特許第5874161号(P5874161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874161
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】ターボ過給システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 23/00 20060101AFI20160218BHJP
   F02B 37/10 20060101ALI20160218BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20160218BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   F02D23/00 J
   F02B37/10 Z
   F02B37/00 500B
   F02D21/08 301A
   F02D21/08 311B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-242530(P2010-242530)
(22)【出願日】2010年10月28日
(65)【公開番号】特開2012-92789(P2012-92789A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2013年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】橘川 功
(72)【発明者】
【氏名】菅野 知宏
(72)【発明者】
【氏名】阿部 義幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 治世
(72)【発明者】
【氏名】飯島 章
(72)【発明者】
【氏名】石橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】坂下 翔吾
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−239566(JP,A)
【文献】 特開2008−150957(JP,A)
【文献】 特開2010−209735(JP,A)
【文献】 特開2010−180782(JP,A)
【文献】 特開2010−096161(JP,A)
【文献】 特開2004−092456(JP,A)
【文献】 特開2008−095651(JP,A)
【文献】 特開2010−229901(JP,A)
【文献】 特開2010−048104(JP,A)
【文献】 特開2008−240713(JP,A)
【文献】 特開2009−299483(JP,A)
【文献】 特開2009−203918(JP,A)
【文献】 特開2008−045406(JP,A)
【文献】 特開2001−59433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00−28/00
F02D 41/00−45/00
F02B 33/00−41/00
F02M 25/06−25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出される排気ガスの一部を吸気側に還流させるEGR制御手段と、
排気通路に配置されて排気により駆動されるタービンと、吸気通路に配置されて前記タービンの回転トルクにより駆動されるコンプレッサと、を有するターボチャージャと、
を備えたエンジンのターボ過給システムにおいて、
前記ターボチャージャは、前記コンプレッサの駆動力をアシストする電気モータを備えた電動アシストターボチャージャからなり、
前記EGR制御手段は、エンジンの燃焼に必要な酸素量に拘わらず、NOx発生を抑制させるように吸気側に還流させる排気ガスの量であるEGR量を制御するようにされ、
前記EGR制御手段の制御により、EGR量を最もNOxの発生を抑制できる量とした際に、そのEGR量に対してブースト圧が不足しているとき、前記電気モータを駆動する電気モータ制御部を備え、
前記電気モータ制御部は、前記コンプレッサの出口圧力であるブースト圧が目標ブースト圧よりも小さいとき、前記電気モータを駆動し、前記目標ブースト圧は、エンジン速度とエンジントルクとEGR量とから設定されている
ことを特徴とするターボ過給システム。
【請求項2】
前記ターボチャージャは、前記排気通路に配置されて排気により駆動される高圧段タービンと、前記吸気通路に配置されて前記高圧段タービンの回転トルクにより駆動される高圧段コンプレッサと、を有する高圧段ターボチャージャであり、
前記高圧段タービンよりも下流側の前記排気通路に配置されて排気により駆動される低圧段タービンと、前記高圧段コンプレッサよりも上流側の前記吸気通路に配置されて前記低圧段タービンの回転トルクにより駆動される低圧段コンプレッサと、を有する低圧段ターボチャージャをさらに備えた
請求項1記載のターボ過給システム。
【請求項3】
前記電気モータ制御部は、前記高圧段コンプレッサの出口圧力であるブースト圧が、EGR制御で吸気側に還流させる排気ガスの量を最もNOxの発生を抑制できる量としても、車両の動力性能が確保できる値に設定された目標ブースト圧よりも小さいとき、前記電気モータを駆動する
請求項2記載のターボ過給システム。
【請求項4】
前記高圧段コンプレッサの出口圧力であるブースト圧を測定するブースト圧センサと、 エンジン速度とエンジントルクごとに、前記EGR制御で吸気側に還流させる排気ガスの量を考慮した目標ブースト圧が設定された目標ブースト圧マップと、
吸入空気流量を測定する吸入空気流量測定手段と、
前記高圧段コンプレッサの入口圧力を測定する入口圧力センサと、
前記高圧段コンプレッサにおけるターボ回転数ごとの吸入空気流量に対する入口圧力とブースト圧の圧力比の関係である高圧段コンプレッサ特性マップと、
を備え、
前記電気モータ制御部は、
前記入口圧力センサで測定した入口圧力と前記目標ブースト圧との比から目標圧力比を求めると共に、その目標圧力比と前記吸入空気流量測定手段で測定した吸入空気流量とで前記高圧段コンプレッサ特性マップを参照して目標ターボ回転数を求め、
求めた目標ターボ回転数と現在のターボ回転数との乖離に応じて、前記電気モータによる駆動量を制御する
請求項2または3記載のターボ過給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧段ターボチャージャと低圧段ターボチャージャを直列に接続したターボ過給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上及びCO2排出量の低減のために、エンジンの排気量を小さく(エンジン・ダウンサイジング)したり、あるいは車両のギア比を大きく(ハイギアード化)し、ターボチャージャ等の過給機で動力性能を確保する技術の開発が盛んに行われている。
【0003】
このとき用いるターボ過給システムとして、容量の異なる2つのターボチャージャを用い、運転領域で使用するターボチャージャを切り替える2ステージターボが提案されている。2ステージターボには、2つのターボチャージャを並列に接続したパラレル2ステージターボと、2つのターボチャージャを直列に接続したシリーズ2ステージターボ(例えば、特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−270475号公報
【特許文献2】特開2006−177171号公報
【特許文献3】特開2010−209735号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】茨木誠一、他4名、「電動アシストターボチャージャ”ハイブリッドターボ”の開発」、三菱重工技報、Vol.43、No.3、2006年、p.36−40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンから排出される排気ガスの一部を吸気側に還流させてNOxを低減するEGR(Exhaust Gas Recirculation;排気再循環)制御が知られてる。
【0007】
EGR制御では、エンジンの吸気マニホールド(あるいは吸気通路)と排気マニホールド(あるいは排気通路)を接続するEGR管を設け、そのEGR管に設けられたEGRバルブの開度を調整することで、吸気側に還流させる排気ガスの量であるEGR量(あるいはEGR率)を制御するようになっている。
【0008】
EGR制御では、排気ガスの一部を吸気側に還流させてエンジンに吸気されるガスの酸素濃度を低くし、燃焼最高温度と燃焼最高温度に晒される時間を短くすることで、NOxの発生を抑制している。しかし、酸素濃度を低くするだけでは、エンジンでの燃焼に必要な酸素の絶対量が不足することになるので、ブースト圧を高く維持して吸入空気流量を多くし、エンジンに供給される酸素の絶対量を確保しつつ、EGR量を多くして酸素濃度を低くする、といった制御が必要になる。
【0009】
しかしながら、排気エネルギが小さい低負荷領域や、ターボ翼車のイナーシャによりターボ回転数がすぐに上がらない過渡運転時には、上述のようなシリーズ2ステージターボであっても十分なブースト圧を得ることができないという問題がある。このような状況でEGR量を多くすると、ターボチャージャに供給される排気ガスの流量がさらに少なくなり、ターボチャージャの応答(すなわちブースト圧の上昇)がさらに遅れて、エンジンの動力性能に問題が生じることとなってしまう。
【0010】
よって、動力性能を確保するためには、低負荷領域や過渡運転時にはEGR量を大きくすることができず、その結果、エンジンから排出されるNOxの量が多くなっていた。エンジンから排出される多量のNOxをそのまま大気に放出することはできないため、従来より、NOx触媒を用いて、NOxを浄化することが一般に行われている。
【0011】
しかし、NOx触媒は非常に高価であることから、NOx触媒を簡素化若しくは廃止することが望まれる。どのような運転状態でも十分なEGR量が確保できれば、エンジンから排出されるNOxの量は非常に少なくなり、NOx触媒を簡素化若しくは廃止することが可能となる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、どのような運転状態でも十分なEGR量が確保でき、エンジンからのNOxの排出量を低減可能なターボ過給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、エンジンから排出される排気ガスの一部を吸気側に還流させるEGR制御手段と、排気通路に配置されて排気により駆動されるタービンと、吸気通路に配置されて前記タービンの回転トルクにより駆動されるコンプレッサと、を有するターボチャージャと、を備えたエンジンのターボ過給システムにおいて、前記ターボチャージャは、前記コンプレッサの駆動力をアシストする電気モータを備えた電動アシストターボチャージャからなり、前記EGR制御手段は、エンジンの燃焼に必要な酸素量に拘わらず、NOx発生を抑制させるように吸気側に還流させる排気ガスの量を制御するようにされ、前記EGR制御手段の制御により、エンジンの燃焼に必要な酸素量が不足しているとき、前記電気モータを駆動する電気モータ制御部を備えたターボ過給システムである。
【0014】
前記ターボチャージャは、前記排気通路に配置されて排気により駆動される高圧段タービンと、前記吸気通路に配置されて前記高圧段タービンの回転トルクにより駆動される高圧段コンプレッサと、を有する高圧段ターボチャージャであり、前記高圧段タービンよりも下流側の前記排気通路に配置されて排気により駆動される低圧段タービンと、前記高圧段コンプレッサよりも上流側の前記吸気通路に配置されて前記低圧段タービンの回転トルクにより駆動される低圧段コンプレッサと、を有する低圧段ターボチャージャをさらに備えてもよい。
【0015】
前記電気モータ制御部は、前記高圧段コンプレッサの出口圧力であるブースト圧が、EGR制御で吸気側に還流させる排気ガスの量を最もNOxの発生を抑制できる量としても、車両の動力性能が確保できる値に設定された目標ブースト圧よりも小さいとき、前記電気モータを駆動してもよい。
【0016】
前記高圧段コンプレッサの出口圧力であるブースト圧を測定するブースト圧センサと、エンジン速度とエンジントルクごとに、前記EGR制御で吸気側に還流させる排気ガスの量を考慮した目標ブースト圧が設定された目標ブースト圧マップと、吸入空気流量を測定する吸入空気流量測定手段と、前記高圧段コンプレッサの入口圧力を測定する入口圧力センサと、前記高圧段コンプレッサにおけるターボ回転数ごとの吸入空気流量に対する入口圧力とブースト圧の圧力比の関係である高圧段コンプレッサ特性マップと、を備え、前記電気モータ制御部は、前記入口圧力センサで測定した入口圧力と前記目標ブースト圧との比から目標圧力比を求めると共に、その目標圧力比と前記吸入空気流量測定手段で測定した吸入空気流量とで前記高圧段コンプレッサ特性マップを参照して目標ターボ回転数を求め、求めた目標ターボ回転数と現在のターボ回転数との乖離に応じて、前記電気モータによる駆動量を制御してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、どのような運転状態でも十分なEGR量が確保でき、エンジンからのNOxの排出量を低減可能なターボ過給システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係るターボ過給システムを用いたエンジンシステムの概略構成図である。
図2図1のターボ過給システムで用いる目標ブースト圧マップの一例を示す図である。
図3図1のターボ過給システムで用いる高圧段コンプレッサ特性マップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態に係るターボ過給システムを用いたエンジンシステムの概略構成図である。
【0021】
図1に示すように、ターボ過給システム1は、小型(小容量)の高圧段ターボチャージャ2と、大型(大容量)の低圧段ターボチャージャ3とを直列に接続したシリーズ2ステージターボで構成される。
【0022】
高圧段ターボチャージャ2は、エンジンEの排気通路4に配置されて排気により駆動される高圧段タービン2aと、吸気通路5に配置されて高圧段タービン2aの回転トルクにより駆動される高圧段コンプレッサ2bと、を有している。
【0023】
低圧段ターボチャージャ3は、高圧段タービン2aよりも下流側の排気通路4に配置されて排気により駆動される低圧段タービン3aと、高圧段コンプレッサ2bよりも上流側の吸気通路5に配置されて低圧段タービン3aの回転トルクにより駆動される低圧段コンプレッサ3bと、を有している。
【0024】
排気通路4の最上流はエンジンEの排気マニホールド6に接続され、その下流側の排気通路4には、高圧段タービン2a、低圧段タービン3aが順次設けられる。吸気通路5の最上流にはエアフィルタ7が設けられ、その下流側の吸気通路5には、低圧段コンプレッサ3b、高圧段コンプレッサ2b、インタークーラ8が順次設けられ、吸気通路5の最下流はエンジンEの吸気マニホールド9に接続される。
【0025】
また、排気通路4には、高圧段タービン2aをバイパスする高圧段タービンバイパスライン10、低圧段タービン3aをバイパスする低圧段タービンバイパスライン11がそれぞれ設けられ、高圧段タービンバイパスライン10には高圧段タービンバイパス弁10aが、低圧段タービンバイパスライン11には低圧段タービンバイパス弁11aがそれぞれ設けられる。また、吸気通路5には、高圧段コンプレッサ2bをバイパスするように高圧段コンプレッサバイパスライン12が設けられ、その高圧段コンプレッサバイパスライン12には高圧段コンプレッサバイパス弁12aが設けられる。
【0026】
さらに、ターボ過給システム1は、高圧段コンプレッサ2bの出口圧力であるブースト圧を測定するブースト圧センサ13と、高圧段コンプレッサ2bの入口圧力を測定する入口圧力センサ14と、吸入空気流量を測定する図示しない吸入空気流量測定手段(例えばMAFセンサ)と、を備えている。ブースト圧センサ13は吸気マニホールド9に設けられ、入口圧力センサ14は、低圧段コンプレッサ3bの上流側の吸気通路5に設けられる。なお、エンジン速度が極低速の領域など低圧段ターボチャージャ3が使用されない領域では、入口圧力センサ14の測定値は高圧段コンプレッサ2bの入口圧力と略等しい。
【0027】
ターボ過給システム1は、エンジン速度(エンジン回転数)とエンジントルク(負荷)に応じて使用するターボチャージャ2,3を切り替えるターボ切替制御部21を備えている。ターボ切替制御部21は、電子制御装置(Electronical Control Unit;ECU)20にプログラムとして組み込まれている。
【0028】
ターボ切替制御部21は、エンジン速度が低く排気エネルギが小さい領域では、高圧段タービンバイパス弁10aと高圧段コンプレッサバイパス弁12aを閉じ、高圧段ターボチャージャ2を駆動させる。このとき、低圧段タービン3aにも排気ガスが供給され、残った排気エネルギで低圧段ターボチャージャ3を駆動することになるが、エンジン速度が低く排気エネルギが小さい領域では、低圧段タービン3aは殆ど仕事ができず、ほぼ高圧段ターボチャージャ2のみの運転となる。
【0029】
また、ターボ切替制御部21は、エンジン速度が高く排気エネルギが大きい領域では、高圧段ターボチャージャ2の過回転と排気圧の異常上昇による燃費の悪化を抑制するために、高圧段タービンバイパス弁10aと高圧段コンプレッサバイパス弁12aを開放し、低圧段タービンバイパス弁11aを閉じて、低圧段ターボチャージャ3のみを駆動させる。なお、さらにエンジン速度が高くなり、低圧段ターボチャージャ3の容量を超える領域では、低圧段タービンバイパス弁11aを開放し、低圧段ターボチャージャ3の過回転と排気圧の異常上昇による燃費の悪化を抑制するようにされる。
【0030】
さらに、ターボ切替制御部21は、エンジン速度が低い領域と高い領域の中間の領域では、低圧段タービンバイパス弁11aと高圧段コンプレッサバイパス弁12aを閉じ、高圧段タービンバイパス弁10aの開度を調整することで、高圧段タービンバイパス弁10aの開度に応じた割合で高圧段ターボチャージャ2と低圧段ターボチャージャ3の両者を駆動させる。
【0031】
また、このターボ過給システム1では、エンジンから排出される排気ガスの一部を吸気側に還流させるEGR制御手段を備えている。EGR制御手段は、排気マニホールド6と高圧段タービン2aの間の排気通路4と吸気マニホールド9とを接続するEGR管15と、EGR管15に設けられ、吸気側に還流させる排気ガスの量であるEGR量(あるいはEGR率)を調整するためのEGRバルブ16と、ECU20に搭載され、エンジン速度や燃料噴射量などのエンジンパラメータに応じて最適な(最もNOxの発生を抑制できる)目標EGR量を求め、EGR量が目標EGR量となるようにEGRバルブ16の開度を制御するEGR制御部25と、を備えている。EGR制御部25は、エンジンEの燃焼に必要な酸素量に拘わらず、NOx発生を抑制させるようにEGR量を制御するようにされる。
【0032】
さて、本実施の形態に係るターボ過給システム1では、高圧段ターボチャージャ2として、高圧段コンプレッサ2bの駆動力をアシストする(高圧段タービン2aの回転トルクをアシストする)電気モータ2cを備えた電動アシストターボチャージャ(ハイブリッドターボ)を用いる。電気モータ2cは、高圧段タービン2aと高圧段コンプレッサ2bの間、より具体的には、高圧段タービン2aのタービンホイールと高圧段コンプレッサ2bのコンプレッサホイールとを連結するターボ軸に一体に設けられる。電気モータ2cは、例えばDCサーボモータからなる。なお、電気モータ2cはターボ軸と一体に設けられているため、電気モータ2cの回転数は高圧段ターボチャージャ2の回転数(ターボ回転数)と等しくなる。
【0033】
ターボ過給システム1は、EGR制御手段の制御により、エンジンEの燃焼に必要な酸素量が不足しているとき、すなわち、EGR量を最もNOxの発生を抑制できるEGR量(目標EGR量)とした際に、そのEGR量に対してブースト圧が不足しているとき(つまり、吸入空気流量が不足して酸素の絶対量が不足しているとき)、電気モータ2cを駆動する電気モータ制御部23を備えている。
【0034】
また、ターボ過給システム1は、エンジン速度とエンジントルクごとに、EGR制御で吸気側に還流させる排気ガスの量を考慮した目標ブースト圧が設定された目標ブースト圧マップ22を備え、電気モータ制御部23は、ブースト圧センサ13で検出したブースト圧が、エンジン速度とエンジントルクで目標ブースト圧マップ22を参照して得た目標ブースト圧よりも小さいとき、電気モータを駆動するようにされる。
【0035】
また、ターボ過給システム1は、高圧段コンプレッサ2bにおけるターボ回転数ごとの吸入空気流量に対する入口圧力とブースト圧の圧力比の関係である高圧段コンプレッサ特性マップ24を備えており、電気モータ制御部23は、入口圧力センサ14で測定した入口圧力と目標ブースト圧との比から目標圧力比を求めると共に、その目標圧力比と吸入空気流量測定手段で測定した吸入空気流量とで高圧段コンプレッサ特性マップ24を参照して目標ターボ回転数を求め、求めた目標ターボ回転数と現在のターボ回転数との乖離に応じて、電気モータ2cによる駆動量(アシスト量)を制御するようにされる。
【0036】
目標ブースト圧マップ22、電気モータ制御部23、および高圧段コンプレッサ特性マップ24は、ECU20に搭載される。なお、ECU20には、エンジンEの制御を行うため、エンジン速度や燃料噴射量など、あらゆるエンジンパラメータが認識されるようになっている。
【0037】
以下、電気モータ2cによるアシスト量の制御について詳細に説明する。
【0038】
ターボ過給システム1では、まず、電気モータ制御部23が、エンジン速度とエンジントルクで目標ブースト圧マップ22を参照し、目標ブースト圧を求める。このとき用いる目標ブースト圧マップ22の一例を図2に示す。
【0039】
図2に示すように、目標ブースト圧マップ22は、エンジン速度とエンジントルクごとに目標ブースト圧(図2中に数字で示す値)が設定されたマップである。目標ブースト圧は、各エンジン速度とエンジントルクの条件において、EGR量を目標EGR量(最もNOxの発生を抑制できるEGR量)としても、十分な動力性能が確保できる値に設定される。なお、エンジントルクは、燃料噴射量等のエンジンパラメータから求めることができる。
【0040】
目標ブースト圧を求めた後、その目標ブースト圧に実際のブースト圧が近づくように、電気モータ2cによるアシスト量を制御することになるが、電気モータ2cは回転数制御が容易に可能なことから、アシスト量の制御も電気モータ2cの回転数を指示することが有効である。
【0041】
より具体的には、電気モータ制御部23は、入口圧力センサ14で測定した入口圧力と目標ブースト圧との比から目標圧力比を求めると共に、ブースト圧センサ13で測定したブースト圧と入口圧力との比から、現在の圧力比を求める。
【0042】
なお、入口圧力センサ14が測定する入口圧力は、低圧段コンプレッサ3bの入口圧力であるから、ここで求めた圧力比(目標圧力比と現在の圧力比)は、両者とも、低圧段コンプレッサ3bの入口と出口の圧力比と、高圧段コンプレッサ2bの入口と出口の圧力比を総合した値となる。しかし、低圧段ターボチャージャ3が駆動されている状態では、排気エネルギが大きく実際のブースト圧が目標ブースト圧以上となるので、実際には電気モータ2cによるアシストは行われない(電気モータ2cによるアシストを行ってもよいが、電力消費により逆に燃費が悪化する)。つまり、実際のブースト圧が目標ブースト圧よりも小さくなるのは、エンジン速度が低い領域に限られる。このような領域では、低圧段ターボチャージャ3は駆動されないので、入口圧力センサ14で測定した入口圧力は高圧段コンプレッサ2bの入口圧力と略等しくなり、この入口圧力とブースト圧の比をとることで、高圧段コンプレッサ2bの入口と出口の圧力比を求めることができる。
【0043】
その後、電気モータ制御部23は、目標圧力比と吸入空気流量測定手段で測定した吸入空気流量とで高圧段コンプレッサ特性マップ24を参照して、目標ターボ回転数を求めると共に、現在の圧力比と吸入空気流量とで高圧段コンプレッサ特性マップ24を参照して、現在のターボ回転数を求める。このとき用いる高圧段コンプレッサ特性マップ24の一例を図3に示す。
【0044】
図3に示すように、高圧段コンプレッサ特性マップ24は、高圧段コンプレッサ2bの入口と出口の圧力比と、吸入空気量との関係を、高圧段ターボチャージャ2のターボ回転数ごとに示したマップであり、高圧段コンプレッサの特性を示すものである。
【0045】
図3において、例えば、現在の圧力比と吸入空気流量がA点にあり、目標圧力比と吸入空気流量がB点にある場合、A点でのターボ回転数(現在のターボ回転数)とB点でのターボ回転数(目標ターボ回転数)との差から、必要な回転上昇数を求めることができる。電気モータ制御部23は、この必要な回転上昇数に応じて電気モータ2cを制御(例えば、電気モータ2cに印加する電圧の大きさを制御)し、ターボ回転数が目標ターボ回転数となるように制御を行う。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態に係るターボ過給システム1では、高圧段ターボチャージャ2を、高圧段コンプレッサ2bの駆動力をアシストする電気モータ2cを備えた電動アシストターボチャージャで構成し、EGR量を最もNOxの発生を抑制できる量とした際に、そのEGR量に対してブースト圧が不足しているとき、電気モータ2cを駆動するようにしている。
【0047】
電気モータ2cを駆動すれば、運転状態に拘わらず十分なブースト圧を得ることが可能となるため、排気エネルギが小さい低負荷領域や、ターボ翼車のイナーシャの影響を受けやすい過渡運転時であっても、十分なブースト圧を確保することが可能になる。よって、どのような運転状態でも十分なEGR量を確保し、常に最適な(最もNOxの発生を抑制できる)EGR量とすることが可能となり、エンジンEからのNOxの排出量を低減することが可能になる。その結果、高価なNOx触媒を簡素化若しくは廃止することが可能となり、大幅なコスト低減が可能となる。
【0048】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0049】
例えば、上記実施の形態では、ブースト圧センサ13で測定したブースト圧が、目標ブースト圧マップ22で得た目標ブースト圧よりも低いときに、電気モータ2cを駆動するようにしたが、電気モータ2cを駆動する指標はブースト圧に限定されず、例えば、高圧段コンプレッサ2bの入口と出口の圧力比、あるいは、排気又は吸気の空気過剰率、吸入空気量等を指標とし、実測値が目標値よりも低いときに、電気モータ2cを駆動するよう構成してもよい。
【0050】
また、高圧段ターボチャージャ2のターボ回転数を検出する回転数センサを設け、回転数センサで検出されるターボ回転数と目標ターボ回転数との乖離に応じて、電気モータ2cによるアシスト量を制御するようにしてもよい。
【0051】
さらに、上記実施の形態では言及しなかったが、電気モータ2cを駆動すると高圧段タービン2aと高圧段コンプレッサ2bの両者が回転するため、高圧段タービン2a入口の圧力が低下し、高圧段コンプレッサ2aの出口の圧力が上昇する。そのため、高圧段ターボチャージャ2の効率が非常に高いときには、EGR管15の吸気通路5側と排気通路4側の圧力差が小さくなり、EGRバルブ16を開放してもEGR量がそれほど増加しなくなる場合が考えられる。これを防止するため、EGR管15に排気側から吸気側へ一方向のみに排気ガスを流すリードバルブ(1ウェイバルブ)を設け、圧力脈動を利用してEGR量を確保するように構成してもよい。
【0052】
上記実施の形態では、一例として本発明をシリーズ2ステージターボに適用した場合を説明したが、本発明の適用範囲はシリーズ2ステージターボに限定されるものではなく、例えば、1段のみのターボチャージャを備えたターボ過給システムにも当然に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 ターボ過給システム
2 高圧段ターボチャージャ
2a 高圧段タービン
2b 高圧段コンプレッサ
2c 電気モータ
3 低圧段ターボチャージャ
3a 低圧段タービン
3b 低圧段コンプレッサ
4 排気通路
5 吸気通路
23 電気モータ制御部
図1
図2
図3