(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記再通電電流測定部によって測定される前記再通電電流が第3の閾値より小さい場合、前記スパークプラグが異常であると判断する異常判断部を備える請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の点火装置。
前記通電時間決定部は、スパークプラグ毎に、前記再通電電流測定部によって測定される前記再通電電流に応じて、前記通電時間を決定する請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の点火装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.第1実施形態
A−1.点火装置の構成
図1は、点火装置10の構成を示す説明図である。点火装置10は、スパークプラグ20の中心電極100と接地電極400との間の間隙に火花放電を発生させることによって、内燃機関(図示しない)における燃焼室内の混合気に点火する。点火装置10は、スパークプラグ20の他、点火制御部600と、直流電源700、点火回路800とを備える。本実施形態では、点火装置10は、内燃機関と共に車両に搭載され、点火装置10の直流電源700は、車両に搭載されている鉛蓄電池である。
【0014】
本実施形態では、点火装置10は、1つのスパークプラグ20と、1つの点火回路800を備える。他の実施形態では、点火装置10は、内燃機関の仕様に応じた複数のスパークプラグ20と、各スパークプラグ20に対応する複数の点火回路800とを備えてもよい。この場合、点火制御部600は、各スパークプラグ20に対応する点火回路800毎に制御を行う。
【0015】
点火装置10の点火回路800は、複数の回路要素を備え、点火制御部600からの制御信号に基づいて、直流電源700の電力を用いてスパークプラグ20に高電圧を印加する。点火回路800は、点火コイル810と、スイッチ820と、スイッチ830と、電流検出回路840と、ダイオード862とを備える。点火回路800の点火コイル810は、一次コイル811と、二次コイル812と、コア813とを備える。
【0016】
一次コイル811の一端は、直流電源700に接続され、一次コイル811の他端は、スイッチ820に接続されている。二次コイル812の一端は、直流電源700および一次コイル811に接続され、二次コイル812の他端は、スパークプラグ20の中心電極100へと接続されている。コア813には、一次コイル811と二次コイル812とが相互に対向する位置に巻き付けられている。
【0017】
ダイオード862は、スパークプラグ20と二次コイル812との間に設けられ、スパークプラグ20から二次コイル812に流れる電流Icを調整する。電流Icは、スパークプラグ20において中心電極100と接地電極400と間に火花放電が発生している間に流れる放電電流である。
【0018】
スイッチ820は、点火制御部600からの制御信号Vaに基づいて、直流電源700から一次コイル811に対する電力供給のオンオフを切り替える。本実施形態では、制御信号Vaがローレベル(Loレベル)である場合、スイッチ820はオフ状態であり、一次コイル811には電流は流れない。本実施形態では、制御信号Vaがハイレベル(Hiレベル)である場合、スイッチ820はオン状態であり、一次コイル811からスイッチ820へと電流Iaが流れる。電流Iaは、一次コイル811に電気エネルギを蓄積させる一次電流である。
【0019】
スイッチ830は、点火制御部600からの制御信号Vbに基づいて、一次コイル811の両端の間における電気的な接続のオンオフを切り替える。本実施形態では、スイッチ830は、サイリスタである。本実施形態では、制御信号Vbがローレベル(Loレベル)である場合、スイッチ830はオフ状態であり、一次コイル811の両端の間には電流は流れない。本実施形態では、制御信号Vbがハイレベル(Hiレベル)である場合、スイッチ830はオン状態であり、一次コイル811のスイッチ820側の端から、一次コイル811の直流電源700側の端へと電流Ibが流れる。電流Ibは、再通電電流である。一次コイル811とスイッチ830との間には、電流Ibを検出する電流検出回路840が設けられている。
【0020】
点火装置10の点火制御部600は、点火回路800を制御することによって、スパークプラグ20における中心電極100と接地電極400との間に高電圧を印加する。これによって、中心電極100と接地電極400との間に、火花放電が発生する。点火制御部600は、第1の制御部610と、第2の制御部620と、運転状態判断部630と、再通電電流測定部650と、通電時間決定部660とを備える。
【0021】
点火制御部600における第1の制御部610は、一次コイル811に電流Iaを流した後、電流Iaを遮断することによって、スパークプラグ20に供給する高電圧を二次コイル812に発生させる。本実施形態では、第1の制御部610は、制御信号Vaをスイッチ820に出力することによって、電流Iaの導通および遮断を制御する。
【0022】
点火制御部600における第2の制御部620は、第1の制御部610が電流Iaを遮断した後、一次コイル811に通電することによって、二次コイル812からスパークプラグ20に供給される電力エネルギを遮断する。本実施形態では、第2の制御部620は、制御信号Vbをスイッチ830に出力することによって、二次コイル812からスパークプラグ20に供給される電力エネルギの遮断を制御する。
【0023】
点火制御部600の運転状態判断部630は、スパークプラグ20が取り付けられた内燃機関の運転状態を判断する。本実施形態では、運転状態判断部630は、スロットル開度、吸気圧、機関回転数および吸気温などに基づいて判断する。
【0024】
点火制御部600の再通電電流測定部650は、第2の制御部620によって一次コイル811に通電される電流Ibを測定する。本実施形態では、再通電電流測定部650は、電流Ibを示す測定データを電流検出回路840から取得することによって、電流Ibを測定する。
【0025】
点火制御部600の通電時間決定部660は、再通電電流測定部650によって測定される電流Ibに応じて、通電時間Tegを決定する。通電時間Tegは、第1の制御部610によって一次コイル811にIaを流す時間の長さである。
【0026】
本実施形態では、通電時間決定部660は、延長部662と、短縮部664とを備える。通電時間決定部660の延長部662は、再通電電流測定部650によって測定される電流Ibが第1の閾値Th1より小さい場合、通電時間Tegを基準通電時間Tbsよりも延長する。通電時間決定部660は、再通電電流測定部650によって測定される電流Ibが第2の閾値Th2より大きい場合、通電時間Tegを基準通電時間Tbsよりも短縮する。基準通電時間Tbsは、通電時間Tegの基準値として、運転状態判断部630によって判断される運転状態に応じて設定される。
【0027】
本実施形態では、点火制御部600が備える各構成は、コンピュータプログラムに基づいてCPUが動作することによってソフトウェア的に実現される。他の実施形態では、点火制御部600が備える少なくとも1つの構成は、点火制御部600が備える回路構成に基づいてハードウェア的に実現されても良い。
【0028】
A−2.点火装置の動作
図2および
図3は、点火制御処理を示す説明図である。点火制御部600は、内燃機関の運転状態に応じたタイミングで点火制御処理を実行する。
【0029】
点火制御部600は、点火制御処理を開始すると、運転状態判断部630として動作することによって、運転状態判断処理(ステップS110)を実行する。運転状態判断処理(ステップS110)において、点火制御部600は、スパークプラグ20が取り付けられた内燃機関の運転状態を判断する。
【0030】
運転状態判断処理(ステップS110)を実行した後、点火制御部600は、運転状態判断処理(ステップS110)によって判断された運転状態に応じて、基準通電時間Tbsと、点火時期tspと、火花維持時間Tshとを設定する(ステップS120)。点火時期tspは、スパークプラグ20に高電圧を印加するタイミングである。火花維持時間Tshは、スパークプラグ20における火花放電を維持する時間の長さである。本実施形態では、点火制御部600は、複数の運転状態に応じて各値が予めマッピングされたデータを参照することによって、運転状態判断処理(ステップS110)によって判断された運転状態に応じた各値を設定する。
【0031】
運転状態に応じた各値を設定した後(ステップS120)、点火制御部600は、通電時間決定部660として動作することによって、通電時間Tegを決定する(ステップS130)。本実施形態では、点火制御部600は、今回の点火制御処理で設定された基準通電時間Tbsに、先回の点火制御処理を実行した際に設定した通電時間補正値Tcr1を加算することによって、通電時間Tegを決定する。本実施形態では、初回の点火制御処理を実行する場合、先回の点火制御処理が存在しないため、点火制御部600は、通電時間補正値Tcr1を「0」として、通電時間Tegを決定する。
【0032】
通電時間Tegを決定した後(ステップS130)、点火制御部600は、一次コイル811に対して通電するタイミングである通電開始時期tstを設定する(ステップS140)。本実施形態では、点火制御部600は、点火時期tspを通電時間Tegの分だけ遡ったタイミングを、通電開始時期tstとして設定する。
【0033】
通電開始時期tstを設定した後(ステップS140)、点火制御部600は、第1の制御部610として動作することによって、第1の制御処理(ステップS150)を実行する。第1の制御処理(ステップS150)において、点火制御部600は、通電開始時期tstになるまで待機する(ステップS152:「NO」)。通電開始時期tstになった場合(ステップS152:「YES」)、点火制御部600は、制御信号Vaをローレベルからハイレベルに切り替え、すなわち、制御信号Vaをオフ状態からオン状態に切り替える(ステップS154)。これによって、一次コイル811に電流Iaが流れるため、コア813に磁界が形成される。
【0034】
制御信号Vaをオン状態に切り替えた後(ステップS154)、点火制御部600は、点火時期tspになるまで待機する(ステップS156:「NO」)。点火時期tspになった場合(ステップS156:「YES」)、点火制御部600は、制御信号Vaをハイレベルからローレベルに切り替え、すなわち、制御信号Vaをオン状態からオフ状態に切り替える(ステップS158)。これによって、コア813の磁界が変化するため、一次コイル811に自己誘導作用による一次電圧が発生するとともに、二次コイル812に負極性の高電圧が発生する。この高電圧がスパークプラグ20に印加されることによって、スパークプラグ20に火花放電が発生する。制御信号Vaをオフ状態に切り替えた後(ステップS158)、点火制御部600は、第1の制御処理(ステップS150)を終了する。
【0035】
第1の制御処理(ステップS150)を終了した後、点火制御部600は、第2の制御部620として動作することによって、第2の制御処理(ステップS160)を実行する。第2の制御処理(ステップS160)において、点火制御部600は、点火時期tspから火花維持時間Tsh分だけ経過したタイミングである火花遮断時期tb1になるまで待機する(ステップS162:「NO」)。火花遮断時期tb1になった場合(ステップS162:「YES」)、点火制御部600は、制御信号Vbをローレベルからハイレベルに切り替え、すなわち、制御信号Vbをオフ状態からオン状態に切り替える(ステップS164)。これによって、一次コイル811に電流Ibが流れるため、二次コイル812からスパークプラグ20に供給される電力エネルギが遮断される。この電力エネルギの遮断によって、スパークプラグ20における火花放電が消滅する。
【0036】
制御信号Vbをオン状態に切り替えた後(ステップS164)、点火制御部600は、再通電終了時期tb2になるまで待機する(ステップS166:「NO」)。再通電終了時期tb2は、一次コイル811に対する電流Ibによる通電を終了するタイミングであり、本実施形態では、運転条件によらない固定値に設定されている。再通電終了時期tb2になった場合(ステップS166:「YES」)、点火制御部600は、制御信号Vbをハイレベルからローレベルに切り替え、すなわち、制御信号Vbをオン状態からオフ状態に切り替える(ステップS168)。制御信号Vbをオフ状態に切り替えた後(ステップS168)、点火制御部600は、第2の制御処理(ステップS160)を終了する。
【0037】
第2の制御処理(ステップS160)を終了した後、点火制御部600は、再通電電流測定部650として動作することによって、再通電電流測定処理(ステップS170)を実行する。再通電電流測定処理(ステップS170)において、点火制御部600は、第2の制御処理(ステップS160)によって一次コイル811に通電される電流Ibを測定する。本実施形態では、点火制御部600は、電流Ibを示す測定データを電流検出回路840から取得することによって、電流Ibの最大値を測定する。本実施形態では、電流検出回路840は、電流Ibの最大値をコンデンサに蓄積される電荷として保持するピークホールド回路を備え、点火制御部600は、電流検出回路840のピークホールド回路におけるコンデンサの電圧を測定することによって、第2の制御処理(ステップS160)を終了した後においても電流Ibの最大値を測定できる。
【0038】
電流Ibを測定した後(ステップS170)、点火制御部600は、電流Ibが第1の閾値Th1より小さい場合(ステップS182:「YES」)、延長部662として動作することによって、通電時間補正値Tcr1を現時点の値よりも増加させる(ステップS183)。点火制御部600は、この通電時間補正値Tcr1を、次回の点火制御処理の通電時間決定処理(ステップS130)に利用する。通電時間補正値Tcr1を設定した後、点火制御部600は、点火制御処理を終了する。
【0039】
電流Ibを測定した後(ステップS170)、点火制御部600は、電流Ibが第2の閾値Th2より大きい場合(ステップS184:「YES」)、短縮部664として動作することによって、通電時間補正値Tcr1を現時点の値よりも減少させる(ステップS184)。点火制御部600は、この通電時間補正値Tcr1を、次回の点火制御処理の通電時間決定処理(ステップS130)に利用する。通電時間補正値Tcr1を設定した後、点火制御部600は、点火制御処理を終了する。
【0040】
電流Ibが第1の閾値Th1以上かつ第2の閾値Th2以下である場合(ステップS182:「NO」、ステップS184:「NO」)、点火制御部600は、通電時間補正値Tcr1を現時点の値に維持する(ステップS186)。点火制御部600は、この通電時間補正値Tcr1を、次回の点火制御処理の通電時間決定処理(ステップS130)に利用する。通電時間補正値Tcr1を設定した後、点火制御部600は、点火制御処理を終了する。
【0041】
図4は、点火装置10における点火制御処理による電流および電圧の波形を示すタイミングチャートである。
図4には、上段から順に、制御信号Va、制御信号Vb、電流Ia、電流Ib、電圧Vg、電流Icに関する波形が図示されている。
図4の各タイミングチャートでは、縦軸は、信号(制御信号、電流および電圧の)の大きさを示し、横軸は、
図4の紙面左から紙面右に向けて時間の経過を示す。
【0042】
制御信号Vaは、通電開始時期tstになる時点で、ローレベルからハイレベルに切り替わり、通電開始時期tstから通電時間Tegが経過した点火時期tspになる時点まで、ハイレベルを保持する。今回の点火制御処理における制御信号Vaの通電開始時期tstは、先回の点火制御処理における制御信号Vpaと比較して、通電時間補正値Tcr1の分だけずれたタイミングになる。
図4の例では、制御信号Vaの通電開始時期tstは、制御信号Vpaと比較して、通電時間補正値Tcr1の分だけ早いタイミングになる。
【0043】
電流Iaは、制御信号Vaがハイレベルを保持する通電開始時期tstから点火時期tspの間、増加し続ける。今回の点火制御処理における点火時期tspの電流Iaは、先回の点火制御処理における点火時期tspの電流Iapと比較して、通電時間補正値Tcr1に応じて増減した大きさになる。
図4の例では、点火時期tspの電流Iaは、点火時期tspの電流Iapと比較して、通電時間補正値Tcr1に応じた分だけ増加する。
【0044】
制御信号Vaは、点火時期tspになる時点で、ハイレベルからローレベルに切り替わる。これによって、電流Iaが遮断されるとともに、電圧Vgが増加し始める。電圧Vgの増加によって中心電極100と接地電極400との間に絶縁破壊が起きた時、スパークプラグ20に火花放電が発生する。火花放電が容量放電から誘導放電に移行した時、電圧Vgおよび電流Icは安定する。先回の点火制御処理における電流Icは、先回の点火制御処理における電流Icpと比較して、通電時間補正値Tcr1に応じて増減した大きさになる。
図4の例では、電流Icは、電流Icpと比較して、通電時間補正値Tcr1に応じた分だけ増加する。
【0045】
制御信号Vbは、点火時期tspから火花維持時間Tshが経過した火花遮断時期tb1になる時点で、ローレベルからハイレベルに切り替わり、再通電終了時期tb2になる時点まで、ハイレベルを保持する。
【0046】
電流Ibは、火花遮断時期tb1から増加して最大値になり、最大値になった後に減少し始め、再通電終了時期tb2になるまでに流れなくなる。今回の点火制御処理における電流Ibは、先回の点火制御処理における電流Ibpと比較して、通電時間補正値Tcr1に応じて増減した大きさになる。
図4の例では、電流Ibは、電流Ibpと比較して、通電時間補正値Tcr1に応じた分だけ増加する。
【0047】
図5は、点火コイル810に蓄えられるエネルギの状態を示す説明図である。
図5の状態1は、スパークプラグ20に火花ギャップの増加やくすぶり汚損が発生していない状態である。
図5の状態2は、スパークプラグ20に火花ギャップの増加やくすぶり汚損が発生した状態であって、通電時間補正値Tcr1によって通電時間Tegが補正されていない状態である。
図5の状態3は、スパークプラグ20に火花ギャップの増加やくすぶり汚損が発生した状態であって、通電時間補正値Tcr1によって通電時間Tegが延長された状態である。
図5に示す各エネルギの横方向の長さは、各エネルギの大きさを示す。
【0048】
通電によって点火コイル810に蓄えられるエネルギEG1は、放電までに消費されるエネルギEG3と、放電発生後に点火コイル810に残存するエネルギEG2とに分けられる。このうちエネルギEG2は、さらに、放電発生中にスパークプラグ20に印加されるエネルギEG4と、火花遮断後に点火コイル810に残るエネルギEG5に分けられる。状態1では、スパークプラグ20に印加されるエネルギEG4は、着火に必要なエネルギEG6よりも十分に大きい。
【0049】
状態2では、状態1と比較して、放電までに消費されるエネルギEG3が火花ギャップの増加やくすぶり汚損によって増加し、放電発生後に点火コイル810に残存するエネルギEG2がエネルギEG3の増加分だけ減少する。そのため、状態2では、スパークプラグ20に印加されるエネルギEG4は、着火に必要なエネルギEG6を満たすことができなくなる。
【0050】
状態3では、状態1と比較して、通電によって点火コイル810に蓄えられるエネルギEG1は、通電時間Tegが延長された時間に応じて増加する。そのため、放電発生後に点火コイル810に残存するエネルギEG2が状態1と同程度に確保され、スパークプラグ20に印加されるエネルギEG4は、着火に必要なエネルギEG6よりも十分に大きくなる。
【0051】
以上説明した第1実施形態によれば、火花放電の消滅後に点火コイル810に残存するエネルギに相関を有する電流Ibに基づいて、スパークプラグ20に対して火花放電の発生中に十分な電力エネルギを供給可能に電流Iaの通電時間Tegを決定することによって、火花放電による着火に必要な電力エネルギが不足することを回避できる。したがって、火花放電による着火に必要な電力エネルギの不足を回避しながら、スパークプラグ20の耐久性を向上させることができる。また、通電時間決定部660は、延長部662と短縮部664とを含むため、スパークプラグ20における状態の劣化および回復に応じて通電時間Tegを調整できる。また、着火に必要なエネルギEG6よりも過剰にスパークプラグ20に対して電力エネルギを供給した場合、スパークプラグ20における電極消耗の進行が早くなることから、スパークプラグ20に対して放電発生中に供給されるエネルギEG4を必要最小限に抑制することによって、スパークプラグ20における電極消耗を抑制できる。
【0052】
B.第2実施形態
図6は、第2実施形態における点火装置10Bの構成を示す説明図である。第2実施形態の点火装置10Bは、点火制御部600に代えて点火制御部600Bを備える点、点火回路800に代えて点火回路800Bを備える点を除き、第1実施形態の点火装置10と同様である。
【0053】
第2実施形態の点火回路800Bは、電流Iaを検出する電流検出回路850が設けられている点を除き、第1実施形態の点火回路800と同様である。
【0054】
第2実施形態の点火制御部600Bは、電流Iaを測定する一次電流測定部670を備える点、通電時間決定部660に代えて通電時間決定部660Bを備える点を除き、第1実施形態の点火制御部600と同様である。本実施形態では、点火制御部600Bの一次電流測定部670は、電流Iaを示す測定データを電流検出回路850から取得することによって、電流Iaを測定する。通電時間決定部660Bは、通電時間決定部660が電流Iaおよび電流Ibに応じて通電時間Tegを決定する点を除き、第1実施形態の通電時間決定部660と同様である。
【0055】
図7は、第2実施形態における点火制御処理を示す説明図である。点火制御部600Bは、内燃機関の運転状態に応じたタイミングで点火制御処理を実行する。
【0056】
点火制御部600Bは、点火制御処理を開始すると、第1実施形態と同様に、運転状態判断処理(ステップS110)を実行する。運転状態判断処理(ステップS110)を実行した後、点火制御部600Bは、第1実施形態と同様に、運転状態に応じた各値を設定する(ステップS120)。
【0057】
運転状態に応じた各値を設定した後(ステップS120)、点火制御部600Bは、通電時間決定部660Bとして動作することによって、通電時間Tegを決定する(ステップS130B)。本実施形態では、点火制御部600Bは、今回の点火制御処理で設定された基準通電時間Tbsに、先回の点火制御処理を実行した際に設定した通電時間補正値Tcr1および通電時間補正値Tcr2を加算することによって、通電時間Tegを決定する。本実施形態では、初回の点火制御処理を実行する場合、先回の点火制御処理が存在しないため、点火制御部600Bは、通電時間補正値Tcr1および通電時間補正値Tcr2をそれぞれ「0」として、通電時間Tegを決定する。
【0058】
通電時間Tegを決定した後(ステップS130B)、点火制御部600Bは、通電開始時期tstを設定する(ステップS140)。その後、点火制御部600Bは、第1の制御処理(ステップS150)を実行する。
【0059】
第1の制御処理(ステップS150)を終了した後、点火制御部600Bは、一次電流測定部670として動作することによって、一次電流測定処理(ステップS270)を実行する。一次電流測定処理(ステップS270)において、点火制御部600Bは、第1の制御処理(ステップS150)によって一次コイル811に通電される電流Iaを測定する。本実施形態では、点火制御部600Bは、電流Iaを示す測定データを電流検出回路850から取得することによって、電流Iaの最大値を測定する。本実施形態では、電流検出回路850は、電流Iaの最大値をコンデンサに蓄積される電荷として保持するピークホールド回路を備え、点火制御部600Bは、電流検出回路850のピークホールド回路におけるコンデンサの電圧を測定することによって、第1の制御処理(ステップS150)を終了した後においても電流Iaの最大値を測定できる。
【0060】
電流Iaを測定した後(ステップS270)、点火制御部600Bは、電流Iaが第4の閾値Th4より小さい場合(ステップS282:「YES」)、通電時間補正値Tcr2を現時点の値よりも増加させる(ステップS283)。点火制御部600Bは、この通電時間補正値Tcr2を、次回の点火制御処理の通電時間決定処理(ステップS130)に利用する。通電時間補正値Tcr2を設定した後、点火制御部600Bは、第1実施形態と同様に、第2の制御処理(ステップS160)以降の処理を実行する。
【0061】
電流Iaを測定した後(ステップS270)、点火制御部600Bは、電流Iaが第5の閾値Th5より大きい場合(ステップS284:「YES」)、通電時間補正値Tcr2を現時点の値よりも減少させる(ステップS284)。点火制御部600Bは、この通電時間補正値Tcr2を、次回の点火制御処理の通電時間決定処理(ステップS130)に利用する。通電時間補正値Tcr2を設定した後、点火制御部600Bは、第1実施形態と同様に、第2の制御処理(ステップS160)以降の処理を実行する。
【0062】
電流Iaが第4の閾値Th4以上かつ第5の閾値Th5以下である場合(ステップS282:「NO」、ステップS284:「NO」)、点火制御部600Bは、通電時間補正値Tcr2を現時点の値に維持する(ステップS286)。点火制御部600Bは、この通電時間補正値Tcr2を、次回の点火制御処理の通電時間決定処理(ステップS130)に利用する。通電時間補正値Tcr2を設定した後、点火制御部600Bは、第1実施形態と同様に、第2の制御処理(ステップS160)以降の処理を実行する。
【0063】
図8は、点火装置10Bにおける点火制御処理による電流および電圧の波形を示すタイミングチャートである。
図8には、
図4と同様に、各波形が図示されている。第2実施形態のタイミングチャートは、通電時間Tegが通電時間補正値Tcr1および通電時間補正値Tcr2に基づく時間となり、この通電時間Tegに応じて電流Ia、電流Ib、電圧Vgおよび電流Icが変化する点を除き、第1実施形態のタイミングチャートと同様である。
【0064】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、火花放電の消滅後に点火コイル810に残存するエネルギに相関を有する電流Ibに基づいて、スパークプラグ20に対して火花放電の発生中に十分な電力エネルギを供給可能に電流Iaの通電時間Tegを決定することによって、火花放電による着火に必要な電力エネルギが不足することを回避できる。また、直流電源700、一次コイル811およびスイッチ820などの要因による電流Iaのバラツキに起因する一次コイル811に供給される電力エネルギのバラツキを抑制できる。
【0065】
C.第3実施形態
図9は、第3実施形態における点火装置10Cの構成を示す説明図である。
図9では、電流検出回路840および再通電電流測定部650を除き、第1実施形態と同様の構成についての記載が省略されている。第3実施形態の点火装置10Cは、点火制御部600に代えて点火制御部600Cを備える点を除き、第1実施形態の点火装置10と同様である。第3実施形態の点火制御部600Cは、異常判断部680を備える点を除き、第1実施形態の点火制御部600と同様である。
【0066】
点火制御部600Cの異常判断部680は、再通電電流測定部650によって測定される電流Ibが第3の閾値Th3より小さい場合、スパークプラグ20が異常であると判断する。第3の閾値Th3は、第1の閾値Th1よりも小さい値である。本実施形態では、異常判断部680は、スパークプラグ20が異常であると判断した場合、スパークプラグ20における点火を停止する。他の実施形態では、スパークプラグ20が異常であると判断した場合、その旨を外部に報知してもよい。
【0067】
以上説明した第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、火花放電の消滅後に点火コイル810に残存するエネルギに相関を有する電流Ibに基づいて、スパークプラグ20に対して火花放電の発生中に十分な電力エネルギを供給可能に電流Iaの通電時間Tegを決定することによって、火花放電による着火に必要な電力エネルギが不足することを回避できる。また、スパークプラグ20が異常であるとの判断に基づいて、一次コイル811、および一次コイル811に電流Iaを流す回路要素(例えば、スイッチ820)が、過電流によって故障することを回避できる。
【0068】
D.他の実施形態
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0069】
通電時間決定部660は、延長部662および短縮部664の両方を備える形態に限らず、延長部662および短縮部664のいずれか一方を備える形態であってもよい。
【0070】
第3実施形態の異常判断部680を第2実施形態に適用することも可能である。
【0071】
点火装置10が、内燃機関の仕様に応じた複数のスパークプラグ20と、各スパークプラグ20に対応する複数の点火回路800とを備える場合、そのスパークプラグ20に対応する通電時間決定部660は、そのスパークプラグ20に対応する再通電電流測定部650によって測定される電流Ibに応じて、そのスパークプラグ20に対応する通電時間Tegを決定してもよい。これによって、火花放電による着火に必要な電力エネルギが不足することを、スパークプラグ20毎に回避できる。
【0072】
点火装置10からスパークプラグ20に印加される高電圧の極性は、負極性に限らず、正極性であってもよい。
点火装置10が搭載される対象は、車両に限らず、定置型ガスエンジンであってもよい。
これらの変形例を任意に組み合わせてもよい。