【文献】
Gold nanoparticles as carriers of cisplatin:A new approach for cancer treatment,TRENDS IN NANOTECHNOLOGY CONFERENCE TNT2008,2008年 9月1日,Oviedo−Spain
【文献】
Journal of Biomedical Materials Research PartA,2008年,Vol.85, No.3,p.787−796
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
式(II)のリンカーにおいて、m=10であり、式(III)のリンカーにおいて、p=2及びr=4である請求項13から14の何れか一項に記載のコンジュゲート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、「コンジュゲート」なる用語は、白金を含む他の化合物に結合している金、銀又は白金ナノ粒子を意味する。特に、NP−L−Aとも呼ばれるコンジュゲートなる用語は、SとAuの間で生じるもの(45kcal/mol)のような疑似共有結合(pseudo-covalent bond)を介してリンカーLに結合しており、リンカーLがO とPt間の配位結合(約4kcal/mol)を通して白金化合物に結合している、金、銀又は白金ナノ粒子を意味する。配位結合はpHの弱い変動には感受性ではない。よって、上記配位置結合は5より低いpHでのみ加水分解され、それによって白金薬剤を放出する。よって、コンジュゲートが血清中で安定である一方、腫瘍細胞のエンドリソソーム中で生じるようにpHが低下すると、その薬剤添加物を放出する。
【0017】
本発明のコンジュゲートは媒体中においてコロイド安定性を有している。これは、本発明のコンジュゲートは、他の媒体に分散せしめられたときに、凝集(つまり、沈殿)に対して抵抗できることを意味する。よって、得られる分散物は長い有効期間を示し、溶液の外観を有している。
【0018】
本発明のコンジュゲートのコロイド安定性は、コンジュゲートが安定ではないならば、遊離の薬剤に対してインビボでもインビトロでも有益性を示さないので、必須である。
【0019】
好ましい実施態様では、コンジュゲートは、中性(7)に近いpHと高い生理食塩水濃度を含む身体又は身体機能の条件又は状態である生理的条件においてコロイド安定性を示す。
【0020】
紫外可視分光法はコンジュゲートのコロイド安定性を決定するための有用な技術である。
【0021】
図2は、0.04mMから0.3mMの範囲の異なった負荷の白金化合物をそれぞれ含有する幾つかのコンジュゲート(NP:20nmの金ナノスフィア、L:11−メルカプトウンデカン酸(MUA)、A:シスプラチン)に対する紫外可視スペクトルを示す。不可逆的な凝集(つまり、表面プラズマ共鳴(SPR)ピークの赤色シフト及び広幅化)が、白金化合物の濃度がリンカーシェルによって与えられる全ての負の電荷をクエンチするのに十分に高い場合に見ることができる。よって、0.10mMのシスプラチンから、凝集物の形成が観察され、0.20mMから、凝集が不可逆的であり、試料の沈殿に至る。
【0022】
以下に詳細に記載されるように、コロイド安定性を有するコンジュゲートの調製において、十分な量のリンカー分子が脱プロトン化されたままであるように、リンカー分子に結合される白金化合物分子の数を制御することが重要である。よって、コンジュゲートが支持できる白金化合物の濃度は表面電荷に関連する。作用pHでリンカー分子は脱プロトン化され、従って荷電される。一般には、作用pHは、生理的条件下のpHに対応する。白金配位錯体の添加はその電荷の一部をクエンチする。これは、与えられたpHにおけるζ電位値の減少によって測定されうる。コロイド粒子が凝集に対して安定であるには一般に約30mV(正又は負)を必要とすることがよく知られている。この値は、pH及びイオン強度に依存する。少なくとも25mVの表面静電絶対電荷を有する本発明のコンジュゲートはまた安定であり、本発明の一部をまた形成する。よって、特定の実施態様では、本発明は、生理的条件下で少なくとも25mVのゼータ電位絶対値である少なくとも25mVの表面静電絶対電荷を有する式(I)のコンジュゲートに関する。他の実施態様では、式(I)のコンジュゲートは、生理的条件下で少なくとも30mVのゼータ電位絶対値である少なくとも30mVの表面静電絶対電荷を有する。
【0023】
本発明のコンジュゲートは、金、銀又は白金製のナノ粒子(ここではNPとも称される)を含有する。これらの金属は、式(IIa)又は式(IIIa)
(ここで、X、n、p、Y及びsは上述の意味を有する)
の化合物の硫黄基のような、硫黄基(SH及びジスルフィドS−S基の双方を含む)に対して高い親和性を示す。
【0024】
よって、遊離のSH基又はジスルフィド基は金属ナノ粒子と自然に反応して疑似共有結合金属−Sを形成する傾向が強い。リンカーとナノ粒子との間の強い結合はリンカー分子の脱離を避けるために必要とされる。
【0025】
加えて、無機ナノ粒子は、例えばガンマ線、X線、近赤外線(NIR)又は紫外可視及びマイクロ波を含む電磁場に対する良好なアンテナである。
【0026】
本発明の好ましい実施態様では、金ナノ粒子(AuNP)が使用される。AuNPは強い表面プラズモン亢進吸収と散乱性を有し、画像標識及び造影剤としてそれらを理想的にする。それらは光退色を受けにくく、生体適合性があり、非細胞傷害性である。更に、それらはその共鳴周波数で光を吸収するとき加熱され得、癌の光熱療法を可能にする。
【0027】
本発明の目的において、「ナノ粒子」なる用語は、異なった形状及びサイズを有しうるナノメートルサイズの粒子を意味する。ここに記載されたナノ粒子の形状に関しては、球状体及び平坦な面及び真っ直ぐな縁部を含む多面体が本発明の範囲に含まれる。このような多面体の例は、限定しないが、立方体、角柱体及び棒状体を含む。多面体は、それらが近赤外線(NIR)感受性でありうるという利点を有しており、よってナノ粒子は局所的に加熱されうる。好ましい実施態様では、ナノ粒子は球状である。好ましい実施態様では、ナノ粒子は金ナノ粒子である。
【0028】
ナノ粒子のサイズは、延長した血漿寿命を可能にする、つまりコンジュゲートが、超透過性腫瘍毛管に遭遇するまで全身性循環中に残るようなものでなければならない。
【0029】
ナノ球状体の場合、直径は3から100nmの範囲、好ましくは4から20nmの範囲からなる。
【0030】
ナノ立方体及びナノ角柱体の場合、サイズは、ナノ立方体又はナノ角柱に内接し、可能な最大の直径を有する球体によって定義される。双方の場合、上記球体の直径は3から100nmの範囲、好ましくは4から20nmの範囲からなる。
【0031】
更に、棒状体の場合、サイズは100nm長で15nm幅、好ましくは45nm長×15nm幅である。
【0032】
上述のサイズ値は、腎臓を避けるのに十分に大きく、細網内皮系、細網結合組織に位置する食細胞、主に単球及びマクロファージからなる免疫系の一部を避けるのに十分に小さいコンジュゲートを生じる。更に、(アミノ酸又は小ペプチドのような必須の小分子のものを越える)本発明のコンジュゲートのこのサイズはエンドサイトーシスを促進する。
【0033】
より好ましい実施態様では、本発明のナノスフィアは、約10nmの直径を有する。他のより好ましい実施態様では、本発明は、その内接球が約10nmの直径を有しているナノ立方体及びナノ角柱体に関する。最も好ましい実施態様では、本発明のナノ粒子は、4から20nmの直径を有する金ナノスフィアである。
【0034】
既に述べたように、本発明のコンジュゲートは、式(II)、式(III)、及び式(II)及び(III)の何れかの立体異性体からなる群から選択されるリンカーLを含み、
ここで、X、n、p、Y及びsは先に記載された意味を有する。
【0035】
上述したように、式(I)NP−L−Aの表面荷電コンジュゲートにおいて、必ずしも全てのリンカーLが白金化合物に結合しているものではないが、遊離のカルボキシル基の形態にある、つまり、式(I)NP−L−Aのコンジュゲートにおいて、白金ビラジカルAの幾つかは存在してない。一般に、これらの遊離のカルボキシル基は中性又は塩基性条件下で脱プロトン化される。特定の実施態様では、式(I)NP−L−Aの表面荷電コンジュゲートにおいて、リンカーLの少なくとも45%が遊離のカルボキシル基の形態にある、つまり、式(I)NP−L−Aの表面荷電コンジュゲートにおいて、白金ビラジカルの少なくとも45%が存在していない。
【0036】
本発明の目的に対して、(C
2−C
20)炭化水素鎖なる用語は、2から20炭素原子を含む直鎖状又は分枝状の炭化水素鎖に関し、ここで、少なくとも一つの炭素原子はCO基又はOとNからなる群から選択されるヘテロ原子によって場合によっては置き換えられていてもよく、またこれは場合によっては二重結合及び/又は三重結合の形態の一又は複数の不飽和を含みうる。(C
2−C
20)炭化水素鎖は、ハロゲン、OH、CONH
2、CO
2(C
1−C
6)アルキル及び−CHOからなる群から選択される一又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0037】
更に、Lが式(II)のリンカーである場合、それは唯一の利用可能な硫黄原子を通してナノ粒子NPに結合している一方;Lが式(III)のリンカーである場合、それは二つの硫黄原子を通してナノ粒子NPに結合している。
【0038】
特定の実施態様では、X及びYは独立して上述の未置換の(C
2−C
20)炭化水素鎖を表す。
【0039】
好ましい実施態様では、式(II)のリンカーにおいて、Xは−(CH
2)
m−を表し、式(III)のリンカーにおいて、Yは−(CH
2)
r−を表し、ここで、mは、m+nが2から10の値を表す条件で、2から10の値を表し;rは、r+sが2から10の値を表す条件で、2から10の値を表す。
【0040】
より好ましい実施態様では、式(II)のリンカーにおいて、n=0であり、式(III)のリンカーにおいて、s=0である。この特定の場合では、リンカー分子は直鎖状であり、より多くの分子がナノ粒子に結合されうる。
【0041】
更により好ましい実施態様では、式(II)のリンカーにおいて、n=0かつm=0であり;式(III)のリンカーにおいて、p=2、s=0及びr=4である。
【0042】
式(I)のコンジュゲートにおいて、リンカーLは、上述のように白金(II)ビラジカルに更に結合している。よって、Lが式(II)のリンカーで、n=1であるか、又は式(III)のリンカーで、s=1である場合;白金(II)ビラジカルはリンカーの一分子に結合し、よって同じリンカー分子と2つのCOO−Pt結合を形成する。次のスキームにおいては、Lが式(II)のリンカーで、n=1であり、Aが式(IV)、(V)及び(VI)からなる群から選択される白金(II)ビラジカルである3つのコンジュゲートが示される。
【0043】
更に、Lが式(II)のリンカーで、n=0であるか、又は式(III)のリンカーで、s=0である場合;白金(II)ビラジカルは二つの独立したリンカー分子に結合し、よってこれらの二つのリンカー分子の各々とCOO-Pt 結合を形成する。次のスキームにおいて、Lが式(II)のリンカーで、n=0であり、Aが式(IV)、(V)及び(VI)からなる群から選択される白金(II)ビラジカルである3つのコンジュゲートが示される。
【0044】
好ましい実施態様では、式(I)のコンジュゲートは、Xが−(CH
2)
m−を表す式(II)のリンカー、又はYが−(CH
2)
r−を表す式(III)のリンカーを含み、ここで、mは、m+nが2から10の値を表す条件で、2から10の値を表し;rは、r+sが2から10の値を表す条件で、2から10の値を表す。
【0045】
より好ましい実施態様では、式(I)のコンジュゲートは、X が−(CH
2)
m−を表し、n=0である式(II)のリンカー、又はYが−(CH
2)
r−を表し、s=0である式(III)のリンカーを含む。更により好ましい実施態様では、式(I)のコンジュゲートは、Xが−(CH
2)
m−を表し、n=0である式(II)のリンカーを含む。
【0046】
本発明の他の好ましい実施態様では、Aは式(IV)の白金(II)ビラジカルを表す。
【0047】
最も好ましい実施態様では、式(I)のコンジュゲートは、Xが−(CH
2)
m−を表し、n=0である式(II)のリンカー、及び式(IV)の白金(II)ビラジカルを含む。
【0048】
式(IV)、(V)及び(VI)の白金ビラジカルの立体異性体がまた本発明の一部を形成する。
式(IV)、(V)及び(VI)の白金ビラジカルは、アニオンと共に塩を形成しうる。塩の形態のビラジカルにおいて存在しうるアニオンの非限定的な例は、塩化物、硝酸塩又は水酸化物である。
【0049】
式(I)のコンジュゲートにおいて、Aはシス立体配置を実質的に有する白金(II)ビラジカルである。これは、白金(II)化合物の少なくとも80%がシス立体配置を示していることを意味している。
【0050】
本発明の白金化合物は、次のスキームに示されるように、二つの異なった側を有しており、左側(反応性側)は癌細胞のDNAに結合するように設計される。N原子を含む右側(不活性側)は薬剤の生体内分布を担う。
【0051】
一般に、白金化合物での式(I)のコンジュゲートの部分的な官能化は表面の混乱を生じる。特にその反応性端部による、ナノ粒子への白金含有薬剤の分子の充填は、分子を、それらが放出されるまで生分解から保護する。この事実は、COO−基の高度の疎水性と共にオプソニン化、つまりオプソニンと呼ばれる特別なタンパク質での粒子の被覆と、続く食細胞による認識と肝臓中への輸送を防止する。よって、コンジュゲートが標的細胞に達すると、多量の白金含有薬剤が投与されうる。よって、本発明のコンジュゲートは、上で述べられたように、それらが媒体中において沈殿しないという意味で、また白金含有薬剤が作用環境中においてナノ粒子から離脱しないという意味で、安定である。
【0052】
NPが金ナノスフィアであり;Lが、Xが−(CH
2)
m−を表し、n=0で、m=2である式(II)のリンカーであり;Aが式(IV)の白金(II)ビラジカルである式(I)NP−L−Aのコンジュゲートの概略図を
図1に示す。
【0053】
上述のように、式(I)のコンジュゲートは、第一に中間体コンジュゲートNP−L’を調製し、第二に白金含有化合物をこの中間体コンジュゲートに結合させることによる、二工程プロセスによって簡便に調製されうる。
【0054】
該方法の第一工程においては、水溶液中の過剰の式(IIa)又は式(IIIa)の化合物、又はこれらの式の何れかの立体異性体又は塩が、L’が式(IIb)又は式(IIIb)のリンカー
又はこれらリンカーの何れかの立体異性体又は塩、例えばナトリウム塩である上述の式NP−L’の中間体コンジュゲートを生じせしめるために使用される。この第一工程を次のスキームに示す:
【0055】
一般に、過剰の式(IIa)又は式(IIIa)の化合物、又はこれらの式の何れかの立体異性体又は塩の存在下でのこの反応は、全表面がリンカーL’で被覆された中間体コンジュゲートNP−L’を生じることが仮定される。
【0056】
好ましい実施態様では、式(IIa)の化合物が使用され、これは、11−メルカプトンデカン酸(MUA)又は3−メルカプトプロパン酸(MPA)である。他の好ましい実施態様では、(またαリポ酸又はチオクト酸とも命名されている)ペンタン酸である式(IIIa)の化合物が使用される。
【0057】
小ナノ粒子は遠心分離によって精製するのが困難であるので、式(IIa)又は式(IIIa)の化合物の非反応性分子及び還元剤は、コンジュゲーション後に溶液中に存在するコロイド液の透析によって除去されうる。
【0058】
被覆されていない金属ナノ粒子は、サイズと形状の制御と共に単分散ナノ粒子の簡単でスケール変更可能な生産を可能にするナノ粒子の合成プロトコルを使用して調製することができる。特に、ナノ粒子は、還元剤中におけるAu、Ag及びPtの塩から選択される金属塩の迅速な注入によって調製することができ、よって、単分散金属ナノ粒子の生産に用いられる一時的に分散した均質な核形成を生じる。還元剤は、例えば高温でのシトレート(古典的なTurkevitch法)、水素化ホウ素ナトリウム又は水素化ホウ素ナトリウムとアスコルビン酸の混合物であり得、場合によっては臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を伴う。
【0059】
金属ナノ粒子の形成は、反応媒質中の色の変化によって観察することができる。使用される方法に応じて、得られたナノ粒子は、CTABのような正しい界面活性剤の存在下で異なったサイズと形状を有するであろう。
【0060】
第二工程では、式NP−L’の中間体コンジュゲートを、その全ての立体異性体を含む式(IVa)、式(Va)及び式(VIa)からなる群から選択される白金化合物と更に反応させ、
Aがそれぞれ式(IV)、式(V)及び式(VI)からなる群から選択される白金(II)ビラジカルであり、式(IV)、(V)及び(VI)のビラジカルが塩の形態であってもよい式(I)のコンジュゲートを生じせしめる。この反応は、式(IIb)又は式(IIIb)のリンカーL’のカルボン酸基を脱プロトン化させるために塩基の存在下、水溶液中で実施されうる。
【0061】
それらの全ての立体異性体を含む化合物(IVa)、(Va)及び(VIa)は、例えば塩化物又は硝酸塩のようなアニオンの存在下で塩を形成しうる。
【0062】
上述のように、式(I)の可溶性コンジュゲート、つまり媒体中でコロイド安定性を有するコンジュゲートを得るためには、幾らかの電荷が表面に維持され、凝集と沈殿を避けるためにNPsに十分な静電電荷と反発性を与えなければならない。よって、表面は、カルボキシル基(COO
−)で終端するリンカー分子で被覆され、生理的pHで脱プロトン化され、負の表面電荷をもたらす。 ついで、白金薬剤分子がカルボキシル末端の一部に結合し、表面電荷の幾らかが打ち消されるが、静電気的反発には十分な電荷を残す。
【0063】
所望の度合いの薬剤充填(つまり、不安定化と凝集を避けるのに十分な表面電荷を維持しながら最も高い可能な治療効果)に達するために、二つの異なったアプローチを採ることができる:a)上記の要求に合致する先に計算した量の白金化合物を、NP−L’中間体コンジュゲートと混合させることができ、又は別法ではb)過剰の白金化合物をNP−L’中間体コンジュゲートと混合させることができる。
【0064】
第一の場合では、白金(II)化合物の量を先に計算しなければならない。この量は常套的な仕事として容易に決定することができる。特に、様々な量の白金(II)化合物を使用する較正曲線を使用することができる。この背後の考えは、様々な量の白金(II)化合物を中間体コンジュゲートと反応させ、得られるコンジュゲートを紫外可視分光法によって分析することである。白金化合物の量が、コロイド安定性を有するコンジュゲートに導くには高すぎ、よって凝集体が形成される場合、これは、得られたコンジュゲートと対応する中間体コンジュゲートの紫外可視スペクトルを比較した場合の紫外可視ピークの赤色シフトによって検出することができる。よって、白金化合物の量は、凝集が観察されなくなるまで、引き続き低減される。
【0065】
第二の場合では、過剰の白金化合物が使用される場合、あまりに多くの白金化合物分子がリンカー分子に結合する前にコンジュゲーションが停止される。発明者は、リンカー被覆ナノ粒子への白金化合物の接合をモニターする場合、プロセスが効果的に停止されないと、白金化合物がリンカー層を被覆し続け、ナノ粒子が不安定になることを見出した。
図3は、10分毎に採った反応ありコートの紫外可視分光分析を示す(NP:20nmの金ナノスフィア,L:11−メルカプトウンデカン酸(MUA),A:シスプラチン)。実線で初期段階が表されている。ナノ粒子の安定性はこの段階では維持されているが、後の時間では幾らかの集塊物が観察されうる。破線では、安定性の喪失(MUA層によって与えられる安定性をシスプラチンがクエンチする)のため粒子の凝集がナノ粒子の沈殿を生じる最終段階が示されている。
【0066】
従って、過剰の白金化合物を用いて作業をする場合、リンカー分子への白金化合物の結合は、白金薬剤の電荷が最大であり、生じるコンジュゲートが尚も安定であるときに停止されなければならない。これは、自然に達成することはできない。コンジュゲーションを停止させるために、コンジュゲーション溶液を、例えば、そこから遊離の白金化合物分子が迅速に逃げて、白金化合物で部分的に被覆されたコンジュゲートNP−L’を残す透析バッグ中に配する。反応が停止されなければならない時間は、
図3に示されるものに類似した実験において先に計算することができる。この最後の手順は、より速くより制御されるという利点を有している。
【0067】
コンジュゲーションは、動的光散乱(DLS)、紫外可視分光法、ゼータ電位、透過型電子顕微鏡(TEM)、光学顕微鏡、ゲル電気泳動及び定量分析のためのICP−MSを含む一連の実験の組み合わせによってモニターすることができる。
【0068】
式(IVa)の化合物は、式(VII)(シスプラチン)又は 式(VIII)(カルボプラチン)の化合物から出発して合成することができ;式(Va)の化合物は、式(IX)(オキサリプラチン)の化合物から出発して合成することができ;また式(VIa)の化合物は、式(X)の化合物から出発して合成することができる。
【0069】
シスプラチンの場合、シスプラチン分子からClを除去し、水和種を得るために、AgNO
3のようなAgカチオン源を用いて化合物を処理することによって転換を実施する。カルボプラチンの場合は、当該分野でよく知られた標準法によるCOO結合の加水分解により式(IVa)の化合物に化合物を転換させる。同様に、式(VII)の化合物は類似の方法によって式(V)の化合物に転換させることができる。
【0070】
別法では、式(Va)及び(VIa)の化合物は、1)PtCl
4を対応するアミン:シクロヘキサン−1,2−ジアミン又はアンモニア/シクロヘキシルアミンと反応させて、中間体(Vb)及び(VIb)を得、
2)工程1)で得られた中間体を、Agカチオン源、例えばAgNO
3で処理して、Clを除去し、水和種(Va)及び(VIa)をそれぞれ得る
工程を含む2工程合成によって、得ることができる。
所望されない副産物、特にトランス白金化合物はクロマトグラフィーによって除去することができる。
【0071】
式(VII)から(X)の白金化合物の代わりに式(IVa)、(Va)又は(VIa)の白金化合物が中間体コンジュゲートNP−L’にコンジュゲートされるという事実は、重要な結果を有している。よって、本発明のコンジュゲートでは、リンカーと白金化合物の間で配位結合が形成される。これらの結合は、既に述べたように強く、特に生理的条件下で媒体中において、分子の安定性をもたらす。これらの結合は、エンドソーム及びエンドリソソームにおけるもののような低pHでのみ加水分解される。
【0072】
他方、従来技術に記載されているように、シスプラチンが式NP−L’の中間体コンジュゲートに直接コンジュゲートされる場合、リンカーと白金化合物の間に静電結合が形成される。一般に、静電結合は配位結合ほど強くない(電解質を含む水溶液中で約0.4Kcal/mol)。特に、これらの結合は、本発明のコンジュゲートとは異なり、コロイド不安定性(凝集及び沈殿)を示すコンジュゲートを生じる。これは実施例においてより詳細に示す。
【0073】
本発明の薬学的組成物は固体又は液体組成物として製剤化されうる。好ましい実施態様では、薬学的組成物の投与は、筋肉内、静脈内、腹腔内又は腫瘍内である。一般に、適切な製剤は、例えば抗酸化剤、バッファー及び静菌剤を含みうる適切なpH及び安定性を有する水性及び非水性、等張性滅菌注射溶液;及び懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、及び保存料を含みうる水性及び非水性滅菌懸濁液を含む。
【0074】
既に述べたように、本発明のコンジュゲートは、癌に罹患している患者において、特に外科手術が実施できない症例で、癌を治療するために有用でありうる。
【0075】
対象とされる代表的な癌は、限定しないが、頭部、頸部及び肺組織;胃腸管及び膵臓、例えば胃癌、結腸直腸腺腫、結腸直腸癌及び膵臓癌;肝臓組織、例えば肝細胞癌;腎臓及び尿管、例えば膀胱癌、腎臓癌;乳房組織、例えば乳癌;神経組織、例えば神経芽細胞腫及び悪性髄膜腫;皮膚組織、例えばメラノーマ;及び血液組織、例えばリンパ腫及び白血病を含む。
【0076】
当業者であれば、用量レベルが、とりわけ、特定の化合物、デリバリービヒクルの性質、及び治療される腫瘍の性質の関数として変動しうることは分かるであろう。特定の実施態様では、本発明のインビボ適用のための現実的な用量を得るには、コンジュゲートの濃度が約50倍増加される。この目的を達成するために、ナノ粒子を遠心分離によって沈殿させ、ペレットを回収し、如何なる安定性も失わせないで漸次減少する量の溶媒に再溶解させる。
【0077】
本発明のコンジュゲートは、シスプラチン及びアナログを用いた現在使用されている治療法と比較してそれらが副作用を低減するという利点を有している。
【0078】
本発明のコンジュゲートは、亢進された透過及び保持効果(EPR)の結果として腫瘍上に集中しうる。簡単に言えば、EPR効果は、腫瘍における欠陥のある組織完全性、透過メディエータの変化及び損なわれたリンパ性ドレナージの結果である。よって、腫瘍の血管内皮は、200nmまでのより大きな分子種が健常な組織におけるよりも組織を透過することを可能にする比較的大きな間隙を有する傾向がある。ついで、変化した透過メディエータ及び損なわれたリンパ性ドレナージの機序が、腫瘍に浸透した分子がそこに留まることを担保する。よって、本発明のコンジュゲートは、腫瘍中に受動的に蓄積し、そこからエンドサイトーシスによって内部移行する。投与が必要な白金薬剤の量を低下させるこのIDの利点は、少ない副作用を伴う。
【0079】
更に、コンジュゲーションのため、コンジュゲートは全身性循環中においては不活性であり、腫瘍に到達した後にのみ活性化されうるか、又は肝臓では、粒状物質がそうであるように、毒性が観察されない。腫瘍組織に入るとき、一度エンドソームにおいて、細胞の消化器(エンドソームとリソソームの融合から生じるエンドリソソーム)によって使用される低いpHが、リンカーと白金薬剤との間の配位結合の加水分解を生じせしめ、その結果、白金薬剤が核の近くまで放出される。
【0080】
既に述べたように、本発明は、一又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤と共に式(I)のコンジュゲートの治療的に有効な量を、それを必要とするヒトを含む哺乳動物に投与することを含む、癌の治療のために方法にも関する。特定の実施態様では、後者の方法は、白金薬剤がより効果的になるために、任意の頻度で放射線療法(ガンマからXR、NIR及びMW)を用いて腫瘍に局所的に照射することを更に含む。
【実施例】
【0081】
以下の実施例は例証手段として提供されるもので、本発明の範囲を限定することを意味するものではない。
【0082】
特徴付け技術
1)紫外可視分光法
紫外可視スペクトルを、シマズUV-2400分光光度計で獲得した。1mLのナノ粒子又はコンジュゲートをセルに入れ、300nmから800nmの範囲で分光分析を実施した。
【0083】
2)ゼータ電位
ナノ粒子及びコンジュゲートのゼータ電位を、Malvern ZetaSizerアナライザー(Malvern Instruments, UK)を使用して決定した。この測定は、pH(7.0)の制御で実施した。
【0084】
3)X線光電子分光法(XPS)
XPSでは、10μLのナノ粒子又はコンジュゲートの溶液をシリコン窒化物表面に配し、PHI ESCA−5500装置を使用して分析した。単色光Al K_X線源を用いて、チャンバーを2×10
−9Torr以下に維持した。スペクトルは、Multipakソフトウェアを使用して解析した。
【0085】
実施例1:金ナノスフィアの合成(AuNP)
実施例1.1:4nmの直径を有する金ナノスフィア
NaBH
4(0.1M、0.6mL)の氷冷した新鮮に調製した水溶液を、室温で攪拌しながら、HAuCl
4(0.25mM)とクエン酸三ナトリウム(0.25mM)の20mLの水溶液に加えた。NaBH
4の添加直後に溶液はピンク色に変化し、粒子形成を示した。この方法に従って、4nmの直径を有する金ナノスフィアが得られた。コロイド溶液の特徴付けは、λ
max=512.5nm(
図4、A)及びζ−電位(−33.6mV、
図5、A)を得た紫外可視分光法によって実施した。
【0086】
同様の手順(Turkevich法)に従って、次のナノ粒子を得た:
実施例1.2:13nmの直径を有する金ナノスフィア(
図7、A)。
実施例1.3:20nmの直径を有する金ナノスフィア(
図8、A)。
【0087】
実施例2:中間体コンジュゲート(AuNP−L’)
実施例2.1:中間体コンジュゲートAuNP(NP:13nm)−MUA
実施例1.1)において得られたAuNP溶液に、メルカプトウンデカン酸(MUA、10mM、50μL/mL NPs)の水溶液を加えることによって、コンジュゲーションを実施した。反応は室温で起こり、チオール化した分子の添加時にコロイド溶液の瞬時の色変化が観察された。最適なコンジュゲーションに到達するために少なくとも30分、反応を実施した。精製は、中性pHにおいて2日間、ミリQ H
2O(10mLのNPs/5LのH
2O)に対して透析によって行った。AuNP(NP:4nm)−MUA中間体コンジュゲートは、紫外可視分光法(λ
max=519nm,
図4,B)、ζ−電位(−65.8mV,
図5,B)及びコンジュゲーション工程を確認するXPS(S
2p 164.8eV)によって特徴付けした。
【0088】
上述のものと同じ手順に従って、次の中間体コンジュゲートを得た:
実施例2.2:AuNP(NP:13nm)−MUA中間体コンジュゲート(
図7,B)。
実施例2.3:AuNP(NP:20nm)−MUA中間体コンジュゲート(
図8,B)。
同様に、上述のものと同じ手順に従い、MUAの代わりにチオクト酸(TA)を使用して、次の中間体コンジュゲートを得た:
実施例2.4:AuNP(NP:4nm)−TA中間コンジュゲート(
図9,B)。
【0089】
実施例3:白金誘導体の合成:シス-[Pt(NH
3)
2(H
2O)
2](NO
3)
2(式(IVa)の化合物)
2.5mLのH
2O中のAgNO
3(169mg、1mmol)溶液を、2.5mLのH
2O中のシスプラチン(150mg、0.5mmol)の懸濁液に滴下して加えた。白色固形物(AgCl)が沈殿し、添加の完了後に最初の混合物の黄色が消滅した。生じた懸濁液を50℃で1時間加熱し、ついで遠心分離によってAgClを分離した。上清を蒸発乾固させ、エタノール/水混合物から残留物を再結晶させた。収率:174mg(89%)。
【0090】
実施例4:コンジュゲートAuNP−L−Aの合成
実施例4.1:AuNP(NP:4nm)−MUA−Ptコンジュゲート
【0091】
実施例2.1(10mL、約7.12×10
13NP/mL)のコロイド溶液を、NaOH(0.1M)の水溶液で塩基性pH(9−14)にした。室温で攪拌しながら、溶液に工程3(添加した過剰のMUAに対して0.5当量)で得られた過剰の式(IVa)の化合物を加えた。少なくとも30分間反応させ、コンジュゲートしたコロイド溶液(5mLのAuNP(NP:4nm)−MUA−Ptコンジュゲート/5LのMilliQ水)の透析によって中性pHで2日間、精製を実施した。紫外可視分析法によって、1.5nm(λ
max=520.5nm)の表面プラスモン共鳴における赤色シフトを観察することによって、特徴付けした。加えて、XPSによる特徴付けによって、ナノ粒子上のPt誘導体の存在を確認した(Pt
4f74.1及び77.6eV)。AuNP溶液上の薬剤の定量はICP−MS(1.9mg/L)によって測定した。
得られたコンジュゲートは、紫外可視分光分析法(
図4,C)、ζ−電位(−25.9mV、図.5)及びコンジュゲーション工程を確認するXPS(
図6)により、特徴付けした。
【0092】
上述のものと同じ手順に従って、しかし実施例2.2、2.3及び2.4の中間体コンジュゲートから出発して、それぞれ次のコンジュゲートを得た:
実施例4.2:AuNP(NP:13nm)−MUA−Pt(
図7、C)。
実施例4.3:AuNP(NP:20nm)−MUA−Pt(
図8、C)。
実施例4.4:AuNP(NP:4nm)−TA−Pt(
図9、C及びD)。
【0093】
実施例5:コンジュゲートAuNP(NP:4nm)−MUA−シスプラチンの合成(比例)
この実施例は、静電気相互作用を通して得られるコンジュゲートの効果を比較することが狙いである。この目的のため、ナノスフィアが工程2で得られた4nmの直径を有する中間コンジュゲートAuNP−MUAを、次のようにしてシスプラチンで更に官能化した:
コンジュゲートAuNP−MUA(実施例2.1、5mLの10
12NP/mL)を少なくとも三回洗浄した後、市販の1mg/mLのシスプラチン水溶液5mL中に分散させた。被覆されたナノ粒子上へのシスプラチンの吸収は2日以上かけて行われた。過剰のシスプラチンは遠心分離によって取り除いた。薬剤が添加されたコンジュゲートを少なくとも三回洗浄し、水に分散させた。
【0094】
これらコンジュゲートの安定性を本発明のコンジュゲートの安定性と比較した。
図10は、A:細胞培地中の実施例4.1のコンジュゲート;B:水中の実施例5のコンジュゲート;及びC:細胞培地中の実施例5のコンジュゲート、の白金原子の量の時間変化として測定した安定性を示している。37℃における細胞培地と共に48時間インキュベーションした後、ナノ粒子からの白金薬剤の放出は、静電気的相互作用を介して形成されたコンジュゲートの場合のみで観察された。安定性試験は、双方の系のインキュベーション後の白金薬剤放出の誘導結合型のプラズマ質量分光法ICP−MS定量に基づいた。
【0095】
腫瘍細胞におけるコンジュゲートのMTTアッセイ
細胞を4×10
3細胞/ウェルでマルチウェル−96プレート(Iwaki)に播き、24時間後に培地を処理のために変更した。テトラゾリウム塩3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT、Acros Organics)を、処理後24時間及び48時間での細胞生存率試験でのミトコンドリア活性の評価に使用した。プレートをマイクロプレート・リーダー・モデル550(BIO−RAD)で測定し、データをエクセル及びSPSSソフトウェアで処理した。吸光度測定[時間ゼロ,(Az),コントロール増殖,(C),及び試験増殖で、様々な濃度レベルの薬剤の存在下(Ai)]を使用し、増殖パーセントをそれぞれの薬剤濃度レベルで計算した。アッセイは3種の細胞癌株:HeLa,A549及びHEKで行った。異なった癌細胞(HeLa,A549及びHEK)での試験は、本発明のコンジュゲート、特に実施例4.1のコンジュゲートが、遊離のシスプラチンがこれらの細胞に投与されたときよりも高い細胞内薬剤レベルを達成したことを示している。
【0096】
図11は、実施例1.1(A)の被覆されていない金ナノスフィア;実施例2.1(C)の中間体コンジュゲート;実施例4.1(D)のコンジュゲート;市販のシスプラチン(E);及び実施例3(F)のシスプラチン誘導体に細胞を暴露した場合のA549肺癌細胞生存率の%を示す。A及びGはそれぞれ0及び48時間におけるコントロール値を表す。分かるように、本発明のコンジュゲート(D)に細胞を暴露するときに有意な増殖抑止が観察され、該コンジュゲートの細胞増殖抑制性が示される。これとは反対に、被覆されていないナノ粒子、中間体コンジュゲート、又は水和シスプラチン誘導体は何も応答を誘発しなかった。
【0097】
動物アッセイ
インビボ実験のため15匹のSCIDマウスを選択した。マウスに20 106 A549肺腫瘍細胞を側腹部から注射した。5匹のマウスの3つのランダムな群をそれぞれ用意した。ついで、腫瘍が測定が容易なサイズになるまで待った。第1群(A)には処置を施さなかった。第2群(B)には中程度の用量の市販のシスプラチン(動物体重Kg当たり30mg)を与えた。第3群(C)には1回の腹腔内投与で100mLの白金製剤1.9mg/リットルと共に実施例4.1のコンジュゲートで処置した。腫瘍サイズ(治療の成功の徴候として)及び動物体重(二次的効果の徴候として)を3日ごとに測定した。15日後に実験を終了した。
図12に示されるように、第一の場合(A)では、腫瘍増殖は予想通りであった。第二の場合(B)では、予想されたように腫瘍サイズの減少があり、処置の二次効果として体重の緩み(示さず)があった。第三の場合(C)では、遊離のシスプラチンよりも5倍低い用量で大きな腫瘍減少が観察され、体重の緩みは観察されず(示さず)、ナノ粒子又は双方に結合された白金薬剤の改変された体内分布又は低い用量と一致していた。予備的な生化学的測定は、何れの場合にも如何なる腎臓及び肝臓の有意な機能障害を示さず、これは各々の場合において使用された低用量のものと一致している。