(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルがメチルメタクリレートおよびn−ブチルメタクリレートから選ばれる一種以上である請求項1に記載の硫化防止コーティング剤。
前記溶剤が、総炭素数が5のハイドロフルオロカーボンおよび総炭素数が4のハイドロフルオロエーテルから選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の硫化防止コーティング剤。
前記溶剤の全質量に対して、2,2,2−トリフルオロエチル1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテルを10質量%以上含む請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の硫化防止コーティング剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の硫化防止剤を用いて硫化防止膜を形成する際には、当該硫化防止剤をLEDの銀メッキ部分に塗布した後、30〜80℃で乾燥する工程を実行する必要があり、手間がかかるという問題があった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、手間をかけずに硫化防止膜を形成することができるコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、式(1)で表されるメタクリル酸エステルと、式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルとを所定割合で含む幹モノマー成分を重合させて得られる幹ポリマーに、所定割合の式(3)で表されるフッ素含有モノマーを重合させて得られるグラフト共重合体を、所定のフッ素系の溶剤に溶解させて得られるものを塗布後、常温にて乾燥させることにより硫化を有効に防止する皮膜が形成されるという知見を得た。なお、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルとはメタクリル酸エステルとアクリル酸エステルを含む。
【0006】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルを42質量部以上72質量部以下と、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを14質量部以上
31質量部以下とを共重合した幹ポリマーに、下記一般式(3)で表されるフッ素含有モノマーを4質量部以上43質量部以下の割合でグラフト重合させて得られる数平均分子量が20000〜100000のグラフト共重合体を、
総炭素数が4〜8のハイドロフルオロカーボンおよび総炭素数が4〜8のハイドロフルオロエーテルから選ばれる一種以上の溶剤に溶解してなり、前記グラフト共重合体の量が全体の1質量%以上10質量%以下である硫化防止コーティング剤である。
【0007】
【化1】
(式中、R
1は炭素数1〜4の直鎖状または分岐状アルキル基である。)
【0008】
【化2】
(式中、R
2は水素またはメチル基、R
3は、
R2が水素の場合、炭素数4〜8の直鎖状または分岐状アルキル基であり、かつR2がメチル基の場合、炭素数8の分岐状アルキル基である。)
【0009】
【化3】
(式中、R
4は、水素またはメチル基であり、nは、4〜6の整数を示す。)
【0010】
本発明の硫化防止コーティング剤を用いると、基材に塗布した後、常温にて乾燥させることにより、硫化を有効に防止する皮膜が形成される。その結果、本発明によれば、手間をかけずに硫化防止膜を形成することができる硫化防止コーティング剤を提供することができる。
【0011】
本発明は以下の構成が好ましい。
・一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルがメチルメタクリレートおよびn−ブチルメタクリレートから選ばれる一種以上である。
・一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルが、2−エチルヘキシルアクリレートおよびn−ブチルアクリレートから選ばれる一種以上である。
・前記溶剤が、総炭素数が5のハイドロフルオロカーボンおよび総炭素数が4のハイドロフルオロエーテルから選ばれる一種以上である。
・溶剤の全質量に対して、2,2,2−トリフルオロエチル1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテルを10質量%以上含む構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、手間をかけずに硫化防止膜を形成することができる硫化防止コーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、下記一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルを42質量部以上72質量部以下と、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを14質量部以上
31質量部以下とを共重合した幹ポリマーに、下記一般式(3)で表されるフッ素含有モノマーを4質量部以上43質量部以下の割合でグラフト重合させて得られる数平均分子量が20000〜100000のグラフト共重合体を、総炭素数が4〜8のハイドロフルオロカーボンおよび総炭素数が4〜8のハイドロフルオロエーテルから選ばれる一種以上の溶剤に溶解してなり、前記グラフト共重合体の量が全体の1質量%以上10質量%以下である硫化防止コーティング剤である。
【0014】
【化4】
(式中、R
1は炭素数1〜4の直鎖状または分岐状アルキル基である。)
【0015】
【化5】
(式中、R
2は水素またはメチル基、R
3は、
R2が水素の場合、炭素数4〜8の直鎖状または分岐状アルキル基であり、かつR2がメチル基の場合、炭素数8の分岐状アルキル基である。)
【0016】
【化6】
(式中、R
4は、水素またはメチル基であり、nは、4〜6の整数を示す。)
【0017】
まず、硫化防止コーティング剤に含まれるグラフト共重合体について説明する。グラフト共重合体は、一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルと、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルとを共重合した幹ポリマーに、一般式(3)で表されるフッ素含有モノマーを含むモノマー成分を、グラフト重合させて得られる。
【0018】
一般式(1)中のR
1は、炭素数1〜4の直鎖状または分岐状アルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、isoブチル基、tertブチル基が挙げられる。一般式(1)で表されるメタクリル酸エステル(メタクリレート)としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−,tert−,iso−の各ブチルメタクリレートなどが挙げられ、これらの化合物は一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(1)で表されるメタクリル酸エステル(一般式(1)のモノマーともいう)としては、メチルメタクリレートおよびn−ブチルメタクリレートから選ばれる一種以上が好ましい。
【0019】
一般式(2)中のR3は、炭素数4〜8の直鎖状または分岐状アルキル基であり、具体的には、n−ブチル基、isoブチル基、tertブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基などのオクチル基が挙げられる。一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル(メタクリレート、アクリレート)としては、n−,tert−,iso−の各
ブチルアクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、へプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの化合物は一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル(一般式(2)のモノマーともいう)としては、2−エチルヘキシルアクリレートおよびn−ブチルアクリレートから選ばれる一種以上であるのが、好ましい。本明細書において、(メタ)アクリレートとはメタクリレートとアクリレートとを含む。
【0020】
一般式(3)中のR
4は、水素又はメチル基であり、nは4〜6である。一般式(3)で表されるフッ素含有モノマー(一般式(3)のモノマーともいう)としては、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのフッ素含有モノマーは一種または二種以上を組み合わせてもよい。
【0021】
グラフト共重合体の製造方法について説明する。
まず、上記一般式(1)のモノマーおよび一般式(2)のモノマーを含む幹モノマー成分を公知の重合法によって、重合して幹ポリマーを得る。重合方法としては、例えば溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法等があげられる。ここで、例えば、溶液重合法の場合には、各モノマーを所望のモノマー組成にて溶媒に溶解し、窒素雰囲気下、ラジカル重合開始剤を添加して加熱撹拌することにより幹ポリマー(ランダム共重合体)を得ることができる。
【0022】
重合の際に用いられる溶媒としては、モノマーを溶解又は懸濁し得るものであればいかなる溶媒でも用いることが可能であり、例えば、水、又はトルエン、キシレン、ヘプタン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等の有機溶媒があり、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系化合物の他、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸系重合開始剤が挙げられる。
【0024】
重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。比較的高分子量のポリマーを得たい場合には、1日程度反応させることが望ましい。反応時間が短すぎると未反応のモノマーが残存し、分子量も比較的小さくなることがある。幹ポリマーの平均分子量(Mn)は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)換算で、10000〜50000程度であることが好ましい。重合度が小さくなると、グラフト共重合体を膜とした場合の膜強度が低下し、また、あまりに重合度が大きすぎるとグラフト共重合体の不燃性溶剤に対する溶解性が低下する傾向にあるからである。
【0025】
本発明では、さらに、幹ポリマーに、一般式(3)で表されるフッ素含有モノマーをグラフト重合させる。グラフト共重合体は、幹ポリマーと一般式(3)のモノマーを公知の重合法によって、グラフト重合して調製することができる。例えば溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法等を用いることができるが、比較的簡易な装置で行うことができることから、溶液重合法が好ましい。
【0026】
このグラフト重合は、一般式(1)のモノマーと一般式(2)のモノマーとを反応させて幹ポリマーを合成した反応溶媒中に、一般式(3)のモノマー及び開始剤を入れて行ってもよい。あるいは、一旦、幹ポリマーを反応溶媒中から取り出して、改めて幹ポリマーを溶媒に溶解させて溶液とし、この溶液中に一般式(3)のモノマー及び開始剤を入れて行ってもよい。
【0027】
重合の際に用いられる溶媒としては、一般式(3)のモノマーを溶解又は懸濁し得るものであればいかなる溶媒でも用いることが可能であり、例えば、水、又はトルエン、キシレン、ヘプタン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等の有機溶媒があり、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
グラフト重合開始剤としては、過酸化物であれば特に制限されず、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルクメルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロパノールパーオキシジカーボネート等の公知のものを幅広く使用できる。これらの過酸化物は1種または2種以上組み合わせて使ってもよい。
【0029】
グラフト重合に、過酸化物を用いることで幹ポリマー中の水素が引き抜かれ、幹ポリマー中にラジカルが発生し、グラフト化起点が生成する。なお、過酸化物を用いることで、容易な操作、かつ低コストにてグラフト共重合体を得ることができる。なお、重合時間は特に制限されない。
【0030】
グラフト共重合体を作製する際に用いる一般式(1)のモノマー、一般式(2)のモノマーおよび一般式(3)のモノマーの割合は以下の通りである。
一般式(1)のモノマー、一般式(2)のモノマーおよび一般式(3)のモノマーを含むモノマー成分100質量部に対し、一般式(1)のモノマーが42質量部以上72質量部以下、一般式(2)のモノマーが14質量部以上
31質量部以下、一般式(3)のモノマーが4質量部以上43質量部以下の割合である。
【0031】
一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルが42質量部未満であると硫化水素の透過が多くなり、バリア性能が劣ることがある。
一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルが14質量部未満であると柔軟性が低下し、熱衝撃等に耐えられなくなることがある。
一般式(3)で表されるフッ素含有モノマーが43質量部を超えると硫化性能が劣ることがある。硫化性能が劣る理由としては、フッ素が表面だけでなく、内部にも入り込むため、界面から侵入しやすくなることが考えられる。
【0032】
上記範囲において、幹ポリマーと一般式(3)のモノマーとをグラフト重合させると、グラフト鎖の分子量(Mn)は、1000〜50000程度となり、グラフト共重合体の平均分子量(Mn)は、PMMA換算で、20000〜100000程度となり、そのガラス転移温度は0〜50℃程度となる。
【0033】
なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記一般式(1)〜(3)のモノマーに加えて他のモノマーを共重合させることも可能である。例えば、機能性を付与するためにカルボキシル基、ヒドロキシル基、グリシジル基、アミド基、アルコキシシリル基等の極性官能基を有する官能基含有モノマーを共重合することが可能である。具体的には、例えばアルコキシシリル基を含むγ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、カルボキシル基を含むメタクリル酸、アクリル酸、グリシジル基を含むグリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を含むヒドロキシ(メタ)アクリレート等を例示することができる。官能基含有モノマーは1種だけでもよく、2種以上を共重合させても良い。
【0034】
官能基含有モノマーをさらに共重合したグラフト共重合体を得るためには、一般式(1)のモノマーと一般式(2)のモノマーと官能基含有モノマーとを共重合して幹ポリマーを調製し、これに一般式(3)のモノマーをグラフト重合させても良い。あるいは、一般式(1)のモノマーと一般式(2)のモノマーとを共重合して幹ポリマーを調製し、これに一般式(3)のモノマーをグラフト重合する際に官能基含有モノマーを共重合させても良い。あるいは、一般式(1)のモノマーと一般式(2)のモノマーと官能基含有モノマーとを共重合して幹ポリマーを調製し、これに一般式(3)のモノマーをグラフト重合する際に官能基含有モノマーを共重合させても良い。
【0035】
重合法としては例えば溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法等を用いることができる。例えば、溶液重合法の場合には、各モノマーを所望のモノマー組成にて溶媒に溶解し、窒素雰囲気下、ラジカル重合開始剤を添加して加熱撹拌することによりグラフト共重合体を得ることができる。
【0036】
重合の際に用いられる溶媒としては、モノマーを溶解又は懸濁し得るものであればいかなる溶媒でも用いることが可能であり、例えば、水、又はトルエン、キシレン、ヘプタン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等の有機溶媒があり、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系化合物の他、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸系重合開始剤が挙げられる。
【0038】
重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。比較的高分子量の共重合体を得たい場合には、1日程度反応させることが望ましい。反応時間が短すぎると未反応のモノマーが残存し、分子量も比較的小さくなることがある。グラフト共重合体の数平均分子量(Mn)は、PMMA換算で、20000〜100000程度であることが好ましい。
【0039】
グラフト共重合体は、総炭素数が4〜8のハイドロフルオロカーボンおよび総炭素数が4〜8のハイドロフルオロエーテルから選ばれる一種以上の溶剤に溶解され、硫化防止コーティング剤とされる。本発明において、硫化防止コーティング剤中のグラフト共重合体の量が1質量%以上10質量%以下であると、硫化防止性能に優れた皮膜を形成することができる。グラフト共重合体の量が全体(硫化防止コーティング剤全体)に対して1質量%未満であると、充分な硫化防止性能が得られなくなり、10質量%を超えると透明性が低下したり、気泡が発生し易くなることがある。
【0040】
総炭素数が4〜8のハイドロフルオロカーボンの具体例としては、下記化合物があげられる。
【0042】
総炭素数が4〜8のハイドロフルオロエーテルとしては、下記化合物があげられる。
【0044】
これらのうち、−20℃でも凝固しないという点で、式(7)で表される化合物(2,2,2−トリフルオロエチル1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル)が好ましい。式(7)で表される化合物を溶剤の全質量に対して10質量%以上含む溶剤が特に好ましい。
【0045】
硫化防止コーティング剤の塗布方法としては、ディスペンサー法、浸漬法、ハケ塗り法、スプレー法、ロールコート法など公知の方法が採用可能であり、生産方法、部品の形態により適宜選択することが可能である。なお、硫化防止コーティング剤には、実用性を向上させるために、酸化防止剤、紫外線安定剤、フィラー等各種添加剤を添加することも可能である。
【0046】
また、硫化防止膜の形成時においては、硫化防止コーティング剤を塗布後、常温で乾燥するのみでも良く、加熱処理しても良い。本発明の硫化防止コーティング剤は、常温で乾燥させれば工程短縮が図れ、省エネルギー化でき、加熱すれば、硬度および防錆性が付与される。特に、官能基含有モノマーを共重合した場合において、加熱による硬度および防錆性の向上効果が顕著である。
【0047】
[実施例]
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルと一般式(2)で表されるアクリル酸エステルとを共重合した幹ポリマーに、一般式(3)で表されるフッ素含有モノマーをグラフト重合させたグラフト共重合体を作製した後、当該共重合体を溶剤に溶解してコーティング剤を作製し、試験を行なった。各モノマーは表1および表2に記載のものを表に記載の割合で用いた。表に記載の割合はモノマー成分の総量を100質量部としたときの使用量(質量部)である。
【0048】
<コーティング剤1〜31の作製>
(重合例1:共重合体1の作製)
メチルメタクリレート49.5g、2−エチルヘキシルアクリレート16.5g、メタクリル酸1g、シクロヘキサン100gおよび重合開始剤として2,2´−アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)0.1gを、内容積500mlのガラス製フラスコに入れた。攪拌羽根、蓋、冷却管、及び温度計をフラスコにセットした後、回転数100rpmで撹拌した。次いで、常温で空間部を窒素で30分置換した後、熱湯を加え、ヒーターを80℃にセットし重合を開始した。
重合開始2時間後に、回転数を150rpmに設定した。次に、ビス(4―t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.2gをトルエン1gに溶解し、この溶液を重合液の入っているフラスコに添加した。その後、パーフルオロヘキシルエチルメタクリレート33gを30分かけてフラスコに滴下した後、さらに3時間重合を継続した。窒素ガスは重合終了まで流し続けた。
重合終了後20℃まで冷却すると、白色の餅状の重合体が重合溶媒と分離して沈降していたので、真空乾燥で溶剤を取り除き重合体1を得た。重合体1のGPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフ)を測定したところPMMA換算でMn(数平均分子量)が32,000、Mw(重量平均分子量)が70,000であった。
【0049】
(重合例2〜17:共重合体2〜17の作製)
表1および表2に記載の種類のモノマーを表1および表2に記載の量で用いて重合したこと以外は重合例1と同様にして、重合例2〜17を実行し、共重合体2〜17を得た。各共重合体のGPCで測定したPMMA換算のMnとMwを表1および表2に示した。
【0050】
(コーティング剤1の調製)
共重合体1を5g、上記式(7)の化合物(旭硝子(株)製、AE−3000)95gに溶解しコーティング剤1を作製した。
(コーティング剤2〜31の調製)
表3および表4に記載の共重合体を表記載の量で用い、表記載の溶媒で溶解してコーティング剤2〜31を作製した。
【0051】
各重合例に用いたモノマーは以下の通りである。カッコ内は表中の記載である。
一般式(3)で表されるフッ素含有モノマー(フッ素系モノマー)としては、パーフルオロヘキシルエチルメタクリレート(C6メタクリレート)、パーフルオロヘキシルエチルアクリレート(C6アクリレート)、パーフルオロブチルエチルメタクリレート(C4メタクリレート)、パーフルオロブチルエチルメタクリレート(C4アクリレート)を用いた。
一般式(1)で表されるメタクリル酸エステル[式(1)のモノマー]としては、メチルメタクリレート(MMA)、n−ブチルメタクリレート(nBMA)を用いた。
一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル[式(2)のモノマー]としては、2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)、n−ブチルアクリレート(nBA)、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)を用いた。重合例11では一般式(2)のモノマーを使わずステアリルアクリレート(SA)を用いた。
一般式(1)〜(3)で表されるモノマーに加えて用いる他のモノマー(添加剤)としては、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HMA)、3−メタクリロキシトリメトキシシラン(3MMS)を用いた。
表中、フッ素系モノマーの欄、式(1)のモノマー欄、式(2)のモノマーの欄、添加剤の欄およびSAの欄に記載の数値はモノマー成分の総量(全質量)を100質量部としたときの各成分の配合割合である。
重合溶媒としてはシクロヘキサン、1,1,2,3,3,4−へプタフルオロシクロペンタン(ゼオローラH)を用いた。重合溶媒の量はモノマー成分の全質量を100としたときの割合である。
【0052】
各コーティング剤を作製するのに用いた溶剤は以下のとおりである。カッコ内は表中に記載の略号であるとともに商品名である。
上記式(7)の化合物(旭硝子(株)製、AE−3000)、上記式(4)の化合物(三井デュポンフロロケミカル(株)製、バートレルXF)、上記式(5)の化合物(日本ゼオン(株)製、ゼオローラH)、上記式(6)の化合物(住友3M(株)製、HFE7600)、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン(BTMB)、酢酸エチル、トルエンを用いた。
【0055】
<試験例>
上記のようにして作成したコーティング剤1〜31を用いて以下の評価試験を行い結果を表3および表4に示した。
(硫化防止試験:硫化試験後の光沢度)
銀メッキ板にコーティング剤を、ディップコーター(SDI社製、マイクロディップ0408)でディップし(引き上げ速度5mm/秒)、皮膜を形成した後25℃で1時間乾燥させることにより試験片を作製した。硫化防止試験を行う前の試験片の光沢度をあらかじめ測定しておき、この測定値を光沢度(0hr)とした。光沢度の測定には、日本電色社製、Gross MeterVG7000を使用した。測定角度は20°であった。
次に、0.05%硫化アンモニウム水溶液2.5mlと試験片を100mlのガラス容器に入れて蓋をし、40℃の湯浴に浸して24時間後の光沢度を測定し、この測定値を光沢度(24hr)とした。銀メッキ板の光沢度の変化率(維持率)を次式により算出した。
維持率=1−{[光沢度(0hr)−光沢度(24hr)]}/光沢度(0hr)
維持率が70%以上ならば、充分な硫化防止性能を備えていると判断した。
【0056】
(密着性試験:密着性SUS,密着性銅板)
7cm×3cmの長方形状のSUS板および銅板を基材として用い、各基材にコーティング剤を、試験例1と同様に、ディップコーターでディップし(引き上げ速度5mm/秒)、皮膜を形成した後25℃で1時間乾燥させることにより試験片を作製した。
次に各試験片につき、1mm幅で横5本、縦5本の線をカッターで入れて25個のマス目ができるように碁盤目状の切り傷を付けた。切り傷はカッターガイド(JIS K 5600−5−6に規定)を用いて、カッターナイフ(JIS K 5600−5−6に規定)の刃先を壁面に対して35〜45度の範囲の一定の角度に保ち皮膜を貫通して試験片の生地面に届くように切り傷1本について約0.5秒間かけて等速に引いた。次に粘着セロハンテープ(JIS K 5600−5−6に規定)を碁盤目状の切り傷に貼り一気にはがし、残存するます目の数(X)を数えた。残存するます目の数が多いほど密着性が高いといえる。
評価結果を、X/25(全ます目数)として示した。Xが25以上(すなわち100/100以上)であれば、密着性が高いと判断した。
【0057】
(ヒートショック試験:ヒートショック)
2液型メチルシリコーンのA液とB液とを混合して得られた混合液を、ガラスエポキシ基板(JIS2型くし型基板)に塗布し150℃で2時間硬化させたのち、当該基板にコーティング剤を、試験例1と同様にディップコーターでディップし(引き上げ速度5mm/秒)、皮膜を形成した後25℃で1時間乾燥させることにより試験片を作製した。
−60℃で試験片を30分保持し、5分かけて120℃に昇温して試験片を30分保持し、5分かけて−60℃とする工程を1サイクルとし、100サイクル行った後、試験片の皮膜の状態を目視により観察し、以下の基準に基づき評価し表3および表4に示した。
◎:浮き剥がれなし
〇:剥がれはないが多少しわが寄っている
△:剥がれはないが大きなクラックが入っている
×:皮膜が剥がれている
【0058】
(透明性評価:透明性)
ガラス板に各コーティング剤をディップコーターでディップし(引き上げ速度5mm/秒)、皮膜を形成した後25℃で1時間乾燥させることにより試験片を作製した。
日本電色社製ヘイズメーターNDH−5000を用いてヘイズを測定し、以下の基準により透明性を評価した。
◎:ヘイズ0.5未満
〇:ヘイズ0.5以上1.0未満
△:ヘイズ1.0以上5未満
×:ヘイズ5以上、または変色
【0062】
(結果と考察)
表1〜表5に示す結果より、一般式(1)のモノマー42質量部以上72質量部以下と、一般式(2)のモノマーを14質量部以上31質量部以下とを共重合した幹ポリマーに、一般式(3)のモノマーを4質量部以上43質量部以下の割合でグラフト重合させて得られるグラフト共重合体を、全体の1質量%以上10質量%以下で含み、総炭素数が4〜8のハイドロフルオロカーボンおよび総炭素数が4〜8のハイドロフルオロエーテルから選ばれる一種以上の溶剤に溶解してなる硫化防止コーティング剤を用いると、硫化防止性能に優れた皮膜を形成することができるということが分かった。
一方、一般式(1)のモノマーや一般式(2)のモノマーが上記範囲から外れている場合や、グラフト共重合体の量が少ない場合(全体の0.5質量%)には、硫化防止性能が不十分であった。
なお、コーティング剤18とコーティング剤19とを比較すると樹脂量(グラフト共重合体の量)が少ないほう(コーティング剤19)が透明性に優れ、ヒートショック性能にも優れる皮膜を形成することができるということがわかった。