特許第5873941号(P5873941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立パワーソリューションズの特許一覧

<>
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000003
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000004
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000005
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000006
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000007
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000008
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000009
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000010
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000011
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000012
  • 特許5873941-水害解析装置、および、水害解析方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5873941
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】水害解析装置、および、水害解析方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/26 20120101AFI20160216BHJP
   G09B 29/00 20060101ALI20160216BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20160216BHJP
   E02B 1/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   G06Q50/26
   G09B29/00 Z
   G08B31/00 B
   G09B29/00 F
   E02B1/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-33693(P2015-33693)
(22)【出願日】2015年2月24日
【審査請求日】2015年2月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 悟史
(72)【発明者】
【氏名】山保 成仁
【審査官】 松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−083167(JP,A)
【文献】 特開2008−084243(JP,A)
【文献】 特開2010−266347(JP,A)
【文献】 特開2007−255088(JP,A)
【文献】 特開2007−280158(JP,A)
【文献】 特開2006−323569(JP,A)
【文献】 特開2005−128838(JP,A)
【文献】 森川 健太 外4名,人的被害を考慮した新しいリスク評価手法の提案,一般社団法人地理情報システム学会 講演論文集 Vol.23/2014 [CD−ROM] 一般社団法人 地理情報システム学会 第23回 GISA学術研究発表大会,日本,2014年11月 8日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−50/34
E02B 1/00
G08B 31/00
G09B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川に対して破堤する破堤点の位置と、破堤した氾濫流による浸水の判断対象として指定される物件位置とが記憶されている記憶手段と、
前記破堤点から流出して前記物件位置に至る氾濫流の経路を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を表示装置に表示させる氾濫流に沿った断面表示部と、
前記物件位置を通過し、その物件位置の周辺を含む線分を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させる物件周辺の断面表示部と、
前記破堤点から流出して前記物件位置に至る前記氾濫流の経路が存在するか否かを判断し、前記氾濫流の経路が存在する場合には前記氾濫流に沿った断面表示部による断面図の基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させ、前記氾濫流の経路が存在しない場合には前記物件周辺の断面表示部による断面図の基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させる浸水判断部と、を有することを特徴とする
水害解析装置。
【請求項2】
前記氾濫流に沿った断面表示部は、前記破堤点と前記物件位置とを通過する線分を前記氾濫流の経路とすることを特徴とする
請求項1に記載の水害解析装置。
【請求項3】
水害解析装置は、記憶手段と、氾濫流に沿った断面表示部と、物件周辺の断面表示部と、浸水判断部とを有しており、
前記記憶手段には、河川に対して破堤する破堤点の位置と、破堤した氾濫流による浸水の判断対象として指定される物件位置とが記憶されており、
前記氾濫流に沿った断面表示部は、前記破堤点から流出して前記物件位置に至る氾濫流の経路を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を表示装置に表示させ、
前記物件周辺の断面表示部は、前記物件位置を通過し、その物件位置の周辺を含む線分を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させ、
前記浸水判断部は、前記破堤点から流出して前記物件位置に至る前記氾濫流の経路が存在するか否かを判断し、前記氾濫流の経路が存在する場合には前記氾濫流に沿った断面表示部による断面図の基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させ、前記氾濫流の経路が存在しない場合には前記物件周辺の断面表示部による断面図の基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させることを特徴とする
水害解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水害解析装置、および、水害解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨や台風などによる水害が頻発し、効果的な被害軽減策が求められている。被害軽減のためには、水害による被害状況を地域ごとに予め把握する必要がある。このような背景から「氾濫シミュレーション装置」が提案されている。
特許文献1には、ユーザがマウスポインタを操作することにより地図上から指定した直線(基線)に沿って、水位断面図をディスプレイに表示する氾濫シミュレーション装置が記載されている。これにより、地表面に対してどの程度の高さまで水面が浸水しているかを把握することができる。
この氾濫シミュレーション装置に堤防が決壊する地点などを入力すると、浸水深分布が書かれた地図が出力される。その地図の例が、特許文献2の図4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−84243号公報
【特許文献2】特開2006−106124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、特許文献1の手法により、断面図生成手段をソフトウェアとして作成した。しかし、実際の業務への応用を試みたところ、これらの手段がこの業務に適していないことがわかった。その理由は2つあった。
【0005】
第一の理由は、浸水リスクの判断に資する地形断面図を、均質な品質で作成することが難しいことである。従来技術に開示された、ユーザが地図上で指定した2点を通る断面図の生成手法では、ユーザの指定の仕方により結果が大きく異なる。浸水リスクの判断に資する地形断面図を体系的に生成する方法が必要であることが分かった。
【0006】
第二の理由は、評価対象の物件が数万件にもなることである。サプライチェーンマネジメントの高度化に伴い、ある企業に関連する物件は多数あり、企業によっては評価対象物件が数万件にも上りうる。従来技術で開示された、ユーザが画面上で作成する手段ではその評価に膨大な手間を要する。浸水リスクの判断に資する地形断面図を自動的に生成する方法が必要であることが分かった。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、浸水リスクの判断に資する地形断面図を体系的かつ自動的に生成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の水害解析装置は、
川に対して破堤する破堤点の位置と、破堤した氾濫流による浸水の判断対象として指定される物件位置とが記憶されている記憶手段と、
前記破堤点から流出して前記物件位置に至る氾濫流の経路を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を表示装置に表示させる氾濫流に沿った断面表示部と、
前記物件位置を通過し、その物件位置の周辺を含む線分を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させる物件周辺の断面表示部と、
前記破堤点から流出して前記物件位置に至る前記氾濫流の経路が存在するか否かを判断し、前記氾濫流の経路が存在する場合には前記氾濫流に沿った断面表示部による断面図の基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させ、前記氾濫流の経路が存在しない場合には前記物件周辺の断面表示部による断面図の基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させる浸水判断部と、を有することを特徴とする
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、浸水リスクの判断に資する地形断面図を体系的かつ自動的に生成することができる。つまり、対象物件が浸水するか否かを判断するために有用な断面図を、均質な品質で作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、水害解析システムを示す構成図である。図1(b)は、水害解析システムの各処理部および各データを示す構成図である。
図2】本発明の一実施形態に関する水害解析装置の入出力処理を示すシーケンス図である。
図3図3(a)は、物件データを示す構成図である。図3(b)は、水害解析データを示す構成図である。
図4】本発明の一実施形態に関する水害解析用ウィンドウを示す画面図である。
図5】本発明の一実施形態に関する水害解析処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に関する図4の3次元マップに対して、水害解析データが示す各メッシュの水害状況を重ねて立体表示させた画面図である。
図7図7(a)は、氾濫流に沿った断面表示部が流跡線を基線として採用した場合を示す3次元マップの画面図である。図7(b)は、氾濫流に沿った断面表示部が線分(流跡線の近似線)を基線として採用した場合を示す画面図である。
図8図8は、図7(a)の基線に沿った断面図表示を示す画面図である。
図9図9(a)は、破堤点標高よりも物件標高のほうが低い場合の断面図表示を示す画面図である。図9(b)は、破堤点から物件に向かう途中に高台が存在する場合の断面図表示を示す画面図である。
図10図10(a)は、物件周辺の断面表示部が対象物件を通過する線分を基線として採用した場合を示す3次元マップの画面図である。図10(b)は、図10(a)の基線に沿った断面図表示を示す画面図である。
図11図10(b)の断面図に対して水害解析データの結果情報(浸水深時系列データ)を追記した場合を示す画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1(a)は、水害解析システムを示す構成図である。水害解析システムは、入出力部1およびHDD(Hard Disk Drive)3と接続される水害解析装置2によって構成される。
水害解析装置2は、CPU(Central Processing Unit)28と、メモリ29とを備えるPC(Personal Computer)であり、HDD3とアクセス可能に接続されている。
なお、HDD3は、水害解析装置2に内蔵されてもよいし、水害解析装置2の外部に接続されてもよいし、水害解析装置2からネットワーク(図示省略)経由でアクセスできる別の装置に接続されてもよい。
【0013】
メモリ29は、RAM(Random Access Memory)などにより構成される。演算処理は、CPU28によって構成される演算処理装置が、メモリ29上のプログラムを実行することで実現され、その実行時には適宜、他のインタフェース(入出力部1、HDD3)との間でデータの入出力を行う。
ここで、入出力部1は、水害解析装置2との間でデータの入出力を行う機構であり、キーボード12やマウス13などの入力手段と、ディスプレイ11などの出力手段とで構成される。ユーザは、入力手段から命令を入力し、出力手段から結果を確認することができる。
【0014】
図1(b)は、水害解析システムの各処理部および各データを示す構成図である。
以下、水害解析装置2が扱う水害の一例として、河川に対して破堤が発生し、その破堤点から氾濫流が流れる一例を示す。一方、水害解析装置2が扱う水害の対象は河川での水害に限定されず、ダム、ため池、湖沼などの水域にも適用可能である。
メモリ29には、水害処理部20を構成する各処理部(浸水判断部21と、氾濫流に沿った断面表示部22と、物件周辺の断面表示部23)を実現するためのプログラムが読み込まれる。
HDD3には、各処理部の処理対象となる各種データ(水害解析データ31と、物件データ32と、地図データ33と、標高データ34)が記録される。
【0015】
水害解析データ31は、河川の所定箇所(以下、破堤点)から氾濫した水害に関する解析データである。なお、水害解析データ31は、例えば、水害シミュレーションの結果データを用いる。水害(氾濫)シミュレーションの詳細は、例えば、特許文献1や文献「栗城稔, 末次忠司, 海野仁, 田中義人, 小林裕明: 氾濫シミュレーション・マニュアル(案), 土木研究所資料第3400号, 1996.」に記載されている。また、特開2004−197554号公報や特開2005−128838号公報には、入力された位置についての浸水深分布が書かれた地図が出力される氾濫シミュレーション装置が記載されている。
なお、水害シミュレーションの結果データは、ユーザが独自に作成してもよいし、行政機関が作成したデータを参照してもよい。行政機関は、水防法により定められた「浸水想定区域図」を作成するために水害シミュレーションを行っているため、水害シミュレーションの結果データは行政機関に蓄積されている。
【0016】
物件データ32は、水害によって浸水するか否かを判断する対象となる場所(以下、物件とする)のデータであり、例えば、ユーザの自宅の位置情報である。
地図データ33は、ユーザに地形(場所)を理解させるために必要な情報が含まれる。地図データ33に含まれるデータは、例えば、水害のおそれがある河川の位置に加え、道路、川、山頂などの位置、等高線、地名、衛星から撮影した地表面の画像データ、および、緯度経度を示す線などが挙げられる。
【0017】
標高データ34は、一般的にDEM(Digital elevation model)と呼ばれるデータである。すなわち、標高データ34は、地表面に区画された格子とその格子における地表面の標高とを記載した情報である。例えば、標高データ34は、地表面に等間隔で並べた正方形の格子(square grid)、あるいは不規則三角形ネットワーク(triangular irregular network)で表現されている格子における標高の値を含む。
【0018】
浸水判断部21は、物件データ32で指定される対象物件(ユーザの自宅など)が、水害解析データ31で示される水害により浸水するか否かを判断する。
なお、浸水判断部21は、水害解析データ31の代わりに、図8図10などで後記する断面図を目視したユーザから入力される浸水判断を用いてもよい。
【0019】
氾濫流に沿った断面表示部22は、浸水判断部21により物件が浸水すると判断された場合、その氾濫流の経路の断面図(詳細は図8図9)を表示する。なお、表示対象の氾濫流の経路は、例えば、起点を河川の破堤点とし、終点を物件位置とするが、破堤点より上流側を表示してもよいし、物件位置より下流側を表示してもよい。
物件周辺の断面表示部23は、浸水判断部21により物件が浸水しないと判断された場合、物件位置の周辺を含む断面図(詳細は図10)を表示する。
なお、断面図を表示するための素材データとして、地図データ33および標高データ34が読み込まれる。
【0020】
図2は、水害解析装置の入出力処理を示すシーケンス図である。
S11において、水害解析装置2から起動された水害処理部20は、各種データ(水害解析データ31、物件データ32、地図データ33、標高データ34)の読み込み要求(S21)を、HDD3に送信する。S12において、HDD3は、要求された各種データを読み込み、その結果を水害解析装置2に応答する(S22)。
【0021】
S13において、ディスプレイ11は、水害解析装置2から図4のような画面表示の信号(S23)を受け、表示する。この画面表示は、例えば、ウィンドウのGUI(Graphical User Interface)であり、表示された項目を編集可能である。
S14において、水害解析装置2は、キーボード12およびマウス13から送信される指示(S24)を受け付ける。そして、水害解析装置2は、氾濫流に沿った断面表示部22または物件周辺の断面表示部23により生成される断面図の結果(図8図10)をディスプレイ11に送信する(S25)。S15において、ディスプレイ11は、S25で送信された断面図を表示する。
【0022】
図3(a)は、物件データ32を示す構成図である。物件データ32は、物件ごとに、その名称と、位置(緯度、経度、標高)と、断面図集合(第1断面図、第2断面図、…)とを対応づけるデータである。なお、断面図集合は、同じ物件を対象として作成された断面図を束ねたものであり、1枚の断面図を1つの画像ファイル(例えば「A/1a.png」)とする。なお、断面図のデータ形式は、ビットマップの画像ファイルに限定せず、ベクタ形式でもよいし、CSV(Comma-Separated Values)として区切られた数値列を含む断面図を生成するための素材データでもよい。
【0023】
図3(b)は、水害解析データ31を示す構成図である。
水害解析データ31は、条件情報310(水害解析の条件に関する情報)と、結果情報320(水害解析の結果に関する情報)とで構成される。
条件情報310は、水害解析の対象である対象河川312と、その対象河川312からの破堤点情報311に加え、水害解析の対象降雨313と、水害解析で使用するメッシュサイズ314と、水害解析データ31の作成者315とから構成される。なお、作成者315は、例えば、対象河川312を管理する行政機関名である。破堤点情報311は、破堤点ごとの位置情報(中心緯度、経度)と、その決壊幅と、流量の時系列値とを含めて構成される。
水害解析データ31の結果情報320は、メッシュサイズ314で指定された各メッシュごとに、浸水深が最も深くなった瞬間の値を格納した最大浸水深分布と、浸水深の時系列値と、流速の時系列値を含めて構成される。
【0024】
図4は、水害解析用ウィンドウを示す画面図である。このウィンドウは、画面表示の信号(S23)により表示される。水害解析用ウィンドウは、3次元マップ410と、物件リスト420と、物件プロパティ430と、断面図表示ボタン440とを含む。
【0025】
3次元マップ410には、浸水判断の対象である物件A411、物件B412と、河川(XX川)413と、山岳414とが表示されている。物件A411、物件B412は、それぞれ物件データ32から読み込まれて表示される。河川413や山岳414は、地図データ33および標高データ34から読み込まれて、破線で示す標高線とともに表示される。
【0026】
なお、3次元マップ410に表示される地図データ33の縮尺は、氾濫現象の空間スケールと同程度であることが望ましい。したがって典型的な氾濫現象であれば、1/25000以上の大縮尺(詳細な地図)が適当である。また、3次元マップ410に表示される地図データ33の位置、縮尺、および、向きは、それぞれユーザからの操作によって変更可能である。図4は、水害解析データ31の対象河川312が画面に表示されるよう、位置、縮尺、および、向きが調整された状態になっている。水害解析データ31の対象河川312は、図4で河川413として表示されている。
【0027】
物件リスト420には、3次元マップ410に表示される物件が物件データ32から読み込まれてリストアップされる。そして、ユーザからマウスポインタ451により特定の物件の選択(クリック)操作を受け付ける。図4では、物件A(物件A411)が選択されている。なお、物件が選択された後、その物件を表示するように、3次元マップ410に表示される地図データ33の位置、縮尺、および、向きを変更してもよい。
【0028】
物件プロパティ430には、物件リスト420から選択された対象物件、または、3次元マップ410の物件A411を直接クリックして選択された対象物件に関する情報が、物件データ32から読み込まれて表示される。なお、断面図項目は、プルダウンメニュー431となっており、図3(a)で説明した物件データ32の断面図集合から、1つの断面図を今回の表示用に選択できる。
断面図表示ボタン440は、プルダウンメニュー431から選択された断面図を別ウィンドウとして表示させるためのボタンである。マウスポインタ452により断面図表示ボタン440がクリックされることで、水害処理部20に対して選択された対象物件に関する断面図の作成が指示される(S24)。
【0029】
図5は、水害解析処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、水害処理部20によって実行され、図2のS14のうちの断面図の指示を受け(S24)、結果表示(S25)を返信するまでに行われる処理である。
【0030】
S111において、浸水判断部21は、物件リスト420から指定された対象物件に対して、浸水するか否かを判断する。S112において、浸水判断部21は、S111で浸水する(Yes)と判断されたときには、S114に進み、浸水しない(No)と判断されたときには、S113に進む。
【0031】
なお、S111で物件の浸水の可能性と、非浸水の可能性との両方が存在するときには、S113以降の処理と、S114以降の処理とをそれぞれ実行することで、両方の断面図を生成してもよい。
また、浸水判断部21(S111,S112)の判断処理を省略し、S113以降の処理か、S114以降の処理かのいずれか1つの処理だけを実行してもよい。さらに、浸水しないとき(S111,No)には、断面図の作成と表示を省略してもよく、断面図を表示する代わりに、「対象物件の浸水リスクは低いです」などのメッセージを表示するだけでもよい。
【0032】
S113において、物件周辺の断面表示部23は、表示対象となる対象物件の断面図の設定について、その対象物件を通過する線分を断面図の基線とし、その対象物件の周辺を断面図の表示範囲とする。そして、物件周辺の断面表示部23は、直線である基線の方向を、所定方向(例えば、東西に沿った方向と、南北に沿った方向と、北東・南西に沿った方向と、北西・南東に沿った方向の合計4方向)とする(詳細は、図10(a)参照)。
【0033】
S114において、氾濫流に沿った断面表示部22は、指定された基線の生成方法によって分岐する。基線を流跡線とする場合(S114,流跡線)はS115に進み、基線を流跡線の近似線とする場合(S114,近似線)はS116に進む。なお、流跡線とは、流体中にある仮想的な粒子が時間の経過とともに移動する軌跡を示す線である。
【0034】
S115において、氾濫流に沿った断面表示部22は、氾濫流の経路を示す情報(流跡線)を断面図の基線の経路とし、その氾濫流の経路の起点(破堤点)から終点(物件位置)までを断面図の表示範囲とする(詳細は、図7(a)参照)。
S116において、氾濫流に沿った断面表示部22は、氾濫流の経路の起点(破堤点)から終点(物件位置)までの流跡線の近似線として、例えば、起点と終点とをまっすぐに結ぶ線分を断面図の基線の経路とし、その近似線の起点から終点までを断面図の表示範囲とする(詳細は、図7(b)参照)。
【0035】
S117において、氾濫流に沿った断面表示部22は、S115またはS116で計算された断面図の設定(基線と表示範囲)に従った断面図を作成し、その作成結果を画面表示する。または、物件周辺の断面表示部23は、S113で計算された断面図の設定に従った断面図を作成し、その作成結果を画面表示する。
【0036】
図6は、図4の3次元マップ410に対して、水害解析データ31が示す各メッシュの水害状況を重ねて立体表示させた画面図である。破堤点415を原因とする水害416は、物件Aを浸水させるが、物件Bは浸水させない。
なお、図6では、3次元マップ410内に1つの破堤点415を表示させているが、破堤点が複数存在することもある。例えば、「浸水想定区域図」を作成するために行政機関が行う水害シミュレーションでは、多数の破堤点を想定することが一般的である。具体的には、次の方法でシミュレーションを行う。まず、多数の破堤点を想定する(Step 1)。次に、その中の1つの破堤点を選んでシミュレーションを行い水害解析データ31を作成する(Step 2)。Step 2の処理を、Step 1の破堤点1つ1つについて行う(step 3)。したがってこの場合、破堤点が複数存在し、破堤点1つごとに水害解析データ31が存在する。
【0037】
そして、対象物件を浸水させる破堤点が複数存在するときには、水害処理部20は、以下に示すように、表示対象となる破堤点を選択してもよい。
(選択1)対象物件を浸水させるすべての破堤点を選択し(絞り込みを行わず)、選択した破堤点ごとにそれぞれ別々の断面図表示を行う。
(選択2)破堤から物件の浸水までの時間が最も短くなる破堤点(または短い上位複数の破堤点)についての断面図表示を行う。
(選択3)物件の浸水深が最も深くなる破堤点(または深い上位複数の破堤点)についての断面図表示を行う。
【0038】
図7(a)は、S115において、氾濫流に沿った断面表示部22が破堤点415から物件位置411までの流跡線を基線418aとして採用した場合を示す3次元マップ410の画面図である。
氾濫流に沿った断面表示部22は、図6の水害416などに示される図3(b)の水害解析データ31から、以下の式を計算することで、図7(a)の氾濫流の経路の流跡線(基線418a)を求める。
【0039】
【数1】
【0040】
そして、氾濫流に沿った断面表示部22は、対象物件Aを通過(浸水)する流跡線の下流(対象物件A)から上流(破堤点)へと逆流するように辿ることで、氾濫流の経路となる基線418aを特定する。
【0041】
図7(b)は、S116において、氾濫流に沿った断面表示部22が破堤点415から物件位置411までの線分(流跡線の近似線)を基線418bとして採用した場合を示す画面図である。
なお、図7では、基線418a,418bの終点はそれぞれ物件位置411までとなっているが、基線418a,418bを上流あるいは下流に延長して基線に含めてもよい。
【0042】
図8は、図7(a)の基線に沿った断面図表示(S117)を示す画面図である。横軸は、破堤点415から物件Aの位置411までの基線に沿った氾濫流の経路の各位置を示し、縦軸はその各位置における標高(地表面の高さ)を示す。ユーザは、この断面図を参照することで、破堤点よりも物件位置の方が標高が低く、かつ途中に高台など流れを遮る地形がないため、物件位置の浸水のリスクが高いことを把握できる。
【0043】
図9(a)は、図8とは別の対象物件X1について、破堤点標高よりも物件標高のほうが低い場合の断面図表示を示す画面図である。ユーザは、上流の破堤点が高い位置に存在することを把握することで、物件位置への浸水のリスクが高いことを把握できる。
図9(b)は、図8とは別の対象物件X3について、破堤点から物件に向かう途中に高台が存在する場合の断面図表示を示す画面図である。ユーザは、上流の破堤点が高い位置に存在するものの、途中の高台が水害の要因となる氾濫流をせき止める可能性がある。もちろん、断面図以外の経路を通じて流れが物件に到達する可能性もあるため、この図だけで断定することはできないものの、高台の形状が物件位置への浸水のリスクに大きな影響を与えることが分かる。
【0044】
図10(a)は、S113において、物件周辺の断面表示部23が対象物件B412を通過する線分を基線419a,419bとして採用した場合を示す3次元マップ410の画面図である。S113の前処理で浸水しない(S111,No)と判断されたので、破堤点415を考慮せず、対象物件B412に着目すればよい。よって、対象物件B412を浸水させる流れが存在しないことをユーザに把握させるための断面図を作成すればよい。
そこで、物件周辺の断面表示部23は、S113で説明したように、対象物件B412を通過する線分419a,419bを断面図の基線とする。線分419aからは第1断面図が作成され、線分419bからは第2断面図が作成され、それらの断面図集合は、物件データ32に対応づけて格納される。
【0045】
図10(b)は、図10(a)の基線419aに沿った断面図表示(S117)を示す画面図である。図8の断面図と比較すると、図10(b)の断面図には破堤点が含まれないので、対象物件Bを横軸の中央に配置することで、対象物件Bの周辺の標高を確認しやすくしている。これにより、ユーザは、対象物件Bが高台(XX山のふもと)に存在することを把握することで、物件位置への浸水のリスクが低いことを把握できる。
さらに、図11の断面図は、図10(b)の断面図に対して、水害解析データ31の結果情報320(浸水深時系列データ)を追記した画面図である。この図11の画面図を断面図表示(S117)することで、対象物件Bが浸水する地域よりも高台にあることが示されるので、直感的に分かりやすくなる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の水害解析装置2は、水害により発生した破堤点から対象物件までの氾濫流により浸水するリスクを判断するための情報をディスプレイ11に表示する。
そのため、水害処理部20は、浸水する場合には破堤点から対象物件までの氾濫流の経路に沿った断面図を生成し、浸水しない場合には対象物件の周辺の断面図を生成する。
【0047】
つまり、本実施形態の水害解析装置2が解決する課題は、浸水リスクの判断に資する地形断面図を体系的かつ自動的に生成することである。
この課題は、特許文献1などの従来の技術では解決できていない課題である。例えば、ユーザが地図上で指定した2点を通る断面図を単に作成させるだけでは、ユーザの指定の仕方により結果がばらつき、均質な品質で作成することが難しい。
また、サプライチェーンマネジメントの高度化に伴い、ある企業に関連する物件は多数あり、企業によっては対象物件が数万件も存在することもある。そのため、ユーザが画面上で作成する手段ではその評価に膨大な手間を要する。
【0048】
そのため、本実施形態の水害解析装置2は、水害解析データ31として入力された破堤点情報311や、不動産管理システムなどで別途存在する物件データ32を用いることで、ユーザに対して地図上で直接的に断面図の基線位置を作成させる手間を削減できる。
【0049】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。
また、前記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0050】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード(登録商標)、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 入出力部
2 水害解析装置
3 HDD
11 ディスプレイ
12 キーボード
13 マウス
28 CPU
29 メモリ
20 水害処理部
21 浸水判断部
22 氾濫流に沿った断面表示部
23 物件周辺の断面表示部
31 水害解析データ
32 物件データ
33 地図データ
34 標高データ
【要約】
【課題】浸水リスクの判断に資する地形断面図を体系的かつ自動的に生成すること。
【解決手段】水害解析装置2は、河川に対して破堤する破堤点の位置と、破堤した氾濫流による浸水の判断対象として指定される物件位置とが記憶されている記憶手段と、前記破堤点から流出して前記物件位置に至る氾濫流の経路を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を表示装置に表示させる氾濫流に沿った断面表示部22と、前記物件位置を通過し、その前記物件位置の周辺を含む線分を断面図の基線とし、その基線に沿った断面図を前記表示装置に表示させる物件周辺の断面表示部23とを有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11