【実施例1】
【0040】
〔腸炎ビブリオ特異的モノクローナル抗体(抗F
0F
1モノクローナル抗体:MAb−VP34)の作製〕
(1)マウスの免疫
免疫源には、患者糞便から分離された腸炎ビブリオ(V2409,O3K6)をB−PERII バクテリアタンパク抽出試薬(B-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent (Pierce, Rockford社製)を用いて処理したのち、遠心分離(21,900×g,10min)して得られた上清を用いた。この上清のタンパク濃度を測定した後、90μgのタンパク量分をフロイントの完全アジュバント(和光純薬(株)製)と2:3の用量比で乳化させ、腹腔内投与してマウスを免疫した。4、7、10、13週後にフロイントの不完全アジュバントと上記免疫源を乳化したものをそれぞれ腹腔内に投与し、追加免疫を行った。14週間後に採血し、前記免疫源を用いたELISA法により各マウスの血清中の上記免疫源に対する抗体力価を測定した。最も高い抗体価を有していたマウスの腹腔内に、免疫開始20週後に上記免疫源のみ300μgを投与して最終免疫をおこなった。
【0041】
(2)ハイブリドーマの作製
最終免疫の3日後にマウスの脾臓細胞を、P3-X63-Ag8.U1 ミエローマ細胞と融合し、得られた融合細胞からハイブリドーマを調製した。ハイブリドーマの作製方法は川津らの方法(Kawatsu, K., et al., 2008. Development and evaluation of immunochromatographic assay for simple and rapid detection of Campylobacter jejuni and Campylobacter coli in human stool specimens. J. Clin. Microbiol. 46:1226-1231)に準じた。すなわち、細胞融合に次いで選択培養とクローン化を行い、各クローンの培養上清について上記免疫源を用いたELISA法によるスクリーニングを行い、陽性クローンを選択した。
【0042】
(3)ELISA法によるスクリーニング
前記ハイブリドーマの陽性クローンについて、その培養上清を用いてELISA法により、腸炎ビブリオに特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞のスクリーニングを行った。スクリーニングには、6株の腸炎ビブリオ(4株の臨床分離株:O3K6,O4K68,O4K8,O1KUT及び2株の食品(魚介類)分離株:O12KUT,01KUT)と、5株のその他ビブリオ属細菌(V. mimicus, V. vulnificus, V. alginolyticus, V. campbellii, V. harveyi)の培養液を抗原としてコーティングされたプレートが用いられた。ELISA法は次の方法に従った。
【0043】
〔ELISA法〕
上記11株の腸炎ビブリオ属細菌をそれぞれ2mlの1%の塩化ナトリウムを含むTSB培地(Becton Dickinson and Company社製)に懸濁し、36℃又は28℃で16時間静置培養した。培養液を50mMの重炭酸バッファーで10倍に希釈し、その50μlを、96ウェルのELISA用プレート(Greiner Bio-One社製)のウェルに分注し、4℃で一夜放置した。抗原液をプレートから除去した後、20%FBSを含むPBSを用いて、室温で1時間ブロッキング反応を行った。ブロッキング液を除去した後、0.05%の界面活性剤(Tween20:商品名)を含むPBS(PBS−T)で3回洗浄した。次いで、20%のFBSを含むPBS−Tで1:10に希釈したハイブリドーマの培養上清の50μlを前記ウェルに加え、室温で1時間反応させた。さらにPBS−Tでウェルを4回洗浄した後、50μlのペルオキシダーゼで標識された抗マウスIgG溶液(IgG, Sigma Chemical社製)(20%のFBSを含むPBS−Tで希釈した0.5μg/ml濃度の溶液)をウェルに加え、室温で1時間反応させた。PBS−Tで5回洗浄後、酵素基質であるテトラメチルベンジジン(商品名:1-Step
TM Ultra TMB-ELISA, Pierce)を加えて10分間室温で反応させた。2Mの硫酸を加えて反応を停止し、吸光度の自動計測装置を用いて450nmにおける吸光度を計測した。吸光度が0.2を超えた場合に陽性であるとした。
【0044】
細胞融合の結果、3520株のハイブリドーマが得られた。得られたハイブリドーマをスクリーニングしたところ、腸炎ビブリオに対して特異性を示す抗体を産生する3株のハイブリドーマ(VP−22株,VP−34株,VP−39株)を得た。これら3株のハイブリドーマの培養液上清は、前記腸炎ビブリオ6株全てに対して反応を示す一方で、前記その他ビブリオ属細菌5株に対しては反応を示さなかった。
【0045】
(4)腸炎ビブリオに対する特異性
次に、スクリーニングにより選択されたハイブリドーマを再クローン化した後、拡大培養によって得られた培養上清から、モノクローナル抗体を精製した。ハイブリドーマからの抗体の取得及び抗体の精製も、前記川津らの方法に従った。また、特異性の検討には、140株の腸炎ビブリオ(臨床検体より分離した89株、魚介類より分離した51株)と、28種62株のその他ビブリオ属細菌と29種35株の非ビブリオ属細菌を用いた。用いた腸炎ビブリオ株は、1984年から2010年に分離され、血清型(O抗原とK抗原の組み合わせ)で72の型に分類された。これらは、KimらによるtoxR−PCR法(Kim, Y. B. et al., 1999. Identification of Vibrio parahaemolyticus strains at the species level by PCR targeted to the toxR gene. J. Clin. Microbiol. 37:1173-1177.)により、腸炎ビブリオであることを確認した。
【0046】
腸炎ビブリオを除くビブリオ属細菌として、62株が用いられた。このうち22株は次に示す株であり、これらの株は分譲機関から分譲を受けた。Vibrio aestuarianus,NBRC15629
T,Vibrio alginolyticus NBRC15630
T,Vibrio azureus NBRC104587
T, NBRC15631
T,Vibrio comitans NBRC102076
T,Vibrio diazotrophicus NBRC103148
T,Vibrio ezurae NBRC102218
T,Vibrio fischeri NBRC101058,Vibrio gazogenes NBRC103151
T,Vibrio halioticoli NBRC102217
T,Vibrio ichthyoenteri NBRC15847
T,Vibrio inusitatus NBRC102082
T,Vibrio mediterranei NBRC15635
T,Vibrio natriegens NBRC15636
T,Vibrio nereis NBRC15637
T,Vibrio orientalis NBRC15638
T,Vibrio penaeicida NBRC15640
T,Vibrio proteolyticus NBRC13287
T,Vibrio rarus NBRC102084
T,Vibrio splendidus NBRC101061,Vibrio tubiashii NBRC15644
T(NITE Biological Resource Cente, Chiba, Japan),Vibrio harveyi RIMD2224001
T(Research Institute for Microbiol Diseases, Osaka, Japan)。Tが付された株は標準株である(以下同じ)。残る40株のうち38株は患者及び食品から分離された株であり、2株は由来が不明である。これらは次のとおりである。1株のVibrio alginolyticus,8株のVibrio cholerae,9株のVibrio fluvialis,3株のVibrio furnissii,4株のVibrio harveyi,1株のVibrio metschinikovii,5株のVibrio mimicus,9株のVibrio vulnificus。
【0047】
非ビブリオ属細菌として、次に示す35株が用いられた。29種を含む35株のうち、21株はInternational culture collection から提供された。これらの株は次のとおりである。Raoultella ornithinolytica ATCC31898
T,Raoultella planticola ATCC43176,Raoultella terrigena ATCC33628
T,Shewanella algae ATCC51192
T(American Type Culture Collection, Manassas, VA, USA),Aeromonas hydrophila IAM1646,Aeromonas sobria IAM12333,Alcaligenes faecalis IAM12369
T,Enterobacter cloacae IAM12349
T,Enterobacter intermedius IAM14238
T,Proteus vulgaris IAM12542
T,Pseudomonas aeruginosa IAM1514
T(Institute of Applied Microbiology Culture Collection, Tokyo, Japan),Enterobacter aerogenes JCM1235
T,Klebsiella oxytoca JCM1665
T, Klebsiella pneumoniae subsp. ozaenae JCM1663
T,Morganella morganii JCM1672
T(Japan Collection of Microorganisms, Saitama,Japan),Citrobacter freundii NBRC 12681
T,Cronobacter sakazakii NBRC102416
T,Klebsiella pneumoniae subsp. pneumoniae NBRC14940
T,Listonella anguillarum NBRC13266
T,Listonella pelagia NBRC 13287
T,Photbacterium damselae subsp. damselae NBRC15633
T。残る14株は次のとおりである。それぞれ1株のAeromonas caviae, Bacillus cereus,Citrobacter freundii,Citrobacter koseri,3株のEscherichia coli,3株のGrimontia hollisae,1株のListeria monocytogenes,2株のPlesiomonas shigelloides, 1株のProvidencia alcalifaciensである。
【0048】
上記安定した増殖性を示した3株のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体について、腸炎ビブリオに対する特異性を調べたところ、そのうちの一つであるVP−34株が産生するモノクローナル抗体(MAb−VP34)が、表1に示すように140株の腸炎ビブリオに対して陽性反応を示し、V. natriegensを除く56菌種96株のその他ビブリオ属細菌及び非ビブリオ属細菌に対しては陽性反応を示さなかった。
【0049】
【表1】
【0050】
上記の安定した増殖性及び腸炎ビブリオに対する特異性を備えた上記VP−34株(Mouse-Mouse hybridoma VP-34)は、2011年7月26日付けで日本国茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、受託番号FERM P−22157で寄託された。
【0051】
〔モノクローナル抗体のタイピング、認識抗原の解析〕
MAb−VP34のサブクラスのタイピングを前記川津らの方法に従って行った。その結果、MAb−VP34は、
G1(k)のサブクラスに属していた。3株の腸炎ビブリオ(臨床分離株;O3K6,O4K8,O1KUT)と6株のその他ビブリオ属細菌(V. mimicus, V. vulnificus, V. campbellii, V. harveyi, V. alginolyticus, V. cholerae)を、600nmにおける吸光度が0.6−0.7となるようにPBSに懸濁した。この懸濁液を遠心分離して沈殿した菌体をSDS−PAGE用のサンプルバッファーに懸濁した。得られた懸濁液をSDS−PAGEに供し、分離されたタンパク質をPVDFメンブレン(フッ化ポリビリニデン膜:Bio-Rad Laboratories社製)に電気的にブロッティングした。この膜を15%の過酸化水素を含むTBSで処理し、T−TBSで3回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識したMAb−VP34をCan Get Signal Solution2(登録商標:東洋紡社製)に溶かした溶液(0.05μg/ml)と反応させ、抗原抗体反応を生じさせた。その後、テトラメチルベンジジン(3,3',5,5'-Tetramethylbenzidine)(商品名:1-Step
TM TMB-Blotting, Pierce)を基質に用いて抗原抗体反応を検出した。その結果を
図1に示す。
【0052】
この結果から、MAb−VP34が認識する腸炎ビブリオの菌体抗原の分子量は約20kDaであることが明らかになった。一方、その他ビブリオ属細菌ではバンドは検出されなかった。
【0053】
次に、腸炎ビブリオの抗原をMAb−VP34を捕捉用抗体として用いたイムノアフィニティクロマトグラフィにより精製し、質量分析法によって解析した。抗原の精製において、まず、腸炎ビブリオ(V2409;O3K6)の菌体抽出物をTBSに懸濁し、予めMAb−VP34をカップリングしたHiTrap NHS-activated HP Columnsに流した後、TBSでカラムを洗浄した。次に、1%SDSを含むTBSで結合タンパク質を溶出した。溶出した液をSDS−PAGEに供し、ウェスタンブロッティングを行い、溶出したタンパクのサイズ、およびMAb−VP34との反応性を確認した。質量分析法による抗原解析では、まず、Coomassie Brilliant Blue染色を行ったSDS−PAGEゲル(Bio-Safe CBB G-250 stain、Bio-Rad Laboratories社製)より切り出された目的タンパク質のバンドを脱色し、Shevchenkoらの方法(Shevchenko, A.,et al.,2006. In-gel digestion for mass spectrometric characterization of proteins and proteomes. Nat. Protoc. 1:2856-2860)に従って、ゲル内でトリプシン消化を行った。消化された試料についてnanoelectrosprayer(GLサイエンス社製)を備えたイオントラップ型質量分析計(LC−ESI-IT-TOF/MS、島津製作所製)を用いて質量分析を行った。この分析結果を基に、サーチエンジン(Mascot MS/MS Ion Search engine:Matrix Science社)を用いてNCBIデータベースを検索した。
【0054】
この結果、検出された8つのペプチドは、F
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットのアミノ酸全配列の61%を占める部分(2番目のSから56番目のK、102番目のEから128番目のK、139番目のLから165番目のR)に帰属した。データベースに記載されているF
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットの分子量は19.6kDaであり、上記抗原の分子量とほぼ同じであった。
【0055】
〔リコンビナント抗原に対する反応性の確認〕
次に、MAb−VP34がF
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットを認識するかどうか、リコンビナントタンパク質を作製し、ウェスタンブロッティングにより確認した。腸炎ビブリオのF
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットの全遺伝子配列は、GenBankデータベースより取得された(accession number:BA0000031)。
【0056】
当該タンパク質をコードする遺伝子を、腸炎ビブリオ(V2409)のゲノムDNAを鋳型としてPCRにより増幅し(この際、配列番号2で示される塩基配列を有するプライマー(Forward側)及び配列番号3で示される塩基配列を有するプライマー(Reverse側)が用いられた。)、TAクローニングキット(Champion pET-SUMO protein expression system:Invitrogen社製)を用いてベクター(pET−SUMO)に導入した。このベクターによりEscherichia coliBL21(DE3)を形質転換し、1mMのIPTG(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside)によりリコンビナントタンパク質の発現を誘導した。このタンパク質はSDS−PAGEおよび、MAb−VP34を用いたウェスタンブロッティングに供された。この際、ネガティブコントロールには、pET−SUMO/CATベクターにより形質転換されたEscherichia coliBL21(DE3)を用いた。その結果を
図2に示す。
【0057】
この結果、リコンビナントタンパクを流したレーンでは、SUMOタンパクとリコンビナントF
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットの合計分子量である約33kDa付近にバンドが検出された。一方、ネガティブコントロールではバンドは検出されず、MAb−VP34はF
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットを抗原として認識することが結論づけられた。
【0058】
[VP−Dot法]
次に、MAb−VP34を用いて、分離平板上のコロニーが腸炎ビブリオであるかどうかを判別するドットブロッティング法(VP−Dot法)を開発した。VP−Dot法は以下の方法に従った。TCBS寒天培地上に形成されたショ糖非分解性の1コロニーを、1μlループを用いてかきとり、20μlの50mMの重炭酸バッファー(pH9.6)に懸濁した。その1μlをニトロセルロース膜(Bio-Rad Laboratories社製)上にスポットし、36℃で5分間乾燥させた。以下の反応はすべて室温で行った。0.3%の過酸化水素水と5分間反応させた後、蒸留水で20秒間洗浄した。その後、0.5%のTween−20を含むトリス緩衝液(TBST)で5分間洗浄した。この膜を、0.5μg/mlのペルオキシダーゼ標識されたMAb−VP34抗体を含むTBS溶液(0.1%のTween−20と20%のFBSを含む)中で5分間反応させた。TBSTで2分間洗浄する作業を4回行い、基質であるテトラメチルベンジジンと3分間反応させ、大量の水で反応を停止させた。サンプルをスポットした部位に明瞭な青色の呈色が認められた場合を陽性とした。
【0059】
〔VP−Dot法の精度の評価〕
表2に示す菌株を用いて、VP−Dot法の精度をtoxR−PCR法の同定結果と比較することにより評価した。用いた20株の腸炎ビブリオと10株のその他ビブリオ属細菌並びに9種の未同定株は、V. campbelliiを除いて、TCBS寒天培地上で36℃で1晩培養された。V. campbelliiは一般にTCBS寒天培地で成育するが、今回の実験で用いたV. campbellii(NBRC15631)株はTCBS寒天培地では成育しなかったので、1%NaClを含むTSA培地で培養した。9株の未同定株は、TCBS寒天培地上でコロニーを形成し、かつショ糖非分解性の菌である。また、MAb−VP34は、ペルオキシダーゼラベリングキット−SH(同仁化学研究所社製)を用いて予めペルオキシダーゼを標識した。 toxR−PCR法では、山崎らの方法(Yamazaki, W., et al., 2008. Development of a loop-mediated isothermal amplification assay for sensitive and rapid detection of Vibrio parahaemolyticus. BMC Microbiol. 8:163-169.)に従って平板上のコロニーからDNAテンプレートを作製し、PCRは前記Kimらの方法に従った。
【0060】
それらの結果を表2及び
図3に示す。この結果によると、VP−Dot法はすべての腸炎ビブリオ株に対して陽性を示した。また、toxR−PCR法による同定結果とVP−Dot法による同定結果はすべての株において一致した。なお、MAb−VP34は、V.natriegensに対して交差反応を示したが、この菌はショ糖分解性であってTCBS寒天培地上では黄色のコロニーを形成する。このため、分離培養においてTCBS寒天培地では緑色のコロニーに対してVP−Dot法を適用することにより、腸炎ビブリオのみを確実に検出することができる。
【0061】
【表2】
【0062】
上記のVP−Dot法によるとコロニーの採取から約40分程度で腸炎ビブリオであるとの同定を行うことができた。
【0063】
〔モノクローナル抗体MAb−VP34のエピトープマッピング〕
モノクローナル抗体MAb−VP34のエピトープマッピングを行った。まず、GenBankデータベースより取得された腸炎ビブリオのF
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットの完全遺伝子配列(177個のアミノ酸、停止コドンを含む534bp)を元にして、デルタサブユニットの上流側(1〜87番目のアミノ酸から構成される)と下流側(80〜177番目のアミノ酸で構成される)に対応するリコンビナントタンパク質を作製し、上記VP−Dot法に準じて、抗原抗体反応を確認した。前記リコンビナント抗原に対する認識性の確認における方法と同様の方法でリコンビナントタンパク質を作製した。この際、上流側のタンパク発現用として配列番号2で示される塩基配列を有するプライマー(Forward側)及び配列番号4で示される塩基配列を有するプライマー(Reverse側)を、下流側のタンパク発現用として配列番号5で示される塩基配列を有するプライマー(Forward側)及び配列番号3で示される塩基配列を有するプライマー(Reverse側)を用いた。VP−Dot法には、リコンビナントタンパク質を発現した大腸菌をB-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent(PIERCE)を用いてタンパクを可溶化して得た上清液を用いた。この結果、上流側のタンパクとの反応が認められたが、下流側のタンパクとの反応は認められなかった。ネガティブコントロールには、IPTG誘導前の大腸菌BL21(DE3)を用いた。
【0064】
そこで、デルタサブユニットの上流側アミノ酸配列から、オーバーラップするように3つのリコンビナントタンパク質A,B,C(タンパクA:1〜46番目のアミノ酸から構
成される、タンパクB:46〜87番目のアミノ酸から構成される、タンパクC:16〜73番目のアミノ酸から構成される)を上記方法に準じて作製し、上記VP−Dot法に
従って抗原抗体反応を確認した。この際、タンパクAの発現用として配列番号2で示される塩基配列を有するプライマー(Forward側)及び配列番号6で示される塩基配列を有するプライマー(Reverse側)を、タンパクBの発現用として配列番号
9で示される塩基配列を有するプライマー(Forward側)及び配列番号
4で示される塩基配列を有するプライマー(Reverse側)を、タンパクCの発現用として配列番号
7で示される塩基配列を有するプライマー(Forward側)及び配列番号
8で示される塩基配列を有するプライマー(Reverse側)を用いた。この結果、リコンビナントタンパク質B及びリコンビナントタンパク質Cについて抗原抗体反応がそれぞれ認められ、エピトープは46〜73番目のアミノ酸配列に存在すると考えられた。
【0065】
デルタサブユニットの46〜73番目のアミノ酸配列から表3に示す
23種類のペプチド(No.46〜59及びNo.47−1〜47−9)を合成し、各ペプチドについてVP−Dot法を適用した。その結果を表3に示した。なお、ペプチドの合成は、JPT Peptide Technologies GmbH社に依頼した。
【0066】
【表3】
【0067】
これにより、配列番号1で示されたアミノ酸配列(ペプチドNo.47−6)が、MAb−VP34が認識するエピトープであると結論づけられた。したがって、このエピトープを認識し、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)のF
0F
1−ATP合成酵素のデルタサブユニットと特異的な抗原抗体反応を生じるモノクローナル抗体を、腸炎ビブリオの検出又は同定に用いることもできる。