特許第5873900号(P5873900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5873900ウイルス感染を治療するための医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873900
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】ウイルス感染を治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/341 20060101AFI20160216BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20160216BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20160216BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160216BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   A61K31/341
   A61P31/12
   A61P31/14
   A61P43/00 121
   A61K37/66 G
【請求項の数】11
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-136125(P2014-136125)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-129108(P2015-129108A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2014年7月1日
(31)【優先権主張番号】103100064
(32)【優先日】2014年1月2日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】林 振文
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 安正
(72)【発明者】
【氏名】連 金城
(72)【発明者】
【氏名】平 家鳳
(72)【発明者】
【氏名】李 詩▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 奕潔
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/075596(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/180140(WO,A1)
【文献】 特表2009−536622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物、前記式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩およびこれらの組み合わせから構成される群から選択される、有効量のアニリン誘導体を含み、
【化1】

はC1からCのアルキル基であり、RHであり、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたはハロゲンであり、およびは、それぞれ独立して、H、ハロゲンまたはC1からCのアルキル基である、
ウイルス感染を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
前記アニリン誘導体は、エチル2−(3’,5’−ジメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレートである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ウイルスに抑制されたヤヌスキナーゼシグナル伝達兼転写活性化因子(JAK−STAT)シグナル伝達経路の活性化、ウイルスに抑制されたプロテインキナーゼAkT−哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(AkT−mTOR)シグナル伝達経路の活性化、ウイルスに抑制された細胞外シグナル制御キナーゼcAMP応答配列結合タンパク質(ERK−CREB)シグナル伝達経路の活性化、ウイルス感染細胞におけるインターフェロンの発現の促進、ウイルス感染細胞におけるインターフェロン受容体の発現の促進、ウイルス感染細胞におけるインターフェロン制御因子の発現の促進、ウイルス感染細胞におけるプロテインキナーゼR(PKR)の発現の促進、および、ウイルス感染細胞におけるオリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)の発現の促進のうちの、少なくとも1つのためのものである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ウイルス感染細胞におけるインターフェロンの発現の促進、ウイルス感染細胞におけるインターフェロン受容体の発現の促進、および、ウイルス感染細胞におけるインターフェロン制御因子の発現の促進のうちの、少なくとも1つのためのものであり、
前記インターフェロンはインターフェロン−α(IFN−α)およびインターフェロン−β(IFN−β)の少なくとも1つであり、前記インターフェロン受容体はインターフェロン−α受容体−1(IFNAR1)であり、前記インターフェロン制御因子はインターフェロン制御因子−3(IRF−3)およびインターフェロン制御因子−7(IRF−7)の少なくとも1つである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ウイルス誘発性アポトーシスの阻害、ウイルス誘発性細胞変性効果の阻害、および、ウイルス感染細胞におけるウイルス複製の阻害のうちの、少なくとも1つのためのものである、請求項1ないしのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ウイルスは、フラビウイルス属ウイルスおよびエンテロウイルス属ウイルスの少なくとも1つである、請求項1ないしのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ウイルスは、日本脳炎ウイルス(JEV)、デングウイルス(DEN)およびエンテロウイルス71型(EV71)の少なくとも1つである、請求項1ないしのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記デングウイルスは、デングウイルス2型(DEN2)である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
有効量のインターフェロンをさらに含む、請求項1ないしのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
エンテロウイルス感染を治療するためのものであり、
前記インターフェロンは、インターフェロン−α(IFN−α)およびインターフェロン−β(IFN−β)の少なくとも1つである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
エンテロウイルス71型(EV71)感染を治療するためのものであり、
前記インターフェロンは、インターフェロン−β(IFN−β)である、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニリン誘導体を含む、ウイルス感染を治療するための医薬組成物に関する。特に、本発明は、ウイルス誘発性アポトーシスを阻害し、ウイルス誘発性細胞変性効果を阻害し、および/または、ウイルス感染細胞におけるウイルス複製を阻害するための医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、ウイルス感染の治療における相乗効果を提供するために、インターフェロンをさらに含むか、またはインターフェロンと組み合わせて使用されてもよい。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは細胞ではなく、遺伝物質(DNAまたはRNA)およびタンパク膜から構成されている(いくつかのウイルスは、宿主細胞の表面に到達した場合には、タンパク膜を取り囲む脂質のエンベロープを形成することができる)。ウイルスは保護コートによって被覆された、DNAまたはRNAのセグメントである。ウイルスは、その単純な構成のために自身により複製することはできない。ウイルス複製は、感染メカニズムを通した宿主細胞のシステムを利用することによって、種々のウイルスのタンパク質およびウイルスの核酸を合成し、構築するように行われる。ウイルス感染細胞を通したウイルスの複製周期は、次の約6段階に分類することができる。付着、侵入、脱殻、合成、構築および放出である。
【0003】
同属におけるウイルスの遺伝子構造および複製周期は非常に類似していることが知られている。例えば、フラビウイルス属ウイルスのゲノムは、プラス一本鎖RNAである。全ゲノムは約11キロ塩基(kb)長である。ゲノムにおける遺伝子配列は、高い保存性を有する。例えば、ゲノムRNAの5’末端にI型キャップを有し、ゲノムRNAの3’末端はポリA端部を欠いており、ゲノムRNAの5’末端および3’末端のそれぞれは非翻訳領域(UTR)を有している。これらは、高く保存された二次構造を形成することができる。2つのUTR間には、大きなオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。当該ORFは、順次、3つの構造タンパク質(すなわち、コアタンパク質、プレ膜タンパク質、エンベロープタンパク質)、ならびに7つの非構造タンパク質、NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4BおよびNS5を生成するポリペプチドへと翻訳され得る。フラビウイルス属ウイルスのウイルス粒子は、受容体媒介エンドサイトーシスを通って宿主細胞へと入るために、そのエンベロープタンパク質により宿主細胞上の受容体へと結合することができる。その後、当該ウイルス粒子は、宿主細胞のエンドソームと膜融合を行うために、エンドソームの酸性化によりエンベロープタンパク質の構造を変化させる。それによって、宿主細胞のサイトゾルの中へウイルスRNAゲノムが放出される。そして、ウイルスゲノムのタンパク質翻訳は、宿主細胞内において直接的に行われ、小胞体(ER)におけるシグナルペプチターゼおよびウイルスNS2BNS3プロテアーゼによって分断される長鎖ポリタンパク質を生成する。その結果、前述した3つの構造タンパク質および7つの非構造タンパク質が生じる。ウイルス粒子を形成するように、ウイルスゲノムは複製され、ERにおいて集まってきたウイルスタンパク質で構築される。その後、ウイルス粒子はゴルジ体へと輸送され、エキソサイトーシスを通してウイルス感染細胞から放出される。
【0004】
エンテロウイルス属ウイルスは、プラス一本鎖RNAである。全ゲノム長は、約7.4kbである。ゲノムにおける遺伝子配列は、高い保存性を有する。例えば、VPg−5’−NCR、VP0(VP4、VP2)、VP3、VP1、VP2A、VP2B、VP2C、VP3A、VP3B、VP3C、VP3Dおよび3’末端へ連結されているポリA端部は、ゲノムRNAの5’末端から3’末端へと、順次、存在している。VP0は、分離前におけるVP4およびVP2の前駆体である。VP1、VP2、VP3およびVP4はエンテロウイルスの構造タンパク質であり、宿主細胞におけるウイルス感染の特性に関するものである。これらの構造タンパク質のうち、VP1、VP2およびVP3はウイルスのカプシドを構成するための最初のタンパク質であり、VP1は細胞受容体の結合にも関連するものである。エンテロウイルス属ウイルスのウイルス粒子が、宿主細胞の表面上の受容体に結合した場合、ウイルスタンパク質VP1のN末端が構造的に変化する。VP1はウイルス粒子の内側から外側へと移動し、宿主細胞の受容体とチャネルを形成する。それによって、ウイルスのゲノムRNAを導き、宿主細胞の中へと入るようにする。そして、ウイルスゲノムRNAは多タンパク質中において翻訳され、VP2A、VP3CおよびVP3CDのようなウイルスタンパク質に分断されて、ウイルス外皮タンパク質およびRNAポリメラーゼを生成し、ウイルスゲノムRNAの複製を達成して感染能を有する新たなウイルス粒子を形成する。
【0005】
ダニ媒介脳炎ウイルス(TBEV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、黄熱病ウイルス(YFV)、日本脳炎ウイルス(JEV)およびデングウイルス(DEN)のような、フラビウイルス属におけるいくつかのウイルスは、人体において深刻な病気を引き起こすことが知られている。日本脳炎ウイルスまたはデングウイルスによって引き起こされる病気は、最も深刻である。日本脳炎ウイルスは、蚊に刺されることによって感染する。そして、日本脳炎ウイルス感染は、重篤な脳の髄膜炎(“日本脳炎”とも示される)を引き起こし、脳、脊髄および髄膜の損傷へと導く。日本脳炎ウイルスの感染は、通常、夏において発生し、シベリア、インド、中国、台湾、日本、韓国、フィリピンおよびタイを含む、東南アジアにおいて流行するものである。毎年、約30,000から50,000の確認例が報告されている。台湾における日本脳炎ウイルスの感染は、毎年5月と10月との間に起こり、通常7月においてピークとなる。また、特に、無菌性髄膜炎および呼吸不全のような重篤な状態まで達した場合には、死亡率は、30から70%までの範囲となる。死亡率は、特に、6歳未満の子供と65歳以上の弱い免疫系を有する人との間において、かなり高くなっている。本格的なワクチン接種は、台湾、日本、韓国、タイおよびシンガポールにおいてのみ利用できる。現在までに、治療のために使用できる特定の薬剤はない。補助療法に加えて、クリニックにおいて使用されている唯一の治療は、抗ウイルス剤、リバビリンおよびインターフェロンを組み合わせているものである。しかし、予後は良くなく、そのような治療は通常深刻な後遺症をもたらす。
【0006】
デングウイルスは、抗原性において4つの異なる血清型に分類される。1型、2型、3型および4型である。デングウイルスに感染した患者は、高熱(≧38℃)、頭痛、眼窩後部痛、筋肉痛、関節痛および発疹の突然の徴候のような症状を示し、これは“典型的なデング熱”として呼ばれる。さらに、デングウイルスの異なる型に感染した場合には、“出血性デング熱”となる可能性が、より高くなる。前述した典型的なデング熱の症状に加え、出血性デング熱は出血を引き起こす可能性がある。発症率は、特に、15歳未満の子供の間において高い。もし、すぐに治療しなかった場合には、重篤な出血によって引き起こされる過剰な血漿漏出が、損傷または死に至らせる可能性もある。死亡率は、最大で50%となり得る。デング熱は通常暖かいシーズンにおいて起こり(すなわち、5月から10月)、61か国を含む亜熱帯気候での世界全領域(すなわち、北緯25度と南緯25度との間の領域)において流行するものである。約15億人が、デング熱感染の危険の中において居住している。1970年と1980年との間では、毎年、約250,000の出血性デング熱の感染があった。デング熱は1980年代から世界的に広がっていった。現在までにワクチンは使用されておらず、特定の薬剤はなく、唯一の治療は補助療法である。
【0007】
エンテロウイルス属ウイルスは、コクサッキーウイルスA群(CVA)の23の型、コクサッキーウイルスB群(CVB)の6つの型、ポリオウイルスの3つの型、エコーウイルスの30の型、およびエンテロウイルス68型から71型(EV68からEV71)を含む。エンテロウイルスは主に3歳未満の子供に感染し、通常夏および秋において感染する。エンテロウイルス感染者は、手足口病およびヘルパンギーナのような、通常の風邪のような目立たない症状を有し得る。時には、エンテロウイルス感染は、無菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎、心筋炎、麻痺症候群および急性出血性結膜炎のような、特別な臨床症状へとつながり得る可能性もある。1990年から、台湾、香港、中国、日本、マレーシア、シンガポールおよびマカオにおいて、感染例が挙がっている。台湾では、エンテロウイルス感染例が1年中通して見られる。ピークシーズンは、4月と9月との間である。1998年には、EV71およびコクサッキーウイルスA16(CAV16)によって引き起こされた、手足口病およびヘルパンギーナの130,000症例があり、最大の流行となった。ほとんどの症例は5月と7月との間、および9月と11月との間において報告され、400の重篤症例と78の死亡例とを含んでいた。エンテロウイルス感染、特にEV71感染を治療するための特定の薬剤はない。唯一、補助療法が症状に応じて使用されている。台湾において開発されている1つのワクチンが存在するが、まだ臨床試験のII期における状態であり、これは臨床用から少なくとも4から5年かかってしまう。さらに、エンテロウイルスは100以上の型が存在するため、単一のワクチンの使用で、いくつもの種類のエンテロウイルスを治療することが可能かどうかは不明である。さらに、いくつかの製薬会社は、現在、エンテロウイルスを阻害することができる薬剤の調査を行っている工程にある。しかし、これらの薬剤の全てがまだ臨床試験中であり、子供における安全性が十分に評価されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
効果的にウイルス感染を治療するためには、補助療法では不十分なので、薬剤の開発の必要性および緊急性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、本発明の式(I)の化合物が、効果的に、ウイルス誘発性アポトーシスを阻害し、ウイルス誘発性細胞変性効果を阻害し、およびウイルス感染細胞におけるウイルス複製を阻害することができるということ見出した。さらに、式(I)の化合物は、ウイルス感染の治療における相乗効果を生み出すために、インターフェロンと組み合わせて同時または順次に使用することができる。特に、本発明の式(I)の化合物は、フラビウイルス属ウイルスおよびエンテロウイルス属ウイルスにおいて、とりわけ日本脳炎ウイルス、デングウイルスおよび/またはエンテロウイルス71型において、前述した効果を生ずる。
【0010】
本発明の目的は、ウイルス感染を治療するための薬剤の製造において、アニリン誘導体の使用を提供することである。当該アニリン誘導体は、式(I)の化合物、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩、式(I)の化合物の薬学的に許容可能なエステルおよびこれらの組み合わせから構成される群から選択される。
【0011】
【化1】
【0012】
はC1からC10のアルキル基であり、RはHまたはC1からC4のアルキル基であり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、H、−OH、ハロゲン、C1からC10のアルキル基、C1からC10のアルコキシル基または(C1からC10のアルキレン基)−O−O−(C1からC10のアルキル基)である。好ましくは、RはC1からC6のアルキル基であり、RはHであり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、H、−OH、ハロゲン、C1からC4のアルキル基、C1からC4のアルコキシル基または(C1からC4のアルキレン基)−O−O−(C1からC6のアルキル基)である。さらに好ましくは、RはC1からC6のアルキル基であり、RはHであり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、HまたはC1からC4のアルキル基である。
【0013】
本発明の別の目的は、対象におけるウイルス感染を治療するための方法を提供することである。当該方法は、必要において対象に有効量の前述のアニリン誘導体を投与することを含む。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、ウイルス感染を治療するための医薬組成物を提供することである。当該医薬組成物は、前述のアニリン誘導体を含む。
【0015】
詳細な技術および本発明のために実施された好ましい実施の形態は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図面と共に後の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】実施例1における、化合物1により処置されたBHK−21細胞の生存率を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は細胞生存率を表し、横軸は化合物1の濃度を表す。
図1B】実施例1における、化合物1により処置されたTE671細胞の生存率を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は細胞生存率を表し、横軸は化合物1の濃度を表す。
図1C】実施例1における、化合物1により処置されたRD細胞の生存率を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は細胞生存率を表し、横軸は化合物1の濃度を表す。
図2A】化合物1が、BHK−21細胞のJEV T1P1感染誘発性細胞変性効果を阻害していることを示す撮影図である。
図2B】化合物1が、TE671細胞のJEV T1P1感染誘発性細胞変性効果を阻害していることを示す撮影図である。
図3A】初期アポトーシスへと入るBHK−21細胞の割合を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は細胞数の割合を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図3B】後期アポトーシスへと入るBHK−21細胞の割合を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は細胞数の割合を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図4A】初期アポトーシスへと入るTE671細胞の割合を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は細胞数の割合を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図4B】後期アポトーシスへと入るTE671細胞の割合を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は細胞数の割合を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図5A】48時間においてJEV T1P1を感染させたBHK−21細胞中のJEV T1P1の複製を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸はウイルス力価を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図5B】72時間においてJEV T1P1を感染させたBHK−21細胞中のJEV T1P1の複製を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸はウイルス力価を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図6A】36時間においてJEV T1P1を感染させたTE671細胞中のJEV T1P1の複製を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸はウイルス力価を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図6B】48時間においてJEV T1P1を感染させたTE671細胞中のJEV T1P1の複製を示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸はウイルス力価を表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図7】ヤヌスキナーゼシグナル伝達兼転写活性化因子(JAK−STAT)シグナル伝達経路関連タンパク質、プロテインキナーゼAkT−哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(AkT−mTOR)シグナル伝達経路関連タンパク質、および、細胞外シグナル制御キナーゼcAMP応答配列結合タンパク質(ERK−CREB)シグナル伝達経路関連タンパク質における、JEV T1P1感染によって抑制されたリン酸化が、化合物1によって活性化することを示しているウェスタンブロッティングの図である(JAK1はヤヌスキナーゼ1を表し、JAK2はヤヌスキナーゼ2を表し、Tyk2はチロシンキナーゼ2を表し、STAT1はシグナル伝達兼転写活性化因子1を表し、mTORは哺乳類ラパマイシン標的タンパク質を表し、ERK1/2は細胞外シグナル制御キナーゼ1/2を表し、CREBはcAMP応答配列結合タンパク質を表し、Tyrはチロシンを表し、Serはセリンを表し、Thrはスレオニンを表す)。
図8A】化合物1がTE671細胞における抗ウイルス遺伝子(PKR)の相対発現レベルを活性化させることを示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は抗ウイルス遺伝子の相対発現レベルを表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図8B】化合物1がTE671細胞における抗ウイルス遺伝子(OAS)の相対発現レベルを活性化させることを示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は抗ウイルス遺伝子の相対発現レベルを表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図8C】化合物1がTE671細胞における抗ウイルス遺伝子(IFN−α)の相対発現レベルを活性化させることを示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は抗ウイルス遺伝子の相対発現レベルを表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図8D】化合物1がTE671細胞における抗ウイルス遺伝子(IFN−β)の相対発現レベルを活性化させることを示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は抗ウイルス遺伝子の相対発現レベルを表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図8E】化合物1がTE671細胞における抗ウイルス遺伝子(IFNAR1)の相対発現レベルを活性化させることを示す統計的棒グラフの図である(p<0.005:推計的有意性、**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は抗ウイルス遺伝子の相対発現レベルを表し、横軸の上段はJEV T1P1感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図9】化合物1がDEN2感染誘発性細胞変性効果を阻害することを示す撮影図である。
図10】化合物1がHyh7細胞におけるDEN2複製を阻害することを示す曲線図であり、縦軸はDEN2 NS1タンパク質発現レベルを表し、横軸は化合物1の濃度を表す。
図11】化合物1がエンテロウイルス感染誘発性細胞変性効果を阻害することを示す撮影図である。
図12A】化合物1により処置されたRD細胞におけるエンテロウイルス複製を示す統計的棒グラフの図である(**p<0.001:推計的有意性)。縦軸はウイルス力価を表し、横軸の上段はEV71感染+(プラス)を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図12B】化合物1により処置されたRD細胞におけるエンテロウイルス複製を示す統計的棒グラフの図である(**p<0.001:推計的有意性)。縦軸は阻害率を表し、横軸の上段はEV71感染+(プラス)を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図13】エンテロウイルス感染誘発性細胞変性効果を阻害する、化合物1とインターフェロンとの組み合わせを示す撮影図である。横軸の上段はEV71感染+(プラス)または−(マイナス)かを表し、横軸の中段はインターフェロン−βの濃度を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
図14】エンテロウイルス複製が化合物1とインターフェロンとの組み合わせにより阻害されることを示す統計的棒グラフの図である(**p<0.001:推計的有意性)。縦軸はウイルス力価を表し、横軸の上段はEV71感染+(プラス)を表し、横軸の中段はインターフェロン−βの濃度を表し、横軸の下段は化合物1の濃度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、詳細における本発明のいくつかの実施の形態について記載する。しかし、本発明の精神から逸脱することなく、本発明は種々の実施の形態において具体化され得るし、本明細書に記載される実施の形態に限定されるべきではない。さらに、本明細書において他に言及のない限り、本明細書において(特に、特許請求の範囲において)用いられる“1”、“当該”および同様の用語は、単数形式および複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。さらに、本明細書において使用されている“有効量”または“治療のための有効量”という用語は、必要において対象に投与される場合、被疑対象における治療されている状態を少なくとも部分的に緩和することができる化合物の量を示している。本明細書において使用されている“対象”という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含む、哺乳動物を示している。
【0018】
他に言及しない限り、本明細書において使用されている“式(I)のアニリン誘導体”という用語は、式(I)のアニリン誘導体、式(I)のアニリン誘導体の薬学的に許容可能な塩、式(I)のアニリン誘導体の薬学的に許容可能なエステルおよびこれらの組み合わせを含む。
【0019】
一般的に、ウイルスに感染した後には、ウイルス感染細胞は、免疫系に関連するシグナル伝達経路を活性化するために、通常インターフェロンを、特にI型インターフェロンを分泌する。当該シグナル伝達経路は、ヤヌスキナーゼシグナル伝達兼転写活性化因子(JAK−STAT)シグナル伝達経路、プロテインキナーゼAkT−哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(AkT−mTOR)シグナル伝達経路、および、細胞外シグナル制御キナーゼcAMP応答配列結合タンパク質(ERK−CREB)シグナル伝達経路を含む。これにより、ウイルス感染細胞に、抗ウイルスタンパク質の生成と、ウイルス侵入から守るための免疫応答の誘導とを促進させる。しかし、ウイルスは、ウイルス感染細胞の遺伝物質を制御するように、自身をウイルス感染細胞のゲノム中に融合させることができ、ウイルス感染細胞の物質および酵素を使用することにより複製のために必要とされる種々のウイルスタンパク質およびウイルス核酸を合成することができる。これは、免疫系シグナル伝達経路の活性化を阻害するようになされており、この結果、ウイルス感染細胞における免疫系による排除を逃れている。
【0020】
本発明者らは、下記の式(I)のアニリン誘導体が、ウイルス誘発性アポトーシスを阻害し、ウイルス誘発性細胞変性効果を阻害し、および/または、ウイルス感染細胞におけるウイルス複製を阻害する機能を有し、ウイルス感染の治療における相乗効果を生み出すために、インターフェロンと組み合わせて同時または順次に使用することができることを見出した。
【0021】
【化2】
【0022】
はC1からC10のアルキル基であり、RはHまたはC1からC4のアルキル基であり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、H、−OH、ハロゲン、C1からC10のアルキル基、C1からC10のアルコキシル基または(C1からC10のアルキレン基)−O−O−(C1からC10のアルキル基)である。
【0023】
従って、本発明はアニリン誘導体の適用を提供する。これには、ウイルス感染を治療するための薬剤の製造におけるアニリン誘導体の使用、ウイルス感染を治療するためにアニリン誘導体を必要とする対象に投与すること、および、アニリン誘導体を含む医薬組成物を提供することが含まれる。当該アニリン誘導体は、式(I)の化合物、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩、式(I)の化合物の薬学的に許容可能なエステルおよびこれらの組み合わせから構成される群から選択される。
【0024】
【化3】
【0025】
はC1からC10のアルキル基であり、RはHまたはC1からC4のアルキル基であり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、H、−OH、ハロゲン、C1からC10のアルキル基、C1からC10のアルコキシル基または(C1からC10のアルキレン基)−O−O−(C1からC10のアルキル基)である。
【0026】
本発明において使用される式(I)のアニリン誘導体は、対応するアニリンの反応から調製することができる。例えば、RがHである場合、式(I)の化合物は以下の反応を通して提供され得る。
【0027】
【化4】
【0028】
上述の合成スキームにより示されているように、乾燥テトラヒドロフラン(THF)中における水素化ナトリウム(NaH)の懸濁液を調製し、所望するアニリン誘導体に対応する置換基Rを有する化合物(A)を当該懸濁液に添加し(例えば、所望するアニリン誘導体におけるRがエチル基である場合、化合物(A)はマロン酸ジエチルである)、その後、環化反応を行って中間化合物(B)を生成させるために、塩化クロロアセチル(ClCHCOCl)を加える(例えば、所望するアニリン誘導体におけるRがエチル基である場合、環化反応の生成物である化合物(B)は、エチル2−エトキシ−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレートである)。次いで、対応しており、所望する式(I)のアニリン誘導体を提供する縮合反応を行うために、任意に置換されたアニリンを加える。
【0029】
好ましくは、本発明において使用されるアニリン誘導体は、式(I)の化合物において、RはC1からC6のアルキル基であり、RはHであり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、H、−OH、ハロゲン、C1からC4のアルキル基、C1からC4のアルコキシル基または(C1からC4のアルキレン基)−O−O−(C1からC6のアルキル基)である。さらに好ましくは、式(I)において、RはC1からC6のアルキル基であり、RはHであり、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、HまたはC1からC4のアルキル基である。
【0030】
本発明において使用される式(I)のアニリン誘導体の実施の形態は、限定はされないが、次の化合物を含む。
(1)エチル2−(3’,5’−ジメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(2)エチル2−(3’−メトキシアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(3)エチル2−(2’−メチル−4’−クロロ−アニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(4)エチル2−(2’−エトキシカルボニルメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(5)エチル2−(3’,4’,5’−トリメトキシアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(6)エチル2−(3’−ヒドロキシアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(7)エチル2−(3’−クロロアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(8)エチル2−(3’,5’−ジメトキシアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;
(9)エチル2−アニリノ−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート;および
(10)エチル2−(3’,4’−ジメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート。
【0031】
本発明のいくつかの実施の形態では、エチル2−(3’,5’−ジメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレートが、式(I)のアニリン誘導体として使用されている。
【0032】
本発明の式(I)のアニリン誘導体が、効果的に、ウイルス誘発性アポトーシスを阻害し、ウイルス誘発性細胞変性効果を阻害し、および/または、ウイルス感染細胞におけるウイルス複製を阻害することができるということが見出された。
【0033】
特に、本発明の式(I)のアニリン誘導体は、ウイルス感染細胞における、ウイルス抑制シグナル伝達経路を効果的に活性化することができる。当該シグナル伝達経路の活性化は、限定はされないが、ウイルス感染細胞におけるウイルス抑制JAK−STATシグナル伝達経路の活性化、ウイルス感染細胞におけるウイルス抑制AkT−mTORシグナル伝達経路の活性化、およびウイルス感染細胞におけるウイルス抑制ERK−CREBシグナル伝達経路の活性化のようなものを含む。
【0034】
さらに、本発明の式(I)のアニリン誘導体は、ウイルス感染細胞における、抗ウイルス遺伝子の発現を効果的に促進することもできる。抗ウイルス遺伝子の例としては、インターフェロン、インターフェロン受容体、インターフェロン制御因子、プロテインキナーゼR(PKR)およびオリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)が挙げられる。インターフェロンの例には、インターフェロン−α(IFN−α)およびインターフェロン−β(IFN−β)が含まれる。インターフェロン受容体の例には、インターフェロン−α受容体−1(IFNAR1)が含まれる。インターフェロン制御因子の例には、インターフェロン調節因子−3(IRF−3)およびインターフェロン調節因子−7(IRF−7)が含まれる。
【0035】
本発明のいくつかの実施の形態では、式(I)のアニリン誘導体は、フラビウイルス属ウイルスによって引き起こされた病気の治療のために使用される。フラビウイルス属におけるウイルスのうち、ダニ媒介脳炎ウイルス(TBEV)、ウエストナイルウイルス(WNV)、黄熱病ウイルス(YFV)、日本脳炎ウイルス(JEV)およびデングウイルス(DEN)のようなウイルスは、今まで人体に重篤な疾患を引き起こしてきた。本発明の式(I)のアニリン誘導体は、日本脳炎ウイルスおよびデングウイルス(特に、デングウイルス2型)によって引き起こされた感染の治療において、とりわけ効果的である。
【0036】
本発明のいくつかの他の実施の形態では、式(I)のアニリン誘導体は、エンテロウイルス属ウイルスによって引き起こされた病気の治療のために使用される。エンテロウイルス属ウイルスは、コクサッキーウイルスA群(CVA)の23の型、コクサッキーウイルスB群(CVB)の6つの型、ポリオウイルスの3つの型、エコーウイルスの30の型、およびエンテロウイルス68型から71型(EV68からEV71)を含む。本発明の式(I)のアニリン誘導体は、特に、エンテロウイルス71型(EV71)の治療に効果的である。
【0037】
ウイルス感染を治療するために、本発明の式(I)のアニリン誘導体は、相乗効果を生み出すように、インターフェロンと組み合わせて同時または順次に使用されてもよい。インターフェロンの例としては、限定されないが、IFN−αおよびIFN−βを含む。本発明の1つの実施の形態では、式(I)のアニリン誘導体は、IFN−βと組み合わせて同時に使用される。前述した相乗作用は、エンテロウイルス感染の治療において、特にEV71感染の治療において、顕著に効果的である。
【0038】
本発明の式(I)のアニリン誘導体は、ウイルス感染を治療するための医薬組成物を提供するために、または、ウイルス感染を治療するための薬剤を製造するために、使用され得る。特に、医薬組成物または薬剤は、前述したウイルスの感染を治療するためのものである。医薬組成物または薬剤は、任意の形態において製造することが可能であり、任意の適切な形態において投与され得る。例えば、薬剤は、経口、皮下、鼻腔内または静脈により必要とする対象に投与することができるが、これらに限定されない。形態および目的に応じて、医薬組成物および薬剤は、薬学的に許容可能なキャリアをさらに含むこともできる。
【0039】
経口投与の場合、本発明の式(I)のアニリン誘導体を使用することにより提供される医薬組成物、または製造される薬剤は、式(I)のアニリン誘導体の所望される活性に悪影響を与えないと考えられる、薬学的に許容可能なキャリアを含み得る。キャリアは、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、酸化防止剤、結合剤、潤滑剤および水分吸収剤等のようなものを含む。医薬組成物または薬剤は、タブレット、カプセル、顆粒、粉末、流体抽出液、溶液、シロップ、懸濁液、乳剤およびチンキ剤等のような、経口投与のための任意の形態において提供され得る。
【0040】
皮下または静脈投与の場合、本発明の式(I)のアニリン誘導体を使用することにより提供される医薬組成物、または製造される薬剤は、等張液、生理食塩緩衝液(例えば、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液)、可溶化剤、乳化剤および他のキャリア等のような、1または複数の組成物を含んでもよい。これは、静脈注射剤、エマルジョン静脈注射剤、粉末注射剤、懸濁液注射剤および粉末懸濁液注射剤等のような、医薬組成物または薬剤を提供するためである。
【0041】
任意において、本発明の式(I)のアニリン誘導体を使用することにより提供される医薬組成物、または製造される薬剤は、結果物としての医薬組成物または薬剤の味および外観を向上させるために、香味剤、トナーおよび着色剤等のような他の添加物を含んでもよい。また、医薬組成物または薬剤の保存性を改善するために、適切な量の防腐剤、保存剤、消毒剤および抗菌剤等も添加してもよい。さらに、医薬組成物または薬剤は、当該医薬組成物または薬剤の効能を増大させるため、もしくは当該医薬組成物または薬剤の適応柔軟性および順応性を増加させるために、1または複数の他の活性成分を含んでもよく、または、1または複数の他の活性成分を含む薬剤と組み合わせて使用されてもよい。しかし、これは、当該他の活性成分が、式(I)のアニリン誘導体の所望される効果に悪影響を及ぼさない場合に限る。例えば、当該活性成分は、インターフェロン(例えばIFN−αまたはIFN−β)、酸化防止剤(例えばビタミンE)または免疫調節因子等が挙げられる。本発明の1つの実施の形態では、エンテロウイルス感染を治療するための医薬組成物または薬剤において、さらに、インターフェロンが含まれる。例えば、EV71感染の治療のための医薬組成物または薬剤において、さらに、IFN−βが含まれる。
【0042】
本発明の式(I)のアニリン誘導体を使用することにより提供される医薬組成物、または製造される薬剤は、対象の必要性に応じて、1日に1回、1日に数回または数日に1回のような、様々な投与頻度において適用することができる。例えば、日本脳炎ウイルス感染を治療するために人体に適用される場合、医薬組成物または薬剤の投薬量は、1日に、約15mg(式(I)の化合物として)/kg−体重から、約35mg(式(I)の化合物として)/kg−体重である。好ましくは、1日に、約20mg(式(I)の化合物として)/kg−体重から、約25mg(式(I)の化合物として)/kg−体重である。ここで、“mg/kg−体重”という用語は、治療される対象のkg体重毎において必要とされる量を意味する。しかし、重篤な状態を有する患者には、実践的な要求に応じて、投薬量を数倍または数十倍に増加させることができる。例えば、ウイルス感染治療の薬剤を製造するための、エチル2−(3’,5’−ジメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレートの使用において、薬剤の投薬量は、約25mg(エチル2−(3’,5’−ジメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレートとして)/kg−体重となり得る。
【0043】
本発明は、必要としている対象におけるウイルス感染を治療するための方法をも提供する。当該方法は、式(I)の化合物、式(I)の化合物の薬学的に許容可能な塩、式(I)の化合物の薬学的に許容可能なエステルおよびこれらの組み合わせから構成される群から選択される有効量のアニリン誘導体を、対象へ投与することを含む。アニリン誘導体、ならびにそれらを投与する際の形態および量の選択については、上記に沿った内容と同様である。
【0044】
本発明は、さらに、以下の特定の実施例の詳細において説明される。しかし、以下の実施例は、本発明を説明するためのみに提供されるものにすぎず、それにより本発明の範囲は限定されない。
【実施例】
【0045】
(実施例1)式(I)の化合物の調製
(A)2−(3’,5’−ジメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート(化合物1)の合成
乾燥THF(40ml)中においてNaHの懸濁液(60%、8.0g、0.2モル)を調製し、マロン酸ジエチル(32.0g、0.2モル)およびTHF(50ml)を混合したものを当該懸濁液中において滴下して加えて、混合溶液を準備した。その後、当該混合溶液を10から12℃へと冷却した。次いで、THF(100ml)中のClCHCOCl(11.3g、0.1モル)の溶液を、当該混合溶液に滴下して加えた。その後、混合溶液を、10から12℃の低温度下において1時間保ち、次いで、温水(40から45℃)によって1時間温め、そして10から12℃に冷却した。その後、THF(50ml)中の3,5−ジメチルアニリン(12.1g、0.1モル)の溶液を、上述した混合溶液に滴下して加え、室温下において1時間攪拌し、水浴上において数時間加熱した。得られた反応溶液の反応が完了しているかどうかの確認は、TLCによって調べた。その後、おおよそのTHFを取り除くように反応溶液を減圧濃縮し、残留物を得た。当該残留物は、黄色の粘性物質である。次いで、黄色の粘性物質をフラスコ内に入れて、冷水(600ml)およびn−ヘキサン(300ml)をその中に注いだ。フラスコを激しく振とうさせると、沈殿物が観察された。当該沈殿物を、ブフナー漏斗により濾過および回収し、n−ヘキサン(100ml)および少量のエタノールのそれぞれにより一度洗浄した。その後、得られた残留物を加熱し、125mlのエタノール中において溶解させた。そして、溶解していない不純物を取り除くために、まだ熱いうちに、当該溶液を濾過した。当該濾過では、結晶化が起こるまで、そのまま放置しておいた。その後、結晶を回収し、エタノールによって再結晶化させた。21.74gの結晶ブロックが得られた。生産率は79%であり、結晶の融点は144から147℃の範囲であった。光学スペクトルのデータは次の通りであった。MS(m/z):275(M),IR(KBr disc)cm−1:3251.5(−NH−),1708.6(C=O),1662.8(C−CO−OEt);UVλmaxnm(CHCl)(logε):283(4.45);H−NMR(200MHz,CDCl)δ:1.240(3H,t,J=7.0Hz,H−2’’),2.256(6H,s,C3’−C,C5’−C),4.202(2H,q,J=7.0Hz,H−1’’),4.67(2H,s,H−5),6.88(1H,s,H−4’),7.05(2H,s,H−2’,H−6’),10.127(1H,s,NH);13C−NMR(200MHz,DMSO−d)δ:14.62(C−2’’),21.04(3’−,5’−),59.41(C−1’’),75.41(C−5),86.85(C−3),120.58(C−2’,C−6’),127.73(C−4’),135.03(C−1’),135.03(C−3’,C−5’),164.32(C−2),177.25(C−3’’),188.65(C−4)。
【0046】
(B)エチル2−(3’−メトキシアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート(化合物2)の合成
化合物1の調製手順において、3’,5’−ジメチルアニリンを、3’−メトキシアニリン(10.71g、0.1モル)に置き換えて調製した。21.6gの白色針状結晶が得られた。生産率は78%であり、結晶の融点は140.7℃であった。光学スペクトルのデータは次の通りであった。MS(m/z,%):278(M+1,9.12),277(M,53.04),231(M−46,100);IR(KBr disc)cm−1:3282(−NH−),1703.14(C=O),1662.47(C−CO−OEt);UVλmaxnm(MeOH)(logε):283.0(4.218);H−NMR(200MHz,CDCl)δ:1.32(3H,t,J=6.9Hz,H−2’’),3.75(3H,s,3’−OC),4.30(2H,q,J=6.9Hz,H−1’’),4.61(2H,s,H−5),6.7〜7.25(4H,m,H−2’,H−4’,H−5’,H−6’),10.2(1H,s,−N−);13C−NMR(200MHz,CDCl)δ:14.22(C−2’’),55.15(3’−O),60.28(C−1’’),75.21(C−5),87.39(C−3),107.15(C−2’),111.08(C−4’),113.24(C−6’),129.96(C−5’),135.62(C−1’),160.05(C−3’),165.26(C−2),177.34(C−3’’),188.12(C−4)。
【0047】
(C)エチル2−(2’−メチル−4’−クロロ−アニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート(化合物3)の合成
化合物1の調製手順において、3’,5’−ジメチルアニリンを、2’−メチル−4’−クロロ−アニリン(10.71g、0.1モル)に置き換えて調製した。18.55gの白色結晶が得られた。結晶の融点は118から119℃の範囲であった。光学スペクトルのデータは次の通りであった。MS(m/z):262(M+1,8.81),261(M,40.95);IR(KBr disc)cm−1:3169.35(−NH−),1703.62(C=O),1651.96(C−CO−OEt);UVλmaxnm(MeOH)(logε):294.5(4.1717);H−NMR(200MHz,DMSO−d)δ:1.245(3H,t,J=7Hz,H−2’’),2.29(3H,s,2’−CH),4.035(2H,q,J=7Hz,H−1’’),4.62(2H,s,H−2),7.208〜7.447(4H,m,H−3’,H−4’,H−5’,H−6’),10.15(1H,s,−NH−);13C−NMR(200MHz,DMSO−d)δ:14.69(C−2’’),17.65(2’−),59.32(C−1’’),75.24(C−5),86.67(C−3),125.46(C−6’),126.77(C−4’),127.27(C−5’),130.68(C−3’),132.68(C−2’),133.92(C−1’),164.28(C−2),177.60(C−3’’),188.81(C−4)。
【0048】
(D)エチル2−(2’−エトキシカルボニルメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレート(化合物4)の合成
【0049】
(a)エチル2−(2’−アミノフェニル)アセテートの調製
2−(2’−ニトロフェニル)酢酸(18.1g、0.1モル)を95%エタノール溶液(200ml)中に溶解し、8℃の低温度下を保ち、混合溶液を調製するように98%HCl(20ml)をゆっくりとその中へ滴下して加えた。当該混合溶液を1時間攪拌し、加熱し、水浴上で4時間還流し、その後室温下において1から2日間攪拌した。得られた反応溶液の反応が完了しているかどうかの確認は、TLCによって調べた。その後、エタノール溶液を取り除くように、反応溶液を減圧濃縮した。残留物にゆっくりと冷水を加え、CHClによって、何回かにわたって抽出した。得られた抽出物を、乾燥MgSOを添加することにより乾燥させ、CHClを取り除くために減圧濃縮し、大きい黄色の凝塊を得た。これは、2−(2’−ニトロフェニル)アセテート(16.9g、生産率81%)である。
【0050】
2−(2’−ニトロフェニル)アセテートを、50mlのエタノールおよび触媒としての10%パラジウム/炭素混合物(1.0g)と共に、強化ガラスフラスコ内に注いだ。さらに、当該反応溶液を、水素添加のための水添器内に配置した。得られた反応溶液の反応が完了しているかどうかの確認は、TLCによって調べた。反応完了後、パラジウム/炭素混合物を取り除くために、反応溶液を濾過し、エタノールが取り除かれるように減圧濃縮を行った。そして、黄褐色の粘性の液体である、エチル2−(2’−アミノフェニル)アセテートを得た。
【0051】
(b)エチル2−(2’−エトキシカルボニルメチルアニリノ)−4−オキソ−4,5−ジヒドロフラン−3−カルボキシレートの調製
乾燥THF(40ml)中においてNaHの懸濁液(60%、8.0g、0.2モル)を調製し、マロン酸ジエチル(32.0g、0.2モル)およびTHF(50ml)を混合したものを当該懸濁液中においてゆっくりと加えて、混合溶液を準備した。その後、混合溶液を10から12℃へと冷却し、THF(100ml)中のClCHCOCl(11.3g、0.1モル)の溶液を、当該混合溶液に滴下して加えた。そして、混合溶液を10から12℃の低温度下において1時間保ち、温水(40から45℃)によって約1時間温め、次いで10から12℃に冷却した。その後、THF(50ml)中における、ステップ(a)において調製されたエチル2−(2’−アミノフェニル)アセテート(0.1モル)の溶液を、前述の反応溶液に滴下して加え、室温下において1時間攪拌し、水浴上において数時間熱した。得られた反応溶液の反応が完了しているかどうかの確認は、TLCによって調べた。その後、おおよそのTHFを取り除くように、反応溶液を減圧濃縮した。減圧濃縮フラスコ内には、冷水(600ml)を注いだ。そして、減圧濃縮フラスコ内における反応溶液を、CHClによって何回かにわたって抽出した。得られた抽出物を、水によって洗浄し、乾燥MgSOにより乾燥させ、CHClを取り除くために減圧濃縮を行った。濃縮された溶液は、室温下において結晶化していた。そして、エタノールによって当該結晶を回収および再結晶化させ、13.66gの白色針状結晶を得た。生産率は41%であり、結晶の融点は91.2℃であった。光学スペクトルのデータは次の通りであった。MS(m/z,%):332.8(M,35.85),333.8(M+1,7.73);IR(KBr disc)cm−1:3121.86(−NH−),1737.28(C8’=O),1698.3(C=O),1664.19(C−CO−OEt);UVλmaxnm(MeOH)(logε):291.0(3.825);H−NMR(200MHz,DMSO−d)δ:1.176(3H,t,J=7Hz,H−10’),1.23(3H,t,166J=7Hz,H−2’’),3.763(2H,s,H−7’),4.049(2H,q,J=7Hz,H−9’),4.192(2H,q,J=7Hz,H−2’’),4.573(2H,s,H−5),7.321〜7.453(4H,m,H−3’,H−4’,H−5’,H−6’),10.115(1H,s,−NH−);13C−NMR(200MHz,DMSO−d)δ:14.09(C−10’),14.65(C−2’’),37.29(C−7’),56.30(C−1’’),60.96(C−9’),75.17(C−5’),86.93(C−3),126.79(C−6’),127.64(C−4’),128.17(C−2’),130.33(C−3’),131.44(C−5’),134.03(C−1’),164.09(C−2),170.88(C−8’),177.90(C−3’’),188.98(C−4)。
【0052】
(E)他のアニリン誘導体(化合物5から10)の合成
化合物1の調製手順において、3’,5’−ジメチルアニリンを、種々の任意のアニリン置換体(0.1モル)に置き換えて繰り返すと、対応する式(I)の化合物(すなわち、表1において示される化合物5から10)が得られた。
【0053】
【化5】
【0054】
【表1】
【0055】
(実施例2)細胞生存率の実施例(MTTアッセイ)
この実施例では、異なる濃度に調製された化合物1において処置された場合、BHK−21細胞、TE671細胞およびRD細胞の生存率に影響を与えるか否かを、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を使用して調べた。BHK−21細胞、TE671細胞およびRD細胞における化合物1の50%細胞毒性(CC50)濃度も算出した。
【0056】
MTTは可溶性のテトラゾリウム塩であり、生細胞中のミトコンドリアの呼吸鎖に影響を与え得る。コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)およびシトクロムc(cyt c)の反応下では、MTTの構造におけるテトラゾリウムブロミドは代謝還元をおこし、不溶性の紫色の結晶ホルマザンを形成する。従って、(SDHは死細胞からは消え、死細胞ではMTTを還元させることができないため)生成される結晶の量は、直接的に、生細胞の数に正比例する。さらに、ミトコンドリアは環境に対し最も敏感な細胞小器官であり、MTTアッセイは薬剤処置後における細胞生存を分析するためのマーカーとして利用することができる。
【0057】
BHK−21細胞、TE671細胞およびRD細胞を、それぞれ、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む100μlのMEM培地において、96ウェル培養プレートを用いて培養した。培養プレートをインキュベーター(37℃、5%CO)に入れ、一晩インキュベートした。その後、細胞がプレートに付着した後に、培地を取り除いた。次いで、培養プレートのそれぞれのウェルの中に、新たな培地と化合物1を加えた。化合物1の最終濃度は、それぞれ、約0、2.5、25、125、250および500μMであった。さらに、培養プレートをインキュベーター(37℃、5%CO)に入れ、48時間インキュベートした。インキュベート後、培地を取り除き、培養プレートのそれぞれのウェルの中にMTT試薬1を10μl加えて、暗所において4時間静置した。その後、培地を取り除き、培養プレートのそれぞれのウェルの中にMTT試薬2を100μl加えて、暗所において1時間静置した。ELISAによって、570/630nmの波長における、サンプルの吸光度を測定した。結果を図1Aから図1Cに示す。
【0058】
図1Aから図1Cにおいて示されるように、BHK−21細胞における化合物1の50%細胞毒性濃度は、500μMよりも大きかった。さらに、TE671細胞およびRD細胞における化合物1の50%細胞毒性濃度は、それぞれ、189μMおよび222μMであった。これらの結果は、BHK−21細胞、TE671細胞およびRD細胞における化合物1の細胞毒性が、かなり低いということを示している。化合物1は、細胞生存率に悪影響を与えないと考えられる。
【0059】
(実施例3)日本脳炎ウイルス感染誘発性細胞変性効果および誘発性アポトーシスの阻害
(1)BHK−21細胞およびTE671細胞のJEV T1P1感染
BHK−21細胞および/またはTE671細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む1mlのMEM培地において、別々に、24ウェル培養プレートを用いて培養した。細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)に入れ一晩インキュベートし、細胞がプレートに付着するのを待って、培地を取り除いた。次いで、培養プレートのそれぞれのウェルの中に、2%のFBSを含む新しいMEM培地を同時に加えた。その後、当該細胞を、JEV T1P1ウイルス株に感染させた。なお、BHK−21細胞を感染させるために使用されたJEV T1P1の量は、感染多重度(M.O.I)=0.1であり、TE671細胞を感染させるために使用されたJEV T1P1の量は、M.O.I=0.05であった。その後、それぞれ異なるウェルの中において、異なる濃度の化合物1(最終濃度は、それぞれ、0、2.5、25および125μMである)を加え、培養プレートをインキュベーター(37℃、5%CO)内に入れておいた。
【0060】
(2)細胞変性効果試験
上述の実験(1)において示したように、BHK−21細胞をJEV T1P1ウイルス株に48時間および72時間において感染させ、細胞変性効果を撮影によって観察した。また、TE671細胞をJEV T1P1ウイルス株に36時間および48時間において感染させ、細胞変性効果を撮影によって観察した。結果を図2Aおよび図2Bにおいて示す。さらに、両方の細胞のウイルス培養液200μlを、それぞれの時点(すなわち、48時間および72時間)において回収し、それらを、実施例4におけるウイルスプラーク試験に利用するために回収しておいた。
【0061】
図2Aにおいて観察されたBHK−21細胞の撮影図によってわかるように、JEV T1P1に48時間において感染させた場合、BHK−21細胞は、明らかに細胞変性効果を示していた。この細胞変性効果は、化合物1(25μM)によって同時に処置していた場合には、有意に減少していた。さらに、感染時間を72時間まで延長させた場合、BHK−21細胞は著しい細胞変性効果を示していた(または死滅さえもしていた)。一方、この細胞変性効果は、化合物1(125μM)によって同時に処置していた場合には、まだ効果的に阻害されていた。
【0062】
図2Bにおいて観察されたTE671細胞の撮影図によってわかるように、JEV T1P1に36時間において感染させた場合、TE671細胞は、明らかに細胞変性効果を示していた。一方、この細胞変性効果は、化合物1(25μM)によって同時に処置していた場合には阻害されていた。さらに、たとえTE671細胞のJEV T1P1ウイルス株感染時間を48時間に延長した場合でも、細胞を化合物1(25μM)によって処置していた場合には、細胞変性効果を未だ阻害することができていた。
【0063】
(3)アポトーシス試験
BHK−21細胞およびTE671細胞を、JEV T1P1ウイルス株を用いて上述の実験(1)の方法で36時間において感染させた後、PBSで洗浄した。その後、PBSを取り除き、それぞれのウェルの中にトリプシン−EDTA(150μl)を加えた。そして、細胞を37℃のインキュベーターにおいて、3分間インキュベートした。その後、EDTAを中和するために、それぞれのウェルの中に1mlのMEM培地を加えた。当該細胞を15mlチューブの中において回収し、遠心分離(2000rpm、3分間)によって沈殿させた。上清を取り除き、チューブ毎に1mlのPBSを加えて細胞を再懸濁し、その後遠心分離(2000rpm、3分間)によって沈殿させた。そして、上清を取り除き、異なるチューブにおける細胞を、種々のFACSチューブに移し、染色した。非染色グループには、500μlの結合バッファーのみを添加した。アネキシンVのみの染色グループでは、10μlのアネキシンおよび490μlの結合バッファーを添加した。PIのみの染色グループでは、10μlのPIおよび490μlの結合バッファーを添加した。当該細胞を、暗所において5から10分間静置し、フローサイトメトリーにより分析した。結果を、図3A図3B図4Aおよび図4Bにおいて示す。
【0064】
図3Aおよび図3Bにおいて示すように、59.05%のBHK−21細胞が、JEV T1P1に36時間において感染させた後に、後期アポトーシスに入っている。後期アポトーシスに入るBHK−21細胞の割合は、濃度依存的に化合物1によって減少している。この結果は、化合物1が、BHK−21細胞の日本脳炎ウイルス感染誘発性細胞変性効果を阻害する機能を有することを示している。
【0065】
さらに、図4Aおよび図4Bにおいて示すように、20.1%のTE671細胞がJEV T1P1に36時間において感染させた後に、後期アポトーシスに入っており、125μlの化合物1を用いて処置することによって、後期アポトーシスに入るTE671細胞の割合を4.7%にまで減少させていた。この結果は、化合物1が、TE671細胞の日本脳炎ウイルス感染誘発性細胞変性効果を阻害する機能を有することを示している。
【0066】
(実施例4)日本脳炎ウイルス複製の阻害(ウイルスプラーク試験)
BHK−21細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む2mlのMEM培地において、6ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞を、インキュベーター(37℃、5%CO)に入れ一晩インキュベートし、細胞がプレートに付着するのを待って培地を取り除いた。その後、上述した実施例3の実験(2)において回収しておいて10倍に希釈した上清(48および72時間)200μlを、それぞれのウェルの中に添加した。細胞を、インキュベーター(37℃、5%CO)においてインキュベートし、全ての細胞が上清によって覆われるように、15分毎に培養プレートを穏やかに軽くたたいておいた。1時間のインキュベート後、培地を取り除いた。その後、2%のFBSを含む新しいMEM培地(3ml)をそれぞれのウェルの中に加えて、細胞を3日間インキュベートし、その後培地を取り除いた。次いで、それぞれのウェルの中に、ナフトールブルーブラック染料を加えて、室温下において一晩細胞を染色した。その後、細胞を浄水を用いて洗浄し、ウイルス力価を算出するために、ウイルスプラークをカウントした。結果を図5A図5B図6Aおよび図6Bにおいて示す。
【0067】
図5Aおよび図5Bにおいて示すように、JEV T1P1に感染させたBHK−21細胞を、48時間または72時間において化合物1を用いて処置した後には、BHK−21細胞におけるJEV T1P1の複製は顕著に減少していた。さらに、図6Aおよび図6Bにおいて示すように、JEV T1P1に感染させたTE671細胞を、36時間または48時間において化合物1を用いて処置した後にも、TE671細胞におけるJEV T1P1の複製は顕著に減少していた。これらの結果は、化合物1が日本脳炎ウイルス複製を阻害する機能を有しているということを示している。
【0068】
(実施例5)抗ウイルスメカニズム分析
TE671細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む2mlのMEM培地において、6ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞を、インキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートし、細胞がプレートに付着するのを待って培地を取り除いた。その後、2%のFBSを含む新しい1mlのMEM培地を、同時にそれぞれのウェルの中に加えた。当該細胞を、JEV T1P1ウイルス株を用いて感染させ(M.O.I=0.05)、それぞれの異なるウェルの中に、異なる濃度の化合物1を加えた(最終濃度は、それぞれ、0、2.5、25、125および250μMであった)。次いで、細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)において36時間インキュベートし、上清を取り除き、TE671細胞をPBSを用いて洗浄した。その後、PBSを取り除き、それぞれのウェルの中に150μlのトリプシン−EDTAを加え、37℃のインキュベーターにおいて3分間インキュベートした。そして、EDTAを中和するために、それぞれのウェルの中に1mlのMEM培地を加え、当該細胞を、15mlチューブ内に分けて回収し、遠心分離(2000rpm、3分間)によって沈殿させ、上清を取り除いた。次いで、チューブ毎に1mlのPBSを加えて細胞を再懸濁し、それぞれ1.5mlのマイクロチューブに移し、遠心分離(2000rpm、3分間)によって沈殿させた。その後、上清を取り除き、100μlの放射性免疫沈降バッファー(RIPAバッファー)をそれぞれのウェルの中に添加した。当該細胞を15から30分間4℃において静置して、超音波処理器によって破砕した(レベル3;ON/OFF:2秒/2秒;破砕時間:10秒)。破砕した細胞を遠心分離(2000rpm、3分間)によって沈殿させ、新しいマイクロチューブ内に、上清タンパク質をそれぞれ別々に回収した。次いで、2X SDS−PAGEサンプルローディングバッファー(100μl)を、それぞれのマイクロチューブ内に加えた。そして、当該マイクロチューブを100℃の乾燥浴インキュベーターにおいて5分間熱し、素早く氷上に置き、最後に−20℃において保存しておいた。
【0069】
上記のタンパク質サンプルを、タンパク質電気泳動によって分析した。まず、ガラスプレートおよびゲルアセンブリラックを作製した。所望のゲル濃度に従って調製された分離ゲルをその中へ注ぎ、75%エタノールを使用することにより平坦にプレスした。分離ゲルがポリマー化した後に、エタノールを注ぎ出し、予め調製しておいた4%スタッキングゲルを、その中へと注いだ。その後、サンプルウェルコームを差し込んだ。スタッキングゲルがポリマー化した後、サンプルウェルコームを取り外した。そして、電気泳動装置において、ゲルラックを配置し、1Xランニングバッファーを電気泳動装置内に注いだ。ウェルの中にマーカー(3.5μl)を注入し、他のウェルの中にはそれぞれのタンパク質サンプル10μlを注入し、電気泳動を開始した(電圧:60ボルト(V);時間:30分間)。青色色素が分離ゲルに入り、マーカーが分離するまでは、電圧は120Vとしておいた。電気泳動は、1.5時間続けた。青色色素がゲルの一番下に移動するのを待って、スタッキングゲルを切り出した。次いで、タンパク質転写を行った。
【0070】
予め準備しておいた発泡ゴム、ニトロセルロース膜、3Mろ紙および上記の電気泳動ゲルを、転写バッファー内に浸漬した。その後、1つの発泡ゴム、2つの3Mろ紙、1つのニトロセルロース膜、電気泳動ゲル、2つの3Mろ紙および1つの発泡ゴムを、陽極から陰極へと順に配置した。圧縮することによって、それぞれの層の間における気泡を慎重に取り除いた。電気プレートを密閉し、ウェット転写タンク(Bio−Rad)を入れ、タンパク質の転写を行った(4℃、90V、400mA、90分間)。最終的に、ニトロセルロース膜へタンパク質が転写された後には、ウェスタンブロッティングを行った。当該ニトロセルロース膜を1%のBSAを含むブロックバッファー中に浸漬し、室温下において1から1.5時間振とうした。次いで、一次抗体(抗体の説明書により推奨されている濃度となるように、1%のBSAを含み希釈したもの)を膜上において添加し、反応させるために4℃において一晩振とうした。その後、一次抗体を回収した。当該膜を、シェーカー(振とう器)において3回、それぞれの回において20分間、1X TBSTを用いて洗浄した。そして、二次抗体を膜上において添加し、反応させるために室温下において2時間振とうした。その後、膜をシェーカーにおいて3回、それぞれの回において20分間、1X TBSTを用いて洗浄した。ECLの呈色剤(試薬1:試薬2=1:1)を混合し、膜上において添加した。膜をすぐにカゼイン酸塩に入れて、タンパク質シグナルを暗室においてX線フィルムにより現させた。結果を図7において示す。
【0071】
図7において示すように、TE671細胞がJEV T1P1に感染した後には、TE671細胞における、JAK−STATシグナル伝達経路関連タンパク質、AkT−mTORシグナル伝達経路関連タンパク質、およびERK−CREBシグナル伝達経路関連タンパク質のリン酸化レベルが、顕著に減少していた。JEV T1P1感染誘発性のシグナル伝達経路リン酸化レベルは、化合物1の同時処置によって、濃度依存的に増加していた。この結果は、化合物1は抗ウイルスメカニズムを活性化する機能を有するということを示している。
【0072】
(実施例6)抗ウイルス遺伝子発現の分析
TE671細胞を、当該実験条件に従って、6ウェル培養プレートにおいて培養した。翌日、TE671細胞をJEV T1P1ウイルス株に感染させ(M.O.I=1)、様々な濃度の化合物1(化合物1の最終濃度は、それぞれ、約0または125μMである)を、同時に異なるウェルの中において添加した。そして、細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)に入れて8時間インキュベートし、回収した。当該細胞を、PBSを用いて再懸濁し、遠心分離(2000rpm、5分間)によって沈殿させ、RNAを得るために、Pure Link(商標)RNA Mini Kitによって抽出した。ここで、得られたRNAについて、−20℃での保存を所望する場合、RNAを、後記の逆転写PCR(RT−PCR)ステップを利用してcDNAへと逆転写しておかなければならない。逆転写PCR(RT−PCR)ステップ:i)11μlのRNAをマイクロチューブに注入し、55℃のPCR装置内へと配置し、15分間保つ;ii)1μlのdNTPおよびオリゴdTを添加し、65℃において10分間保つ;iii)2μlのDTTおよび4μlの5X ファーストストランド(第1鎖)バッファーを添加し、42℃において1分間保つ;iv)1μlのスーパースクリプトIVトランスクリプターゼ(転写酵素)を添加し、42℃において62分間保つ;v)反応を停止させるために(すなわち、スーパースクリプトIVトランスクリプターゼの活性を失わせるために)、72℃において15分間保っておく。このステップから得たcDNAは、−20℃において保存され得る。
【0073】
抗ウイルス遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって分析した。cDNA混合物を、次のような量において8流路のマイクロPCRチューブの中に分注した。SYBRグリーン(12.5μl)、フォワードプライマー(1μl)、リバースプライマー(1μl)、MgCl(1μl)、ddHO(4.5μl)およびcDNA(5μl)。そして、このcDNA混合物を、RT−PCR装置内に設置した。反応条件は、次の通りに設定した。i)95℃、15分間;ii)95℃において15秒間、および60℃において1分間。この条件下で、40サイクル行った。そして、各サイクルの蛍光量を、ABIプリズム7500ソフトウェアによって決定した。コントロール(control)グループと比較したそれぞれの遺伝子の相対差は、Ctを使用して、ΔCtおよびΔΔCtを計算した(すなわち、ΔCt=Ct.exp−Ct.control、ΔΔCt=ΔCt.exp−ΔCt.mock)。それによって、2−ΔΔCtを計算することができる。結果を、図8Aから図8Eにおいて示す。
【0074】
図8Aから図8Eにおいて示すように、化合物1の処置によって、JEV T1P1感染TE671細胞における、PKR、OAS、IFN−αおよびインターフェロン受容体の相対遺伝子発現レベルを増加させることができる。この結果は、化合物1がウイルス感染細胞について抗ウイルス遺伝子の発現を促進させる機能を有していることを示している。
【0075】
(実施例7)デングウイルス感染誘発性細胞変性効果の阻害
BHK−21細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む1mlのMEM培地において、24ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートし、細胞がプレートに付着するのを待って、培地を取り除いた。その後、培養プレートのそれぞれのウェルの中に、2%のFBSを含む新しい1mlのMEM培地を同時に加えた。そして、当該細胞をDEN2ウイルス株に感染させ(M.O.I=0.1)、異なるウェルの中に、異なる濃度の化合物1(最終濃度は、それぞれ、0、2.5および25μMである)を加えた。その後、BHK−21細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)において72時間インキュベートし、それらの形態を撮影によって観察した。
【0076】
図9において示すように、72時間においてDEN2を感染させた全てのBHK−21細胞は、細胞変性効果が見られた。しかし、化合物1(25μM)の同時処置によって、細胞変性効果は効果的に阻害されていた。
【0077】
(実施例8)デングウイルス複製の阻害
Huh7細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む1mlのMEM培地において、24ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートし、細胞がプレートに付着するのを待って、培地を取り除いた。その後、培養プレートのそれぞれのウェルの中に、2%のFBSを含む新しい1mlのMEM培地を同時に加えた。そして、当該細胞をDEN2ウイルス株に感染させ(M.O.I=0.5)、異なるウェルの中に、異なる濃度の化合物1(最終濃度は、それぞれ、0、10、50、100および150μMである)を加えた。その後、培養プレートをインキュベーター(37℃、5%CO)内に入れ、そのまま48時間保った。そして、ウイルス培養液の上清を回収した。
【0078】
上記において得られた上清を、ウイルス培養液におけるDEN2 NS1タンパク質レベルを定量するために、抗原補足酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって分析した。まず、96ウェルマイクロ反応プレートのそれぞれのウェルの中にNS1抗体を添加し、4℃において一晩反応させた(200μl/ウェル)。その後、それぞれのウェルをPBSTを用いて3回洗浄した(200μl/回)。1%のBSAを含むブロッキングバッファー(300μl)をそれぞれのウェルの中に添加し、室温下において1時間反応させ、その後ブロッキングバッファーを取り除いた。順次希釈した組み換えNS1タンパク質(rNS1)、および95℃において3分間変性させた上清200μlを、それぞれのウェルの中へ添加した。反応は、室温下において1時間行い、全ての液体を取り除いた。次いで、ビオチンを結合させた抗NS1ウサギポリクローナル抗体をそれぞれのウェルの中に添加し、室温下において1時間反応させた。その後、それぞれのウェルを、200μlのPBSTを用いて3回洗浄した。次いで、ストレプトアビシン−HRPをそれぞれのウェルの中へ添加し(200μl/ウェル)、室温下において20分間反応させた。その後、それぞれのウェルをPBSTを用いて3回洗浄した(200μl/回)。最後に、TMB(200μl/ウェル)を加え、呈色反応のために室温下において10分間静置し、その後反応を停止させるため、HSO(2N、100μl/ウェル)を加えた。DEN2複製を評価するために、それぞれの上清中におけるDEN NS1タンパク質量の読取値を、450nmの波長の吸光度を調べることによって測定した。結果を、図10において示す。
【0079】
図10において示すように、10μlの化合物1で処置することによって、DEN2 NS1タンパク質レベルは減少している。この結果は、化合物1がウイルス感染細胞におけるデングウイルス複製を効果的に減少させることができるということを示している。
【0080】
(実施例9)エンテロウイルス感染誘発性細胞変性効果の阻害
RD細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む1mlのMEM培地において、24ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞を、インキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートした。培地を取り除き、その後、それぞれのウェルの中に、2%のFBSを含む新しい1mlのMEM培地を同時に加えた。RD細胞をEV71ウイルス株に感染させ(M.O.I=0.1)、異なるウェルの中に、異なる濃度の化合物1(最終濃度は、それぞれ、0、2.5、25および125μMである)を加えた。その後、当該RD細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)内において36時間インキュベートし、それらの形態を撮影によって観察した。
【0081】
図11において示すように、36時間にわたってEV71を感染させた全てのRD細胞において、細胞変性効果が見られた。しかし、化合物1(125μM)の同時処置によって、細胞変性効果は効果的に阻害されていた。
【0082】
(実施例10)エンテロウイルス複製の阻害
RD細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む1mlのMEM培地において、24ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞を、インキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートした。培地を取り除き、その後、それぞれのウェルの中に、2%のFBSを含む新しい1mlのMEM培地を同時に加えた。RD細胞をEV71ウイルス株に感染させ(M.O.I=0.1)、異なるウェルの中に、異なる濃度の化合物1(最終濃度は、0、2.5、25および125μMである)を加えた。その後、当該RD細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)内において36時間インキュベートし、続くプラーク試験のためにウイルス培養液を回収しておいた。
【0083】
RD細胞を、6ウェル培養プレートを用いて培養し、インキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートした。培地を取り除き、その後、上記において回収したものを10倍に希釈したウイルス培養液200μlを、それぞれのウェルの中に添加した。そして、細胞を1時間において感染させた。それぞれのウェルの中に、3%のアガロースの被覆溶液3mlを加え、細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)において3日間インキュベートし、その後被覆溶液を取り除いた。それぞれのウェルの中にメチルブルーを加え、プレートを室温下において一晩置き、その後、浄水を用いて洗浄し乾燥させた。ウイルス力価および阻害率を算出するために、プラークの数をカウントした。結果を、図12Aおよび図12Bにおいて示す。
【0084】
図12Aおよび図12Bにおいて示すように、2.5、25および125μMの化合物1において処置したRD細胞におけるEV71複製の阻害率は、それぞれ、4.6%、23%および24.6%であった。この結果は、化合物1が宿主細胞におけるエンテロウイルスの複製を大いに減少させることができるということを示している。
【0085】
(実施例11)インターフェロンの同時使用による、エンテロウイルス感染誘発性細胞変性効果の阻害
RD細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む1mlのMEM培地において、24ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞を、インキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートした。その後、細胞がプレートに付着するのを待って、培地を取り除いた。それぞれのウェルの中に、2%のFBSを含む新しい1mlのMEM培地を同時に加えた。RD細胞をEV71ウイルス株に感染させ(M.O.I=0.1)、異なるウェルの中に、異なる濃度の化合物1(最終濃度は、0、2.5、25および125μMである)、および/または、IFN−β(最終濃度は、0および100ユニット/mlである)を、別々に加えた。当該RD細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)内において36時間インキュベートし、その後、それらの形態を撮影によって観察した。結果を、図13および表2において示す。さらに、それぞれのウェルから200μlのウイルス培養液を回収し、実施例12のウイルスプラーク試験を行うために、−80℃において保存しておいた。
【0086】
図13および表2において示すように、36時間においてEV71を感染させた全てのRD細胞は、細胞変性効果が見られ、細胞生存率はわずか5.01%となる。しかし、化合物1および100ユニット/mlのIFN−βの組み合わせの処置によって、細胞変性効果は効果的に阻害され得る。さらに、細胞生存率は、化合物1の量の増加に伴って増加していた。例えば、細胞を125μMの化合物1において処置した場合、83.3%の細胞生存率を提供することができる。この結果は、化合物1およびインターフェロンの組み合わせが、エンテロウイルス感染誘発性細胞変性効果の阻害において、相乗効果を生じ得るということを示している。
【0087】
【表2】
【0088】
(実施例12)インターフェロンを同時に使用することによる、エンテロウイルス複製の阻害
RD細胞を、ウェル当たり3×10の初期細胞密度、ウェル当たり2%のFBSを含む1mlのMEM培地において、24ウェル培養プレートを用いて培養した。当該細胞を、インキュベーター(37℃、5%CO)において一晩インキュベートした。培地を取り除き、その後、上記において回収したものを10倍に希釈したウイルス培養液200μlを、それぞれのウェルの中に添加した。そして、細胞を1時間において感染させた。それぞれのウェルの中に、3%のアガロースの被覆溶液3mlを加え、細胞をインキュベーター(37℃、5%CO)において3日間インキュベートし、その後被覆溶液を取り除いた。それぞれのウェルの中にメチルブルーを加え、プレートを室温下において一晩置き、その後、浄水を用いて洗浄し、乾燥させた。ウイルス力価および阻害率を算出するために、プラークの数をカウントした。結果を、図14において示す。
【0089】
図14において示すように、化合物1(125μM)およびIFN−β(100ユニット/ml)の組み合わせにより引き起こされた、RD細胞におけるEV71複製の阻害率は、78%であった(すなわち、100%×(109.1−108.45)/109.1=78%)。この結果は、化合物1とインターフェロンとの組み合わせは、宿主細胞におけるエンテロウイルスの複製の減少において、相乗効果を生じ得るということを示している。
【0090】
上述の実施例は、本発明の原理および有効性を説明するために使用されるものにすぎず、本発明を限定するようには使用されない。本技術分野における当業者であれば、記載されている本発明の開示および示唆に基づいて、技術的原理およびその精神から逸脱することなく、種々の変形および代替を用いて実施し得るだろう。そのため、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲において規定されているものである。
【0091】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願103100064(出願日2014年1月2日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
図1A
図1B
図1C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図10
図12A
図12B
図14
図2A
図2B
図7
図9
図11
図13