特許第5874107号(P5874107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874107亜鉛−ニッケル合金めっき液並びにニッケル供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874107
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】亜鉛−ニッケル合金めっき液並びにニッケル供給方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/56 20060101AFI20160218BHJP
   C25D 21/14 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   C25D3/56 D
   C25D21/14 E
   C25D21/14 J
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-14147(P2012-14147)
(22)【出願日】2012年1月26日
(65)【公開番号】特開2013-151729(P2013-151729A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2014年9月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 利昭
(72)【発明者】
【氏名】増田 亜沙美
(72)【発明者】
【氏名】小池 克博
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−214294(JP,A)
【文献】 特開昭56−087689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/56
C25D 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸、酒石酸、グルコン酸及びグリコール酸から選択されるヒドロキシカルボン酸又はその塩、及び(a)ニコチン酸と(b)ハロゲン化炭化水素、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン及びハロゲンエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との水溶性反応性生成物を含有し、ニッケル源として炭酸ニッケル又は水酸化ニッケルを使用することを特徴とするアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっき液。
【請求項2】
硫酸根を含まないアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっき用ニッケル補給剤と併用される請求項1記載のめっき液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛−ニッケル合金めっきに関し、低電部の外観、電流効率、加熱密着性、ランニング性を飛躍的に向上させるニッケル供給剤、光沢剤並びにニッケル供給方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっきの耐食性を向上する目的で亜鉛合金めっきが広く行われている。その中でも亜鉛−ニッケル合金めっきは自動車部品、特に高温環境下に置かれるエンジン部品や、高い耐食性が要求される部品等に広範囲に使用されている。従来の亜鉛−ニッケル合金めっきは特開昭63−53285に開示されているようにポリアルケンポリアミン類、アルカノールアミン類といったアミン系の錯化剤で可溶化したニッケルを含有するする電気亜鉛めっき浴で電解めっきを行うことにより亜鉛めっき皮膜中にニッケルを析出させる方法により行われる。錯化剤についてはその後、目的に応じて様々な種類のものが開発されてきた。例えば、特開平06−173073、特開2007−002274には錯化剤としてアミン化合物とエピハロヒドリン等エポキシ基含有化合物の反応生成物を用いるアルカリ性電気亜鉛めっき浴による亜鉛ニッケル合金めっき方法が開示されている。この方法はアミン化合物とグリシジルエーテル類を混合させることにより錯化剤となる反応生成物を得る方法であり、この反応生成物は亜鉛ニッケル合金めっきの錯化剤として現在最も広く用いられている。
【0003】
また、アミン以外の錯化剤としてクエン酸、酒石酸、グルコン酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸又はその塩が用いられることがある。これらは多量の添加でなければめっきに影響を及ぼさないため、例えばアミン系の錯化剤を使用してニッケルを補給すると錯化剤過剰となってしまう場合にニッケルの錯化剤として用いられるという用途もある。しかし、近年は亜鉛ニッケル合金めっきに用いること自体、ほとんどなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−53285号公報
【特許文献2】特開平06−173073号公報
【特許文献3】特開2007−002274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
亜鉛−ニッケル合金めっきは低電部や高電部の外観のコントロールが難しく、安定的に良好な外観を得る事が難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を解決するために研究開発を重ねていたが、亜鉛−ニッケル合金めっきで補給時のニッケル供給源を硫酸ニッケル以外にする場合においてはニコチン酸とハロゲン化炭化水素、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン及びハロゲン化エーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との水溶性反応性組成物及びヒドロキシカルボン酸又はその塩が安定的に良好な外観を得るために有効であることを見出した。
すなわち、本発明は、下記のアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっきのためのめっき液、
(1)ヒドロキシカルボン酸若しくはその塩、及び(a)ニコチン酸と(b)ハロゲン化炭化水素、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン及びハロゲンエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種との化合物の水溶性反応性生成物を含有し、ニッケル源に硫酸ニッケルを使用しないことを特徴とするアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっき液、
(2)硫酸根を含まないアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっき用ニッケル補給剤と併用してめっき外観を向上させる、前記(1)のめっき液、
(3)ヒドロキシカルボン酸若しくはその塩、又は(a)ニコチン酸と(b)ハロゲン化炭化水素、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン及びハロゲンエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との水溶性反応性生成物を定期的に補給し、硫酸根を補給しないことを特徴とするアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっき液の管理方法、
(4)前記(3)の管理方法により管理されるめっき液を用いるめっき方法、
(5)前記(4)のめっき方法によりめっきされためっき品、
をそれぞれ提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の亜鉛−ニッケル合金めっきに関し、詳細に説明する。錯化剤成分についてアミン系の錯化剤が用いられるほか、ヒドロキシカルボン酸又はその塩を錯化剤として用いることも可能である。特にアミンとエポキシ基且つ/又はハロゲンを1分子内に含む有機化合物を反応させて合成されるものが好適である。用いるアミンとしては特に限定はないがポリアルキレンポリアミンが好適であり、特にエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリプロピレンテトラミンが好適である。これとエポキシ基且つ/又はハロゲンを1分子中に含む有機化合物を反応させる。エポキシ基含有化合物としてはグリシジルエーテル類、エポキシ基とハロゲン化合物の両方を含むものとしてエピハロヒドリン類、ハロゲンを含む有機化合物としてハロゲン化アルコール、ハロゲン化エーテルが好適だがこれに限定されない。補給用のニッケル化合物に関しては硫酸根を含有しなければ特に限定はない。酢酸ニッケル、スルファミン酸ニッケルなどは意図しない反応のおそれがあるため塩化ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケルが好適であり、特開平1−316499の記載より水酸化物イオン以外の含有量を低減させる観点から水酸化ニッケルが最も好適である。電導塩はアルカリ金属イオンと水酸化物イオンの塩であれば特に限定は無いが一般的には苛性ソーダが用いられる。めっき浴の光沢剤は既存の亜鉛−ニッケル合金めっきに用いられるものが全て使用可能であり特に限定は存在しないが、本発明ではニコチン酸とハロゲン化炭化水素、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン及びハロゲン化エーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との水溶性反応性組成物をめっき液に含む必要がある。これは特開2001−214294、特開2011−84821に示されるようにアルカリ性亜鉛系めっき一般において浴安定性を高める効果がある光沢剤であることについては知られていた。しかし、これを本願の、補給時において硫酸根を含有しないアルカリ性亜鉛ニッケル合金めっきに使用した場合には高電流部と低電流部の外観が向上する効果をも得る事ができる。濃度については、特に限定はないが0.01〜10mmol/Lの範囲が好ましい。また、ヒドロキシカルボン酸についてはクエン酸、酒石酸、グルコン酸、グリコール酸などが挙げられるが種類について特に限定は存在しない。低濃度でもその効果が確認できるが高濃度だとアミン系錯化剤の効果に影響を及ぼしめっきの性質が大きく変化するおそれが強くなるため、5g/L以下が好適であり、より好ましくは1g/L以下、さら好ましくは0.1g/L以下である。添加方法は、直接めっき液に添加するほかに錯化剤に添加する方法、光沢剤に添加する方法、ニッケルを錯化させたニッケル供給剤に添加しニッケル補給と同時に添加する方法などがあるが特に限定はない。
【0008】
めっきの対象部材は鉄素材のものが用いられる。最適な実施形態であるニッケル源に水酸化ニッケルのみを使用する場合、すなわち硫酸イオンフリーかつ錯化剤由来以外の塩化物イオンフリーの場合、建浴時のめっき浴組成は下表1の通りである。
【表1】
【0009】
亜鉛イオン濃度については高すぎると必要な光沢剤量が多くなってしまい、非経済的である。さらに皮膜の均一性が低下し、複雑な形状の部材においては低電流部へのツキマワリが弱くなってしまう。低すぎるとめっき速度が低下する。ニッケルイオン濃度については高すぎても低すぎても皮膜中のニッケル共析率が適切な値にならず、めっき皮膜の外観並びに化成皮膜処理後の外観が悪化する上、必要な耐食性が得られない。特に赤錆発生が早くなる傾向がある。水酸化物イオン濃度が高すぎると光沢剤分子を破壊し、必要な光沢剤量が多くなってしまうことが知られており、非経済的である。低すぎると皮膜の均一性、めっきのつきまわりが悪化する。錯化剤濃度が高すぎると電流効率が低下するほか、補給量も多くなってしまい、排水処理の手間も増大し非経済的である。低すぎると皮膜の均一性が悪化し、めっき皮膜の外観はもとより、化成皮膜処理後の外観も悪化する。
【0010】
最適なめっき条件は錯化剤の種類や濃度、または使用する光沢剤の種類や濃度により異なるが、通常、電流密度が静止めっきで電流密度1〜6A/dm2、バレルめっきで0.5〜1.5A/dm2、めっき温度が15〜50℃の範囲で行われる。
【実施例】
【0011】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。以下に示す各実施例の条件に従い0.2A−20分及び2A−20分、めっき浴温25℃でハルセル試験を行った。以下の実施例では特に断りのない場合、陽極にはニッケル板を用い、錯化剤はトリエチレンテトラミンとエピクロルヒドリンの反応物を用いた。光沢剤としてニコチン酸とエピクロルヒドリンを反応させた水溶性組成物(A)、イミダゾールとエピクロルヒドリンを反応させた水溶性組成物(B)を適量、用いた。外観は、低電部の灰色化と高電部のもや、及び全体の総合評価を行った。なお、以下において、実施例4及び5は参考例である。
【0012】
本発明の硫酸フリーニッケル補給法及び既存の硫酸ニッケルを用いる補給法についてランニング試験を行った。建浴時は全て硫酸フリーの亜鉛ニッケル合金めっき液を用いた。そして、酒石酸の有無によるめっき状態の変化を観察した。ランニング中もクエン酸の補給を行い、一定濃度を保つように調整した。ランニング試験中のニッケル濃度をニッケル共析率が建浴直後のプラスマイナス2%の範囲内に保たれるように適宜調整した。また、光沢剤についても適宜補給した。光沢剤(A)の濃度はニコチン酸及びニコチン酸誘導体の、光沢剤(B)はイミダゾール及びイミダゾール誘導体の濃度である。実施例および比較例の組成は表2の通りである。
・ランニング条件
【表2】
【0013】
・ランニング後評価
150AH/L電解後の実施例及び比較例についてハルセル試験を行い、光沢を評価した。評価ポイントは(1)0.2A−20分ハルセル試験における低電流部の灰色化(2)2A−20分ハルセル試験における高電流部のコゲ、モヤを見た。評価は(1)は灰色化が無いのが、(2)はコゲ、モヤがないのが高評価として5〜1の5段階評価(5が良くて1が劣る)において行った。また、ランニング前についてハルセル試験を行ったところ、全ての実施例及び比較例において(1)、(2)ともに5の評価となった。
【表3】
【0014】
この結果より、Ni補給剤に硫酸ニッケルを用いた場合には光沢剤(A)またはクエン酸を加えても高電流部や低電流部のめっき状態に対して効果がないが、硫酸ニッケル以外を用いた場合は光沢剤(A)、クエン酸ともに効果があり、併用した場合、更に効果が増大することが分かる。光沢剤(B)は比較例2のようにあまり効果がない。
【0015】
実施例1〜9では錯化剤としてトリエチレンテトラミンとエピクロルヒドリンの反応物を用いたが、トリエチレンテトラミンの代わりにエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、トリプロピレンテトラミンを用いて、実施例1〜9と同様に錯化剤を合成した。実施例8と同様の条件でランニング試験を実施したところ、以下の結果となった。
【表4】
【0016】
光沢剤(A)を合成するのに、これまでの実施例ではエピクロルヒドリンを用いていたが、その代わりにn−エチルブロマイド、ジクロルエチルエーテルを用いた場合について実施例8と同様の条件でランニング試験を実施したところ、以下の結果となった。
【表5】
【0017】
有機酸について、クエン酸の代わりに酒石酸、グルコン酸、グリコール酸を用いて実施例8と同様の条件でランニング試験を実施したところ、以下の結果となった。
【表6】
【0018】
建浴時のめっき液に硫酸根を2、5、10g/L添加して実施例1〜18、比較例1〜5の補給方法を実施したが5g/L以下では150AH/Lランニング後の試験結果において硫酸根を最初から含まない場合と違いがなかった。初期においては硫酸根を含んでいても補給において含まないことが本発明の実施においては重要である。
【0019】
本発明の実施例8及び比較例3〜5について、めっきを亜鉛めっきにして実施した。硫酸根濃度を0のもの、30g/Lのものの両方についてランニング中、維持するものの両方を行った。150AH/Lランニングを行ったが、全て極めて良好な外観を維持し、本発明を亜鉛めっきに適用しても効果が無いことが分かった。