(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874139
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】膜材料の欠陥の光学的観察方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20160218BHJP
G01N 21/91 20060101ALI20160218BHJP
G01B 11/22 20060101ALI20160218BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20160218BHJP
G02B 21/10 20060101ALI20160218BHJP
G02B 21/16 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
G01N21/91 Z
G01B11/22 H
G01B11/30 A
G02B21/10
G02B21/16
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-263944(P2011-263944)
(22)【出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2013-117398(P2013-117398A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507346889
【氏名又は名称】株式会社iMott
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100080919
【弁理士】
【氏名又は名称】田崎 豪治
(72)【発明者】
【氏名】大竹 尚登
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 悠一
(72)【発明者】
【氏名】高島 舞
(72)【発明者】
【氏名】松尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩本 喜直
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−294422(JP,A)
【文献】
特開平11−295233(JP,A)
【文献】
特開昭63−200043(JP,A)
【文献】
特開2004−325346(JP,A)
【文献】
米国特許第05598262(US,A)
【文献】
米国特許第07724362(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/88
G01N 21/91
G01B 11/22
G01B 11/30
G02B 21/10
G02B 21/16
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に検出
する際に、膜材料に斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部
の欠陥に基づく散乱光を、観察光を第一の波長帯に制限した顕微鏡により暗視野で観察し
、さらに第一の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第二の波長帯を用いて膜材料の表
面および表面近傍の欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより
、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥を分離観察することを特徴とす
る膜材料の欠陥の光学的観察方法。
【請求項2】
さらに第二の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第三の波長帯を用いて膜材料の表
面のみの欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料の
表面、表面近傍、内部、および基板界面の欠陥を分離観察する請求項1に記載の膜材料の
欠陥の光学的観察方法。
【請求項3】
斜入射光が紫外から赤外領域の全部または一部である請求項1または2に記載の膜材料
の欠陥の光学的観察方法。
【請求項4】
膜材料がダイヤモンド状炭素、酸化物、炭化物および窒化物から選ばれる無機薄膜であ
る請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜材料の欠陥の光学的観察方法。
【請求項5】
顕微鏡が蛍光顕微鏡である請求項1〜4のいずれか1項に記載の膜材料の欠陥の光学的
観察方法。
【請求項6】
斜入射光の照射光源がキセノンランプまたはクリプトンランプである請求項1〜5のい
ずれか1項に記載の膜材料の欠陥の光学的観察方法。
【請求項7】
基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に検出
する際に、膜材料に300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲の連続
波長の斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づ
く散乱光のスペクトル強度を測定することにより、欠陥の個数と深さ方向位置を同定する
ことを特徴とする膜材料の欠陥の光学的観察方法。
【請求項8】
基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に観察
する装置であって、膜材料の表面に光を照射するための照射光源を備え、かつ膜材料の表
面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を暗視野で観察するための顕
微鏡を備えてなり、
膜材料に斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に
基づく散乱光を、観察光を第一の波長帯に制限した顕微鏡により暗視野で観察し、さらに
第一の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第二の波長帯を用いて膜材料の表面および
表面近傍の欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料
の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥を分離観察するように構成された、膜材
料の欠陥の光学観察装置。
【請求項9】
さらに第二の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第三の波長帯を用いて膜材料の表
面のみの欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料の
表面、表面近傍、内部、および基板界面の欠陥を分離観察するように構成された、請求項
8に記載の膜材料の欠陥の光学観察装置。
【請求項10】
基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に観察
する装置であって、膜材料の表面に光を照射するための照射光源を備え、かつ膜材料の表
面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を暗視野で観察するための顕
微鏡と300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲を撮影することので
きる撮像装置を備えてなり、
膜材料に300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲の連続波長の斜
入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光
の300nm〜10600nm間のスペクトル強度を測定することにより、欠陥の個数と
深さ方向位置を同定することを特徴とする膜材料の欠陥観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜材料の欠陥の光学的観察方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜の欠陥の検出には、ピンホール、クラック、はく離等の欠陥の種類により、それぞれ適した検出・評価方法が知られており、臨界不動態化電流密度法(CPCD法)等の方法が一般的である。DLC(ダイヤモンド状炭素)膜はその機械的特性、電気的特性、ガスバリア性、耐腐食性等の優れた特性を有し、トライボロジーを中心として様々な分野に応用され始めている。それに伴い、膜のバルク欠陥の検出に対する要望も増加している。しかしながら、その欠陥を一度に、膜を傷つけないで、しかも膜表面からは観察できない内部欠陥まで検出する方法は見出されておらず、その開発は課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の課題を解決し、製造現場で容易に利用でき、光学顕微鏡を用いる、膜材料の欠陥の光学的観察方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記の問題を解決するために、以下の光学的観察方法および装置を提供するも
のである。
(1)基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に
検出する際に、膜材料に斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに
内部の欠陥に基づく散乱光を、観察光を第一の波長帯に制限した顕微鏡により暗視野で観
察し、さらに第一の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第二の波長帯を用いて膜材料
の表面および表面近傍の欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することに
より、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥を分離観察することを特徴
とする膜材料の欠陥の光学的観察方法。
(2)さらに第二の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第三の波長帯を用いて膜材料
の表面のみの欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材
料の表面、表面近傍、内部、および基板界面の欠陥を分離観察する上記(1)に記載の膜
材料の欠陥の光学的観察方法。
(3)斜入射光が紫外から赤外領域の全部または一部である上記(1)または(2)に記
載の膜材料の欠陥の光学的観察方法。
(4)膜材料がダイヤモンド状炭素、酸化物、炭化物および窒化物から選ばれる無機薄膜
である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の膜材料の欠陥の光学的観察方法。
(5)顕微鏡が蛍光顕微鏡である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の膜材料の欠陥の
光学的観察方法。
(6)斜入射光の照射光源がキセノンランプまたはクリプトンランプである上記(1)〜
(5)のいずれかに記載の膜材料の欠陥の光学的観察方法
。
(7)基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に
検出する際に、膜材料に300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲の
連続波長の斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に
基づく散乱光のスペクトル強度を測定することにより、欠陥の個数と深さ方向位置を同定
することを特徴とする膜材料の欠陥の光学的観察方法。
(
8)基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に
観察する装置であって、膜材料の表面に光を照射するための照射光源を備え、かつ膜材料
の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を暗視野で観察するため
の顕微鏡を備えてなり、膜材料に斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥
ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を、観察光を第一の波長帯に制限した顕微鏡により暗
視野で観察し、さらに第一の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第二の波長帯を用い
て膜材料の表面および表面近傍の欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察す
ることにより、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥を分離観察するよ
うに構成された、膜材料の欠陥の光学観察装置。
(
9)さらに第二の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第三の波長帯を用いて膜材料の表面のみの欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料の表面、表面近傍、内部、および基板界面の欠陥を分離観察するように構成された、上記(
8)に記載の膜材料の欠陥の光学観察装置。
(
10)基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的
に観察する装置であって、膜材料の表面に光を照射するための照射光源を備え、かつ膜材
料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を暗視野で観察するた
めの顕微鏡と300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲を撮影するこ
とのできる撮像装置を備えてなり、膜材料に300〜10600nmの波長範囲またはそ
の一部の波長範囲の連続波長の斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥な
らびに内部の欠陥に基づく散乱光の300nm〜10600nm間のスペクトル強度を測
定することにより、欠陥の個数と深さ方向位置を同定することを特徴とする膜材料の欠陥
観察装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、製造現場で容易に利用でき、膜を傷つけないで、膜表面からは観察できない内部および基板界面の欠陥まで検出し得る、膜材料の欠陥の光学的観察方法および装置を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】DLC膜のエリプソメトリー測定結果を示す図。
【
図2】キセノン放電ランプから得られる光のスペクトルを示す図。
【
図3】本発明における膜材料の欠陥の光学的観察方法を模式的に示す図。
【
図4】本発明においてDLC膜の欠陥が観察された画像を(a)に示す。併せて、通常の光学顕微鏡(微分干渉顕微鏡)を用いて同一のDLC膜の欠陥が観察された画像を(b)に示す。
【
図5】(a)は表面および表面近傍ならびに内部の欠陥を、(b)は表面および表面近傍欠陥を示す。
【
図6】本発明においてDLC膜の欠陥を観察された画像。矢視のW、B,G,Y,Rは、それぞれ白色、青色、緑色、黄色、赤色の散乱光の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の膜材料の欠陥の光学的観察方法は、基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に検出するものである。膜材料としては、DLC、ならびに酸化物、炭化物、窒化物等の化合物が挙げられるが、特にDLCが好適である。DLCの製法は特に限定されず、プラズマCVD、スパッタリング等公知の方法によることができる。そこで、以下、DLCの場合を代表例として本発明を説明する。ここで、欠陥は、主としてピンホール、クラック、はく離、空隙、異物粒子、ドロップレットに起因する、いわゆるバルク欠陥である。
【0008】
基板としては、シリコン、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、高分子材料等が挙げられる。
【0009】
本発明方法においては、膜材料に斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を、観察光を第一の波長帯に制限した顕微鏡により暗視野で観察し、さらに第一の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第二の波長帯を用いて膜材料の表面および表面近傍の欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥を分離観察することを特徴とする。本発明方法においては、たとえばDLC膜の場合、消衰係数(吸収係数)が短波長側で大きいことを利用することにより、膜内部の欠陥からの散乱光が長波長側で大きく、短波長側で小さいことを利用して、内部の欠陥を表面および表面近傍の欠陥とを分離して検出し得る。すなわち、
図1のエリプソメトリー測定結果に示されるように、DLC膜は、高波長側の可視光領域で高い透過性を示す。そこで、たとえばDLC膜に連続可視光を斜入射光で照射し、受光波長を変化させながら、上記の欠陥によって散乱された光を光学顕微鏡により暗視野で観察するものである。斜入射光で照射することにより、膜表面および基板表面からの反射光が顕微鏡に入射しないようにし、暗視野で欠陥を観察することを可能にするものである。具体的には、第一の波長帯は、たとえば700〜740nm程度から選定され、一方、第二の波長帯は、たとえば590〜630nm程度から選定されるのが好適である。
【0010】
斜入射光の照射に際しては、必要に応じて膜表面の汚れ、付着物を洗浄除去しておくのが好ましい。洗浄は、たとえばエタノールによることができる。
【0011】
斜入射光は紫外から赤外領域の全部または一部が選択される。光学顕微鏡としては蛍光顕微鏡、フィルター付金属顕微鏡が好適に用いられる。
【0012】
斜入射光の照射光源としては、キセノンランプ、クリプトンランプ等が用いられる。キセノンランプから得られる光のスペクトルを
図2に示す。上記観察に際しては、たとえば生物顕微鏡を用いて、顕微鏡用デジタルカメラを用いて撮影することができる。
【0013】
図3は、本発明における膜材料の欠陥の光学的観察方法の一例を模式的に示すものである。
図3において、1は基板、2はDLC膜、3はキセノンランプ、4は照射光(斜入射光)、5は欠陥による散乱光、6は反射光、および7は蛍光顕微鏡を示す。
【0014】
本発明方法においては、さらに第二の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第三の波長帯を用いて膜材料の表面のみの欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料の表面、表面近傍、内部、および基板界面の欠陥を分離観察することができる。すなわち、第三の波長帯を用いることにより、表面近傍、内部、および基板界面の欠陥をさらに分離観察することができる。たとえば、第三の波長帯による散乱光観察結果から表面のみの欠陥を、第二の波長帯の散乱光強度の顕微鏡視野内の分布結果から第三の波長帯の散乱光強度の分布結果を減じることで内部および表面近傍の欠陥を、さらに第一の波長帯の結果から第二の波長帯の結果を減じることで、膜と基板の界面の欠陥を分離観察することができる。なお、第二の波長帯による散乱光強度分布から第三の波長帯の散乱光強度の分布を減じるに際しては、膜表面に参照用微粒子を見出し、その微粒子からの散乱光強度が見かけ上、0になるように第一の波長帯の散乱光強度を実数倍した後に減じるのが好適である。第一の波長帯から第二の波長帯を減じる場合も同様である。
【0015】
具体的には、第三の波長帯は、たとえば450〜490nm程度から選定されるのが好適である。
【0016】
さらに、本発明方法において300〜10600nmの連続波長光の照射と同波長帯での暗視野観察によっても、バルク欠陥の深さ方向位置を同定することができる。同定の手段は以下の通りである。
【0017】
吸収係数αは、α=4πk/λ
ただしλは波長、kは波長λにおける消衰係数である。
【0018】
上記の式から,波長λによって吸収係数αは変化する。表面から深さ方向の距離tの位置に欠陥が存在するとき、観察される散乱光強度I
2は、波長λに対し、I
0を入射光の強度、θを入射角、nを薄膜の屈折率、R
1を空気から薄膜への反射率、R
2を薄膜から空気への反射率、欠陥の散乱断面積をAとして
I
2=(1−R
1)(1−R
2)AI
0exp(−(4πk/λ)・t/cos(sin
-1(sinθ/n)))・exp(−4πk/λ)・t)
と近似できる。
【0019】
したがって、予めI
0、R
1、R
2、k/λ、n、Aの値を300〜10600nmの波長範囲において調べておき、観察した欠陥から散乱光強度のI
2の波長よる変化が上式に合うようにtを求めることで、欠陥の深さ方向位置を同定することができる。なお、n、k/λ、R
1、R
2の値を300〜10600nmの波長範囲において連続的に調べるのは、例えばエリプトメータを用いれば簡単であり、I
0は
図2にあるようにスペクトルから求めることが出来る。Aについては予め波長を変化させて表面および基板界面の欠陥を観察することにより求めておく。
【0020】
薄膜がダイヤモンド状炭素膜の場合にあっては、300〜10600nmの波長範囲において波長増加と共に消衰係数が急激に減少するので、散乱光強度I
2の入射光強度I
0との比I
2/I
0は、波長λが大きいほど大きくなり、また散乱断面積Aは短波長側で僅かに大きくなるので、肉眼観察では表面欠陥がキセノンランプまたはクリプトンランプ光の白色、青色であるのに対して、内部の欠陥は緑色、黄色または赤色に観察される。
【0021】
さらに、本発明の膜材料の欠陥の光学的観察方法の1つの態様において、欠陥の深さ方向の位置を同定することができる。すなわち、DNA染色用の蛍光材料を膜材料に塗布または膜材料を該蛍光材料に浸漬して、膜材料の表面、表面近傍、および表面と繋がる内部のバルク欠陥に該蛍光材料を導入する。ついで、膜材料表面の塗料を除去し、蛍光材料指定の波長の斜入射光を照射し、蛍光材料の蛍光波長帯に制限した顕微鏡により暗視野で観察する。これにより、DLC膜等の欠陥を観察するとともに、膜材料表面からの距離の指数関数で蛍光強度が低下することを利用して、該欠陥の深さ方向の位置を同定することができる。
【0022】
ここで、DNA染色用の蛍光材料としては、臭化エチジウム、シフ型染料、等の公知の蛍光材料が用いられる。
【0023】
この態様において、表面から深さ方向の距離tの位置に欠陥が存在するとき、観察される散乱光強度I
2は、蛍光材料指定の波長λについて、I
0を入射光の強度、θを入射角、nを薄膜の屈折率、R
1を空気から薄膜への反射率、R
2を薄膜から空気への反射率、欠陥の散乱断面積をAとして以下のように近似できる。
【0024】
I
2=(1−R
1)(1−R
2)AI
0exp(−(4πk/λ)・t/cos(sin
-1(sinθ/n)))・exp(−4πk/λ)・t)
したがって、I
2からtを一義的に求めることができ、任意の欠陥の位置を同定することができる。なお、n、k/λ、R
1、R
2の値を調べるのは、例えばエリプトメータを用いれば簡単であり、I
0は
図2にあるようにスペクトルから求めることができる。Aについては予め表面および基板界面の欠陥を観察することにより求めておく。
【0025】
本発明の膜材料の欠陥の光学観察装置は、基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に観察する装置である。1つの態様において、膜材料の表面に光を照射するための照射光源を備え、かつ膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を暗視野で観察するための顕微鏡を備えてなる。もう1つの態様において、膜材料の表面に光を照射するための照射光源を備え、かつ膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を暗視野で観察するための顕微鏡と300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲を撮影することのできる撮像装置を備えてなる。膜材料に斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光を、観察光を第一の波長帯に制限した顕微鏡により暗視野で観察し、さらに第一の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第二の波長帯を用いて膜材料の表面および表面近傍の欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料の表面および表面近傍の欠陥と内部の欠陥を分離観察するように構成されている。この分離観察に際しては、上述の方法と同様な方法により、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥を分離観察し得る。
【0026】
本発明の膜材料の欠陥の光学観察装置のもう1つの態様においては、上記の態様に、さらに第二の波長帯よりも膜材料の消衰係数の大きい第三の波長帯を用いて膜材料の表面のみの欠陥に基づく散乱光のみを顕微鏡により暗視野で観察することにより、膜材料の表面、表面近傍、内部、および基板界面の欠陥を分離観察するように構成される。この分離観察に際しては、上述の方法と同様な方法により、膜材料の表面、表面近傍、内部および基板界面の欠陥を分離観察し得る。
【0027】
本発明のさらにもう1つの態様においては、膜材料の欠陥の光学観察装置は、基板上に形成され、消衰係数が波長により変化する膜材料のバルク欠陥を光学的に観察する装置である。1つの態様において、膜材料の表面に光を照射するための照射光源を備え、かつ膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部および基板界面の欠陥に基づく散乱光を暗視野で観察するための顕微鏡と300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲を撮影することの出来る撮像装置を備えてなる。
【0028】
膜材料に300〜10600nmの波長範囲またはその一部の波長範囲の連続波長の斜入射光を照射し、膜材料の表面および表面近傍の欠陥ならびに内部の欠陥に基づく散乱光の300nm〜10600nm間のスペクトル強度を測定することにより、欠陥の個数と深さ方向位置を同定する。欠陥の個数及び面積密度は、撮像装置により取得された画像を二値化し、輝点をカウントすることにより容易に取得される。
【0029】
表面から深さ方向の距離tの位置に欠陥が存在するとき、観察される散乱光強度I
2は、波長λに対し、I
0を入射光の強度、θを入射角、nを薄膜の屈折率、R
1を空気から薄膜への反射率、R
2を薄膜から空気への反射率、欠陥の散乱断面積をAとして
I
2=(1−R
1)(1−R
2)AI
0exp(−(4πk/λ)・t/cos(sin
-1(sinθ/n)))・exp(−4πk/λ)・t)
と近似できる。
【0030】
予めI
0、R
1、R
2、k/λ、n、Aの値を300〜10600nmの波長範囲において調べておき、観察した欠陥から散乱光強度のI
2の波長のよる変化が上式に合うようにtを求めることで、本装置により欠陥の深さ方向位置を同定する。
【実施例】
【0031】
実施例1
図3に示す本発明方法を用いてDLC膜の欠陥が観察された画像を
図4の(a)に示す。併せて、通常の光学顕微鏡(微分干渉顕微鏡)を用いて同一のDLC膜の欠陥が観察された画像を
図4の(b)に示す。照射光源は500Wのウシオ電機製UXL−500Dキセノン放電ランプを用いた。観察には、株式会社ニコン製研究用生物顕微鏡ECLIPSE80iを用い、顕微鏡用デジタルカメラを用いて撮影した。DLC膜は、パルスプラズマCVD法により合成した。
【0032】
本発明方法による画像からは、多くの欠陥が存在することがわかるが、通常の光学顕微鏡を用いた場合には、表面の大きな欠陥しか観察することができなかった。
【0033】
さらに、受光波長を制限することにより、
図5の(a)(波長制限なし))および(b)(波長380〜420nmに制限)に示すように、内部の欠陥を選択的に観察することができた。
図5の(a)は表面および表面近傍ならびに内部の欠陥を、(b)は表面および表面近傍欠陥を示す。したがって、(a)と(b)の欠陥の差分が内部の欠陥と判定された。
実施例2
【0034】
厚さ約0.49ミクロンのダイヤモンド状炭素(DLC)膜についてキセノンランプを照射して肉眼により暗視野観察したところ、白色、青色の散乱光と黄色または赤色の散乱光が観察された。
【0035】
図6は観察されたバルク欠陥からの散乱光の写真である。欠陥の個数が明確に数えられる。また欠陥からの散乱光は、図中に例を示すように、青色(B)、白色(W)の散乱光と緑色(G)、黄色(Y)、赤色(R)に区分される。
【0036】
表面から深さ方向の距離tの位置に欠陥が存在するとき、観察される散乱光強度I
2は、波長λに対し、I
0を入射光の強度、θを入射角、nをDLCの屈折率、R
1を空気からDLCへの反射率、R
2をDLCから空気への反射率、散乱断面積をAとして
I
2=(1−R
1)(1−R
2)AI
0exp(−(4πk/λ)・t/cos(sin
-1(sinθ/n)))・exp(−4πk/λ)・t)
と近似できるとして、散乱光のスペクトルを分析し、各欠陥の深さtを求めた。
【0037】
肉眼で白色・青色の散乱光にあってはt=0〜15nmであり、表面および表面近傍の欠陥と同定された。肉眼で緑色、黄色及び赤色の散乱光にあってはそれそれの散乱光源により求まるtが異なり、t=15〜485nmであった。これらは内部または基板界面の欠陥と同定された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明方法は、製造現場で容易に利用でき、膜を傷つけないで、膜表面からは観察できない内部欠陥まで検出し得る、膜材料の欠陥の光学的観察方法および装置を提供し得る。