【文献】
J. Cancer Res. Clin. Oncol.,2008年,Vol.134,pp.453-462
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の免疫誘導剤に有効成分として含まれるポリペプチドとしては、以下のものが挙げられる。なお、本発明において、「ポリペプチド」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合することによって形成される分子をいい、構成するアミノ酸数が多いポリペプチド分子のみならず、アミノ酸数が少ない低分子量の分子(オリゴペプチド)や、全長タンパク質も包含され、本発明では配列番号2、4、6、8、10、12又は44に示すアミノ酸配列を有するPDS5Aの全長タンパク質も包含される。
【0031】
(a)配列表の配列番号2、4、6、8、10、12又は44に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド中の連続する7個以上のアミノ酸から成り、免疫誘導活性を有するポリペプチド
(b)(a)のポリペプチドと90%以上の配列同一性を有し、7個以上のアミノ酸から成る、免疫誘導活性を有するポリペプチド
(c)(a)又は(b)のポリペプチドを部分配列として含み、免疫誘導活性を有するポリペプチド。
【0032】
なお、本発明において、「アミノ酸配列を有する」とは、アミノ酸残基がそのような順序で配列しているという意味である。従って、例えば、「配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド」とは、配列番号2に示されるMet Asp Phe Thr・・(中略)・・Asp Leu Gln Argのアミノ酸配列を持つ、1337アミノ酸残基のサイズのポリペプチドを意味する。また、例えば、「配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド」を「配列番号2のポリペプチド」と略記することがある。「塩基配列を有する」という表現についても同様である。この場合、「有する」という用語は、「からなる」という表現で置き換えてもよい。
【0033】
ここで、「免疫誘導活性」とは、生体内でインターフェロン等のサイトカインを分泌する免疫細胞を誘導する能力を意味する。
【0034】
上記ポリペプチドが免疫誘導活性を有するか否かは、例えば公知のエリスポットアッセイ等を用いて確認することができる。具体的には、例えば後述の実施例に記載されるように、免疫誘導活性を評価すべきポリペプチドを投与した生体から末梢血単核球等の細胞を得て、該細胞を該ポリペプチドと共存培養し、該細胞からのサイトカイン産生量を、特異抗体を用いて測定することにより、該細胞中の免疫細胞数を測定することができるので、これにより免疫誘導活性を評価することができる。
【0035】
また、後述の実施例に記載されるように、上記(a)〜(c)の組換えポリペプチドを担癌生体に投与すると、その免疫誘導活性により腫瘍を退縮させることもできる。よって、上記免疫誘導活性は、癌細胞の増殖を抑制し又は癌組織(腫瘍)を縮小若しくは消滅させる能力(以下、「抗腫瘍活性」という)として評価することもできる。ポリペプチドの抗腫瘍活性は、例えば後述の実施例に具体的に記載されるように、実際に該ポリペプチドを担癌生体に投与して腫瘍が縮小等されるか否かを調べることよって確認することができる。
【0036】
あるいは、該ポリペプチドで刺激したT細胞(すなわち、該ポリペプチドを提示する抗原提示細胞と接触させたT細胞)が、生体外で腫瘍細胞に対して細胞障害活性を示すか否かを調べることによって、ポリペプチドの抗腫瘍活性を評価することもできる。T細胞と抗原提示細胞との接触は、後述するように、両者を液体培地中で共存培養することにより行なうことができる。細胞障害活性の測定は、例えばInt.J.Cancer,58:p317,1994に記載された
51Crリリースアッセイと呼ばれる公知の方法により行なうことができる。上記ポリペプチドを癌の治療及び/又は予防用途に用いる場合には、特に限定されないが、抗腫瘍活性を指標として免疫誘導活性を評価することが好ましい。
【0037】
本発明が開示する配列表の配列番号2、4、6、8、10、12又は44にそれぞれ示されるアミノ酸配列は、イヌ精巣由来cDNAライブラリーと担癌犬の血清を用いたSEREX法により、担癌犬由来の血清中に特異的に存在する抗体と結合するポリペプチド及びそのヒト(配列番号4及び44)、マウス(配列番号6)、ウシ(配列番号8)、ウマ(配列番号10)及びニワトリ(配列番号12)の相同因子として単離された、PDS5Aタンパク質のアミノ酸配列である(実施例1参照)。なお、イヌPDS5Aのヒト相同因子であるヒトPDS5Aでは、配列同一性が塩基配列94%、アミノ酸配列99%であり、マウス相同因子であるマウスPDS5Aでは配列同一性は塩基配列91%、アミノ酸配列99%、ウシ相同因子であるウシPDS5Aでは配列同一性は塩基配列95%、アミノ酸配列99%、ウマ相同因子であるウマPDS5Aでは配列同一性は塩基配列96%、アミノ酸配列99%、ニワトリ相同因子であるニワトリPDS5Aでは配列同一性は塩基配列83%、アミノ酸配列98%である。
【0038】
上記(a)のポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、10、12又は44で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド中の連続する7個以上、好ましくは連続する8、9又は10個以上のアミノ酸から成るポリペプチドであって、免疫誘導活性を有するものである。特に好ましくは、該ポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、10、12又は44で示されるアミノ酸配列を有する。なお、この分野で公知の通り、約7アミノ酸残基以上のポリペプチドであれば抗原性及び免疫原性を発揮できる。従って、配列番号2、4、6、8、10、12又は44のアミノ酸配列中の連続する7アミノ酸残基以上のポリペプチドであれば、免疫誘導活性を有し得るので、本発明の免疫誘導剤の調製に用いることができる。
【0039】
また、癌抗原ポリペプチドを投与することによる免疫誘導の原理として、ポリペプチドが抗原提示細胞に取り込まれ、その後該細胞内でペプチダーゼによる分解を受けてより小さな断片となり、該細胞の表面上に提示され、それを細胞障害性T細胞等が認識し、その抗原を提示している細胞を選択的に殺していくということが知られている。抗原提示細胞の表面上に提示されるポリペプチドのサイズは比較的小さく、アミノ酸数で7〜30程度である。従って、抗原提示細胞上に提示させるという観点からは、上記(a)のポリペプチドとしては、配列番号2、4、6、8、10、12又は44で示されるアミノ酸配列中の連続する7〜30程度であることが好ましい態様のひとつであり、より好ましくは8〜30もしくは9〜30程度のアミノ酸から成るものであれば十分である。これら比較的小さなサイズのポリペプチドは、抗原提示細胞内に取り込まれることなく、直接抗原提示細胞上の細胞表面に提示される場合もある。
【0040】
また、抗原提示細胞に取り込まれたポリペプチドは、該細胞内のペプチダーゼによりランダムな位置で切断を受けて、種々のポリペプチド断片が生じ、これらのポリペプチド断片が抗原提示細胞表面上に提示されるので、配列番号2、4、6、8、10、12又は44の全長領域のように大きなサイズのポリペプチドを投与すれば、抗原提示細胞内での分解によって、抗原提示細胞を介する免疫誘導に有効なポリペプチド断片が必然的に生じる。従って、抗原提示細胞を介する免疫誘導にとっても、サイズの大きなポリペプチドを好ましく用いることができ、アミノ酸数を30以上、さらに好ましくは100以上、さらに好ましくは200以上、さらに好ましくは250以上、さらに好ましくは配列番号2、4、6、8、10、12又は44の全長領域のポリペプチドとしてもよい。
【0041】
さらに、本発明のポリペプチドは、HLAの各型の結合モチーフを有する8〜12個、好ましくは9〜10個のアミノ酸からなるエピトープペプチドを検索しうる照合媒体、例えばBioinformatics & Molecular Analysis Selection (BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions (http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html)によって照合し、エピトープペプチドとなりうるペプチドをスクリーニングすることができる。具体的には、配列番号2、6、8、10、12又は44で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基番号aa111〜140、aa211〜240、aa248〜278、aa327〜357、aa459〜522、aa909〜972、aa959〜1022、aa994〜1057又はaa1018〜1080の領域内の連続する7個以上のアミノ酸から成るポリペプチドが好ましく、さらに配列番号4又は44のポリペプチドにおいては、配列番号27〜35で示されるポリペプチド、あるいは配列番号27〜35に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを部分配列として含み、かつアミノ酸残基数が10〜12であるポリペプチドがより好ましい。
【0042】
上記(b)のポリペプチドは、上記(a)のポリペプチドのうちの少数の(好ましくは、1個もしくは数個の)アミノ酸残基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリペプチドであって、元の配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上又は99.5%以上の配列同一性を有し、かつ、免疫誘導活性を有するポリペプチドである。一般に、タンパク質抗原において、該タンパク質のアミノ酸配列のうち少数のアミノ酸残基が置換され、欠失され又は挿入された場合であっても、元のタンパク質とほぼ同じ抗原性を有している場合があることは当業者において広く知られている。従って、上記(b)のポリペプチドも免疫誘導活性を発揮し得るので、本発明の免疫誘導剤の調製に用いることができる。また、上記(b)のポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、10、12又は44で示されるアミノ酸配列のうち、1個ないし数個のアミノ酸残基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリペプチドであることも好ましい。本明細書中の「数個」とは、2〜10の整数、好ましくは2〜6の整数、さらに好ましくは2〜4の整数を表す。
【0043】
ここで、アミノ酸配列又は塩基配列の「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列(又は塩基配列)のアミノ酸残基(又は塩基)ができるだけ多く一致するように両アミノ酸配列(又は塩基配列)を整列させ、一致したアミノ酸残基数(又は一致した塩基数)を全アミノ酸残基数(又は全塩基数)で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTAL W等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全アミノ酸残基数は、1つのギャップを1つのアミノ酸残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全アミノ酸残基数が、比較する2つの配列間で異なる場合には、配列同一性(%)は、長い方の配列の全アミノ酸残基数で、一致したアミノ酸残基数を除して算出される。
【0044】
なお、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly,Ile,Val,Leu,Ala,Met,Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn,Gln,Thr,Ser,Tyr,Cys)、酸性アミノ酸(Asp,Glu)、塩基性アミノ酸(Arg,Lys,His)、芳香族アミノ酸(Phe,Tyr,Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの間での置換であればポリペプチドの性質が変化しないことが多いことが知られている。従って、本発明の上記(a)のポリペプチド中のアミノ酸残基を置換する場合には、これらの各グループの間で置換することにより、免疫誘導活性を維持できる可能性が高くなるため、好ましい。
【0045】
なお、前述のエピトープペプチドとなる上記(b)のポリペプチドとしては、配列番号2、6、8、10、12又は44に示されるアミノ酸配列中のaa111〜140、aa211〜240、aa248〜278、aa327〜357、aa459〜522、aa909〜972、aa959〜1022、aa994〜1057又はaa1018〜1080の領域内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチドの1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたポリペプチド又は該ポリペプチドを部分配列として含み、かつ、免疫誘導活性を有するポリペプチドが好ましく、さらに配列番号4又は44のポリペプチドにおいては、あるいは配列番号27〜35に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたポリペプチド又は該ポリペプチドを部分配列として含み、かつアミノ酸残基数が10〜12であるポリペプチドがより好ましい。
【0046】
上記(c)のポリペプチドは、上記(a)又は(b)のポリペプチドを部分配列として含み、免疫誘導活性を有するポリペプチドである。すなわち、(a)又は(b)のポリペプチドの一端又は両端に他のアミノ酸又はポリペプチドが付加されたものであって、免疫誘導活性を有するポリペプチドである。このようなポリペプチドも、本発明の免疫誘導剤の調製に用いることができる。
【0047】
なお、前述のエピトープペプチドとなる上記(c)のポリペプチドとしては、配列番号2、6、8、10、12又は44に示されるアミノ酸配列中のaa111〜140、aa211〜240、aa248〜278、aa327〜357、aa459〜522、aa909〜972、aa959〜1022、aa994〜1057又はaa1018〜1080の領域内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチドを部分配列として含むポリペプチドが好ましく、さらに配列番号4又は44のポリペプチドにおいては、配列番号27〜35に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたポリペプチド又は該ポリペプチドを部分配列として含み、かつアミノ酸残基数が10〜12であるポリペプチドを部分配列として含むポリペプチドがより好ましい。
【0048】
上記したポリペプチドは、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して常法により合成することもできる。また、公知の遺伝子工学的手法を用いて、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製し、該ポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込んで宿主細胞に導入し、該宿主細胞中でポリペプチドを生産させることにより、目的とするポリペプチドを得ることができる。
【0049】
上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法や市販の核酸合成機を用いた常法により、容易に調製することができる。例えば、配列番号1の塩基配列を有するDNAは、イヌ染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列を増幅できるように設計した一対のプライマーを用いてPCRを行うことにより調製することができる。配列番号3又は43の塩基配列を有するDNAであれば、上記鋳型としてヒト染色体DNA又はcDNAライブラリーを使用することで同様に調製できる。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応行程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができるが、これに限定されない。また、本明細書中の配列表の配列番号1、3、5、7、9、11又は43に示される塩基配列及びアミノ酸配列の情報に基づいて、適当なプローブやプライマーを調製し、それを用いてイヌやヒトなどのcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、所望のDNAを単離することができる。cDNAライブラリーは、配列番号2、4、6、8、10、12又は44のタンパク質を発現している細胞、器官又は組織から作製することが好ましい。上記したプローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、ならびに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、モレキュラークロニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラバイオロジー等に記載された方法に準じて行うことができる。このようにして得られたDNAから、上記(a)のポリペプチドをコードするDNAを得ることができる。また、各アミノ酸をコードするコドンは公知であるから、特定のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列は容易に特定することができる。従って、上記した(b)又は(c)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列も容易に特定することができるので、そのようなポリヌクレオチドも、市販の核酸合成機を用いて常法により容易に合成することができる。
【0050】
上記宿主細胞としては、上記ポリペプチドを発現可能な細胞であればいかなるものであってもよく、原核細胞の例としては大腸菌など、真核細胞の例としてはサル腎臓細胞COS1、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO等の哺乳動物培養細胞、出芽酵母、分裂酵母、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
宿主細胞として原核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、原核細胞中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、DNAクローニング部位、ターミネーター等を有する発現ベクターを用いる。大腸菌用発現ベクターとしては、pUC系、pBluescriptII、pET発現システム、pGEX発現システムなどが例示できる。上記ポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで原核宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、前記DNAがコードしているポリペプチドを原核宿主細胞中で発現させることができる。この際、該ポリペプチドを、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることもできる。
【0052】
宿主細胞として真核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターを用いる。そのような発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK−CMV、pBK−RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3、pMSG、pYES2等が例示できる。上記と同様に、上記ポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで真核宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、前記DNAがコードしているポリペプチドを真核宿主細胞中で発現させることができる。発現ベクターとしてpIND/V5−His、pFLAG−CMV−2、pEGFP−N1、pEGFP−C1等を用いた場合には、Hisタグ、FLAGタグ、mycタグ、HAタグ、GFPなど各種タグを付加した融合タンパク質として、上記ポリペプチドを発現させることができる。
【0053】
発現ベクターの宿主細胞への導入は、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の周知の方法を用いることができる。
【0054】
宿主細胞から目的のポリペプチドを単離精製するためには、公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。例えば尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒分別沈殿法、透析、遠心分離、限外ろ過、ゲルろ過、SDS−PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
以上の方法によって得られるポリペプチドには、上述した通り、他の任意のタンパク質との融合タンパク質の形態にあるものも含まれる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)やHisタグとの融合タンパク質などが例示できる。このような融合タンパク質の形態のポリペプチドも、上記した(c)のポリペプチドとして本発明の範囲に含まれる。さらに、形質転換細胞で発現されたポリペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。このような翻訳後修飾されたポリペプチドも、免疫誘導活性を有する限り、本発明の範囲に含まれる。この様な翻訳修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
【0056】
後述の実施例に具体的に記載される通り、上記した免疫誘導活性を有するポリペプチド又は該ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターを担癌生体に投与すると、既に生じている腫瘍を退縮させることができる。また、上記した免疫誘導活性を有するポリペプチド又はポリペプチドをコードする遺伝子を癌の発症前の生体に投与することで腫瘍の発生を予防することができる。従って、本発明の免疫誘導剤は、癌の治療及び/又は予防剤として用いることができる。また、上記した免疫誘導活性を有するポリペプチドは、免疫誘導による癌の治療及び/又は予防方法に用いることができる。
【0057】
ここで、「腫瘍」及び「癌」という用語は、悪性新生物を意味し、互換的に使用される。
【0058】
この場合、対象となる癌としては、PDS5Aを発現している癌であれば特に限定されないが、好ましくは乳癌、脳腫瘍、食道癌、肺癌、腎臓癌、大腸癌、肛門周囲腺癌、神経芽腫又は白血病である。
【0059】
また、対象となる動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくは霊長類、ペット動物、家畜類、競技用動物などを含む哺乳動物であり、特に好ましくはヒト、イヌ又はネコである。
【0060】
本発明の免疫誘導剤の生体への投与経路は、経口投与でも非経口投与でもよいが、筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与、動脈内投与等の非経口投与が好ましい。癌の治療目的で該免疫誘導剤を用いる場合には、抗癌作用を高めるため、後述の実施例に記載するように、治療対象となる腫瘍の近傍の所属リンパ節に投与することもできる。投与量は、免疫誘導するのに有効な量であればよく、例えば癌の治療及び/又は予防に用いるのであれば、癌の治療及び/又は予防に有効な量であればよい。癌の治療及び/又は予防に有効な量は、腫瘍の大きさや症状等に応じて適宜選択されるが、通常、対象動物に対し1日当りの有効量として0.0001〜1000μg、好ましくは0.001〜1000μgであり、1回又は数回に分けて投与することができる。好ましくは、数回に分け、数日ないし数月おきに投与する。後述の実施例に具体的に示されるとおり、本発明の免疫誘導剤は、既に形成されている腫瘍を退縮させることができる。従って、発生初期の少数の癌細胞にも抗癌作用を発揮し得るので、癌の発症前や癌の治療後に用いれば、癌の発症や再発を防止することができる。すなわち、本発明の免疫誘導剤は、癌の治療と予防の双方に有用である。
【0061】
本発明の免疫誘導剤は、ポリペプチドのみから成っていてもよいし、各投与形態に適した、薬理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤等の添加剤を適宜混合させて製剤することもできる。製剤方法及び使用可能な添加剤は、医薬製剤の分野において周知であり、いずれの方法及び添加剤をも用いることができる。添加剤の具体例としては、生理緩衝液のような希釈剤;砂糖、乳糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等のような賦形剤;シロップ、ゼラチン、アラビアゴム、ソルビトール、ポリビニルクロリド、トラガント等のような結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、タルク、シリカ等の滑沢剤等が挙げられるが、これらに限定されない。製剤形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤、吸入剤、注射剤、座剤、液剤などの非経口剤などを挙げることができる。これらの製剤は一般的に知られている製法によって作ることができる。
【0062】
本発明の免疫誘導剤は、生体内での免疫学的応答を強化することができる免疫増強剤と組み合わせて用いることができる。免疫増強剤は、本発明の免疫誘導剤に含まれていてもよいし、別個の組成物として本発明の免疫誘導剤と併用して患者に投与してもよい。
【0063】
上記免疫増強剤としては、例えばアジュバントを挙げることができる。アジュバントは、抗原の貯蔵所(細胞外又はマクロファージ内)を提供し、マクロファージを活性化し、かつ特定組のリンパ球を刺激することにより、免疫学的応答を強化し得るので、抗癌作用を高めることができる。従って、特に、本発明の免疫誘導剤を癌の治療及び/又は予防に用いる場合、免疫誘導剤は、有効成分たる上記ポリペプチドに加えてさらにアジュバントを含むことが好ましい。多数の種類のアジュバントが当業界で周知であり、いずれのアジュバントでも用いることができる。アジュバントの具体例としては、MPL(SmithKline Beecham)、サルモネラ属のSalmonella minnesota Re 595リポ多糖類の精製及び酸加水分解後に得られる同類物;QS21(SmithKline Beecham)、Quillja saponaria抽出物から精製される純QA−21サポニン;PCT出願WO96/33739(SmithKline Beecham)に記載されたDQS21;QS−7、QS−17、QS−18及びQS−L1(ソ(So)、外10名、「モレキュルズ・アンド・セル(Molecules and cells)」、1997年、第7巻、p.178−186);フロイントの不完全アジュバント;フロイントの完全アジュバント;ビタミンE;モンタニド;ミョウバン;CpGオリゴヌクレオチド(例えば、クレイグ(Kreig)、外7名、「ネイチャー(Nature)」、第374巻、p.546−549)を参照);ポリIC及びその誘導体(ポリICLC等)ならびにスクアレン及び/又はトコフェロールのような生分解性油から調製される種々の油中水エマルションが挙げられる。中でも、フロイントの不完全アジュバント、モンタニド、ポリIC及びその誘導体並びにCpGオリゴヌクレオチドが好ましい。上記アジュバントとポリペプチドの混合比は、典型的には約1:10〜10:1、好ましくは約1:5〜5:1、より好ましくは約1:1である。ただし、アジュバントは上記例示に限定されず、当業界で公知の上記以外のアジュバントも本発明の免疫誘導剤を投与する際に用いられ得る(例えば、ゴッディング(Goding)著,「モノクローナル・アンチボディーズ:プリンシプル・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice)」、第2版、1986年を参照)。ポリペプチド及びアジュバントの混合物又はエマルションの調製方法は、予防接種の当業者には周知である。
【0064】
また、上記免疫増強剤としては、上記アジュバント以外にも、対象の免疫応答を刺激する因子を用いることもできる。例えば、リンパ球や抗原提示細胞を刺激する特性を有する各種サイトカインを免疫増強剤として本発明の免疫誘導剤と組み合わせて用いることができる。そのような免疫学的応答を増強可能な多数のサイトカインが当業者に公知であり、その例としては、ワクチンの防御作用を強化することが示されているインターロイキン−12(IL−12)、GM−CSF、IL−18、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンω、インターフェロンγ及びFlt3リガンドが挙げられるが、これらに限定されない。このような因子も上記免疫増強剤として用いることができ、本発明の免疫誘導剤に含ませて又は別個の組成物として本発明の免疫誘導剤と併用して患者に投与することができる。
【0065】
また、上記ポリペプチドと抗原提示細胞とをインビトロで接触させることにより、該ポリペプチドを抗原提示細胞に提示させることができる。すなわち、上記した(a)ないし(c)のポリペプチドは、抗原提示細胞の処理剤として利用し得る。ここで、抗原提示細胞としては、MHCクラスI分子を保有する樹状細胞又はB細胞を好ましく用いることができる。種々のMHCクラスI分子が同定されており、周知である。ヒトにおけるMHC分子はHLAと呼ぶ。HLAクラスI分子としては、HLA−A、HLA−B、HLA−Cを挙げることができ、より具体的には、HLA−A1、HLA−A0201、HLA−A0204、HLA−A0205、HLA−A0206、HLA−A0207、HLA−A11、HLA−A24、HLA−A31、HLA−A6801、HLA−B7、HLA−B8、HLA−B2705、HLA−B37、HLA−Cw0401、HLA−Cw0602などを挙げることができる。
【0066】
MHCクラスI分子を保有する樹状細胞又はB細胞は、周知の方法により末梢血から調製することができる。例えば、骨髄、臍帯血あるいは患者末梢血から、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)とIL−3(あるいはIL−4)を用いて樹状細胞を誘導し、その培養系に腫瘍関連ペプチドを加えることにより、腫瘍特異的な樹状細胞を誘導することができる。
【0067】
この樹状細胞を有効量投与することで、癌の治療に望ましい応答を誘導できる。用いる細胞は、健康人から提供された骨髄や臍帯血、患者本人の骨髄や末梢血等を用いることができるが、患者本来の自家細胞を使う場合は、安全性が高く、重篤な副作用を回避することも期待できる。末梢血又は骨髄は新鮮試料、低温保存試料及び凍結保存試料のいずれでもよい。末梢血は、全血を培養してもよいし、白血球成分だけを分離して培養してもよいが、後者の方が効率的で好ましい。さらに白血球成分の中でも単核球を分離してもよい。また、骨髄や臍帯血を起源とする場合には、骨髄を構成する細胞全体を培養してもよいし、これから単核球を分離して培養してもよい。末梢血やその白血球成分、骨髄細胞には、樹状細胞の起源となる単核球、造血幹細胞又は未成熟樹状細胞やCD4陽性細胞等が含まれている。用いられるサイトカインは、安全性と生理活性が確認された特性のものであれば、天然型、あるいは遺伝子組み換え型等、その生産手法については問わないが、好ましくは医療用に用いられる品質が確保された標品が必要最低量で用いられる。添加するサイトカインの濃度は、樹状細胞が誘導される濃度であれば特に限定されず、通常サイトカインの合計濃度で10〜1000ng/mL程度が好ましく、より好ましくは20〜500ng/mL程度である。培養は、白血球の培養に通常用いられている周知の培地を用いて行うことができる。培養温度は白血球の増殖が可能であれば特に限定されないが、ヒトの体温である37℃程度が最も好ましい。また、培養中の気体環境は白血球の増殖が可能であれば特に限定されないが、5% CO
2を通気することが好ましい。さらに培養期間は、必要数の細胞が誘導される期間であれば特に限定されないが、通常3日〜2週間の間で行われる。細胞の分離や培養に供される機器は、適宜適当なものを用いることができるが、医療用に安全性が確認され、かつ操作が安定して簡便であることが好ましい。特に細胞培養装置については、シャーレ、フラスコ、ボトル等の一般的容器に拘わらず、積層型容器や多段式容器、ローラーボトル、スピナー式ボトル、バッグ式培養器、中空糸カラム等も用いることができる。
【0068】
上記ポリペプチドと抗原提示細胞とをインビトロで接触させる方法自体は、周知の方法により行なうことができる。例えば、抗原提示細胞を、上記ポリペプチドを含む培養液中で培養することにより行なうことができる。培地中のペプチド濃度は、特に限定されないが、通常1〜100μg/ml程度、好ましくは5〜20μg/ml程度である。培養時の細胞密度は特に限定されないが、通常10
3〜10
7細胞/ml程度、好ましくは5×10
4〜5×10
6細胞/ml程度である。培養は、常法に従い、37℃、5% CO
2雰囲気中で行なうことが好ましい。なお、抗原提示細胞が表面上に提示できるペプチドの長さは、通常、最大で30アミノ酸残基程度である。従って、特に限定されないが、抗原提示細胞とポリペプチドをインビトロで接触させる場合、該ポリペプチドをおよそ30アミノ酸残基以下の長さに調製してもよい。
【0069】
上記したポリペプチドの共存下において抗原提示細胞を培養することにより、ペプチドが抗原提示細胞のMHC分子に取り込まれ、抗原提示細胞の表面に提示される。従って、上記ポリペプチドを用いて、該ポリペプチドとMHC分子の複合体を含む、単離抗原提示細胞を調製することができる。このような抗原提示細胞は、生体内又はインビトロにおいて、T細胞に対して該ポリペプチドを提示し、該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞を誘導し、増殖させることができる。
【0070】
上記のようにして調製される、上記ポリペプチドとMHC分子の複合体とを含む抗原提示細胞を、T細胞とインビトロで接触させることにより、該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞を誘導し、増殖させることができる。これは、上記抗原提示細胞とT細胞とを液体培地中で共存培養することにより行なうことができる。例えば、抗原提示細胞を液体培地に懸濁して、マイクロプレートのウェル等の容器に入れ、これにT細胞を添加して培養することにより行なうことができる。共存培養時の抗原提示細胞とT細胞の混合比率は、特に限定されないが、通常、細胞数の比率で1:1〜1:100程度、好ましくは1:5〜1:20程度である。また、液体培地中に懸濁する抗原提示細胞の密度は、特に限定されないが、通常、100〜1000万細胞/ml程度、好ましくは10000〜100万細胞/ml程度である。共存培養は、常法に従い、37℃、5% CO
2雰囲気中で行なうことが好ましい。培養時間は、特に限定されないが、通常、2日〜3週間、好ましくは4日〜2週間程度である。また、共存培養は、IL−2、IL−6、IL−7及びIL−12のようなインターロイキンの1種又は複数の存在下で行なうことが好ましい。この場合、IL−2及びIL−7の濃度は、通常5〜20U/ml程度、IL−6の濃度は通常500〜2000U/ml程度、IL−12の濃度は通常5〜20ng/ml程度であるが、これらに限定されるものではない。上記の共存培養は、新鮮な抗原提示細胞を追加して1回ないし数回繰り返してもよい。例えば、共存培養後の培養上清を捨て、新鮮な抗原提示細胞の懸濁液を添加してさらに共存培養を行なうという操作を、1回ないし数回繰り返してもよい。各共存培養の条件は、上記と同様でよい。
【0071】
上記の共存培養により、該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞が誘導され、増殖される。従って、上記ポリペプチドを用いて、該ポリペプチドとMHC分子の複合体を選択的に結合する、単離T細胞を調製することができる。
【0072】
後述の実施例に記載される通り、PDS5Aをコードする遺伝子は、それぞれ乳癌細胞、乳癌組織、脳腫瘍細胞、脳腫瘍組織、食道癌細胞、食道癌組織、肺癌細胞、肺癌組織、腎臓癌細胞、腎臓癌組織、大腸癌細胞、大腸癌組織、肛門周囲腺癌組織、肛門周囲腺癌細胞、神経芽腫細胞及び白血病細胞に特異的に発現している。従って、これらの癌種においては、PDS5Aが正常細胞よりも有意に多く存在していると考えられる。癌細胞内に存在するPDS5Aの一部が癌細胞表面上のMHC分子に提示され、上記のようにして調製した細胞障害性T細胞が生体内に投与されると、これを目印として細胞障害性T細胞が癌細胞を障害することができる。また、上記ポリペプチドを提示する抗原提示細胞は、生体内においても該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞を誘導し、増殖させることができるので、該抗原提示細胞を生体内に投与することによっても、癌細胞を障害することができる。すなわち、上記ポリペプチドを用いて調製された上記細胞障害性T細胞や上記抗原提示細胞もまた、本発明の免疫誘導剤と同様に、癌の治療及び/又は予防剤として有用である。
【0073】
上記した単離抗原提示細胞や単離T細胞を生体に投与する場合には、これらの細胞を異物として攻撃する生体内での免疫応答を回避するために、治療を受ける患者から採取した抗原提示細胞又はT細胞を、上記のように上記(a)ないし(c)のポリペプチドを用いて調製したものであることが好ましい。
【0074】
抗原提示細胞又は単離T細胞を有効成分として含む癌の治療及び/又は予防剤の投与経路は、静脈内投与や動脈内投与のような非経口投与が好ましい。また、投与量は、症状や投与目的等に応じて適宜選択されるが、通常1個〜10兆個、好ましくは100万個〜10億個であり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。製剤は、例えば、細胞を生理緩衝食塩水に懸濁したもの等であってよく、他の抗癌剤やサイトカイン等と併用することもできる。また、製剤分野において周知の1又は2以上の添加剤を添加することもできる。
【0075】
また、上記(a)ないし(c)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象動物の体内で発現させることによっても、該生体内で抗体生産や細胞障害性T細胞を誘導することができ、ポリペプチドを投与するのと同等の効果が得られる。すなわち、本発明の免疫誘導剤は、上記した(a)ないし(c)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、生体内で該ポリペプチドを発現可能な組換えベクターを有効成分として含むものであってもよい。後述の実施例に示されるように、このような抗原ポリペプチドを発現可能な組換えベクターは、遺伝子ワクチンとも呼ばれる。
【0076】
遺伝子ワクチンを製造するために用いるベクターは、対象動物細胞内(好ましくは哺乳動物細胞内)で発現可能なベクターであれば特に限定されず、プラスミドベクターでもウイルスベクターでもよく、遺伝子ワクチンの分野で公知のいかなるベクターを用いてもよい。なお、上記ポリペプチドをコードするDNAやRNA等のポリヌクレオチドは、上述した通り、常法により容易に調製することができる。また、ベクターへの該ポリヌクレオチドの組み込みは、当業者に周知の方法を用いて行なうことができる。
【0077】
遺伝子ワクチンの投与経路は、好ましくは筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与、動脈内投与等の非経口投与経路であり、投与量は、抗原の種類等に応じて適宜選択することができるが、通常、体重1kg当たり、遺伝子ワクチンの重量で0.1μg〜100mg程度、好ましくは1μg〜10mg程度である。
【0078】
ウイルスベクターによる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス等のRNAウイルス又はDNAウイルスに、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組み込み、これを対象動物に感染させる方法が挙げられる。この中で、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルス等を用いた方法が特に好ましい。
【0079】
その他の方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0080】
本発明で用いられる上記ポリペプチドをコードする遺伝子を実際に医薬として作用させるには、遺伝子を直接体内に導入するin vivo方法、及び対象動物からある種の細胞を採取し体外で遺伝子を該細胞に導入しその細胞を体内に戻すex vivo方法がある(日経サイエンス,1994年4月,p20−45、月刊薬事,1994年,第36巻,第1号,p.23−48、実験医学増刊,1994年,第12巻,第15号、及びこれらの引用文献等)。in vivo方法がより好ましい。
【0081】
in vivo方法により投与する場合は、治療目的の疾患、症状等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することが出来る。in vivo方法により投与する場合は、例えば、液剤等の製剤形態をとりうるが、一般的には、有効成分である本発明の上記ペプチドをコードするDNAを含有する注射剤等とされ、必要に応じて、慣用の担体を加えてもよい。また、該DNAを含有するリポソーム又は膜融合リポソーム(センダイウイルス(HVJ)−リポソーム等)においては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤の形態とすることができる。
【0082】
なお、本発明において、「配列番号1に示される塩基配列」と言った場合には、配列番号1に実際に示されている塩基配列の他、これと相補的な配列も包含する。従って、「配列番号1に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド」と言った場合には、配列番号1に実際に示されている塩基配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、その相補的な塩基配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、及びこれらから成る二本鎖ポリヌクレオチドが包含される。本発明で用いられるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製する場合には、適宜いずれかの塩基配列を選択することとなるが、当業者であれば容易にその選択をすることができる。
【0083】
また、本発明で用いられるポリペプチドは癌特異的に発現していることから、担癌生体中の血清とのみ特異的に反応するため、本発明のポリペプチドは、癌の検出にも用いられる。
【0084】
上記、癌を検出する方法として、生体から分離された試料を用いて、配列番号2、4、6、8、10、12又は44に示されるアミノ酸配列から成るポリペプチド、あるいはその相同因子である該ポリペプチドと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上又は99.5%以上の配列同一性を有するポリペプチドの発現を測定する。上記試料を用いてポリペプチドの発現を測定する方法としては、試料中に含まれる該ポリペプチドに対する抗体を免疫測定する方法(第1の方法)、試料中に含まれる該ポリペプチド自体を免疫測定する方法(第2の方法)、及び試料中に含まれる該ポリペプチドをコードするmRNAを測定する方法(第3の方法)が挙げられる。本発明の方法では、これらのいずれの方法でポリペプチドの発現を測定してもよい。なお、本発明において、「測定」という語には、検出、定量及び半定量のいずれもが包含される。
【0085】
ここで、PDS5Aはイヌ乳癌由来cDNAライブラリーと同一患犬の血清を用いたSEREX法により、担癌犬由来の血清中に特異的に存在する抗体(癌特異的抗体)と結合するポリペプチドとして同定されたものである(実施例1参照)。すなわち、担癌犬生体ではPDS5Aに対する抗体が特異的に誘導されている。従って、担癌生体内のPDS5Aに対する抗体を測定することで、PDS5Aを発現する癌を検出することもできる。また、上記第2の方法により抗原たるPDS5Aを測定することでも、イヌの癌を検出できる。また、後述の実施例に記載される通り、該抗原ポリペプチドをコードするmRNAは癌細胞又は癌組織、特に乳癌細胞、乳癌組織、脳腫瘍細胞、脳腫瘍組織、食道癌細胞、食道癌組織、肺癌細胞、肺癌組織、腎臓癌細胞、腎臓癌組織、大腸癌細胞、大腸癌組織、肛門周囲腺癌細胞、肛門周囲腺癌組織、神経芽腫細胞及び白血病細胞において正常組織よりも有意に高発現しているため(実施例1参照)、該mRNAを測定することによっても、イヌの癌を検出することができる。
【0086】
上記第1の方法において、試料中に存在し得る上記癌特異的抗体の測定は、該抗体と抗原抗体反応する抗原物質を用いた免疫測定により容易に行うことができる。免疫測定法自体は下記に詳述するとおり周知の常法である。免疫測定の抗原物質として、上記(a)ないし(c)のポリペプチドを用いることができる。また、抗体には交叉反応性があり、実際に免疫原となった抗原物質以外の分子であっても、分子上に免疫原のエピトープと類似した構造が存在すれば、その分子は免疫原に対して誘導された抗体と抗原抗体反応により結合し得る。例えば、アミノ酸配列の配列同一性が高いポリペプチド同士では、エピトープの構造も類似している場合が多く、その場合には両者は同一の抗原性を示し得る。後述の実施例に具体的に記載される通り、配列番号4又は44のヒト由来ポリペプチドは、担癌イヌ体内で誘導された上記抗体と抗原抗体反応する。従って、本発明の第1の方法では、免疫測定の抗原として、いずれの哺乳動物由来の相同因子を用いることもできる。
【0087】
通常、タンパク質等のような、複雑な構造をとる分子量の大きい抗原物質の場合、分子上に構造の異なる複数の部位が存在している。従って、生体内では、そのような抗原物質に対し、複数の部位をそれぞれ認識して結合する複数種類の抗体が生産される。すなわち、生体内でタンパク質等の抗原物質に対して生産される抗体は、複数種類の抗体の混合物であるポリクローナル抗体である。なお、本発明において「ポリクローナル抗体」といった場合には、抗原物質を体内に含む生体由来の血清中に存在する抗体であって、該抗原物質に対して該生体内で誘導された抗体を指す。
【0088】
試料中の抗体の測定は、上記したポリペプチドを抗原として用いた免疫測定により容易に行うことができる。免疫測定自体はこの分野において周知であり、反応様式で分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法、ウェスタンブロット法等がある。また、標識で分類すると、放射免疫測定、蛍光免疫測定、酵素免疫測定、ビオチン免疫測定等があり、いずれの方法を用いても上記抗体の免疫測定を行うことができる。特に限定されないが、サンドイッチELISAや凝集法は、操作が簡便で大掛かりな装置等を必要としないため、本発明の方法における上記抗体の免疫測定方法として好ましく適用することができる。抗体の標識として酵素を用いる場合、酵素としては、ターンオーバー数が大であること、抗体と結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たす物であれば特段の制限はなく、通常の酵素免疫測定法に用いられる酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース−6−リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることもできる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジシンを、また酵素としてはアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトルフェノール等を用いることができる。放射性同位体としては
125Iや
3H等の通常ラジオイムノアッセイで用いられている物を使用することができる。蛍光色素としては、フルオロレッセンスイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられる物を使用することができる。
【0089】
なお、これらの免疫測定法自体は周知であり、本明細書で説明する必要はないが、簡単に記載すると、例えば、サンドイッチ法では、抗原として用いる上記ポリペプチドを固相に不動化し、血清等の試料と反応させ、洗浄後、適当な二次抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した二次抗体を測定する。抗原ポリペプチドを固相に不動化することにより、未結合の二次抗体を容易に除去することができるため、本発明の癌の検出方法の態様として好ましい。二次抗体としては、例えば試料がイヌ由来であれば、抗イヌIgG抗体を用いることができる。二次抗体を上記に例示した標識物質で標識しておくことにより、固相に結合した二次抗体を測定することができる。こうして測定した二次抗体量が血清試料中の上記抗体量に相当する。標識物質として酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって抗体量を測定できる。標識物質として放射性同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定することができる。
【0090】
本発明の第2の方法では、生体から得た試料中に含まれ得る、配列番号2、4、6、8、10、12又は44のポリペプチドあるいはその相同因子が測定される。上述した通り、癌患者においては、配列番号2、4、6、8、10、12又は44のポリペプチドあるいはその相同因子と抗原抗体反応する癌特異的抗体の量が有意に多いが、このことは、癌患者体内において、該癌特異的抗体の抗原たるこれらのポリペプチド又はその相同因子の産生量が有意に多いことを示している。従って、配列番号2、4、6、8、10、12又は44のポリペプチドあるいはその相同因子を測定することによっても、上記第1の方法と同様に、生体内の癌を検出することができる。
【0091】
試料中のポリペプチドの測定は、周知の免疫測定法により容易に行なうことができる。具体的には、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12又は44に示されるポリペプチドあるいはその相同因子と抗原抗体反応する抗体又はその抗原結合性断片を作製し、これを用いて免疫測定を行うことにより、試料中に存在し得る配列番号2、4、6、8、10、12又は44に示される配列から成るポリペプチドあるいはその相同因子を測定することができる。免疫測定方法自体は、上述した通り周知の常法である。
【0092】
ここで、「抗原結合性断片」とは、抗体分子中に含まれるFab断片やF(ab’)2断片のような、抗原との結合能を有する抗体断片を意味する。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナルでもよいが、免疫測定等のためには、再現性が高いモノクローナル抗体が好ましい。ポリペプチドを免疫原とするポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の調製方法は周知であり、常法により容易に行うことが出来る。例えば、ポリペプチドをキーホールリンペットヘモシアン(KLH)やカゼイン等のキャリアタンパク質に結合させたものを免疫原とし、アジュバントと共に動物に免疫することにより、該ポリペプチドに対する抗体を誘起することができる。免疫した動物から採取した脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを作製し、配列番号2、4、6、8、10、12又は44に示されるポリペプチドあるいはその相同因子と結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これを増殖させて、培養上清から上記タンパク質を対応抗原とするモノクローナル抗体を得ることが出来る。なお、上記の方法は周知の常法である。
【0093】
本発明の第3の方法では、生体から得た試料中に含まれ得る、PDS5AをコードするmRNAが測定される。後述の実施例に具体的に示される通り、PDS5AをコードするmRNAは、癌、乳癌、脳腫瘍、食道癌、肺癌、腎臓癌、大腸癌、肛門周囲腺癌、神経芽腫及び白血病の組織又は細胞において有意に高発現している。従って、試料中の該mRNAを測定することによっても、生体内の癌を検出することができる。
【0094】
本発明の検出方法では、上記のとおりに測定したポリペプチドの発現量に基づいて、対象生体が癌であるか否か等を判断する。癌の検出は、対象生体におけるポリペプチドの発現を測定するのみでも可能であるが、検出精度を高める観点からは、1ないし複数の健常者試料におけるポリペプチドの発現量(抗体量、ポリペプチド量又はmRNA量)を調べて健常者基準値を取得し、対象生体の測定値を該健常者基準値と比較することが好ましい。さらに検出精度を高めたい場合には、癌を罹患していることがわかっている多数の患者から得た試料についてポリペプチド発現量を調べて癌患者基準値を取得し、対象生体の測定値を健常者基準値及び癌患者基準値の双方と比較してもよい。上記基準値は、例えば、各試料におけるポリペプチド発現量を数値化し、その平均値を算出することによって定めることができる。なお、健常者基準値と癌患者基準値は、予め多数の健常者及び癌患者についてポリペプチド発現量を調べて定めておくことができる。そのため、本発明の方法で基準値との比較を行なう場合には、予め定めた基準値を用いてもよい。
【0095】
本発明の検出方法では、他の癌抗原や癌マーカーによる検出を組み合わせて用いてもよい。これにより、癌の検出精度をさらに高めることができる。
【0096】
本発明の検出方法によれば、生体内の癌を検出することができる。本発明の方法によれば眼に見えない小さいサイズの腫瘍や体内深部の腫瘍をも検出できるので、癌の早期発見に有用である。また、癌の治療後経過観察中の患者について本発明の検出方法を適用すれば、癌の再発があった場合にその癌を早期に検出することができる。
【0097】
また、担癌生体において、本発明で測定対象となる上記所定のポリペプチドを発現する癌細胞の数が増加すればそれだけ、該生体内における該ポリペプチド及びそのmRNAの蓄積量が増大し、血清中に上記ポリペプチドに対する抗体が多く産生される。一方、癌細胞の数が減少すればそれだけ、生体内の該ポリペプチド及びそのmRNAの蓄積量が減少し、血清中の上記ポリペプチドに対する抗体が減少する。従って、上記所定のポリペプチドの発現量が多い場合には、腫瘍の増大や癌の転移が生じている、すなわち癌の進行度が進んでいると判断することができる。
【0098】
また、後述の実施例に示される通り、同一種類の腫瘍において、悪性型では良性型よりも有意に上記抗体量が多い。そのため、上記所定のポリペプチドの発現量が多い場合には、癌の悪性度がより高いと判断することができる。すなわち、本発明の方法によれば、癌の悪性度を検出することもできる。
【0099】
さらに、上記所定のポリペプチドの発現量の増減を指標として、癌の治療効果をモニタリングすることもできる。従って、癌の治療中や治療後の個体について、上記ポリペプチドの発現量を観察することで、抗癌剤の治療効果や、腫瘍摘出後の残存腫瘍有無、さらに経過観察でも転移・再発をいち早く知る手がかりが得られる。適切に治療できている場合には、ポリペプチドの発現量は治療前の担癌状態よりも低下するので、その生体に対し行なった(行なっている)治療の効果が良好であると判断することができる。ポリペプチド発現量が上昇又は維持されている場合、あるいは一旦低下した後さらに上昇が見られた場合には、治療効果が不十分と判断することができ、他の治療方法への変更や抗癌剤投与量の変更等、治療方法選択の有用な判断材料となる。
【0100】
本発明の癌の検出方法の対象となる癌としては、PDS5Aを発現している癌であり、乳癌、脳腫瘍、食道癌、肺癌、腎臓癌、大腸癌、肛門周囲腺癌、神経芽腫又は白血病が好ましい例として挙げられる。また、本発明の方法の対象となる生体は哺乳動物であることが好ましく、ヒトやイヌ、ネコがより好ましい。
【0101】
本発明の方法に供する試料としては、血液、血清、血漿、腹水、胸水などの体液、組織、細胞が挙げられる。特に、上記第1の方法及び第2の方法においては、血清、血漿、腹水及び胸水を好ましく用いることができ、また、mRNAを測定する上記第3の方法においては、組織試料及び細胞試料が好ましい。
【0102】
第1の方法で免疫測定の抗原として用いられる上記したポリペプチドは、癌検出試薬として提供することができる。該試薬は、上記ポリペプチドのみから成っていてもよく、また、該ポリペプチドの安定化等に有用な各種添加剤等を含んでいてもよい。また、該試薬は、プレートやメンブレン等の固相に固定化した状態で提供することもできる。
【0103】
第2の方法で配列番号2、4、6、8、10、12又は44に示されるポリペプチドあるいはその相同因子を免疫測定する際に用いられる、該ポリペプチド又はその相同因子と抗原抗体反応する抗体又はその抗原結合性断片も、癌検出試薬として提供することができる。この場合の癌検出試薬も、上記抗体又は抗原結合性断片のみから成るものであってもよく、また、該抗体又は抗原結合性断片の安定化等に有用な各種添加剤等を含んでいてもよい。また、該抗体又は抗原結合性断片は、マンガンや鉄等の金属を結合させたものであってもよい。そのような金属結合抗体又は抗原結合性断片を体内に投与すると、抗原タンパク質がより多く存在する部位に該抗体又は抗原結合性断片がより多く集積するので、MRI等によって金属を測定すれば、抗原タンパク質を産生する癌細胞の存在を検出することができる。
【0104】
さらにまた、第3の方法でmRNAの測定に用いられる上記した癌検出用ポリヌクレオチドも、癌検出試薬として提供することができる。この場合に癌検出用試薬も、該ポリヌクレオチドのみから成るものであってもよく、また、該ポリヌクレオチドの安定化等に有用な各種添加剤等を含んでいてもよい。該試薬中に含まれる該癌検出用ポリヌクレオチドは、好ましくはプライマー又はプローブである。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0106】
実施例1:SEREX法による新規癌抗原タンパクの取得
(1)cDNAライブラリーの作製
担癌犬の乳癌組織から酸−グアニジウム−フェノール−クロロフォルム法(Acid guanidium−Phenol−Chloroform法)により全RNAを抽出し、Oligotex−dT30 mRNA purification Kit(宝酒造社製)を用いてキット添付のプロトコールに従ってポリA NAを精製した。
【0107】
この得られたmRNA(5μg)を用いてcDNAファージライブラリーを合成した。cDNAファージライブラリーの作製にはcDNA Synthesis kit,Zap−cDNA SynthesisKit,ZAP−cDNA GigapackIII Gold Cloning Kit(STRATAGENE社製)を用い、キット添付のプロトコールに従ってライブラリーを作製した。作製したcDNAファージライブラリーのサイズは1×10
6pfu/mlであった。
【0108】
(2)血清によるcDNAライブラリーのスクリーニング
上記作製したcDNAファージライブラリーを用いて、イムノスクリーニングを行った。具体的にはΦ90×15mmのNZYアガロースプレートに2340クローンとなるように宿主大腸菌(XL1−Blue MRF')に感染させ、42℃、3〜4時間培養し、溶菌斑(プラーク)を作らせ、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)を浸透させたニトロセルロースメンブレン(Hybond C Extra:GE Healthecare Bio−Sciece社製)でプレートを37℃で4時間覆うことによりタンパク質を誘導・発現させ、メンブレンにタンパク質を転写した。その後メンブレンを回収し0.5%脱脂粉乳を含むTBS(10mM Tris−HCl、150mM NaCl(pH7.5))に浸し4℃で一晩振盪することによって非特異反応を抑制した。このフィルターを500倍希釈した患犬血清と室温で2〜3時間反応させた。
【0109】
上記患犬血清としては、肛門近位腫瘍の患犬より採取した血清を用いた。これらの血清は−80℃で保存し、使用直前に前処理を行った。血清の前処理方法は、以下の方法による。すなわち、外来遺伝子を挿入していないλ ZAP Express ファージを宿主大腸菌(XL1−BLue MRF')に感染させた後、NZYプレート培地上で37℃、一晩培養した。次で0.5M NaClを含む0.2M NaHCO
3(pH8.3)のバッファーをプレートに加え、4℃で15時間静置後、上清を大腸菌/ファージ抽出液として回収した。次に、回収した大腸菌/ファージ抽出液をNHS−カラム(GE Healthecare Bio−Science社製)に通液して、大腸菌・ファージ由来のタンパク質を固定化した。このタンパク固定化カラムに患犬血清を通液・反応させ、大腸菌及びファージに吸着する抗体を血清から取り除いた。カラムを素通りした血清画分は、0.5% 脱脂粉乳を含むTBSにて500倍希釈し、これをイムノスクリーニング材料とした。
【0110】
かかる処理血清と上記融合タンパク質をブロットしたメンブレンをTBS−T(0.05% Tween20/TBS)にて4回洗浄を行った後、二次抗体として0.5% 脱脂粉乳を含TBSにて5000倍希釈を行ったヤギ抗イヌIgG(Goat anti Dog IgG−h+I HRP conjugated:BETHYL Laboratories社製)を、室温1時間反応させ、NBT/BCIP反応液(Roche社製)を用いた酵素発色反応により検出し、発色反応陽性部位に一致するコロニーをΦ90×15mmのNZYアガロースプレート上から採取し、SM緩衝液(100mM NaCl、10mM MgClSO
4、50mM Tris−HCl、0.01% ゼラチン(pH7.5))500μlに溶解させた。発色反応陽性コロニーが単一化するまで上記と同様の方法で、二次、三次スクリーニングを繰り返し、血清中のIgGと反応する30940個のファージクローンをスクリーニングして、1個の陽性クローンを単離した。
【0111】
(3)単離抗原遺伝子の配列同一性検索
上記方法により単離した1個の陽性クローンを塩基配列解析に供するため、ファージベクターからプラスミドベクターに転換する操作を行った。具体的には宿主大腸菌(XL1−Blue MRF')を吸光度OD
600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液100μlさらにExAssist helper phage (STRATAGENE社製)1μlを混合した後37℃で15分間反応後、LB培地を3ml添加し37℃で2.5〜3時間培養を行い、直ちに70℃の水浴にて20分間保温した後、4℃、1000×g、15分間遠心を行い、上清をファージミド溶液として回収した。次いでファージミド宿主大腸菌(SOLR)を吸光度OD
600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液10μlを混合した後37℃で15分間反応させ、50μlをアンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB寒天培地に播き37℃一晩培養した。トランスフォームしたSOLRのシングルコロニーを採取し、アンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB培地37℃にて培養後、QIAGEN plasmid Miniprep Kit(キアゲン社製)を使って目的のインサートを持つプラスミドDNAを精製した。
【0112】
精製したプラスミドは、配列番号13に記載のT3プライマーと配列番号14に記載のT7プライマーを用いて、プライマーウォーキング法によるインサート全長配列の解析を行った。このシークエンス解析により配列番号1に記載の遺伝子配列を取得した。この遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列を用いて、配列同一性検索プログラムBLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を行い既知遺伝子との配列同一性検索を行った結果、得られた遺伝子はPDS5A遺伝子であることが判明した。イヌPDS5Aのヒト相同因子であるヒトPDS5Aでは、配列同一性が塩基配列94%、アミノ酸配列99%であり、マウス相同因子であるマウスPDS5Aでは、配列同一性が塩基配列91%、アミノ酸配列99%、ウシ相同因子であるウシPDS5Aでは、配列同一性が塩基配列95%、アミノ酸配列99%、ウマ相同因子であるウマPDS5Aでは、配列同一性が塩基配列96%、アミノ酸配列99%、ニワトリ相同因子であるニワトリPDS5Aでは、配列同一性が塩基配列83%、アミノ酸配列98%であった。ヒトPDS5Aの塩基配列を配列番号3及び43、アミノ酸配列を配列番号4及び44に、マウスPDS5Aの塩基配列を配列番号5、アミノ酸配列を配列番号6に、ウシPDS5Aの塩基配列を配列番号7、アミノ酸配列を配列番号8に、ウマPDS5Aの塩基配列を配列番号9、アミノ酸配列を配列番号10に、ニワトリPDS5Aの塩基配列を配列番号11、アミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0113】
(4)各組織での発現解析
上記方法により得られた遺伝子に対しイヌ、ヒト及びマウスの正常組織及び各種細胞株における発現をRT−PCR(Reverse Transcription−PCR)法により調べた。逆転写反応は以下の通り行なった。すなわち、各組織50〜100mg及び各細胞株5〜10×10
6個の細胞からTRIZOL試薬(invitrogen社製)を用いて添付のプロトコールに従い全RNAを抽出した。この全RNAを用いてSuperscript First−Strand Synthesis System for RT−PCR(invitrogen社製)により添付のプロトコールに従いcDNAを合成した。ヒト正常組織(脳、海馬、精巣、結腸、胎盤)のcDNAは、ジーンプールcDNA(invitrogen社製)、QUICK−Clone cDNA(クロンテック社製)及びLarge−Insert cDNA Library(クロンテク社製)を用いた。PCR反応は、取得した遺伝子特異的なプライマー(イヌプライマーは配列番号15及び16、ヒトプライマーは配列番号17及び18、マウスプライマーは配列番号19及び20に記載)を用いて以下の通り行った。すなわち、逆転写反応により調製したサンプル0.25μl、上記プライマーを各2μM、0.2mMの各dNTP、0.65UのExTaqポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を25μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、94℃−30秒、55℃−30秒、72℃−1分のサイクルを30回繰り返して行った。比較対照のため、GAPDH特異的なプライマー(イヌ及びヒトGAPDHプライマーは配列番号21及び22、マウスGAPDHプライマーは配列番号23及び24に記載)も同時に用いた。その結果、
図1に示すように、イヌPDS5A遺伝子は、健常なイヌ組織ではほとんどの組織で発現が見られず、一方、イヌ腫瘍組織では強い発現が見られた。ヒト及びマウスPDS5A遺伝子の発現も、イヌPDS5A遺伝子と同様、ヒト及びマウス正常組織ではほとんど発現が確認できず、癌細胞では大部分の細胞株で発現が検出された(
図2、3)。
【0114】
実施例2:PDS5Aの生体内での癌抗原性の解析及び薬効評価
(1)生体内でPDS5Aを発現する組換えベクターの作製
配列番号5の塩基配列を基に、以下の方法にて、生体内でPDS5Aを発現する組換えベクターを作製した。PCRは、実施例1において発現の見られたマウス癌細胞株N2a(ATCCより購入)より調製した。cDNAを1μl、NotI及びXhoI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号25及び26に記載)を各0.4μM、0.2mM dNTP、1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、98℃−10秒、55℃−15秒、72℃−4分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号5のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1% アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約4000bpのDNA断片を精製した。
【0115】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをNotI及びXhoI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、NotI、XhoI制限酵素で処理した哺乳類発現ベクターPCDNA3.1(Invitrogen社製)に挿入した。このベクターの使用により哺乳類の細胞内でPDS5Aタンパクが産生される。
【0116】
上記で作製したプラスミドDNA100μgに50μgの金粒子(Bio Rad社製)、スペルミジン100μl(SIGMA社製)、1M CaCl
2 100μl(SIGMA社製)を添加し、ボルテックスによって攪拌し10分室温で静置した(以後金−DNA粒子と記載する)。3000rpmで1分遠心した後、上清を捨て100%エタノール(WAKO社製)によって3回洗浄した。金−DNA粒子に100% エタノール 6mlを加えボルテックスによって十分に攪拌した後、金−DNA粒子をTefzel Tubing(Bio Rad社製)に流し込み、壁面に沈殿させた。金−DNA粒子が付着したTefzel Tubingのエタノールを風乾し、遺伝子銃に適した長さにカットした。
【0117】
(2)DNAワクチン法によるPDS5Aの抗腫瘍効果
10匹のA/Jマウス(7週齢、雄、日本SLC社から購入)及びBalb/cマウス(7週齢、雄、日本SLC社から購入)の皮下にマウス神経芽腫細胞株N2a、大腸癌細胞株CT26を各々1×10
6個移植後、上記で作製したチューブを遺伝子銃に固定し、純ヘリウムガスを用いて400psiの圧力で、剃毛したマウスの腹腔にDNAワクチンを7日ごとに計3回、経皮投与し(プラスミドDNA接種量は2μg/匹になる)、抗腫瘍効果を評価した(治療モデル)。また、同様にして、10匹のA/Jマウス及びBalb/cマウスに、DNAワクチンを7日ごとに計3回経皮投与した後にN2a細胞、CT26細胞を移植して抗腫瘍効果を評価した(予防モデル)。なお、コントロールとして、PDS5A遺伝子が挿入されていないプラスミドDNAを各モデルで10匹ずつ投与した。
【0118】
抗腫瘍効果は、腫瘍の大きさ(長径×短径
2/2)及び生存マウスの割合で評価した。結果を
図4〜11に示す。本検討の結果、神経芽腫細胞株を用いた治療モデルにおいて、41日後には、コントロール群及びPDS5Aプラスミド投与群で、それぞれ569mm
3、109mm
3となり、PDS5Aプラスミド投与群で有意な腫瘍の縮小が観察された(
図4)。同様に神経芽腫細胞株を用いた予防モデルにおいても、43日後には、コントロール群及びPDS5Aプラスミド投与群で、それぞれ、476mm
3、0mm
3となり、PDS5Aプラスミド投与群では腫瘍の完全な退縮が観察された(
図5)。また、大腸癌細胞株を用いた治療モデルにおいて、41日後には、コントロール群及びPDS5Aプラスミド投与群で、それぞれ589mm
3、189mm
3となり、PDS5Aプラスミド投与群で有意な腫瘍の縮小が観察された(
図8)。同様に大腸癌細胞株を用いた予防モデルにおいても、43日後には、コントロール群及びPDS5Aプラスミド投与群で、それぞれ、397mm
3、43mm
3となり、PDS5Aプラスミド投与群で有意な腫瘍の縮小が観察された(
図9)。また、神経芽腫細胞株を用いた両モデルにおける生存の経過を観察した結果、治療モデルにおいて、コントロール群では投与後84日で全例死亡したのに対し、PDS5Aプラスミド投与群では、60%のマウスが生存していた(
図6)。また予防モデルにおいて、コントロール群では投与後90日で全例死亡したのに対し、PDS5Aプラスミドを投与した群では、全てのマウスが生存していた(
図7)。さらに、大腸癌細胞株を用いた両モデルにおける生存の経過を観察した結果、治療モデルにおいて、コントロール群では投与後84日で全例死亡したのに対し、PDS5Aプラスミド投与群では、40%のマウスが生存していた(
図10)。また予防モデルにおいて、コントロール群では投与後90日で全例死亡したのに対し、PDS5Aプラスミドを投与した群では、80%のマウスが生存していた(
図11)。
【0119】
以上の結果から、PDS5Aプラスミド投与群はコントロール群に比べて有意な抗腫瘍効果が認められ、このことから、PDS5Aが強い癌抗原性を有する癌抗原であり、癌の治療及び予防に有効であることが明らかになった。
【0120】
実施例3:ペプチドエピトープ反応性CD8陽性T細胞の誘導
ヒトPDS5Aタンパク質のアミノ酸配列中のHLA−A0201結合モチーフ予測のため、公知のBIMASソフト(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/)で利用可能)を用いたコンピューター予測プログラムを用いて配列番号4及び44のアミノ酸配列を解析し、HLAクラスI分子に結合可能と予想される、配列番号27〜35のポリペプチドを選択した。
【0121】
HLA−A0201陽性の健常人から末梢血を分離し、Lymphocyte separation medium(OrganonpTeknika,Durham,NC)に重層して1,500rpmで室温で20分間遠心分離した。末梢血単核球(PBMC)を含有する画分を回収し、冷リン酸塩緩衝液中で3回(又はそれ以上)洗浄し、PBMCを得た。得られたPBMCをAIM−V培地(Life Technololgies,Inc.,米国ニューヨーク州Grand Island)20mlに懸濁し、培養フラスコ(Falcon)中に37℃、5% CO
2の条件下で2時間付着させた。非付着細胞はT細胞調製に用い、付着細胞は樹状細胞を調製するために用いた。
【0122】
一方、付着細胞をAIM−V培地中でIL−4(1000U/ml)及びGM−CSF(1000U/ml)の存在下で培養した。6日後にIL−4(1000U/ml)、GM−CSF(1000U/ml)、IL−6(1000U/ml、Genzyme,Cambridge,MA)、IL−1β(10ng/ml、Genzyme,Cambridge,MA)及びTNF−α(10ng/ml、Genzyme,Cambridge,MA)を添加したAIM−V培地に交換してさらに2日間培養した後得られた非付着細胞集団を樹状細胞として用いた。
【0123】
調製した樹状細胞をAIM−V培地中に1×10
6細胞/mlの細胞密度で懸濁し、選択したポリペプチドそれぞれを10μg/mlの濃度で添加し、96穴プレートを用いて37℃、5%CO2の条件下で4時間培養した。培養後、X線照射(3000rad)し、AIM−V培地で洗浄し、10%ヒトAB血清(Nabi,Miami,FL)、IL−6(1000U/ml)及びIL−12(10ng/ml、Genzyme,Cambridge,MA)を含有するAIM−V培地で懸濁し、24穴プレート1穴当りにそれぞれ1×10
5細胞ずつ添加した。さらに調製したT細胞集団を1穴当りそれぞれ1×10
6細胞添加し、37℃、5% CO
2の条件下で培養した。7日後、それぞれの培養上清を捨て、上記と同様にして得た各ポリペプチドで処理後X線照射した樹状細胞を10%ヒトAB血清(Nabi,Miami,FL)、IL−7(10U/ml、Genzyme,Cambridge,MA)及びIL−2(10U/ml、Genzyme,Cambridge,MA)を含有するAIM−V培地で懸濁し(細胞密度:1×10
5細胞/ml)、24穴プレート1穴当りにそれぞれ1×10
5細胞ずつ添加し、さらに培養した。同様の操作を7日間おきに4〜6回繰返した後に刺激されたT細胞を回収し、フローサイトメトリーによりCD8陽性T細胞の誘導を確認した。
【0124】
実施例4:HLA−A0201陽性CD8陽性T細胞を刺激するPDS5A中の細胞障害性T細胞抗原エピトープの決定
上記で誘導した各穴のT細胞の内、配列番号27〜35の各ポリペプチドで刺激されたT細胞が増殖していることが顕微鏡下における細胞数計測により確認された。増殖が見られたT細胞それぞれについて、パルスに用いた各ポリペプチドに対する特異性を調べるために、ポリペプチドでパルスされた、HLA−A0201分子を発現するT2細胞(Salter RD et al.,Immunogenetics,21:235−246(1985)、ATCCより購入)(10μg/mlの濃度でAIM−V培地中に各ポリペプチドを添加し、37℃、5% CO
2の条件下で4時間培養)5×10
4個に対して、5×10
3個のT細胞を添加し、10%ヒトAB血清を含むAIM−V培地中で96穴プレートにて24時間培養した。培養後の上清を取って、IFN−γの産生量をELISA法により測定した。その結果、ポリペプチドをパルスしていないT2細胞を用いた穴の培養上清に比べて、配列番号27〜35の各ポリペプチドをパルスしたT2細胞を用いた穴の培養上清において、IFN−γ産生が確認された(
図12)。従って、配列番号27〜35の各ポリペプチドは特異的にHLA−A0201陽性CD8陽性T細胞を増殖刺激させ、IFN−γ産生を誘導する能力を有するT細胞エピトープペプチドであることが判明した。一方、配列番号36に示されるアミノ酸配列を有する本発明の範囲外のポリペプチドを添加して上記処理を行った場合、IFN−γの産生は確認されなかった(
図12)。
【0125】
次に、本発明で用いられるポリペプチドである配列番号27〜35の各ポリペプチドが、HLA−A0201陽性でPDS5Aを発現する腫瘍細胞上のHLA−A0201分子上に提示されるものであるか、また本ポリペプチドで刺激されたCD8陽性T細胞がHLA−A0201陽性でPDS5Aを発現する腫瘍細胞を障害することができるかを検討した。
【0126】
PDS5Aの発現が確認された悪性脳腫瘍細胞株、T98G(Stein GH et al.,J.Cell Physiol.,99:43−54 (1979)、ATCCより購入)を10
5個50ml容の遠心チューブに集め、100μCiのクロミウム51を加え37℃で2時間インキュベートした。その後10% ヒトAB血清を含むAIM−V培地で3回洗浄し、96穴V底プレート1穴あたり10
3個ずつ添加し、さらにこれに後10%ヒトAB血清を含むAIM−V培地で懸濁された10
5、5×10
4、2.5×10
4及び1.25×10
4個の配列番号27〜35の各ポリペプチドで刺激されたHLA−A0201陽性のCD8陽性T細胞をそれぞれ添加して、37℃、5% CO
2の条件下で4時間培養した。培養後、障害を受けた腫瘍細胞から放出される培養上清中のクロミウム51の量を測定することによって、配列番号27〜35の各ポリペプチドで刺激されたCD8陽性T細胞の細胞障害活性を算出した。
【0127】
その結果、配列番号27〜35の各ポリペプチドで刺激されたHLA−A0201陽性のCD8陽性T細胞がT98Gに対する細胞障害活性を有することが判明した(
図13)。従って、本発明で用いられるポリペプチドである配列番号27〜35の各ポリペプチドは、HLA−A0201陽性でPDS5Aを発現する腫瘍細胞上のHLA−A0201分子上に提示されるものであり、さらにこれらポリペプチドは、このような腫瘍細胞を障害することができるCD8陽性細胞障害性T細胞を誘導する能力があることが明らかになった。一方、配列番号36に示されるアミノ酸配列を有する本発明の範囲外のポリペプチドを添加して上記処理を行った場合、細胞障害活性は見られなかった(
図13)。
【0128】
なお、細胞障害活性は、上記のように本発明で用いられる各ポリペプチドで刺激誘導されたCD8陽性T細胞10
5個とクロミウム51を取り込ませた10
3個の悪性脳腫瘍細胞株T98Gとを混合して4時間培養し、培養後培地に放出されたクロミウム51の量を測定して、以下計算式*により算出したCD8陽性T細胞のT98Gに対する細胞障害活性を示した結果である。
【0129】
*式:細胞障害活性(%)=CD8陽性T細胞を加えた際のT98Gからのクロミウム51遊離量÷1N塩酸を加えた標的細胞からのクロミウム51遊離量×100。
【0130】
実施例5:組換えPDS5Aタンパク質の作製、薬効評価及び癌の検出と癌診断
(1)組換えPDS5Aタンパク質の作製
実施例1で取得した配列番号1の遺伝子を基に、以下の方法にて組換えタンパク質を作製した。PCRは、実施例1で得られたファージミド溶液より調製し配列解析に供したベクターを1μl、NotI及びXhoI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号37及び38に記載)を各0.4μM、0.2mM dNTP、1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler (BIO RAD社製)を用いて、98℃−10秒、55℃−15秒、72℃−4分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号2のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1% アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約4000bpのDNA断片を精製した。
【0131】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをNotI及びXhoI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、NotI、XhoI制限酵素で処理した大腸菌用発現ベクターpET30a(Novagen社製)に挿入した。このベクターの使用によりHisタグ融合型の組換えタンパク質が産生できる。このプラスミドを発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、1mM IPTGによる発現誘導を行うことで目的タンパク質を大腸菌内で発現させた。
【0132】
また、配列番号43の遺伝子を基に、以下の方法にてヒトPDS5Aの組換えタンパク質を作製した。PCRは、実施例1で作製した各種組織・細胞cDNAよりRT−PCR法による発現が確認できたcDNAを1μl、NotI及びXhoI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号39及び40に記載)を各0.4μM,0.2mM dNTP,1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、98℃−10秒、55℃−15秒、72℃−4分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号44のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約4000bpのDNA断片を精製した。
【0133】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをNotI及びXhoI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、NotI、XhoI制限酵素で処理した大腸菌用発現ベクターpET30a(Novagen社製)に挿入した。このベクターの使用によりHisタグ融合型の組換えタンパク質が産生できる。このプラスミドを発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、1mM IPTGによる発現誘導を行うことで目的タンパク質を大腸菌内で発現させた。
【0134】
また、配列番号5の遺伝子を基に、以下の方法にてマウスPDS5Aの組換えタンパク質を作製した。PCRは、実施例1で作製した各種組織・細胞cDNAよりRT−PCR法による発現が確認できたcDNAを1μl、NotI及びXhoI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号41及び42に記載)を各0.4μM,0.2mM dNTP,1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、98℃−10秒、55℃−15秒、72℃−4分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号6のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1% アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約4000bpのDNA断片を精製した。
【0135】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをNotI及びXhoI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、NotI、XhoI制限酵素で処理した大腸菌用発現ベクターpET30a(Novagen社製)に挿入した。このベクターの使用によりHisタグ融合型の組換えタンパク質が産生できる。このプラスミドを発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、1mM IPTGによる発現誘導を行うことで目的タンパク質を大腸菌内で発現させた。
【0136】
(2)組換えPDS5Aタンパク質の精製
上記で得られた、配列番号2、配列番号44又は配列番号6を発現するそれぞれの組換え大腸菌を100μg/ml アンピシリン含有LB培地にて600nmでの吸光度が0.7付近になるまで37℃で培養後、イソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド終濃度が1mMとなるよう添加し、さらに37℃で4時間培養した。その後4800rpmで10分間遠心し集菌した。この菌体ペレットをリン酸緩衝化生理食塩水に懸濁し、さらに4800rpmで10分間遠心し菌体の洗浄を行った。
【0137】
この菌体を50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、氷上にて超音波破砕を行った。大腸菌超音波破砕液を6000rpmで20分間遠心分離し、得られた上清を可溶性画分、沈殿物を不溶性画分とした。
【0138】
不溶性画分を50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)にて懸濁し6000rpmで15分間遠心した。本操作を2回繰り返し、脱プロテアーゼ操作を行った。
【0139】
この残渣を6M グアニジン塩酸塩、0.15M 塩化ナトリウム含有50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、4℃で20時間静置しタンパク質を変性させた。この変性操作後、6000rpmで30分間遠心して得られた可溶性画分を、定法に従って調製したニッケルキレートカラム(担体:Chelateing Sepharose(商標)Fast Flow(GE Health Care社)、カラム容量5mL、平衡化緩衝液:6M グアニジン塩酸塩、0.15M 塩化ナトリウム含有50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に添加し、さらに4℃で一晩静置しニッケルキレート化した担体への吸着を行った。このカラム担体を1500rpmで5分間遠心して上清を回収し、カラム担体についてはリン酸緩衝化生理食塩水で懸濁後、カラムに再充填した。
【0140】
カラム未吸着画分をカラム容量の10倍量の0.5M 塩化ナトリウム含有0.1M 酢酸緩衝液(pH4.0)にて洗浄操作を行った後、直ちに、0.5M 塩化ナトリウム含有0.1M 酢酸緩衝液(pH3.0)にて溶出を行い精製画分とし、以降この精製画分を投与試験用の材料とした。なお、各溶出画分中の目的タンパク質は、定法に従って行ったクマシー染色によって確認した。
【0141】
上記方法によって得られた精製標品を反応用緩衝液(50mM Tris−HCl,100mM NaCl,5mM CaCl
2(pH8.0))に置換した後、FactorXa Cleavage Capture Kit(Novagen社製)を用いて添付プロトコールに従ってFactorXaプロテアーゼによるHisタグの切断及び目的タンパク質の精製を行った。次に、上記方法によって得られた精製標品12mlを、限外ろ過NANOSEP 10K OMEGA(PALL社製)を用いて、生理用リン酸緩衝液(日水製薬社製)置換した後、HTタフリンアクロディスク0.22μm(PALL社製)にて無菌ろ過を行い、これを実験に用いた。
【0142】
(3)組換えマウスPDS5Aタンパク質の担癌マウスに対する抗腫瘍効果
A/Jマウス(7週齢、雄、日本SLC社から購入)の皮下にマウス神経芽腫細胞株N2aを1×10
6個移植し、腫瘍が平均50〜100mm
3に達した時点(典型的には腫瘍接種後7日間)で、マウスを1群10匹として無作為に群分けし、組換えマウスPDS5Aタンパク質の抗腫瘍効果の評価を行った(治療モデル)。前述の通り精製した組換えマウスPDS5Aタンパク質100μg(0.5ml)に50μgのポリICを混合して癌治療剤を調製し、これを担癌マウスに一週間毎に皮下に計3回投与を行った。その結果、癌治療剤投与から31日後には腫瘍が完全に退縮した。一方、PBS(−)投与陰性コントロール群及びポリIC単独投与群(50μg)では投与後31日後には腫瘍がそれぞれ平均1657mm
3、平均932mm
3となった。
【0143】
また、A/Jマウスに対して組換えマウスPDS5Aタンパク質100μg(0.5ml)と50μgのポリICを混合した癌治療剤を調製し、これを一週間毎に皮下に計3回投与を行った後に、N2a細胞を1×10
6個移植して抗腫瘍効果を評価した(予防モデル)。なお、1群は10匹とし、比較対照として、PBS(−)投与陰性コントロール群及びポリIC単独投与群(50μg)を割り付けた。その結果、癌治療剤投与を投与した群では、癌治療剤を投与して40日後においても腫瘍の発生は観察されなかった。一方、PBS(−)投与陰性コントロール群及びポリIC単独投与群(50μg)では投与後40日後にはそれぞれ平均1989mm
3、平均1843mm
3となった。
【0144】
同様の実験を大腸癌モデルで行った。Balb/cマウス(7週齢、雄、日本SLC社から購入)の皮下に大腸癌細胞株CT26を1×10
6個移植し、腫瘍が平均50〜100mm
3に達した時点(典型的には腫瘍接種後7日間)で、マウスを1群10匹として無作為に群分けし、組換えマウスPDS5Aタンパク質の抗腫瘍効果の評価を行った(治療モデル)。前述の通り精製した組換えマウスPDS5Aタンパク質100μg(0.5ml)に50μgのポリICを混合して癌治療剤を調製し、これを担癌マウスに一週間毎に皮下に計3回投与を行った。その結果、癌治療剤投与から24日後には腫瘍が完全に退縮した。一方、PBS(−)投与陰性コントロール群及びポリIC単独投与群(50μg)では投与後24日後には腫瘍がそれぞれ平均1449mm
3、平均835mm
3となった。
【0145】
また、Balb/cマウスに対して組換えマウスPDS5Aタンパク質100μg(0.5ml)と50μgのポリICを混合した癌治療剤を調製し、これを一週間毎に皮下に計3回投与を行った後に、CT26細胞を1×10
6個移植して抗腫瘍効果を評価した(予防モデル)。なお、1群は10匹とし、比較対照として、PBS(−)投与陰性コントロール群及びポリIC単独投与群(50μg)を割り付けた。その結果、癌治療剤投与を投与した群では、癌治療剤を投与して31日後においても腫瘍の発生は観察されなかった。一方、PBS(−)投与陰性コントロール群及びポリIC単独投与群(50μg)では投与後31日後にはそれぞれ平均1781mm
3、平均1675mm
3となった。
【0146】
以上の結果から組換えPDS5Aタンパク質が癌の治療及び予防に有効であることが明らかになった。
【0147】
(4)組換えPDS5Aタンパク質の担癌患犬に対する抗腫瘍効果
表皮に腫瘤を持つ担癌患犬3頭(乳腺腫瘍3頭)に対して、後述の実施例5に記載した組換えタンパク質の抗腫瘍効果の評価を行った。投与を行う前に、まず後述の実施例5(3)に記載した方法により、各患犬の血清中の組換えタンパク質に対する抗体価を測定したところ、健常犬と比較して高い抗体価が検出された。このことからこれら担癌患犬の生体中の腫瘍組織には、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質が癌抗原として発現していることが示唆された。
【0148】
前述の通り精製した組換えPDS5Aタンパク質(イヌ由来及びヒト由来)各々500μg(2.5ml)に等量の不完全フロイントアジュバント(和光純薬社製)を混合して2種類の癌治療剤を調製し、これを一週間毎に腫瘍近傍の所属リンパ節に計3回投与を行った。その結果、癌治療剤投与時点で、それぞれ大きさが約500mm
3及び1000mm
3であった腫瘤が、癌治療剤投与からそれぞれ13日後及び21日後には、完全に退縮した。一方、PBS(−)投与陰性コントロール群ではPBS投与時点で約800mm
3であった腫瘤が、投与後21日後には1625mm
3となった。
【0149】
また、肛門周囲に発生した腺癌及び表皮に発生した扁平上皮癌の患犬各1頭に対して、後述の実施例5の通り精製した組換えイヌPDS5Aタンパク質500μg(2.5ml)に等量の不完全フロイントアジュバント(和光純薬社製)を混合して癌治療剤とし、これを一週間毎に腫瘍近傍の皮下に計4回投与した。その結果、癌治療剤投与時点で、それぞれ癌の大きさが約370mm
3及び280mm
3であった腫瘤が、癌治療剤投与からそれぞれ35日後及び42日後には、完全に退縮した。
【0150】
(5)組換えPDS5Aタンパク質を用いた癌の検出
悪性腫瘍の確認された患犬112頭と健常犬30頭の血液を採取し、血清を分離した。上記(2)で作製したイヌPDS5Aタンパク質(配列番号2)を用いてELISA法にて該タンパク質に特異的に反応する血清中の抗体価を測定した。作製したタンパク質の固相化は、リン酸緩衝化生理食塩水にて5μg/mLに希釈した組換えタンパク質溶液を96穴イモビライザーアミノプレート(ヌンク社製)に100μl/well添加し、4℃で一晩静置して行った。ブロッキングは、3% BSA(bovine serum albumin(ウシ血清アルブミン)、シグマアルドリッチジャパン社製)含有50mM 重炭酸ナトリウム緩衝溶液(pH8.4)(以下ブロッキング溶液)を100μl/well加え、室温で1時間振とうした。希釈にブロッキング溶液を用いた1000倍希釈血清を100μl/well添加し、室温で3時間振とうして反応させた。0.05% Tween20(和光純薬工業社製)含有リン酸緩衝化生理食塩水(以下PBS−T)で3回洗浄し、ブロッキング溶液にて3000倍希釈したHRP修飾抗イヌIgG抗体(Goat anti Dog IgG−h+I HRP conjugated:BETHYL Laboratories社製)を100μl/well加え、室温で1時間振とうして反応させた。PBS−Tで3回洗浄し、HRP基質 TMB(1−Step Turbo TMB(テトラメチルベンジジン)、PIERCE社)を100μl/well添加し、室温で30分間酵素基質反応させた。その後、0.5M 硫酸溶液(シグマアルドリッチジャパン社製)を100μl/well加えて反応停止後、マイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度測定を行った。コントロールとしては、作製した組換えタンパク質を固相化しないもの、担癌犬血清を反応させないものを上記と同様に行い比較した。
【0151】
上記癌診断に用いた全112検体は、摘出された腫瘍組織を用いた病理診断の結果、全て悪性と確定診断がされている。
【0152】
具体的には、悪性黒色腫、悪性混合腫瘍、肝細胞癌、基底細胞癌、口腔内腫瘤、肛門周囲腺癌、肛門嚢腫瘤、肛門嚢アポクリン腺癌、セルトリ細胞腫、膣前庭癌、皮脂腺癌、皮脂腺上皮腫、脂腺腺腫、汗腺癌、鼻腔内腺癌、鼻腺癌、甲状腺癌、大腸癌、気管支腺癌、腺癌、腺管癌、乳腺癌、複合型乳腺癌、乳腺悪性混合腫瘍、乳管内乳頭状腺癌、線維肉腫、血管周皮腫、骨肉腫、軟骨肉腫、軟部組織肉腫、組織球肉腫、粘液肉腫、未分化肉腫、肺癌、肥満細胞腫、皮膚平滑筋腫、腹腔内平滑筋腫、平滑筋腫、扁平上皮癌、慢性型リンパ球性白血病、リンパ腫、消化管型リンパ腫、消化器型リンパ腫、小〜中細胞型リンパ腫、副腎髄質腫瘍、顆粒膜細胞腫、褐色細胞腫などの癌診断を受けている検体である。
【0153】
これら担癌犬生体由来の血清は、健常犬由来血清に比べて組換えタンパク質に対する高い抗体価を示した。本診断法による悪性判断を健常犬平均値の2倍以上とした場合、94検体、83.9%で悪性癌と診断できることがわかった。この94検体の癌の種類は以下のとおりである。なお、検体によっては複数種類の癌を罹患しているものもあるが、以下に示す数値は癌の種類ごとの累計値である。
【0154】
悪性黒色腫5例、リンパ腫10例、顆粒膜細胞腫1例、肝細胞癌3例、悪性精巣腫瘍3例、口腔内腫瘤3例、肛門周囲腺癌5例、肉腫9例、乳腺癌35例、肺癌1例、腺管癌4例、皮脂腺癌2例、肥満細胞腫5例、平滑筋肉腫1例、扁平上皮癌4例、悪性混合腫瘍2例、血管周皮腫1例。
【0155】
また、上記(2)で作製したヒトPDS5Aタンパク質(配列番号44)を用いて、上記と同様にして癌診断を行ったところ、同様の結果が得られた。
【0156】
以上のことから、PDS5Aタンパク質を用いて該タンパク質に特異的に反応する血清中の抗体価を測定することによって、癌の検出と診断ができることが判った。