(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
封着材料が、ガラス粉末を含む無機粉末 99〜99.95質量%と、顔料 0.05〜1質量%とを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ封着用封着材料層付きガラス基板の製造方法。
レーザ封着用封着材料層付きガラス基板が、不活性雰囲気のレーザ封着に用いられることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のレーザ封着用封着材料層付きガラス基板の製造方法。
レーザ封着用封着材料層付きガラス基板が、有機ELデバイスの封着に用いられることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のレーザ封着用封着材料層付きガラス基板の製造方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、以下の工程により、レーザ封着が行われる。まず封着材料とビークルを混合して、封着材料ペーストを作製する。ここで、ビークルは、一般的に、樹脂バインダーと溶剤で構成される。次に、スクリーン印刷機、ディスペンサー等により、封着材料ペーストをガラス基板の外周縁に沿って、額縁状に塗布して、ガラス基板上に塗布層を形成する。続いて、塗布層を焼成して、ガラス基板上に封着材料層を形成すると共に、封着材料層とガラス基板を固着する。更に、得られた封着材料層付きガラス基板と、有機EL素子等が形成されたガラス基板を重ね合わせた後、封着材料層に沿って、レーザ光を照射して、ガラス基板同士をレーザ封着する。
【0009】
ところで、塗布層を焼成すると、ビークル中の樹脂バインダーが焼却除去される。
【0010】
一方、封着材料自身もCO
2、H
2O等の微量のガス成分を含んでいるが、これらのガス成分は、塗布層の焼成だけでは、完全に除去することが困難であり、結果として、レーザ封着の際にCO
2ガス、H
2Oガスとして外部に放出されてしまう。これらの放出ガスが有機EL素子に接触すると、有機EL素子の劣化が促進されて、有機ELデバイスの長期信頼性が低下する。そして、アウトガス量が多過ぎる場合は、有機ELデバイス内の気密性を確保することも困難になる。この問題を抑制するために、有機ELデバイスの内部にガス成分を吸着する材料を設ける方法もあるが、この方法は、コスト高等になる虞が生じる。
【0011】
そこで、本発明は、レーザ封着の際に、ガス成分が放出され難い封着材料層付きガラス基板
の製造方法を創案することにより、有機ELデバイス等の長期信頼性を高めることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討の結果、真空熱処理されてなる封着材料層付きガラス基板を用いることにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のレーザ封着用封着材料層付きガラス基板の製造方法は、封着材料を焼結させた封着材料層を備えるレーザ封着用封着材料層付きガラス基板の製造方法において、不活性雰囲気での焼成により、封着材料を焼結させた封着材料層をガラス基板上に形成して、封着材料層付きガラス基板を得た後に、(封着材料の軟化点−60℃)以上
、且つ(封着材料の軟化点+50℃)以下の温度で封着材料層を真空熱処理することを特徴とする。ここで、「真空熱処理」とは、高真空下での熱処理のみならず、減圧雰囲気下での熱処理を含む。
【0013】
本発明の
レーザ封着用封着材料層付きガラス基板の
製造方法では、
封着材料層が真空熱処理されてなることを特徴とする。本発明者等の調査によると、外圧が低い程、封着材料及び封着材料層中の溶存ガスが放出され易くなる。そして、温度が高い程、その傾向が顕著になる。そこで、封着材料層付きガラス基板の製造工程中で真空熱処理を行うと、その後のレーザ封着の際に、ガス放出量が顕著に低下して、有機デバイス等の長期信頼性を高めることができる。
【0014】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、レーザ封着に用いることを特徴とする。レーザ封着によれば、封着すべき部分のみを局所加熱できるため、アクティブ素子等の熱劣化を防止した上で、ガラス基板同士を封着することができる。
【0015】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、封着材料(封着材料ペーストに加工される前のもの)が真空熱処理されてなることが好ましい。このようにすれば、封着材料中の溶存ガスを顕著に低減することができる。
【0016】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、封着材料層(ガラス基板上に封着材料を焼結させたもの)が真空熱処理されてな
る。このようにすれば、封着材料層中の溶存ガスを顕著に低減することができる。
【0017】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、真空熱処理の温度が、(封着材料の軟化点+50℃)以下であることが好ましい。このようにすれば、真空熱処理時に、封着材料、封着材料層等が軟化流動する事態を防止し易くなる。ここで、「軟化点」は、窒素雰囲気下において、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、
図1に示す第四屈曲点の温度(Ts)を指す。
【0018】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、封着材料が、ガラス粉末を含む無機粉末 99〜99.95質量%と、顔料 0.05〜1質量%とを含有することが好ましい。このようにすれば、レーザ封着により有機ELディスプレイ内部の気密性を確保できるため、有機発光層を劣化させるH
2OやO
2等が有機ELディスプレイ内部に侵入する事態を防止でき、結果として、有機ELディスプレイの長期信頼性を高めることができる。なお、無機粉末の含有量が99質量%より少ないと、レーザ封着の際に、封着材料層の軟化流動性が乏しくなり、また封着強度を高めることが困難になる。顔料の含有量を0.05質量%以上に規制にすれば、レーザ光を熱エネルギーに効率良く変換できるため、封着すべき部分のみを局所加熱し易くなり、結果として、アクティブ素子等の熱劣化を防止した上で、ガラス基板同士をレーザ封着し易くなる。一方、顔料の含有量を1質量%以下に規制すれば、レーザ封着の際に、封着材料層の温度が不当に上昇して、放出ガス量が多くなる事態を防止することが可能になる。更に、ガラスが失透する事態を防止し易くなる。
【0019】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、ガラス粉末が、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%で、SnO 35〜70%、P
2O
5 10〜30%を含有することが好ましい。このようにすれば、ガラス粉末の軟化点が低下するため、封着材料の軟化点も低下する。その結果、短時間でレーザ封着が完了すると共に、レーザ封着の際に封着強度を高めることができる。ここで、「下記酸化物換算」とは、例えば、酸化スズの場合、四価の酸化スズ(SnO
2)であっても、二価の酸化スズ(SnO)に換算して、「SnO」として表記することを意味する。
【0020】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、顔料が、C(カーボン)、Co
3O
4、CuO、Cr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、SnO、Ti
nO
2n−1(nは整数)から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0021】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、無機粉末が、更に耐火性フィラーを0.1〜60体積%を含むことが好ましい。
【0022】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、不活性雰囲気のレーザ封着に用いることが好ましい。ここで、「不活性雰囲気」には、N
2ガス雰囲気、Arガス雰囲気等の中性ガス雰囲気、真空雰囲気、減圧雰囲気等が含まれる。
【0023】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、有機ELデバイスの封着に用いることが好ましい。ここで、「有機ELデバイス」には、有機ELディスプレイ、有機EL照明等が含まれる。
【0024】
本発明
に係る封着材料は、ガラス粉末を含む封着材料において、真空熱処理されてなると共に、レーザ封着に用いることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、封着材料を焼結させた封着材料層を有する。封着材料を焼結させるための焼成雰囲気、つまり塗布層の焼成雰囲気は、不活性雰囲気
であり、特にN
2雰囲気が好ましい。このようにすれば、ガラス粉末が変質し難くなる。
【0027】
封着材料を焼結させるための焼成温度、つまり塗布層の焼成温度は、好ましくは460℃以上、470℃以上、特に480℃以上である。このようにすれば、レーザ封着の前に、封着材料自身に含まれるガスが放出されるため、レーザ封着の際に、放出ガス量が少なくなる。
【0028】
本発明に係る封着材料層付きガラス基板は、真空熱処理されてなることを特徴とする。真空熱処理の温度は、好ましくは
(封着材料の軟化点−60℃)〜(封着材料の軟化点+50℃
)、(封着材料の軟化点−60℃)〜(封着材料の軟化点+30℃)
)、(封着材料の軟化点−60℃)〜(封着材料の軟化点+20℃
)、特に(封着材料の軟化点−40℃)〜(封着材料の軟化点+10℃
)である。真空熱処理の温度が高過ぎると、封着材料、封着材料層等が軟化流動する虞がある。そして、封着材料層が軟化流動すれば、封着材料層中に泡が残存し易くなる。一方、真空熱処理の温度が低過ぎると、封着材料、封着材料層等に含まれる溶存ガスが放出され難くなる。
【0029】
真空熱処理の真空度は、10
−3〜10
4Pa、特に10
−1〜10
3Paが好ましい。真空度が低過ぎると、レーザ封着の際に、ガス放出量が多くなり易く、有機デバイス等の長期信頼性を確保し難くなる。一方、真空度が高過ぎると、封着材料層付きガラス基板の製造コストが高騰し易くなる。
【0030】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板は、レーザ封着に用いることを特徴とする。レーザ封着温度、つまりレーザ封着時の封着材料層の表面温度は、好ましくは500℃以下、490℃以下、480℃以下、470℃以下、特に460℃以下である。このようにすれば、レーザ封着の際に、放出ガス量が少なくなる。
【0031】
レーザ封着には、種々のレーザを使用することができる。特に、半導体レーザ、YAGレーザ、CO
2レーザ、エキシマレーザ、赤外レーザ等は、取扱いが容易な点で好ましい。
【0032】
レーザ封着の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましく、特にN
2雰囲気が好ましい。このようにすれば、レーザ封着の際にガラス粉末が変質し難くなる。
【0033】
本発明
に係る封着材料層付きガラス基板において、封着材料は、ガラス粉末を含む無機粉末99〜99.95質量%と、顔料0.05〜1質量%を含有することが好ましい。特に、無機粉末の含有量は99.5〜99.9質量%が好ましい。無機粉末の含有量が99質量%より少ないと、レーザ封着の際に封着材料の軟化流動性が乏しくなり、また封着強度を高めることが困難になる。一方、無機粉末の含有量が99.95質量%より多いと、相対的に顔料の含有量が少なくなるため、レーザ光を熱エネルギーに変換し難くなる。特に、顔料の含有量は0.1〜0.5質量%が好ましい。顔料の含有量が少な過ぎると、レーザ光を熱エネルギーに変換し難くなる。一方、顔料の含有量が多過ぎると、レーザ封着の際に、封着材料層が過剰に加熱されて、有機EL素子等の熱劣化が進むと共に、封着材料層がレーザ光を吸収し過ぎて、レーザ封着の際に封着材料層の温度が不当に上昇して、結果として放出ガス量が多くなる虞が生じる。更に、ガラスが失透し易くなって、封着強度が低下し易くなる。
【0034】
ガラス粉末として、種々のガラス系が利用可能であるが、熱的安定性や耐水性の観点から、Bi
2O
3−B
2O
3系ガラス、SnO−P
2O
5系ガラス、V
2O
5系ガラスが好適である。特に、低融点特性の観点から、SnO−P
2O
5系ガラスが好適である。ここで、「〜系ガラス」とは、明示の成分を必須成分として含み、その合量が30モル%以上のガラスを指す。
【0035】
本発明に係るガラス粉末は、SnO含有ガラス粉末が好ましく、SnO含有ガラス粉末は、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%で、SnO 35〜70%、P
2O
5 10〜30%を含有することが好ましい。上記のようにガラス組成範囲を限定した理由を以下に示す。なお、ガラス組成範囲の説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
【0036】
SnOは、ガラスを低融点化する成分である。SnOの含有量は35〜70%、40〜70%、特に50〜68%が好ましい。なお、SnOの含有量が50%以上であれば、レーザ封着の際に、ガラスが軟化流動し易くなる。SnOの含有量が35%より少ないと、ガラスの粘性が高くなり過ぎて、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。一方、SnOの含有量が70%より多いと、ガラス化が困難になる。
【0037】
P
2O
5は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの熱的安定性を高める成分である。P
2O
5の含有量は10〜30%、15〜27%、特に15〜25%が好ましい。P
2O
5の含有量が10%より少ないと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。一方、P
2O
5の含有量が30%より多いと、ガラスの耐候性が低下し、有機ELデバイス等の長期信頼性を確保し難くなる。
【0038】
上記成分以外にも、以下の成分を添加することができる。
【0039】
ZnOは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。ZnOの含有量は0〜30%、1〜20%、特に1〜15%が好ましい。ZnOの含有量が30%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。
【0040】
B
2O
3は、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であると共に、ガラスの耐候性を高める成分である。B
2O
3の含有量は0〜25%、1〜20%、特に2〜15%が好ましい。B
2O
3の含有量が20%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎて、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0041】
Al
2O
3は、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であると共に、ガラスの熱膨張係数を低下させる成分である。Al
2O
3の含有量は0〜10%、0.1〜10%、特に0.5〜5%が好ましい。Al
2O
3の含有量が10%より多いと、ガラス粉末の軟化点が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0042】
SiO
2は、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。SiO
2の含有量は0〜15%、特に0〜5%が好ましい。SiO
2の含有量が15%より多いと、ガラス粉末の軟化点が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0043】
In
2O
3は、ガラスの熱的安定性を高める成分である。In
2O
3の含有量は0〜5%が好ましい。In
2O
3の含有量が5%より多いと、バッチコストが高騰する。
【0044】
Ta
2O
5は、ガラスの熱的安定性を高める成分である。Ta
2O
5の含有量は0〜5%が好ましい。Ta
2O
5の含有量が5%より多いと、ガラス粉末の軟化点が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0045】
La
2O
3は、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、またガラスの耐候性を高める成分である。La
2O
3の含有量は0〜15%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。La
2O
3の含有量が15%より多いと、バッチコストが高騰する。
【0046】
MoO
3は、ガラスの熱的安定性を高める成分である。MoO
3の含有量は0〜5%が好ましい。MoO
3の含有量が5%より多いと、ガラス粉末の軟化点が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0047】
WO
3は、ガラスの熱的安定性を高める成分である。WO
3の含有量は0〜5%が好ましい。WO
3の含有量が5%より多いと、ガラス粉末の軟化点が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0048】
Li
2Oは、ガラスを低融点化する成分である。Li
2Oの含有量は0〜5%が好ましい。Li
2Oの含有量が5%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。Na
2Oは、ガラスを低融点化する成分である。Na
2Oの含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Na
2Oの含有量が10%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。K
2Oは、ガラスを低融点化する成分である。K
2Oの含有量は0〜5%が好ましい。K
2Oの含有量が5%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。
【0049】
MgOは、ガラスの熱的安定性を高める成分である。MgOの含有量は0〜15%が好ましい。MgOの含有量が15%より多いと、ガラス粉末の軟化点が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0050】
BaOは、ガラスの熱的安定性を高める成分である。BaOの含有量は0〜10%が好ましい。BaOの含有量が10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0051】
F
2は、ガラスを低融点化する成分である。F
2の含有量は0〜5%が好ましい。F
2の含有量が5%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。
【0052】
熱的安定性と低融点特性を考慮すれば、In
2O
3、Ta
2O
5、La
2O
3、MoO
3、WO
3、Li
2O、Na
2O、K
2O、MgO、BaO、及びF
2の合量は10%以下が好ましい。
【0053】
上記成分以外にも他の成分(CaO、SrO等)を例えば10%まで添加することができる。
【0054】
本発明に係るガラス粉末は、実質的に遷移金属酸化物を含まないことが好ましい。このようにすれば、ガラスがレーザ光を吸収し過ぎて、レーザ封着の際に封着材料層の温度が不当に上昇し、結果として放出ガス量が多くなる事態を防止し得ると共に、ガラスの熱的安定性が低下し難くなる。ここで、「実質的に遷移金属酸化物を含有しない」とは、ガラス組成中の遷移金属酸化物の含有量が3000ppm(質量)以下、好ましくは1000ppm(質量)未満の場合を指す。
【0055】
本発明に係るガラス粉末は、環境的観点から、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0056】
ガラス粉末の平均粒径D
50は15μm未満、0.5〜10μm、特に1〜5μmが好ましい。ガラス粉末の平均粒径D
50を15μm未満に規制すると、両ガラス基板間のギャップを狭小化し易くなり、この場合、レーザ封着に要する時間が短縮されると共に、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数に差があっても、ガラス基板と封着材料層の界面にクラック等が発生し難くなる。ここで、「平均粒径D
50」は、レーザ回折法で測定した値を指し、レーザ回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒径を表す(以下同様)。
【0057】
ガラス粉末の99%粒径D
99は30μm以下、20μm以下、特に10μm以下が好ましい。ガラス粉末の99%粒径D
99を30μm以下に規制すると、両ガラス基板間のギャップを狭小化し易くなり、この場合、レーザ封着に要する時間が短縮されると共に、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数に差があっても、ガラス基板と封着材料層の界面にクラック等が発生し難くなる。ここで、「99%粒径D
99」は、レーザ回折法で測定した値を指し、レーザ回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒径を表す(以下同様)。
【0058】
本発明に係る無機粉末は、更に耐火性フィラーを含むことが好ましい。このようにすれば、封着材料の熱膨張係数を低下できると共に、封着材料の機械的強度を高めることができる。無機粉末中のガラス粉末と耐火性フィラーの混合割合は、体積%で40〜100%:0〜60%、40〜99.9%:0.1〜60%、45〜90%:10〜55%、50〜80%:20〜50%、50〜70%:30〜50%、特に50〜65%:35〜50
%が好ましい。耐火性フィラーの含有量が60体積%より多いと、ガラス粉末の割合が相
対的に少なくなり、レーザ封着の効率が低下し易くなる。なお、耐火性フィラーの含有量が0.1体積%未満であると、耐火性フィラーによる効果を享受し難くなる。
【0059】
耐火性フィラーとして、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、石英、β−スポジュメン、コーディエライト、ムライト、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、NbZr(PO
4)
3等の[AB
2(MO
4)
3]の基本構造をもつ化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの固溶体が使用可能である。
【0060】
耐火性フィラーの99%粒径D
99は20μm以下、15μm以下、10μm以下、特に5μm以下が好ましい。耐火性フィラーの99%粒径D
99が20μmより大きいと、封着部分において、30μm以上の厚みを有する箇所が発生し易くなるため、有機ELディスプレイにおいて、ガラス基板間のギャップが不均一になり、有機ELディスプレイを薄型化し難くなる。また、耐火性フィラーの99%粒径D
99を20μm以下に規制すると、両ガラス基板間のギャップを狭小化し易くなり、この場合、レーザ封着に要する時間が短縮されると共に、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数に差があっても、ガラス基板と封着材料層の界面にクラック等が発生し難くなる。
【0061】
本発明に係る封着材料において、顔料は、無機顔料が好ましく、カーボン、Co
3O
4、CuO、Cr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、SnO、TinO
2n−1(nは整数)から選ばれる一種又は二種以上がより好ましく、特にカーボンが好ましい。これらの顔料は、発色性に優れており、レーザ光の吸収性が良好である。
【0062】
カーボンとして、種々の材料が使用可能であるが、特に非晶質カーボン、グラファイトが好ましい。これらのカーボンは、一次粒子の平均粒径D
50を1〜100nmに加工し易い性質を有している。なお、ガラス粉末のガラス組成中にSnOを含む場合、顔料として、カーボンを添加すれば、焼成時にSnOの酸化を抑制する効果も期待できる。
【0063】
顔料は、環境的観点から、実質的にCr系酸化物を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にCr系酸化物を含有しない」とは、顔料中のCr系酸化物の含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0064】
顔料の一次粒子の平均粒径(D
50)は1〜100nm、3〜70nm、5〜60nm、特に10〜50nmが好ましい。顔料の一次粒子が小さ過ぎると、顔料同士が凝集し易くなるため、封着材料中に顔料を均一に分散し難くなって、レーザ封着の際に、ガラス粉末が局所的に軟化流動しない虞が生じる。また、顔料の一次粒子が大き過ぎても、封着材料中に顔料を均一に分散し難くなり、レーザ封着の際に、ガラス粉末が局所的に軟化流動しない虞が生じる。
【0065】
本発明に係る封着材料において、軟化点は450℃以下、420℃以下、特に400℃以下が好ましい。軟化点が450℃より高いと、レーザ封着の効率が低下し易くなる。軟化点の下限は特に限定されないが、熱的安定性を考慮すれば、軟化点を300℃以上に規制することが好ましい。
【0066】
現在、有機ELディスプレイには、駆動方式として、TFT等のアクティブ素子を各画素に配置して駆動させるアクティブマトリクス駆動が採用されている。この場合、ガラス基板には、無アルカリガラス(例えば、日本電気硝子株式会社製OA−10G)が使用される。無アルカリガラスの熱膨張係数は、通常、40×10
−7/℃以下である。一方、封着材料の熱膨張係数は、76〜83×10
−7/℃であることが多い。よって、封着部分の応力破壊を防止するために、封着材料の熱膨張係数を無アルカリガラスの熱膨張係数に適合させる必要がある。そこで、封着材料に低膨張の耐火性フィラー、特にNbZr(PO
4)
3、リン酸ジルコニウムを添加すると、封着材料の熱膨張係数を顕著に低下させることが可能になる。本発明に係る封着材料において、熱膨張係数は75×10
−7/℃以下、65×10
−7/℃以下、55×10
−7/℃以下、特に49×10
−7/℃以下が好ましい。このようにすれば、残留応力が小さくなり、封着部分の応力破壊を防止し易くなる。ここで、「熱膨張係数」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置により、30〜250℃の温度範囲で測定した平均値を指す。
【0067】
ガラス粉末、耐火性フィラー、顔料以外にも、封着材料中にスペーサーとしてガラスビーズ等を添加してもよい。
【0068】
本発明に係る封着材料は、ビークルと混合して、封着材料ペーストに加工した後、使用に供することが好ましい。封着材料とビークルを混合する方法として、均質性の点で、ロールミル、ビーズミル、ボールミル等の混練装置で混合する方法が好ましい。ここで、ロールミルは、3本ロールに代表される凝集粒子の解砕装置及びその応用装置であり、ビーズミルは、駆動されるビーズを媒体とする媒体撹拌ミルである。ボールミルは、セラミックス製のボール等を容器内で転動させることにより、凝集粒子を解砕する働きをする狭義のボールミルばかりでなく、振動ボールミルや媒体遊星ミル等を含む。
【0069】
ビークルは、通常、樹脂バインダー、溶剤を含む。必要に応じて、ビークル中に界面活性剤、増粘剤等を添加してもよい。
【0070】
樹脂バインダーとして、脂肪族ポリオレフィン系カーボネート、特にポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートが好ましい。これらの樹脂バインダーは、樹脂バインダーを焼却除去する際にガラス粉末を変質させ難い性質を有している。
【0071】
溶剤として、N,N’−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、カプロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDG)、フェニルグリコール(PhG)から選ばれる一種又は二種以上を含むことが好ましい。これらの溶剤は、ガラス粉末を変質させ難い性質を有している。特に、これらの溶剤の内、プロピレンカーボネート、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDEG)、フェニルグリコール(PhG)から選ばれる一種又は二種以上が好ましい。これらの溶剤は、沸点が240℃以上である。このため、これらの溶剤を使用すると、スクリーン印刷機等を用いて、封着材料ペーストを塗布する際に、溶剤の揮発を抑制し易くなり、結果として、封着材料ペーストを長期的に安定して使用することが可能になる。更に、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDEG)、フェニルグリコール(PhG)は、顔料との親和性が高い。このため、これらの溶剤の添加量が少量でも、封着材料ペースト中で顔料が分離する事態を抑制することができる。
【0072】
本発明
に係る封着材料は、ガラス粉末を含む封着材料において、真空熱処理されてなると共に、レーザ封着に用いることを特徴とする。本発明
に係る封着材料の技術的特徴(好適な構成、効果)は、本発明
に係る封着材料層付きガラス基板の説明欄で説明済みである。よって、ここでは、詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0074】
表1は
、試料No.
1〜5を示している。
【0075】
【表1】
【0076】
次のようにして、ガラス粉末を調製した。まず所定のガラス組成(モル%で、SnO 59%、P
2O
5 20%、ZnO 5%、B
2O
3 15%、Al
2O
3 1%)になるように、原料を調合した後、この調合原料をアルミナ坩堝に入れて、900℃の窒素雰囲気下で1〜2時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスを水冷ローラーによりフィルム状に成形した。続いて、得られたガラスフィルムをボールミルで粉砕した後、分級して、ガラス粉末を得た。このガラス粉末は、ガラス転移点が301℃、軟化点が385℃、密度が3.88g/cm
3、平均粒径D
50が1.5μm、90%粒径D
90が3.5μm、99%粒径D
99が5.7μmであった。
【0077】
ガラス転移点は、押棒式TMA装置で測定した値である。なお、測定試料として、ガラス粉末を緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いた。
【0078】
軟化点は、マクロ型DTA装置で測定した値である。測定は、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分で行い、室温から測定を開始した。
【0079】
平均粒径D
50、90%粒径D
90、99%粒径D
99は、レーザ回折式粒度分布計で測定した値である。
【0080】
耐火性フィラーとして、リン酸ジルコニウムを用いた。リン酸ジルコニウムは、密度が3.80g/cm
3、平均粒径D
50が1.6μm、90%粒径D
90が3.3μm、99%粒径D
99が5.1μmであった。
【0081】
平均粒径D
50、90%粒径D
90、99%粒径D
99は、レーザ回折式粒度分布計で測定した値である。
【0082】
顔料として、ケッチェンブラック(グラファイト)を用いた。顔料の一次粒子の平均粒径D
50は20nmであった。
【0083】
平均粒径D
50は、レーザ回折式粒度分布計で測定した値である。
【0084】
上記のガラス粉末60体積%と耐火性フィラー40体積%を混合して、無機粉末を作製した。次に、無機粉末99.75質量%と顔料0.25質量%を混合して、封着材料を作製した。この封着材料は、ガラス転移点が363℃、軟化点が430℃、密度が3.85g/cm
3であった。
【0085】
ガラス転移点は、押棒式TMA装置で測定した値である。なお、測定試料として、封着材料を緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いた。
【0086】
軟化点は、マクロ型DTA装置で測定した値である。測定は、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分で行い、室温から測定を開始した。
【0087】
上記封着材料に対して、必要に応じて、真空熱処理を行った。真空度は2×10
2Paであった。ピーク温度と保持時間は、表中に記載の通りである。なお、室温からピーク温度までの昇温時間を5℃/分とし、ピーク温度から室温までの降温時間を3℃/分とした。
【0088】
次に、封着材料ペーストを作製した。まず粘度が約70Pa・s(25℃、Shear rate:4)になるように、上記の封着材料とビークルを混練した後、更に三本ロールミルで均一になるまで混錬し、ペースト化した。ビークル中の樹脂成分として、ポリエチレンカーボネート(MW:129000)を用い、溶剤成分として、プロピレンカーボネートを用いた。なお、プロピレンカーボネート中にポリエチレンカーボネートを25質量%溶解させたビークルを使用した。次に、縦40mm×横50mm×厚み0.5mmのガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10G)の周縁部(□33mm)に、上記の封着材料ペーストを厚み:約10μm、幅:約0.6mmになるように、スクリーン印刷機で印刷した上で、大気雰囲気下にて、85℃で15分間乾燥した後、窒素雰囲気下にて、480℃で10分間(但し、室温から10℃/分で昇温、室温まで10℃/分で降温)で焼成して、封着材料ペースト中の樹脂成分を焼却除去すると共に、ガラス基板上に封着材料層を形成した。続いて、得られた封着材料層付きガラス基板に対して、必要に応じて、真空熱処理を行った。真空度は2×10
2Paであった。ピーク温度と保持時間は、表中に記載の通りである。なお、室温からピーク温度までの昇温時間を5℃/分とし、ピーク温度から室温までの降温時間を3℃/分とした。
【0089】
上記のようにして、得られた封着材料層付きガラス基板(試料No.1〜5)について、アウトガス量と気密性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0090】
上記の封着材料層付きガラス基板を用いて、室温〜600℃のアウトガス総量を測定した。測定に際して、質量分析計を用いた。なお、測定で検知されたガス種は、H
2O、CO
2のみであった。
【0091】
続いて、封着材料層上に、予め中央部□30mmにCa膜(膜厚:約100nm)を真空蒸着させた縦50mm×横50mm×厚み0.5mmのガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10G)を窒素雰囲気下で重なるように配置した後、封着材料層が形成されたガラス基板側から封着材料層に沿って、表中に記載の条件で波長808nmのレーザ光を照射することにより、封着材料層を軟化流動させて、ガラス基板同士を気密封着した。レーザ照射条件は、出力20W、走査速度20mm/sであった。
【0092】
次のようにして、気密性を評価した。レーザ封着後の各試料を温度85℃、湿度85%に設定した乾燥機内に、1000時間投入し、Ca膜の変質を観察した。Ca膜内に白点が見られなかったものを「○」、Ca膜内に白点が見られたものを「×」として評価した。なお、Ca膜は無色透明であるが、Ca膜が水分に触れると、白色のCa(OH)
2になる。よって、Ca膜の変化を観察することにより、試料内の気密性を評価することが可能である。
【0093】
表1から明らかなように、試料No.1〜4は、真空熱処理されてなるため、アウトガス量が少なく、気密性評価も良好であった。一方、試料No.5は、真空熱処理されていないため、アウトガス量が多く、気密性評価でCa膜内に白点が数点見られた。