特許第5874236号(P5874236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874236
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/32 20060101AFI20160218BHJP
【FI】
   F02B75/32 B
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-175351(P2011-175351)
(22)【出願日】2011年8月10日
(65)【公開番号】特開2013-36450(P2013-36450A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】荒戸 景太
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−138812(JP,A)
【文献】 特開2006−083729(JP,A)
【文献】 特開2003−201875(JP,A)
【文献】 特開2008−115830(JP,A)
【文献】 特開2007−291930(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0126800(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04,75/32
F02D 9/06,15/02
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンのクランクピンに連接棒を介して連結するピストンを有するシリンダーと、前記シリンダーの燃焼室に連通する排気管と、前記排気管に介設されたバルブとを備えたディーゼルエンジンにおいて、
前記クランクピンと前記連接棒とが回動自在に接続するマルチリンクと、前記マルチリンクに一端部が回動自在に接続し、かつ他端部が上下に移動可能な揺動節支点に回動自在に固定された揺動節とを有し、
排気ブレーキの作動に際し、前記バルブによる前記排気管の閉止に連動して前記揺動節支点を移動させることで、前記ピストンの上死点と下死点との距離を増加させることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記マルチリンクが三節リンクであって、前記クランクピンと前記連接棒と前記揺動節とが前記三節リンクの各頂部にそれぞれ接続する請求項1に記載のディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに関し、更に詳しくは、排気圧力を高めることなく制動力を強化できるディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディーゼルエンジンを搭載したトラックやバスなどの大型車両には、十分な制動力を得るために、通常の摩擦ブレーキに加えて補助ブレーキが装備されている。この補助ブレーキとしては、圧縮開放ブレーキ、排気ブレーキやリターダなどがある。
【0003】
一方、近年の交通安全意識の高まりや車両の大型化及び高速化により、大型車両の制動力を強化することが求められている(例えば、特許文献1を参照)。このことは、補助ブレーキの1つである排気ブレーキについてもあてはまる。
【0004】
排気ブレーキは、ディーゼルエンジンの排気圧力を高めることでエンジンのポンプ損失及び吸収トルクを大きくして制動力を得るものである。このような排気ブレーキにおいて、より大きな吸収トルクを発生させて制動力を強化するには、排気圧力を一層高める必要がある。
【0005】
しかし、ディーゼルエンジンの低速域では、排気圧力を高めることは非常に困難であるため、十分な制動力を確保することができないという問題がある。このような問題を解決するには、排気管の途中にバルブを設けて、それを絞ることで排気圧力を高めることが考えられるが、過度に排気圧力を高めるとシリンダ内の温度が上昇し、冷却系の負担が大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−324658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、排気圧力を高めることなく制動力を強化できるディーゼルエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明のディーゼルエンジンは、ディーゼルエンジンのクランクピンに連接棒を介して連結するピストンを有するシリンダーと、前記シリンダーの燃焼室に連通する排気管と、前記排気管に介設されたバルブとを備えたディーゼルエンジンにおいて、前記クランクピンと前記連接棒とが回動自在に接続するマルチリンクと、前記マルチリンクに一端部が回動自在に接続し、かつ他端部が上下に移動可能な揺動節支点に回動自在に固定された揺動節とを有し、排気ブレーキの作動に際し、前記バルブによる前記排気管の閉止に連動して前記揺動節支点を移動させることで、前記ピストンの上死点と下死点との距離を増加させることを特徴とするものである。
【0009】
上記のディーゼルエンジンにおいては、マルチリンクを三節リンクから構成し、クランクピンと連接棒と揺動節とが三節リンクの各頂部にそれぞれ接続するようにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のディーゼルエンジンによれば、従来のディーゼルエンジンに、マルチリンク、揺動節及び揺動節支点を設けて、その揺動節支点を移動することでピストンの上死点と下死点との距離を増加することができるので、排気圧力を高めることなく制動力を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態からなるディーゼルエンジンにおいて、ピストンが下死点に位置する場合の構成図である。
図2図1のディーゼルエンジンにおいて、ピストンが上死点に位置する場合の構成図である。
図3】ディーゼルエンジンの動作を説明する構成図である。
図4】ピストンの上死点と下死点との距離を変化させたときのクランク角度とシリンダ内の容積との関係を表すグラフである。
図5】ピストンの上死点と下死点との距離を変化させたときのシリンダ内の容積とシリンダ内の圧力との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態からなるディーゼルエンジンの一部を示す。
【0014】
このディーゼルエンジンは排気ブレーキを備えており、図1はシリンダ1内を上下に往復動するピストン2が下死点に位置する場合を示している。
【0015】
ディーゼルエンジンのシリンダ1の上部には、シリンダ1内の燃焼室3に吸気口4及び排気口5を通じてそれぞれ連通する吸気管6及び排気管7が取り付けられている。それらの吸気口4及び排気口5は、それぞれ吸気弁8及び排気弁9により開閉される。また、排気管7の途中には、排気管7を開閉するバルブ10が設置されている。
【0016】
排気ブレーキの作動に際しては、バルブ10により排気管7を閉止してシリンダ1内の排気圧力を高めることで、大きな吸収トルクを発生させて制動力を得るようになっている。
【0017】
シリンダ1内のピストン2は、ピストンピン11に連結する連接棒12を介してマルチリンクと接続されている。マルチリンクは略三角形状の金属板からなる三節リンク13から構成され、連接棒12の端部が三節リンク13の頂部の1つに回動自在に接続している。そして、三節リンク13の残りの2つの頂部には、クランクピン14と、棒状体からなる揺動節15の一端部とがそれぞれ回動自在に接続している。また、揺動節15の他端部は、上下方向及び左右方向に連続的に移動可能な揺動節支点16に固定されている。
【0018】
このように、連接棒12、クランクピン14及び揺動節15が三節リンク13に回動自在に接続しているため、図2に示すように、ピストン2が上死点に位置する場合でも、三節リンク13を介在して、それぞれが適切な位置に変動するので、ピストン2の往復動を妨げることはない。
【0019】
このようなディーゼルエンジンにおいて、排気ブレーキの作動に際して車両の制動力を強化するには、バルブ10により排気管7を閉止するのと連動して揺動節支点16を適当な方向へ移動させて、その位置で保持する。
【0020】
図3に示す例では、揺動節支点16を上方へ移動させると、三節リンク13がクランク軸の軸中心であるクランクジャーナル17の回りに回転(図3では時計回りに回転)して、各部材が実線で示す位置から一点鎖線で示す位置へ変位することで、下死点におけるピストン2の位置が下方へ移行するのでピストン2の上死点と下死点との距離が増加する。図3では、ピストン2の上死点と下死点との距離の増加分をWで示している。
【0021】
なお、図3の例では、揺動節支点16を上方に移動させているが、各部の寸法などにより、揺動節支点16を左右方向や円周方向などに移動して、ピストン2の上死点と下死点との距離を増加させる場合もある。
【0022】
図4、5は、ピストン2の上死点と下死点との距離を変化させた場合における、シリンダ1内の容積及びシリンダ1内の圧力の変化をそれぞれ示したものである。
【0023】
図4からは、ピストン2の上死点と下死点との距離が長くなると、排気行程においてシリンダ1内の容積が増加することが分かる。また、図5からは、ピストン2の上死点と下死点との距離が長くなると、ポンプ損失が増加(図5の斜線部)するので制動力が上昇することが分かる。
【0024】
このように、本発明のディーゼルエンジンを用いてピストン2の上死点と下死点との距離を長くすることで、排気圧力を高めることなく制動力を強化できることが分かる。また、排気圧力が高まることはないため、シリンダ1内の温度の上昇により冷却系に負担が加わることはない。
【符号の説明】
【0025】
1 シリンダ
2 ピストン
3 燃焼室
4 吸気口
5 排気口
6 吸気管
7 排気管
8 吸気弁
9 排気弁
10 バルブ
11 ピストンピン
12 連接棒
13 三節リンク
14 クランクピン
15 揺動節
16 揺動節支点
17 クランクジャーナル
図1
図2
図3
図4
図5