【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の基調をなす課題は、具体的には殺腫瘍活性薬剤を用いて生物、より具体的にはヒトおよび患者群の処置を可能にする技術的教示および、特に手段を提供することである。本発明の基調をなす別の課題は、細胞分裂抑制薬に耐性である腫瘍疾患を持つ患者、特に多剤耐性を持つ患者に殺腫瘍を起こすのに好適である手段を提供することである。
【0009】
本発明によれば、第1の局面の課題は薬物製造に適したウイルス、好ましくはアデノウイルスを使用することで解決されるが、この時ウイルスは核内にYB−1を持たない細胞内では複製ができず、そしてウイルスは発ガン遺伝子または発ガン遺伝子産物、好ましくは発ガン遺伝子タンパク質をコードしており、それはYB−1核陽性細胞でウイルス遺伝子の少なくとも1つ、好ましくはアデノウイルス遺伝子をトランス活性化し、そして遺伝子はE1B55kDa、E4orf6、E4orf3およびE3ADPを含む群より選ばれる。
【0010】
第2の局面では、課題は核内にYB−1を有する細胞での複製についてウイルス、好ましくはアデノウイルスを使用することで解決されるが、この時ウイルスは核内にYB−1を持たない細胞では複製できず、そしてウイルスは発ガン遺伝子または発ガン遺伝子産物、特には発ガン遺伝子タンパク質をコードしており、それは少なくとも1つのウイルス遺伝子、好ましくはアデノウイルス遺伝子をトランス活性化し、そのとき遺伝子はE1B55kDa、E4orf6、E4orf3およびE3ADPを含む群より選ばれる。
【0011】
発明による上記2つの使用の実施態様では、ウイルス、好ましくはアデノウイルスは核内にYB−1を有する細胞で複製する。
【0012】
発明による2つの使用の別の実施態様では、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質はE1Aであり、そして/または発ガン遺伝子はE1Aをコードする遺伝子であり、そして/または発ガン遺伝子タンパク質はE1Aである。
【0013】
好適実施態様では、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質E1Aは機能的Rb腫瘍抑制遺伝子産物に結合できる。
【0014】
別の実施態様では、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質E1Aは、機能的Rb腫瘍抑制遺伝子産物に結合できない。
【0015】
発明による2つの使用の別実施態様では、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質E1AはYB−1の核内局在化を誘導しない。
【0016】
発明による2つの使用の更に別の実施態様では、薬物はその細胞がRb−陽性またはRb−陰性のいずれかである患者向けである。
【0017】
好適実施態様では、細胞は上記薬剤により影響を受ける状態の形成に関係する細胞である。
【0018】
発明による2つの使用の別実施態様では、細胞は核内でRb−陰性であり、そしてYB−1陽性であり、好ましくは細胞周期とは独立に核内でYB−1陽性である。
【0019】
発明による2つの使用の更に別の実施態様では、薬剤は腫瘍の処置を目的とする。
【0020】
発明による2つの使用の更に別の実施態様では、細胞、特に腫瘍またはその一部を形成する細胞は、薬剤耐性であり、特に多剤耐性、好ましくは抗腫瘍剤に対し耐性であり、そしてより好ましくは細胞増殖抑制薬に対し耐性である。
【0021】
発明による2つの使用の好適実施態様では、細胞は膜結合輸送タンパク質であるP−糖タンパク質および/またはMRPを発現、好ましくは過剰発現している。
【0022】
発明による2つの使用の別実施態様では、細胞はp53−陽性またはp53−陰性である。
【0023】
発明による2つの使用の実施態様の一つでは、発ガン遺伝子タンパク質は、野生型発ガン遺伝子タンパク質E1Aと比較して、1または複数の突然変異または欠失を有しており、その場合欠失はCR3領域の欠失およびN−末端の欠失、およびC−末端の欠失を含む群より選択されるのが好ましい。これに関連し、E1A発ガン遺伝子タンパク質はRbに結合できることが好ましい。
【0024】
発明による2つの使用の別実施態様では、発ガン遺伝子タンパク質は、野生型発ガン遺伝子タンパク質と比較した場合、1または複数の突然変異または欠失を有しており、その場合欠失はCR1領域および/またはCR2領域であることが好ましい。発ガン遺伝子タンパク質E1AがRbに結合できないことは発明の範囲内である。
【0025】
発明による2つの使用の実施態様の一つでは、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質、特にE1Aは、組織特異的および/または腫瘍特異的プロモーター、ならびに/あるいはE1Aプロモーター、特に自然のE1Aプロモーターの制御下にある。
【0026】
発明による2つの使用の別実施態様では、ウイルス、特にアデノウイルスはYB−1をコードしている。
【0027】
発明による2つの使用の更に別の実施態様では、YB−1は組織特異的および/または腫瘍特異的プロモーターの制御下にある。
【0028】
発明による2つの使用の好適実施態様では、ウイルス、特にアデノウイルスはE4orf6、E4orf3、E1B55KおよびアデノウイルスE3ADPタンパク質を含む群から選ばれるタンパク質を少なくとも1つコードしている。
【0029】
発明による2つの使用の別実施態様では、細胞は核内にYB−1を有しており、特に腫瘍もしくはその一部を形成する細胞は核内にYB−1を有している。
【0030】
発明による2つの使用の更なる実施態様では、腫瘍は核内へのYB−1輸送の誘導により核内にYB−1を有している。
【0031】
発明による2つの使用の好適実施態様では、核内へのYB−1の輸送は放射線照射、細胞増殖抑制薬の投与、および高温から成る群より選ばれた少なくとも1つの手段を通じ開始される。
【0032】
発明による2つの使用の特に好適な実施態様では、上記手段は細胞、臓器または生体に適用される。
【0033】
発明による2つの使用の好適実施態様では、ウイルス、特にアデノウイルスは、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、d1119/1131、CB016、dl520、および機能的Rb腫瘍抑制遺伝子産物と結合できるウイルス性E1A発ガン遺伝子の発現を欠いているウイルスを含む群より選ばれる。
【0034】
第三の局面では、課題はウイルス、好ましくはアデノウイルスを医薬の製造に使用することで解決されるが、この場合ウイルス、好ましくはアデノウイルスは、その複製がE2−後期プロモーターの活性化を通して、好ましくは主にE2−後期プロモーターの活性化を通じてYB−1を介してまたはYB−1による手段により制御されるようにデザインされている。実施態様の一つでは、YB−1はトランスジェニックYB−1または細胞質、特に細胞質脱制御型YB−1のいずれかである。好ましくは、トランスジェニックYB−1は、ベクター、好ましくはアデノウイルスによって細胞内で発現されるYB−1を意味する。E2−後期プロモーターは野生型アデノウイルスに存在するアデノウイルスE2−後期プロモーター、またはここでトランス遺伝子の発現と関連付け記載されるE2−後期プロモーターであるのが好ましい。
【0035】
第四の局面では、課題はウイルスおよび特にはアデノウイルスを核内にYB−1を有する細胞内での複製に使用することで解決されるが、この場合ウイルス、とりわけアデノウイルスは、複製がE2−後期プロモーターの活性化を通じて、好ましくはE2−後期プロモーターの活性化を主に通じてYB−1により制御されるようにデザインされる。実施態様の一つでは、YB−1はトランスジェニックYB−1または細胞質、特には細胞質脱制御YB−1のいずれかである。本明細書で用いる場合のトランスジェニックYB−1は、ベクター、好ましくはアデノウイルスによって細胞内で発現されるYB−1であるのが好ましい。E2−後期プロモーターは野生型アデノウイルスに存在するアデノウイルスE2−後期プロモーター、またはここでトランス遺伝子の発現の使用と関連付け記載されるE2−後期プロモーターであるのが好ましい。
【0036】
本発明の第三および/または第四の局面の好適実施態様では、アデノウイルスは本明細書に開示された如くにデザインされ、特には本発明に従った使用を目的としてデザインされる。
【0037】
第五の局面では、課題は次の特徴を有するウイルス発ガン遺伝子タンパク質、特に単離されたウイルス発ガン遺伝子タンパク質により解決される:
a)YB−1核陽性細胞内で、E1B−55K、E3ADPおよびE4orf6およびE4orf3を含む群から選ばれる少なくとも1つのウイルス遺伝子がトランス活性化されること;および
b)核内、特にウイルス発ガン遺伝子タンパク質が存在している細胞の核内でのYB−1の誘導を欠くこと。
【0038】
実施態様の一つでは、ウイルス発ガンタンパク質はE1Aである。
【0039】
更なる実施態様では、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質は、野生型発ガン遺伝子タンパク質と比較した場合に1または複数個の突然変異または欠失を有しており、この場合の欠失はCR3領域の欠失、N−末端の欠失およびC−末端の欠失を含む群より選ばれるのが好ましい。
【0040】
実施態様の一つでは、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質を介したYB−1誘導は、E4ofr6および/またはE1B55kDが有核細胞内に存在しない場合には起こらない。
【0041】
この場合にはウイルス発ガン遺伝子タンパク質はRbに結合できると解釈する。
【0042】
別実施態様では、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質は1または複数の突然変異または欠失を含み、この場合欠失はE1A発ガン遺伝子タンパク質のCR1領域および/またはCR2領域内にあることが好ましい。この場合には、ウイルス発ガン遺伝子タンパク質はRbに結合できないと解釈する。
【0043】
第六の局面では、発明は、ウイルス、特に本発明に従って使用されるアデノウイルスをコードする核酸を含み、そしてヘルパーウイルスの核酸を1つ含むウイルス複製系、好ましくはアデノウイルス複製系の使用であって、上記ヘルパーウイルスの核酸がYB−1をコードする核酸を含んでいる複製系に関する。
【0044】
実施態様の一つでは、ウイルス核酸、特にはアデノウイルス核酸、および/またはヘルパーウイルスの核酸は、複製可能なベクターとして存在する。
【0045】
第七の局面では、発明はウイルス、特にはアデノウイルスをコードする核酸を、発明に従って使用する医薬の製造、特には腫瘍処置を目的とする医薬の製造への使用に関する。
【0046】
実施態様の一つでは、細胞、特には腫瘍またはその一部を形成する細胞は、薬物、好ましくは抗ガン剤、より好ましくは細胞増殖抑制薬に対し耐性、特には多剤耐性である。
【0047】
第八の局面では、発明はウイルス、特にはアデノウイルスをコードする核酸を、発明に従って使用する、核内にYB−1を有する細胞内での複製に関する使用であって、ウイルスが核内にYB−1を持たない細胞に於いては複製欠失であり、そしてウイルスがYB−1核陽性細胞に於いては少なくとも1つのウイルス遺伝子、好ましくはアデノウイルス遺伝子をトランス活性化する発ガン遺伝子もしくは発ガン遺伝子産物をコードし、その場合の遺伝子はE1B55kDa、E4orf6、E4orf3およびE3ADPを含む群から選ばれる使用に関する。
【0048】
第九の局面では、課題はウイルス、好ましくはアデノウイルスをコードする核酸を、発明に従い使用し医薬の製造に用いることで解決されるが、そのためにウイルスはその複製がE2−後期プロモーターの活性化を通じて、好ましくはE2−後期プロモーターの活性化を主に通じて、YB−1により制御されるようにデザインされている。実施態様の一つでは、YB−1はトランスジェニックYB−1または細胞質、特には細胞質脱制御YB−1のいずれかである。ここで用いるトランスジェニックYB−1とは、ベクター、好ましくはアデノウイルスベクターによって細胞内で発現されるYB−1であることが好ましい。E2−後期プロモーターは、野生型アデノウイルス内に存在するアデノウイルスE2−後期プロモーター、またはトランス遺伝子の発現の使用と関連してここに記載されるE2−後期プロモーターであることが好ましい。
【0049】
第十の局面では、課題はウイルス、特にはアデノウイルスをコードする核酸の、細胞内での複製に関する発明に従って用いることによる使用により解決されるが、そのためにウイルスはその複製がE2−後期プロモーターの活性化を通じて、好ましくはE2−後期プロモーターの活性化を主に通じて、YB−1により制御されるようにデザインされている。実施態様の一つでは、YB−1はトランスジェニックYB−1または細胞質、特には細胞質脱制御YB−1のいずれかである。ここで用いるトランスジェニックYB−1はベクター、好ましくはアデノウイルスによって細胞内で発現されるYB−1であることが好ましい。E2−後期プロモーターは、野生型アデノウイルス内に存在するアデノウイルスE2−後期プロモーター、またはトランス遺伝子の発現の使用と関連してここに記載されるE2−後期プロモーターであることが好ましい。
【0050】
第十一の局面では、課題は前記核酸の一つを含むベクターを、本発明の第一または第二の局面に従い使用することで解決される。
【0051】
第十二の局面では、発明は、発明に従い用いられるウイルス、特にはアデノウイルスと細胞を接触すべきものであるか、および/またはそれらを用いて処置すべきものであるかを決定することを目的とした、細胞、腫瘍組織または患者の細胞の特徴付けのためのYB−1と相互作用する薬物の使用に関する。
【0052】
実施態様の一つでは、薬物は抗体、抗カリン(anticaline)、アプタマー、アプタザイムおよびシュピーゲルマー(spiegelmer)を含む群から選ばれる。
【0053】
第十三の局面では、課題は本発明によるウイルス発ガン遺伝子タンパク質またはそれをコードする核酸を、本発明の第一および第二局面に従って用いられるウイルス、特にはアデノウイルスの製造に使用することで解決される。
【0054】
実施態様の一つでは、ウイルスはトランス遺伝子をコードする核酸を含む。
【0055】
別の実施態様では、ウイルスはトランス遺伝子の翻訳産物および/または転写産物を含む。
【0056】
好適実施態様では、アデノウイルス複製系の核酸および/またはヘルパーウイルスの核酸は、トランス遺伝子またはトランス遺伝子をコードする核酸を含む。
【0057】
更に別の実施態様では、核酸はトランス遺伝子またはトランス遺伝子をコードする核酸を含む。
【0058】
別の実施態様では、トランス遺伝子はプロドラッグ遺伝子、サイトカイン、アポトーシス誘導遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、金属プロテアーゼインヒビターに関する遺伝子、および血管新生インヒビターに関する遺伝子を含む群より選ばれる。
【0059】
実施態様の一つでは、トランス遺伝子はsiRNA、アプタマー、アンチセンス分子およびリボザイムに関する核酸を含む群より選ばれ、この場合のsiRNA、アプタマー、アンチセンス分子および/またはリボザイムはあるターゲットとなる標的分子を持っている。
【0060】
更なる実施態様では、標的分子は耐性関連因子、抗アポトーシス因子、発ガン遺伝子、血管新生因子、DNA合成酵素、DNA修復酵素、成長因子およびそれらのレセプター、転写因子、金属プロテアーゼ、特にマトリックス金属プロテアーゼ、およびウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、耐性関連因子は、P−糖タンパク質、MRPおよびGSTを含む、およびそれらをコードする核酸を含む群より選ばれるのが好ましい。実施態様の一つでは、抗アポトーシス因子は、BCL2を含み、更にそれをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、発ガン遺伝子はRas、特に突然変異型Ras、RbおよびMycを含み、またそれらをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、血管新生因子はVEGFおよびHMGタンパク質を含む、ならびにそれらをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、DNA合成酵素はテロメラーゼを含む、ならびにそれをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、DNA修復酵素はKu−80を含み、またそれをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、成長因子はPDGF、EGFおよびM−CSFを含み、またそれらをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、レセプターは特には成長因子に関するレセプターであり、この場合の成長因子はPDGF、EGFおよびM−CSFを含み、またそれらをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、転写因子はYB−1を含み、またそれをコードする核酸も含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、金属プロテアーゼはマトリックス金属プロテアーゼであることが好ましい。好適実施態様では、金属プロテアーゼはMMP−1およびMMP−2を含み、またそれらをコードする核酸を含む群より選ばれる。実施態様の一つでは、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子は、uPa−Rを含み、またそれをコードする核酸を含む群より選ばれる。
【0061】
さらに別の実施態様では、医薬は少なくとも1つの医薬活性化合物を追加して含む。
【0062】
好適実施態様では、医薬的に活性な化合物は、サイトカイン、金属プロテアーゼインヒビター、血管新生インヒビター、結腸直腸ガンに対するイリノテカンおよびCPT−11ならびに白血病に対するダウノルビシンなどの細胞増殖抑制薬、CDK2/サイクリンEキナーゼ活性を抑制し結腸直腸腫瘍に対して用いることができるCYC202 (McClue SJ, Int. J. Cancer 2002, 102, 463-468)およびRaf−1を阻害し例えば乳ガンに対して有効なBAY 43−9006 (Wilhelm SM et al., Cancer Res. 2004, 64, 7099-7109)のような細胞周期インヒビター、26Sプロテアソーム活性を抑制し、扁平上皮ガンに対して用いられるPS−341(Fribley A et al., Mol Cell Biol 2004 Nov; 24(22): 9695-704) のようなプロテオソームインヒビター、EGFレセプターなどに対する組換え抗体 (乳ガンおよび前立腺腫瘍に対するハーセプチン; H.G. van der Poel, European Urology 2004, 1-17; 頭部および頚部腫瘍に対するエルビタックス; Bauman M et al., Radiother. Oncol., 2004, 72, 257-266)、および特にc−キットを抑制し、胃腸の腫瘍に対して用いることができる、STI571のような情報伝達カスケードのインヒビター (H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、特に前立腺腫瘍に対して用いることのできるエンドセリンインヒビターであるABT−627(H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、VEGFチロシン・キナーゼ・レセプターのリン酸化を阻害し、特に膠芽腫および前立腺ガンに対して用いることができるSU5416(Bischof M et al Int. J. Radiat, Oncol. Biol. Phys. 2004; 60 (4): 1220-32)、EGFRチロシン活性を阻害し、特に前立腺腫瘍に対して用いることができるZD1839(H.G. van der Poel, European Urology 2004, 45, 1-17)、mTORを阻害し、前立腺腫瘍に対して用いることができるCCI−779およびRAD001のようなラパマイシン誘導体;を含む群より選択される。本明細書に記述した様々なアデノウイルスおよび本発明に従って用いられるアデノウイルスを、それぞれ原則として、いずれの前述の化合物とも共に、本明細書において関連して上述したいずれの適応に対しても用いることができることは本発明の範囲内である。特に好ましい実施態様では、この適応は任意の以前に言及した医薬的に活性な化合物のいずれかに対して記述される適応である。
【0063】
実施態様の1つでは、医薬は少なくとも2つの薬剤の組合せを含む。その場合、各薬剤が、個々におよび独立して細胞増殖抑制薬を含む群より選択される。
【0064】
好ましい実施態様では、少なくとも薬剤の2つが異なる標的分子に作用する。
【0065】
別の実施態様では、少なくとも薬剤の2つが異なる作用様式によって活性を有する。
【0066】
実施態様の1つでは、少なくとも1つの薬剤が、ウイルスがその中で複製する細胞の感染される受容能力を増加させる。
【0067】
実施態様の1つでは、少なくとも1つの薬剤が、細胞内の成分の有効性に影響を及ぼし、好ましくは成分の有効性を増大させ、それによって成分はウイルスの取込みを仲介する。
【0068】
実施態様の1つでは、少なくとも1つの薬剤が、核の中へのYB−Iの輸送を仲介し、好ましくは前記輸送を増大させる。
【0069】
実施態様の1つでは、少なくとも1つの薬剤がヒストンデアシラーゼインヒビターである。
【0070】
好適実施態様では、ヒストンデアシラーゼインヒビターが、トリコスタチン A、FR 901228、MS−27−275、NVP−LAQ824、およびPXD101を含む群より選択される。
【0071】
実施態様の1つでは、少なくとも1つの薬剤が、トリコスタチンA(膠芽細胞腫に対して、Kim JH et al., Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys. 2004, 59, 1174-1180)、FR 901228(膵臓腫瘍に対して、Sato N et al., Int. J. Oncol. 2004, 24, 679-685;MS−27−275(前立腺腫瘍に対して、Camphausen K et al., Clinical Canver Research 2004, 10, 6066-6071)、NVP−LAQ824(白血病に対して、Nimmanapalli R et al., Cancer Res. 2003, 63, 5126-5135;PXD101(卵巣腫瘍に対して、Plumb JA et al, Mol. Cancer Ther. 2003, 2, 721-728)、スクリプタイド(乳ガンに対して、 Keen JC et al., Breast Cancer Res. Treat. 2003, 81, 177-186)、アピシジン(メラノーマに対して、Kim SH et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2004, 315, 964-970)およびCI−994(様々な腫瘍に対して、Nemunaitis JJ et al., Cancer J. 2003, 9, 58- 66)を含む群より選択される。ヒストンデアセチラーゼインヒビターの作用様式については、特に Lindemann RK et al., Cell Cycle 2004, 3, 77-86 に記述されている。本明細書に記述される様々なアデノウイルスおよび本発明に従って用いられるアデノウイルスを、原則として前述の化合物と共に、本明細書でそれに関連して上述したいずれの適応に対しても用いることができることは、本発明の範囲内である。特に好ましい実施態様では、この適応は以前に言及した医薬的に活性なそれぞれの化合物に対して記述された適応である。
【0072】
実施態様の1つでは、少なくとも1つの薬剤はトポイソメラーゼインヒビターである。
【0073】
好ましい実施態様では、トポイソメラーゼインヒビターは、カンプトテシン、イリノテカン、トポテカン、DX−895If、SN−38、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、エトポシドおよびダウノルビシンを含む群より選択される。これらを様々な腫瘍、例えば結腸直腸腫瘍、膵臓腫瘍、卵巣ガン、前立腺ガンに対して用いることができる。使用される分野については特に、Recchia F et al., British J. Cancer 2004, 91, 1442-1446; Cantore M et al., Oncology 2004, 67, 93-97; Maurel J. et al., Gynecol. Oncol 2004, 95, 114-119; Amin A. et al., Urol. Oncol. 2004, 22, 398-403; Kindler HL et al., Invest. New Drugs 2004, 22, 323-327, Ahmad T. et al., Expert Opin. Pharmacother. 2004, 5, 2333-2340; Azzariti A. et al., Biochem Pharmacol. 2004, 68, 135-144; Le QT et al., Clinical Cancer Res. 2004, 10, 5418-5424 に記述されている。ここに記述した様々なアデノウイルスおよび本発明に従って用いられるアデノウイルスは、それぞれ、原則として、前述の化合物と共に、本明細書でそれに関連して上述したいずれの適応に対しても用いることができることは、本発明の範囲内である。特に好ましい実施態様では、適応は、以前に言及した医薬的に活性な各々の化合物に対して記述されたものである。
【0074】
特に好適な実施態様では、適応は、前に言及した任意の医薬的に活性な化合物に対して記述された適応である。
【0075】
好適実施態様では、手段はトリコスタチンAおよびイリノテカンおよびダウノルビシンを含む。
【0076】
実施態様の1つでは、ウイルス、特に本発明の態様の1つによるウイルス、が少なくとも2つの薬剤から分離されている。
【0077】
好的実施態様では、ウイルスの少なくとも1単位の投与量が、1つまたは少なくとも2つの薬剤の少なくとも1単位の投与量から分離されている。
【0078】
第14の態様では、本発明は、ウイルス、特に本発明の任意の態様によるウイルス、および少なくとも2つの薬剤を含むキットに関する。その場合、任意の薬剤が、個々におよび独立して細胞増殖抑制薬を含む群より選択される。
【0079】
本発明はYB−1核陽性腫瘍細胞でのE1A−修飾アデノウイルスのDNA複製がE2−後期プロモーターの活性化に基づいているという驚くべき発見に拠っている。本明細書で使用する場合のE1A−修飾アデノウイルスは、(a)YB−1核陰性細胞では複製しないか、またはYB−1核陰性細胞に於いては対応する野生型細胞に比べて複製の低下、好ましくは大きな低下を示し、(b)少なくとも1つのウイルス遺伝子をトランス活性化し、その場合の遺伝子は特にはE1B−55kDa、E4orf6、E4orf3およびE3ADPを含む群から選ばれ、そして/または(c)アデノウイルスを通じて細胞内YB−1を核内に移動しない、アデノウイルスである。場合によっては、本発明で使用するアデノウイルスは、アデノウイルスがコードするE1Aタンパク質の結合がRbへのE2Fの結合を妨害してRbとE2Fより成るそれぞれの複合体を解離することができるという特徴を更に有してもよい。上記特徴a)からc)のうちの少なくとも1つ、または複数、好ましくは特徴a)からc)の全てを有するアデノウイルスは、核内にYB−1を持たない細胞では複製できない。
【0080】
実施態様の一つでは、ここで用いる場合、大きな複製の低下とは特に、野生型と比較したときに2倍、好ましくは5倍、より好ましくは10倍、そして最も好ましくは100倍低下した複製を意味する。好適実施態様では、かかる複製の比較は、同一もしくは類似の細胞株、同一もしくは類似の感染ウイルス力価(感染多重度、MOIもしくはプラーク形成単位、pfu)および/または同一もしくは類似の一般的実験条件を用いて実施される。ここで使用する場合、複製とは、特には粒子形成を意味する。別の実施態様では、複製の評価はウイルス核酸合成の程度とすることができる。ウイルス核酸合成の程度を決定する方法、ならびに粒子形成を決定する方法は当業者周知である。
【0081】
ここに記載の発見、方法、使用または核酸、タンパク質、複製系等は、アデノウイルスに必ずしも限定されない。原則的には、かかる系はこれと共に包含される他のウイルスにも存在する。
【0082】
本発明によるウイルスを使用する場合、または本発明により本明細書に記載のウイルスを使用する場合には、先行技術によれば、10〜100pfu/細胞に対し1〜10pfu/細胞の感染率で野生型の複製に匹敵する複製が実現できる。
【0083】
本明細書で使用する場合、細胞質YB−1は細胞によりコードされているYB−1、好ましくは細胞によりさらに発現されるYB−1を意味するものとし、この場合YB−1は細胞内に、アデノウイルス、好ましくは本書記載のアデノウイルスおよび/もしくはヘルペスウイルスが該当する細胞に感染する前に存在することが好ましい。しかしながら、細胞質YB−1が細胞内に導入された、または例えばウイルス、特にはアデノウイルスの感染といった外的方法を用いることによりかかる細胞が産生したYB−1である場合も本発明の範囲内である。
【0084】
以下これに結びつけることを望むことなしに、本発明者はE2−初期プロモーター、即ち初期E2プロモーターは、本発明に従いここに使用されるウイルス複製との関係に於いて、ヒト細胞質E2F転写因子を通じて始動することはないと想定している。複製の始動は細胞のRbの状態とは無関係であり、即ちこのことは、ここに開示するウイルスを用い感染させた腫瘍細胞、およびその後好ましく溶解する腫瘍細胞は機能的Rbタンパク質および非活性型Rbタンパク質の両方を含んでよいことを意味する。さらに、アデノウイルスの複製は、ここに開示するアデノウイルスを使用した場合、またはここに開示の条件では、機能的p53タンパク質を必要とせず、またその存在の影響も受けない。その限りに於いて、技術的教示はAdΔ24、d1922−947、E1Ad/01/07、CB016型の殺ガンもしくは殺腫瘍性アデノウイルスの、または例えば欧州特許第EP0 931 830号に記載のアデノウイルスの、あるいは無傷の機能的Rbタンパク質はインビボでの効果的複製にとって障害であり、従ってRb−陰性およびRb−突然変異細胞でのみアデノウイルスはインビボ複製するという仮説の下にE1Aタンパク質内に1または複数の欠失を導入したアデノウイルスの使用を基礎と成す原理とは、それぞれ異なっている。これらの先行技術のアデノウイルス系は、E1Aに基づき、初期E2プロモーター(E2初期プロモーター)および「無E2F」を利用してアデノウイルスのインビボ複製を制御するものである。しかしながら、これら先行技術ウイルスは、本発明に従って用いること、即ち細胞周期と無関係に核内にYB−1を含む細胞での複製に用いることもできるだろう。
【0085】
前記欧州特許第EP0 931 830号に記載のウイルス、特にアデノウイルスは本発明に従い使用出来るだろう。より具体的には、前記特許に記載のウイルスは複製できず、そして機能的なRb腫瘍抑制遺伝子産物と結合可能なウイルス発ガンタンパク質を発現していない。このアデノウイルスは具体的には、機能的腫瘍抑制遺伝子産物、特にはRBを結合できるウイルスE1A発ガンタンパク質の発現を欠いているアデノウイルスであろう。ウイルスE1A発ガンタンパク質は例えば、p105Rbタンパク質、p130およびp107タンパク質の結合に関係する、Ad5のアミノ酸位置30〜85、ヌクレオチド位置697〜790にあるCR1ドメイン、ならびにAd5内アミノ酸位置120から139、ヌクレオチド位置920〜967にあるCR2ドメイン内に不活性化突然変異を含むことができる。アデノウイルスはタイプ2dl312から、またはアデノウイルスはタイプ5NTdl1010から指定することもできる。
【0086】
最終的に複製は核内にYB−1を含む細胞、即ちYB−1核陽性である細胞において、医薬製造、特には腫瘍疾患の処置用の医薬の製造を目的として発明のアデノウイルスを使用する場合、ならびに核内にYB−1を有する細胞での複製のために発明に従いアデノウイルスを使用する場合に、細胞周期とは無関係に起こることが好ましい。かかるアデノウイルスは核内にYB−1を持たず、YB−1は実質的に細胞質内にのみ存在している細胞では複製しないか、またはそのレベルが極めて低くなることに特に注意すべきである。この限りにおいて、これらウイルスが上手く複製するにはYB−1が核内に存在することが必要である。これは例えば、以下詳しく概要を示すように、核内にYB−1を発現させるか、または核内にYB−1が存在するようにする手段を細胞にこうじることで実現できる。そのような手段としては、例えばアデノウイルス遺伝子に加えてYb−1をコードする遺伝情報、特にYB−1の発現に関する遺伝情報も含んでいる、本発明に従い使用するアデノウイルスを介したYB−1のコード化および発現を挙げることができる。細胞核内へのYB−1の輸送、誘導または発現を起こすその他手段としては、細胞およびかかる細胞を含む生体への細胞増殖抑制薬投与、放射線照射、高温等のストレス条件がある。
【0087】
本発明に関連して、特に腫瘍溶解に関連して使用するアデノウイルスは更に、それらが核内にYB−1を持たない、換言すればYB−1核陰性である細胞では複製しないという特徴を持つ。
【0088】
発明で使用されるアデノウイルスは更に、それらが本明細書で発ガン遺伝子タンパク質も呼ばれるウイルス発ガンタンパク質をコードすることも特徴としており、この場合上記発ガンタンパク質はE1Aであることが好ましく、そして発ガン遺伝子タンパク質はウイルスの複製および/またはウイルス感染細胞の細胞溶解に影響を及ぼすことができるウイルス遺伝子の少なくとも1つを活性化できる。複製への影響は、ウイルスが、そのウイルスの発ガン遺伝子タンパク質が存在しない場合に比べ、発ガン遺伝子タンパク質が存在する場合により良く複製するものであることが好ましい。このプロセスは本明細書ではトランス活性化、そしてこのトランス活性化がE1Aを通じて行われる場合には特にE1Aトランス活性化とも呼ばれる。用語「トランス活性化する」または「トランス活性化」とは、各ウイルス発ガンタンパク質がウイルス発ガンタンパク質をコードする遺伝子そのものとは異なる1または複数のその他遺伝子の発現および/または転写に影響を及ぼす、即ちそれ/それらの発現および/または翻訳を好ましく制御する、そして特にはそれ/それらを活性化するプロセスを表す。かかるウイルス遺伝子はそれぞれE1B55kDa、E4orf6、E4orf3およびE3ADPならびにこれら遺伝子および遺伝子産物のいずれかの組み合わせであることが好ましい。
【0089】
さらに、場合によっては、発明に従い用いるアデノウイルスの特徴は、腫瘍抑制因子Rbにそして腫瘍抑制因子Rbと結合することである。原則的には、本発明に従い使用するアデノウイルスがRbに結合すること、またはRbに結合しないことは共に本発明の範囲内である。アデノウイルスに関する両実施態様は、処理対象となる細胞のRbの状態とは無関係に用いることができる。
【0090】
Rbに結合できなくするために、例えば次のようなE1A発ガンタンパク質の欠失が考えられる:CR1領域内の欠失(Ad5内アミノ酸位置30〜85)およびCR2領域の欠失(AD5内のアミノ酸位置120〜139)。この様な欠失では、CR3領域はそのまま維持され、他の初期ウイルス遺伝子に対するトランス活性化機能を発揮できる。
【0091】
これに対し、E1AにRbへの結合能を付与する場合については、E1A発ガンタンパク質に対する次の欠失が原理的に可能である:CR3領域(アミノ酸位置140〜185)の欠失;N−末端(アミノ酸位置1〜29)の欠失;アミノ酸位置85〜119の欠失;およびC−末端(アミノ酸位置186〜289)の欠失。ここに引用した領域は、RbへのE2Fの結合を妨害しない。しかし、トランス活性化機能は維持されるが、野生型Ad5に比べると低い。
【0092】
先行技術既知であるかかるウイルスは一般には複製欠失として知られている。しかし、本発明の利点は、かかるウイルスが好適な背景、特に細胞の背景があれば複製できることが認識されていることである。この種の好適細胞の背景は、核内にYB−1が存在すること、好ましくは核内にYB−1が細胞周期とは無関係に存在することより生じるか、または提供される。細胞または細胞系という用語は、ここで使用する場合、細胞の断片または細胞溶解物の断片、ならびにインビトロ、インビボまたはインシトゥ(in situ)に存在する細胞を含む。この限りにおいて細胞系または細胞という用語は、細胞培養体、組織培養体、臓器培養体、または単離された、グループ状態にある、または一部分である組織、臓器または生体であるインビボおよびインシトゥのその他組織または臓器内に存在する細胞、あるいは好ましくは生きている生物体内にその様な形で存在している細胞も含む。生体は好ましくは脊椎動物の生体であり、より好ましくは哺乳動物のものである。生体がヒトの生体であることが特に好ましい。
【0093】
更に、ここに提供する技術的教示に基づいて、ここに記載のアデノウイルスの複製特徴と、YB−1核陽性である細胞での従来技術のアデノウイルスの特徴とを持つ新規ウイルスを作成することも、本発明の範囲内である。換言すれば、既知アデノウイルスを基にして、ここに明示した本発明での使用に必要な特徴を有する更なるウイルスをデザインすることができる。
【0094】
本発明に関しては、発明で用いられる各種アデノウイルスの修飾E1A発ガンタンパク質は、例えばE1B55K、E4orf3、E4orf6、E3ADPといった初期ウイルス遺伝子をYB−1核陽性細胞内でトランス活性化できるものである。これに関しては、その他の点についてウイルスゲノムにそれ以上の変更がないことが望ましく、各アデノウイルスはその他の点については野生型のアデノウイルスまたはその誘導体と同様でよい。
【0095】
本発明の意味での発ガン遺伝子タンパク質のトランス活性化をコードしているか、またはかかる発ガン遺伝子タンパク質を含むここに記載のウイルスは、たとえばアデノウイルスAdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB106および/または欧州特許第EP0 931 380号に記載のアデノウイルスを含み、それらはそれぞれE1B、E2、E3および/またはE4といった初期遺伝子をトランス活性化でき、そして野生型のアデノウイルス、特には野生型Ad5と同等である。これらの例ではトランス活性化にはE1Aタンパク質の特定の領域が関係している。各種血清型アデノウイルスに於いてE1Aタンパク質中には極めて保存的である領域が3カ所ある。アミノ酸位置41〜80のCR1領域、アミノ酸位置120〜139のCR2領域、およびアミノ酸位置140〜188のCR3領域である。トランス活性化機能は主にE1Aの中にCR3領域が存在することに基づいている。CR3のアミノ酸配列は上記アデノウイルスについては変更がない。その結果、核内または細胞質内のYB−1の存在とは無関係に、初期遺伝子E1B、E2、E3およびE4は活性化される。
【0096】
しかし組換え体アデノウイルスd1520では、CR3領域は削除されている。即ちdl520はCR3領域のアミノ酸配列を含まない、いわゆるE1A12Sタンパク質を発現する。その結果d1520は特にE2領域に対し極めて弱いトランス活性化機能しか発揮できず、その結果YB−1核陰性細胞では複製しない。YB−1核陽性細胞では、YB−1はE2領域をトランス活性化し、それによりdl520は有効に複製できる。これがここでの開示の目的のための、それぞれdl520と同様のシステムおよび5120をベースとするシステムを用いることの根拠である。既報の両アデノウイルス群、即ちデルタ24(本明細書ではAdΔ24とも称する)とdl520間のより重要な違いは、d1520に関しては、初期遺伝子E1B、E3およびE4がYB−1核陰性細胞に比べてYB−1核陽性細胞でより強くトランス活性化されるという事実である。これに対しデルタ24との間には全く、または極僅かな違いしかない。しかしdl520の、より具体的にはE1A12Sタンパク質のトランス活性化効果は、野生型アデノウイルスに比べ大きく低下している。しかしこのトランス活性化は、実施例10に示す如く、YB−1核陽性細胞内での効果的複製を可能にするには十分である。本明細書に記載のE1Aタンパク質およびそれをコードする核酸のデザイン、特にそのEIAタンパク質が野生型発ガンタンパク質E1Aに対し1もしくは複数の欠失、および/または突然を有しているような本明細書内のデザインであって、その欠失が好ましくはCR3領域およびN−末端の欠失およびC−末端の欠失を含む群から選ばれる一つであり、具体的にはdl520またはAdΔ24、dl922−924、E1Ad/01/07、CB106および/または欧州特許第EP0 931 830号に記載のアデノウイルスと関連し記載されるE1Aタンパク質の好適なデザインの実施態様がウイルス、特にアデノウイルスの実施態様であり、その複製はE2−後期プロモーターの活性化を通じて、好ましくは主にE2−後期プロモーターの活性化を通じて制御される。アデノウイルスのこの形態の複製を可能にするE1Aタンパク質の別の実施態様は、本明細書の開示に基づき、当業者により作り出すことができる。
【0097】
新たに構築され、本明細書では誘導体とも称され、且つ本発明にしがたい使用できる別のアデノウイルスは、一般的にはE1欠失、E1/E3欠失、および/またはE4欠失を有しており、即ち対応するアデノウイルスは機能的に活性なE1および/またはE3、および/またはE4発現産物および各産物をそれぞれ作り出すことができず、換言すれば、これらアデノウイルスは機能的に不活性なE1、E3および/またはE4発現産物のみ産生できるが、この時のそのような機能的に不活性なE1、E3および/またはE4発現産物とは、その転写レベルおよび/または翻訳レベルにおいて、たとえ発現産物として全く存在していない、あるいは野生型のアデノウイルスに存在する機能の少なくとも一つを欠いている形で存在していもよい。野生型アデノウイルスの発現産物の機能は当業者周知であり、そして例えばRussell, W, C、Journal of Virology、81、2573〜2604、2000年に記載されている。Russell(上記)はまた、参照によりここに組み込まれるアデノウイルスおよびアデノウイルスベクターの構築の原理についても記載している。上記修飾型E1A発ガンタンパク質、E1B−55K、E4orf6、および/またはE3ADP(アデノウイルス崩壊タンパク質(ADP))(Tollefson, Aら、J.Virology、70、2296〜2306、1996年)をこの種のベクター内で、個々に、または組み合わせて発現させることも、本発明の範囲内である。これに関連して、ここに開示した個々に名前を挙げた遺伝子ならびにトランス遺伝子および/または治療用トランス遺伝子は、E1および/またはE3および/またはE4領域内にクローニングでき、好適プロモーターの助けをかり、または好適プロモーターの制御下に個別に発現させることができる。基本的には、領域E1、E3およびE4はアデノウイルス核酸内のクローニング部位として同等の好適性を有しており、クローニングに用いられない領域は、個々にまたは全体として、部分的におよび/または完全に欠失して存在することができる。これらの領域が存在する場合は、特にそれらの全体が存在する場合は、それらがインタクトで、好ましくは翻訳生成物および/または転写生成物を提供する、および/またはインタクトではなく、好ましくは翻訳生成物および/転写生成物を提供しない、のいずれかであるのは本発明の範囲内である。取り分け好適なプロモーターは本明細書の中でE1A、特に修飾型E1Aの制御および発現それぞれに関連付けて開示されているプロモーターである。
【0098】
最後に実施態様の一つでは、本発明に従い用いられるアデノウイルスは、E1Bに関する、特にE1B19kDaに関する欠損体である。本明細書で使用する場合、欠損という用語はE1Bが野生型固有の特性の全てを有しているわけではないが、その特性の少なくとも一つを欠いている状態を意味する。アデノウイルスBCL2のホモログE1B19kが、前アポプトーシスタンパク質BakおよびBaxとの相互作用により、E1Aが誘導するアポトーシスを回避する。これにより、最大限の複製および/または粒子形成が感染細胞において可能である (Ramya Sundararajan and Eileen White, Journal of Virology 2001, 75, 7506-7516)。E1B19kが欠失すると(もし存在する場合はそれがアデノウイルスの細胞死タンパク質の機能を、最小限にすることになるので)、ウイルスがより良好に放出される結果となる。そのような欠失によって、ウイルスが誘導する細胞変性効果が増大し (Ta-Chiang Liu et al., Molecular Therapy, 2004)、したがって感染腫瘍細胞がより著しく溶解する結果となる。さらに、E1Bl9kの欠失は、腫瘍細胞中においてはTNFαがそのような組換えアデノウイルスの複製に影響を及ぼさなくなる原因となり、一方で正常細胞では、治療によって感染性ウイルスの複製および放出が減少する結果になる。その限りにおいて、選択性と特異性が増加する (Ta-Chiang Liu et al., Molecular Therapy 2004, 9, 786-803)。
【0099】
ここに開示した発明に使用するアデノウイルスは、基本的には幾つかの実施態様については当分野周知である。本発明に用いられるアデノウイルスは、特に野生型と比較しここに示す技術的教示に従って変更する場合には、組換え体アデノウイルスであることが好ましい。本発明にとって必須でないアデノウイルス核酸を欠失または突然変異させることは、当業者の技術的水準内である。かかる欠失は、例えばここにも記す様にE3およびE4をコードする核酸の一部にかかっても良い。E4の欠失は、かかる欠失がタンパク質E4orf6を超えていないこと、換言すれば発明に使用するアデノウイルスはE4orf6をコードすることが特に好ましい。好適実施態様では、これらアデノウイルス核酸は更にウイルスカプシドに封入してもよく、即ち感染粒子を形成してもよい。このことは本発明での核酸の使用にも当てはまる。一般に、アデノウイルス系は単一または複数の発現産物について欠失してもよいことを記しておく。これに関連して、この現象はかかる発現産物をコードする核酸が完全に突然変異しているか、もしくは欠失しているか、または実質的に発現産物がもはや生じない程度まで突然変異しているか欠失しているかに基づいているか、あるいは核酸レベル(プロモーターの欠失;シス作用要素)または翻訳系および転写系(トランス作用要素)のそれぞれについて、発現を制御するか、もしくは野生型とは異なる様式で作用するプロモーターもしくは転写因子を欠いていることに基づいていることに注意しなければならない。具体的には、後者の観点は背景となる細胞に依存している。
【0100】
本発明によるアデノウイルスでは、さらに周知の如く新規アデノウイルスもまた、その他アデノウイルスに関しここに記した程度に使用することができる。発明による新規アデノウイルスは、ここに示す技術的教示より生ずる。特に好ましい例は、例えば
図16および17に示すウイルスXvir03およびXvir03/01、実施例11および12に更に例示したデザイン原理である。
【0101】
ベクターXvir03の場合は、CMVプロモーターを、IRES配列により隔てられているE1B55KおよびE4orf6の核酸をコードするE1領域内にクローニングする。これに関連して、E3領域は、部分的にまたは完全に欠失していてもよく、および/または完全にインタクトの形で存在していてもよい。これら2遺伝子の導入およびそこより産生される遺伝子産物それぞれによって、野生型ウイルスのものと好ましくは実質同じ複製効率を得るが、その場合複製の選択性は細胞、特に腫瘍細胞について維持されるため、YB−1核陽性細胞、より具体的にはYB−1が脱制御状態にある細胞で複製が起こる。YB−1が脱制御状態にある細胞は、好ましくは正常細胞または非腫瘍細胞に比べて、好ましくはコンパートメント独立的(compartment-independent)に、YB−1の発現が上昇を示す細胞である。E1B55kおよびE4orf6もまた、E4領域へクローニングすることができ、その場合E3領域はインタクトのままであるか、または/および、部分的にまたは完全に欠失する。
【0102】
ウイルスXvir03の更なる発展形は、好適実施態様において、その中に治療遺伝子またはトランス遺伝子が特異的プロモーター、特に腫瘍特異的または組織特異的プロモーター制御下にクローニングされているウイルスXvir03/01である。E4領域が機能的に非活性であり、好ましくは欠失しているウイルスもまた上記ウイルスの範囲内である。ここに記したトランス遺伝子はまたE4領域内にクローニングしてもよく、この場合クローニングをE3領域内へのトランス遺伝子のクローニングに追加し、またはそれに代替して行ってもよく、そして、それぞれの場合に、E3領域は部分的にまたは完全にインタクトのままである。本明細書で用いられるトランス遺伝子は、ウイルス遺伝子、好ましくはアデノウイルス遺伝子、(それらは、好ましくはゲノム中に存在せず、またそれぞれ、野生型ゲノムのそれらが現在特定のウイルス中で存在している部位には存在しない)、または治療用遺伝子でよい。
【0103】
治療遺伝子は、プロドラッグ遺伝子、サイトカインの遺伝子、アポトーシス誘導遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、金属プロテアーゼインヒビターおよび/または血管新生インヒビターの遺伝子であろう。更にsiRNA、アプタマー、アンチセンスおよびリボザイムを、ガン関連標的分子に向けて発現させてもよい。好ましくは、単一または複数の標的分子が、耐性関連因子、抗アポトーシス因子、発ガン遺伝子、血管新生因子、DNA合成酵素、DNA修復酵素、増殖因子とそれらのレセプター、転写因子、金属プロテアーゼ、特にマトリックス金属プロテアーゼ、およびウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子を含む群より選ばれる。その好適実施態様は既に本明細書内に開示した。
【0104】
好適実施態様にて使用可能であろうプロドラッグ遺伝子は、例えばシトシンデアミナーゼ、チミジンキナーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ;プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)である;Kimら、Trends in Molecular Medicine、8巻、No.4(Suppl)、2002年; Wybranietz.W.Aら、Gene Therapy、8、1654〜1664、2001年; Niculescu-Duvazら、Curr.Opin.Mol.Therapy、1、480.486、1999年; Koyamaら、Cancer Gene Therapy、7、1015〜1022、2000年; Rogersら、Human Gene Therapy、7、2235〜2245、1996年; Lockettら、Clinical Cancer Res、3、2075〜2080、1997年; Vijayakrishnaら、J.Pharmacol.And Exp.Therpeutics、304、1280〜1284、2003年。
【0105】
好適実施態様にて使用できるであろうサイトカインは、例えばGM−CSF、TNF−アルファ、IL−12、IL−2、IL−6、CSF、インターフェロン−ガンマである;Gene Therapy、Advances in Pharmacology、40巻、編集者:J.Thomas Augsut、Academic Press; ZhangとDegroot、Endocrinolgy、144、1393〜1398、2003年; Descampsら、J.Mol.Med、74、183〜189、1996年; Majumdarら、Cancer Gene Therapy、7, 1086〜1099、2000年。
【0106】
好適実施態様にて使用できるであろうアポトーシス誘導遺伝子は、例えばデコリン(decorin): Tralhaoら、FASEB J、17、464〜466、2003年;網膜芽細胞種94:Zhangら、Cancer Res、63、760〜765、2003年; BaxとBad: Zhangら、Hum.Gene Ther、20、2051〜2064、2002年;アポプチン(apoptin):NotebornとPietersen、Adv.Exp.Med.Biol、465、153〜161、2000);ADP:Tothら、Cancer Gene Therapy、10、193〜200、2003年; bcl-xs: Sumantranら、Cancer Res、55、2507〜2512、1995年;E4orf4:BraithwaiteとRussell、Apoptosis、6、359〜370、2001年;FasL、Apo−1およびTrail:Boehringer Manheim、Guide to Apoptotic Pathways、Araiら、PNAC、94、13862〜13867、1997年、Bims; Yamaguchiら、Gene Therapy、10、375〜385、2003年; GNR163: Oncology News、17 Juni、2000年、がある。
【0107】
好適実施態様にて使用できるであろう腫瘍抑制遺伝子は、例えばE1A、p53、p16、p21、p27、MDA−7がある。Opalkaら、Cell Tissues Organs、172、126〜132、2002年、Jiら、Cancer Res、59、3333〜3339、1999、Suら、Oncogene、22, 1164〜1180、2003年。
【0108】
好適実施態様にて使用できるであろう血管新生インヒビターは、例えばエンドスタチン、アンギオスタチン:Hajitouら、FASEB J、16, 1802〜1804、2002年およびVEGFに対する抗体がある(Ferrara、N、Semin Oncol 2002 Dec; 29(6 Suppl 16): 10−4。
【0109】
好適実施態様にて使用できるであろう金属プロテアーゼインヒビターは、例えばTimp-3、Ahonenら、Mol Therpy、5、705〜715、2002年; PAI-1; Soffら、J.Clin.Invest、96、2593〜2600、1995年; Timp-1、Brandt K.Curr.Gene Therapy、2、255〜271、2002年がある。
【0110】
本願に関して用いられるようなsiRNA(short interfering(短干渉)RNA)は塩基相補正により相互にハイブリダイゼーションする、即ち実質的に塩基が対を成しており、好ましくは最長50ヌクレオチド、好ましくは18〜30ヌクレオチド、より好ましくは25ヌクレオチド未満、そして最も好ましくは21、22もしくは23ヌクレオチドの長さを有する2つのRNA鎖、好ましくは分離した2つのRNA鎖からなり、ここでそれらの特徴は単鎖のsiRNAであり、特に鎖、より特には第二の単鎖とハイブリダイゼーションしてそれと塩基対合する長さが伸長した単鎖である。siRNAは、特異的にmRNAの分解を誘導または媒介する。この時必要な特異性は、siRNAの配列とその結合部位から提供される。分解対象となる標的配列は第一または第二のsiRNA形成鎖に対し実質的に相補的である。正確な作用様式は不明であるが、siRNAは細胞が発生中にある特的の遺伝子座を阻害し、ウイルスからそれを保護するための生物学的戦略であると想定される。siRNAを介したRNA干渉は、タンパク質の特異的抑制に、または遺伝子特異的二本鎖RNAを導入することによるタンパク質発現の完全なノックアウトにも用いられる。高等生物では、19〜23ヌクレオチド長のsiRNAは特に、非特異的な防御反応、いわゆるインターロイキン反応の活性化をもたらさないので特に好ましい。3‘末端に対称的な2−nt長のオーバーハングを有する21ヌクレオチドから成る二本鎖RNAを迅速にトランスフェクションすることにより、哺乳動物細胞にRNA干渉を伝達でき、リボザイムやアンチセンス分子といった他技術に比べて高い効率を得ている(Elbashir、S.Harborth J. Lendeckel W. Yalvcin、A. Weber K Tuschl T: Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells、Nature 2001年、411: 494〜498)。標的遺伝子の発現を阻害するのに必要なRNA分子は極めて小数であった。特にsiRNA分子の一過性の干渉現象、および特異的配送特性を有するsiRNAが外部からの投与に限定されないようにするために、先行技術では内因性のsiRNAを発現できるベクターを使用している。例えば、センスおよびアンチセンス両方向の、ベクター内に導入される例えば9ヌクレオチド長のスペーサー配列により隔てられた、19ヌクレオチド長の標的配列を含む64ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドが提供されている。得られた転写体は、例えば19塩基対のステム構造を持つヘアピン構造に折りたたまれた。ループは細胞内で迅速に分解し、その結果機能的なsiRNAが生成する(Brummelkampら、Science、296、550〜553、2002年)。
【0111】
pRbおよびE2Fそれぞれの活性は、リン酸化によって制御されている。低リン酸化型のpRbは主にG1期とM期に存在している。これに対し、高リン酸化型のpRbはS期とG2期に存在している。E2Fは、E2Fと低リン酸化型pRbから成る複合体から、pRbのリン酸化によって放出される。E2Fと低リン酸化型pRbより成る複合体からE2Fが放出されると、E2F依存遺伝子の転写が起こる。E1Aタンパク質は低リン酸化型pRbに結合するだけでなく、その時はE1Aタンパク質のCR2領域を介したE1AとpRbとの結合も普通に起こっている。さらに、それはCR1領域にも、より低い親和性で結合する(Ben-IsraelとKleiberger、Frontiers in Bioscience、7、1369〜1395、2002年; HeltとGalloway、Carcinogenesis、24、159〜169、2003年)。
【0112】
本発明に従って用いるアデノウイルスの実施態様に於いて、そのアデノウイルスの一部を成すYB−1をコードする核酸はまた核内へのYB−1の輸送を媒介する核酸配列を含んでもよい。発明による核酸、アデノウイルスおよびアデノウイルス系、ならびに例えばOnyx−015、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016、dl520および欧州特許第EP0 931 830号に記載のアデノウイルスといった当分野既知のアデノウイルスは、アデノウイルスおよびアデノウイルス系として、即ち対応する核酸として、上記の如くまたはこれに関連する発明の核酸と組み合わせて使用できる。核輸送を媒介するのに好適な核酸配列は当業者周知であり、例えば(Whittaker、G.Rら、Virology、246、1〜23、1998年; Friedberg、E.C、TIBS 17、347、1992年; Jans、D.Aら、Bioessays 2000年6月; 22(6): 532〜44; Yoneda、Y、J.Biocehm.(Tokyo)1997年5月; 121(5): 811〜7; Boulikas、T、Crit.Rev.Eukaryot.Gene Expr.1993; 3(3): 193〜227; Lyons RH、Mol.Cell Biol、7、2451〜2456、1987年)に記載されている。核輸送媒介核酸配列に関連して様々な原理を利用できる。この様な原理の一つは、YB−1をシグナルペプチドとの融合タンパク質の形で形成して核内に導入すること、およびそれにより本発明のアデノウイルスの複製が起こることである。
【0113】
発明に使用するアデノウイルスのデザインを実現するであろう別の原理は、好ましくは細胞質での合成から始まってYB−1を細胞核内に誘導するか、またはYB−1を細胞核内に移動して、そこでウイルス複製を促進するトランスポーター配列と一緒にYB−1を与えることができる原理である。特に効果的な核輸送媒介核酸配列の例はHIVのTAT配列であり、これはEfthymiadis、A、Briggs、LJ、Jans、DA、JBC 273、1623〜1628、1998年にその他好適核酸配列と共に記載されている配列である。発明に使用するアデノウイルスが核内輸送をコードするペプチドをコードしている核酸配列を含むことは、本発明の範囲内である。
【0114】
YB−1が完全長、特に野生型YB−1に対応する形態で存在することは、本発明の範囲内である。YB−1が、例えば短形または断頭形(truncated form)の様な誘導体として用いられること、または存在することは、本発明の範囲内である。本発明の範囲内で誘導体として用いられる、または存在するYB−1は、E2−後期プロモーターに結合でき、その結果アデノウイルスE2領域の遺伝子発現を活性化できるYB−1である。この種の誘導体は特に、本明細書に開示のYB−1誘導体を含む。更なる誘導体は、アミノ酸配列のN−末端、C−末端または内部にある単独または複数個のアミノ酸を欠失することで作られるだろう。
【0115】
これまでに記したアデノウイルスがコードする各種の発現遺伝子および遺伝子産物に関しては、これらを組み合わせてコードすることも、また組み合わせて発現することもそれぞれ可能である。
【0116】
本明細書に開示されたアデノウイルスの医薬としての使用は、特に全身性の投与の場合に、アデノウイルスを適切にターゲティングすることにより改善できる。腫瘍細胞のアデノウイルスよる感染は、コサッキーウイルス−アデノウイルスレセプターCARおよびある種のインテグリンの存在に、ある程度依存する。これらが細胞内で、特に腫瘍細胞内で強く発現される場合は、感染は非常に低いタイター(pfu/細胞)で既に可能である。組換えアデノウイルスのいわゆるリターゲティングを得るために様々な戦略がこれまで実行されてきた。それは例えば非相同的配列のファイバーノブ領域への挿入、二重特異性抗体の使用、ポリマーによるアデノウイルスのコーティング、Adファイバーへのリガンドの導入、血清型5ノブおよびファイバーのシャフトとノブの、それぞれ、血清型3ノブおよびAd35ファイバーのシャフトとノブによる置換、ならびにペントンベースの修飾、によるという戦略であった(Nicklin S. A. et al., Molecular Therapy 2001, 4, 534-542; Magnusson, M. K. et. al., J. of Virology 2001, 75, 7280-7289; Barnett B. G. et al., Biochimica et Biophysica Acta 2002, 1575, 1-14)。そのようなさらなる実施態様および特徴を、本発明のアデノウイルスおよび本発明の種々の局面中で本発明に従って用いられるアデノウイルスに関連して、それぞれ実現することは本発明の範囲内である。
【0117】
本発明者は、さらに驚くべきことに、本明細書に記載するウイルス、特に本発明に従って用いられるウイルスの有効性を、少なくとも2つの薬剤と組み合わせて用いることにより増大させることができることを見出した。その場合、少なくとも2つの薬剤のそれぞれは、細胞増殖抑制薬を含む群より、個々におよび独立して選択される。
【0118】
本明細書の好ましい実施態様で用いられるように、細胞増殖抑制薬は特に化学的または生物学的化合物であって、それは細胞またはそのような細胞を含む生物への投与中にまたは投与後に、もはや成長していないおよび/またはもはや分裂していないおよび/または細胞分裂および/または細胞増殖が遅くなった細胞をもたらす。細胞増殖抑制薬は、前述のような細胞中のみでまたはそのような細胞を含む生物体中のみで細胞増殖抑制薬へ変化する化合物も含む。その限りにおいて、用語、細胞増殖抑制薬は、プレ細胞増殖抑制薬も含む。
【0119】
細胞増殖抑制薬は作用様式により群に分けられる。次の群に区別できるが、原則として、すべて本発明において用いることができる:
【0120】
− アルキル化剤、すなわち核酸およびタンパク質のリン酸、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシおよび水酸基のアルキル化により、細胞傷害作用を引き起こす化合物。そのような化合物はしばしばそれ自身が発ガン性である。細胞増殖抑制薬のこの群の代表例は、シス−プラチンおよびプラチン誘導体、シクロホスファミド、ダカルバジン、マイトマイシン、プロカルバジンである。
【0121】
− 代謝拮抗剤、すなわち、その構造類似性または結合能力により、代謝過程を妨害するか、代謝過程に影響する化合物。代謝拮抗剤の群の中では、構造上類似の代謝拮抗剤、構造を変化させる代謝拮抗剤および間接的に作用する代謝拮抗剤が区別される。構造上類似の代謝拮抗剤は、化学的な類似性により代謝物質と競合するが、代謝物質の機能は発揮しない。構造を変化させる代謝拮抗剤は代謝物質と結合してその機能または再吸収を妨げるか、または代謝物質を化学的に修飾する。間接的に作用する代謝拮抗剤は、例えばイオンの結合によって代謝物質の機能を妨害する。この群の代表例は、メトトレキサートなどの葉酸拮抗薬、フルオロウラシルなどのピリミジン類似体、アザチオプリンおよびメルカプトプリンなどのプリン類似体である。
【0122】
− 有糸分裂インヒビター、すなわち細胞分裂を阻害する化合物。有糸分裂インヒビターの群の中では、細胞分裂毒素、紡錘体毒素および染色体毒素が区別される。この群の代表例は、タキサンおよびビンカアルカロイドである。タキサンを次に、タキソールおよびタキソテールの2つの主な群に分けることができる。特に好ましいタキソールはパクリタキセルであり、特に好ましいタキソテールはドセタキセルである。
【0123】
− DNA依存性RNAポリメラーゼに阻害作用を有する抗生物質。代表例は、例えばブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシンおよびマイトマイシンなどの、アントラサイクリンである。
【0124】
− トポイソメラーゼインヒビター、特にトポイソメラーゼIインヒビター。トポイソメラーゼインヒビターは、3段階の過程によりDNAの撚り回数の変化を触媒することにより、DNAの三次構造を決定する化合物である。基本的に、トポイソメラーゼの2つの形が区別される。I型のトポイソメラーゼは1つのDNA鎖のみを切断し、ATPに依存しないが、II型のトポイソメラーゼはDNAの両方の鎖を切断し、その場合ATPに依存する。トポイソメラーゼIインヒビターの典型例は、イリノテカンおよびトポテカンであり、そしてトポイソメラーゼ II インヒビターの典型例はエトポシドおよびダウノルビシンである。
【0125】
本発明の範囲内で、前述の群から少なくとも1つの、また好ましくは2つの薬剤が選択される。しかし、特に、3つ、4つまたは5つの種々の薬剤が選択されるのもまた、本発明の範囲内である。ウイルスと共に2つの薬剤だけを用いる本発明の実施態様について、次の意見を述べる。これらの考察は、2つを越える薬剤を用いる場合の実施態様にもまた、基本的に適用可能である。
【0126】
薬剤は、異なる標的分子を対象にするまたは標的とする、あるいは異なる分子を標的とすると文献に記載されている、というように、互いに異なっていることが好ましい。薬剤が、同じ標的分子に結合する2つ以上の異なる薬剤を含むのもまた、本発明の範囲内である。さらに、1つの薬剤が標的分子の第1の部位へ結合し、第2の薬剤が標的分子の第2の部位へ結合するのも本発明の範囲内である。
【0127】
少なくとも薬剤の2つが異なる作用様式を用いて活性を及ぼすのもまた本発明の範囲内である。好適実施態様において、活性を及ぼすとは、化合物の細胞増殖および/または細胞分裂を阻害または遅延する作用が異なる作用機構によって仲介されることを意味する。特に好ましい実施態様において、用語活性を及ぼすとは、ウイルス、特に、本発明に従うウイルス、本明細書に記述されているウイルス、および本発明に従って用いられるウイルス、の複製効率が、薬剤の1つおよび/または両方が使用されない場合と比較して増大していることを意味する。ウイルスの複製の効率の尺度として、好ましくは細胞溶解に必要なウイルスの数が用いられ、好ましくはpfu/細胞として表現される。
【0128】
特に好適な実施態様では、少なくとも2つの薬剤の少なくとも1つが、ウイルスの複製が起きる細胞の、好ましくは選択的な様式で起きる細胞の、好ましくは本明細書に記述したウイルスによるおよび/または本発明に従って用いられるウイルスによる感染力を増大させる薬剤である。これは、例えば細胞によるウイルスの取り込みを増大させることにより行うことができる。ウイルスの取り込みは、特にアデノウイルスは、例えばコクサッキーウイルス・アデノウイルスレセプター(CAR)によって仲介される (Mizuguchi and Hayakawa, GENE 285, 69-77, 2002)。CARの増大した発現が、例えばトリコスタチンAにより引き起こされる (Vigushin et al., Clinical Cancer Research, 7, 971-976, 2001)。
【0129】
さらなる実施態様では、少なくとも2つの薬剤の1つは、細胞内の成分の有効性を増大するものであり、その場合、成分はウイルス、好ましくは本明細書に記述したウイルス、および/または本発明に従って用いられるウイルス、の複製を増加させる成分である。
【0130】
さらなる実施態様では、少なくとも2つの薬剤のうちの1つは、核の中へのYB−1の輸送を仲介するものである。そのような薬剤を、トポイソメラーゼインヒビター、アルキル化剤、代謝拮抗剤、および有糸分裂インヒビターを含む群より選択することができる。好ましいトポイソメラーゼインヒビターは、カンプトテシン、イリノテカン、エトポシド、およびそれぞれの類似物質である。好ましい有糸分裂インヒビターは、ダウノルビシン、ドキソルビシン、パクリタキセルおよびドセタキセルである。好ましいアルキル化剤はシスプラチンおよびそれらの類似物質である。好ましい代謝拮抗剤は、フルオロウラシルおよびメトトレキサートである。
【0131】
特に好ましい実施態様では、少なくとも2つの薬剤の1つは細胞の感染力、特にCARの発現、を増大させるものであり、また少なくとも2つの薬剤の2番目は、核の中へのYB−1の輸送を増大させるものであり、その場合好ましくは化合物として、好ましくは上述のようなそれぞれの必要な特性を示す化合物を用いる。
【0132】
さらなる実施態様では、少なくとも2つの薬剤の1つはヒストンデアシラーゼインヒビターである。好ましいヒストンデアシラーゼインヒビターは、トリコスタチンA、FR901228、MS−27−275、NVP−LAQ824およびPXD101を含む群より選択されるものである。トリコスタチンAは、例えば Vigushin et al., Clinical Cancer Research, 7, 971-976, 2001 に記載されており;FR901228は、例えば Kitazono et al., Cancer Res., 61, 6328-6330, 2001 に記載されており;MS−27−275は、Jaboin et al., Cancer Res., 62, 6108-6115, 2002 に記載されており;PXD101は、Plumb et al., Mol. Cancer Ther., 8, 721-728, 2003 に記載されており;NVP−LAQ824は、Atadja et al., Cancer Res., 64, 689-695, 2004 に記載されている。
【0133】
なお更なる実施態様では、少なくとも2つの薬剤の1つがトポイソメラーゼインヒビター、好ましくはトポイソメラーゼIインヒビターである。好ましいトポイソメラーゼインヒビターは、カンプトテシン、イリノテカン、トポテカン、SN−38、9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、DX−895Ifおよびダウノルビシンを含む群より選択されるものである。イリノテカンおよびSN−38は、例えば Gilbert et al., Clinical Cancer Res., 9, 2940-2949, 2003 に記載されており;DX−895IFは、van Hattum et al., British Journal of Cancer, 87, 665-672, 2002 に記載されており;カンプトテシンは、Avemann et al., Mol. Cell. Biol., 8, 3026-3034, 1988 に記載されており;9−アミノカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシンは、Rajendra et al., Cancer Res., 63, 3228-3233, 2003 に記載されており;ダウノルビシンは、M. Binaschi et al., Mol. Pharmacol., 51, 1053-1059 に記載されている。
【0134】
特に好ましい実施態様では、少なくとも2つの薬剤のうちの1つはヒストンデアシラーゼインヒビターであり、少なくとも2つの薬剤のうちの他の1つはトポイソメラーゼインヒビターである。
【0135】
ある実施態様では、本発明による手段および/または本発明によって準備される手段は、本発明に従ってウイルスと組み合わせた少なくとも2つの薬剤のうちの1つまたはいくつかから分離されているウイルスを含む。ウイルスは、ウイルスと組み合わせたいずれの薬剤からも分離されていることが好ましい。好ましくは、その分離は空間的分離である。空間的分離は、ウイルスが薬剤とは異なる包装中に存在するような状態であってよい。好ましくは、包装は1回投与単位であり、すなわち、ウイルスおよび薬剤を単一の用量または1回量として包装する。単回投与単位は、順に包装を作るために組み合わせてもよい。しかし、ウイルスの単一用量が、1つまたはいくつか薬剤の1つまたはいくつかの単一用量と組み合わせられるか、それと一緒に包装されることは、本発明の範囲内である。
【0136】
包装の種類は、当業者に既知の投与の方法に依存する。好ましくは、ウイルスは、凍結乾燥された形で、または適当な液相中に存在することになる。好ましくは、薬剤は、例えば錠剤またはカプセル剤として固体の形で存在することになるが、それに制限されない。あるいは、薬剤は液体の形でも存在することができる。
【0137】
全身的にまたは局所的にウイルスを投与することは、本発明の範囲内である。さらに、ウイルスと組み合わせた薬剤を全身にまたは局所的に、個々におよび互いに独立して、または一緒に投与することも本発明の範囲内である。投与の他の様式は当業者に既知である。
【0138】
ウイルスおよびそれと組み合わせた薬剤を時間を隔てる様式で、または同時に投与することもまた、本発明の範囲内である。時間を隔てる様式に関しては、薬剤はウイルスの投与に先立って投与することが好ましい。ウイルスにどれくらいの時間先立って薬剤を投与するかは、用いる薬剤の種類に依存し、当業者には使用する薬剤の作用様式から明白である。さらに少なくとも2つの薬剤の投与を、同時にまたは異なる時点で行うことができる。時間的に異なる投与に関して、その時点は、再び薬剤の根底にある作用様式に起因するものであり、それに基づいて当業者によって決定される。
【0139】
上記の考察は、医薬組成物としても本明細書に開示され、参照されている本発明による医薬に関連して示したが、ウイルスの複製に使用される、好ましくは本発明によるウイルスのインビトロの複製に使用される組成物を含む任意の組成物に、概して適用可能である。上記の考察はまた、本発明によるキットおよび本発明に従って用いられるキットにそれぞれ適用可能であり、それは本明細書に記述したウイルスおよび本発明に従って用いられるウイルスとは別に、本明細書に記述される1つの薬剤または薬剤の組合せもさらに含む。そのようなキットは、ウイルスおよび/またはすぐに使用できる形の1つまたはいくつかの薬剤、および好ましくは使用指示書を含む。更に、上記の実施態様は、さらに本明細書に開示される核酸および本発明に従って用いられる核酸、ならびに本発明による複製システムおよびそれをコードする核酸、ならびに、それぞれ本発明に従って用いられる複製システムおよび本発明に従って用いられるそれをコードする核酸にも当てはまる。
【0140】
アデノウイルスおよびアデノウイルス系という用語は、本発明内では実質的に同一の意味を持つものとする。アデノウイルスは特にカプシドおよび核酸を含む完全なウイルス粒子を意味するものとする。アデノウイルス系という用語は特に、核酸が野生型に対し変更されている事実に焦点を当てるものである。この種の変更は、プロモーター、制御配列および/またはオープンリーディングフレームといったコーディング配列の欠失および/または付加および/または突然変異に起因する、アデノウイルスゲノムの構造変化を含むことが好ましい。さらに、用語アデノウイルス系は、例えば遺伝子治療に用いられるベクターと結びつけて使用するのが好ましい。
【0141】
前述のコメントは、アデノウイルスおよびアデノウイルス系それぞれの使用ならびにデザインを含め、コーディング核酸にも当てはまり、またその逆も言える。
【0142】
本発明に関しては、本発明に使用するアデノウイルスおよびそれをコードする核酸それぞれは、かかる複製をもたらす、または別の核酸配列と組み合わせての複製をもたらすようないずれかのアデノウイルス核酸である。本明細書に説明したように、複製に必要な配列および/または遺伝子産物はヘルパーウイルスを利用して提供することができる。コーディング核酸配列と称するものであれば、そしてかかる核酸配列が既知であるものであれば、使用した配列と同一のものだけでなく、それより派生する配列もまた発明の範囲内である。この派生する配列という用語は、本明細書に於いては特に、非派生配列の機能に対応する機能を示す核酸またはポリペプチドである、遺伝子産物を依然として生ずる配列を意味する。このことは、当業者既知である簡単な通常試験により決定できる。かかる派生核酸配列の例は、同一遺伝子産物、特には同一アミノ酸配列をコードしているものの、遺伝子コードの縮重による異なる塩基配列を有しているものである。
【0143】
好適実施態様に於いて、本発明のアデノウイルスおよび本発明のアデノウイルス複製系、そして本発明でのそれらの使用に関してはそれぞれ、アデノウイルス核酸は発ガン遺伝子タンパク質、特にE1Aタンパク質の発現を欠失しており、このことはそれが12SのE1Aタンパク質もしくは13SのE1Aタンパク質をコードしていないか、またはそれが12SのE1Aタンパク質と13SE1Aタンパク質のどちらもコードしていないか、または本明細書に記載のように修飾されていることを意味しており、そしてアデノウイルス複製システムがさらにヘルパーウイルスの核酸を含み、このヘルパーウイルスの核酸が発ガン遺伝子タンパク質、特にE1Aタンパク質をコードする核酸配列を含み、さらにヘルパーウイルスの核酸が次の特徴を有すると同時にアデノウイルスに対し同特性を付与すること、即ちYB−1核陰性細胞では複製しないが、YB−1核陽性細胞では細胞周期と無関係に細胞内で複製し、少なくとも1つのウイルス遺伝子、特にはE1B55kDa、E4orf6、E4orf3および/またはE3ADPをトランス活性化し、そして/または細胞質YB−1を核内に移動しないという特性を付与することを意味する。ここに記したトランス遺伝子をヘルパーウイルスが個別または一緒にコードしていること、および/またはそれから発現することは本発明の範囲内である。
【0144】
本発明のこの様なアデノウイルス複製系の実施態様の一つでは、アデノウイルス核酸および/またはヘルパーウイルスの核酸は、さらに複製可能であるベクターとしても存在する。
【0145】
本発明に用いるアデノウイルスをコードするコーディング核酸配列がベクター内、好ましくは発現ベクター内に存在すること、そしてこの発現ベクターを本発明に従って使用することは、本発明の範囲内である。
【0146】
別の局面では本発明はさらに少なくとも2つのベクターを含むベクター群に関し、この場合上記ベクター群がここに記したアデノウイルス複製系を共に含んでおり、そして上記ベクター群は本発明に従い用いられる。アデノウイルス複製系の各構成成分は、個々のベクター、好ましくは発現ベクター内に配置されると解釈される。
【0147】
最後に、本発明はアデノウイルスについてここに記した同一の目的に関する細胞の使用についての別の局面に関するものであり、その場合細胞は発明に使用するここに記したアデノウイルスをコードする1または複数の核酸、および/または本発明による各アデノウイルス複製系、および/または各ベクターおよび/もしくはベクター群を含む。
【0148】
前記アデノウイルス構築体ならびに特にそれらの核酸およびそれをコードする核酸もまた細胞内、好ましくは腫瘍細胞に一部分導入してもよく、その場合各種個別構成成分が存在していることにより、それらはあたかも各構成成分は単一核酸および単一または複数のアデノウイルスに由来するように一つになって作用するだろう。
【0149】
発明に使用するアデノウイルス、アデノウイルス系、またはその一部分をコードする核酸は、ベクターとして存在するだろう。好ましくは、それらはウイルスベクターとして存在する。アデノウイルス核酸を含む核酸の場合、ウイルス粒子がベクターであることが好ましい。しかし、上記核酸がプラスミドベクター内にある場合も発明の範囲内である。いずれの場合も、ベクターは挿入した核酸の増幅、即ち挿入核酸の複製および場合によっては発現、それらの制御をもたらすそれぞれの要素を含んでいる。好適ベクター、特に発現ベクター、および対応する要素は当業者に周知であり、例えばGrunhaus, A、Horwitz, M.S、1994年、Adenoviruses as cloning vectors.In Rice, C.編集、Seminars in Virology, London: Saunders Scientific Publicationsに記載されている。
【0150】
ベクター群に関する発明の局面は、核酸の各種要素が必ずしも1つのベクターに含まれている必要がないという前述の実施態様に対応するものである。この場合、ベクター群は少なくとも2種類のベクターを含む。それ以外のことは、ベクターに関連して既に述べた事柄がベクターおよびベクター群にそのまま当てはまる。
【0151】
発明に用いられるアデノウイルスは、ここに開示した各種核酸および遺伝子産物により特徴付けられ、そしてそれ以外に含まれる要素は野生型のアデノウイルスと同様であり、全てが当業者周知である(Shenk、T.: Adnoviridae: The virus and their replication.Fields Virology、第三版、編集、Fields, B.N.、Knipe, D.M.、Howley, P.M.ら、Lippincott-Raven Publishers、Philadelphia、1996年、67章)。
【0152】
アデノウイルスの複製は極めて複雑な過程であり、一般にはヒト転写因子E2Fを利用する。ウイルス感染に際しては、まず「初期遺伝子」E1、E2、E3およびE4が発現する。「後期遺伝子」群はウイルスの構造タンパク質の合成を担っている。初期および後期遺伝子両方の活性化に関しては、異なるE1AおよびE1Bタンパク質をコードしている2つの転写単位E1AとE2Aから成るE1領域が重要であるが、それはE2、E3およびE4がそれらにより誘導されるからである(Nevins、J.R.Cell 26、213〜220、1981年)。更にE1Aタンパク質は休止細胞にDNA合成を誘導してS期に入らせることができる(上記BoulangerとBlair、1991年)。さらにそれらはRbクラスの腫瘍抑制因子と相互作用する(Whyte, P.ら、Nature 334、124〜127、1988年)。そうすると、細胞質転写因子であるE2Fが放出される。E2F因子は次に細胞遺伝子ならびにウイルス遺伝子の対応するプロモーター領域に結合し(特にアデノウイルスE2初期プロモーター)、転写および翻訳を開始させるだろう(Nevins、J.R.Science 258、424〜429、1992年)。
【0153】
E2領域の遺伝子産物は3種類の必須タンパク質をコードしていることから、それらは複製開始とその遂行に特に必要である。E2タンパク質の転写は2種類のプロモーター、ここではE2−初期プロモーターもしくは初期E2プロモーターとも呼ばれる「E2−初期E2F−依存」プロモーター、および「E2−後期」プロモーターにより制御されている(SwaminathanとThimmapaya、The Molecular Repertoire of Adnoviruses III: Current Topics in Microbiology and Immunology、199巻、177〜194、Springer Verlag 1995年)。さらに、E4領域の産物は、E1AおよびE1B−55kDaタンパク質と一緒になり、それぞれE2Fの活性およびp53の安定性にとって重要な役割を果たす。例えば、E4領域にコードされているE4orf6/7タンパク質がE2FおよびDP1から成るヘテロダイマーとの直接相互作用によってプロモーターはより活性化される(SwaminathanおよびThimmapay、JBC 258、736〜746、1996年)。更にp53は、E1B−55kDaとE4orf6から成る複合体により不活性化され(Steegenga, W.T.ら、Oncogene 16、349〜357、1998年)、溶解性の感染周期が成功して終了する。さらにE1B−55kDaタンパク質は、E4orf6タンパク質と相互作用してウイルスRNAの核外への運び出しを促進することからも更に重要な機能を果たしているが、この場合細胞固有のRNAは核内に維持される(BridgeおよびKetner、Virology 174、345〜353、1990年)。更に重要な発見は、E1B−55kDa/E4orf6から成るタンパク質複合体がいわゆる「ウイルス封入体」内に局在していることである。このことから、これら構造体が複製および転写部位であることが推測される(OrnellesおよびShenk、J.Virology 65、424〜429、1991年)。
【0154】
複製にとって重要である、特にアデノウイルスの放出に関し重要である別の領域はE3領域である。E3領域は、より具体的にはインビトロでのアデノウイルス感染周期にとって必須ではない、即ち細胞培養に必須ではない比較的小型の各種タンパク質に関する遺伝情報を含んでいる。しかしそれらは特に免疫制御およびアポトーシス機能を有していることから、インビボでの急性期および/または潜伏感染期間中のウイルスの生存にとって重要な役割を果たしている(Marshall S.Horwitz、Virololgie、279、1〜8、2001年; Russell、上記)。約11.6kDaの大きさを持つタンパク質が細胞死を誘導することが示されている。このタンパク質は、その機能故にADP−英語でアデノウイルス致死タンパク質(Adenovirus death protein)−と呼ばれている(Tollefson、J.Virology、70、2296〜2306、1996年)。このタンパク質は主に感染周期の後期に形成される。さらに、このタンパク質の過剰発現は感染細胞をより溶解する(Doroninら、J.Virology、74、6147〜6155、2000年)。
【0155】
更に、本発明者はE1A欠失ウイルス、即ち具体的には12SのE1Aタンパク質を持たず、そして13SのE1Aタンパク質を発現しないウイルスが、より高いMOIで極めて効率的に複製できることを知った(Nevins J.R.Cell 26、213〜220、1981年)が、しかしこのことを臨床的に応用できなかった。この現象は文献の中では「E1A−様活性」と呼ばれている。さらにE1Aがコードする5種類のタンパク質の内2種類のタンパク質、即ち12Sおよび13Sタンパク質が、それぞれ他のアデノウイルス遺伝子の発現を制御および誘導することも分かった(Nevins, J.R.Cell 26、213〜220、1981年; Boulanger、P.およびBlair, E.; Biochem.J.275、281〜299、1991年)。これに関連して、トランス活性化機能が主に13Sタンパク質のCR3領域から提供されるものであることが示された(Wong HKおよびZiff EB.J Virol.、68、4910〜20、1994年)。13Sタンパク質のCR1および/またはCR2領域、および/またはCR3領域を特異的に欠失したアデノウイルスは、大部分が複製欠失であるが、それでも一部の細胞株ではウイルス遺伝子をトランス活性化し、それぞれ特にE2領域を促進する(Wong HKおよびZiff EB.J Virol.、68、4910〜20、1994年; Mymryk, J.S.およびBayley, S.T.、Virus Research 33、89〜97、1994年)。
【0156】
野生型アデノウイルスを細胞、一般的には腫瘍細胞に感染させると、E1A、E1B−55KおよびE4orf6が介在してYB−1が核内に誘導され、ウイルス封入体の中に核内のE1B−55Kと共に局在するようになり、それがインビトロおよびインビボの両方での細胞核内に於けるウイルスの効率的複製を可能にする。これに関連して、E4orf6がE1B−55Kに結合すること(Weigel, S.およびDobbelstein, M.J. Virology、74、764〜772、2000年; Keith N.Leppard、Seminars in Virology、8、301〜307、1998年)、およびそれがE1B−55Kの核内への運び込みと分布とを媒介し、それによりそれぞれ最適なウイルス産生とアデノウイルス複製が提供されることが初期に既に見出されていた。本発明の効率的なウイルス複製は、E1A、E1B−55KおよびYB−1間の相互作用によって、そして、E1B−55K/E4orf6とYB−1とから成る複合体によって、およびYB−1と核内のE1B−55Kが、いわゆるウイルス封入体内に同時に局在することによって、ならびに個々に記したウイルスのYB−1核陽性細胞での複製に使用することによって、およびYB−1核陽性細胞が関係する疾患の治療を目的とした医薬の製造に使用することによって可能となる。この様な細胞の背景により可能となった複製は、細胞溶解、ウイルスの放出、および近接細胞の感染および溶解をもたらし、結果として腫瘍細胞および腫瘍に感染した場合には、それぞれ腫瘍の最終的な溶解、即ちガン溶解が起こる。
【0157】
YB−1は逆位CAAT配列、いわゆるY−ボックスに結合する保存性の強い因子の群に属する。それらは転写ならびに翻訳両レベルにおいて通常の様式で活性化する(Wolffe, A.P.Trends in Cell Biology 8、318〜323、1998年)。活性化によりY−ボックス依存制御経路の数が増加することが見出されているが、増殖およびアポトーシス関連遺伝子の阻害時でも数が増加することが見出されている(Swamynathan、S.K.ら、FASEB J.12、515〜522、1998年)。従って、YB−1はp53と直接相互作用しており(Okamoto、T.ら、Oncogene 19、6194〜6202、2000年)、Fasの遺伝子発現(Lasham, A.ら、Gene 252、1〜13、2000年)、MDRおよびMRP遺伝子発現(Stein, U.ら、JBC 276、28562〜69、2001年; Bargou, R.C.ら、Nature Medicine 3、447〜450、1997年)ならびにトポイソメラーゼおよび金属プロテアーゼの活性化(Mertens.P.R.ら、JBC 272, 22905〜22912、1997年; Shibao, L.ら、Int.J.Cancer 83、732〜737、1999年)に於いて重要な役割をはたしている。従って、YB−1はmRNAの安定性の制御(Chen, C-Y.ら、Genes & Development 14、1236〜1248、2000年)および修復プロセス(Ohga, T.ら、Cancer Res.56、4224〜4228、1996年)に関係している。
【0158】
腫瘍細胞でYB−1が核内に局在することにより、特に12SのE1Aタンパク質および13SのE1Aタンパク質の両方ともが発現形態で存在しないかそして用いられない例(Holm, P.S.ら、JBC 277、10427〜10434、2002年)、および多剤耐性(多重耐性)でのタンパク質YB−1の過剰発現の例ではE1A独立にウイルス複製が起こる。更に、例えばE4orf6およびE1B−55Kの様なアデノウイルスタンパク質はウイルス複製に対し有利な影響を及ぼし(Goodrum, F.D.およびOrnelles, D.A、J.Virology 73、7474〜7488、1999年)、この時機能的E1Aタンパク質は他のウイルスの遺伝子産物(E4orf6、E3ADPおよびE1B−55Kの様な)のスイッチングに関係していること(Nevins J.R.、Cell 26、213〜220、1981年)が知られている。しかしこの様なことは13SのE1Aが存在しない先行技術のE1A−マイナスアデノウイルスでは起こらない。YB−1が核内に存在する多剤耐性細胞でのYB−1核内局在は、E1A−マイナスウイルスに複製および粒子形成を提供する。しかしこの場合、ウイルス複製および粒子形成の効率は、野生型のAd5に比べると数倍低い。腫瘍細胞の核内に既に存在しているYB−1と、または外部因子(細胞増殖抑制薬または放射線、または高温を作用させる)により腫瘍細胞内に誘導した、即ち特に細胞周期とは無関係に核内への存在を促すか、またはベクターを使ってトランス遺伝子として導入したYB−1と、アデノウイルス遺伝子を始動するが、ウイルスの複製は行わない系、好ましくはアデノウイルス系とを組み合わせると、驚くべきことにYB−1を通じてシステムが極めて効率的にウイルスの複製と粒子を形成し、ガン溶解を誘導した。とりわけても好適な細胞増殖抑制薬は次の群に属するものである:ダウノマイシンおよびアドリアマイシンといったアントラサイクリン類;シクロホスファミドのようなアルキル化剤;エトポシドの様なアルカロイド;ビンクリスチンおよびビンブラスチンの様なビン−アルカロイド;例えば5−フルオロウラシルおよびメトトレキセートの様な代謝拮抗剤;例えばシス−プラチンの様な白金誘導体;カンホテシンの様なトポイソメラーゼインヒビター;および例えばタキソールの様なタキサン類である。ここに開示した、YB−1核陽性細胞内でのみ複製できるアデノウイルス、特に組換え体アデノウイルスは、ウイルス遺伝子E1B−55K、E4orf6、E4orf3およびE4ADPをトランス活性化するそれらの能力は、野生型アデノウイルス、特に野生型Ad5の持つ同様のトランス活性化能力に比べ制限されている。本発明者は、今回驚くべきことにこれら制限された活性化能力が対応する遺伝子によって、特にYB−1の核内局在と組み合わせて発現されるE1B−55KおよびE4orf6によって補完されることを見出した。本明細書の実施例に示す様に、ウイルス複製および粒子形成は共にこの様な条件では野生型アデノウイルスの複製および粒子形成にほとんど匹敵するレベルまで増加する。
【0159】
ここに記したアデノウイルスと結びつけた医薬、またはここに記したアデノウイルスを本発明に従い使用し製造される医薬は一般的には全身投与されるものと解釈されるが、かかる医薬を局所に適用するか、または配送することも本発明の範囲である。かかる使用は、本発明の医薬を使用する診断および/または予防および/または治療を目的として、特にある状態、典型的には疾患の形成に関係する細胞に上記アデノウイルスで感染すること、および特にそれら細胞内で複製すること意図して、好ましくは随時に行われる。
【0160】
かかる医薬は、好ましくは腫瘍疾患の処置に用いられる。腫瘍疾患の中では、腫瘍疾患の基礎を成すメカニズム、特に病理学的メカニズムによってYB−1が既に核内に局在している腫瘍、または外的手段により核内にYB−1が生じている腫瘍が特に好ましく、この場合の手段はYB−1を核内に運搬する、またはYB−1を核内に誘導する、またはYB−1を核内で発現するのに好適なものである。本明細書で使用する場合、腫瘍または腫瘍疾患という用語は、悪性および良性腫瘍の両方、ならびに各疾患を含むものとする。医薬はさらに少なくとも1つの医薬的に活性な化合物を含むものとする。かかる追加の医薬的に活性な化合物の種類および量は、かかる医薬が用いられる適用に依存する。医薬を腫瘍疾患の治療および/または予防に用いる場合、具体的にはシスプラスチンおよびタキソール、ダウノブラスチン、ダウノルビシン、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、および/もしくはミトキサントロンのような細胞増殖抑制薬、またはここに記したその他の細胞増殖抑制薬あるいは細胞増殖抑制薬の群を使用する。
【0161】
本発明の医薬は様々な製剤形状に存在でき、液体形状が好ましい。更に、医薬は安定化剤、緩衝剤、保存剤、および医薬製剤分野当業者に周知であるこの種の作用剤を含むだろう。
【0162】
本発明者は驚くべきことに、ここに記載のウイルスを発明に従い、細胞周期とは無関係に核内にYB−1を持つ腫瘍に対し極めて高い成功率で応用できることを見出した。一般にYB−1は細胞質内、特に核周囲の原形質内に存在する。細胞周期のS期の間は、YB−1は正常細胞および腫瘍細胞両方の細胞核内に見出すことができる。しかしそれは修飾型アデノウイルスを用いたウイルスによるガン溶解を誘導するには十分ではない。この様な不良な結果は、先行技術に記載のこの種の弱毒化アデノウイルスの効率が比較的低いことに起因している。換言すれば、ここに記載の弱毒化または修飾型ウイルスを投与する際に、ウイルス性のガン溶解に必要な分子生物学的条件を与えさえすれば、かかるアデノウイルス系を使用する、特に高い効率で使用することができる。ここに記載様に、発明に従って用いられるAdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016、dl520および欧州特許第EP0 931 830号に記載の組換え体アデノウイルスといったアデノウイルスの場合は、上記条件は腫瘍疾患の例ではYB−1が細胞周期とは無関係に核局在する細胞に与えられる。このタイプの核内局在は、腫瘍細胞そのものに起因するものでも、またはここに記した発明による手段または薬物により誘導してもよい。即ち本発明は、発明のウイルス、特に先行技術に既に記載されている弱毒化または修飾型アデノウイルスを用いて良好に処置できる新規腫瘍および腫瘍疾患群、さらには患者を画定する。
【0163】
その一部は周知であり、そして本発明により治療可能であるアデノウイルスを用いて、または本明細書に初めて記載されたアデノウイルス、具体的にはEqAタンパク質内に突然変異および欠失を有するが、Rb/E2fの結合を妨害せず、そしてYB−1核陰性細胞では複製しないアデノウイルス、または本明細書内に規定された大きな複製低下を示し、および/または欠失型発ガンタンパク質、特にE1Aを有する、例えばウイルスAdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB106および欧州特許第EP0 931 830号に記載のアデノウイルスを用いて、本発明により治療可能なさらなる患者群は、ある条件を適用または放出することによりYB−1が核内に移動する、または核内に誘導する、または核内に運ばれることが確実である患者である。この患者群に関連してこの種のアデノウイルスを使用することは、ウイルス複製の誘導がYB−1の核内局在化とそれに続くYB−1のE2−後期プロモーターへの結合に基づくという所見を根拠としている。この所見に基づけば、AdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB106および欧州特許第EP0 931 830号に記載のアデノウイルスといった本明細書に開示するアデノウイルスは、YB−1核陽性である細胞および/またはYB−1が本発明に規定されるように脱制御されている細胞で複製できるだろう。その限りに於いてこれらアデノウイルスは、本発明に従って、これら特性を持つ細胞を含む疾患および患者群の処置に、特にこれら細胞が処置対象となる各疾患の成立に関係している時に用いることができる。本明細書に発明に有用であると記したアデノウイルス、そして使用するこれらウイルス、特に本明細書で初めて記載されたアデノウイルスを用いて処置可能であるさらなる患者群は、YB−1核陽性および/または以下記載の処置の結果としてYB−1核陽性である患者であり、この場合かかる処置は好ましくは医学的処置であり、そして/または各ウイルスの投与を伴い実施される患者である。YB−1核陽性患者が、腫瘍を形成する複数の細胞が細胞周期とは無関係に核内にYB−1を有する患者である場合も、本発明の範囲内である。とりわけこれら治療は、ここに記載の細胞増殖抑制薬投与と共に、そして/または腫瘍治療の一環として実施される。更に、放射線、好ましくは腫瘍療に使用するものである放射線は、この処置群に属する。放射線とは、具体的に高エネルギー照射を伴う放射線を意味し、好ましくは放射性放射線、好ましくは腫瘍治療に用いられる放射性放射線を意味する。高温および高温の適用、好ましくは腫瘍治療に用いられる高温も別の処置手段である。特に好ましい高温の実施態様は局所的適用である。最後にホルモン処置、特に腫瘍治療に用いられるホルモン処置は別の処置手段である。かかるホルモン処置に関連しては、抗エストロゲンおよび/または抗アンドロゲンが用いられる。タモキシフェンの様な抗エストロゲン剤は特に乳ガンの治療に、そして例えばフルタミドまたは酢酸シプロテロンの様な抗アンドロゲン剤は、前立腺ガンの治療に用いられる。
【0164】
腫瘍を形成する細胞の一部が元から、または核内への誘導および能動的導入後にYB−1を含んでいること、または本開示の意味において脱制御したYB−1を含む場合も本発明の範囲内である。好ましくは、腫瘍形成細胞の約5%以上、即ち6、7、8%等がYB−1核陽性細胞またはYB−1が脱制御状態にある細胞である。YB−1の核内への局在は、外側から加えられたストレス、および局所的に加えられたストレスにより誘導できる。この誘導は、例えば放射線、特にUV照射、細胞増殖抑制薬、取り分けても本明細書に開示されたもの、および高温を用いて行うことができる。高温に関連しては、それは極めて特異的な様式、より具体的には局所に極めて特異的な様式で実現できることが必須であり、その結果YB−1はより特異的に細胞核内に局在するようになり、それによりアデノウイルスの複製に必要な条件、即ち細胞および腫瘍溶解に必要な条件が、好ましく局所に限定された形で提供される(Stein U、Jurchott K、Walther W、Bergmann S、Schlag PM、Royer HD.J Biol Chem.2001年、276(30)、28562〜9; Hu Z, Jin S, Scotto KW.J Biol Chem.2000年1月 28; 275(4): 2979〜85; Ohga T, Uchiumi T, Makino Y, Koike K、Wada M、Kuwano M, Kohno K.J Biol Chem.1998年、273(11): 5997〜6000)。
【0165】
かくして本発明の医薬は、好ましくは各腫瘍細胞に於いて、前処理または併用処置を通じてYB−1の輸送に影響を及ぼす形で患者および患者群に投与することもできるし、または、意図されていてもよい。
【0166】
この技術的教示に基づけば、当業者はその技術的水準の範囲内で、E1Aに例えば欠失または点突然変異を含む好適な修飾を実行して、発明の使用と関係して用いられるアデノウイルスの各種実施態様を生成することができる。
【0167】
既に説明した如く、発明に従い使用するアデノウイルスは、核内にYB−1を有する細胞および細胞系それぞれの中で複製できる。本発明に従って使用するアデノウイルスが複製でき、そして腫瘍を溶解できるかどうかという問題にとって、Rb、即ち網膜細胞芽腫腫瘍抑制産物の有無に関する細胞状態は無関係である。さらに、発明に従い上記アデノウイルスを使用することに関連して感染細胞、感染対象となる細胞、または処置対象となる細胞のp53の状態を考慮する必要はないが、それはここに開示したアデノウイルス系をYB−1核陽性細胞、即ち細胞周期とは無関係に核内にYB−1を持つ細胞と結びつけて使用することにより、p53に関する状態ならびにRbに関する状態が本明細書に開示する技術的教示の性能に影響しなくなるからである。
【0168】
発ガン遺伝子および発ガン遺伝子タンパク質はそれぞれ、特にE1Aは所有の天然アデノウイルスプロモーターの制御下、および/または腫瘍もしくは組織特異的プロモーターにより制御できる。好適な非アデノウイルス性のプロモーターは、サイトメガロウイルスプロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、アデノウイルスベースドプロモーターVaIおよび非ウイルス性YB−1プロモーター(Makino Y.ら、Nucleic Acids Res.1996年、15、1873〜1878)を含む群より選ぶことができる。ここに開示した発明の各局面およびいずれかの局面に関連して使用できるさらなるプロモーターには、テロメラーゼプロモーター、アルファ−フェトプロテイン(AFP)プロモーター、ガン胚抗原プロモーター(CEA)(Cao, G., Kuriyama, S., Gao, J., Mitoro, A., Cui, L., Nakatani, T., Zhang, X., Kikukawa, M., Pan, X., Fukui, H., Qi, Z. Int.J.Cancer、78、242〜247、1998年)、L−プラスチンプロモーター(Chung, I., Schwartz, PE., Crystal, RC., Pizzorno, G, Leavitt, J., Deisseroth, AB. Cancer Gene Therapy、6、90〜106、1999年)、アルギニンバソプレッシンプロモーター(Coulson, JM, Staley, J., Woll, PJ. British J.Cancer、80、1935〜1944、1999年)、E2fプロモーター(Tsukadaら、Cancer Res.、62、3428〜3477)、ウロプラキンIIプロモーター(Zhangら、Cancer Res.、62、3743〜3750、2002年)およびPSAプロモーター(Hallenbeck PL、Chang, YN、Hay, C, Golightly, D., Stewart, D., Lin, J., Phipps, S., Chiang, YL. Human Gene Therapy、10、1721〜1733, 1999年)がある。更にドイツ特許出願番号DE101 50 984.7に記載のYB−1依存型E2−後期プロモーターは、本発明で使用可能なプロモーターである。
【0169】
テロメラーゼプロモーターはヒト細胞において極めて重要であることが知られている。故にテロメラーゼ活性はテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子(hTERT)の転写制御を通じて制御されているが、上記遺伝子は酵素の触媒サブユニットである。テロメラーゼは85%のヒト腫瘍細胞で発現している。これに対し、大部分の正常細胞では発現していない。例外は生殖細胞と胚組織である(Braunstein, I.ら、Cancer Research、61、5529〜5536、2001年; Majumdar, A.S.ら、Gene Therpy 8、568〜578、2001年)。hTERTプロモーターに関するより詳細な研究から、開始コドンからの距離が283bpおよび82bpのプロモーターの断片が、腫瘍細胞での特異的発現に十分機能することを示した(Braunstein I.ら、; Majunmdar ASら、上記)。故にこのプロモーターおよび上記特異的断片はそれぞれ、遺伝子、特にトランス遺伝子、好ましくはここに開示するトランス遺伝子の一つを腫瘍細胞内でのみ特異的に発現させるのに好適である。このプロモーターが、腫瘍細胞のみにおいて、発ガン遺伝子、好ましくはE1A発ガン遺伝子の発現を可能にする。また、好適実施態様では、かかるアデノウイルスベクター内でのトランス遺伝子、特にE4rof6、E1B55kD、ADPおよびYB−1を含む群から選ばれるトランス遺伝子の発現は、これらプロモーターのいずれかの制御下にある。トランス活性化発現遺伝子タンパク質、特にE1Aタンパク質のオープンリーディングフレームがアデノウイルス系の一つ、または複数の遺伝子産物と共にフレーム内に存在するものも本発明の範囲内である。しかし、トランス活性化E1Aタンパク質のオープンリーディングフレームは、それから独立してもよい。
【0170】
様々なトランス遺伝子、したがってE1B55kD、E4orf6、ADPその他もまた、特にそれらがウイルス遺伝子である場合は、原則として任意のそれぞれのウイルス、好ましくはアデノウイルス、より好ましくはアデノウイルスAd5からクローニングすることができる。さらに先行技術において多数のプラスミドが記述されており、それらはそれぞれの遺伝子を含んでおり、続いてそれらから遺伝子を得て、本発明のアデノウイルスへならびに本発明に従って用いられるウイルスへ導入することができる。E1B55kDを発現するそのようなプラスミドの例については、例えば Dobbelstein, M. et al., EMBO Journal, 16, 4276-4284, 1997 に記載されている。E1B55KD遺伝子のコーディング領域を3’非翻訳領域(3’UTR領域は好ましくはアデノウイルス野生型ゲノム中で塩基位置3507〜4107に位置する)と一緒に、例えばこの遺伝子からプラスミドpDCRE1BからBam HIにより切り取ることができる。E1B55kD遺伝子ならびに3’非コード領域を含む対応する断片が、アデノウイルス5型のヌクレオチド2019−4107に対応する。しかし、E1B55kD遺伝子が制限酵素Bam HIおよびBfrIおよびXbalによりそれぞれ前記プラスミドから切り取られ、続いてアデノウイルスへクローンニングされることもまた本発明の範囲内である。さらにその類似体、特に3’UTR領域の類似体を本発明中で用いることもまた本発明の範囲内である。3’UTR領域の類似体は、3’UTR領域と、特に遺伝子、好ましくはE1B55kD遺伝子の発現に関して、同じ効果を有する任意の配列である。そのような類似体を、当業者が型通りの実験によって、例えば3’UTR領域を1つまたはいくつかのヌクレオチド分延長し、また切り詰め、次にこのようにして得られた類似体が依然として上記の3’UTR領域と同一の効果を有するか否かをテストすることにより決定してもよい。実施態様の1つでは、用語3’UTR領域はこのように任意の類似体も含む。
【0171】
もし逆の言及がなければ、本発明のウイルスについて言及される場合は、それをコードする核酸ならびにアデノウイルス粒子(これは好ましくはそれぞれの核酸を含む)の両方について言及される、ということは本発明の範囲内である。それぞれの核酸はまた、異なるベクターに組み入られて存在してもよい。
【0172】
ここに記載のアデノウイルスを発明に従い用いて溶解するのに好適である細胞の特徴は、実施態様の一つでは、それらは耐性であり、好ましくは多剤または多重耐性である。ここで言う耐性とは、ここに記した細胞増殖抑制薬に対する耐性を意味するのが好ましい。この多剤耐性は、該当する細胞を決定するためのマーカーとして利用でき、従ってかかる多剤耐性を示す腫瘍および患者群について利用できる膜結合型輸送タンパク質P−糖タンパク質の発現、好ましくは過剰発現と共に現れる。ここで使用する場合の耐性という用語は、古典的耐性とも呼ばれるP−糖タンパク質介在耐性と、MRP介して伝達される耐性もしくはその他非P−糖タンパク質が介在する耐性を含む非定型耐性の両方を含む。YB−1の発現と相関するさらなるマーカーは、トポイソメラーゼIIアルファである。その場合、患者が発明のアデノウイルスの使用により良好に処置できるか否かを決定するスクリーニングに於いて、トポイソメラーゼIIアルファの発現は核内のYB−1の決定に代わる方法または追加の方法として使用できる。P−糖タンパク質と同様の様式で基本的に用いることができるさらなるマーカーはMRPである。少なくとも結腸直腸ガン細胞または結腸直腸ガン患者について想定されるさらなるマーカーは、例えばShibao K.ら、(Shibao Kら、Int, Cancer, 83、732〜737、1999年)が記載したようにPCNA(増殖細胞核抗原)である(Hasan S.ら、Nature、15、387〜391、2001年)。最後に、MDR(多剤耐性)の発現は、少なくとも乳ガンおよび骨肉腫細胞については、上記の意味でのマーカーである(Oda Yら、Clin.Cancer Res.、4、2273〜2277、1998年)。本発明に従い用いることができる可能性のあるさらなるマーカーはp73である(Kamiya、M.、Nakazatp, Y.、J Neurooncology 59、143〜149(2002年); Stieweら、J.Biol.Chem.、278、14230〜14236、2003年)。
【0173】
従って本発明の特別な利点は、臨床的な意味に於いてもはや処置できないと考えられる患者、および先行技術の方法による腫瘍疾患のそれ以上の処置が不可能であり、合理的に成功が期待できない患者、特に細胞増殖抑制薬の使用がもはや合理的には不可能であり、腫瘍に影響を及ぼすまたは腫瘍を縮小させるという意味でもはや良好に治療が実施できない患者についても、ここに記載の様にして本発明によるアデノウイルスを用いることで治療できることである。ここでは、腫瘍という用語は一般に核内にもともとYB−1を含んでいる、またはここに記載した様な外的な開放手段によって核内に、好ましくは細胞周期とは無関係にYB−1を含むようになった腫瘍またはガン疾患を意味する。
【0174】
更に、ここに記載のウイルスは、原則として、腫瘍の治療に用いることができる。
【0175】
特に本明細書に記述されるウイルスによって治療することができる腫瘍は、神経系の腫瘍、目の腫瘍、皮膚の腫瘍、軟組織の腫瘍、胃腸の腫瘍、呼吸器系の腫瘍、骨格の腫瘍、内分泌系の腫瘍、女性生殖系の腫瘍、乳腺の腫瘍、男性生殖系の腫瘍、尿の排出系の腫瘍、造血系の腫瘍を含み、混合腫瘍および胚の腫瘍を含む群より選択される腫瘍が好適である。これらの腫瘍が特にここに定義されたような特に耐性のある腫瘍であることは本発明の範囲内である。
【0176】
神経系の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 頭蓋ならびに脳(頭蓋内)の腫瘍、好ましくは星状細胞腫、オリゴデンドログリオーマ、髄膜腫、神経芽細胞腫、神経細胞腫、上衣細胞腫、神経鞘膠腫、神経繊維腫、血管芽細胞腫、脂肪腫、クラニオファリンジオーマ、奇形腫および脊索腫;
2. 脊髄および脊柱管の腫瘍、好ましくは膠芽腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、神経繊維腫、骨肉腫、軟骨肉腫、血管肉腫、繊維肉腫および多発性骨髄腫;ならびに
3. 末梢神経の腫瘍、好ましくは神経鞘膠腫、神経繊維腫、神経繊維肉腫および神経周囲の線維芽細胞腫。
【0177】
目の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 眼瞼および眼瞼腺の腫瘍、好ましくは腺腫、腺ガン、乳頭腫、組織球腫、肥満細胞腫、基底細胞腫瘍、メラノーマ、扁平上皮細胞ガン、繊維腫および繊維肉腫;
2. 結膜および瞬膜の腫瘍、好ましくは扁平上皮細胞ガン、血管腫、血管肉腫、腺腫、腺ガン、繊維肉腫、メラノーマおよび乳頭腫;ならびに
3. 眼窩、視神経および眼球の腫瘍、好ましくは網膜芽細胞腫、骨肉腫、肥満細胞腫、髄膜腫、細網細胞腫瘍、神経膠腫、神経鞘膠腫、軟骨腫、腺ガン、扁平上皮細胞ガン、形質細胞腫瘍、リンパ腫、横紋筋肉腫およびメラノーマ。
【0178】
皮膚の腫瘍の群は、好ましくは:
組織球腫、脂肪腫、繊維肉腫、繊維腫、肥満細胞腫、悪性メラノーマ、乳頭腫、基底細胞腫瘍、角化棘細胞腫、血管周囲細胞腫、毛嚢腫瘍、汗腺腫瘍、皮脂腺の腫瘍、血管種、血管肉腫、脂肪腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、プラスマ細胞腫およびリンパ管腫、などの腫瘍を含む。
【0179】
軟組織の腫瘍の群は、好ましくは、
歯槽の軟部組織肉腫、類上皮細胞肉腫、軟組織の軟骨肉腫、軟組織の骨肉腫、軟組織のユーイング肉腫、未分化神経外胚葉性腫瘍(PNET)、繊維肉腫、繊維腫、平滑筋肉腫、平滑筋腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、悪性血管周囲細胞腫、血管腫、血管肉腫、悪性間葉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、悪性神経鞘膠腫、悪性メラノサイト性神経鞘膠腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫、リンパ管腫およびリンパ管肉腫、などの腫瘍を含む。
【0180】
胃腸の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 口腔および舌の腫瘍、好ましくは扁平上皮細胞ガン、繊維肉腫、マーケル細胞腫瘍、誘導性繊維エナメル芽細胞腫、繊維腫、繊維肉腫、ウイルス性乳頭腫症、特発性乳頭腫症、鼻咽頭ポリープ、平滑筋肉腫、筋芽細胞腫および肥満細胞腫;
2. 唾液腺の腫瘍、好ましくは腺ガン;
3. 食道の腫瘍、好ましくは扁平上皮細胞ガン、平滑筋肉腫、繊維肉腫、骨肉腫、バレットのガンおよび食道周囲腫瘍;
4. 膵臓外分泌腺の腫瘍、好ましくは腺ガン;ならびに
5. 胃の腫瘍、好ましくは腺ガン、平滑筋腫、平滑筋肉腫および繊維肉腫。
【0181】
呼吸器系の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 鼻および鼻腔、喉頭および気管の腫瘍、好ましくは扁平上皮細胞ガン、繊維肉腫、繊維腫、リンパ肉腫、リンパ腫、血管腫、血管肉腫、メラノーマ、肥満細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、好酸性顆粒細胞腫(横紋筋腫)、腺ガンおよび筋芽細胞腫;ならびに
2. 肺の腫瘍、好ましくは扁平上皮細胞ガン、繊維肉腫、繊維腫、リンパ肉腫、リンパ腫、血管腫、血管肉腫、メラノーマ、肥満細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、好酸性顆粒細胞腫(横紋筋腫)、腺ガン、筋芽細胞腫、小細胞ガン、非小細胞ガン、気管支の腺ガン、気管支肺胞腺ガンおよび肺胞性腺ガン。
【0182】
骨格の腫瘍の群は、好ましくは:
骨肉腫、軟骨肉腫、傍骨性骨肉腫、血管肉腫、滑膜細胞肉腫、血管肉腫、繊維肉腫、悪性間葉腫、巨細胞腫、骨腫および多小葉骨腫、を含む。
【0183】
内分泌系の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 甲状腺/副甲状腺の腫瘍、好ましくは腺腫および腺ガン;
2. 腎上体の腫瘍、好ましくは腺腫、腺ガンおよび褐色細胞腫(髄質副腎腫);
3. 視床下部/下垂体の腫瘍、好ましくは腺腫および腺ガン;
4. 膵臓内分泌腺の腫瘍、好ましくはインスリノーマ(β細胞腫瘍、APUDom)およびゾリンジャー−エリソン症候群(膵臓デルタ細胞のガストリン分泌器官腫瘍);ならびに、
5. 多発性内分泌腫瘍症(MEN)および非クロム親和性傍神経節腫(chemodectoma)。
【0184】
女性の生殖系の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 卵巣の腫瘍、好ましくは腺腫、腺ガン、嚢腺腫および未分化ガン;
2. 子宮の腫瘍、好ましくは平滑筋腫、平滑筋肉腫、腺腫、腺ガン、繊維腫、繊維肉腫および脂肪腫;
3. 頚部の腫瘍、好ましくは腺ガン、腺腫、平滑筋肉腫および平滑筋腫;
4. 膣および陰門の腫瘍、好ましくは平滑筋腫、平滑筋肉腫、線維平滑筋腫、繊維腫、繊維肉腫、ポリープおよび扁平上皮細胞ガン。
【0185】
乳腺の腫瘍の群は、好ましくは、
線維腺腫、腺腫、腺ガン、間充織腫瘍、ガン、ガン肉腫を含む。
【0186】
男性の生殖系の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 睾丸の腫瘍、好ましくは精上皮腫、間細胞腫およびセルトリ細胞腫;
2. 前立腺の腫瘍、好ましくは腺ガン、未分化ガン、扁平上皮細胞ガン、平滑筋肉腫および移行細胞ガン;ならびに
3. 陰茎および外部生殖器の腫瘍、好ましくは肥満細胞腫および扁平上皮細胞ガン。
【0187】
尿の排出システムの腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. 腎臓の腫瘍、好ましくは腺ガン、移行細胞ガン(上皮性腫瘍)、繊維肉腫、軟骨肉腫(間葉腫瘍)、ウィルムス腫瘍、腎芽腫および腺肉腫(胚の多分化能芽細胞腫);
2. 尿管の腫瘍、好ましくは平滑筋腫、平滑筋肉腫、線維乳頭腫、移行細胞ガン;
3. 膀胱の腫瘍、好ましくは移行細胞ガン、扁平上皮細胞ガン、腺ガン、ブドウ房形(胚の横紋筋肉腫)、繊維腫、繊維肉腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、乳頭腫および血管肉腫;ならびに
4. 尿道の腫瘍、好ましくは移行細胞ガン、扁平上皮細胞ガンおよび平滑筋肉腫。
【0188】
造血系の腫瘍の群は、好ましくは次のものを含む:
1. リンパ腫、リンパ性白血病、非リンパ性白血病、骨髄増殖性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫。
【0189】
混合腫瘍および胚性腫瘍の群は、好ましくは血管肉腫、胸腺腫および中皮腫を含む。
【0190】
好ましくは、これら腫瘍は、乳ガン、卵巣ガン、前立腺ガン、骨肉腫、膠芽細胞腫、メラノーマ、小細胞肺ガンおよび結腸直腸ガンを含む群より選ばれる。更なる腫瘍はここに記した様な耐性の腫瘍であり、好ましくは多重耐性である腫瘍であり、特には上記の群の多重耐性の腫瘍である。
【0191】
発明は更に別の局面では、修飾型アデノウイルスの一つ、即ち例えばAdΔ24、dl922−947、E1Ad/01/07、CB016または欧州特許第EP0 931 830号に記載のウイルスの様な本発明に使用するアデノウイルスの一つを用いて処置できる患者をスクリーニングする方法であって;
−腫瘍組織のサンプルを検査するステップ、および
−YB−1が細胞周期とは無関係に核内に局在しているか決定するステップ、を含む方法に関する。
【0192】
前記マーカーの存在はYB−1に代わるものとして、またはYB−1に追加するものとして検出できる。
【0193】
腫瘍組織またはその一部がYB−1を核内に含む場合、特に細胞周期とは無関係に含む場合、ここに開示したアデノウイルスは本発明の実施に従い用いることができる。
【0194】
本発明の方法の実施態様では、腫瘍組織の検査はYB−1に対する抗体、YB−1に対するアプタマー、YB−1に対するシュピーゲルマー(spiegelmer)、ならびにYB−1に対する抗カリン(anticaline)を含む群より選ばれる作用物質を用いることで実施される。基本的には対応するマーカカーについては同一の手段を作り、それに従い用いることができる。抗体、特にモノクローナル抗体の製造方法は当業者周知である。YB−1またはマーカーを特異的に検出するさらなる手段は、標的構造、本例ではYB−1または上記マーカーに高い親和性で結合するペプチドである。そのようなペプチドを作製するためにファージディスプレーのような周知方法が知られている。典型的には、開始時に個々のペプチドが8〜20アミノ酸の長さを持ち、ライブラリーのサイズが10
2〜10
18、好ましくは10
8〜10
15種類のペプチドであるペプチドライブラリーを準備する。標的分子に結合するポリペプチドの特殊な形態は抗カリンと呼ばれ、例えばそれはドイツ特許出願番号DE197 42 706号に記載されている。
【0195】
YB−1またはここに開示した対応するマーカーとの特異的結合に関する、従って細胞周期と無関係な細胞核内のYB−1局在を検出するためのさらなる手段は、いわゆるアプタマー、即ち単鎖または二本鎖としてRNAまたはDNAの形で存在し、標的分子に特異的に結合するD−核酸である。アプタマーの作成は、例えば欧州特許第EP0 533 838号に記載されている。特殊な形状をしたアプタマーはアプタザイムと呼ばれ、これは例えばPiagenau, N.ら(2000年)、Angew.Chem.Int.Ed., 39、no.29、4369〜4373項に記載されている。それらがアプタマー部分とは別にリボザイム部分を含み、アプタマー部分と結合している標的分子との結合または放出によって触媒活性を獲得し、核酸基質を開裂してシグナルを生成するという意味において、アプタマーの特別な実施態様である。
【0196】
さらなる形状のアプタマーはいわゆるシュピーゲルマー、即ちL−核酸から作られている標的分子結合核酸である。かかるシュピーゲルマーの製造方法は、例えば国際特許出願第WO98/08856号に記載されている。
【0197】
腫瘍組織のサンプルは、穿刺または手術により得ることができる。YB−1が細胞周期とは無関係に核内に局在しているか調べることは、顕微鏡技術および/または免疫組織分析、好ましくは抗体または上記その他手段を使って頻繁に実施される。核内のYB−1を検出する、そして特にYB−1が細胞周期とは無関係に核内に局在しているか検出するためのさらなる手段は当業者に周知である。例えば、YB−1の局在は、スクリーニング時に染色組織切片で容易に検出できる。核内にYB−1が存在する頻度は、局在が細胞周期とは無関係であることを既に示している。細胞周期とは無関係な核内YB−1を検出するための更なる選択肢は、YB−1を染色し、YB−1が核内に局在しているか検出し、そして細胞のフェーズを決定することである。この方法およびYB−1の検出は、YB−1を検出するための上記手段を用いて実行してもよい。これら手段は、当業者周知の方法により検出される。前記のYB−1と特異的に結合し、分析対象サンプル内、特には細胞内のその他構造には結合しない作用物質を用いることにより、これら手段を好適に標識する方法を用いてそれらの局在を、そしてそれらの持つYB−1への特異的結合故にYB−1の局在をも検出そして確立することができる。前記手段を標識する方法は、当業者周知である。
【0198】
本明細書に記述されているウイルスが、それらが本発明のウイルスであっても、またはそれらが本発明に従って用いられるウイルスであっても、疾病、好ましくは腫瘍疾病、より好ましくは腫瘍細胞の少なくとも一部が多重耐性を示す、特にYB1が調節解除されている多剤耐性を示す腫瘍疾病に関連しても用いられることは、本発明の範囲内である。これは、YB1が好ましくは細胞周期と無関係に核の中に存在する細胞および疾病を参照する範囲で、細胞および腫瘍に関連して本明細書に記述されるいずれの他の態様にも当てはまる。
【0199】
以下、本発明を新規特徴、実施態様および利点を示す図面およびサンプルを参照しながら更に説明する。