【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
ボトリオチニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素(Bfu-GDH)およびアスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素(Ao-GDH)の組換え遺伝子の調製
ボトリオチニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列は配列番号1に示される。N末端から17番目のSerまではシグナルペプチドであると推定できる。例えば、シグナル配列切断部位を予測するための方法としてフリーアクセスサーバSignalP 3.0 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP-3.0/)を活用できる。このサーバは,The Center for Biological Sequence Analysis at the Technical University of Denmark において運営されており、以下に記す論文に記載された方法論に基づき、任意のアミノ酸配列に対して、シグナル配列の存在の可能性を検索し、その切断部位を予想する。Identification of prokaryotic and eukaryotic signal peptides and prediction of their cleavage sites. Henrik Nielsen, Jacob Engelbrecht, Soren Brunak and Gunnar von Heijne. Protein Engineering, 10:1-6, 1997。SignalP 3.0 Serverを用いる予測にしたがえば、N末端から17番目のSerまではシグナルペプチドであると推定されるので、開始メチオニンの下流に18番目のThr以降の配列を有するアミノ酸配列をコードし、大腸菌による組み換え生産に適したコドンをもつ遺伝子配列を設計して、全合成した。この遺伝子によりコードされる蛋白質(以下Bfu-GDHと称する)のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0048】
アスペルギルス・オリゼTI株由来のグルコース脱水素酵素のアミノ酸配列は配列番号3に示される。SignalP 3.0 Serverを用いる予測にしたがえば、N末端から23番目のLysまではシグナルペプチドであると推定されるので、開始メチオニンの下流に24番目のAsn以降の配列を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子配列を設計して、全合成した。この遺伝子によりコードされる蛋白質(以下Ao-GDHと称する)のアミノ酸配列を配列番号4に示す。組換え生産の宿主としては大腸菌BL21(DE3)[F−, ompT, hsdSB(rB− mB−), gal(λcI 857, ind1, Sam7, nin5, lacUV5-T7gene1), dcm(DE3);Novagen]を用いた。遺伝子発現ベクターとしてはpET30c[kan, lacI;Novagen]を、シャペロン共発現用ベクターとしてはpGro7[GroEL, GroES;TaKaRa] をそれぞれ用いた。
【0049】
実施例2
酵素活性の測定
本発明のFAD−GDHのグルコース脱水素酵素活性は、脱水素酵素と基質の反応により還元されるDCIP(2,2’−ジクロルジイソプロピルエーテル)の退色を600 nmでの吸光度の経時変化を定量することにより行った。反応条件は断りの無い限り以下の条件で行った。酵素溶液を含む反応溶液(10 mM リン酸カリウム(pH7.0)+0.6 mM PMS+0.06 mM DCIP濃度は全て終濃度)に基質を加えることで反応を開始し、600 nmの吸光度変化を測定した。基質には終濃度50 mMグルコースを用い、1μmolのDCIPを還元させる酵素量を1Unitとし、以下の式より活性値を算出した。DCIPのpH 7.0におけるモル吸光係数は16.3 mM
-1cm
-1とした。
ユニット/ml = ΔABS/min × 1/ 16.3 ×10
【0050】
本発明のFAD−GDHのグルコース酸化活性測定は、脱水素酵素と基質の反応により生成する過酸化水素を、ペルオキシダーゼ及びトリンダー試薬(TODB)、4-アミノアンチピリンを用いて、生成する色素の546 nmにおける吸光度の経時変化を測定することにより行った。反応条件は断りの無い限り以下の条件で行った。酵素溶液を含む反応溶液(10 mM リン酸カリウム (pH7.0)+1.5 mM 4-アミノアンチピリン+1.5 mM TODB+2 U/ml ペルオキシダーゼ、濃度は全て終濃度)に基質を加えることで反応を開始し、546 nmの吸光度変化を測定した。基質には終濃度50 mMグルコースを用い、1分間に1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1 Unitとした。TODBのpH7.0におけるモル吸光定数には38 mM-1cm-1を用いた。以下に吸光度変化から活性値を算出する式を示す。
ユニット/ml = ΔABS/min × 2 / 38 ×10
ユニット/mg = Unit/ml/蛋白質mg/ml
【0051】
実施例3
培養条件の検討及び粗精製酵素標品の調製
1. IPTG誘導を用いたBfu-GDHの生産:
Bfu-GDHをコードする遺伝子を挿入した発現ベクターpET30cを用いて、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。得られた形質転換体BL21(DE3)/pET30c(Bfu-GDH)を3 mL LB培地に植菌し、一晩37℃で振とう培養した。その後、LB培地(カナマイシン(Km)50 μg/mL)100 mLに前培養液1 mlを植菌し、37 ℃でバッフル付三角フラスコを用いて、180 rpmで振とう培養を行なった。培養液のOD660が0.6付近になった時点でIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド;終濃度1 mM)を添加して、Bfu-GDHの発現誘導を行った。添加後は20 ℃で培養を行い、培養開始後14時間で培養を終えた。培養中、数時間ごとに培養液300 μlを回収し、集菌した菌体に60 μlのバグバスター試薬(BugBuster Reagent)を加え、20分間、4 ℃で振盪し、菌体を溶菌させた。その後、10 mM リン酸カリウムを60 μl加え、遠心(16,000×g、4℃、20 分間)して上清を回収し、その上清を粗精製酵素標品として、酵素活性を測定した。酵素活性は菌体の濃度とともに上昇し、培養終了時には培養液1 Lあたり65 Uとなった。このとき、比活性は0.15 U/mgであり、菌体濃度はOD660=4.0であった。
【0052】
2. A培地を用いるBfu-GDHの生産:
A培地を用いるBfu-GDHの生産を行った。Bfu-GDHをコードする遺伝子を挿入した発現ベクターpET30cを用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。得られた形質転換体BL21(DE3)/pET30c(Bfu-GDH)を3 mL LB培地に植菌し、一晩37℃で振とう培養した。その後、下記A培地(Km 50 μg/mL)100 mLに前培養液1 mlを植菌し、20℃で坂口フラスコを用いて、120 rpmで振とう培養を行なった。
A培地: LB培地+0.5% グリセロール、0.05% グルコース、0.2% α-ラクトース、25mM (NH
4)
2SO
4、100mM KH
2PO
4、100mM NaHPO
4、1 mM MgSO
4 (ZYP培地;F. William Studier et.al., Protein Expression and Purification (2005)を改変)。
【0053】
培養中、任意の時間ごとに培養液300 μlを回収し、集菌した菌体に60 μlのBugBuster Reagentを加え、20分間、4 ℃で振盪し、菌体を溶菌させた。10 mM リン酸カリウムを60 μl加え、遠心(16,000×g、4℃、20 分間)して上清を回収し、その上清を粗精製酵素標品としてその活性を測定した。
【0054】
Bfu-GDHはGDH活性を有する水溶性酵素として発現された。培養、酵素生産曲線を
図2に示す。培養開始から24時間後にOD660が大幅に増加し、28時間を過ぎたころには約21で増加は止まった。酵素活性は24時間ごろから増加し、32時間後には培養液1 Lあたり約2200Uとなり、増加は止まった。タンパク質濃度は24時間後には2.2 mg/mlであり、36時間後には約3.0 mg/mlとなり、増加は止まった。
【0055】
A培地で培養することにより得られたボトリオチニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素(Bfu-GDH)の粗精製酵素標品の酵素活性を測定した結果、グルコース脱水素酵素活性のみが確認され、グルコース酸化酵素活性は検出されなかった。これまで、ボトリオチニア・フケリアナ由来の当該遺伝子は既報の学術論文においてグルコース酸化酵素として報告されているが、本結果により、同遺伝子がコードしている蛋白質はグルコース脱水素酵素であることが初めて示され、実施例4に記されるように、キシロースに対する反応性が低い新しいグルコース脱水素酵素を調製する方法が開示される。培養開始後40時間において菌体量の増加だけではなく、単位タンパク質あたりの酵素の生産性が1.8U/mg タンパク質となり、IPTG系の12倍に達していた。その結果として培養液1Lあたり2200Uの酵素生産量が得られ、IPTG系の34倍であった。すなわち、A培地を用いるとIPTG系よりさらに効率的にBfu-GDHを組み換え生産できることがわかった。
【0056】
3.A培地ならびにシャペロンとの共発現によるBfu-GDHの生産:
Bfu-GDHのコドン修正遺伝子を挿入したpET30cを用いて、シャペロンベクターpGro7が既に導入されている大腸菌BL21(DE3)/pGro7を形質転換した。pGro7は、蛋白質のフォールディングを促進することが知られているシャペロンGroELおよびGroESをアラビノース誘導下に発現するベクターである。得られた形質転換体BL21(DE3)/pET30c(Bfu-GDH)・pGro7を3 mL LB培地に植菌し、一晩37℃で振とう培養した。その後、Km 50 μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)50 μg/mLを含むA培地100 mLに前培養液1 mlを植菌し、20℃で坂口フラスコを用いて、120 rpmで振とう培養を行なった。pGro7の発現誘導はアラビノース(終濃度2 mM)の添加により行った。アラビノースの添加は培養開始時、培養開始12時間後、培養開始24時間後と添加時間を変えて検討を行った。培養中、任意の時間ごとに培養液300 μlを回収し、上記と同様の方法で粗精製酵素標品を調製した。
【0057】
アラビノース(終濃度2 mM)を培養開始時、12時間後、24時間後に添加し、それぞれ培養した結果、培養開始から24時間後にOD660が大幅に増加し、32時間を過ぎたころにはOD660はそれぞれ約27、約28、約26となり増加は止まった。また、酵素活性は24時間ごろから増加し、40時間後にはそれぞれ培養液1 Lあたり約2500 U/L、2600 U/L、1300 U/Lとなり、増加は止まった。タンパク質濃度は24時間後でそれぞれ1.8 mg/ml、2.0 mg/ml、1.9 mg/mlであった。アラビノースを培養開始時に添加した場合、36時間後には約3.2 mg/ml で増加は止まったが、アラビノースを12時間後、24時間後に添加した場合、タンパク質濃度は48時間後まで徐々に増加していた。これらの結果は、シャペロンとの共発現によりBfu-GDHの生産性が向上したことを示す。
【0058】
実施例4
基質特異性の評価
上記実施例3のA培地を用いて得られた酵素について、グルコース、マルトース、キシロースおよびガラクトースを基質として基質特異性を測定した。その結果、基質濃度5 mMにおいてグルコースを100%とした時のBfu-GDHの脱水素酵素活性はマルトース、ガラクトースでは検出できず、キシロースでは13%であった。同じ条件でのAo-GDHのグルコースを100%とした時のキシロースの脱水素酵素活性は21%であった。よってBfu-GDHは既に報告されているAo-GDHよりキシロースに対する酵素活性が低いことが示された。
【0059】
実施例5
Bfu-GDHへの変異導入
部位特異的変異導入はQuikChange(登録商標)法により行った。QuikChange(登録商標)法では、実施例1で作製したpET30c-Bfu-GDHをテンプレートとし、変異導入用プライマーによりPCR増幅を行った。続いてPCR後の試料にDpnIを加え37℃、60分間インキュベートすることでテンプレートDNAのみを消化し、この試料を用いて大腸菌DH5αを形質転換した。LB寒天培地(50 μg/mlカナマイシン)により一晩培養後、任意に選んだクローンからプラスミドを抽出し、シークエンス解析により目的の変異が導入されていることを確認した。得られたPCR断片をNdeI、HindIII消化(37 ℃,2時間)し、同制限酵素消化したpET30cとライゲーションし、この試料を用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。LB寒天培地(50 μg/mlカナマイシン)により一晩培養後、任意に選んだクローンからプラスミドを抽出し、シークエンス解析により変異導入を確認した。
【0060】
このようにして、以下の変異酵素を発現する形質転換体を得た:Bfu−GDH(G53A)、(N176K)、N176R、N176E、N176S、(S514G)、(S552C)、(G53A/S514G)、(S514G/S552C)、(G53A/S514G/S552C)。さらに、S514G、S552C、またはこれらの二重変異S514G/S552Cと、(N176K)、N176R、N176E、N176S、N225K、N259K、N301K、N326K、N330K、N355K、N487S、T488E、V489I、S490P、N492T、T494A、E495D、A496E、E497K、F499V、D500E、V502L、T504A、A505Nの変異とを種々に組み合わせた多重変異を設計し、これらの変異酵素を発現する形質転換体を作製した:N176K/S490P/D500E/S514G/S552C、N176K/A496E/D500E/S514G/S552C、N176K/S514G/S552C、S514G/S552C、G53A/S514G/S552C。
【0061】
実施例6
変異酵素の生産および活性測定
各変異酵素を発現する形質転換体BL21(DE3)を前培養した。300mlバッフル付きフラスコを用いA培地60ml に対し1%量殖菌し、20℃、28時間、125rpmの条件で振とう培養を行った。培地50mlを集菌後、湿菌体1gに5mlの割合でBugBuster(登録商標)蛋白質抽出試薬(Novagen)を加え懸濁し、ゆるやかに振とうしながら室温で15分間インキュベートを行った。遠心(15K rpm/4℃/20分間)により不溶性分画を除去後、得られた上清を20mM リン酸カリウム緩衝液 (pH6.5)で4℃で一晩透析した。透析終了後に遠心を行い、その上清を粗精製酵素標品とした。不溶性分画は、懸濁液2ml分の不溶性分画に対し20mM リン酸カリウム緩衝液 (pH6.5)を1mの割合で懸濁した。
【0062】
いくつかの多重変異酵素については、小スケールの発現系を用いた。各変異酵素を発現する形質転換体BL21(DE3)を前培養し、A培地3ml に1vol%量を殖菌した。37℃で4時間振とう培養後、20℃で20時間振とう培養を行った。培養後2mlの培地を集菌し400μlのBugBuster(登録商標)を加え懸濁後に室温で15分間振とうした。その後、遠心(15000rpm/4℃/20分間)を行い、得られた上清を粗精製酵素標品とした。
【0063】
GDH活性測定はDCIP(0.3mM)/PMS(0.6mM)系で緩衝液は20mM リン酸カリウム緩衝液 (pH6.5)を使用し、基質としてグルコース(Glc;1,2,4,10,20,40mM), キシロース(Xyl;4,40mM)を使用した。
【0064】
結果を表1に示す。表中の数値は、比活性(U/mg)および生産性(U/L)は40mMのグルコースを基質として、同一条件で行った数回分のデータの平均値である。また得られた粗精製酵素を用いて、基質(グルコース;1,2,4,10,20,40mM)濃度と活性との相関を観察し、そこから求められる飽和曲線から得られるミカエルリス・メンテン定数(Km値)およびみかけの最大活性(Vmax)を求めた。なお、本件の優先権基礎出願の表1および表2に記載される活性の値は吸光度のデータから活性値を求める計算において誤りがあった。下記の表1および2では正しい値が示される。
【表1】
【0065】
N176K、N176R、N176E、N176S、S514GおよびS552Cの変異体は、対照(Bfu−GDH)と比較して、生産性、酵素活性ともに増加していた。S514G/S552Cの二重変異体では、さらに高い生産量および酵素活性が得られた。N176K、N176R、N176E、N176S、変異体はS514G/S552Cとの複合変異体では非常に高い生産性が得られた。G53A変異体は、単独変異体およびG53A/S514Gの二重変異体では対照と同等の生産性を示したが、G53A/S514G/S552C複合変異体では非常に高い生産性が得られた。
【0066】
S514GおよびS514G/S552Cとさらに別の変異を組み合わせた多重変異体についての結果を表2に示す。表中の数値は、比活性(U/mg)および生産性(U/L)は40mMのグルコースを基質として、同一条件で行った数回分のデータの平均値である。また得られた粗精製酵素を用いて、基質(グルコース;1,2,4,10,20,40mM)濃度と活性との相関を観察し、そこから求められる飽和曲線から得られるミカエルリス・メンテン定数(Km値)およびみかけの最大活性(Vmax)を求めた。
【表2】
【0067】
表2に示されるように、多くの多重変異体においてS514G単独変異およびS514G/S552Cよりも高い生産性が得られた。特に、N176K/S490P/D500E/S514G/S552C、N176K/A496E/D500E/S514G/S552C、N176K/S514G/S552C、S514G/S552C、G53A/S514G/S552Cについては、非常に高い生産性ならびに酵素活性が認められた。
【0068】
野性型の酵素、ならびにこれらの変異体のグルコースに対する活性とキシロースに対する活性を調べたところ、キシロースへの反応性はグルコースの20%以下、あるいは15%以下であり、グルコースに対して基質特異性の高い酵素であった。また、これらの酵素のマルトースならびにガラクトースに対する活性は検出されなかった。
【0069】
同様にして、さらなる多重変異体を作成して、その活性を測定した。また、これらの酵素を含む溶液を40℃で10分放置した後の残存活性を測定することにより、熱安定性を評価した。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示されるように、
N176K/R,
N225E,
N326E,
N330K/S,
N355K/Eと、S514G/S552Cとの複合変異体が高い生産性および活性を有することが確認された。熱安定性については、
N176K/Rでは6〜8%程度、
N225Eでは4%程度の残存活性が観察された。
次にこれらの活性向上に効果があった変異を組み合わせた変異酵素を構築し、生産性・活性ならびに安定性について検討した。結果を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
これらの変異の組み合わせの中で特に、
N176K/N301K/N330K/S514G/S552C、
N176R/N301K/N330K/S514G/S552Cおよび
N176R/N225E/N301K/N326E/N330K/N355E/S514G/S552Cの3種が生産性・活性も高く、また安定性にも相乗効果が現れていることが確認できた。生産性はいずれの酵素も30.000U/L程度が達成され、みかけのVmax/Km値も向上している。安定性についても40℃溶液中10分放置後の残存活性は10〜13%程度まで向上していた。
【0074】
さらに、種々の変異の組み合わせを作成して、生産性・活性および安定性を調べたところ、下記の表
5に示す複合変異体が特に高い生産性・活性および安定性を持っていた。中でも、
E166R/T168P/N176R/N301K/N330K/S490P/D500E/S514G/S552Cが高いVmax/Km値を示し、かつ高い熱安定性を示した。この酵素は40℃溶液中での10分インキュベーション後の残存活性が100%であり、失活が観察されなかった。45℃、10分後でも40%弱の残存活性が観察された。
【0075】
【表5】
【0076】
実施例7
Ao-GDHへの分子内S-S結合の導入
酵素の熱安定性の向上を目的として、Ao-GDHの種々のアミノ酸をシステインに変異させた各種変異体を作製し、その酵素活性および熱安定性を調べた。変異の導入および酵素活性の測定は実施例5と同様にして行った。
【0077】
熱安定性試験は次のようにして行った。45℃にした20mM リン酸カリウム緩衝液 (pH6.5) 800μlに上記粗精製酵素標品を200μl 加え混和し、すぐに、予め45℃に加熱しておいた20mM リン酸カリウム緩衝液 (pH6.5) 100μl に対して100μlを加えた(終濃度10倍希釈)。添加後、45℃で2, 5, 10, 15, 20, 25, または30分間のインキュベーションを行った。所定時間経過後、速やかに氷中で冷却した。GDH活性測定は、DCIP(0.3mM)/PMS(0.6mM)系で緩衝液は20mM リン酸カリウム緩衝液 (pH6.5)を使用し、基質はGlc(40mM)を使用した。
【0078】
その結果、配列番号4で示されるアスペルギルス・オリゼTI株由来FAD−GDHの149番目のアミノ酸残基Vおよび190番目のアミノ酸残基Gが両方ともCで置き換えられている改変型酵素が、特に高い熱安定性ならびに生産性を示すことが見いだされた。
図3に示されるように、Ao-GDHの場合には時間とともに活性が低下していったが、V149C/G190Cは急速に30%程度に低下したのち15%程度で一定になった。V149CまたはG190Cの単独変異では生産性・活性の上昇には寄与しないことから、かかる熱安定性の向上は、分子内でS−S結合が形成されているためであると推定される。
【0079】
図4に、野生型酵素およびV149C/G190C変異酵素ならびに参考としてG190C変異酵素のS−V曲線を示す。また、Km値およびVmax値を下記の表6に示す。
【表6】
【0080】
これらの結果から、V149C/G190C変異酵素は野生型と比較して酵素活性も高いことがわかる。分子内S-S結合の形成により基質ポケットの状態が変わって活性が上昇したのか、あるいは熱安定性が向上したことにより酵素の見かけ上の残存活性が向上したのかは、現在のところ不明である。
【0081】
実施例8
Bfu-GDHおよび他の真菌由来GDHへの分子内S-S結合の導入
実施例7の結果に基づいて、配列番号2で示されるボトリオチニア・フケリアナ由来FAD−GDHの150番目のアミノ酸残基Aおよび192番目のアミノ酸残基Tが両方ともCで置き換えられている改変型酵素(A150C/T192C)を作製したところ、高い熱安定性を示すことが見いだされた。さらに、かかる変異と、実施例6で高い生産性を示したいくつかの変異とを組み合わせた多重変異体を作製し、これらの変異体についても同様にして酵素活性および熱安定性を評価した。
【0082】
図5にBfu-GDHのA150C/T192C変異体の熱安定性を示す。Bfu-GDHにA150C/T192Cおよびこの変異を含む多重変異を導入すると、酵素活性は同等もしくは低下していたが、熱安定性の向上が認められた。45℃で熱処理すると、直後にはすべて活性が下がったが、その後活性低下速度が遅くなった。なお、これらの変異の導入によりグルコース/キシロースの選択性には影響が見られなかった。
【0083】
さらに、
図1に示す配列を有するスクレノチニア・スクレロチオラム(Sclenotinia sclerotiorum)およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)40715のグルコース脱水素酵素をコードする遺伝子を合成し(それぞれ配列番号7および8)、大腸菌で発現させた。また、それぞれA150C/T191CおよびY150C/G191Cの変異を導入した変異酵素も作製し、同様にして酵素活性および熱安定性を評価した。
【0084】
作製した各変異体の熱安定性を、所定の測定時間における失活曲線から導き出される失活の速度定数(k (min
-1))およびそこから計算される半減期(t
1/2 (min))で表した結果を表7に示す。
【表7】
【0085】
実施例9
酵素センサーの作製および評価
アスペルギルス・オリゼTI株由来V149C/G190C変異酵素およびボトリオチニア・フケリアナ由来S514G/S552C変異酵素を用いて酵素電極を作製した。5ユニットの本発明の改変型FAD−GDHにカーボンペースト20mgを加えて凍結乾燥させた。これをよく混合した後、既にカーボンペーストが約40mg充填されたカーボンペースト電極の表面だけに充填し、濾紙上で研磨した。この電極を1%のグルタルアルデヒドを含む10mM MOPS緩衝液(pH7.0)中で室温で30分間処理した後、20mMリジンを含む10mM MOPS緩衝液(pH7.0)中で室温で20分間処理してグルタルアルデヒドをブロッキングした。この電極を10mM MOPS緩衝液(pH7.0)中で室温で1時間以上平衡化させた。電極は4℃で保存した。
【0086】
作製した酵素センサーを用いてグルコース濃度の測定を行った。本発明の改変型FAD−GDHを固定化した酵素センサーを用いて、0.1mM−5mMの範囲でグルコースの定量を行うことができた。