特許第5874430号(P5874430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874430非水電解質二次電池及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874430
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池用のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20160218BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20160218BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160218BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160218BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/131
   H01M4/505
   H01M4/62 Z
   C01G53/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-33649(P2012-33649)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-171646(P2013-171646A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115554
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 幸一
(72)【発明者】
【氏名】戸出 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】新名 史治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智一
(72)【発明者】
【氏名】喜田 佳典
(72)【発明者】
【氏名】藤原 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】能間 俊之
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−253140(JP,A)
【文献】 特開2006−012616(JP,A)
【文献】 特開2001−076724(JP,A)
【文献】 特開平11−307099(JP,A)
【文献】 特開2002−343362(JP,A)
【文献】 特開2011−171250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525、4/131、4/505、4/62、10/0525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質として層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表され、Zrを含有しており、Pawley法で求めた積分幅よりHalder−wagner法を用いて求めた平均結晶子サイズが1300Å以下である非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b≦0.05、0.4≦x≦0.8、0<y≦0.35、0<z≦0.30、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表される請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記元素Mが、Al、Sr、Y、Zr、Ta、Mg、Ti、Zn、B、Ca、Cr、Si、Ga、Sn、P、V、Sb、Nb、Mo、W及びFeよりなる群から選ばれる1種以上の元素である請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物に含有されるZrの量が、Ni、Co、及びMnの総量に対して0.1〜3.0mol%である請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子が集合し二次粒子を形成したものである請求項1〜のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記正極は、正極芯体表面に前記リチウム遷移金属複合酸化物及び結着剤を含む正極活物質層が形成されたものであり、前記正極活物質層は、前記リチウム遷移金属複合酸化物よりも嵩密度の低い炭素材料を含み、前記炭素材料が前記正極活物質に対して3重量%以
上含まれる請求項1〜のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記炭素材料の嵩密度が0.01〜0.50g/ccである請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記正極活物質層の充填密度が、2.0〜3.5g/ccである請求項又はに記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記正極活物質層の充填密度が、2.0〜3.0g/ccである請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
正極活物質として層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体とZr化合物を混合し焼成することにより得られ、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表され、Zrを含有しており、Pawley法で求めた積分幅よりHalder−wagner法を用いて求めた平均結晶子サイズが1300Å以下である前記リチウム遷移金属複合酸化物を前記正極活物質として用いる非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項11】
正極活物質として層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池に用いられる前記リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表され、Zrを含有しており、Pawley法で求めた積分幅よりHalder−wagner法を用いて求めた平均結晶子サイズが1300Å以下であり、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体とZr化合物を混合し焼成する工程を有する非水電解質二次電池用のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含む正極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型の電子機器や、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)などの急速な普及に伴い、それらに使用される非水電解質二次電池への要求仕様は、年々厳しくなっている。特に高容量、高出力でサイクル特性が優れ、性能の安定したものが要求されている。
【0003】
また、非水電解質二次電池を搭載した電子機器や自動車などは、様々な温度条件で使用される可能性がある。したがって、非水電解質二次電池には、様々な温度条件で充放電を繰り返し行っても十分な特性を維持することが求められる。
【0004】
このような非水電解質二次電池に用いられる正極活物質としてリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiMO(但し、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表される層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−y(y=0.01〜0.99)、LiMnO、LiNixCoyMn(x+y+z=1)、あるいはLiMn、LiFePOなどが一種単独もしくは複数種を混合して用いられている。
【0005】
近年では質量あたりの容量の大きいNi主体の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が注目されている。例えば、特許文献1には、体積容量密度、充填密度及び安全性が高く、充放電サイクル耐久性に優れたリチウムイオン二次電池正極活物質の製造方法が開示されており、その正極活物質としてNi主体のリチウム遷移金属複合酸化物が開示されている。
【0006】
また、非水電解質二次電池をハイレートで充放電した場合、過電圧がかかり、電解液の分解などが生じる可能性がある。したがって、ハイレートで充放電が行われる車載用非水電解質二次電池等には、ハイレートで充放電を行っても電池特性が低下しないことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/099158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表されるNi主体の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高い電池となるものの、ハイレートで充放電を繰り返した場合、電池容量の低下や出力特性の低下が生じるという課題が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、詳細な検討の結果、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表されるNi主体の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、充放電による結晶の体積変化が大きく、充放電を繰り返すことにより、リチウム遷移金属複合酸化物内の導電パスが切断され、電子伝導性の低下や充放電に寄与するリチウム遷移金属複合酸化物の絶対量の低減が生じるため、上記の課題が生じると考えた。
【0010】
実際にハイレートで充放電を繰り返した非水電解質二次電池を解体し、リチウム遷移金属複合酸化物を解析した結果、リチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子を形成する一次粒子間や一次粒子内にクラックが見られた。このことから、ハイレートでの充放電を繰り返すことによりリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子間や一次粒子内のクラックにより、導電パスが切断され、電子伝導性の低下や、充放電に寄与するリチウム遷移金属複合酸化物の絶対量の低減により、電池容量の低下や出力特性の低下が生じたと考えられる。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決することを目的とし、ハイレートでの充放電サイクルによる電池容量の低下や出力特性の低下を抑制した非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質として層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表され、Zrを含有しており、Pawley法で求めた積分幅よりHalder−wagner法を用いて求めた平均結晶子サイズが1300Å以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明では、正極活物質として、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いることにより、エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0014】
本発明では、リチウム遷移金属複合酸化物のPawley法で求めた積分幅よりHalder−wagner法を用いて求めた平均結晶子サイズを1300Å以下とすることにより、ハイレートで充放電サイクルを行ってもリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化による導電パスの切断を抑制できる。なお、本発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズLは、以下のようにして求められる。
<平均結晶子サイズLの求め方>
1)X線回折用標準資料(National Institute of Standards and Technology(NIST) Standard Reference Materials(SRM) 660b(LaB))のX線回折パターンから、ミラー指数(100)、(110)、(111)、(200)、(210)、(211)、(220)、(221)、(310)、(311)の10本のピークを用いてPawley法で分割型擬voigt関数を用いて、積分強度、ピーク高さから積分幅βを算出。
2)測定サンプル(リチウム遷移金属複合酸化物)のX線回折パターンの中からミラー指数(003)、(101)、(006)、(012)、(104)、(015)、(107)、(018)、(110)、(113)の10本のピークを用いてPawley法
で分割型擬voigt関数を用いて、フィッティングし、積分強度、ピーク高さから積分幅βを算出。
3)上記結果から(a)式に基づき測定サンプルに由来する積分幅βを算出。
測定サンプルに由来する積分幅β=β−β・・・(a)
4)Halder−wagner法を用いて、β/tanθをβ/(tanθsinθ)に対してプロットして近似する直線の傾きから測定サンプルに由来する平均結晶子サイズLを算出。
【0015】
上述の方法でリチウム遷移金属複合酸化物の結晶子サイズを求めることにより、結晶における全方向の平均の結晶子サイズを求めることが可能である。したがって、充放電に伴うリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化による導電パスの切断の程度を見積もることができる。なお、結晶子サイズは、一般的にScherrerの式を用いて算出される。しかしながら、Scherrerの式により算出される結晶子サイズは、X線回折パターンの特定のピークの半値幅から求めるものであり、結晶における特定方向のサイズを求めるものである。したがって、充放電に伴うリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化による導電パスの切断の程度を見積もることは困難である。
【0016】
本発明においては、前記リチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズが450Å以上であることが好ましく、550Å以上であることがより好ましい。平均結晶子サイズが450Å以上であると、結晶成長が十分であり、不純物層を含む可能性が少なく、よりエネルギー密度や出力特性に優れた非水電解質二次電池を作製できる。
【0017】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは、焼成温度、焼成時間を調整することにより制御できる。例えば、焼成温度を低くすると平均結晶子サイズは小さくなる傾向にあり、焼成時間を短くすると平均結晶子サイズは小さくなる傾向にある。また、結晶成長を促進、または抑制する添加物を混合してリチウム遷移金属複合酸化物を合成する方法、焼成時に混合するLi源となる化合物の量の調整する方法により平均結晶子サイズを制御できる。更に、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体の粒径及び粒度分布の制御、Ni、Mn、Co組成比の調整等により平均結晶子サイズを制御できる。例えば、焼成時に混合するLi源となる化合物の量を多くすると平均結晶子サイズは、大きくなる傾向にある。
【0018】
本発明において、リチウム遷移金属複合酸化物にZrが含有されることにより、ハイレート充放電サイクル特性が向上する。これは、リチウム遷移金属複合酸化物にZrが含有されることにより、リチウム遷移金属複合酸化物の酸化状態が変化し、過電圧による電解液の分解等を抑制できるためと考えられる。Zrはリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面や粒界に酸化物として存在することが好ましく、一部がリチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属サイトに取り込まれていてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物に含有されるZrの量としては、リチウム遷移金属複合酸化物中のNi、Co、及びMnの総量に対して0.1〜3.0mol%とすることが好ましい。特に、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面や粒界に酸化物として存在するZrの量がリチウム遷移金属複合酸化物中のNi、Co、及びMnの総量に対して0.1〜3.0mol%であることが好ましい。
【0019】
リチウム遷移金属複合酸化物にZrを含有させる方法としては、リチウム遷移金属複合酸化物を焼成する際に、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体にZr化合物を混合し、焼成することが好ましい。これにより、前駆体作製段階でZr化合物を添加するよりも、リチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍にZrが存在し易くなり、電解液の分解をより効果的に抑制できる。
【0020】
本発明では、リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式 Li1+aNiCoMn
(ここで、0≦a≦0.15、0≦b≦0.05、0.4≦x≦0.8、0<y≦0.35、0<z≦0.30、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表されることが好ましい。
【0021】
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の構造内にCo及びMnが存在することにより、結晶構造が安定化されるため、ハイレート充放電サイクル特性がより優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0022】
本発明においては、元素Mが、Al、Sr、Y、Zr、Ta、Mg、Ti、Zn、B、Ca、Cr、Si、Ga、Sn、P、V、Sb、Nb、Mo、W及びFeよりなる群から選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。これらの中でも特に、Al、Zr、Mg、Tiよりなる群から選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。
【0023】
本発明では、リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子が集合し二次粒子を形成したものであることが好ましい。
【0024】
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物が一次粒子のみで構成される場合、粒子間に導電剤が存在しやすく、充放電によるリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化での導電パスの切断が比較的発生し難いものと考えられる。これに対して、一次粒子が集合した二次粒子からなる正極活物質は、一次粒子の粒子間に導電剤が存在し難く、充放電によるリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化での導電パスの切断が比較的発生し易い。したがって、一次粒子が集合し二次粒子を形成したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として使用する場合、本発明は特に効果的である。
【0025】
本発明では 正極は、正極芯体表面に正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物及び結着剤を含む正極活物質層が形成されたものであり、正極活物質層は、リチウム遷移金属複合酸化物よりも嵩密度の低い炭素材料を含み、炭素材料が正極活物質の総量に対して3重量%以上含まれることが好ましい。
【0026】
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物よりも嵩密度の低い炭素材料は、導電剤としての役割だけでなく、緩衝材の役割を果たし、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子間や一次粒子内にクラックが発生することを抑制することができる。炭素材料の嵩密度は、0.01〜0.50g/ccとすることが好ましい。この範囲であると、正極活物質層の充填密度が低下することなく、体積エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0027】
本発明では、正極活物質層の充填密度が、2.0〜3.5g/ccであることが好ましく、2.0〜3.0g/ccであることがより好ましい。
【0028】
正極活物質層の充填密度を3.5g/cc以下とすることにより、充放電に伴うリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化の影響により、リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子間、及び二次粒子と導電剤との間の導電パスが切断されることを抑制できる。また、正極活物質層の充填密度を2.0g/cc以上とすることにより、体積エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0029】
本発明では、負極活物質として炭素材料を用いることが好ましく、特に黒鉛を用いることが好ましい。これにより、本発明において正極活物質として用いるリチウム遷移金属複合酸化物との組合せにおいて、幅広い充放電深度の範囲において出力回生特性のバランスを維持することができる。
【0030】
さらに、本発明では、負極活物質層の充填密度を1.0〜1.5g/ccとすることが好ましい。負極活物質層の充填密度を、1.5g/cc以下とすることにより負極活物質粒子間の隙間を確保することが可能となり、充放電により膨張収縮する極板の体積変化を緩和することが可能となり、電極体の緩みによる出力低下を緩和することが可能となる。また、負極活物質層の充填密度を、1.0g/cc以上とすることにより、体積エネルギー密度の高い非水電解質二次電池となる。
【0031】
本発明では、非水電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)として、非水電解質二次電池において一般的に使用されているカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができる。これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中ではカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類などが好ましく、カーボネート類がさらに好適に用いられる。
【0032】
例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、ビニレンカーボネート(VC)などの不飽和環状炭酸エステルを非水電解質に添加することもできる。
【0033】
本発明では、非水電解質を構成する溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiAsF、LiClO、Li10Cl10、Li12Cl12、LiB(C、LiB(C)F、LiP(C、LiP(C、LiP(C)Fなど及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPFが好ましく用いられる。
【0034】
本発明では、セパレータとしてポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(P)、及びポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の3層構造(PP/PE/PP、あるいはPE/PP/PE)などのポリオレフィン製の多孔質セパレータを用いることもできる。
【0035】
ハイブリッド自動車、バッテリー電気自動車等に用いられる車載用非水電解質二次電池としては、SOC(State of charge) 50%における3.0Vcutにおいて、出力密度が2000W/L以上であることが好ましい。また、内部抵抗(1kHz インピーダンス抵抗)が室温において20mΩ以下であることが好ましい。
【0036】
出力密度が2000W/L以上であると、高出力が必要とされる電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に好適に利用できる。また、内部抵抗(1kHz インピーダンス抵抗)が室温において20mΩ以下とすることにより、ハイレート充放電時の電池温度の上昇を抑制できる。また、過充電を影響を小さくし、電解液の分解等の副反応を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本願実施例及び比較例に係る円筒形の非水電解質二次電池を示す模式的断面図である。
図2図2は、本願実施例及び比較例に係る角形の非水電解質二次電池を示す模式的断面図である。
図3】実験1の結果を示す図であり、平均結晶子サイズと容量維持率の関係を示す図である。
図4】実験2の結果を示す図であり、平均結晶子サイズと容量維持率の関係を示す図である。
図5】実験3で用いた三電極試験セルの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池の例を示すものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0039】
[実験1]
[実施例1]
[正極板の作製]
LiCOと(Ni0.50Co0.20Mn0.30とZrOとを、Liと(Ni0.50Co0.20Mn0.30)とZrのモル比が1.15:1:0.005となるように混合した。次いで、この混合物を空気雰囲気中にて840℃で20時間焼成し、Ni、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含むリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.15Ni0.50Co0.20Mn0.30)を得て正極活物質とした。このリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは1183Åであり、嵩密度は2.10g/ccであった。上述の方法で作成した正極活物質、導電剤としてカーボンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液とを、正極活物質:カーボンブラック:PVdFの質量比が88:9:3となるように混練し、正極スラリーを作製した。なお、ここで用いたカーボンブラックの嵩密度は0.16g/ccであった。作製した正極スラリーを正極芯体としてアルミニウム合金箔(厚さ15μm)の両面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用したNMPを除去し正極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ロールを用いて正極活物質層が所定の充填密度(2.60g/cc)になるまで圧延し、更に正極芯体が露出する部分に正極リードを取り付けることにより、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極板を作製した。
【0040】
正極活物質の平均結晶子サイズは、以下の方法で求めた。なお、実施例1〜5、比較例1〜4におけるリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは、全て以下の方法により求めた値である。
<平均結晶子サイズLの求め方>
1)X線回折用標準資料(National Institute of Standards and Technology(NIST) Standard Reference Materials(SRM) 660b(LaB))のX線回折パターンから、ミラー指数(100)、(110)、(111)、(200)、(210)、(211)、(220)、(221)、(310)、(311)の10本のピークを用いてPawley法で分割型擬voigt関数を用いて、積分強度、ピーク高さから積分幅βを算出。
2)測定サンプル(リチウム遷移金属複合酸化物)のX線回折パターンの中からミラー指数(003)、(101)、(006)、(012)、(104)、(015)、(107)、(018)、(110)、(113)の10本のピークを用いてPawley法で分割型擬voigt関数を用いて、フィッティングし、積分強度、ピーク高さから積分幅βを算出。
3)上記結果から(a)式に基づき測定サンプルに由来する積分幅βを算出。
測定サンプルに由来する積分幅β=β−β・・・(a)
4)Halder−wagner法を用いて、β/tanθをβ/(tanθsi
nθ)に対してプロットして近似する直線の傾きから測定サンプルに由来する平均結晶子サイズLを算出。
【0041】
X線回折パターンの測定は、リチウム遷移金属複合酸化物をサンプルホルダーに充填し、Cu‐Kα線を用いたX線回折装置(株式会社RIGAKU製RINT−TTR2)を使用し、管電圧 50kV、管電流300mAの条件で行った。
【0042】
平均結晶子サイズを算出するために用いたリチウム遷移金属複合酸化物のX線回折パターンの10本のピークは以下のとおりである。
・2θ=18.7°付近にあるミラー指数(003)で指数付けされるピーク
・2θ=36.7°付近にあるミラー指数(101)で指数付けされるピーク
・2θ=37.9°付近にあるミラー指数(006)で指数付けされるピーク
・2θ=38.4°付近にあるミラー指数(012)で指数付けされるピーク
・2θ=44.5°付近にあるミラー指数(104)で指数付けされるピーク
・2θ=48.6°付近にあるミラー指数(015)で指数付けされるピーク
・2θ=58.6°付近にあるミラー指数(107)で指数付けされるピーク
・2θ=64.4°付近にあるミラー指数(018)で指数付けされるピーク
・2θ=65.0°付近にあるミラー指数(110)で指数付けされるピーク
・2θ=68.3°付近にあるミラー指数(113)で指数付けされるピーク
【0043】
[負極板の作製]
天然黒鉛を球状にした母材にピッチとカーボンブラックの混合物を含浸・被覆した。ここで、天然黒鉛とピッチとカーボンブラックの質量比が100:5:5となるように混合した。次いで、900〜1500℃で焼成した後、焼成物を粉砕し、表面を非晶質炭素で被覆された黒鉛を得て、負極活物質とした。以上のようにして得られた負極活物質、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤としてのスチレン−ブタジエン−ラバー(SBR)を水と共に混練して負極スラリーを作製した。ここで、負極活物質:CMC:SBRの質量比が98.9:0.7:0.4となるように混合した。ついで、作製した負極スラリーを負極芯体としての銅箔(厚さが10μm)の両面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用した水を除去し負極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ローラーを用いて負極活物質層が所定の充填密度(1.10g/cc)になるまで圧延し、更に負極芯体が露出する部分に負極リードを取り付けることにより、負極板を作製した。
【0044】
なお、正極板及び負極板の充填密度は以下のようにして求めた。まず、電極板を10cmに切り出し、電極板10cmの質量A(g)、電極板の厚みC(cm)を測定する。次いで、芯体10cmの質量B(g)、及び芯体厚みD(cm)を測定する。そして、次の式から充填密度を求める。
充填密度=(A―B)/〔(C−D)×10cm
【0045】
[非水電解液の調製]
環状カーボネートであるエチレンカーボート(EC)と、鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)を体積比で3:3:4となるように混合させた混合溶媒に対して、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの割合で溶解させた。このようにして得られた溶液にビニレンカーボネート(VC)を1質量%添加して非水電解液を調製した。
【0046】
[非水電解質二次電池の作製]
上述の方法で作製した正極板、負極板、及び非水電解液を用いて、18650型の円筒形非水電解質二次電池を作製した。この非水電解質二次電池(定格容量:700mAh)を
、電池A1とする。この円筒形非水電解質二次電池は図1に示すように、正極板1と負極板2とを、セパレータ3を介して巻回した巻回型電極体を、非水電解液と共に有底筒状の外装缶5の内部に収納される。外装缶5の開口部は、封口体4により封止され、外装缶5と封口体4の間には絶縁パッキング6が介在し、外装缶5と封口体4は絶縁されている。正極板1に接続された正極リード1aが封口体4に接続され、封口体4が正極端子の役割を果たす。また、負極板2に接続された負極リード2aが外装缶5に接続され、外装缶5が負極端子の役割を果たす。
【0047】
[実施例2]
LiCOと(Ni0.50Co0.20Mn0.30とZrOとを、Liと(Ni0.50Co0.20Mn0.30)とZrのモル比が1.15:1:0.005となるように混合した。次いで、この混合物を空気雰囲気中にて820℃で20時間焼成し、Ni、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含むリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.15Ni0.50Co0.20Mn0.30)を得て、正極活物質とした以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池(定格容量:700mAh)を作製し、電池A2とした。なお、作製したリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは679Åであり、嵩密度は2.09g/ccであった。
【0048】
[比較例1]
LiCOと(Ni0.50Co0.20Mn0.30とZrOとを、Liと(Ni0.50Co0.20Mn0.30)とZrのモル比が1.15:1:0.005となるように混合し、次いで、この混合物を空気雰囲気中にて880℃で20時間焼成し、Ni、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含むリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.15Ni0.50Co0.20Mn0.30)を得て、正極活物質とした以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池(定格容量:700mAh)を作製し、電池X1とした。なお、作製したリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは1348Åであり、嵩密度は2.10g/ccであった。
【0049】
[比較例2]
LiCOと(Ni0.50Co0.20Mn0.30とを、Liと(Ni0.50Co0.20Mn0.30)のモル比が1.15:1となるように混合し、次いで、この混合物を空気雰囲気中にて840℃で20時間焼成し、Li1.15Ni0.50Co0.20Mn0.30
で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を得て、正極活物質とした以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池(定格容量:700mAh)を作製し、電池X2とした。なお、作製した正極活物質の平均結晶子サイズは1001Åであり、嵩密度は2.09g/ccであった。
【0050】
[比較例3]
LiCOと(Ni0.35Co0.35Mn0.30とZrOとを、Liと(Ni0.35Co0.35Mn0.30)とZrのモル比が1.19:1:0.005となるように混合し、次いで、この混合物を空気雰囲気中にて870℃で20時間焼成し、Ni、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含むリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.19Ni0.35Co0.35Mn0.30)を得て、正極活物質とした以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池(定格容量:700mAh)を作製し、電池X3とした。なお、作製した正極活物質の平均結晶子サイズは1336Åであり、嵩密度は2.31g/ccであった。
【0051】
上述の方法で作製した電池A1、電池A2、電池X1〜X3について、放電容量測定、60℃‐10Aサイクル試験、常温IV測定を行った。
【0052】
[放電容量測定]
1Cの充電電流で4.1Vまで定電流充電を行った後、4.1Vで定電圧充電を2時間行った後、1Cの放電電流で2.5Vまで定電流放電を行った。このときの放電容量を、初回放電容量とした。
【0053】
[60℃‐10Aサイクル試験]
60℃の環境下において、2.5V‐4.1Vの電圧範囲において、10Aの電流を流す充放電サイクルを行った。500サイクル後に、上述の放電容量測定と同様の方法にて放電容量を求め500サイクル後の放電容量とした。
【0054】
上述の初回放電容量と500サイクル後の放電容量を用い、以下の式より容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=500サイクル後の放電容量/初回放電容量
【0055】
[常温IV測定]
常温(25℃)にて、SOC50%になるまで充電させた状態で、0.1〜35Aの電流でそれぞれ10秒間放電を行い、電池電圧を測定し、各電流値と電池電圧とをプロットして放電時における出力を求め、電池体積で除することにより出力密度を算出した。
【0056】
各電池についての、容量維持率及び出力密度を表1に示す。また、各電池について、
平均結晶子サイズと容量維持率の関係を図3に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1及び図3から分かるように、リチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズが1348Åの電池X1、及びリチウム遷移金属複合酸化物にZrを含有しない電池X2では、それぞれ容量維持率が53%、54%と非常に低い値となった。これに対して、Zrを含有し、且つ平均結晶子サイズがそれぞれ1183Å、679Åの電池A1及び電池A2では、容量維持率が92%、94%と高い値となった。なお、リチウム遷移金属複合酸化物におけるNi量がNi、Co、Mnの総量に対し、0.35mol%と比較的低い電池X3では、平均結晶子サイズが1336Åであっても、容量維持率の値は93%と高い値となった。したがって、ハイレート充放電サイクルによる容量の低下は、リチウム遷移金属複合酸化物におけるNi量が低い場合は生じないものであることが分かる。
【0059】
[実験2]
[実施例3]
[正極板の作製]
LiCOと(Ni0.465Co0.275Mn0.26とZrOとを
、Li:(Ni0.465Co0.275Mn0.26):Zrとのモル比が1.14:1:0.005となるように混合した。次いで、この混合物を空気雰囲気中にて850℃で20時間焼成しNi、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含むリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.14Ni0.465Co0.275Mn0.26)を得て、正極活物質とした。このようにして得られたリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは1103Åであり、嵩密度は2.26g/ccであった。上述の方法で作製した正極活物質、導電剤としてカーボンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液とを、正極活物質:カーボンブラック:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)の質量比が92:5:3となるように混練し、正極スラリーを作製した。なお、ここで用いたカーボンブラックの嵩密度は0.16g/ccであった。作製した正極スラリーを正極芯体としてアルミニウム合金箔(厚さ15μm)の両面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用したNMPを除去し正極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ロールを用いて正極活物質層が所定の充填密度(2.5g/cc)になるまで圧延し、所定寸法に切断して正極極板を作製した。
【0060】
[負極板の作製]
天然黒鉛を球状にした母材にピッチとカーボンブラックの混合物を含浸・被覆した。ここで、天然黒鉛とピッチとカーボンブラックの質量比が100:5:5となるように混合した。次いで、900〜1500℃で焼成し、焼成物を粉砕し、表面を非晶質炭素で被覆された黒鉛を得て、負極活物質とした。以上のようにして得られた負極活物質、導電剤として鱗片状黒鉛と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤としてのスチレン−ブタジエン−ラバー(SBR)を水と共に混練して負極スラリーを作製した。ここで、負極活物質に鱗片状黒鉛を加えたものとカルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレン−ブタジエン−ラバー(SBR)の質量比が98.7(鱗片状黒鉛は、負極活物質に鱗片状黒鉛を加えたものの総量に対して2.0質量%):0.7:0.6となるように混合した。ついで、作製した負極スラリーを負極芯体としての銅箔(厚さが10μm)の両面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用した水を除去し負極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ローラーを用いて負極活物質層が所定の充填密度(1.3g/cc)になるまで圧延した。
【0061】
[非水電解液の調製]
環状カーボネートであるエチレンカーボネート(EC)と、鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)を体積比で3:3:4となるように混合させた混合溶媒に対して、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの割合で溶解させた。このようにして得られた溶液にビニレンカーボネート(VC)を0.3質量%添加して非水電解液を調製した。
【0062】
[非水電解質二次電池の作製]
上述の方法で作製した正極板及び負極板をポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して巻回し、円筒状の電極群を作製した。その後、円筒状の電極群を偏平形に成形し偏平形電極群11とした。ここで用いた正極板及び負極板には、それぞれ一方の端部に長手方向に沿って両面に活物質層が形成されていない帯状の芯体露出部が形成されており、渦巻状の偏平形電極群11において、巻き軸方向における一方の端部に正極芯体露出部7が形成され、巻き軸方向における他方の端部には負極芯体露出部8が形成される。次に、正極端子14の一方の端部を封口体13に設けた貫通孔に挿入し、正極集電体9と接続した状態で封口体13に固定する。また、負極端子15の一方の端部を封口体13に設けた貫通孔に挿入し、負極集電体10と接続した状態で封口体13に固定する。ここで、封口体13と正極端子14及び正極集電体9の間に絶縁部材16を介在させ、封口体13と正極端子14及び正極集電体9の間が絶縁された状態とする。また、封口体13と負極端子
15及び負極集電体10の間に絶縁部材17を介在させ、封口体13と負極端子15及び負極集電体10の間が絶縁された状態とする。その後、正極芯体露出部7に正極集電体9を抵抗溶接により接続し、負極芯体露出部8に負極集電体10を抵抗溶接により接続する。そして、偏平形電極群11の外周を絶縁シート(図示省略)で被覆してから、外装缶12に挿入し、外装缶12の開口部と封口体13の嵌合部をレーザ溶接により接続し、外装缶12を封止する。そして、封口板13に設けられた電解液注入孔(図示省略)から上述の方法で調整した非水電解液を所定量注入した後、電解液注入孔を封止材(図示省略)で密閉封止することにより角形の非水電解質二次電池(定格容量:25Ah)を作製し、電池A3とした。
【0063】
[実施例4]
LiCOと(Ni0.465Co0.275Mn0.26とZrOとを、Li:(Ni0.465Co0.275Mn0.26):Zrとのモル比が1.14:1:0.005となるように混合し、次いで、この混合物を空気雰囲気中にて870℃で20時間焼成し、Ni、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含むリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.14Ni0.465Co0.275Mn0.26)を得て、正極活物質とした以外は実施例3と同様にして非水電解質二次電池(定格容量:25Ah)を作製し、電池A4とした。なお、作製したリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは1278Åであり、嵩密度は2.53g/ccであった。
【0064】
[実施例5]
LiCOと(Ni0.465Co0.275Mn0.26とZrOとを、Li:(Ni0.465Co0.275Mn0.26):Zrとのモル比が1.11:1:0.005となるように混合し、次いで、この混合物を空気雰囲気中にて850℃で20時間焼成し、Ni、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含有するリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.11Ni0.465Co0.275Mn0.26)を得て、正極活物質とした以外は実施例3と同様にして非水電解質二次電池(定格容量:25Ah)を作製し、電池A5とした。なお、作製したリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは713Åであり、嵩密度は2.70g/ccであった。
【0065】
[比較例4]
LiCOと(Ni0.465Co0.275Mn0.26とZrOとを、Li:(Ni0.465Co0.275Mn0.26):Zrとのモル比が1.11:1:0.005となるように混合し、次いで、この混合物を空気雰囲気中にて920℃で20時間焼成し、Ni、Co、Mnの総量に対しZrを0.5mol%含有するリチウム遷移金属複合酸化物(粒子表面近傍にZrが存在するLi1.11Ni0.465Co0.275Mn0.26)を得て、正極活物質とした以外は実施例3と同様にして非水電解質二次電池(定格容量:25Ah)を作製し、電池X4とした。なお、作製したリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは1430Åであり、嵩密度は2.44g/ccであった。
【0066】
上述の方法で作製した電池A3〜A5、電池X4について、放電容量測定、60℃‐2Cサイクル試験、常温IV測定を行った。
【0067】
[放電容量測定]
1Cの充電電流で4.1Vまで定電流充電を行った後、4.1Vで定電圧充電を2時間行った後、1/3Cの放電電流で3.0Vまで定電流放電を行い、その後3.0Vで5時間定電圧放電を行った。このときの放電容量を、初回放電容量とした。
【0068】
[60℃‐2Cサイクル試験]
60℃の環境下において、3.0V‐4.1Vの電圧範囲において、2Cの電流を流す充放電サイクルを行った。200サイクル後に、上述の放電容量測定と同様の方法にて放電容量を求め200サイクル後の放電容量とした。
【0069】
上述の初回放電容量と200サイクル後の放電容量を用い、以下の式より容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=200サイクル後の放電容量/初回放電容量
【0070】
[常温IV測定]
常温(25℃)にて、SOC50%になるまで充電させた状態で、それぞれ1.6C、3.2C、4.8C、6.4C、8.0C及び9.6Cの電流で10秒間放電を行い、それぞれの電池電圧を測定し、各電流値と電池電圧とをプロットして放電時における出力を求め、電池体積で除することにより出力密度を算出した。
【0071】
各電池についての、容量維持率及び出力密度を表2に示す。また、各電池について、
平均結晶子サイズに対する容量維持率の値を図4に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2及び図3から分かるように、リチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズが1430Åの電池X4は、容量維持率が83%と低い値となった。これに対して、Zrを含有し、且つ平均結晶子サイズがそれぞれ1103Å、1278Å、713Åの電池A3、電池A4、電池A5では、容量維持率が97%、92%、98%と高い値となった。
【0074】
[実験3]
[参考例1]
実験1の実施例1で作製したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用い、正極活物質と、導電剤としての気相成長炭素繊維(VGCF)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液とを、正極活物質:導電剤:結着剤の質量比が92:5:3となるように調製し、これらを混練させて正極スラリーを作製した。そして、この正極スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、正極芯体にアルミニウム製の集電タブを取りつけて正極板を作製した。
【0075】
そして、図5に示すように、上述の方法で作製した正極板を作用極21として用い、負極板となる対極22及び参照極23にそれぞれ金属リチウムを用い、また非水電解液24として、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とジメチルカーボネート(DMC)とを3:3:4の体積比で混合させた混合溶媒にLiPFを1
mol/lの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネート6(VC)を1質量%溶解させたものを用いて、三電極式試験セル20を作製し試験セルZ1とした。
【0076】
[参考例2]
実験1の実施例2で作製したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた以外は参考例1と同様にして、三電極式試験セル20を作製し試験セルZ2とした。
【0077】
[参考例3]
実験1の比較例1で作製したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた以外は参考例1と同様にして、三電極式試験セル20を作製し試験セルZ3とした。
【0078】
[参考例4]
実験1の比較例3で作製したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた以外は参考例1と同様にして、三電極式試験セル20を作製し試験セルZ4とした。
【0079】
次に、上記のように作製した試験セルZ1〜Z4を、それぞれ25℃の温度条件下において、0.2mA/cmの電流密度で4.3V(vs.Li/Li+)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li+)の定電圧で電流密度が0.04mA/cmになるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で2.5V(vs.Li/Li+)まで定電流放電を行い、放電容量を求め、正極中の正極活物質重量あたりの放電容量を算出した。結果を各試験セルに用いた正極活物質中のNi:Co:Mnのモル比と共に表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
表3から分かるようにリチウム遷移金属複合酸化物中のNi量の割合が低い試験セルZ4では、リチウム遷移金属複合酸化物中のNi量の割合が高い試験セルZ1〜Z3と比較し、質量あたりの容量が小さい。したがって、Ni量の割合が低いリチウム遷移金属複合酸化物は、高容量が求められる電池に用いられる正極活物質としては、不適切であることが分かる。
【0082】
以上のことから、正極活物質として、一般式 Li1+aNiCoMn(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z=1、MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表される層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を用い、このリチウム遷移金属複合酸化物にZrを含有させ、且つ平均結晶子サイズを1300Å以下とすることにより、高容量で且つハイレート充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0083】
1 正極板
1a 正極リード
2 負極板
2a 負極リード
3 セパレータ
4 封口体
5 外装缶
6 絶縁パッキング

7 正極芯体露出部
8 負極芯体露出部
9 正極集電体
10 負極集電体
11 偏平形電極群
12 外装缶
13 封口体
14 正極端子
15 負極端子
16 絶縁部材
17 絶縁部材

20 三電極式試験セル21 作用極(正極)
22 対極(負極)
23 参照極
24 非水電解液




図1
図2
図3
図4
図5