(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873765
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】サイプブレード及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20160216BHJP
B29D 30/00 20060101ALI20160216BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
B29C33/02
B29D30/00
B60C11/12 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-137634(P2012-137634)
(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-721(P2014-721A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 稔之
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−321509(JP,A)
【文献】
特開2004−243644(JP,A)
【文献】
特開2008−126754(JP,A)
【文献】
特開2006−160107(JP,A)
【文献】
特開2009−160986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29D 30/00
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が波形状となる凹凸列が外壁面に設けられており、タイヤ成形型に装着されてタイヤのトレッド面にサイプを形成するサイプブレードにおいて、
波形状が長さ方向の一方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第1外壁部と、前記第1外壁部のタイヤ径方向内側に連なり、波形状が長さ方向の他方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第2外壁部とを有し、
前記第1外壁部と前記第2外壁部とが連なって前記凹凸列が屈曲する深さ位置で、長さ方向の一方側に向いた凸頂部が長さ方向に少なくとも3つ並び、その長さ方向の両端に位置する前記凸頂部では、それらの間に位置する前記凸頂部に比べて尖り度合が小さいことを特徴とするサイプブレード。
【請求項2】
長さ方向の両端に位置する前記凸頂部では、それらの間に位置する前記凸頂部に比べて先端の曲率半径が大きい請求項1に記載のサイプブレード。
【請求項3】
長さ方向の一方側の端に位置する前記凸頂部が、長さ方向の一方側に延長されてブレード端に達している請求項1又は2に記載のサイプブレード。
【請求項4】
前記第2外壁部のタイヤ径方向内側に連なる別の第1外壁部を更に有し、前記第2外壁部と前記別の第1外壁部とが連なって前記凹凸列が屈曲する深さ位置で、長さ方向の他方側に向いた凸頂部が長さ方向に少なくとも3つ並び、その長さ方向の両端に位置する前記凸頂部では、それらの間に位置する前記凸頂部に比べて尖り度合が小さい請求項1〜3いずれか1項に記載のサイプブレード。
【請求項5】
トレッド面に形成されたサイプの内壁面に、横断面が波形状となる凹凸列が設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記サイプは、波形状が長さ方向の一方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第1内壁部と、前記第1内壁部のタイヤ径方向内側に連なり、波形状が長さ方向の他方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第2内壁部とを有し、
前記第1内壁部と前記第2内壁部とが連なって前記凹凸列が屈曲する深さ位置で、長さ方向の一方側に向いた凹頂部が長さ方向に少なくとも3つ並び、その長さ方向の両端に位置する前記凹頂部では、それらの間に位置する前記凹頂部に比べて尖り度合が小さいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項6】
長さ方向の両端に位置する前記凹頂部では、それらの間に位置する前記凹頂部に比べて先端の曲率半径が大きい請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
長さ方向の一方側の端に位置する前記凹頂部が、長さ方向の一方側に延長されてサイプ端に達している請求項5又は6に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのトレッド面にサイプを形成するためのサイプブレード、及び、トレッド面にサイプが形成された空気入りタイヤに関し、特にスタッドレスタイヤに関して有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドレスタイヤでは、トレッド面の陸部にサイプと呼ばれる切り込みを形成しており、このサイプのエッジ効果や除水効果によって、氷雪路面での走行性能(以下、アイス性能と呼ぶ。)を高めている。近年では、エッジ効果をより良好に発現させるべく、サイプの内壁面の形状を深さ方向で変化させ、その内壁面の係合によって陸部の倒れ込みを抑制できるようにした、いわゆる3次元サイプが実用化されている。
【0003】
図7は、本発明者が以前に発明した3次元サイプの模式図であり、サイプ9の内壁面には、横断面が波形状となる凹凸列が設けられている。サイプ9は、波形状が長さ方向の一方側(
図7の右側)に変位しながらタイヤ径方向内側INに延びる内壁部91と、波形状が長さ方向の他方側(
図7の左側)に変位しながらタイヤ径方向内側INに延びる内壁部92とを有し、これらが交互に連接されている。かかるサイプ構造は、特許文献1に記載されている。
【0004】
通常、サイプは、タイヤ成形型に装着される薄板状のサイプブレードにより形成され、そのサイプブレードの外壁面の形状が、サイプの内壁面に転写されることになる。したがって、
図7のサイプ9を形成するためのサイプブレードでは、横断面が波形状となる凹凸列が外壁面に設けられていて、その外壁面の形状はサイプ9の内壁面に対応したものとなる。
【0005】
ところで、そのサイプブレードを用いてタイヤの加硫を行うと、加硫工程を繰り返す過程でサイプブレードが曲がってしまい、以後の使用に支障を来たす場合があった。このようなブレード曲がりは、サイプブレードの厚みを大きくすることで低減できるものの、それによってサイプの厚みが増すと陸部の剛性低下を招来し、延いては陸部の倒れ込みを助長するため、アイス性能を確保するうえでは望ましくないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3504632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アイス性能を確保しながら、加硫時のブレード曲がりを防止できるサイプブレード及び空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するべく、加硫時のブレード曲がりについて研究を重ねたところ、ブレード曲がりにおける折り目が、凹凸列が屈曲する深さ位置で長さ方向に沿って形成されることに着目するとともに、歪みが集中しがちな凸頂部が長さ方向に並ぶ当該深さ位置でサイプブレードの剛性が低下し、そこが折り目となってブレード曲がりを生じることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされ、下記の如き構成により上記目的を達成しうるものである。
【0009】
即ち、本発明のサイプブレードは、横断面が波形状となる凹凸列が外壁面に設けられており、タイヤ成形型に装着されてタイヤのトレッド面にサイプを形成するサイプブレードにおいて、波形状が長さ方向の一方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第1外壁部と、前記第1外壁部のタイヤ径方向内側に連なり、波形状が長さ方向の他方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第2外壁部とを有し、前記第1外壁部と前記第2外壁部とが連なって前記凹凸列が屈曲する深さ位置で、長さ方向の一方側に向いた凸頂部が長さ方向に少なくとも3つ並び、その長さ方向の両端に位置する前記凸頂部では、それらの間に位置する前記凸頂部に比べて尖り度合が小さいものである。
【0010】
このサイプブレードでは、凹凸列が屈曲する深さ位置において、長さ方向の両端に位置する凸頂部の尖り度合が小さいため、これらに作用する歪みを抑えられる。両端の凸頂部は、サイプブレードをタイヤから引き抜く際に大きな歪みが作用する部位であり、これらの歪みを抑えることで、凸頂部が並ぶ深さ位置での剛性低下を軽減し、加硫時のブレード曲がりを防止できる。また、両端の凸頂部の間に尖り度合の大きい凸頂部を設定することにより、サイプの内壁面の係合力を保持して陸部の倒れ込みを抑制し、アイス性能を確保することができる。
【0011】
本発明のサイプブレードでは、長さ方向の両端に位置する前記凸頂部では、それらの間に位置する前記凸頂部に比べて先端の曲率半径が大きいものが好ましい。かかる構成により、両端の凸頂部に作用する歪みを有効に抑えることができる。
【0012】
本発明のサイプブレードでは、長さ方向の一方側の端に位置する前記凸頂部が、長さ方向の一方側に延長されてブレード端に達しているものが好ましい。かかる構成により、一方側の端の凸頂部に作用する歪みを有効に抑えることができる。加えて、形成したサイプにおいては、内壁面の係合力を増して陸部の倒れ込みを効果的に抑制でき、アイス性能を良好に高められる。
【0013】
本発明のサイプブレードでは、前記第2外壁部のタイヤ径方向内側に連なる別の第1外壁部を更に有し、前記第2外壁部と前記別の第1外壁部とが連なって前記凹凸列が屈曲する深さ位置で、長さ方向の他方側に向いた凸頂部が長さ方向に少なくとも3つ並び、その長さ方向の両端に位置する前記凸頂部では、それらの間に位置する前記凸頂部に比べて尖り度合が小さいものが好ましい。この場合、第2外壁部とそのタイヤ径方向内側の第1外壁部とが連なって凹凸列が屈曲する深さ位置でも、上述と同様にして剛性低下を軽減し、加硫時のブレード曲がりを防止できる。
【0014】
本発明の空気入りタイヤは、トレッド面に形成されたサイプの内壁面に、横断面が波形状となる凹凸列が設けられた空気入りタイヤにおいて、前記サイプは、波形状が長さ方向の一方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第1内壁部と、前記第1内壁部のタイヤ径方向内側に連なり、波形状が長さ方向の他方側に変位しながらタイヤ径方向内側に延びる第2内壁部とを有し、前記第1内壁部と前記第2内壁部とが連なって前記凹凸列が屈曲する深さ位置で、長さ方向の一方側に向いた凹頂部が長さ方向に少なくとも3つ並び、その長さ方向の両端に位置する前記凹頂部では、それらの間に位置する前記凹頂部に比べて尖り度合が小さいものである。
【0015】
この空気入りタイヤのサイプでは、内壁面の凹凸列が屈曲する深さ位置において、長さ方向の両端に位置する凹頂部の尖り度合が小さいため、それに対応したサイプブレードの凸頂部に作用する歪みが抑えられる。このため、サイプブレードにおいて凸頂部が並ぶ深さ位置での剛性低下を軽減し、加硫時のブレード曲がりを防止できる。また、両端の凹頂部の間に尖り度合の大きい凹頂部が設定されるため、内壁面の係合力を保持して陸部の倒れ込みを抑制し、アイス性能を確保することができる。
【0016】
本発明の空気入りタイヤでは、長さ方向の両端に位置する前記凹頂部では、それらの間に位置する前記凹頂部に比べて先端の曲率半径が大きいものが好ましい。かかる構成により、両端の凹頂部に対応したサイプブレードの凸頂部に作用する歪みを有効に抑えることができる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤでは、長さ方向の一方側の端に位置する前記凹頂部が、長さ方向の一方側に延長されてサイプ端に達しているものが好ましい。かかる構成により、一方側の端の凹頂部に対応したサイプブレードの凸頂部に作用する歪みを有効に抑えることができる。加えて、サイプの内壁面の係合力が増えることで、陸部の倒れ込みを効果的に抑制してアイス性能を良好に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】タイヤ成形型のトレッド成形金型を示す断面図
【
図3】サイプブレードの(A)正面図と(B)A−A矢視に沿った横断面図
【
図5】サイプの(A)平面図と(B)内壁面を示す正面図
【
図6】別実施形態に係るサイプの内壁面を示す正面図
【
図7】従来のサイプの(A)平面図と(B)内壁面を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、タイヤ成形型を構成するトレッド成形金型6の断面図である。トレッド成形金型6は円環状のトレッド成形面7を有し、これをタイヤのトレッド面に押し当てることで、
図2のようなトレッドパターンが形成される。トレッド成形面7には、タイヤ周方向に沿って延びた主溝4を形成する突起8や、主溝4と交差する方向に延びた横溝5を形成する突起(不図示)が設けられ、更に、サイプ2を形成するためのサイプブレード1が装着されている。
【0021】
サイプブレード1は、タイヤ成形型に装着されてタイヤのトレッド面にサイプ2を形成する薄板状部材であり、
図3のように横断面が波形状となる凹凸列が外壁面に設けられている。サイプブレード1は、波形状が長さ方向の一方側LDL(
図3の左側)に変位しながらタイヤ径方向内側INに延びる第1外壁部11aと、第1外壁部11aのタイヤ径方向内側に連なり、波形状が長さ方向の他方側LDR(
図3の右側)に変位しながらタイヤ径方向内側INに延びる第2外壁部12とを有する。長さ方向LDは、サイプ2の長さ方向であり、本実施形態ではタイヤ幅方向に沿った方向である。
【0022】
サイプブレード1は、第1外壁部11aのタイヤ径方向外側に連なる基端部10と、第2外壁部12のタイヤ径方向内側INに連なる別の第1外壁部11bを更に有する。基端部10はトレッド成形面7に埋設されるため、サイプ2の形成に供されるのは、基端部10以外の部分となる。第1外壁部11bは、深さ位置が異なるだけで、基本的には第1外壁部11aと同じ構成である。以降の説明においては、これらを総称して第1外壁部11と表現する場合がある。
【0023】
第1外壁部11aと第2外壁部12とが連なって凹凸列が屈曲する深さ位置DP1では、長さ方向の一方側LDLに向いた凸頂部13が並んでいる。凸頂部13は、横V字状をなす凸列の頂部である。凸列及び凹列は、波形状の振幅の中心CLを基準にして定められる。
図3(A)に示した外壁面では、深さ位置DP1に3つの凸頂部13a,13b,13cが並び、その数は4つ以上でも構わない。深さ位置DP1に3つ以上の凸頂部が並ぶことは、少なくとも片方の外壁面が適合しておればよく、
図3(A)に示した外壁面の裏側となる外壁面では、深さ位置DP1に並ぶ凸頂部の数は2つである。
【0024】
長さ方向LDの両端に位置する凸頂部13a,13cでは、それらの間に位置する凸頂部13bに比べて尖り度合が小さい。凸頂部13a,13cは、それぞれ一方側LDLに向けて尖ってはいるが、その度合は凸頂部13bよりも緩やかである。本実施形態における凸頂部13a,13cは、凸頂部13bに比べて先端の曲率半径が大きく設定されている。例えば、凸頂部13bの先端の曲率半径は0.3〜0.5mmの範囲内とされ、凸頂部13a,13cの先端の曲率半径は0.5〜1.5mmの範囲内とされる。
【0025】
凸頂部13は歪みが集中しやすい箇所であるため、加硫工程を繰り返す過程で、それらが並んだ深さ位置DP1において剛性が低下する傾向にある。しかし、このサイプブレード1では、大きな歪みが作用しやすい両端の凸頂部13a,13cで尖り具合を小さく設定しているために、かかる剛性低下を軽減して加硫時のブレード曲がりを防止できる。このことは、サイプブレード1の素材として、SUS304のように安価ではあるが強度が懸念される材料を用いる場合に特に有用である。
【0026】
また、このサイプブレード1で形成したサイプ2においては、凸頂部13bの尖り度合が大きいことにより、サイプ2の内壁面の係合力を保持して陸部の倒れ込みを抑制し、アイス性能を確保することができる。これに対し、深さ位置DP1に並ぶ全ての凸頂部13の尖り具合を小さく設定した場合には、サイプ2の内壁面の係合力が低下するために、アイス性能の悪化を招来する恐れがある。
【0027】
第1外壁部11と第2外壁部12とが交互に連設された本実施形態では、第2外壁部12と第1外壁部11bとが連なって凹凸列が屈曲する深さ位置DP2で、長さ方向の他方側LDRに向いた凸頂部14が並ぶ。この凸頂部14は、
図3(A)に示した外壁面の裏側となる外壁面にあり、
図3(A)の深さ位置DP2における凹頂部の位置と一致する。両端に位置する凸頂部14a,14cは、それらの間に位置する凸頂部14bに比べて尖り度合が小さく、深さ位置DP1の凸頂部13と同様の構成である。
【0028】
図4では、長さ方向の一方側LDLの端に位置する凸頂部13aが、一方側LDLに延長されてブレード端15に達しており、かかる態様によって凸頂部13aの尖り度合を凸頂部13bよりも小さくしている。ブレード端15における凸頂部13aの太さT13は、例えば1.5〜3mmである。これと同様に、深さ位置DP2では、長さ方向の他方側LDRの端に位置する凸頂部14cが、他方側LDRに延長されてブレード端15に達している。残りの凸頂部は、
図3と同じ構成である。
【0029】
次に、このサイプブレード1を装着したタイヤ成形型を用いて成形した空気入りタイヤについて説明する。当該タイヤは、
図2に示したトレッドパターンを有し、主溝4と横溝5で区画された複数のブロック3(陸部の一例)に、サイプブレード1により形成されたサイプ2が形成されている。トレッド面に形成されたサイプ2の開口は、ブロック3の表面において波形状をなし、これは
図3(B)に示したサイプブレード1の横断面に対応している。
【0030】
図5に示すように、サイプ2の内壁面には、陸部表面に平行な面で切断したときの横断面が波形状となる凹凸列が設けられている。この内壁面は、
図3(A)に示した外壁面の形状が転写されたものであり、左右が逆転しているため、
図5における長さ方向の関係(一方側LDLと他方側LDR)は、
図3の逆向きとしている。サイプ2は、ブロック3の側面に両端を開放させているが、これに限られず、片端又は両端を閉塞させた形状でも構わない。
【0031】
サイプ2は、波形状が長さ方向の一方側LDLに変位しながらタイヤ径方向内側INに延びる第1内壁部21aと、第1内壁部21aのタイヤ径方向内側INに連なり、波形状が長さ方向の他方側LDRに変位しながらタイヤ径方向内側INに延びる第2内壁部22とを有し、更に、第2内壁部22のタイヤ径方向内側INに連なる別の第1内壁部21bを有する。この内壁部21a,22,21bは、それぞれサイプブレード1の外壁部11a,12,11bに対応している。
【0032】
第1内壁部21aと第2内壁部22とが連なって凹凸列が屈曲する深さ位置DP1では、長さ方向の一方側LDLに向いた凹頂部23が並んでいる。凹頂部23は、横V字状をなす凹列の頂部である。
図5に示した内壁面では、深さ位置DP1に3つの凹頂部23a,23b,23cが並び、その数は4つ以上でも構わない。深さ位置DP1に3つ以上の凹頂部が並ぶことは、少なくとも片方の内壁面が適合しておればよく、
図5に示した内壁面に向かい合う内壁面では、深さ位置DP1に並ぶ凹頂部の数は2つである。
【0033】
長さ方向LDの両端に位置する凹頂部23a,23cでは、それらの間に位置する凹頂部23bに比べて尖り度合が小さい。この凹頂部23は、
図3のサイプブレード1の凸頂部13に対応しており、凹頂部23a,23cは、凹頂部23bに比べて先端の曲率半径が大きく設定されている。例えば、凹頂部23bの先端の曲率半径は0.3〜0.5mmの範囲内とされ、凹頂部23a,23cの先端の曲率半径は0.5〜1.5mmの範囲内とされる。
【0034】
第2内壁部22と第1内壁部21bとが連なって凹凸列が屈曲する深さ位置DP2には、長さ方向の他方側LDRに向いた凹頂部24が並ぶ。この凹頂部24は、
図5に示した内壁面に向かい合う内壁面にあり、
図5の深さ位置DP2における凸頂部の位置と一致する。両端に位置する凹頂部24a,24cは、それらの間に位置する凹頂部24bに比べて尖り度合が小さく、深さ位置DP1の凹頂部23と同様の構成である。
【0035】
図6に示したサイプ2の内壁面は、
図4に示したサイプブレード1の外壁面の形状を転写したものである。この例では、長さ方向の一方側LDLの端に位置する凹頂部23aが、一方側LDLに延長されてサイプ端25に達しており、かかる態様によって凹頂部23aの尖り度合を凹頂部23bよりも小さくしている。サイプ端25における凹頂部23aの太さT23は、例えば1.5〜3mmである。これと同様に、深さ位置DP2では、長さ方向の他方側LDRの端に位置する凹頂部24cが、他方側LDRに延長されてサイプ端25に達している。残りの凹頂部は、
図5と同じ構成である。
【0036】
氷雪路面での制動性能やトラクションを高める観点から、タイヤ幅方向に対する長さ方向LDの傾斜角度は45°以下が好ましく、30°以下がより好ましい。サイプ2の深さD2(サイプブレード1の深さD1)は、サイプ2によるエッジ効果を十分に発揮するうえで、主溝4の深さの30〜80%が好ましい。サイプ2の溝幅W2(サイプブレード1の厚みT1)は、エッジ効果を発現しつつブロック3の剛性低下を抑制するうえで、0.2〜0.8mmが好ましい。
【0037】
サイプブレード1やサイプ2の横断面における波形状は、円弧を連ねた曲線で構成されるものに限られず、ジグザグに折れ曲がる屈曲線で構成されたものでもよく、その他の形状でも構わない。また、サイプが形成される陸部は、ブロックに限られず、タイヤ周方向に連続して延びるリブであってもよい。
【0038】
上述した凸頂部または凹頂部の尖り度合の関係は、深さ位置DP1のみで適合しても構わない。但し、改善効果を高めるうえでは、本実施形態のように深さ位置DP2でも適合する方が都合良く、凹凸列が屈曲する深さ位置の全てに適用することが好適である。一方、前述の実施形態において、上述した凸頂部または凹頂部の尖り度合の関係が、深さ位置DP2のみで適合してもよく、その場合には、外壁部12が第1外壁部に見立てられ、内壁部22が第1内壁部に見立てられる。
【0039】
この空気入りタイヤは、いわゆる夏用タイヤやオールシーズンタイヤにも適用できるが、アイス性能の確保に有利であることから、特にスタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)として有用である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。
【0041】
(1)ブレード曲がり
10000本のタイヤの加硫を行った後、サイプブレードの曲がりの有無を評価した。
【0042】
(2)アイス制動性能(アイス性能の一例)
タイヤを実車に装着して氷雪路面を走行させ、速度40km/hで制動力をかけてフルロックしたときの制動距離を測定し、その逆数を算出した。比較例1の結果を100として指数で評価し、当該指数が大きいほどアイス制動性能に優れることを示す。
【0043】
比較例1,2
図2に示したトレッドパターンを有するタイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)において、サイプにおける凹頂部(サイプブレードにおける凸頂部)の先端の曲率半径を一律に0.3mmと設定したものを比較例1とし、同じく一律に0.5mmと設定したものを比較例2とした。
【0044】
実施例1,2
サイプにおける凹頂部(サイプブレードにおける凸頂部)の先端の曲率半径を、両端の凹頂部では1.3mmとし、それらの間の凹頂部では0.5mmとしたこと以外は比較例1と同じ構成であるものを実施例1とした。また、
図4,6のようにサイプにおける凹頂部(サイプブレードにおける凸頂部)を延長してサイプ端(ブレード端)に到達させたこと以外は実施例1と同じ構成であるものを実施例2とした。評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、比較例1ではブレード曲がりの発生が見られ、比較例2ではアイス制動性能の低下が見られたのに対し、実施例1,2では、アイス制動性能を確保しながらブレード曲がりを防止できている。特に、実施例2では、サイプの内壁面の係合力が増したことにより、アイス制動性能が向上している。
【符号の説明】
【0047】
1 サイプブレード
2 サイプ
3 ブロック(陸部の一例)
11 第1外壁部
12 第2外壁部
13 凸頂部
14 凸頂部
15 ブレード端
21 第1内壁部
22 第2内壁部
23 凹頂部
24 凹頂部
25 サイプ端
DP1 深さ位置
DP2 深さ位置