(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の技術のように、フラックスの粒径や見掛密度を規制するだけででは、鉄粒突起の発生抑制に対する効果が小さい。また、特許文献3に記載のサブマージアーク溶接用ボンドフラックスのように、Fe含有量を規制すると、厚板の板継溶接において充分な溶着量を確保することが難しくなり、更に大入熱溶接においてビード形状が劣化する。このように、従来のビード外観改善技術では、片面サブマージアーク溶接において、フラックスへの鉄粉添加の効果を維持しつつ、鉄粒突起の発生を抑制して、ビード外観を健全化するには至っていない。
【0006】
そこで、本発明は、健全な表ビード形状と機械的性能を得ることができる片面サブマージアーク溶接用フラックスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前述した課題を解決するために、1又は2以上の電極を用いた片面サブマージアーク溶接において、表ビードの健全性を確保すべく、鋭意実験検討を行った結果、鉄粒突起の発生抑制には、フラックスに含有させる鉄粉の種類、酸素量及び粒径が、大きく影響することを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明に係る片面サブマージアーク溶接用フラックスは、SiO
2:10〜30質量%、CaO:3〜9質量%、MgO:15〜35質量%、TiO
2:4〜20質量%、CaF
2:2〜9質量%、Al
2O
3:5〜20質量%、CO
2:2〜9質量%、Na
2O:1〜3質量%、B
2O
3:0.1〜1質量%、Mo:0.2〜1質量%、鉄粉:10〜30質量%を含有すると共に、Si:2質量%以下、Mn:1.5質量%以下、Ti:1質量%以下、Al:3質量%以下に規制した組成を有し、前記鉄粉に、酸素含有量が0.5質量%以下のアトマイズ還元鉄粉を使用し、鉄粉全量に対して粒径が75μm以下のものが40質量%以上になるようにしている。
本発明の片面サブマージアーク溶接用フラックスでは、酸素含有量が0.5質量%以下のアトマイズ還元鉄粉を特定量添加し、更に、添加する鉄粉のうち粒径が75μm以下のものを40質量%以上としているため、表ビードに鉄粒が発生しにくくなり、鉄粒突起のない健全な表ビードを得ることができる。
この片面サブマージアーク溶接用フラックスは、Si:0.5〜2質量%及び/又はTi:0.3〜1質量%を含有していてもよい。
また、Mnを0.5〜1.5質量%含有していてもよい。
更に、Alを0.7〜3質量%含有していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フラックスの成分及びその含有量を特定すると共に、鉄粉の鉄粉の種類、酸素量及び粒径を限定しているため、1電極又は多電極を用いた片面サブマージアーク溶接においても、裏当て構造によらず、健全なビード形状と機械的性能を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は片面サブマージアーク溶接過程における鉄粒発生挙動の想定図である。
図1に示すように、片面サブマージアーク溶接において、従来の鉄粉5を含有するフラックス3を用いた場合、溶融・凝固中のフラックス(スラグ)4内で鉄粉5が凝集し(鉄粉の凝集6)、この凝集鉄粉(鉄粒)7が沈降して、母材1の溶接部に形成された溶接金属2の表面(ビード表面2a)に付着して、微小な突起物が発生すると想定される。そこで、本発明者等は、フラックスの特性を改善することで、鉄粒突起発生の問題を解決することにした。
【0013】
具体的には、本発明の実施形態に係るフラックスは、片面サブマージアーク溶接に用いられるものであり、少なくとも、SiO
2、CaO、MgO、TiO
2、CaF
2、Al
2O
3、CO
2、Na
2O、B
2O
3、Mo及び鉄粉を特定量含有すると共に、Si、Mn、Ti及びAlを特定量以下に規制した組成を有する。そして、このフラックスでは、鉄粉に、酸素含有量が0.5質量%以下のアトマイズ還元鉄粉を使用し、鉄粉全量に対して粒径が75μm以下のものが40質量%以上になるように調整している。以下、本実施形態のフラックスにおける組成限定理由について説明する。
【0014】
[SiO
2:10〜30質量%]
SiO
2はガラス化成分であるが、その含有量が30質量%を超えると、溶融スラグ全体の粘性が増加し、スラグの流動性が低下する。そして、高速片面サブマージアーク溶接の場合、表ビード幅が広がらず、かつ不安定になるため、アンダーカットが発生しやすくなる。一方、SiO
2含有量が10質量%未満の場合、溶融スラグの凝固温度が高くなり過ぎるため、良好な表ビード形状が得られない。よって、SiO
2含有量は10〜30質量%とする。
【0015】
[CaO:3〜9質量%]
CaOは、溶融スラグの粘度を低下させ、スラグの流動性を高めて、表ビード幅を広げる効果がある。しかしながら、CaO含有量が9質量%を超えると、溶融スラグの凝固温度が高くなり過ぎて、表ビード形状が損なわれる。一方、CaO含有量が3質量%未満の場合、溶融スラグの流動性を高める効果が得られず、表ビード幅が不足するため、アンダーカットが発生しやすくなる。よって、CaO含有量は3〜9質量%とする。
【0016】
[MgO:15〜35質量%]
MgOは、前述したCaOと同様に、溶融スラグの粘度を低下させ、スラグの流動性を高めて、表ビード幅を広げる効果がある。ただし、MgOの含有量が15質量%未満の場合、溶融スラグの流動性を高める効果が得られず、表ビード幅が不足し、アンダーカットが発生しやすくなる。一方、MgOは高融点の成分であることから、35質量%を超えて添加すると、フラックス全体の溶融性が損なわれ、特に、小入熱になる薄板の高速片面サブマージアーク溶接を行う場合に、安定したビードを確保できなくなる。よって、MgO含有量は15〜35質量%とする。
【0017】
[TiO
2:4〜20質量%]
TiO
2は、片面溶接におけるスラグ剥離性の改善に、特に有効な成分である。しかしながら、その含有量が20質量%を超えると、表ビードの波目が粗くなり、また、4質量%未満の場合、前述したスラグ剥離性の改善効果が得られない。よって、TiO
2含有量は4〜20質量%とする。
【0018】
[CaF
2:2〜9質量%]
CaF
2は、フラックス全体の溶融性を良好にする成分であり、特に片面サブマージアーク溶接のように、短時間にフラックスを溶かし、スラグを生成しなければならない溶接方法においては、不可欠な成分である。しかしながら、CaF
2含有量が9質量%を超えると、アーク安定性が劣化し、アーク切れを発生しやすくなる。一方、CaF
2含有量が2質量%未満の場合、フラックスの溶融性改善効果が得られず、ビード蛇行が発生する。よって、CaF
2含有量は2〜9質量%とする。
【0019】
[Al
2O
3:5〜20質量%]
Al
2O
3は中性成分であり、スラグの粘性及び凝固温度の調整に有効な成分である。しかしながら、Al
2O
3含有量が5質量%未満の場合、スラグの粘性及び凝固温度が低下し、ビード幅が不揃いになる。一方、20質量%を超えてAl
2O
3を添加すると、スラグの凝固温度が高くなり過ぎて、ビードが広がり難くなり、ビード形状が凸型となる。よって、Al
2O
3含有量は5〜20質量%とする。
【0020】
[CO
2:2〜9質量%]
CO
2は、溶接金属への窒素の侵入抑制と、拡散性水素量の低減に有効な成分であり、金属炭酸塩としてフラックス中に添加される。しかしながら、CO
2含有量が2質量%未満の場合、溶接金属中の拡散性水素量が高くなり、耐低温割れ性が劣化する。一方、CO
2含有量が9質量%を超えると、ガス発生量が過大となり、表ビードにポックマークが発生する。よって、CO
2含有量は2〜9質量%とする。
【0021】
[Na
2O:1〜3質量%]
Na
2Oはアーク安定性の確保のために必要な成分である。具体的には、Na
2O含有量が1質量%未満の場合、アークが極端に不安定となり、アーク切れが発生し、ビード形状及び溶込みが不均一となる。一方、Na
2O含有量が3質量%を超えると、耐吸湿性が低下して、耐低温割れ性が劣化する。
【0022】
[B
2O
3:0.1〜1質量%]
B
2O
3は、溶接中に還元され、溶接金属中にBとして存在して、靭性の確保に有効に作用する。しかしながら、B
2O
3含有量が0.1質量%未満の場合、その効果が十分に発揮されず、靭性が劣化する。一方、B
2O
3含有量が1質量%を超えると、強度が過大となり、高温割れが発生する。よって、B
2O
3含有量は0.1〜1質量%とする。
【0023】
[Mo:0.2〜1質量%]
Moは、焼入れ性向上に有効な成分であり、Mo単体の他、Fe−Moなどの形態で添加される。ただし、Mo含有量が0.2質量%未満の場合、溶接金属の組織が粗大化し、靭性が劣化する。一方、1質量%を超えてMoを添加すると、溶接金属の強度が過大となり、高温割れが発生する。
【0024】
[鉄粉:10〜30質量%]
鉄粉は、一度に多量の溶着金属が必要とされる片面サブマージアークにおいて必須の添加成分である。そして、鉄粉含有量が10質量%未満の場合、溶着金属量を補う効果が得られなくなると共に、フラックスの見掛密度が小さくなるため、耐吹き上げ性が劣化する。一方、30質量%を超えて鉄粉を含有させると、溶融・凝固中のフラックス内で鉄粉が凝集しやすくなり、凝集鉄粉が沈降する量が多くなって、ビード表面に鉄粒が付着しやすくなる。加えて、フラックスの見掛密度が高くなり、ビード幅が確保できなくなる。よって、鉄粉の含有量は10〜30質量%とする。
【0025】
また、本実施形態のフラックスでは、鉄粉として、アトマイズ還元鉄粉を使用する。一般に、鉄粉の種類としては、その製法から還元鉄粉とアトマイズ鉄粉とに分類される。このうち、アトマイズ鉄粉には還元タイプ又は未還元タイプが存在する。そして、これらの中でも、鉄粒突起物の低減に対しては、アトマイズ鉄粉の還元タイプのが有効である。
【0026】
更に、鉄粉の酸素量も鉄粒の発生に影響を及ぼす。具体的には、鉄粉の酸素量が0.5質量%を超えると、スラグ内で鉄粉が溶けにくくなり、表ビードに鉄粒突起物として発生しやすくなる。よって、本実施形態のフラックスに配合する鉄粉は、酸素量が0.5質量%以下のものとする。なお、鉄粉の酸素量は、0.3質量%以下が好ましく、これにより、更なる鉄粒低減効果が得られる。ここで、鉄粉の酸素量は、例えば不活性ガス中での加熱融解法により測定することができる。
【0027】
更にまた、鉄粉の粒径は、溶融スラグ内での凝集・沈降に影響を及ぼし、鉄粒の発生にも影響する。具体的には、鉄粉全量あたり、粒径が75μm以下のものが40質量%未満の場合、個々の鉄粉が溶けて沈降しやすくなる。その結果、ビード表面に鉄粒突起が発生しやすくなる。よって、本実施形態のフラックスに配合する鉄粉は、粒径が75μm以下のものが40質量%以上となるようにする。ここで、鉄粉の粒径は、例えばふるいとロータップシェーカーを用いた粒度測定装置により測定することができる。
【0028】
[Si:2質量%以下]
Siを2質量%を超えて含有していると、スラグがビード表面に焼付き、スラグの剥離性が劣化するため、Si含有量は2質量%以下に規制する。一方、Siは溶接金属中の酸素量低減に有効な成分でもあるため、Siを0.5質量%以上含有していると、更なる脱酸効果が発現し、靭性が改善する。そこで、本実施形態のフラックスにおいては、必要に応じて、Siを0.5〜2質量%の範囲で添加する。なお、Siは、Si単体の他、Fe−Siなどの形態で添加することができる。
【0029】
[Ti:1質量%以下]
Tiは、前述したSiと同様に、溶接金属中の酸素量低減に有効な成分であるが、この効果はSiの添加などによって十分達成可能であるため、本実施形態のフラックスにおいて、Tiは必須の成分ではない。また、Ti含有量が1質量%を超えると、スラグがビード表面に焼付き、スラグ剥離性が劣化する。よって、Ti含有量は1質量%以下に規制する。一方、Tiを0.3質量%以上含有していると、溶接金属の更なる脱酸効果が実現し、靭性の向上を図ることができる。そこで、本実施形態のフラックスにおいては、必要に応じて、Tiを0.3〜1質量%の範囲で添加する。なお、Tiは、Ti単体の他、Fe−Tiなどの形態で添加することができる。
【0030】
[Mn:1.5質量%以下]
Mnは、前述したMoと同様に、焼入れ性を向上させる効果があり、強度及び靭性の向上に有効な成分であるが、Mn含有量が1.5質量%を超えると、スラグがビード表面に焼付き、スラグ剥離性が劣化する。また、本実施形態のフラックスでは、Moを添加しており、それにより焼入れ性の効果が得られるため、Mn含有量は1.5質量%以下に規制する。一方、Mnを0.5質量%以上含有していると、更なる焼入れ性の向上が実現し、靭性が改善する。そこで、本実施形態のフラックスにおいては、必要に応じて、Mnを0.5〜1.5質量%の範囲で添加する。なお、Mnは、Mn単体の他、Fe−Mnなどの形態で添加することができる。
【0031】
[Al:3質量%以下]
Alは、溶接金属の組織を微細にして、靭性の向上に有効な成分である。しかしながら、この効果は他成分の添加により十分達成可能であるため、本実施形態のフラックスにおいて、Alは必須の成分ではない。また、Al含有量が3質量%を超えると、焼入れが過度となり強度が上昇し低温割れが発生する。よって、Al含有量は3質量%以下に規制する。一方、Alを0.7質量%以上含有していると、更なる組織の微細化が実現し、靭性が向上する。そこで、本実施形態のフラックスにおいては、必要に応じて、Alを0.7〜3質量%の範囲で添加する。なお、Alは、Al単体の他、Fe−AlやAl−Mgなどの形態で添加することができる。
【0032】
[その他の成分]
本実施形態のフラックスにおける上記以外の成分は、例えばFeO、ZrO
2、K
2Oなどである。
【0033】
以上詳述したように、本実施形態のフラックスは、酸素含有量が0.5質量%以下のアトマイズ還元鉄粉を特定量添加すると共に、鉄粉全量に対して粒径が75μm以下のものを40質量%以上にしているため、溶融・凝固中のフラックス内での鉄粉の凝集及び生成した鉄粒の表ビードへの付着を抑制することができる。その結果、片面サブマージアーク溶接において、機械的性能に優れ、鉄粒突起のない健全な表ビードを形成することが可能となる。
【0034】
なお、本実施形態のフラックスは、主に片面サブマージアーク溶接方法で用いるものであるが、その裏当方法については、特に限定されるものではなく、フラックスと銅を裏当材とするフラックス銅裏当法、フラックスのみを裏当材とするフラックス裏当法、固形フラックスを用いた裏当法など、いずれの方法にも適用することができる。また、裏当フラックスについても、特に限定されるものではなく、従来のフラックスをそのまま適用することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記表1に示す鋼板及び表2に示すワイヤを使用し、下記表3に示す溶接条件及び
図2に示す鋼板(母材10)の開先形状により、片面サブマージアーク溶接を実施し、実施例及び比較例の各フラックスの性能を評価した。その際、充填剤11には、市販の充填剤(95質量%以上の鉄粉)を使用した。なお、下記表1に示す鋼板組成及び下記表2に示すワイヤ組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
実施例及び比較例の各フラックスの評価は、溶接作業性(ビード外観、アンダーカットなど)、JIS Z3060に準拠した超音波探傷(UT)試験(割れ、スラグ巻き込みなどの有無)及びJIS Z2242に準拠したシャルピー衝撃試験により行った。これらの評価結果、並びに実施例及び比較例の各フラックス組成を下記表4及び表5に示す。なお、下記表4及び表5に示す「75μm(質量%)」は、鉄粉全量に対して粒径が75μm以下の鉄粉の含有量(質量%)である。また、シャルピー衝撃試験は、試験温度−20℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE−20℃)が50J以上のものを合格、50J未満のものを不合格とした。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
表4に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜32のフラックスは、溶接作業性、超音波探傷(UT)試験及び靭性(vE−20℃)の全てにおいて、良好であった。
【0043】
これに対して、表5に示すように、比較例1のフラックスは、フラックス中のMgOの含有量が、本発明範囲の下限未満であったため、アンダーカットが発生した。一方、比較例2のフラックスは、MgOの含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、オーバーラップが発生した。比較例3のフラックスは、Fe含有量が本発明範囲の下限未満であったため、余盛不足が発生した。比較例4のフラックスは、Fe含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、ビード表面に鉄粒が発生した。
【0044】
比較例5のフラックスは、SiO
2含有量が本発明範囲の下限未満であったため、オーバーラップが発生した。一方、比較例6のフラックスは、SiO
2含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、アンダーカットが発生した。また、比較例7のフラックスは、Al
2O
3含有量が本発明範囲の下限未満であったため、ビード幅の揃いが不良であった。一方、比較例8のフラックスは、Al
2O
3含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、ビードが凸型となった。
【0045】
比較例9のフラックスは、TiO
2含有量が本発明範囲の下限未満であったため、スラグ剥離性が劣化した。一方、比較例10のフラックスは、TiO
2含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、ビードの波目が粗くなった。また、比較例11のフラックスは、CaO含有量が本発明範囲の下限未満であったため、アンダーカットが発生した。一方、比較例12のフラックスは、CaO含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、ビードが凸型となった。
【0046】
比較例13のフラックスは、CO
2含有量が本発明範囲の下限未満であったため、溶接金属中の拡散性水素量が高くなり、低温割れが発生した。一方、比較例14のフラックスは、CO
2含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、ビード表面にポックマークが発生した。また、比較例15のフラックスは、CaF
2含有量が本発明範囲の下限未満であったため、ビード蛇行が発生した。一方、比較例16のフラックスは、CaF
2含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、アーク切れが頻発した。
【0047】
比較例17のフラックスは、Na
2O含有量が本発明範囲の下限未満であったため、ビード蛇行が発生した。一方、比較例18のフラックスは、Na
2O含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、低温割れが発生した。また、比較例19のフラックスは、Si含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、スラグ焼付きが発生し、靭性が劣化した。更に、比較例20のフラックスは、Mn含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、スラグ剥離性が劣化した。更にまた、比較例21のフラックスは、Ti含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、スラグ剥離性が劣化した。
【0048】
比較例22のフラックスは、Mo含有量が本発明範囲の下限未満であったため、靭性が劣化した。一方、比較例23のフラックスは、Mo含有量が本発明範囲の上限を超えていため、溶接金属内に高温割れが発生した。また、比較例24のフラックスは、B
2O
3含有量が本発明範囲の下限未満であるので、靭性が劣化した。一方、比較例25のフラックスは、B
2O
3含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、溶接金属内に高温割れが発生した。更に、比較例26のフラックスは、Al含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、低温割れが発生した。
【0049】
比較例27のフラックスは、鉄粉酸素量が本発明範囲の上限を超えていたため、ビード表面に鉄粒が発生した。一方、比較例28のフラックスは、使用した鉄粉の粒径の構成比率が本発明範囲の下限未満であったため、ビード表面に鉄粒が発生した。また、比較例29のフラックスは、アトマイズ法以外の方法で作製した還元鉄粉を使用したため、ビード表面に鉄粒が発生した。更に、比較例30のフラックスは、未還元鉄粉を使用したため、ビード表面に鉄粒が発生した。
【0050】
なお、前述した実施例及び比較例の各フラックスの評価では、固形フラックスで生成された裏当材を用いて片面サブマージアーク溶接を実施したが、銅板と裏当フラックスを用いるフラックス銅裏当法及び銅板を使用せずに裏当フラックスを固化させながら行うフラックス裏当法においても、ほぼ同様の結果が得られた。また、表4及び表5には1電極溶接の結果を示しているが、その他に2電極、3電極及び4電極溶接においても、溶接後のフラックスの溶融・凝固過程に違いは無いため、表4及び表5に示す1電極溶接の場合と同様の結果が得られた。
【0051】
以上の結果から、本発明のフラックスを使用することにより、1電極又は多電極の片面サブマージアーク溶接において、健全な表ビード形状と機械特性が得られることが確認された。