【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、詳細な検討の結果、一般式 Li
1+aNi
xCo
yMn
zM
bO
2(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表されるNi主体の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、充放電による結晶の体積変化が大きく、充放電を繰り返すことにより、リチウム遷移金属複合酸化物内の導電パスが切断され、電子伝導性の低下や充放電に寄与するリチウム遷移金属複合酸化物の絶対量の低減が生じるため、上記の課題が生じると考えた。
【0010】
実際にハイレートで充放電を繰り返した非水電解質二次電池を解体し、リチウム遷移金属複合酸化物を解析した結果、リチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子を形成する一次粒子間や一次粒子内にクラックが見られた。このことから、ハイレートでの充放電を繰り返すことによりリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子間や一次粒子内のクラックにより、導電パスが切断され、電子伝導性の低下や、充放電に寄与するリチウム遷移金属複合酸化物の絶対量の低減により、電池容量の低下や出力特性の低下が生じたと考えられる。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決することを目的とし、ハイレートでの充放電サイクルによる電池容量の低下や出力特性の低下を抑制した非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質として層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式 Li
1+aNi
xCo
yMn
zM
bO
2(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表され、Zrを含有しており、Pawley法で求めた積分幅よりHalder−wagner法を用いて求めた平均結晶子サイズが1300Å以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明では、正極活物質として、一般式 Li
1+aNi
xCo
yMn
zM
bO
2(ここで、0≦a≦0.15、0≦b、0.4≦x≦1.0、y<x、z<x、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いることにより、エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0014】
本発明では、リチウム遷移金属複合酸化物のPawley法で求めた積分幅よりHalder−wagner法を用いて求めた平均結晶子サイズを1300Å以下とすることにより、ハイレートで充放電サイクルを行ってもリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化による導電パスの切断を抑制できる。なお、本発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズLは、以下のようにして求められる。
<平均結晶子サイズLの求め方>
1)X線回折用標準資料(National Institute of Standards and Technology(NIST) Standard Reference Materials(SRM) 660b(LaB
6))のX線回折パターンから、ミラー指数(100)、(110)、(111)、(200)、(210)、(211)、(220)、(221)、(310)、(311)の10本のピークを用いてPawley法で分割型擬voigt関数を用いて、積分強度、ピーク高さから積分幅β
1を算出。
2)測定サンプル(リチウム遷移金属複合酸化物)のX線回折パターンの中からミラー指数(003)、(101)、(006)、(012)、(104)、(015)、(107)、(018)、(110)、(113)の10本のピークを用いてPawley法
で分割型擬voigt関数を用いて、フィッティングし、積分強度、ピーク高さから積分幅β
2を算出。
3)上記結果から(a)式に基づき測定サンプルに由来する積分幅βを算出。
測定サンプルに由来する積分幅β=β
2−β
1・・・(a)
4)Halder−wagner法を用いて、β
2/tan
2θをβ/(tanθsinθ)に対してプロットして近似する直線の傾きから測定サンプルに由来する平均結晶子サイズLを算出。
【0015】
上述の方法でリチウム遷移金属複合酸化物の結晶子サイズを求めることにより、結晶における全方向の平均の結晶子サイズを求めることが可能である。したがって、充放電に伴うリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化による導電パスの切断の程度を見積もることができる。なお、結晶子サイズは、一般的にScherrerの式を用いて算出される。しかしながら、Scherrerの式により算出される結晶子サイズは、X線回折パターンの特定のピークの半値幅から求めるものであり、結晶における特定方向のサイズを求めるものである。したがって、充放電に伴うリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化による導電パスの切断の程度を見積もることは困難である。
【0016】
本発明においては、前記リチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズが450Å以上であることが好ましく、550Å以上であることがより好ましい。平均結晶子サイズが450Å以上であると、結晶成長が十分であり、不純物層を含む可能性が少なく、よりエネルギー密度や出力特性に優れた非水電解質二次電池を作製できる。
【0017】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の平均結晶子サイズは、焼成温度、焼成時間を調整することにより制御できる。例えば、焼成温度を低くすると平均結晶子サイズは小さくなる傾向にあり、焼成時間を短くすると平均結晶子サイズは小さくなる傾向にある。また、結晶成長を促進、または抑制する添加物を混合してリチウム遷移金属複合酸化物を合成する方法、焼成時に混合するLi源となる化合物の量の調整する方法により平均結晶子サイズを制御できる。更に、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体の粒径及び粒度分布の制御、Ni、Mn、Co組成比の調整等により平均結晶子サイズを制御できる。例えば、焼成時に混合するLi源となる化合物の量を多くすると平均結晶子サイズは、大きくなる傾向にある。
【0018】
本発明において、リチウム遷移金属複合酸化物にZrが含有されることにより、ハイレート充放電サイクル特性が向上する。これは、リチウム遷移金属複合酸化物にZrが含有されることにより、リチウム遷移金属複合酸化物の酸化状態が変化し、過電圧による電解液の分解等を抑制できるためと考えられる。Zrはリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面や粒界に酸化物として存在することが好ましく、一部がリチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属サイトに取り込まれていてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物に含有されるZrの量としては、リチウム遷移金属複合酸化物中のNi、Co、及びMnの総量に対して0.1〜3.0mol%とすることが好ましい。特に、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面や粒界に酸化物として存在するZrの量がリチウム遷移金属複合酸化物中のNi、Co、及びMnの総量に対して0.1〜3.0mol%であることが好ましい。
【0019】
リチウム遷移金属複合酸化物にZrを含有させる方法としては、リチウム遷移金属複合酸化物を焼成する際に、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体にZr化合物を混合し、焼成することが好ましい。これにより、前駆体作製段階でZr化合物を添加するよりも、リチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍にZrが存在し易くなり、電解液の分解をより効果的に抑制できる。
【0020】
本発明では、リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式 Li
1+aNi
xCo
yMn
z
M
bO
2(ここで、0≦a≦0.15、0≦b≦0.05、0.4≦x≦0.8、0<y≦0.35、0<z≦0.30、x+y+z+b=1、元素MはLi、Ni、Co、Mn以外から選ばれる1種以上の元素)で表されることが好ましい。
【0021】
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の構造内にCo及びMnが存在することにより、結晶構造が安定化されるため、ハイレート充放電サイクル特性がより優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0022】
本発明においては、元素Mが、Al、Sr、Y、Zr、Ta、Mg、Ti、Zn、B、Ca、Cr、Si、Ga、Sn、P、V、Sb、Nb、Mo、W及びFeよりなる群から選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。これらの中でも特に、Al、Zr、Mg、Tiよりなる群から選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。
【0023】
本発明では、リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子が集合し二次粒子を形成したものであることが好ましい。
【0024】
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物が一次粒子のみで構成される場合、粒子間に導電剤が存在しやすく、充放電によるリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化での導電パスの切断が比較的発生し難いものと考えられる。これに対して、一次粒子が集合した二次粒子からなる正極活物質は、一次粒子の粒子間に導電剤が存在し難く、充放電によるリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化での導電パスの切断が比較的発生し易い。したがって、一次粒子が集合し二次粒子を形成したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として使用する場合、本発明は特に効果的である。
【0025】
本発明では 正極は、正極芯体表面に正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物及び結着剤を含む正極活物質層が形成されたものであり、正極活物質層は、リチウム遷移金属複合酸化物よりも嵩密度の低い炭素材料を含み、炭素材料が正極活物質の総量に対して3重量%以上含まれることが好ましい。
【0026】
正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物よりも嵩密度の低い炭素材料は、導電剤としての役割だけでなく、緩衝材の役割を果たし、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子間や一次粒子内にクラックが発生することを抑制することができる。炭素材料の嵩密度は、0.01〜0.50g/ccとすることが好ましい。この範囲であると、正極活物質層の充填密度が低下することなく、体積エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0027】
本発明では、正極活物質層の充填密度が、2.0〜3.5g/ccであることが好ましく、2.0〜3.0g/ccであることがより好ましい。
【0028】
正極活物質層の充填密度を3.5g/cc以下とすることにより、充放電に伴うリチウム遷移金属複合酸化物の体積変化の影響により、リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子間、及び二次粒子と導電剤との間の導電パスが切断されることを抑制できる。また、正極活物質層の充填密度を2.0g/cc以上とすることにより、体積エネルギー密度の高い非水電解質二次電池が得られる。
【0029】
本発明では、負極活物質として炭素材料を用いることが好ましく、特に黒鉛を用いることが好ましい。これにより、本発明において正極活物質として用いるリチウム遷移金属複合酸化物との組合せにおいて、幅広い充放電深度の範囲において出力回生特性のバランスを維持することができる。
【0030】
さらに、本発明では、負極活物質層の充填密度を1.0〜1.5g/ccとすることが好ましい。負極活物質層の充填密度を、1.5g/cc以下とすることにより負極活物質粒子間の隙間を確保することが可能となり、充放電により膨張収縮する極板の体積変化を緩和することが可能となり、電極体の緩みによる出力低下を緩和することが可能となる。また、負極活物質層の充填密度を、1.0g/cc以上とすることにより、体積エネルギー密度の高い非水電解質二次電池となる。
【0031】
本発明では、非水電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)として、非水電解質二次電池において一般的に使用されているカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができる。これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中ではカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類などが好ましく、カーボネート類がさらに好適に用いられる。
【0032】
例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、ビニレンカーボネート(VC)などの不飽和環状炭酸エステルを非水電解質に添加することもできる。
【0033】
本発明では、非水電解質を構成する溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(C
2F
5SO
2)
3、LiAsF
6、LiClO
4、Li
2B
10Cl
10、Li
2B
12Cl
12、LiB(C
2O
4)
2、LiB(C
2O
4)F
2、LiP(C
2O
4)
3、LiP(C
2O
4)
2F
2、LiP(C
2O
4)F
4など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF
6が好ましく用いられる。
【0034】
本発明では、セパレータとしてポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(P
E)、及びポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の3層構造(PP/PE/PP、あるいはPE/PP/PE)などのポリオレフィン製の多孔質セパレータを用いることもできる。
【0035】
ハイブリッド自動車、バッテリー電気自動車等に用いられる車載用非水電解質二次電池としては、SOC(State of charge) 50%における3.0Vcutにおいて、出力密度が2000W/L以上であることが好ましい。また、内部抵抗(1kHz インピーダンス抵抗)が室温において20mΩ以下であることが好ましい。
【0036】
出力密度が2000W/L以上であると、高出力が必要とされる電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に好適に利用できる。また、内部抵抗(1kHz インピーダンス抵抗)が室温において20mΩ以下とすることにより、ハイレート充放電時の電池温度の上昇を抑制できる。また、過充電を影響を小さくし、電解液の分解等の副反応を抑制できる。