特許第5873724号(P5873724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873724
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/08 20060101AFI20160216BHJP
   F16H 55/22 20060101ALI20160216BHJP
   F16H 1/16 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   F16H55/08 Z
   F16H55/22
   F16H1/16
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-6770(P2012-6770)
(22)【出願日】2012年1月17日
(65)【公開番号】特開2013-148109(P2013-148109A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌利
(72)【発明者】
【氏名】内村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中村 修
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−47267(JP,A)
【文献】 特開2005−35513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/00− 1/26
55/00−55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼓形ウォームと、前記鼓形ウォームに噛合するウォームホイールと、を備える歯車装置において、
前記鼓形ウォームは、前記鼓形ウォームの外周面に螺旋状に連続に形成された歯を有し、
前記鼓形ウォームの歯のピッチ円の半径は、前記ウォームホイールに形成された歯のピッチ円の半径よりも大きく、
前記鼓形ウォームの歯のうち、螺旋の始端と終端の歯丈は、前記鼓形ウォームの歯のピッチ円の中心を通り、かつ前記鼓形ウォームの軸心に対して直交する中心線上の歯の歯丈よりも小さく、
前記鼓形ウォームの歯は、
前記始端の先端から前記軸心までの距離と、前記始端から螺旋を1周した地点の先端から前記軸心までの距離と、が同一であると共に、
前記終端の先端から前記軸心までの距離と、前記終端から螺旋を1周した地点の先端から前記軸心までの距離と、が同一であることを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
請求項1に記載された歯車装置において、
前記鼓形ウォームに形成された歯のピッチは、前記中心線に位置する歯から前記始端の歯と前記終端の歯に向けて漸次大きくなっていることを特徴とする歯車装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された歯車装置において、
前記鼓形ウォームに形成された歯の歯厚は、標準歯厚の80%以下であることを特徴とする歯車装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載された歯車装置において、
前記鼓形ウォームに形成された歯のうち前記始端および前記終端の歯の歯厚は、前記中心線に位置する歯の歯厚に対して薄いことを特徴とする歯車装置。
【請求項5】
請求項4に記載された歯車装置において、
前記鼓形ウォームに形成された歯の歯厚は、前記中心線に位置する歯から前記始端の歯と前記終端の歯に向けて漸次小さくなっていることを特徴とする歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鼓形ウォームとこの鼓形ウォームに噛合するウォームホイールとを備える歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で大きな減速比を実現することができるため、ウォームとウォームホイールから構成される歯車装置が、小型電動モータ用の減速装置として広く用いられている。また、このようなウォームとウォームホイールから構成される歯車装置において、ウォームとウォームホイール間の接触面積(接触歯数)を増加させるため、図4に示すように、ウォームを鼓形状にした歯車装置1000が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この歯車装置1000は、鼓形ウォーム100と、この鼓形ウォーム100に噛合するウォームホイール200とを備えている。そして、ウォーム100とウォームホイール200間の接触面積(接触歯数)をより増加させるために、一般的に、鼓形ウォーム100に形成された歯101のピッチ円P10の半径と、ウォームホイール200に形成された歯201のピッチ円P20との半径とは、同一に設定されている。
【0004】
しかしながら、図5に示すように、上記のように双方(100,200)の歯(101,201)のピッチ円(P10,P20)の半径を同一に設定した場合、ウォーム100またはホイール200の少なくともいずれか一方が設定位置からずれたとき、ウォーム100の歯101とホイール200の歯201とが互いに干渉してしまうことがある(図中の破線部分)。そして、このように、ウォーム100の歯101とホイール200の歯201とが干渉してしまうと、歯車装置1000の作動時に音および振動が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−223607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、鼓形ウォームおよびウォームホイールを備えた歯車装置において、作動時に音および振動の発生を抑止することができる歯車装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載された歯車装置は、鼓形ウォームと、前記鼓形ウォームに噛合するウォームホイールと、を備える歯車装置において、前記鼓形ウォームは、前記鼓形ウォームの外周面に螺旋状に連続に形成された歯を有し、前記鼓形ウォームの歯のピッチ円の半径は、前記ウォームホイールに形成された歯のピッチ円の半径よりも大きく、前記鼓形ウォームの歯のうち、螺旋の始端と終端の歯丈は、前記鼓形ウォームの歯のピッチ円の中心を通り、かつ前記鼓形ウォームの軸心に対して直交する中心線上の歯の歯丈よりも小さく、前記鼓形ウォームの歯は、前記始端の先端から前記軸心までの距離と、前記始端から螺旋を1周した地点の先端から前記軸心までの距離と、が同一であると共に、前記終端の先端から前記軸心までの距離と、前記終端から螺旋を1周した地点の先端から前記軸心までの距離と、が同一であることを特徴とする。このように、鼓形ウォームに形成された歯のピッチ円の半径を、ウォームホイールに形成された歯のピッチ円の半径よりも大きくすることにより、ウォームまたはホイールの少なくともいずれか一方が設定位置からずれた場合でも、互いの歯が相互に干渉することを防止することができる。そのため、請求項1に記載された歯車装置は、作動時に音および振動が発生することを抑止することができる。
また、鼓形ウォームの両端部の歯の歯丈を、中心線上の歯の歯丈よりも小さくすることにより、ウォームまたはホイールの少なくともいずれか一方が設定位置からずれた場合でも、互いの歯が相互に干渉することをさらに防止することができる。
さらに、鼓形ウォームの両端部の歯を、軸心線からの距離が等しいストレート形状とすることにより、ウォームまたはホイールの少なくともいずれか一方が設定位置からずれた場合でも、互いの歯が相互に干渉することを一層防止することができる。また、両端部のストレート形状は、旋盤加工等により容易に実現することが可能であり、加工性に優れ低コストである。
【0010】
請求項2に記載された歯車装置は、請求項1に記載された歯車装置において、前記鼓形ウォームに形成された歯のピッチは、前記中心線に位置する歯から前記始端の歯と前記終端の歯に向けて漸次大きくなっていることを特徴とする。このように、鼓形ウォームに形成された歯のピッチを、中心部から両端部に向けて漸次大きくすることにより、ウォームまたはホイールの少なくともいずれか一方が設定位置からずれた場合でも、互いの歯が相互に干渉することをより一層防止することができる。そのため、請求項3に記載された歯車装置は、作動時に音および振動が発生することをより一層抑止することができる。
【0011】
請求項に記載された歯車装置は、請求項1または2に記載された歯車装置において、前記鼓形ウォームに形成された歯の歯厚は、標準歯厚の80%以下であることを特徴とする。このように、鼓形ウォームに形成された歯の歯厚を、標準歯厚の80%以下とすることにより、ウォームまたはホイールの少なくともいずれか一方が設定位置からずれた場合でも、互いの歯が相互に干渉することをより一層防止することができる。そのため、請求項5に記載された歯車装置は、作動時に音および振動が発生することを、より一層抑止することができる。
【0012】
請求項4に記載された歯車装置は、請求項1乃至3のいずれか一つに記載された歯車装置において、前記鼓形ウォームに形成された歯のうち前記始端および前記終端の歯の歯厚は、前記中心線に位置する歯の歯厚に対して薄いことを特徴とする。このように、鼓形ウォームに形成された歯のうち両端部の歯の歯厚を、中心部の歯の歯厚に対して薄くすることにより、ウォームまたはホイールの少なくともいずれか一方が設定位置からずれた場合でも、互いの歯が相互に干渉することをより一層防止することができる。そのため、請求項6に記載された歯車装置は、作動時に音および振動が発生することを、より一層抑止することができる。
【0013】
請求項5に記載された歯車装置は、請求項4に記載された歯車装置において、前記鼓形ウォームに形成された歯の歯厚は、前記中心線に位置する歯から前記始端の歯と前記終端の歯に向けて漸次小さくなっていることを特徴とする。このように、鼓形ウォームに形成された歯の歯厚を、中心部から両端部に向けて漸次小さくなるように設定することにより、ウォームまたはホイールの少なくともいずれか一方が設定位置からずれた場合でも、互いの歯が相互に干渉することをより一層防止することができる。そのため、請求項7に記載された歯車装置は、作動時に音および振動が発生することを、より一層抑止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鼓形ウォームおよびウォームホイールを備えた歯車装置において、作動時に音および振動の発生を抑止することができる歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態における歯車装置の一部拡大斜視図である。
図2】本発明の実施形態における鼓形ウォームの縦断面図である。
図3図2において範囲A(破線部分)にて示す鼓形ウォームの拡大図である。
図4】従来例における歯車装置の一部拡大斜視図である。
図5】従来例における歯車装置において歯の干渉を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、この発明の歯車装置を図1から図3に基づいて説明する。ここで、図1は、本発明の実施形態における歯車装置の一部拡大斜視図である。また、図2は、本発明の実施形態における鼓形ウォームの縦断面図であり、図3は、図2において範囲A(破線部分)にて示す鼓形ウォームの拡大図である。
【0017】
図1に示すように、歯車装置1は、外壁に螺旋状に連続した歯11が形成された鼓形ウォーム10と、外壁に鼓形ウォーム10の歯11に噛合する歯21が形成されたウォームホイール20とを備える。
【0018】
次に、本実施形態の鼓形ウォーム10の歯11の形状について図2および図3に基づいて説明する。なお、図2および図3において、歯11(鼓形ウォーム10)のピッチ円P1および歯21(ウォームホイール20)のピッチ円P2はともに円弧状の一点鎖線で表示され、歯11(鼓形ウォーム10)の歯先円E1および歯21(ウォームホイール20)の歯先円E2はともに円弧状の二点鎖線で表示されている。また、図3において、歯11(鼓形ウォーム10)の歯底円B1は、円弧状の点線で表示されている。
【0019】
図2に示すように、歯11(鼓形ウォーム10)のピッチ円P1の半径Rp1は、歯21(ウォームホイール20)のピッチ円P2の半径Rp2よりも大きく設定されている(Rp1>Rp2、1<Rp1/Rp2)。
【0020】
ここで、本実施形態の鼓形ウォーム10は、特許文献1(特開2004−223607)にて示される鼓形ウォーム用転造装置により製造される。そして、この転造装置は、鼓形線材を、一対の互いに平行に配置された略円柱形状のダイス間に挟み、この一対のダイスを鼓形線材の軸線に交差しかつ相対的に互いに相反する向きにスライドさせて、この鼓形線材の外壁にウォームの歯を形成するものである。そのため、鼓形ウォーム10の歯11のピッチ円P1の半径Rp1は、このダイスの半径の大きさと略等しい値となる。
【0021】
そして、このダイスの半径は転造装置のコスト等を鑑みると45mm以下とするのが望ましく、歯11のピッチ円P1の半径Rp1は、45mm以下とするのが望ましい。また、ウォームホイール20は歯21の強度等を鑑みると15mm以上とするのが望ましい。そのため、歯21(ウォームホイール20)のピッチ円P2の半径Rp2に対する、歯11(鼓形ウォーム10)のピッチ円P1の半径Rp1の比は、3以下(Rp1/Rp2≦3)とするのが望ましい。以上より、歯21(ウォームホイール20)のピッチ円P2の半径Rp2に対する、歯11(鼓形ウォーム10)のピッチ円P1の半径Rp1の比は、1を超え3以下とするのが望ましい(1<Rp1/Rp2≦3)。
【0022】
同様にして、歯21(ウォームホイール20)の歯先円E2の半径Re2に対する、歯11(鼓形ウォーム10)の歯先円E1の半径Re1の比は、1を超え3以下とするのが望ましい(1<Rp1/Rp2≦3)。
【0023】
次に、図3に基づき、鼓形ウォーム10の歯11の歯丈について説明する。なお、図3
において、鼓形ウォーム10の軸心線ALは直線状の一点鎖線で示されるとともに、鼓形ウォーム10の中心線CLも直線状の一点鎖線で示される。ここで、中心線CLは、軸心線ALから歯先までの距離が最小となる歯11に対して、軸心線ALから直角に引かれた線である。また、中心線CL上に位置する歯11が配置される位置を、破線にて中心部CTとして示し、歯11の両側の端の位置を破線にて両端部ESとして示す。
【0024】
図3に示すように、鼓形ウォーム10の歯11の歯丈(歯底円B1から歯先円E1までの距離)において、両端部(ES,ES)の歯11の歯丈(例えば、h1,h2,h3,h4)は、中心線CL上の歯11の歯丈h0よりも小さく設定されている(例えば、h1<h0,h2<h0,h3<h0,h4<h0)。そして、さらに本実施形態の鼓形ウォーム10の歯11において、両端部(ES,ES)の歯11は、軸心線Alからの距離が等しい(距離=r)ストレート形状に形成されている。換言すれば、鼓形ウォーム10の始端SESおよび終端EESの歯11における軸心線から先端までの距離rは、始端SESおよび終端EESの歯11の1つ軸方向内側に位置する歯11における軸心線から先端までの距離rと同一である。
【0025】
また、図3に示すように、鼓形ウォーム10に形成された歯11のピッチ(例えば、p0〜p8)は、中心部CTから両端部(ES,ES)に向けて漸次大きくなるように設定されている(例えば、p0<p1<p3<p5<p7,p0<p2<p4<p6<p8)。
【0026】
また、本実形態の鼓形ウォーム10の歯の歯厚は、標準歯厚の80%以下に設定されており、図3に示すように、両端部(ES,ES)の歯11の歯厚(例えば、t7,t8)は、中心部CTの歯11の歯厚t0に対して薄くなるように設定されている(例えば、t7<t0,t8<t0)。そして、さらに鼓形ウォーム10に形成された歯11の歯厚は、中心部CTから両端部(ES,ES)に向けて漸次小さくなるように設定されている(例えば、t0>t1>t3>t5>t7、t0>t2>t4>t6>t8)。
【0027】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【符号の説明】
【0028】
1,1000 歯車装置
10,100 鼓形ウォーム
11,101 歯(ウォーム)
20,200 ウォームホイール
21,201 歯(ホイール)
P1,P10 ピッチ円(ウォーム)
E1 歯先円(ウォーム)
B1 歯底円(ウォーム)
Al 軸心線
Cl 中心線
Rp1 ピッチ円半径(ウォーム)
Re1 歯先円半径(ウォーム)
Rb1 歯底円半径(ウォーム)
CT 中心部
SES 始端
ES 端部
EES 終端
P2,P20 ピッチ円(ホイール)
E2 歯先円(ホイール)
Rp2 ピッチ円半径(ホイール)
Re2 歯先円半径(ホイール)
図1
図2
図3
図4
図5