(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874342
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】NOxセンサの異常診断方法、NOxセンサの異常診断システム、及び内燃機関のNOx排出濃度推定方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20160218BHJP
F01N 3/00 20060101ALI20160218BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
F01N3/18 C
F01N3/00 FZAB
B01D53/86 222
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-253255(P2011-253255)
(22)【出願日】2011年11月18日
(65)【公開番号】特開2013-108417(P2013-108417A)
(43)【公開日】2013年6月6日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】藤江 英和
(72)【発明者】
【氏名】塙 哲史
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−133780(JP,A)
【文献】
特開2006−274905(JP,A)
【文献】
特開2009−150379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00 − 3/38
F01N 9/00
F02D 43/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置されるNOxセンサの異常診断方法であって、
大気中の酸素濃度(O2_air)と前記排気通路の空気過剰率センサの検出値(λ_m)からEGRガスの時間遅れを考慮して算出したEGR空気過剰率(λ_egr)と理論空燃比(L_st)とから、(2)式によりEGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出するとともに、
【数2】
前記内燃機関の吸気通路に配置された吸気量センサの検出値(m_air)と、吸気マニホールドに配置された温度センサの検出値(Ti)と、前記吸気マニホールドに配置された圧力センサの検出値(Pi)と、
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)とからNOx濃度(NOx_cyl)を算出し、
該算出されたNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行うことを特徴とするNOxセンサの異常診断方法。
【請求項2】
前記NOx濃度(NOx_cyl)の算出を行う演算ステップが、
前記吸気量センサで検出した吸入空気の質量流量(m_air)と、前記温度センサで検出した検出値(Ti)と前記圧力センサで検出した検出値(Pi)とから算出したシリンダ内の質量流量(m_cyl)とから、(1)式によりEGRガスの質量流量(m_egr)を算出する第1演算ステップと、
【数1】
前記(2)式により
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出する第2演算ステップと、
(3)式より、シリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)を算出する第3演算ステップと、
【数3】
定常時のシリンダ内の酸素濃度(O2_ref)と定常時のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_ref)と、指数iとが予め設定されている(4)式の、シリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)とシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)の関係から、現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)を算出する第4演算ステップと、
【数4】
前記(4)式から算出された現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行う第5演算ステップとを備えたことを特徴とする
請求項1に記載のNOxセンサの異常診断方法。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に配置されるNOxセンサの異常診断を行う制御装置を備えたNOxセンサの異常診断システムであって、
前記制御装置が、
大気中の酸素濃度(O2_air)と前記排気通路の空気過剰率センサの検出値(λ_m)からEGRガスの時間遅れを考慮して算出したEGR空気過剰率(λ_egr)と理論空燃比(L_st)とから、(2)式によりEGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出するとともに、
【数2】
前記内燃機関の吸気通路に配置された吸気量センサの検出値(m_air)と吸気マニホールドに配置された温度センサの検出値(Ti)と前記吸気マニホールドに配置された圧力センサの検出値(Pi)と、
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)とからNOx濃度(NOx_cyl)を算出するNOx濃度算出手段と、
該算出されたNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行う比較診断手段を備えたことを特徴とするNOxセンサの異常診断システム。
【請求項4】
前記NOx濃度算出手段が、
前記吸気量センサで検出した吸入空気の質量流量(m_air)と前記温度センサで検出した検出値(Ti)と前記圧力センサで検出した検出値(Pi)とから算出したシリンダ内の質量流量(m_cyl)とから、(1)式によりEGRガスの質量流量(m_egr)を算出する第1演算手段と、
【数1】
前記(2)式により
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出する第2演算手段と、
(3)式より、シリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)を算出する第3演算手段と、
【数3】
定常時のシリンダ内の酸素濃度(O2_ref)と定常時のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_ref)と、指数iとが予め設定されている(4)式のシリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)とシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)の関係から、現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)を算出する第4演算手段とを備え、
【数4】
前記比較診断手段が、前記算出された現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行う第5演算手段を備えていることを特徴とする
請求項3に記載のNOxセンサの異常診断システム。
【請求項5】
大気中の酸素濃度(O2_air)と内燃機関の排気通路の空気過剰率センサの検出値(λ_m)からEGRガスの時間遅れを考慮して算出したEGR空気過剰率(λ_egr)と理論空燃比(L_st)とから、(2)式によりEGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出するとともに、
【数2】
前記内燃機関の吸気通路に配置された吸気量センサの検出値(m_air)と、吸気マニホールドに配置された温度センサの検出値(Ti)と、前記吸気マニホールドに配置された圧力センサの検出値(Pi)と、前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)とからNOx濃度(NOx_cyl)を算出することを特徴とする内燃機関のNOx排出濃度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多大な実験工数を掛けることなく、また、連続してNOxセンサの異常を診断できるNOxセンサの異常診断方法、NOxセンサの異常診断システム、及び
内燃機関のNOx排出濃度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス等の車両においては、この車両に搭載された内燃機関から排出されるNOx(窒素酸化物)の量を減少するために排気ガス浄化処理装置を用いて窒素(N
2)に還元して大気中に放出するようにしている。このNOx浄化を効率良く行うためには排気ガス中のNOx濃度及びNOx量を正確に測定する必要があり、そのために、NOxセンサが使用されている。
【0003】
このNOxセンサの検出値に基づいて、排気ガス中のNOxを還元するのに必要な尿素等の還元剤を供給しているため、このNOxセンサが正常状態であるか、故障等の異常状態であるかが重要となる。万一、NOxセンサが異常であると、還元剤の供給量を適正な量にすることができず、還元剤が不十分の場合には、排気ガス中のNOxの還元浄化が不十分になった大気中に基準以上のNOxが放出されてしまい、還元剤が過剰の場合には、NOxの還元で消費されなかった還元剤が大気中に放出され、還元剤が無駄に消費されることになる。
【0004】
そのため、NOxセンサの異常診断が重要であり、例えば、排出NOx流量演算記憶手段と検出NOx濃度記憶手段を備えて、排出NOx流量の経時変化の基準としての基準パターンと、NOxセンサによって検出される検出NOx濃度の経時変化の基準としての追従パターンを規定して、内燃機関が通常運転モードにある場合に排出NOx流量が基準パターンに対して所定の関係をもって推移したときに、検出NOx濃度が追従パターンに対して所定の関係をもって推移したか否かを判別することによって、NOxセンサの応答性を判定する故障判定手段を備えたNOxセンサの故障診断装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このNOxセンサの診断方法では、予め内燃機関から排出されるNOx流量の経時変化の基準としての基準パターンと、NOxセンサによって検出される検出NOx濃度の経時変化の基準としての追従パターンを予め設定する必要があるが、排出されるNOxの流量は内燃機関の運転状態等の環境条件により大きく変化するため、基準パターンを多数設定する必要があり、多大な工数がかかってしまうという問題がある。
【0006】
一方、還元触媒の上流側でのNOx量を算出する上流側NOx量演算部とNOxセンサ値検出部と、上流側でのNOx量の推移に現れたピークに対してNOxセンサが応答しているか否かを判定することによりNOxセンサの合理性を判定する合理性判定部と、内燃機関から排出される排気ガス量を算出する排気ガス量演算部とを備え、合理性診断部は、排気ガス量に応じてピークの発生を認識してNOxセンサの合理性を判断するNOxセンサの合理性診断装置(例えば、特許文献2参照)や内燃機関が予め設定された基準稼働条件になったとき、NOxセンサの出力値と、前記基準稼働条件に応じて予め設定された基準出力値との偏差に基づき、NOxセンサの出力を補正する第1補正手段を備えたNOx補正システム(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0007】
更に、NOxセンサに到達する排気ガス中のNOx濃度を強制的に変動させ、このときにNOxセンサが出力する出力値の変動が当該NOxセンサが正常であるときに取りうる変動からずれている場合に、NOxセンサに異常があると判定する故障判定手段を備えたNOxセンサの故障診断装置(例えば、特許文献4参照)や、内燃機関の所定の運転状態における異常判定モード時に、NOxセンサに到達する排気ガス中のNOx濃度を、一旦増大させて減少変化させる、NOx濃度増減変化手段と、NOx濃度が増減変化されたとき、NOxセンサの所定の第1出力値の出力状態から、NOxセンサが所定の第2の出力値を出力するまでの経過時間を計測する経過時間計測手段と、計測された経過時間と基準経過時間とに基づき、NOxセンサの正常又は異常を判定する判定手段を備えた、排気ガス浄化システムが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
しかしながら、これらのNOxセンサの異常診断では、内燃機関の運転状態がNOx濃度のピーク発生時や、強制的にNOx濃度を変化させて作った特定の状態で行っているので、内燃機関の特別の条件下の状態の時にしか診断できず、連続的に異常診断を行うことができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−190383号公報
【特許文献2】特開2010−265781号公報
【特許文献3】特開2009−127552号公報
【特許文献4】特開2003−120399号公報
【特許文献5】特開2009−1801550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、NOx濃度の計算値とNOxセンサの検出値を比較することで、NOxセンサの異常診断を連続的に行うことができるNOxセンサの異常診断方法、NOxセンサの異常診断システム、及び
内燃機関のNOx排出濃度推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するための本発明のNOxセンサの異常診断方法は、内燃機関の排気通路に配置されるNOxセンサの異常診断方法であって、
大気中の酸素濃度(O2_air)と前記排気通路の空気過剰率センサの検出値(λ_m)からEGRガスの時間遅れを考慮して算出したEGR空気過剰率(λ_egr)と理論空燃比(L_st)とから、(2)式によりEGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出するとともに、
【数2】
前記内燃機関の吸気通路に配置された吸気量センサの検出値(m_air)と、吸気マニホールドに配置された温度センサの検出値(Ti)と、前記吸気マニホールドに配置された圧力センサの検出値(Pi)と、
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)とからNOx濃度(NOx_cyl)を算出し、該算出されたNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行うことを特徴とする方法である。
【0012】
この方法によれば、排気ガス中のNOx濃度を計算により求めることで、多大な実験工数を掛けることなくNOxセンサの異常診断を行うことができ、しかも、常時NOx濃度を計算しているので、NOxセンサの異常診断を行う時期を内燃機関の運転状態が特別な条件の時に限定する必要がなく、連続的に行うことができる。
【0013】
また、上記のNOxセンサの異常診断方法において、前記NOx濃度(NOx_cyl)の算出を行う演算ステップが、前記吸気量センサで検出した吸入空気の質量流量(m_air)と、前記温度センサで検出した検出値(Ti)と前記圧力センサで検出した検出値(Pi)とから算出したシリンダ内の質量流量(m_cyl)とから、(1)式によりEGRガスの質量流量(m_egr)を算出する第1演算ステップと、
【数1】
前記(2)式により
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出する第2演算ステップと、(3)式より、シリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)を算出する第3演算ステップと、
【数3】
定常時のシリンダ内の酸素濃度(O2_ref)と定常時のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_ref)と、指数iとが予め設定されている(4)式の、シリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)とシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)の関係から、現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)を算出する第4演算ステップと、
【数4】
前記(4)式から算出された現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行う第5演算ステップとを備えて構成すると、排気ガス中のNOx濃度を容易に計算できる。
【0014】
そして、上記の目的を達成するためのNOxセンサの異常診断システムは、内燃機関の排気通路に配置されるNOxセンサの異常診断を行う制御装置を備えたNOxセンサの異常診断システムであって、前記制御装置が、
大気中の酸素濃度(O2_air)と前記排気通路の空気過剰率センサの検出値(λ_m)からEGRガスの時間遅れを考慮して算出したEGR空気過剰率(λ_egr)と理論空燃比(L_st)とから、(2)式によりEGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出するとともに、
【数2】
前記内燃機関の吸気通路に配置された吸気量センサの検出値(m_air)と吸気マニホールドに配置された温度センサの検出値(Ti)と前記吸気マニホールドに配置された圧力センサの検出値(Pi)と、
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)とからNOx濃度(NOx_cyl)を算出するNOx濃度算出手段と、該算出されたNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行う比較診断手段を備えて構成される。
【0015】
この構成によれば、排気ガス中のNOx濃度を計算により求めることで、多大な実験工数を掛けることなくNOxセンサの異常診断を行うことができ、しかも、常時NOx濃度を計算しているので、NOxセンサの異常診断を行う時期を内燃機関の運転状態が特別な条件の時に限定する必要がなく、連続的に行うことができる。
【0016】
上記のNOxセンサの異常診断システムにおいて、前記NOx濃度算出手段が、前記吸気量センサで検出した吸入空気の質量流量(m_air)と前記温度センサで検出した検出値(Ti)と前記圧力センサで検出した検出値(Pi)とから算出したシリンダ内の質量流量(m_cyl)とから、(1)式によりEGRガスの質量流量(m_egr)を算出する第1演算手段と、
【数1】
前記(2)式により
前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出する第2演算手段と、(3)式より、シリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)を算出する第3演算手段と、
【数3】
定常時のシリンダ内の酸素濃度(O2_ref)と定常時のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_ref)と、指数iとが予め設定されている(4)式のシリンダ内の酸素濃度(O2_cyl)とシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)の関係から、現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)を算出する第4演算手段とを備え、
【数4】
前記比較診断手段が、前記算出された現在のシリンダから排出されるNOx濃度(NOx_cyl)と前記NOxセンサの検出値(NOx_m)とを比較して、前記NOxセンサが異常であるか否かの診断を行う第5演算手段を備えて構成されると、排気ガス中のNOx濃度を容易に計算できる。
【0017】
そして、上記の目的を達成するための内燃機関
のNOx排出濃度推定方法は、大気中の酸素濃度(O2_air)と内燃機関の排気通路の空気過剰率センサの検出値(λ_m)からEGRガスの時間遅れを考慮して算出したEGR空気過剰率(λ_egr)と理論空燃比(L_st)とから、(2)式によりEGRガス中の酸素濃度(O2_egr)を算出するとともに、
【数2】
前記内燃機関の吸気通路に配置された吸気量センサの検出値(m_air)と、吸気マニホールドに配置された温度センサの検出値(Ti)と、前記吸気マニホールドに配置された圧力センサの検出値(Pi)と、前記EGRガス中の酸素濃度(O2_egr)とからNOx濃度(NOx_cyl)を算出することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るNOxセンサの異常診断方法、NOxセンサの異常診断システム、及び
内燃機関のNOx排出濃度推定方法によれば、排気ガス中のNOx濃度を計算により求め、この計算されたNOx濃度とNOxセンサで検出されたNOx濃度とを比較することで、多大な実験工数をかけることなくNOxセンサの異常診断ができる。また、内燃機関の運転状態が特別な条件下にある状態ではなく、常にNOx濃度の値を計算して比較できるので、NOxセンサの異常診断を連続的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態のNOxセンサの異常診断システム及び内燃機関の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態のNOxセンサの異常診断システムの制御装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態のNOxセンサの異常診断方法、NOxセンサの異常診断システム、及び
内燃機関のNOx排出濃度推定方法について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、この内燃機関10は、エンジン本体11と、吸気マニホールド11aに接続する吸気通路12と、排気マニホールド11bに接続する排気通路18を有して構成される。
【0021】
この吸気通路12には、上流側から順にエアクリーナー13、ターボチャージャー(ターボ式過給機)14のコンプレッサー14a、インタークーラー15、吸気スロットル(吸気弁)16が設けられている。また、排気通路18には、ターボチャージャー14のタービン14b、排気ガス浄化装置19が設けられている。
【0022】
なお、
図1の構成では、排気ガス浄化装置19は上流側のDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)19aと下流側のSCR触媒(選択的還元型触媒)19bを備えている。このSCR触媒19bの上流側には、NOxの還元剤となる尿素水等のアンモニア系溶液(アンモニアを発生する溶液、又はアンモニア水)を排気通路18中に噴霧する還元剤噴射装置(図示しない)が設けられている。
【0023】
更に、EGR(排気再循環)のために、排気通路18と吸気通路12とを連通するEGR通路20が設けられ、このEGR通路20には、EGRクーラー21とEGR弁22が配設されている。また、EGRガスGeのEGRクーラー21による過冷却を防止するために、流量調整弁24を備えた排気戻し通路23がEGRクーラー21の出口と排気通路18とを接続して設けられている。
【0024】
そして、空気Aは、吸気通路12のエアクリーナー13で埃等を除去され、コンプレッサー14aにより過給されて圧力と温度が上昇した状態となり、インテーククーラー15で冷却された後、吸気スロットル16で流量を制御され、必要に応じてEGRガスGeと混合されて吸気マニホールド11aからエンジン本体11の各シリンダ(気筒)17内に入る。なお、EGRガスGeは、排気通路18からEGR通路20や排気戻り通路23に分岐され、適度にEGRクーラー21で冷却され、また、EGR弁22や流量調整弁24により流量を調整されて吸気通路12に供給される。
【0025】
シリンダ17内では、燃料噴射弁(図示しない)から噴射された燃料と空気Aが混合して燃焼して排気ガスGを発生する。発生した排気ガスGは排気マニホールド11bから排気通路18に排出され、タービン14aを駆動した後、DPF19aでPM(粒子状物質)等を除去されたのち、排気通路18に供給された還元剤によりSCR触媒19bでNOxが窒素に還元され、その後、サイレンサー(図示しない)等を通過して大気中に放出される。なお、排気ガスGの一部はEGR通路20に分岐され、EGRガスGeとして再循環される。
【0026】
そして、この内燃機関10の運転制御やDPF19aの再生制御や、SCR触媒19bにおけるNOx浄化のための還元剤供給制御等を行うために、吸気系では、エアクリーナー13とコンプレッサー14aとの間に吸気量m_airを計測するためのエアフローセンサ(吸気量センサ)31が、吸気マニホールド11aに吸気温度Tiを計測するための温度センサ(インテークマニホールド温度センサ)32と吸気圧Piを計測するための圧力センサ(吸気圧センサ:ブースト圧センサ)33が配設される。
【0027】
また、排気系では、タービン14bとDPF19aとの間に空気過剰率λを計測する空気過剰率センサ(ラムダセンサ)34が、DPF19aとSCR触媒19bとの間にNOx濃度NOx_mを計測するNOxセンサ35がそれぞれ配設される。
【0028】
これらのセンサ31〜35の検出値を入力して、内燃機関10の運転制御、DPF19aの再生制御、SCR触媒19bにおけるNOx浄化のための還元剤供給制御等を行うECU(エンジンコントロールユニット)と呼ばれる制御装置(ECU)30が設けられる。
【0029】
そして、この内燃機関10の排気通路18に配置されるNOxセンサ35の異常診断のために、内燃機関10にNOxセンサの異常診断システムが備えられ、このNOxセンサの異常診断システムの制御装置40が制御装置(ECU)30に組み込まれて構成される。
【0030】
この制御装置40は、吸気量センサ31の検出値m_airと温度センサ32の検出値(吸気温度)Tiと圧力センサ33の検出値(吸気圧力)Piと、排気通路18の空気過剰率センサ34の検出値λ_mとからNOx濃度NOx_cylを算出するNOx濃度算出手段41と、この算出されたNOx濃度NOx_cylとNOxセンサ35の検出値NOx_mとを比較して、NOxセンサ35が異常であるか否かの診断を行う比較診断手段42を備えて構成される。
【0031】
このNOx濃度算出手段41は、
図2に示すように、第1〜第4演算手段41a〜41dを備え、第1演算ステップで、第1演算手段41aにより、吸気量センサ31で検出した吸入空気Aの質量流量(新規空気流量)m_airとシリンダ17内の質量流量m_cylとから、(1)式によりEGRガスGeの質量流量m_egrを算出する。つまり、「(EGRガスの質量流量:m_egr)=(シリンダ内の質量流量m_cyl)−(吸入空気の質量流量:m_air)」となる。なお、シリンダ17内の質量流量m_cylは、温度センサ32で検出した温度Tiと圧力センサ33で検出した圧力Piとから算出する。
【数1】
【0032】
ここで、吸入空気Aの質量流量(新規空気流量)m_airには、吸気量センサ31で検出した計測値を用い、シリンダ17内の質量流量m_cylは、Vをシリンダ容積とし、Rをガス定数とし、ηを体積効率とすると、「m_cyl=〔(Pi×V)/(R×Ti)〕×η」で算出される算出値を用いる。
【0033】
次に、第2演算ステップで、第2演算手段41bにより、EGRガスG_egrの酸素濃度O2_egrを計算する。大気中の酸素濃度O2_airとEGR空気過剰率λ_egrと理論空燃比L_stとから、(2)式により、EGRガスGe中の酸素濃度O2_egrを算出する。このEGR空気過剰率λ_egrには、空気過剰率センサ34の検出値λ_mからEGRガスGeの時間遅れを考慮した値を用いる。また、理論空燃比L_stは、燃料によって多少変化するが、ディーゼルエンジンに使用される軽油の場合には、14.6となり、ガソリンエンジンに使用されるガソリンの場合には、14.5〜14.7となる。
【数2】
【0034】
また、第3演算ステップで、第3演算手段41cにより、(3)式より、シリンダ17内の酸素濃度O2_cylを算出する。
【数3】
【0035】
また、第4演算ステップで、第4演算手段41dにより、シリンダ17内の酸素濃度O2_cylを変換して、シリンダ17内のNOx濃度NOx_cylを算出する。ここでは、定常時のシリンダ17内の酸素濃度O2_refと定常時のシリンダ17から排出されるNOx濃度NOx_refと、指数iとが予め設定されている(4)式及び(5)式のシリンダ17内の酸素濃度O2_cylとシリンダ17から排出されるNOx濃度NOx_cylの関係から、現在のシリンダ17から排出されるNOx濃度NOx_cylを算出する。
【0036】
これらの酸素濃度O2_refとNOx濃度NOx_refと指数iは予め定常時のエンジンの実験で求めておき、設定しておく。
【数4】
【数5】
【0037】
そして、比較診断手段42には、算出された現在のシリンダ17から排出されるNOx濃度NOx_cylとNOxセンサ35の検出値NOx_mとを比較して、NOxセンサ35が異常であるか否かの診断を行う第5演算手段42aを備える。
【0038】
第5演算ステップでは、この第5演算手段42aにより、NOxセンサ35が異常であるか否かの診断を行うが、このNOxセンサ35が異常であるか否かの診断では、NOxセンサ35が正常な状態であれば、算出されたNOx濃度NOx_cylとNOxセンサ35の検出値NOx_mと差の絶対値が適正な値に設定された判定値NOx_jud以下となるはずであり、逆にNOxセンサ35が異常な状態であれば、その差の絶対値が判定値NOx_judを超えるはずである。従って、その差の絶対値が判定値NOx_judを超えた場合にNOxセンサ35は異常であると判定する。
【0039】
つまり、|NOx_cyl−NOx_m|≦NOx_judで正常、|NOx_cyl−NOx_m|>NOx_judで異常と判定する。これにより、計算されたNOx濃度NOx_cylとNOxセンサ35の検出値NOx_mを比較することで、NOxセンサ35の異常診断を行うことができる。
【0040】
上記のNOxセンサの異常診断方法、NOxセンサの異常診断システム、及び
内燃機関のNOx排出濃度推定方法によれば、排気ガスG中のNOx濃度NOx_cylを計算により求めることで、多大な実験工数を掛けることなくNOxセンサ35の異常診断を行うことができ、しかも、常時NOx濃度NOx_cylを計算しているので、NOxセンサ35の異常診断を行う時期を内燃機関10の運転状態が特別な条件の時に限定する必要がなく、連続的に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のNOxセンサの異常診断方法、NOxセンサの異常診断システム、及び
内燃機関のNOx排出濃度推定方法によれば、NOx濃度の計算値とNOxセンサの検出値を比較することで、NOxセンサの異常診断を連続的に行うことができるので、車両に搭載するような多くの内燃機関に利用できる。
【符号の説明】
【0042】
10 内燃機関
11 エンジン本体
11a 吸気マニホールド
12 吸気通路
17 シリンダ(気筒)
18 排気通路
19 排気ガス浄化装置
19a DPF
19b SCR触媒(選択的還元型触媒)
20 EGR通路
30 制御装置(ECU)
31 吸気量センサ(エアフローセンサ)
32 温度センサ(インテークマニホールド温度センサ)
33 圧力センサ(吸気圧センサ:ブースト圧センサ)
34 空気過剰率センサ(ラムダセンサ)
35 NOxセンサ
40 制御装置(NOxセンサの異常診断システムの制御装置)
41 NOx濃度算出手段
41a 第1演算手段
41b 第2演算手段
41c 第3演算手段
41d 第4演算手段
42 比較診断手段
42a 第5演算手段
A 空気
G 排気ガス
Ge EGRガス
L_st 理論空燃比
NOx_cyl NOx濃度の算出値
NOx_jud 判定値
NOx_m NOx濃度の計測値
m_air 吸気量センサの検出値
m_cyl シリンダ内の質量流量
m_egr EGRガスの質量流量
O2_air 大気中の酸素濃度
O2_egr EGR空気過剰率
Pi 吸気圧
Ti 吸気温度
λ 空気過剰率
λ_egr EGRガスの空気過剰率
λ_m 空気過剰率センサの検出値