であっても、下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動しても、高効率運転を実現することはできない。
【0055】
ところが、前記の特許文献1の技術では、負荷の大きさ(負荷電流)のみによって変調方式を決定している。そのため、低負荷時において運転効率が良好となるはずの下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合でも、MOSFETの接合部温度が高い場合は、MOSFETのオン抵抗が大きくなって同MOSFETの損失が大きくなるために、三相インバータ回路17Aの高効率運転を行うことができない。
【0056】
そこで、第1実施形態に係るモータ制御装置11Aでは、第1〜第6のスイッチング素子SIup,SMun,SIvp,SMvn,SIwp,SMwnに係る接合部温度Tjと、三相インバータ回路17Aに流れる回路電流Io(負荷の大きさ)とに基づいて、三相インバータ回路17Aの駆動に用いる変調方式を切り替えることにより、高効率運転の的確な遂行を図ることとしている。
【0057】
〈第1実施形態に係るモータ制御装置11Aの動作〉
次に、第1実施形態に係るモータ制御装置11Aの動作について説明する。第1実施形態に係るモータ制御装置11Aの電源スイッチ(不図示)がオンされると、三相インバータ回路17Aは、インバータ駆動回路25から送信されてきた変調方式に係る指令情報に基づくPWM制御信号(駆動制御信号)によって、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnを順次オン/オフさせることで、PWM波形による疑似正弦波の3相交流電力を生成し、これをもって三相同期モータ15を駆動する。
【0058】
三相同期モータ15の駆動中に、接合部温度推定部31は、架線電流センサ19で検出した三相インバータ回路17Aに流れる回路電流Ioと、温度実測部30のサーミスタ35が実測した基板温度と、予め取得してある、基板から第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwn間の熱抵抗とを用いて、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnに係る接合部温度Tjを推定する。
【0059】
ここで、実際の接合部温度推定部31での接合部温度推定方法について説明する。第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnとして、IGBTまたはMOSFETを採用したとする。まず、架線電流センサ19で検出した三相インバータ回路17Aに流れる電流IoとIGBTの飽和電圧Vceの積、または、前記電流Ioの2乗とMOSFETのオン抵抗の積から、IGBTまたはMOSFETの導通損失を算出する。次に、温度実測部30のサーミスタ35が実測した基板温度に、前記算出した導通損失と基板〜スイッチング素子間の熱抵抗の積を加算することで接合部温度Tjを推定する。
【0060】
しかし、MOSFETのオン抵抗Ron
(Tj)は、接合部温度Tjの関数となるため、導通損失は接合部温度Tjの関数となる。さらに、接合部温度Tjは導通損失の関数となるため、導通損失と接合部温度Tjを一意に算出することはできない。そこで、導通損失を算出する場合のオン抵抗Ronとしては、温度実測部30のサーミスタ35が実測した基板温度をtcとしたとき、実際の接合部温度Tjとの推定温度差Δtを見積もった温度である(tc+Δt)時の値であるRon
(tc+Δt)を採用することとする。このようにすることで、導通損失と接合部温度Tjを一意に算出することができる。
【0061】
前記の手順を用いたMOSFETの接合部温度推定方法は、下記の式(1)および式(2)で表すことができる。
P
(tc+Δt)=Io×Io×Ron
(tc+Δt) 式(1)
Tj =tc+P
(tc+Δt)×R
jθ 式(2)
ここで、Tjは接合部温度、tcは基板温度、P
(tc+Δt)はMOSFETの導通損失、R
jθは基板から第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwn間の熱抵抗、Δtは基板温度と接合部温度との推定温度差を表す。
【0062】
そして、変調方式制御部23の変調方式判定部37は、接合部温度Tjおよび回路電流Ioに関連付けられた、最も低損失となる変調方式を判定するための変調方式判定情報と、接合部温度推定部31で推定された接合部温度Tjと、架線電流センサ19で検出された三相インバータ回路17Aの回路電流Ioとに基づいて、最も低損失となる変調方式を判定し、その変調方式を変調方式制御部23の変調方式指令部39へ送る。これを受けて、変調方式指令部39は、変調方式に係る指令情報をインバータ駆動回路25へ送る。これを受けて、インバータ駆動回路25は、最も低損失と判定された変調方式に従うPWM制御の駆動信号を生成し、三相インバータ回路17Aの第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnを駆動する。
このときの導通損失は、(式1)で示したP
(tc+Δt)ではなく、接合部温度推定部31で推定した接合部温度でのオン抵抗と架線電流センサ19で検出した三相インバータ回路17Aに流れる電流Ioから算出する。
【0063】
具体的には、例えば、架線電流センサ19が検出した三相インバータ回路17Aの回路電流Ioの値が小さく(負荷が小さく)、かつ、接合部温度推定部31が推定した第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度Tjが低い場合を考える。かかる場合において、変調方式制御部23の変調方式判定部37は、上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpの各IGBTと比べて、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnの各MOSFETの方が、オン抵抗および導通損失が小さいと判断し、最も低損失となる変調方式として下固定120度二相変調を用いる判定を下す。
【0064】
これにより、インバータ駆動回路25は、下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aの駆動制御を行う。その結果、三相インバータ回路17Aの下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnの各MOSFETへの電流通流量を増やすことにより、三相インバータ回路17Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0065】
また、例えば、架線電流センサ19が検出した三相インバータ回路17Aの回路電流Ioの値が小さく(負荷が小さく)、かつ、接合部温度推定部31が推定した第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度Tjが高い場合を考える。かかる場合において、変調方式制御部23の変調方式判定部37は、上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpの各IGBTと比べて、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnの各MOSFETの方が、オン抵抗および導通損失が大きいと判断し、最も低損失となる変調方式として、上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調のいずれかを用いる判定を下す。
【0066】
これにより、インバータ駆動回路25は、上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調のいずれかを用いて三相インバータ回路17Aの駆動制御を行う。その結果、架線電流センサ三相インバータ回路17Aの上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpの各IGBTへの電流通流率を増やすことにより、三相インバータ回路17Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0067】
また、例えば、架線電流センサ19が検出した三相インバータ回路17Aの回路電流Ioの値が大きく(負荷が大きく)、かつ、接合部温度推定部31が推定した第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度Tjが低い場合を考える。かかる場合において、変調方式制御部23の変調方式判定部37は、上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpの各IGBTと比べて、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnの各MOSFETの方が、オン抵抗および導通損失が小さいと判断し、最も低損失となる変調方式として、下固定120度二相変調を用いる判定を下す。
【0068】
これにより、インバータ駆動回路25は、下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aの駆動制御を行う。その結果、三相インバータ回路17Aの下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnの各MOSFETへの電流通流量を増やすことにより、三相インバータ回路17Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0069】
また、例えば、架線電流センサ19が検出した三相インバータ回路17Aの回路電流Ioの値が大きく(負荷が大きく)、かつ、接合部温度推定部31が推定した第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度Tjも高い場合を考える。かかる場合において、変調方式制御部23の変調方式判定部37は、上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpの各IGBTと比べて、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnの各MOSFETの方が、オン抵抗および導通損失が大きいと判断し、最も低損失となる変調方式として、上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調を用いる判定を下す。
【0070】
これにより、インバータ駆動回路25は、上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aの駆動制御を行う。その結果、三相インバータ回路17Aの上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpの各IGBTへの電流通流率を増やすことにより、三相インバータ回路17Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0071】
〈第1実施形態に係るモータ制御装置11Aの作用効果〉
第1実施形態に係るモータ制御装置11Aによれば、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnの接合部温度、および、三相インバータ回路17Aの回路電流Ioの値、並びに、変調方式判定情報に基づいて、予め用意された変調方式(三相変調、上下60度固定二相変調、上固定120度二相変調、および下固定120度二相変調)のなかから、最も低損失となる変調方式を判定し、この判定結果に係る変調方式を切り替えて用いることにより、三相インバータ回路17Aを含むモータ制御装置11Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0072】
なお、変調方式を切り替えるためのトリガポイントとしては、例えば、
図8に示すように、スイッチング素子の接合部温度が臨界温度(
図8の例では、約40°C)を超えると、変調方式を変えたときの回路損失の大小関係が変わることに着目して、下固定120度二相変調に代えて、上下60度固定二相変調または上固定120度二相変調を切り替えて用いることにより、モータ制御装置11Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0073】
また、三相インバータ回路17Aの回路電流Ioの値が変わると、スイッチング素子の導通損失の大きさも変わる。そこで、回路電流Ioの値に応じて変調方式を切り替えるための、スイッチング素子に係る温度の閾値を適宜変更してもよい。このように構成すれば、回路電流Ioの値に応じたスイッチング素子の導通損失に基づいて、適切な変調方式を切り替えて用いることができる。
【0074】
《第2実施形態》
〈変調率に基づく変調方式の切り替え制御〉
第1実施形態では、変調方式を切り替えるための技術要素として、三相インバータ回路17Aにおけるスイッチング素子に係る接合部温度Tjおよび回路電流Ioを用いたが、第2実施形態では、変調率を用いる点が、第1実施形態とは異なっている。
【0075】
三相インバータ回路17Aの第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失は、変調方式のみならず、変調率によっても変わる。具体的には、三相インバータ回路17Aの回路電流Ioが大きいときにPWM制御のスイッチング動作が行われると、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失は大きくなる。また、回路電流Ioが小さいときにPWM制御のスイッチング動作が行われると、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失は、前記(回路電流Ioが大きいとき)と比べて大きくなる。
【0076】
要するに、三相インバータ回路17Aのスイッチング動作が行われるときの回路電流Ioの大きさ(変調率の値)によって、第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失は変化する。言い換えると、変調方式の選択と変調率の大きさ次第によって、スイッチング損失は大きく変わってくる。
【0077】
さらに詳しく説明する。例えば、三相変調と二相変調とを比較すると、三相変調では、PWMのスイッチング回数が二相変調の場合の3/2だけ多くなり、かつ、正弦波のピーク値周辺を含めた電流値の大きいところでのスイッチング動作の回数が多いため、必然的にスイッチング損失が大きくなる。
【0078】
一方、二相変調では、固定120度二相変調(上固定120度二相変調および下固定120度二相変調)と上下60度固定二相変調とを比較すると、変調率が小さいときは、両者の第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失はほぼ同じである。また、変調率が大きいときは、回路電流Ioが大きいときにPWMのスイッチングが行われるために、下固定120度二相変調の方が上下60度固定二相変調と比べてスイッチング損失が大きくなる。この理由について、
図9〜
図11を参照して説明する。
【0079】
図9は、変調率が小のときに下固定相120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図10は、変調率が中のときに下固定相120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図11は、変調率が大のときに下固定相120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図9〜
図11は、本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置11Bにおいて、変調率に基づく適切な変調方式を用いるための基礎的な技術事項を表している。
【0080】
図9に示すように、変調率が小さいときはPWM制御のデューティが小さくて出力電圧波形のピークも小さいが、
図11に示すように、変調率が大きいときはPWM制御のデューティが大きくなって出力電圧波形のピークも大きくなっている。すなわち、
図9〜
図11に示すように、変調率が大きくなるにしたがってPWM制御のデューティが大きくなり、出力電圧波形のピークが大きくなっていることがわかる。このため、変調率が大きくなるほど、三相インバータ回路17Aの回路電流Ioのピークが大きくなるために、PWM制御のスイッチング損失が大きくなる。
【0081】
例えば、三相インバータ回路17Aの直流入力電圧が変動して変調率が大きくなり、スイッチング損失が増大して三相インバータ回路17Aの運転効率に影響を与える場合は、スイッチング損失が小さくなる変調方式を選択的に切り替えて用いることにより、三相インバータ回路17Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0082】
〈本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置11Bの全体構成〉
次に、本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置11Bについて、
図12および
図13を参照して説明する。
図12は、本発明の第2実施形態に係るモータ制御装置11Bの全体構成を表すブロック図である。
図13は、三相インバータ回路17Aにおける変調率に対する変調方式の関係を表すテーブルである。
【0083】
第1実施形態に係るモータ制御装置11Aと、第2実施形態に係るモータ制御装置11Bとは、基本的な構成要素が共通している。そこで、両者間の相違点に着目して説明することで、第2実施形態に係るモータ制御装置11Bの説明に代えることとする。
【0084】
第1実施形態に係るモータ制御装置11Aと、第2実施形態に係るモータ制御装置11Bとの相違点は、接合部温度検出部21に代えて、モータ制御部29を設けた点、および、電圧検出部27を追加した点である。
【0085】
モータ制御部29は、
図12に示すように、前記の変調方式制御部23(変調方式判定部37および変調方式指令部39)の他に、モータ電流再現部41、モータ電圧演算部43、および、変調率演算部45を備えて構成されている。
【0086】
モータ制御部29のモータ電流再現部41は、架線電流センサ19から送られてきた三相インバータ回路17Aの回路電流Ioに基づいて3相同期モータ15に流れる三相交流電流Iu,Iv,Iwを再現する機能を有している。
【0087】
モータ電圧演算部43は、モータ電流再現部41から送られてきた三相交流電流Iu,Iv,Iwと、外部から送られてきたモータ指令回転速度f
*とに基づいて、3相同期モータ15に印加すべき三相交流指令電圧Vu
*,Vv
*,Vw
*を演算し、これをインバータ駆動回路25へ送信する機能を有している。さらに、モータ電圧演算部43は、三相同期モータ15に印加する正弦波電圧の振幅値Vs
*を演算し、この正弦波電圧の振幅値Vs
*を変調率演算部45へ送信する機能を有している。
【0088】
変調率演算部45は、電圧検出部27が検出した直流電圧Vdと、モータ電圧演算部43が演算した三相同期モータ15に印加する正弦波電圧の振幅値Vs
*とに基づいて変調率khを演算し、この変調率khを変調方式制御部23の変調方式判定部37へ送信する機能を有している。
【0089】
なお、変調方式判定部37と変調方式指令部39とを備える変調方式制御部23は、モータ制御部29の内部に構成されているが、それらの機能は、第1実施形態と基本的に同じである。ただし、第1実施形態に係る変調方式判定部37では、接合部温度Tjと回路電流Ioとに基づいて変調方式を判定したのに対し、第2実施形態に係る変調方式判定部37では、変調率演算部45から送られてきた変調率khに基づいて変調方式を判定することとしている。
【0090】
電圧検出部27は、直流電源13の直流電圧を検出し、検出した直流電圧Vdをモータ制御部29の変調率演算部45へ送信する機能を有する。
【0091】
〈第2実施形態に係るモータ制御装置11Bの動作〉
次に、第2実施形態に係るモータ制御装置11Bの動作について説明する。なお、第1実施形態と重複する動作の説明は、原則として省略する。
【0092】
まず、モータ制御部29のモータ電流再現部41は、架線電流センサ19が検出した三相インバータ回路17Aに流れる回路電流Ioに基づいて、三相同期モータ15に流れる三相交流電流Iu,Iv,Iwを推定して再現する。これによって、モータ制御部29のモータ電圧演算部43は、モータ電流再現部41から取得した三相交流電流Iu,Iv,Iwと外部から取得したモータ指令回転速度f
*とに基づいて、三相同期モータ15に印加すべき三相交流指令電圧Vu
*,Vv
*,Vw
*を演算し、この三相交流指令電圧Vu
*,Vv
*,Vw
*をインバータ駆動回路25へ送信する。
なお、モータ電圧演算部43が三相同期モータ15に印加すべき三相交流指令電圧Vu
*,Vv
*,Vw
*を演算する手法は、例えば、特開2002−272194号公報などにも開示されている一般的な手法(ベクトル制御によるdq変換の手法)を用いることができる。また、この手法以外でも、モータ電流の三相分、または二相分を用いて三相交流指令電圧を演算してもよい。
【0093】
さらに、モータ制御部29のモータ電圧演算部43は、三相同期モータ15に印加する正弦波電圧の振幅値Vs
*を演算し、この正弦波電圧の振幅値Vs
*を変調率演算部45へ送信する。
【0094】
モータ制御部29の変調率演算部45は、電圧検出部27が検出した直流電源13の直流電圧Vdと、モータ電圧演算部43が演算した三相同期モータ15に印加する正弦波電圧の振幅値Vs
*とに基づいて変調率khを演算し、この変調率khを変調方式制御部23の変調方式判定部37へ送信する。
【0095】
変調方式判定部37は、
図13に示すように、変調率に対する変調方式の関係を表すテーブルを記憶している。変調方式判定部37は、変調率演算部45が算出した変調率khと、
図13に示すテーブルとに基づいて、変調率khに相応しい変調方式を判定し、判定した変調方式を変調方式指令部39へ送る。これを受けて、変調方式指令部39は、変調方式に係る指令情報をインバータ駆動回路25へ送る。
【0096】
インバータ駆動回路25は、モータ電圧演算部43から送信された三相交流指令電圧Vu
*,Vv
*,Vw
*と、変調方式指令部39から送信されてきた変調方式に係る指令情報とに基づいて、PWM制御の駆動信号を生成し、このPWM制御の駆動信号を三相インバータ回路17Aの第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnへ送信する。これにより、三相インバータ回路17Aは、変調率に基づく適切な変調方式によってPWM駆動を行う。
【0097】
次に、モータ制御部29の変調率演算部45が行う変調率の計算方法について説明する。一般的な変調率とは、信号波の振幅と搬送波の振幅との比である。したがって、三相インバータ回路17AのPWM制御における信号波は三相同期モータ15に印加する正弦波であり,搬送波は直流電源13の直流入力電圧の1/2を振幅とする方形波となる。したがって、三相同期モータ15に印加する正弦波の振幅をVs
*、直流入力電圧をVdとすると、変調率khは次の式(3)で計算される。
【0098】
kh=Vs
*/(Vd/2) 式(3)
【0099】
ここで、変調方式を切り替える際に用いる変調率khの大きさ(閾値)は、三相インバータ回路17Aの第1〜第6のスイッチング素子SIup〜SMwnのスイッチング損失を含めた三相インバータ回路全体の損失の大きさによって決定される。そのため、変調率khの閾値は、あらかじめ変調方式判定部45に記憶させておく。したがって、変調率演算部45で式(3)のように算出された変調率khが、あらかじめ記憶されている所定の閾値を超えた場合に、変調方式判定部45は、スイッチング損失の小さい変調方式を切り替えて用いればよい。
【0100】
ここで、本実施形態の構成である、
図12に示す三相インバータ回路17Aの上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpにIGBT、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnにMOSFETを配置した場合を例に挙げて説明する。
【0101】
図7に示すように、低入力時(低負荷時)にはIGBTと比べてMOSFETの方が低損失のため、下固定120度二相変調を行うことで高効率となる。しかし、MOSFETとしてスーパー・ジャンクション・MOSFETのような寄生ダイオードの逆回復時間が大きい素子を使用した場合には、下固定120度二相変調を行うことで、上アームと下アームにIGBTを用いた三相インバータ回路の場合と比べて、スイッチング損失がさらに悪化してしまう。
【0102】
このため、下アームにスーパー・ジャンクション・MOSFETを用いたために変調率が大きくなってスイッチング損失が悪化してきた場合、変調方式判定部37は、その変調率に相応しい変調方式として、スイッチング損失の小さい上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調を用いる判定を下す。このように、変調率の大きさに応じてスイッチング損失の少ない変調方式を切り替えて用いることにより、三相インバータ回路17Aを含むモータ制御装置11Bの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0103】
ここで、変調方式を切り替える具体的なトリガポイントとしては、通常、変調率は1以下であるが、例えば、三相インバータ回路17Bと負荷である三相同期モータ15との間のハンチング現象などによって変調率が1.15以上になった場合には、下固定120度二相変調に代えて、上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調を切り替えて用いればよい。
【0104】
図14は、変調率が1のときに三相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図15は、変調率が1のときに下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
【0105】
図14に示すように、三相変調の場合は、変調率が1のときはPWMデューティが0〜100%まで変化した出力電圧波形のピークが最大となり、これ以上変調率を上げると波形が歪んでしまう。これに対して、
図15に示すように、下固定120度二相変調の場合は、変調率が1のときでもPWMデューティは最大で85%程度であって、出力電圧波形のピークは100%に達していない。このことは、下固定120度二相変調の場合は3相変調に比べて変調率に余裕があることを示している。
【0106】
一方、変調率が例えば1.1以上、好ましくは1.15以上の領域は、過変調領域である。すなわち、これ以上変調率を大きくすると、三相同期モータ15に印加される線間電圧の波形は正弦波を保てずに歪んでしまう。このため、実際に三相同期モータ15に印加される線間電圧としては、これ以上増大することはない。
【0107】
図16は、過変調時に上下60度固定二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
図17は、過変調時に下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合の出力電圧波形を表わす図である。
【0108】
図16に示すように、過変調時に上下60度固定二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合は、電流値のピーク付近ではデューティが100%または0%となり、PWMのスイッチングは行われていない。一方、
図17に示すように、過変調時に下固定120度二相変調を用いて三相インバータ回路17Aを駆動した場合は、電流値のピーク付近でデューティが100%と比べてやや低くなっているので、上アームに配置されたIGBTに対してPWMのスイッチングが行われる。そのためスイッチング損失が悪化してしまう。
【0109】
なお、図には示していないが、過変調時における上固定120度二相変調の場合もピーク付近でPWMのスイッチングが行われるが、このときは、下アームに配置されたMOSFETのスイッチングの比率が多いため、上アームに配置されたIGBTのスイッチングの比率が多い下固定120度二相変調に比べてスイッチング損失は小さくなる。また、上下60度固定二相変調の場合も、下固定120度二相変調の場合と比べて下アームに配置されたMOSFETのスイッチングの比率は小さくなるため、スイッチング損失は小さくなる。その結果、三相インバータ装置17Aの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0110】
このように、変調率が例えば1.15以上の過変調になった場合は、下固定120度二相変調に代えて、上下60度固定二相変調、または。上固定120度二相変調を切り替えて用いることにより、三相インバータ装置17Aを含むモータ制御装置11Bの高効率運転を的確に遂行することができる。なお、実際には、変調方式を切り替えるための変調率の閾値に余裕を持たせ、例えば、変調率が1.10〜1.15の間で変調方式を切り替えることが望ましい。
【0111】
〈第2実施形態に係るモータ制御装置11Bの作用効果〉
第2実施形態に係るモータ制御装置11Bによれば、三相インバータ回路17Aの変調率に基づいて、予め用意された変調方式(三相変調、上下60度固定二相変調、上固定120度二相変調、および下固定120度二相変調)のなかから、最も低損失となる変調方式を判定し、この判定結果に係る変調方式を切り替えて用いることにより、三相インバータ回路17Aを含むモータ制御装置11Bの高効率運転を的確に遂行することができる。また、変調率が過変調になった場合でも、三相インバータ回路17Aにおけるスイッチング素子のスイッチング損失を低減させるように変調方式を切り替えて用いる構成を採用したので、三相インバータ装置17Aを含むモータ制御装置11Bの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0112】
《第3実施形態》
図1または
図12に示すように、第1実施形態および第2実施形態では、直流電源13によって三相インバータ回路17Aを駆動したが、この直流電源13を、直流出力電圧の制御が可能なコンバータ回路に置き換えることができる。
【0113】
図18は、本発明の第3実施形態に係る三相インバータ回路の直流電源であって、交流側にリアクタを備えて直流出力電圧を制御するコンバータ回路100Aの構成を示すブロック図である。
図18に示すように、コンバータ回路100Aの主回路は、商用電源101に直列に接続されるリアクタ103と、商用電源101の交流電圧を直流電圧に整流するダイオードブリッジ105と、ダイオードブリッジ105で整流された直流電圧に含まれる脈動成分を平滑する平滑キャパシタ107と、ダイオードブリッジとトランジスタが逆並列に接続された双方向性スイッチ109とを備えて構成されている。
【0114】
また、コンバータ回路100Aの制御系は、商用電源101の交流電圧のゼロクロス点(すなわち、交流電圧がゼロ電位を通過するタイミング)を検出するゼロクロス検出部111と、コンバータ回路100Aの直流出力電圧を検出する直流電圧検出部113と、を備えて構成されている。ちなみに、外部の制御器115には、コンバータ回路100Aの直流出力電圧を制御するコンバータ制御部117が内蔵されている。
【0115】
このような構成により、コンバータ制御部117が、ゼロクロス検出部111からのゼロクロス電圧と直流電圧検出部113からの直流出力電圧とに基づいて、双方向性スイッチ109に属するトランジスタを制御する。これにより、交流電圧のセロクロス点に同期して、商用電源101に直列に接続されたリアクタ103に流れる電流が制御されるので、ダイオードブリッジ105は、同期整流を行いながら電圧が制御された直流電圧を出力することができる。したがって、コンバータ回路100は、直流電圧が制御されて平滑キャパシタ107で平滑された直流出力電圧を、
図1または
図12に示す三相インバータ回路11Aへ供給することができる。
【0116】
要するに、コンバータ制御部117は、ゼロクロス検出部111が検出した交流出力電圧波形に同期させながら、直流電圧検出部113からフィードバックした直流出力電圧に基づいて双方向性スイッチ109を短絡動作させるので、商用電源101側のリアクタ103に流れる交流電流を制御することができる。これによって、コンバータ回路100は、ダイオードブリッジ105から出力される直流電圧を制御することができると共に、力率改善と高調波抑制とを行うことができる。
【0117】
図19は、本発明の第3実施形態に係る三相インバータ回路の直流電源であって、直流側にリアクタを備えて直流出力電圧を制御するコンバータ回路の構成を示すブロック図である。
図19に示すように、コンバータ回路200の主回路は、商用電源201の交流電圧を直流電圧に整流するダイオードブリッジ203と、ダイオードブリッジ203の正極側出力端子に直列に接続されたリアクタ205と、リアクタ205の出力側端子とダイオードブリッジ203の負極側出力端子との間に順方向に接続されたトランジスタ207と、リアクタ205の出力側端子に順方向に接続された逆流防止ダイオード209と、ダイオードブリッジ203で整流された直流電圧に含まれる脈動成分を平滑する平滑キャパシタ211と、を備えて構成されている。
【0118】
コンバータ回路200の制御系は、コンバータ回路200の直流出力電圧を検出する直流電圧検出部213と、コンバータ回路200の直流出力電流を検出する直流電流検出部215と、と、を備えて構成されている。ちなみに、外部の制御器217には、コンバータ回路200の直流出力電圧を制御するコンバータ制御部219が内蔵されている。
【0119】
図19に示す構成のコンバータ回路200によれば、コンバータ制御部117は、直流電圧検出部113からフィードバックした直流出力電圧と、直流電流検出部215からフィードバックした直流出力電流とに基づいて、トランジスタ207を導通制御させるので、ダイオードブリッジ203の出力側のリアクタ205に流れる直流電流を制御することができる。これによって、コンバータ回路200は、ダイオードブリッジ203から出力される直流電圧を制御することができる。したがって、コンバータ回路100は、電圧が制御されて平滑キャパシタ211で平滑された直流出力電圧を、
図1または
図12に示す三相インバータ回路17Aへ供給することができる。
【0120】
要するに、例えば、
図18に示す交流側のリアクタ103によってコンバータ回路100Aの直流出力電圧を制御する方法と、
図19に示す直流側のリアクタ205によってコンバータ回路200の直流出力電圧を制御する方法とがある。したがって、
図18または
図19に示すような直流出力電圧の制御が可能なコンバータ回路100Aまたはコンバータ回路200を三相インバータ回路17Aの入力電源に用いることにより、三相インバータ回路17Aの直流入力電圧を任意に変化させることができる。その結果、第2実施形態で述べた変調率に基づいて適切な変調方式を用いる利点をよりよく発揮することができる。
【0121】
《第4実施形態》
図1または
図12に示したように、第1実施形態および第2実施形態では、直流電源13によって三相インバータ回路17Aを駆動したが、この直流電源13を、全波倍電圧制御が可能なコンバータ回路に置き換えることができる。
【0122】
図20は、本発明の第4実施形態に係る三相インバータ回路の直流電源であって、全波倍電圧制御が可能はコンバータ回路の構成を示すブロック図である。
図20に示す全波倍電圧制御が可能なコンバータ回路100Bは、直流出力電圧を制御する構成要素については
図18に示すコンバータ回路100Aと同じであって同じ符号が付してある。したがって、重複する説明は避けて、全波倍電圧制御を行う構成要素のみについて構成と動作を説明する。
【0123】
図20に示すように全波倍電圧制御が可能なコンバータ回路100Bは、
図18に示すコンバータ回路100Aの平滑キャパシタ107の代わりに、倍電圧コンデンサ107A,107Bが直列接続されてダイオードブリッジ105に並列に接続されている。また、倍電圧コンデンサ107Aと倍電圧コンデンサ107Bの接続点から、ダイオードブリッジ105の一方のアームを構成する2つのダイオードの接続点へ、全波倍電圧切り替えスイッチ119が接続されている。
【0124】
さらに、制御系として、外部の制御器115に内蔵されていて、コンバータ回路100Bの直流出力電圧を制御するコンバータ制御部117から全波倍電圧切り替えスイッチ119へ、該全波倍電圧切り替えスイッチ119をオン、オフさせるための制御信号線が接続されている。
【0125】
このような構成により、コンバータ回路100Bは、前記の
図18のコンバータ回路100Aで説明した動作と同様に直流出力電圧の制御を行うと共に、さらに、全波倍電圧切り替えスイッチ119をオン、オフ動作させることにより、全波倍電圧の直流出力電圧を、例えば、
図1または
図12に示す三相インバータ回路11Aへ供給することができる。
【0126】
ここで、コンバータ回路100Bが行う全波倍電圧に係る制御の概要について説明する。ダイオードブリッジ105が交流電圧の正の半サイクルで倍電圧コンデンサ107a,107bを充電しているときは、全波倍電圧切り替えスイッチ119はオフになっている。次に、ダイオードブリッジ105が交流電圧の負の半サイクルで整流するときは、コンバータ制御部117は全波倍電圧切り替えスイッチ119をオンさせる。これによって、倍電圧コンデンサ107bのみが充電される。この結果、直列に接続された倍電圧コンデンサ107A,107Bの両端(つまり、コンバータ回路100Bの出力端子)には、全波倍電圧が発生する。
【0127】
したがって、
図20に示すような、直流出力電圧の制御が可能であって、かつ全波倍電圧の制御が可能なコンバータ回路100Bを、
図1または
図12の三相インバータ回路17Aの入力電源として用いることにより、三相インバータ回路17Aの直流入力電圧を大きく変化させることができる。その結果、第2実施形態で述べた変調率に基づいて適切な変調方式を用いる利点をよりよく発揮することができる。
【0128】
《第5実施形態》
図21は、本発明の第5実施形態に係るモータ制御装置の全体構成を表すブロック図である。
図21に示す第5実施形態に係るモータ制御装置11Cは、
図1に示す第1実施形態に係るモータ制御装置11Aと、
図12に示す第2実施形態に係るモータ制御装置11Bとを組み合わせて、スイッチング素子に係る接合部温度Tjと、回路電流Ioと、変調率khとに基づいて、適切な変調方式を切り替えて用いる構成を採用したものである。したがって、
図21に示す第5実施形態に係るモータ制御装置11Cは、
図1および
図12で説明した構成要素のみから構成されているので、重複する構成の説明は省略する。
なお、温度実測部30の回路構成は省略されているが、
図1に示す温度実測部30の回路構成と同じである。
【0129】
ただし、
図21に示す第5実施形態に係るモータ制御装置11Cでは、変調方式制御部23の変調方式判定部37は、スイッチング素子に係る接合部温度Tjと、三相インバータ回路17Aの回路電流Ioと、変調率演算部45からの変調率khとに基づいて、変調方式を判定している。
【0130】
第5実施形態に係るモータ制御装置11Cによれば、スイッチング素子に係る接合部温度Tjと、三相インバータ回路17Aの回路電流Ioと、変調率khとに基づいて、スイッチング損失の小さい変調方式を切り替えて用いることにより、モータ制御装置11Cの高効率運転を的確に遂行することができる。
なお、スイッチング素子に係る接合部温度Tjの推定方法および変調率の演算方法は、前記の第1実施形態および第2実施形態と同様の方法を用いる。
【0131】
具体的には、例えば、入力電流が小さくて素子温度が低い場合には、下固定120度二相変調を用い、変調率が高くなりスイッチング素子のスイッチング損失が増大して運転効率が悪化するような場合は、上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調を切り替えて用いればよい。このようにして、スイッチング素子に係る接合部温度Tjと、三相インバータ回路17Aの回路電流Ioと、変調率khとに基づいて、スイッチング損失を含めた三相インバータ回路全体の損失が小さい変調方式を切り替えて用いることにより、モータ制御装置11Cの高効率運転を的確に遂行することができる。
【0132】
《第6実施形態》
第6実施形態では、
図21に示す第5実施形態に係るモータ制御装置11Cの直流電源1を、
図18、
図19に示す第3実施形態の直流出力電圧の制御が可能なコンバータ回路100A,200、または、
図20に示す第4実施形態の全波倍電圧の制御が可能なコンバータ回路100Bに置き換える。これによって、変調率に基づく変調方式を用いる利点をよりよく発揮することができる。
【0133】
《第7実施形態》
第1〜第6実施形態では、三相インバータ回路17Aの上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpにIGBTを配置し、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnにMOSFETを配置した。第7実施形態では、これとは逆に、上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpにMOSFETを配置し、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnにIGBTを配置する。この場合でも、スイッチング素子に係る接合部温度Tj、三相インバータ回路17Aの回路電流Io、または、変調率khのうち適宜の組み合わせに基づいて、回路全体の損失が少ない変調方式を選択的に用いることにより、モータ制御装置の高効率運転を的確に遂行することができる。
【0134】
《第8実施形態》
第1〜第7実施形態では、三相インバータ回路17Aの上アームまたは下アームのスイッチング素子としてMOSFETを使用したが、第8実施形態では、MOSFETと比べてもオン抵抗が低いスーパー・ジャンクション・MOSFET(SJ(Super Junction)−MOSFET)を使用する。これによって、さらに高効率な三相インバータ回路を実現することができる。
【0135】
《第9実施形態》
第1〜第7実施形態では、三相インバータ回路17Aの上アームまたは下アームのスイッチング素子としてMOSFETを使用したが、第9実施形態では、MOSFETと比べてもオン抵抗が低いシリコン・カーバイド・MOSFET(SiC(Sillicon Carbide)−MOSFET)を使用する。これによって、さらに高効率な三相インバータ回路を実現することができる。
【0136】
《第10実施形態》
第1〜第7実施形態では、IGBTとMOSFET、またはIGBTとSJ−MOSFET、またはIGBTとSiC−MOSFETを組み合わせた三相インバータ回路について説明した。第10実施形態では、SJ−MOSFETとSiC−MOSFETを組み合わせた三相インバータ回路を使用する。この場合は、さらに高効率な三相インバータ回路を実現することができる。これについて、以下、
図22および
図23を用いて説明する。
【0137】
図22は、Si−MOSFET、SJ−MOSFET、およびSiC−MOSFETの素子温度とオン抵抗との関係を表す特性図である。
図22において、横軸に素子温度、縦軸にオン抵抗を表している。
図22に示すように、Si−MOSFETとSJ−MOSFETは正の温度特性があるために素子温度が高くなるとオン抵抗が大きくなる。しかし、SiC−MOSFETは素子温度が上昇してもオン抵抗がほとんど変化しない特性を有している。また、SiC−MOSFETとSJ−MOSFETは、Si−MOSFETに比べてオン抵抗が低い特性を有している。このような低オン抵抗の特性を利用して、三相インバータ回路の上下アームのスイッチング素子にSJ−MOSFETとSiC−MOSFETを組み合わせて利用することが望ましい。
【0138】
図23は、本発明の第10実施形態に係るモータ制御装置11Dの全体構成を表すブロック図である。
第10実施形態では、
図23に示すように、三相インバータ回路17Bの上アームに属するスイッチング素子SIup,SIvp,SIwpにSiC−MOSFETを配置し、下アームに属するスイッチング素子SMun,SMvn,SMwnにSJ−MOSFETを配置した構成となっている。
図23では、上アーム、下アーム共に同じMOSFETのシンボルとなっている。なお、三相インバータ回路17B以外は、
図1に示した第1実施形態に係るモータ制御装置11Aと同じ構成であるので、重複する説明は省略する。
【0139】
また、
図22に示す素子特性とは異なり、SJ−MOSFETとSiC−MOSFETのオン抵抗を比較したときに、SJ−MOSFETの方が、オン抵抗の小さい場合がある。このような場合は、下アームのSJ−MOSFETの電流通流率を高めることで高効率となる。しかし、素子温度が上昇するとSJ−MOSFETのオン抵抗が増大し、SJ−MOSFETとSiC−MOSFETのスイッチング損失の大小関係が逆転するため、スイッチング素子の高温時には、上アームのSiC−MOSFETへの電流通流率を高めることで高効率運転を維持することができる。
【0140】
このようなことから、
図23に示す三相インバータ回路17Bにおいて、スイッチング素子に係る温度が低温の時には、下アームへの電流通流率を高めるように下固定120度二相変調を行う。また、スイッチング素子に係る温度が高温の時には、上アームへの電流通流率を高めるように、上下60度固定二相変調、または上固定120度二相変調に切り替える。これによって、
図23に示す第10実施形態に係るモータ制御装置11Dは、高効率運転を維持することができる。
【0141】
また、三相インバータ回路17Bの構成として、上アームにSJ−MOSFETを配置し、下アームにSiC−MOSFETを配置した場合についても、モータ制御装置11Dの高効率運転は発揮される。この場合は、スイッチング素子に係る温度が低温の時には上固定120度二相変調を用い、スイッチング素子に係る温度が高温の時には、上下60度固定二相変調、または、下固定120度二相変調を切り替えて用いればよい。
【0142】
《第11実施形態》
第1〜第10実施形態では、スイッチング損失を低減するために、スイッチング素子に係る接合部温度、三相インバータ回路の回路電流、または、変調率に基づいて、変調方式を切り替えて用いる方法について説明した。これは、スイッチング素子として使用するMOSFETの還流ダイオード(寄生ダイオード)の逆回復時間が大きいため、MOSFETとアームが対になっているIGBTがスイッチングすることで、大きな逆回復電流が発生するためである。そこで、回路電流、素子温度、または変調率によって変調方式を切り替える方法の他に、MOSFETの還流ダイオードとしてシリコン・カーバイドを用いた素子であるSiC−ショットキー・バリヤ・ダイオード(SiC−SBD(Schottky Barrier Diode))を使用するとスイッチング損失をさらに低減させることができる。
【0143】
このSiC−SBDは、一般的なファースト・リカバリ・ダイオード(FRD:Fast Recovery Diode)などに代表される、Si(シリコン)を使用したダイオードの逆回復特性を改善した素子であり、逆回復電流の低減に効果がある。これについて、
図24に示すような、MOSFETに逆並列にSiC−SBDを接続した回路構成を表した図を用いて説明する。すなわち、MOSFETの還流ダイオードとして、
図24に示すように、MOSFET51のドレイン−ソース間にSiC−SBD53を接続し、還流電流を寄生ダイオード55と比べてもSiC−SBD53に多く流して逆回復電流を抑えることで、スイッチング損失のさらなる低減に有効となる。
【0144】
なお、還流ダイオードとしてのSiC−SBDは、MOSFETのドレインとソースとの間、または、IGBTのコレクタとエミッタとの間の両者またはいずれか一方に、接続する構成を採用することができる。
【0145】
《第12実施形態》
第1〜第10実施形態では、モータ制御装置について説明したが、第12実施形態として、第1〜第10実施形態に係るモータ制御装置を空気調和機に使用することで、高効率な空気調和機を実現することができる。すなわち、第1〜第10実施形態に係るモータ制御装置によって、三相同期モータの駆動制御を行うように構成された空気調和機を採用すれば、高効率で高い省エネ性能を有する空気調和機を提供することができる。
具体的には、例えば、これらのモータ制御装置を空気調和機に搭載し、該モータ制御装置を空気調和機の室外ファンモータの駆動制御の用途に適用すると、高効率で高い省エネ性能を有する空気調和機を実現することができる。
【0146】
空気調和機は、
図6および
図7に示す低負荷領域(中間・定格領域)での運転効率を向上させることで、省エネ性能を表す指数であるAPF(Annual Performance Factor)を大きく向上させることができる。本発明の各実施形態に係るモータ制御装置では、三相インバータ回路の回路電流やスイッチング素子に係る温度や変調率に応じて変調方式を最適に切り替えている。そのため、本発明の各実施形態に係るモータ制御装置を介して省エネ性能の高い空気調和機を提供することができる。
【0147】
《まとめ》
以上、本発明に係るモータ制御装置および空気調和機の実施形態について具体的に説明したが、本発明は前述した各実施形態の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。