特許第5874109号(P5874109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874109X線検出信号処理装置およびそれを用いたX線分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874109
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】X線検出信号処理装置およびそれを用いたX線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20160218BHJP
   G01T 1/36 20060101ALI20160218BHJP
   G01N 23/223 20060101ALN20160218BHJP
   G01N 23/207 20060101ALN20160218BHJP
【FI】
   G01T1/17 D
   G01T1/17 H
   G01T1/36 A
   G01T1/17 F
   !G01N23/223
   !G01N23/207
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-149421(P2014-149421)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-24102(P2016-24102A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2015年8月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】迫 幸雄
【審査官】 田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−113648(JP,A)
【文献】 特開平06−123778(JP,A)
【文献】 特開平07−239385(JP,A)
【文献】 特開2013−246096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00−23/227
G01T1/00−1/16、1/167−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検出器からの信号が入力され、前記X線検出器に入射したX線のエネルギーに応じた波高の信号を出力するX線検出信号処理装置であって、
前記X線検出器からの信号を増幅し、CR回路の時定数に応じて減衰させるプリアンプと、
クロック発振器と、
そのクロック発振器の発振に基づいて動作し、前記プリアンプからの信号を高速AD変換する高速ADコンバーターと、
その高速ADコンバーターからの信号の立ち上がりに基づいて信号の到達を認識し、到達を認識した信号についてフィルター関数によって平滑化して波高値を求め、その波高値について値の大きさから異常で無効なものとして処理できる波高分析器へ出力する信号処理部と、
前記プリアンプからの信号のレベルが所定の上限値を超えていない場合にはハイの信号を発し、前記プリアンプからの信号のレベルが前記所定の上限値を超えている場合にはローの信号を発するコンパレーターと、
そのコンパレーターからの信号がローからハイになるのを所定の時間遅延させて前記クロック発振器へ出力し、ローの信号を前記クロック発振器へ出力して発振を停止させることにより、前記高速ADコンバーターでの高速AD変換を停止させて出力値を維持させる制御部とを備えたX線検出信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線検出信号処理装置と、前記波高分析器とを用いたX線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線検出器からの信号が入力され、前記X線検出器に入射したX線のエネルギーに応じた波高の信号を出力するX線検出信号処理装置およびそれを用いたX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば蛍光X線分析において、X線検出器からの信号(X線検出器の出力信号。以下、各部の出力信号についても同様に表現する)をプリアンプで増幅し、高速ADコンバーターで高速AD変換して信号処理部のフィルター関数で平滑化することにより、X線検出器に入射したX線のエネルギー(波長)に応じた波高の信号(波高値)を出力するX線検出信号処理装置があるが、プリアンプのタイプにより以下に述べる2つの従来技術に分けられる(特許文献1の段落0005、0006参照)。いずれの従来技術においても、正しい信号処理のためには、プリアンプからの信号のレベルが、飽和していない範囲内つまり分析に有効な範囲内であることおよび高速ADコンバーターの入力範囲内であることの2つの条件を満たしている必要がある。
【0003】
第1の従来技術であるX線検出信号処理装置20では、図4に示すように、コンデンサーおよびリセットスイッチからなる回路23aを有するパルスリセットタイプのプリアンプ23が用いられる。このプリアンプ23では、図4の右上部の出力波形に示すように、X線検出器からの信号の1つ1つが増幅されコンデンサーにチャージされて積み上がっていき、積み上がったレベルが所定の上限値を超えると、コンパレーター27からリセット信号がプリアンプ23のリセットスイッチに発せられてコンデンサーが放電し、プリアンプ23がリセットされる。ここで、コンパレーター27における所定の上限値は、前記2つの条件を満たすように設定される。
【0004】
第2の従来技術であるX線検出信号処理装置30では、図5に示すように、コンデンサーおよび抵抗からなるCR回路13aを有する連続リセットタイプ(テールパルスタイプ、RCカップルタイプなどとも呼ばれる)のプリアンプ13が用いられる。このプリアンプ13では、図5の左上部の出力波形に示すように、X線検出器からの各信号が増幅され急峻に立ち上がってコンデンサーにチャージされる点については、パルスリセットタイプのプリアンプ23(図4)と同様であるが、各信号について、CR回路13aの時定数に応じてコンデンサーが放電し、チャージされたレベルが減衰する点で異なる。この特徴のため、CR回路13aの時定数を適切に設定する以外に、前記2つの条件を満たすために閾値を設定したコンパレーターを用いるなどの工夫はなされていない。ただし、一般に、プリアンプ13からの信号のレベルが高速ADコンバーター14の入力範囲内であるか否かについては、高速ADコンバーター14自身に判定機能が搭載されており、入力範囲を超えた場合には、高速AD変換を停止させることなく、オーバーレンジの信号を得て対処することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−511927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、第1の従来技術では、X線検出器からの各信号が増幅されコンデンサーにチャージされて減衰されずに積み上がっていくため、前記2つの条件を満たすようにコンパレーター27における所定の上限値を設定すると、X線検出器からの各信号についてプリアンプ23からの出力時に許容されるレベルは、例えば、プリアンプ23の出力が飽和しない有効な範囲の1/100程度、または、高速ADコンバーター14の入力範囲の1/100程度で、10mV程度となり、その結果、SN比が良好でなく、また、高計数率に対応できないなどの問題がある。
【0007】
一方、第2の従来技術では、X線検出器からの各信号について、増幅されコンデンサーにチャージされた後CR回路13aの時定数に応じてレベルが減衰するので、第1の従来技術よりもコンデンサーの値を小さくすることにより、各信号についてプリアンプ23からの出力レベルを例えば100mV程度に大きくでき、SN比が良好で、高計数率にも対応できる。また、前述したように、プリアンプ13からの信号のレベルが高速ADコンバーター14の入力範囲を超えた場合には、高速ADコンバーター14自身で対処できる。
【0008】
しかし、以下のような問題がある。図6に、第2の従来技術におけるプリアンプ13からの信号Poと高速ADコンバーター14からの信号ADoを縦に並べて示す。縦に並んだ図6の各部において、縦軸は各信号のレベルで、横軸は時間であり、プリアンプ13からの信号Poのレベルが飽和していない有効な範囲にある状態を左側に示し、X線検出器へのX線の入射頻度が高くなり重畳が起こった場合や、X線検出器へ強大なエネルギーの宇宙線が入射した場合であって、プリアンプ13からの信号Poのレベルが飽和していない有効な範囲を超えた状態を右側に示している。
【0009】
第2の従来技術では、高速ADコンバーター14は、プリアンプ13からの信号Poを常にそのまま高速AD変換し、信号処理部16は、高速ADコンバーター14からの信号ADoの急峻な立ち上がりに基づいて、信号の到達を認識し、到達を認識した信号についてフィルター関数によって平滑化して波高値を求め、多重波高分析器へ出力する。例えば、図6の左側に示したように、プリアンプ13からの信号Poのレベルが飽和していない有効な範囲にある状態では、プリアンプ13からの信号Poの急峻な立ち上がりNがそのまま高速AD変換されて、高速ADコンバーター14からの信号ADoの急峻な立ち上がりNdになる。その急峻な立ち上がりNdに基づいて、信号処理部16は、高速ADコンバーター14からの信号ADoの到達を認識し、到達を認識した信号ADoについてフィルター関数によって平滑化して波高値を求め、多重波高分析器へ出力する。多重波高分析器は、その波高値を正常で有効なものとして処理する。この動作には問題はない。
【0010】
一方、図6の右側に示したように、プリアンプ13からの信号Poのレベルが飽和していない有効な範囲を超えた状態では、プリアンプ13からの信号Poの急峻な立ち上がりA、ならびにその後の減衰の過程でプリアンプ13の特性上ノイズ(グリッジ、ザグなどと呼ばれる)として生じる急峻な立ち下がりBおよび急峻な立ち上がりCがそのまま高速AD変換されて、高速ADコンバーター14からの信号ADoの急峻な立ち上がりAd、急峻な立ち下がりBdおよび急峻な立ち上がりCdになる。2つの急峻な立ち上がりAd、Cdに基づいて、信号処理部16は、高速ADコンバーター14からの信号ADoについて2件の到達を認識し、到達を認識した2つの信号(ADoの前半と後半)についてそれぞれフィルター関数によって平滑化して波高値を求め、多重波高分析器へ出力する。多重波高分析器において、その2つの波高値のうち、先の急峻な立ち上がりAdについての波高値は、値の大きさから異常で無効なものとして処理できるが、後の急峻な立ち上がりCdについての波高値は、異常で無効なものとして処理することができず、前述の急峻な立ち上がりNdについての波高値と同様に、正常で有効なものとして処理することが起こる。その結果、多重波高分析器においてエネルギー分解能が劣化してしまう。
【0011】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、SN比が良好で、高計数率にも対応でき、しかも、X線検出器へのX線の入射頻度が高くなることや、X線検出器へ宇宙線が入射することがあっても、エネルギー分解能の高い分析ができるX線検出信号処理装置およびそれを用いたX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成のX線検出信号処理装置は、X線検出器からの信号が入力され、前記X線検出器に入射したX線のエネルギーに応じた波高の信号を出力するX線検出信号処理装置であって、前記X線検出器からの信号を増幅し、CR回路の時定数に応じて減衰させるプリアンプと、クロック発振器と、そのクロック発振器の発振に基づいて動作し、前記プリアンプからの信号を高速AD変換する高速ADコンバーターと、その高速ADコンバーターからの信号の立ち上がりに基づいて信号の到達を認識し、到達を認識した信号についてフィルター関数によって平滑化する信号処理部とを備えている。そして、さらに、前記プリアンプからの信号のレベルが所定の上限値を超えていない場合にはハイの信号を発し、前記プリアンプからの信号のレベルが前記所定の上限値を超えている場合にはローの信号を発するコンパレーターと、そのコンパレーターからの信号がローからハイになるのを所定の時間遅延させて前記クロック発振器へ出力し、ローの信号を前記クロック発振器へ出力して発振を停止させることにより、前記高速ADコンバーターでの高速AD変換を停止させて出力値を維持させる制御部とを備えている。
【0013】
第1構成のX線検出信号処理装置では、CR回路を有する連続リセットタイプのプリアンプを用い、プリアンプからの信号のレベルが所定の上限値を超えると、制御部が、高速ADコンバーターでの高速AD変換を停止させて出力を維持させるとともに、その後プリアンプからの信号のレベルが所定の上限値以下に減衰しても高速AD変換の再開を所定の時間遅延させるので、SN比が良好で、高計数率にも対応でき、しかも、X線検出器へのX線の入射頻度が高くなることや、X線検出器へ宇宙線が入射することがあっても、波高分析器で有効、無効について正しく処理できる波高値のみを出力することによりエネルギー分解能の高い分析ができる。
【0014】
本発明の第2構成のX線分析装置では、第1構成のX線検出信号処理装置を用いる。第2構成のX線分析装置によっても、第1構成のX線検出信号処理装置と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態のX線検出信号処理装置を示す概略図である。
図2】同X線検出信号処理装置を用いた蛍光X線分析装置の概略図である。
図3】同X線検出信号処理装置における各部からの信号を縦に並べて示す図である。
図4】第1の従来技術であるX線検出信号処理装置を示す概略図である。
図5】第2の従来技術であるX線検出信号処理装置を示す概略図である。
図6】同X線検出信号処理装置における各部からの信号を縦に並べて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態のX線検出信号処理装置について、図にしたがって説明する。この装置は、図1に示すように、X線検出器からの信号が入力され、X線検出器に入射したX線のエネルギーに応じた波高の信号を出力する装置10であって、X線検出器からの信号を増幅し、CR回路13aの時定数に応じて減衰させるプリアンプ13と、クロック発振器15と、そのクロック発振器15の発振に基づいて動作し、プリアンプ13からの信号を高速AD変換する高速ADコンバーター14と、その高速ADコンバーター14からの信号の立ち上がりに基づいて信号の到達を認識し、到達を認識した信号について、立ち上がりの高さから、換言すればフィルター関数によって平滑化して、波高値を求め、多重波高分析器へ出力する信号処理部16とを備えている。なお、本実施形態では、多重波高分析器に適用する場合の例を示すが、本発明のX線検出信号処理装置は、多重波高分析器(マルチチャンネルアナライザー)に限らず、シングルチャンネルの波高分析器にも適用できる。
【0017】
このように、本実施形態のX線検出信号処理装置10では、前述の第2の従来技術と同様にCR回路13aを有する連続リセットタイプのプリアンプ13を用いるので、X線検出器からの各信号についてプリアンプ13からの出力レベルを例えば100mV程度に大きくでき、SN比が良好で、高計数率にも対応できる。また、前述したように、プリアンプ13からの信号のレベルが高速ADコンバーター14の入力範囲を超えた場合には、高速ADコンバーター14自身で対処できる。
【0018】
そして、本実施形態のX線検出信号処理装置10は、さらに、プリアンプ13からの信号のレベルが所定の上限値を超えていない場合にはハイの信号を発し、プリアンプ13からの信号のレベルが前記所定の上限値を超えている場合にはローの信号を発するコンパレーター17と、そのコンパレーター17からの信号がローからハイになるのを所定の時間遅延させてクロック発振器15へ出力し、ローの信号をクロック発振器15へ出力して発振を停止させることにより、高速ADコンバーター14での高速AD変換を停止させて出力値を維持させる制御部18とを備えている。
【0019】
このコンパレーター17および制御部18を備えたことによる本実施形態のX線検出信号処理装置10の動作について説明する。図3に、本実施形態のX線検出信号処理装置10における、プリアンプ13からの信号Po、コンパレーター17からの信号CMo、制御部18からの信号CKe、高速ADコンバーター14からの信号ADoを縦に並べて示す。縦に並んだ図3の各部において、縦軸は各信号のレベルで、横軸は時間であり、プリアンプ13からの信号Poのレベルが飽和していない有効な範囲にある状態を左側に示し、X線検出器へのX線の入射頻度が高くなり重畳が起こった場合や、X線検出器へ強大なエネルギーの宇宙線が入射した場合であって、プリアンプ13からの信号Poのレベルが飽和していない有効な範囲を超えた状態を右側に示している。なお、コンパレーター17に設定された、プリアンプ13からの信号Poについての所定の上限値をHlで示し、コンパレーター17からの信号CMoおよび制御部18からの信号CKeについて、ハイをHで、ローをLで示している。
【0020】
図3の左側に示したように、プリアンプ13からの信号Poのレベルが、飽和していない有効な範囲にある状態では、つまり、コンパレーター17に設定された所定の上限値Hl以下であると、コンパレーター17からの信号CMoおよび制御部18からの信号CKeはいずれもハイであり、プリアンプ13からの信号Poの急峻な立ち上がりNがそのまま高速AD変換されて、高速ADコンバーター14からの信号ADoの急峻な立ち上がりNdになる。その急峻な立ち上がりNdに基づいて、信号処理部16は、高速ADコンバーター14からの信号ADoの到達を認識し、到達を認識した信号ADoについてフィルター関数によって平滑化して波高値を求め、多重波高分析器へ出力する。多重波高分析器は、その波高値を正常で有効なものとして処理する。この動作は、前述した第2の従来技術における問題のない動作と同様である。
【0021】
一方、図3の右側に示したように、プリアンプ13からの信号Poのレベルが、飽和していない有効な範囲を超えると、つまり、コンパレーター17に設定された所定の上限値Hlを超えると、コンパレーター17からの信号CMoおよび制御部18からの信号CKeはいずれもローになる。そして、制御部18からローの信号CKeがクロック発振器15へ出力されると、クロック発振器15は、高速ADコンバーター14を動作させている発振を停止するので、高速ADコンバーター14は高速AD変換を停止して、停止直前の出力値、つまり、プリアンプ13からの信号Poのレベルがコンパレーター17に設定された所定の上限値Hlに達したときの出力値を維持する。その結果、プリアンプ13からの信号Poの急峻な立ち上がりAは、上限値Hlに達するまで高速AD変換されて、高速ADコンバーター14からの信号ADoの急峻な立ち上がりAHldになる。
【0022】
急峻な立ち上がりAの後の減衰の過程で、プリアンプ13からの信号Poのレベルが、飽和していない有効な範囲に戻ろうとするときに、つまり、コンパレーター17に設定された所定の上限値Hl以下になろうとするときに、プリアンプ13の特性上ノイズ(グリッジ、ザグなどと呼ばれる)として急峻な立ち下がりBおよび急峻な立ち上がりCを生じる。この急峻な立ち下がりBおよび急峻な立ち上がりCにおいて、プリアンプ13からの信号Poのレベルは、コンパレーター17に設定された所定の上限値Hl未満にまで下がってから、再度超えるまで上がるので、コンパレーター17からの信号CMoは、ローからハイになり、すぐまたローに戻る。しかし、制御部18は、コンパレーター17からの信号CMoがローからハイになるのを所定の時間遅延させてクロック発振器15へ出力するので、制御部18からの信号CKeはローのままである。したがって、高速ADコンバーター14は、急峻な立ち上がりAHld終端の出力値を維持し続ける。なお、制御部18に設定される、コンパレーター17からの信号CMoがローからハイになるのを遅延させる所定の時間は、実験的に求めることができ、例えば0.03msecである。
【0023】
急峻な立ち上がりCの後の減衰の過程で、プリアンプ13からの信号Poのレベルが、飽和していない有効な範囲に戻ると、つまり、コンパレーター17に設定された所定の上限値Hlまで下がると、コンパレーター17からの信号CMoはローからハイになり、前述の所定の時間遅延して、制御部18からの信号CKeもローからハイになる。そして、制御部18からの信号CKeがハイになると、高速ADコンバーター14は、プリアンプ13からの信号Poの高速AD変換を再開するので、高速ADコンバーター14からの信号ADoも、プリアンプ13からの信号Poと同様に減衰していく。
【0024】
したがって、高速ADコンバーター14からの信号ADoには、最初に急峻な立ち上がりAHldが現れるだけで、これに基づいて、信号処理部16は、高速ADコンバーター14からの信号ADoの到達を認識し、到達を認識した信号ADoについてフィルター関数によって平滑化して波高値を求め、多重波高分析器へ出力する。多重波高分析器において、この波高値は、値の大きさから異常で無効なものとして処理でき、前述の急峻な立ち上がりNdについての波高値と同様に正常で有効なものとして処理されることはないので、エネルギー分解能が劣化するおそれがない。
【0025】
以上のように、本実施形態のX線検出信号処理装置10では、CR回路13aを有する連続リセットタイプのプリアンプ13を用い、プリアンプ13からの信号Poのレベルが所定の上限値Hlを超えると、制御部18が、高速ADコンバーター14での高速AD変換を停止させて出力を維持させるとともに、その後プリアンプ13からの信号Poのレベルが所定の上限値Hl以下に減衰しても高速AD変換の再開を所定の時間遅延させるので、SN比が良好で、高計数率にも対応でき、しかも、X線検出器へのX線の入射頻度が高くなることや、X線検出器へ宇宙線が入射することがあっても、波高分析器で有効、無効について正しく処理できる波高値のみを出力することによりエネルギー分解能の高い分析ができる。
【0026】
本実施形態のX線検出信号処理装置10は、例えば、図2の蛍光X線分析装置に用いられる。この蛍光X線分析装置は、試料台8に載置された試料3にX線管などのX線源1から1次X線2を照射して発生する蛍光X線4を検出手段9で検出する蛍光X線分析装置であって、前述のX線検出信号処理装置10と、X線検出信号処理装置10からの波高の信号(波高値)について多数の連続した波高範囲ごとに分別して計数率を求めることにより、波高に対する計数率の分布であるエネルギースペクトル(波高分布曲線)を得る多重波高分析器11と、多重波高分析器11で得たエネルギースペクトルに基づいて試料3における成分の含有率等を算出する定量手段12とを備える。X線検出信号処理装置10、多重波高分析器11および定量手段12の少なくとも一部は、具体的には、コンピューターおよびそれに接続された入出力機器で構成される。
【0027】
検出手段9は、試料3から発生する2次X線4を分光する分光素子5と、分光された2次X線6ごとにそのエネルギー(波長)に応じた波高をもつ信号(パルス)を前記分光された2次X線6の強度に応じた数だけ発生させるX線検出器7で構成される。なお、分光素子5を用いる検出手段9には、検出する2次X線4の波長が固定された固定型と、検出する2次X線4の波長を走査できる走査型とがあるが、必要に応じ、いずれをいくつ備えてもよい。また、分光素子5を用いずに、エネルギー分解能の高いX線検出器を検出手段とすることもできる。この蛍光X線分析装置では、前述のX線検出信号処理装置10を用いるので、前述したのと同様の作用効果が得られる。この蛍光X線分析装置も、本発明の一実施形態であり、本発明に含まれる。また、本発明のX線検出信号処理装置を用いる、蛍光X線分析装置以外のX線分析装置(例えばX線回折装置)も、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
7 X線検出器
10 X線検出信号処理装置
13 プリアンプ
13a CR回路
14 高速ADコンバーター
15 クロック発振器
16 信号処理部
17 コンパレーター
18 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6