(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874235
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20160218BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 B
B60C11/13 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-174586(P2011-174586)
(22)【出願日】2011年8月10日
(65)【公開番号】特開2013-35478(P2013-35478A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】甲田 啓
【審査官】
平野 貴也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−006772(JP,A)
【文献】
特開2007−196969(JP,A)
【文献】
特開2006−188165(JP,A)
【文献】
特開2003−320815(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00958945(EP,A1)
【文献】
特開2010−137662(JP,A)
【文献】
特開2000−255220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部にタイヤ周方向に延長する複数本の排水溝を設け、これら排水溝により陸部を区画すると共に、該陸部に始点から終点までの旋回角度が90°以上360°未満となるようにループ状に形成された複数本の細溝を同心状に配置し、これら細溝の少なくとも一端を共通の排水溝に開口させ、前記陸部に前記細溝よりも溝幅が広いループ溝を該細溝に沿って形成し、該ループ溝の両端部を前記共通の排水溝に開口させ、前記ループ溝を前記共通の排水溝よりも浅くし、かつ前記細溝に枝分かれ部を設けたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記細溝の旋回角度が120°以上240°以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記排水溝がタイヤ周方向に蛇行しながら延長することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記細溝の溝幅を0.3mm〜2.0mmとしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記細溝の溝深さを2.0mm以上かつ前記排水溝の溝深さ以下としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記細溝の相互間隔を3.0mm〜10mmとしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記細溝の単位面積当たりの総長さを0.05mm/mm2〜0.5mm/mm2としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記細溝のうち少なくとも一部の細溝については両端を前記共通の排水溝に開口させたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にループ状に形成された複数本の細溝を同心状に配置した空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、氷上での制動性能及び旋回性能を向上することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷上での走行が想定される空気入りタイヤにおいては、トレッド部に多くの排水溝やサイプを設け、それら排水溝やサイプのエッジ効果に基づいて氷上性能を高めることが行われている。特に、タイヤ周方向の滑りに抵抗するタイヤ幅方向のエッジ成分は氷上での制動性能の向上に寄与し、タイヤ幅方向の滑りに抵抗するタイヤ周方向のエッジ成分は氷上での旋回性能の向上に寄与する。
【0003】
このような知見に鑑みて、トレッド部のエッジ成分の延長方向を多様化し、氷上での制動性能及び旋回性能を向上するために、トレッド部に平面視で円形や多角形や渦巻き形状に湾曲したループ状のサイプを設けることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかしながら、トレッド部にループ状のサイプを備えた空気入りタイヤでは、気温が0℃付近で氷上に水膜が存在するような路面を走行する場合、サイプ内に水が入り込んでしまい、これらサイプによるエッジ効果や排水効果が十分に得られないことがある。特に、ループ状に形成されたサイプは周方向溝や幅方向溝への開口部が少なく、サイプ内に入り込んだ水が排出され難いため、氷上に水膜が存在するような路面では本来の機能を十分に発揮することができない。そのため、氷上での制動性能及び旋回性能を必ずしも向上することができないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−178028号公報
【特許文献2】特開2007−216816号公報
【特許文献3】特開2008−56206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、氷上での制動性能及び旋回性能を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部にタイヤ周方向に延長する複数本の排水溝を設け、これら排水溝により陸部を区画すると共に、該陸部に始点から終点までの旋回角度が90°以上360°未満となるようにループ状に形成された複数本の細溝を同心状に配置し、これら細溝の少なくとも一端を共通の排水溝に開口させ、
前記陸部に前記細溝よりも溝幅が広いループ溝を該細溝に沿って形成し、該ループ溝の両端部を前記共通の排水溝に開口させ、前記ループ溝を前記共通の排水溝よりも浅くし、かつ前記細溝に枝分かれ部を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、トレッド部の陸部にループ状に形成された複数本の細溝を同心状に配置することにより、細溝によるエッジ成分の延長方向を多様化し、氷上での制動性能及び旋回性能を向上することができる。しかも、細溝は始点から終点までの旋回角度が90°以上360°未満となるようにループ状に形成し、これら細溝の少なくとも一端を共通の排水溝に開口させているので、細溝の排水効率を高めることができ、気温が0℃付近で氷上に水膜が存在するような路面においても優れた制動性能と優れた旋回性能を発揮することができる。
【0009】
本発明において、細溝の旋回角度は120°以上240°以下であることが好ましい。これにより、ループ状に形成されて排水溝に開口する細溝をより細密に配置することが可能になるので、氷上性能を更に向上することができる。
【0010】
細溝には枝分かれ部を設ける
ようにする。このように細溝に枝分かれ部を設けることにより、細溝内の水をより効果的に排出し、氷上性能を更に向上することができる。
【0011】
細溝の溝幅は0.3mm〜2.0mmとすることが好ましい。これにより、陸部の剛性を大幅に低下させることなく排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。
【0012】
細溝の溝深さは2.0mm以上かつ排水溝の溝深さ以下とすることが好ましい。これにより、耐久性能を損なうことなく排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。
【0013】
細溝の相互間隔は3.0mm〜10mmとすることが好ましい。また、細溝の単位面積当たりの総長さは0.05mm/mm
2 〜0.5mm/mm
2 とすることが好ましい。これにより、陸部の剛性を大幅に低下させることなく排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。
【0014】
細溝は少なくとも一端を共通の排水溝に開口させることが必要であるが、これら細溝のうち少なくとも一部の細溝については両端を共通の排水溝に開口させることが好ましい。これにより、排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。
【0015】
更に、陸部には細溝よりも溝幅が広いループ溝を該細溝に沿って形成し、該ループ溝の両端部を共通の排水溝に開口させる
ようにする。このようなループ溝と細溝とを組み合わせて配置した場合、氷上性能を更に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明
に関連する空気入りタイヤ
(参考例)のトレッドパターンを示す展開図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図3】本発明の
実施形態からなる空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【
図4】空気入りタイヤ(従来例1)のトレッド部に形成された細溝を示す要部拡大平面図である。
【
図5】空気入りタイヤ(比較例1)のトレッド部に形成された細溝を示す要部拡大平面図である。
【
図6】空気入りタイヤ(比較例2)のトレッド部に形成された細溝を示す要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び
図2は本発明
に関連する空気入りタイヤ
(参考例)を示すものである。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0018】
一対のビード部3,3間には2層のカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0019】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0020】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0021】
図1に示すように、トレッド部1には、タイヤ周方向に蛇行しながら延長する2本の排水溝11が形成され、これら排水溝11によりタイヤ周方向に延在する3列の陸部12が区画されている。
排水溝(周方向溝)11は溝幅が3.0mm以上、より好ましくは、5.0mm〜15.0mmの範囲に設定され、溝深さが5.0mm〜10.0mmの範囲に設定されている。排水溝11の溝幅を5.0mm以上とすることで排水性能を十分に確保している。なお、排水溝11は図示のような周方向溝が好ましい
。
【0022】
各陸部12には、始点から終点までの旋回角度が90°以上360°未満となるようにループ状に形成された複数本の細溝13が同心状に配置されている。つまり、中心に配置された1本の細溝13を取り囲むように他の細溝13が間隔をおいて配置されている。ここで、細溝13の旋回角度とは、湾曲部又は屈曲部を有する細溝13が旋回する度合いであって、細溝13の始点及び終点における接線にて特定される角度である。例えば、U字状に折り返された細溝13の始点及び終点における接線が互いに平行である場合、その旋回角度は180°である。また、細溝13が湾曲して円形をなす場合、その旋回角度は360°である。
【0023】
同心状に配置された細溝13の少なくとも一端は共通の排水溝11に開口している。これら細溝13のうち少なくとも一部の細溝13は両端が共通の排水溝11に対して開口している。なお、本実施形態では同心状に配置された細溝13の全てが共通の排水溝11に対して開口しているが、同心状に配置された細溝13の一部を排水溝11に対して開口しないようにしても良い。但し、その場合、同心状に配置された細溝13のうち50%以上の細溝13が排水溝11に対して開口することが望ましい。
【0024】
また、ショルダー側に位置する各陸部12には、タイヤ周方向に蛇行しながら延長する複数本の細溝14が形成されている。これら細溝14は細溝13と同様の寸法を有するものであるが、排水溝11に対して開口していない。
【0025】
上記空気入りタイヤでは、トレッド部1の陸部12にループ状に形成された複数本の細溝13を同心状に配置することにより、細溝13によるエッジ成分の延長方向を多様化し、氷上での制動性能及び旋回性能を向上することができる。しかも、細溝13は始点から終点までの旋回角度が90°以上360°未満となるようにループ状に形成し、これら細溝の少なくとも一端を共通の排水溝11に開口させているので、細溝13の排水効率を高めることができる。そのため、気温が0℃付近で氷上に水膜が存在するような路面においても優れた制動性能と優れた旋回性能を発揮することができる。
【0026】
細溝13の旋回角度は90°以上360°未満とする必要があるが、この旋回角度が360°以上であると、細溝13同士が干渉し合うため、より多くの細溝13を同心状に配置しつつ排水溝11に開口させることが困難になる。また、旋回角度が90°未満であると、細溝13のエッジ成分の延長方向の分散が不十分になる。細溝の旋回角度は好ましくは120°以上240°以下とする。この場合、ループ状に形成されて排水溝11に開口する細溝13をより細密に配置することが可能になり、氷上性能の更なる改善が可能となる。
【0027】
上記空気入りタイヤにおいて、一部の細溝13には枝分かれ部13xが形成されている。つまり、一部の細溝13は途中で分岐し、好ましくは他の細溝13に連通している。このように細溝13に枝分かれ部13xを設けた場合、細溝13の排水効率が高くなり、氷上性能を更に向上することができる。
【0028】
細溝13の溝幅は5.0mm未満であって、好ましくは0.3mm〜2.0mmの範囲に設定されている。これにより、陸部12の剛性を大幅に低下させることなく排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。細溝13の溝幅が0.3mm未満であると排水性能が不十分になり、逆に2.0mmを超えると陸部12の剛性低下により排水性能の改善効果が打ち消されて氷上性能の改善効果が不十分になる。
【0029】
細溝13の溝深さは好ましくは2.0mm以上かつ排水溝11の溝深さと同等以下に設定されている。これにより、耐久性能を損なうことなく排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。細溝13の溝深さが2.0mm未満であると排水性能が不十分になる。また、細溝13の溝深さが排水溝11の溝深さよりも大きいと耐久性能が低下する恐れがある。
【0030】
細溝13の相互間隔は好ましくは3.0mm〜10mmの範囲に設定されている。これにより、陸部12の剛性を大幅に低下させることなく排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。細溝13の相互間隔が3.0mm未満であると陸部12の剛性低下により排水性能の改善効果が打ち消されて氷上性能の改善効果が不十分になり、逆に10mmを超えると排水性能が不十分になる。なお、細溝13の相互間隔とは、隣り合う細溝同士の最短距離である。
【0031】
細溝13の単位面積当たりの総長さは好ましくは0.05mm/mm
2 〜0.5mm/mm
2 の範囲に設定されている。これにより、陸部12の剛性を大幅に低下させることなく排水性能を十分に確保し、良好な氷上性能を発揮することができる。細溝13の単位面積当たりの総長さが0.05mm/mm
2 未満であると排水性能が不十分になり、逆に0.5mm/mm
2 を超えると陸部12の剛性低下により排水性能の改善効果が打ち消されて氷上性能の改善効果が不十分になる。
【0032】
図3は本発明の
実施形態からなる空気入りタイヤのトレッドパターンを示すものである。
図3に示すように、トレッド1には、タイヤ周方向に直線状に延長する2本の排水溝11(周方向溝)が形成され、これら排水溝11によりタイヤ周方向に延在する3列の陸部12が区画されている。各陸部12には、始点から終点までの旋回角度が90°以上360°未満となるようにループ状に形成された複数本の細溝13が同心状に配置されている。同心状に配置された細溝13の少なくとも一端は共通の排水溝11に開口している。また、一部の細溝13には枝分かれ部13xが形成されている。
【0033】
図3において、陸部12には細溝13よりも溝幅が広いループ溝15が細溝13に沿って形成され、このループ溝15の両端部が細溝13と共通の排水溝11に開口している。ループ溝15は溝幅が3.0mm〜10.0mmの範囲に設定され、溝深さが3.0mm以上で排水溝11の溝深さより浅い範囲に設定されている。このようなループ溝15は細溝13と同様に多方向のエッジ成分を備え、かつ両端が排水溝11に連通しているため、これらループ溝15と細溝13とを組み合わせて配置することにより、氷上での制動性能及び旋回性能を大幅に向上することができる。特に、ループ溝15を排水溝11よりも浅くすることで、ループ溝15から排水溝11へ水を流れ易くしている。
【0034】
図3においては、ショルダー側に位置する各陸部12にはタイヤ周方向に蛇行しながら延長する複数本の細溝14が形成されているが、トレッドセンターに位置する陸部12には平面視で三角形状をなす複数本の細溝16が形成され、これら細溝16により溝が存在しない領域を可及的に少なくし、氷上性能を更なる改善を図っている。
【0035】
上述した各実施形態においては、同心状に配置された細溝の少なくとも一端をタイヤ周方向に延びる共通の周方向溝に対して開口するようにしているが、細溝の少なくとも一端をタイヤ幅方向に延びる共通の幅方向溝(例えば、ラグ溝)に対して開口するようにしても良い。
【0036】
また、上述した各実施形態においては、タイヤ周方向に延在するリブ状の陸部に対して同心状に配置された細溝を形成するようにしているが、これら同心状に配置された細溝は周方向溝及び幅方向溝により区分されたブロック状の陸部に対して形成することも可能である。
【実施例】
【0037】
タイヤサイズが205/55R16であり、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
図1に示すように、トレッド部に周方向溝からなる複数本の排水溝を設け、これら排水溝により陸部を区画すると共に、該陸部に始点から終点までの旋回角度が90°以上360°未満となるようにループ状に形成された複数本の細溝を同心状に配置し、これら細溝の少なくとも一端を共通の排水溝に開口させ、細溝の旋回角度、枝分かれ部の有無、溝幅、溝深さ、相互間隔、単位面積当たりの総長さを表1のように種々異ならせた
実験例1〜9のタイヤを作製した。
【0038】
比較のため、トレッド部に周方向溝からなる複数本の排水溝を設け、これら排水溝により陸部を区画すると共に、
図4の要部拡大平面図に示すように、陸部(22)にタイヤ幅方向に延長する複数本の細溝(23)を設け、これら細溝の少なくとも一端を排水溝に開口させた従来例1のタイヤを用意した。
【0039】
また、トレッド部に周方向溝からなる複数本の排水溝を設け、これら排水溝により陸部を区画すると共に、
図5の要部拡大平面図に示すように、陸部(22)に渦巻き状をなす複数本の細溝(24)を設け、これら細溝の一端を排水溝に開口させた比較例1のタイヤを用意した。
【0040】
更に、トレッド部に周方向溝からなる複数本の排水溝を設け、これら排水溝により陸部を区画すると共に、
図6の要部拡大平面図に示すように、陸部(22)に環状をなす複数本の細溝(25)を同心状に配置した比較例2のタイヤを用意した。
【0041】
従来例1、比較例1,2
及び実験例1〜9において、周方向溝の溝幅を8.0mmとし、その溝深さを8.0mmとした。
【0042】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、氷上制動性能、氷上旋回性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0043】
氷上制動性能:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5JJのホイールに組み付けて空気圧を210kPaとして排気量2000ccの試験車両(前輪駆動車)に装着し、氷温が−5℃〜0℃の範囲にある氷路面からなるテストコースにおいて、速度100km/hでの走行状態からブレーキを掛けて車両が停止するまでの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど制動距離が短く氷上制動性能が優れていることを意味する。
【0044】
氷上旋回性能:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5JJのホイールに組み付けて空気圧を210kPaとして排気量2000ccの試験車両(前輪駆動車)に装着し、氷温が−5℃〜0℃の範囲にある氷路面からなるテストコースにおいて、半径30mの円に沿って定常旋回走行する際の一定区間走行に要する時間を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど走行時間が短く氷上旋回性能が優れていることを意味する。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなように、
実験例1〜9のタイヤは、いずれも、従来例1との対比において、氷上制動性能と氷上旋回性能がバランス良く改善されていた。一方、比較例1のタイヤは、トレッド部の陸部に渦巻き状をなす複数本の細溝を有し、細溝内に水が溜まり易いため、氷上制動性能が低下していた。比較例2のタイヤは、トレッド部の陸部に多重の環状をなす複数本の細溝を有し、細溝内に水が溜まり易いため、氷上制動性能が低下していた。
【符号の説明】
【0047】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
11 排水溝
12 陸部
13 細溝
15 ループ溝