【文献】
伊東祐二,ペプチドによる新規ヒト抗体の検出・精製法の開発, 育成研究:JSTイノベーションサテライト宮崎 平成18年度採択課題「制御型ヒト抗体結合ペプチドによる抗体の検出、精製技術の開発」,2009年,[検索日 2015.06.11], インターネット<http://www.jst.go.jp/chiiki/ikusei/seika/h21/h21_miyazaki02.pdf>
【文献】
J. Immunol.,2002年,Vol.169,P.1357-1364
【文献】
J. Biol. Chem.,2009年,Vol.284, No.15,P.9986-9993
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO 1992/017588
【特許文献2】国際公開第WO 2000/063383
【特許文献3】国際公開第WO 2008/054030
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Holmgren, J. (1991) Fems Microbiology Immunology 89(1), 1-9
【非特許文献2】Holmgren, J., and Czerkinsky, C. (2005) Nat. Med. 11(4), S45-S53
【非特許文献3】Dechant, M., Beyer, T., Schneider-Merck, T., Weisner, W., Peipp, M., van de Winkel, J. G., and Valerius, T. (2007) J Immunol 179(5), 2936-2943
【非特許文献4】Zhao, J., Kuroki, M., Shibaguchi, H., Wang, L., Huo, Q., Takami, N., Tanaka, T., Kinugasa, T., and Kuroki, M. (2008) Oncol. Res. 17(5), 217-222
【非特許文献5】Beyer, T., Lohse, S., Berger, S., Peipp, M., Valerius, T., and Dechant, M. (2009) Journal of Immunological Methods 346(1-2), 26-37
【非特許文献6】Pack, T. D. (2001) Current protocols in Immunology / edited by John E. Coligan et al Chapter 2, Unit 2 10B
【非特許文献7】Kondoh, H., Kobayashi, K., and Hagiwara, K. (1987) Molecular immunology 24(11), 1219-1222
【非特許文献8】Palombo, G., De Falco, S., Tortora, M., Cassani, G., and Fassina, G. (1998) J Mol Recognit 11(1-6), 243-246
【非特許文献9】Frithz, E., Heden, L. O., and Lindahl, G. (1989) Molecular Microbiology 3(8), 1111-1119
【非特許文献10】Russell-Jones, G. J., Gotschlich, E. C., and Blake, M. S. (1984) The Journal of Experimental Medicine 160(5), 1467-1475
【非特許文献11】Lindahl, G., Akerstrom, B., Vaerman, J. P., and Stenberg, L. (1990) European Journal of Immunology 20(10), 2241-2247
【非特許文献12】Stenberg, L., O'Toole, P. W., Mestecky, J., and Lindahl, G. (1994) The Journal of Biological Chemistry 269(18), 13458-13464
【非特許文献13】Sandin, C., Linse, S., Areschoug, T., Woof, J. M., Reinholdt, J., and Lindahl, G. (2002) J Immunol 169(3), 1357-1364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒトIgAに特異的又は選択的に結合性を有するペプチドを提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、該ペプチドを用いてヒトIgAを精製する又は分析(例えば、検出又は定量)する方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ヒトIgAは、背景技術に記載したように、粘膜及び血中に存在し、感染等に対する防御に重要な役割を果たしている。このような特性のために、IgAは抗体医薬として感染症や腫瘍等の疾患の治療に使用されようとしている。本発明は、このような状況を踏まえたものであり、ヒトIgAに特異的又は選択的に結合可能なペプチドを提供することによって医薬として使用可能なIgAの精製及び分析のために有用であると考えられる。
【0010】
本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
【0011】
[1] 下記の式I:
(X
1-3)-C-(X
8-10)-C-(X
1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基である。)
によって表される、12〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とするペプチド。
【0012】
[2] 下記の式II:
(X
3)-C-L-(X
7-9)-C-(X
3) (II)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基であり、Lはロイシン残基であり、但し、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xは独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失している。)
によって表される、16〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする、上記[1]に記載のペプチド。
【0013】
[3] 下記の式III:
(X
3)-C-L-X-Y-(X
1-3)-G-(X
2)-V-C-(X
3) (III)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基であり、Lはロイシン残基であり、Yはチロシン残基であり、Gはグリシン残基であり、Vはバリン残基であり、但し、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xは独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失している。)
によって表される、16〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする、上記[2]に記載のペプチド。
【0014】
[4] 下記の式IV:
(X
3)-C-L-X-Y-(X
1-3)-G-(X
2)-V-C-(X
3) (IV)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基であり、Lはロイシン残基であり、Yはチロシン残基であり、Gはグリシン残基であり、Vはバリン残基であり、但し、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xは独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失している、並びに、N末端から16番目及び18番目のアミノ酸残基は独立的に疎水性アミノ酸残基である。)
によって表される、16〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする、上記[3]に記載のペプチド。
【0015】
[5] 18アミノ酸残基とした場合の、N末端から1〜3、5〜14、16〜18番目の各アミノ酸残基が、
1番目のアミノ酸残基= Q, H, K, R, S又はP、
2番目のアミノ酸残基= M, K, R, L, V, A又はD、
3番目のアミノ酸残基= R, L, M又はV、
5番目のアミノ酸残基= L、
6番目のアミノ酸残基= S, H, Q, T, K, R, N又はA、
7番目のアミノ酸残基= Y、
8番目のアミノ酸残基= K又はR、
9番目のアミノ酸残基= C以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいは欠失している、
10番目のアミノ酸残基= C以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいは欠失している、
11番目のアミノ酸残基= G、
12番目のアミノ酸残基= R, S, T又はK、
13番目のアミノ酸残基= R, M, K, E, N又はP、
14番目のアミノ酸残基= V、
16番目のアミノ酸残基= L, F, V又はI、
17番目のアミノ酸残基= W, L, R, E, T, S, Q, P又はA、あるいは、
18番目のアミノ酸残基= L, I, Y, A又はV
である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のペプチド。
【0016】
[6] 上記の式I〜式IVのペプチドにおいて、18アミノ酸残基とした場合のN末端から16番目のアミノ酸残基Xがロイシン又はフェニルアラニン残基である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のペプチド。
【0017】
[7] 上記の式I〜式IVのペプチドにおいて、18アミノ酸残基とした場合のN末端から18番目のアミノ酸残基Xがロイシン残基である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のペプチド。
【0018】
[8] 以下の1)〜26)のいずれかのアミノ酸配列からなる、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のペプチド。
【0019】
1) HMRCLHYKGRRVCFLL(配列番号1)
2) QMRCLSYKGRRVCLWL(配列番号2)
3) HKRCLHYRGRMVCFLI(配列番号3)
4) KRLCLQYKGSKVCFRL(配列番号4)
5) RMRCLTYRGRRVCLEL(配列番号5)
6) SMRCLQYRGSRVCLTL(配列番号6)
7) QKRCLKYKGSRVCFFL(配列番号7)
8) HLRCLRYKGTRVCFSL(配列番号8)
9) HVRCLSYKGREVCVQL(配列番号9)
10) PRMCLHYKGRRVCIPY(配列番号10)
11) HVRCLRYRGKNVCFLL(配列番号11)
12) SDVCLRYRGRPVCFQV(配列番号15)
13) RDVCLRYRGRPVCFQV(配列番号16)
14) HDVCLRYRGRPVCFQV(配列番号17)
15) SMVCLRYRGRPVCFQV(配列番号19)
16) SAVCLRYRGRPVCFQV(配列番号20)
17) SDVCLNYRGRPVCFQV(配列番号24)
18) SDVCLHYRGRPVCFQV(配列番号25)
19) SDVCLAYRGRPVCFQV(配列番号26)
20) SDVCLRYRGRPVCFRV(配列番号37)
21) SDVCLRYRGRPVCFLV(配列番号38)
22) SDVCLRYRGRPVCFAV(配列番号39)
23) SDVCLRYRGRPVCFQL(配列番号41)
24) SDVCLRYRGRPVCFQA(配列番号42)
25) HMVCLAYRGRPVCFAL(配列番号43)
26) HMVCLSYRGRPVCFSL(配列番号44)
[9] ペプチドが2つのシステイン(C)残基間でジスルフィド結合を形成している、上記[1]〜[8]のいずれかに記載のペプチド。
【0020】
[10] IgAの血清型(単量体)及び分泌型(二量体)に結合する、上記[1]〜[9]のいずれかに記載のペプチド。
【0021】
[11] 標識が結合されている、上記[1]〜[10]のいずれかに記載のペプチド。
【0022】
[12] 上記[1]〜[11]のいずれかに記載のペプチドと連結されたタンパク質からなる融合タンパク質。
【0023】
[13] 上記[1]〜[11]のいずれかに記載のペプチドを固相に結合してなる固定化ペプチド。
【0024】
[14] 上記[1]〜[11]のいずれかに記載のペプチドをコードする核酸。
【0025】
[15] 上記[1]〜[11]のいずれかに記載のペプチド又は上記[13]に記載の固定化ペプチドをIgAと結合させること、並びに、結合したIgAを遊離させてIgAを回収することを含む、IgAの精製方法。
【0026】
[16] 上記[1]〜[11]のいずれかに記載のペプチド又は上記[13]に記載の固定化ペプチドにサンプル中のIgAを結合させ、結合したIgAを検出することを含む、IgAの検出方法。
【0027】
[17] 上記[1]〜[11]のいずれかに記載のペプチド又は上記[13]に記載の固定化ペプチドの少なくとも1種を含む、ヒトIgAの分析又は精製のためのキット。
【0028】
[18] 上記[13]に記載の固定化ペプチドを含有する、IgA分離用カラム。
【0029】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2010-118508号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【0030】
本発明のヒトIgA結合性ペプチドは、IgG、IgM及びIgEと比べてIgAに対し高い選択性をもってヒトIgAに結合可能であるという利点を有している。このことは、例えばヒト血清等からIgAを選択的に分離することを可能にすることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
今回、本発明者らが見出したヒトIgAに対し特異的又は選択的な結合性を有するペプチドは、T7ファージ提示システムによって構築された分子内に1つのジスルフィド結合を含むランダムペプチドライブラリ( Sakamoto, K., Ito, Y., Hatanaka, T., Soni, P. B., Mori, T., and Sugimura, K. (2009) The Journal of biological chemistry 284(15), 9986-9993)を参考に、新たにデザイン、構築したライブラリからバイオパンニング法を利用して単離されたものであり、このとき得られた4種の特異的クローンは、互いに共通の配列の相同性が見られ、その配列を基に多様に置換又は欠失して調製した合成ペプチドは、IgAに対する優れた特異性と親和性を示した。これらのペプチドのIgA結合に必須の残基の同定を行い、親和性増強へのアプローチ並びに該ペプチドを使ったヒト血清からのIgAの精製への応用を可能にした。本発明のIgA結合性ペプチドは、最もコンパクトな、すなわち小さな、もので、12又は13残基であり、非特許文献13に記載されたStreptococcus Sir22 (M22)由来の約50残基のSapペプチド(C末端に1つのCysを有する。)に比べても4分の1程度と小さく、これにより低コストによるペプチドをベースにしたIgAの精製システムの構築が期待できる。
【0033】
以下に、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0034】
具体的には、本発明のIgA結合性ペプチド、該ペプチドによるIgAの精製法及び分析法、そのようなIgA精製又は検出のためのキットについて説明する。
【0035】
(IgA結合性ペプチド)
本発明のペプチドは、多数のランダムペプチドを含むファージライブラリのなかからヒトIgAと特異的に又は選択的に結合性を有するものとしてスクリーニングされたものであり、従来公知の非特許文献13に記載されるようなポリペプチドとはその由来や一次構造が異なるものである。
【0036】
本明細書中で使用するヒトIgAは、IgA1及び/又はIgA2を指すものとする。
【0037】
すなわち、本発明のペプチドは、最も広義の一次構造として、下記の式I:
(X
1-3)-C-(X
8-10)-C-(X
1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基である。)
によって表される、12〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とするペプチドである。
【0038】
上記式で、N末端又はC末端のX
1-3という表記は、システイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが1〜3個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは3個すべてが同じ残基でない配列からなる。同様に、X
8-10もシステイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが8〜10個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは3個以上が同じ残基でない配列からなる。また、以下の式でX
3、X
7-9、X
2などの表記がでてくるが、これらも同様の意味を有する。
【0039】
式Iの2つのシステイン残基はジスルフィド結合して環状ペプチドを形成することができる。通常、式Iのペプチドはジスルフィド結合している。
【0040】
式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式II、式III及び式IVで表されるペプチドを以下に示す。
【0041】
すなわち、式IIで表されるペプチドは、
(X
3)-C-L-(X
7-9)-C-(X
3) (II)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基であり、Lはロイシン残基であり、但し、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xは独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失している。)
によって表される、16〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする。
【0042】
式IIIで表されるペプチドは、
(X
3)-C-L-X-Y-(X
1-3)-G-(X
2)-V-C-(X
3) (III)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基であり、Lはロイシン残基であり、Yはチロシン残基であり、Gはグリシン残基であり、Vはバリン残基であり、但し、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xは独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失している。)
によって表される、16〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする。
【0043】
式IVで表されるペプチドは、
(X
3)-C-L-X-Y-(X
1-3)-G-(X
2)-V-C-(X
3) (IV)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、Cはシステイン残基であり、Lはロイシン残基であり、Yはチロシン残基であり、Gはグリシン残基であり、Vはバリン残基であり、但し、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xは独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいはそのいずれか一方又は両方が欠失している、並びに、N末端から16番目及び18番目のアミノ酸残基は独立的に疎水性アミノ酸残基である。)
によって表される、16〜18アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgAと結合可能であることを特徴とする。
【0044】
上記の式II〜IVのペプチドのアミノ酸配列において、18アミノ酸残基とした場合の、N末端から9番目及び10番目のアミノ酸残基Xはともに欠失していることが好ましく、そのようなペプチドは16アミノ酸長からなる。
【0045】
本明細書で使用する「18アミノ酸残基とした場合の」とは、ペプチドのアミノ酸残基をアミノ酸位置番号で呼ぶときに、最長のアミノ酸長である18残基のN末端から順番に1番目から18番目まで番号づけするために便宜的に表現した用語である。
【0046】
さらに、上記の各式のペプチドのアミノ酸配列のシステイン(C)以外のアミノ酸残基、すなわち、18アミノ酸残基とした場合のN末端から1〜3、5〜14、16〜18番目の各アミノ酸残基は、以下のものから選択されることが好ましい。ここで、各大文字のアルファベットは、アミノ酸の一文字表記である。
【0047】
1番目のアミノ酸残基= Q, H, K, R, S又はP、好ましくはH
2番目のアミノ酸残基= M, K, R, L, V, A又はD、好ましくはM
3番目のアミノ酸残基= R, L, M又はV、好ましくはV
5番目のアミノ酸残基= L
6番目のアミノ酸残基= S, H, Q, T, K, R, N又はA、好ましくはS又はA
7番目のアミノ酸残基= Y
8番目のアミノ酸残基= K又はR、好ましくはR
9番目のアミノ酸残基= C以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいは欠失している、好ましくは欠失している
10番目のアミノ酸残基= C以外の任意のアミノ酸残基であるか、あるいは欠失している、好ましくは欠失している
11番目のアミノ酸残基= G
12番目のアミノ酸残基= R, S, T又はK、好ましくはR
13番目のアミノ酸残基= R, M, K, E, N又はP、好ましくはP
14番目のアミノ酸残基= V
16番目のアミノ酸残基= L, F, V又はI、好ましくはL又はF
17番目のアミノ酸残基= W, L, R, E, T, S, Q, P又はA、好ましくはS又はA
18番目のアミノ酸残基= L, I, Y, A又はV、好ましくはL
本発明のペプチドの具体例のいくつかを以下の1)〜26)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない。このようなペプチドはいずれもヒトIgAに対し他の種の免疫グロブリンと比べて格別に高い結合特異性又は結合選択性を有している。
【0048】
1) HMRCLHYKGRRVCFLL(配列番号1)
2) QMRCLSYKGRRVCLWL(配列番号2)
3) HKRCLHYRGRMVCFLI(配列番号3)
4) KRLCLQYKGSKVCFRL(配列番号4)
5) RMRCLTYRGRRVCLEL(配列番号5)
6) SMRCLQYRGSRVCLTL(配列番号6)
7) QKRCLKYKGSRVCFFL(配列番号7)
8) HLRCLRYKGTRVCFSL(配列番号8)
9) HVRCLSYKGREVCVQL(配列番号9)
10) PRMCLHYKGRRVCIPY(配列番号10)
11) HVRCLRYRGKNVCFLL(配列番号11)
12) SDVCLRYRGRPVCFQV(配列番号15)
13) RDVCLRYRGRPVCFQV(配列番号16)
14) HDVCLRYRGRPVCFQV(配列番号17)
15) SMVCLRYRGRPVCFQV(配列番号19)
16) SAVCLRYRGRPVCFQV(配列番号20)
17) SDVCLNYRGRPVCFQV(配列番号24)
18) SDVCLHYRGRPVCFQV(配列番号25)
19) SDVCLAYRGRPVCFQV(配列番号26)
20) SDVCLRYRGRPVCFRV(配列番号37)
21) SDVCLRYRGRPVCFLV(配列番号38)
22) SDVCLRYRGRPVCFAV(配列番号39)
23) SDVCLRYRGRPVCFQL(配列番号41)
24) SDVCLRYRGRPVCFQA(配列番号42)
25) HMVCLAYRGRPVCFAL(配列番号43)
26) HMVCLSYRGRPVCFSL(配列番号44)
上記の26種のペプチドのうち配列番号43(A3-1(Opt1))及び配列番号44(A3-1(Opt2))のペプチドがとりわけヒトIgA(「hIgA」とも記載する。)との高い親和性を有している。
【0049】
前述のとおり、本発明に関わる上記式のペプチドは、各アミノ酸配列のなかに離間した2つのシステイン(C)残基を有し、該システイン残基間でジスルフィド結合を形成しうるようにシステイン残基が配置されていることを特徴としており、好ましいペプチドは、2つのシステイン残基がジスルフィド結合して環状ペプチドを形成し、各システイン残基のN末端側及びC末端側には1〜3個、好ましくは3個、のシステイン以外の任意のアミノ酸残基を有している。1〜3、16〜18番目のそのようなアミノ酸残基は、上記例示のものである。
【0050】
本発明のペプチドは、ヒトIgAとの結合親和性が、他のヒト免疫グロブリン(IgG、IgE又はIgM)と比較して約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高い。本発明のペプチドとヒトIgAとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム(タンパク質相互作用解析)使用)により決定可能であり、例えば1×10
-5M〜1×10
-7M未満、好ましくは1×10
-8M未満、より好ましくは1×10
-9M未満、さらに好ましくは1×10
-10M未満である。
【0051】
固相に固定化した本発明のペプチドを用いて、実際にヒト血清中のIgAとの結合を試みたときには、IgAの血清型(単量体)及び分泌型(二量体)に結合することが判明し、そのいずれのIgAの分離も可能であることが示された。
【0052】
本発明のペプチドは、慣用の液相合成法、固相合成法などのペプチド合成法、自動ペプチド合成機によるペプチド合成などによって製造することができる(Kelley et al., Genetics Engineering Principles and Methods, Setlow, J.K. eds., Plenum Press NY. (1990) Vol.12, p.1-19;S tewart et al., Solid-Phase Peptide Synthesis (1989) W.H. Freeman Co.; Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82: p.5132、「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992)日本生化学会編,東京化学同人、東京、日本国)。あるい は、本発明のペプチドをコードする核酸を用いた遺伝子組換え法やファージディスプレイ法などによって、ペプチドを製造してもよい。例えば本発明のペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを発現ベクター中に組み込み、宿主細胞中に導入し培養することにより、目的のペプチドを製造することができる。 製造されたペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLCなどのクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、免疫吸着法などにより、回収又は精製することができる。
【0053】
ペプチド合成は、各アミノ酸の、結合しようとするα−アミノ基とα−カルボキシル基以外の官能基を保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のα−アミノ基とα−カルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。通常、ペプチドのC末端に位置するアミノ酸残基のカルボキシル基を適当なスペーサー又はリンカーを介して固相に結合しておく。上で得られたジペプチドのアミノ末端の保護基を選択的に除去し、次のアミノ酸のα−カルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。このような操作を連続して行い側基が保護されたペプチドを製造し、最後に、すべての保護基を除去し、固相から分離する。保護基の種類や保護方法、ペプチド結合法の詳細は、上記の文献に詳しく記載されている。
【0054】
遺伝子組換え法は、本発明のペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、細胞を培養し、細胞内から又は細胞外液から目的のペプチドを回収することを含む。ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、ウイルスなどのベクターである。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)などが挙げられる。ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、 T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、λファージベクター(Charon4A、 Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、センダイウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスなどが挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist 6、Charomid9-20、Charomid9-42などが挙げられる。ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、pComb3Hなどが知られている。ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイトなどが含まれうる。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、ポリAサイトなどが含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、等が用いられうる。ベクターを導入するための宿主細胞は、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等であり、これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、PEG法等を含む。形質転換細胞を培養する方法は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養では、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有する。本発明のペプチドの回収を容易にするために、発現によって生成したペプチドを細胞外に分泌させることが好ましい。そのために、その細胞からのペプチドの分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、目的ペプチドをコードするDNAの5'末端側に結合する。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積された目的ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的ペプチドを回収する。
【0055】
それゆえに、本発明はさらに、本発明のペプチドをコードする核酸にも関する。ここで、核酸は、DNA又はRNA(例えばmRNA)を含む。
【0056】
本発明のペプチドは、IgAの検出を可能にするために、標識されていてもよい。標識は、限定されないが、例えば蛍光色素、化学発光色素、酵素、放射性同位元素、蛍光タンパク質、ビオチンなどを含む。好ましい標識の例は、フルオレセイン、FITCなどのフルオレセイン誘導体、ローダミン、テトラメチルローダミンなどのローダミン誘導体、テキサスレッドなどの蛍光色素である。
【0057】
本発明のペプチドは、任意のタンパク質と融合させてもよい。タンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質)のような蛍光タンパク質、ペルオキシダーゼなどの酵素などであれば、該タンパク質を標識として使用できる。この場合、本発明のペプチドと該タンパク質とを、必要に応じて適当なリンカーを介して融合タンパク質として遺伝子組換え法によって作製できる。このとき、本発明のペプチドがヒトIgAとの結合性を損なわないように融合タンパク質を作製するべきである。
【0058】
本発明のペプチドはさらに、ヒトIgAの分離精製、分析などに使用できるように、アフィニティカラムに充填可能な固相上に固定化されてもよい。
【0059】
ペプチドを固定化するのに用いる好適な固相としては、限定するものではないが、 例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、スチレン−ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステルポリマー、フッ素樹脂、シリカゲル、架橋デキストラン、ポリサッカライド、アガロース等の多糖類、ガラス、金属、磁性物質、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。そのような固相の形状は、例えば、トレー、球、繊維、粒子、棒、平板、容器、セル、マイクロプレート、試験管、膜(フィルム又はメンブラン)、ゲル、チップなどの任意の形状でよい。具体的には例えば、磁性ビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、セファロースビーズ、シリカゲルビーズ、多糖類ビーズ、ポリスチレンプレート、ガラスプレート、ポリスチレンチューブなどが挙げられる。これら固相への本発明のペプチドの固定化は、当業者に周知の方法を用いて行うことができ、例えば物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等によって行うことができる。固定化は共有結合にて行うことが好ましく、固相表面に化学官能基(例えばヒドロキシ基、アミノ基、N-ヒドロキシスクシンイミジル基など)、好ましくは炭素数約4〜20のアルキレン鎖をスペーサーとして有する化学官能基を有しており、これとペプチドのカルボキシ末端を化学的に反応させてエステル結合又はアミド結合等を形成する。本発明のペプチドを固定化した固相は、アフィニティークロマトグラフィーカラム、HPLCカラム等のカラムに充填して、ヒトIgAを検出、精製又は分離するために用いることができる。
【0060】
(IgAの精製法)
本発明はさらに、上記の本発明のペプチド又は固定化ペプチドをIgAと結合させること、並びに、結合したIgAを遊離させてIgAを回収することを含む、IgAの精製方法を提供する。
【0061】
本発明のペプチドを固定化した固相を、アフィニティークロマトグラフィーカラム、HPLCカラム等のカラムに充填し、適当なバッファーで平衡化し、室温〜0℃、好ましくは約10℃〜0℃の低温(更に好ましくは約4℃)でヒトIgAを含有する液をアプライし、固相上のペプチドにヒトIgAを結合させる。例えば血清中のIgAを分離する場合には、中性域のpH、例えばpH6.0〜7.5のバッファーを使用してカラムにアプライし、結合操作を行うことができる。溶出は、酸性域のpH、例えばpH2〜4のバッファー(例えば0.3MのNaClを含有するpH3.5からpH2.5の0.2Mグリシン-HClバッファー)をカラムに流して行うことができる。
【0062】
IgAが回収されたがどうかは、例えば、電気泳動、その後の抗ヒトIgA抗体を使用するウエスタンブロット法によって測定できる。泳動条件は、5〜20%アクリルアミドグラジエントゲルを用いたSDS-PAGEを行い、また、ウエスタンブッロト条件は、泳動後のタンパク質をPVDF膜に転写し、スキムミルクでブロッキング後、抗ヒトIgAα鎖ヤギ抗体とHRP標識抗ヤギIgGマウス抗体で検出を行うことができる。
【0063】
本発明の方法は、種々の方法で生産されたIgA含有生産物からIgAを精製する工程のなかでIgAに富む画分を得る場合に有用である。それゆえに、アフィニティークロマトグラフィー、HPLC等のカラムクロマトグラフィーにおいて本発明の方法を使用することが好ましい。IgAの精製に際しては、このようなクロマトグラフィー法に加えて、タンパク質の慣用的な精製技術、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過などを適宜組み合わせることができる。
【0064】
(IgAの分析法)
本発明はさらに、上記の本発明のペプチド又は固定化ペプチドにサンプル中のIgAを結合させ、結合したIgAを検出することを含む、IgAの検出方法を提供する。ここで、検出には、定性又は定量のいずれかの分析を含むものとする。
【0065】
IgAの検出は、操作中に適するバッファーを使用しながら、メンブランやポリスチレンウエルプレートなどにサンプルを結合し、これに本発明の標識ペプチドを接触させ、必要に応じて洗浄後、標識のレベルを定性又は定量することによって行うことができる。
【0066】
あるいは、上記のような本発明のペプチドを固定化したHPLCカラムを使用する場合には、該カラムに、ヒトIgAを含有するサンプルを注入し、結合バッファーを流してペプチドにヒトIgAを結合し、例えば吸光度280nmで、もしくは280nmの励起光による350nmの蛍光で、タンパク質を検出し記録し、溶出緩衝液(例えば、0.15MのNaClを含む0.1Mグリシン塩酸緩衝液pH2.5へのグラジエント溶出)にてカラムから溶出させ、現れたピーク及びピーク面積により、IgAの定性及び定量を行うことができる。
【0067】
(キット及びカラム)
本発明はさらに、上記の本発明のペプチド又は固定化ペプチドの少なくとも1種を含む、ヒトIgAの分析(定性、定量等)又は精製のためのキットを提供する。
【0068】
本発明のキットに含まれる個々のペプチド又は固定化ペプチドは、個別の容器に収容される。また、必要であれば、ヒトIgAの分析手順や精製手順を記載した使用説明書をキットに備えてもよい。さらにキットには、分析に必要な試薬やバッファー、固定化ペプチド充填カラムなどを含めてもよい。
【0069】
本発明はさらに、上記の本発明の固定化ペプチドを含有する、IgA分離用カラムを提供する。
【0070】
固定化ペプチドは、ペプチドを、一般にクロマトグラフィー用の担体(充填材)に共有的に又は非共有的に結合することによって作製されうる。そのような担体の例は、アガロースやセファロースなどの多糖類ベースの担体、シリカゲルベースの担体、樹脂ベース若しくはポリマーベースの担体などである。ペプチドを担体に結合するときには、炭化水素鎖(例えばC4〜C16)のようなスペーサーを介して結合してもよい。
【0071】
上記IgA分離用カラムは、IgAを分離するためのカラムであり、具体的には、IgAの分析又は精製・分取のための、クロマトグラフィーカラム、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラム等のカラムを包含する。カラムのサイズは、特に制限されないものとし、分析用、精製・分取用などの用途、アプライ(搭載)又は注入する量、などに応じて変化させうる。また、カラムの材質は、金属、プラスチック、ガラス等の、カラムとして通常使用されるようなものでよい。
【0072】
上記のカラムは、上記の手法に準じて作製した本発明の固定化ペプチド(乾燥又は湿潤状態)をカラムに密に充填することによって製造できる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、それらの実施例によって制限されないものとする。
【0074】
[実施例1]
ランダムペプチドT7ファージライブラリからのヒトIgA特異的ファージの単離
既に構築しているT7ファージ提示システムを用いたランダムペプチドライブラリ(CX
7-10C 並びにX
3CX
7-10CX
3)から、ヒトIgA特異的なファージを単離するため、以下のバイオパンニングの手法を用いた。すなわち、0.5%BSAを含むPBS中の5×10
10 pfuのT7ファージライブラリ(CX
7-10CとX
3CX
7-10CX
3の混合物)溶液を、ヒトIgG(ポリクローナル、ICN/Cappel Biomedicals)をコート(1μg/100μl/well)し、0.5%BSAでブロッキングした96穴マイクロプレート(Nunc, Maxisorp)のウェルに加え、1時間反応させた(吸収ステップ)。その上清を、次に、ヒトIgA(From human plasma, Athens Research & Technology, Athens, GA, USA)をコート(1μg/100μl/well)し、0.5%BSA(牛血清アルブミン)でブロッキングしたウェルに移し、1時間反応を行った(結合ステップ)。上清のファージ溶液を除いた後、0.1%Tween(登録商標)を含むPBS(リン酸緩衝塩水)で5回ウェルを洗浄した(洗浄ステップ)。大腸菌5615(Novagen)の培養液(300μl)を加えて感染させ、3mlの大腸菌培養液と一緒に37℃にて、増殖、溶菌するまでインキュベートした(増殖ステップ)。溶菌後の培養液から定法に従い、ポリエチレングリコールによるファージ沈殿法によってファージを回収した。得られたファージは、PBSに溶解させ、0.45μmのフィルターを通した後、次のパンニングに用いた。上記を含め5回のパンニングを行うことによって、IgA特異的なファージを濃縮した。ただし、3〜5回目のパンニングでは、吸収ステップでは、ヒトIgG並びにマウスIgE(それぞれ1μg/well)をコートしたウェルを用いて、また、洗浄ステップでは、0.3%Tween(登録商標)を含むPBSで10回洗浄した。
【0075】
5回のパンニング後に得られたファージの種々のイムノグロブリンに対する結合特異性をELISAで調べたところ、
図1に示したように、元のライブラリを用いたELISAの結果に比べ、明らかにヒトIgAに対する結合活性の増大が見られた。
【0076】
そこで、これらのファージをランダムに20クローン、クローニング後、ELISAによって結合活性の見られた10クローンについて、提示するペプチドモチーフの解析を行い、アミノ酸配列を決定した(表1)。
【表1】
【0077】
得られたペプチドについて4種のモチーフ(hA-1,2,3,4)が得られた。得られたモチーフのうち、hA-2が最も高い出現頻度を示した。また得られたモチーフ間のアミノ酸配列の比較では、完全に保存された残基がライブラリのデザイン時に導入されたCysを除いてLeu5、Phe16、また18番目には疎水性残基が好まれる傾向を示した。
【0078】
クローン化したファージ(hA-1,2,3,4)の種々のイムノグロブリンに対する結合特性を調べた結果を
図2に示す。いずれのクローンともヒトIgAに特異性が見られ、hA-2に関しては、マウスIgAにも結合活性が見られた。
【0079】
得られたIgA特異的ペプチドモチーフにおける重要な残基を解析するため、最も結合力の高かったhA-2モチーフを基に、以下のような変異ライブラリを作製した。すなわち、
図3のhIgA-2ペプチドモチーフ(配列番号1)をコードする塩基配列(配列番号45)のうち、アミノ酸番号4と13のCys以外の残基をコードする塩基を、混合ヌクレオチドによって合成し、部分的にランダムなアミノ酸が発生するようなペプチドライブラリを作製した(ライブラリの配列の多様性は、1.4×10
7)。混合ヌクレオチドは、元の塩基配列が70%、残りの3つの塩基が10%ずつになるように作成し、結果として、元のコドンが理論的に35%の確率で出現するようにした。
【0080】
この部分変異ライブラリを用いて、再度、hIgAに対して、パンニングを行い、特異的なファージの濃縮を試みた。
図4に示すように、2ラウンドからIgA結合ファージの濃縮が見られ、3ラウンド後では、さらに結合活性が増大した。そこで3ラウンド後のファージをクローン化し、21クローンの結合活性をELISA評価した。
【0081】
その結果、10クローンに結合活性が見られ、それらの提示するモチーフを解析した結果、表2のようなアミノ酸配列のモチーフが得られた。興味深いのは、hA-2モチーフのうち、アミノ酸番号で、5、7、9、12番は完全に保存されており、結合に重要な残基であることが考えられた。また、アミノ酸番号14と16番の残基についても、疎水性残基で占められており、この領域での疎水性相互作用の重要性を示唆している。一方、アミノ酸番号8番の残基については塩基性のアミノ酸のみで占められており、抗体側の負電荷との相互作用の存在が推定される。なお、上記のアミノ酸番号は、表2に示すように、16アミノ酸残基(18アミノ酸残基とした場合の第9番目と第10番目の残基がともに欠失された残りの16アミノ酸残基)のアミノ酸番号である。
【表2】
【0082】
表2に示した各hA-2ペプチドモチーフのアミノ酸配列は、上から順番に(すなわち、hIgA2-4, hIgA2-6, hIgA2-15, hIgA2-18, hIgA2-21, hIgA2-2, hIgA2-6, hIgA2-9, hIgA2-17, hIgA2-16の順に)配列番号2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11として配列表に示されている。
【0083】
hIgA-2のペプチドモチーフを基に、ペプチドを合成し、そのペプチドの結合特異性を評価した。ペプチドは、N末端側にビオチン化-(PEG)
4基を付加したものを用いた。各標的タンパク質を固定化(50ng/well)したマイクロプレートのウェルに、AP標識化したストレプトアビジンとペプチドをモル比で1:4となるように混ぜたもの(7.5nMと30nM)を加え、反応させた。PBS-T(すなわち、PBS-Tris)で5回洗浄後、PNP-リン酸を基質とした、発色法により結合を検出した。結果を
図5に示す。hIgA-2ペプチドに関しては、他のタンパク質との若干の結合があるものの、ヒトIgAに特に強く結合していることが分かった。
【0084】
さらに、この結合の特異性を確認するために、ProteOn XPR36(Bio-Rad)を用いた表面プラズモン共鳴解析による結合力を評価した(
図6)。
【0085】
[実施例2]
hIgA-2ペプチドによるヒトIgAの精製
hIgA-2ペプチドが、ヒトIgAの精製用リガンドとして、機能するかどうかを検討するために、ビオチン化(PEO)4-hIgA-2を、1mlのHiTrap Streptavidin HP(GE Healthcare)に固定化し、種々のタンパク質を注入し、その結合能を評価した(
図7)。コントロールタンパク質として用いたヒトIgG、HAS(ヒト血清アルブミン)、BSA(牛血清アルブミン)は、カラムからほぼ素通りしたが、IgA(5,10μg)は、カラムに吸着され、PBSで洗浄後、PBSから0.3M NaClを含む0.2M glycine-HCl(pH2.5)へのグラジエント溶出によって、カラムから溶出された。このことは、hIgA-2ペプチドは、ヒトIgA精製用リガンドとして、特異性、結合能の基本的な性能を有していることが分かった。
【0086】
さらに、hIgA-2ペプチド固定化カラムの有用性を検討するため、ヒト血清からのIgAの精製を試みた。ヒト血清1mlをPBSで5倍に希釈した後、Profiniaタンパク質精製システム(BioRad)に接続したカラムにアプライした。PBSで洗浄後、0.3M NaClを含む0.2M glycine-HCl (pH3.5)、引き続き0.3M NaClを含む0.2M glycine-HCl(pH2.5)で結合タンパク質を溶出した(
図8)。
【0087】
クロマトグラフィーによって溶出された各分画は、SDS-PAGE並びに、抗ヒトIgA抗体を用いたWestern Blottingによって分析された(
図9)。酸性溶出画分(分画D)は、SDS-PAGE後のタンパク質染色によって、標品のIgAタンパク質とほぼ同様な130-180 kDaのスメアなバンドとして検出された。一方、抗ヒトIgA抗体によるWestern Blottingでは、まず、血清並びに標品のIgA共に、先の130〜180 kDaのバンド以外に、300kDa以上の位置にスメアなバンドが見られた。これは、血清中のIgAは、血清型(単量体)が主要な成分であるが、一部、J鎖を介した二量体(分泌型)が含まれることから、このような2つのバンド帯になったものと考えられる。カラムから溶出された分画Dでは、同様にこの2つのバンド帯が検出された。このことからhIgA-2ペプチド固定化カラムでは、血清型、分泌型両方の精製に用いることができることが分かった。さらに、素通り画分である分画Aや洗浄画分B、Cには、ほとんどIgAに由来するバンドは検出されなかったことから、このクロマトグラフィーで、血清中のIgAは、ほぼ回収されたことが分かった。
【0088】
以上の結果は、今回単離されたhIgA-2ペプチドを含む類縁のペプチドが、ヒトIgAに特異的であり、精製用のアフィニティリガンドとして、高い有用性をもっていることを示している。このような低分子(分子量約2000)での、ヒトIgAの精製リガンド、検出リガンドは、未だ報告されておらず、単にヒトIgAの検出、精製試薬に留まらず、将来的に新たな抗体医薬として期待されるヒトIgA抗体医薬に向けた標準的精製システムとしても有用である。
【0089】
[実施例3]
hIgAと高親和性を示すA-3ペプチドモチーフを有するペプチド類
実施例2から、部分変異ライブラリを用いたパンニングによって16アミノ酸からなるペプチド(18アミノ酸残基とした場合の第9番目と第10番目の残基がともに欠失された残りの16アミノ酸残基)のアミノ酸番号5、7、9、12はIgAとの結合に重要な残基であることが考えられた。そこで、より高い親和性を示す配列探索のため、これらのアミノ酸を固定して、それ以外はランダムなアミノ酸が発生するような最適化ライブラリを、実施例1と同様に作製した(
図10)。
【0090】
このライブラリを用いて、再度、hIgAに対するパンニングを行い、hIgAに対する高いアフィニティを有する特異的なファージの濃縮を試みた。
図11に示すように2ラウンドからhIgA結合ファージの濃縮がみられ、5ラウンド後にはさらに結合活性が増大した。そこで、5ラウンド後のファージをクローン化し、結合活性の優れた29クローンのファージに関して結合特異性をELISAで評価した。
【0091】
その結果、A-2ペプチドよりも高い結合特異性および結合活性を有するA3-1ペプチド(16アミノ酸残基からなる。)が得られた(
図12)。結合活性を示したクローンの提示するアミノ酸配列を解析した結果、得られたモチーフの各アミノ酸サイトでは、表3に示すような出現傾向が見られた。
【表3】
【0092】
hIgAとの結合における出現頻度の高いアミノ酸残基の重要性を確認するため、A3-1ペプチドの配列に頻度の高いアミノ酸とA-2ペプチドで見られたアミノ酸を導入した。同時に各残基の側鎖の重要性を見るために、アラニンスキャニングを行った。各アミノ酸置換体のhIgAに対する親和性評価は、Biacore T100(GE Healthcare)を用いた表面プラズモン共鳴解析により行った。hIgAを固定化したCM5センサーチップを用いて、化学合成した各ペプチドを分析し、得られたセンサーグラムを基に各置換体のhIgAに対する親和性を算出した。
【0093】
部分変異ライブラリの結果から重要と考えられた16アミノ酸からなるペプチド(下記表4)のアミノ酸番号5、7、9、12のアラニン(A)置換体はIgAへの結合力が減少し、その重要性を再確認した。中でもアミノ酸番号5および7番の結合力の減少が顕著であり、hIgAとの結合に非常に重要であると考えられる。また、各置換体において、アミノ酸番号1、2、6、15、16を置換した場合に、A3-1ペプチドと比較してhIgAに対する親和性の向上が見られた。結果を表4に示した。ここで、表4中のA3-1ペプチド(A3-1, A3-1(S1R), A3-1(S1H)・・A3-1(V16A), A3-1(opt1), A3-1(Opt2))のアミノ酸配列をそれぞれ順番に、配列番号15、16、17・・42、43、44として配列表に示した。
【表4】
【0094】
表4において、示されたペプチドとヒトIgAとの結合に関する解離定数(Kd)が特に1μM未満のペプチドは、配列番号15, 16, 17, 19, 20, 24, 25, 26, 37, 38, 39, 41, 42のアミノ酸配列を有するものであり、ヒトIgAと高い親和性を有していた。
【0095】
さらに、これらの結果を基に16アミノ酸からなるペプチドの各アミノ酸サイトにおいて最も親和性の向上がみられたアミノ酸を導入したペプチドを設計した。すなわち、アミノ酸番号1にヒスチジン残基、2にメチオニン残基、6にアラニン残基、15にアラニン残基、16にロイシン残基を導入したA3-1(Opt1)ペプチド(配列番号43)を合成した。また、溶解性向上を図るため、アミノ酸番号6および15のアラニン残基をセリン残基に置換したA3-1(Opt2)ペプチド(配列番号44)を合成した。A3-1(Opt1)ペプチドおよびA3-1(Opt2)ペプチドのhIgAに対する親和性を評価した結果、それぞれ0.044μMおよび0.025μMであり、A3-1と比較してそれぞれ約12倍および約21倍の親和性の上昇が確認された。
【0096】
最も高い親和性を示したA3-1(Opt2)の特異性を確認するため、Biacore T100(GE Healthcare)を用い、A3-1(Opt2)を固定化したセンサーチップにhIgA1およびhIgA2を注入することで表面プラズモン共鳴解析を行った(
図13)。A-2ペプチドやA3-1ペプチドと同様に、hIgAに対して高い特異性を有しており、またhIgA1およびhIgA2に対する結合力を評価したところ、hIgA2に対する結合力がわずかに強いことが分かった。
【0097】
A3-1(Opt2)ペプチドは、A-2ペプチドと比較して約52倍の親和性を有するペプチドであった。そこで、A3-1(Opt2)ペプチドカラムを作製し、ヒト血清からのhIgAの精製を行った。ヒト血清1mlをPBSで5倍に希釈した後、Profiniaタンパク質精製システム(BioRad)に接続したカラムにアプライした。PBSで洗浄後、0.2M glycine-HCl (pH2.5)で結合タンパク質を溶出した(
図14)。A-2ペプチドカラムと比較して(
図8)、溶出画分においてより明確なピークが検出された。親和性の向上によって、カラム内に吸着されるhIgA量が増加したことが推察された。