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特許5874495Gaを含むIII族窒化物半導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874495
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】Gaを含むIII族窒化物半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20160218BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20160218BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20160218BHJP
   C23C 16/02 20060101ALI20160218BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20160218BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C30B29/38 D
   C30B25/18
   C23C16/02
   H01L33/00 186
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-77882(P2012-77882)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-207257(P2013-207257A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小塩 高英
(72)【発明者】
【氏名】柴田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−147271(JP,A)
【文献】 再公表特許第2008/108381(JP,A1)
【文献】 特開2000−286202(JP,A)
【文献】 特開2002−145700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/02
C30B 25/18
C30B 29/38
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板上にIII 族窒化物半導体を成長させる方法において、
前記サファイア基板上に、AlN、又は、Alx Ga1-x N(0<x<1)から成る多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態の厚さ1nm以上、100nm以下のバッファ層を、基板温度を300℃以上、600℃以下の範囲にして、MOCVD法により形成し、
前記バッファ層の形成された前記基板を、温度1300℃以上1700℃以下の範囲で、前記バッファ層上にGaN半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、GaN半導体が成長しない温度で、水素ガスとアンモニアガスを流した状態で熱処理することにより隣接する結晶粒を固相成長により合体させてより大きな単結晶の結晶核の集合体を形成して、前記バッファ層の表面の凹凸の高さと深さの標準偏差で表した表面粗さを0.68nm以下とし、且つ、前記バッファ層の結晶核密度を熱処理の前に比べて低減させた7×1010/cm2 以下とし、
その熱処理の後、前記基板の温度を、GaN半導体の単結晶が成長する温度まで降温して、その温度を保持して、
GaN半導体を、MOCVD法により、前記バッファ層上に成長させる
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通転位を減少させたGaを含むIII 族窒化物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機金属ガス気相成長法(以下、「MOCVD」という)により、サファイア基板上に、低温バッファ層を形成し、そのバッファ層の上に、GaNを成長させる方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、サファイア基板を1135℃で加熱処理して表面をクリーニングした後に、基板温度を515℃に低下させて、厚さ20nmのGaNから成るバッファ層を形成し、基板温度を1075℃に上昇させて、GaNの微結晶をサファイア基板上に形成している。その後、その温度を保持して、水素ガス比率を窒素ガス比率よりも大きくして、GaNの微結晶を核として、GaNをファセット成長させている。その後、基板温度を1005℃に低下させ窒素ガス比率を水素ガス比率よりも大きくすることにより、横方向に成長し易くしてファセット間を埋めるように、GaNを成長させている。これにより、貫通転位密度を低減させたGaNが得るものである。
【0004】
特許文献2の実施例3では、サファイア基板を1200℃でサーマルクリーニングし、基板温度を1200℃にして、AlNをエピタキシャル成長させて、厚さ0.7μmの単結晶の下地層102が形成されている。次に、基板温度を1150℃に低下させて、AlGaN層103を厚さ100nm以下にエピタキシャル成長させ、基板温度を1350℃で10分、保持してアニール処理を行っている。その後、基板温度を1150℃まで低下させて、さらに、AlGaN層104を成長させている。これにより、AlGaN層の貫通転位密度を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−19872
【特許文献2】特開2005−183524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法は、低温で厚さ20nmの極薄いGaNから成る低温バッファ層を形成した後に、GaNの成長が可能な温度に上昇させて、GaNの微結晶を形成し、続いて、GaNをファセット成長させる方法である。したがって、低温バッファ層の形成後に基板の温度は、GaNが成長できる温度までしか上昇させていないので、微結晶の結晶核が小さい。このために、貫通転位の発生起点の密度は、依然として大きい。
【0007】
また、特許文献2の方法は、基材11上の下地層12は、厚さ0.7μmにエピタキシャル成長させているので単結晶である。また、AlGaN層103は単結晶の下地層102の上にエピタキシャル成長させていることから、単結晶である。そして、このAlGaN層103を形成した段階でアニールすることは、AlGaN層103における転位の移動を容易にして転位密度を低減させるためである(段落0032)。
【0008】
したがって、特許文献2は、多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態のバッファ層における結晶核を大きくさせるものではなく、目的の成長させる半導体層での貫通転位密度の形成を抑制するものではない。
また、特許文献1は、ファセット成長のための結晶核を得るための熱処理であり、貫通転位の発生起点の密度を減少させるものではない。
【0009】
本発明は、貫通転位の発生起点の密度を低減させることで、成長させる目的の半導体の貫通転位密度を一様にし、且つ、低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、サファイア基板上にIII 族窒化物半導体を成長させる方法において、サファイア基板上に、AlN、又は、Alx Ga1-x N(0<x<1)から成る多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態の厚さ1nm以上、100nm以下のバッファ層を、基板温度を300℃以上、600℃以下の範囲にして、MOCVD法により形成し、バッファ層の形成された基板を、温度1300℃以上1700℃以下の範囲で、バッファ層上にGaN半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、GaN半導体が成長しない温度で、水素ガスとアンモニアガスを流した状態で熱処理することにより隣接する結晶粒を固相成長により合体させてより大きな単結晶の結晶核の集合体を形成して、バッファ層の表面の凹凸の高さと深さの標準偏差で表した表面粗さを0.68nm以下とし、且つ、バッファ層の結晶核密度を熱処理の前に比べて低減させた7×1010/cm2 以下とし、その熱処理の後、基板の温度を、GaN半導体の単結晶が成長する温度まで降温して、その温度を保持して、GaN半導体を、MOCVD法により、バッファ層上に成長させることを特徴とするIII 族窒化物半導体の成長方法である。
【0011】
バッファ層は、AlN又はAlx Ga1-x N(0<x<1)である。熱処理温度は、1300℃以上、1700℃以下である。この温度範囲の時には、GaN半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、その半導体は全く、成長しない。また、1700℃を越えると、サファイアなどの基板にダメージが生じるので望ましくない。また、熱処理温度は1300℃以上、1500℃以下であっても良い。バッファ層は、MOCVD法により、基板温度は、300℃以上、600℃以下で形成される。また、バッファ層の厚さは1nm以上、100nm以下である。形成温度が300℃以上、600℃以下であって、この厚さの範囲で、AlN又はAlGaNを堆積すると、多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質との混在した状態となる。この状態は、異種基板上にIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させるための低温形成バッファ層の状態となる。
【0012】
熱処理は、水素ガスとアンモニアガスを流した状態で、行う。この状態のバッファ層を1300℃以上に加熱することにより、隣接する結晶粒が固相成長により合体して大きな結晶粒となる。すなわち、バッファ層は、より大きな単結晶の結晶核の集合体となる。バッファ層上にエピタキシャル成長させるGaN半導体は、この結晶核の格子に整合して、エピタキシャル成長することになる。結晶核の粒界で成長する半導体が合体するので、この粒界で貫通転位が発生し易い。ところが、結晶核が大きいことにより、貫通転位の発生起点密度が低下することになる。これにより、成長する半導体層における貫通転位密度を原始的に低減させることができる。
【0013】
基板の材料は、サファイアである。また、GaN半導体において、Gaの一部を他の第13族元素(第3B族元素)であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素(第5B族元素)であるP、As、Sb、Biで置換したものであっても良い。n型不純物やp型不純物が添加されていても良い。n型不純物としてはSi、p型不純物としてはMgが通常用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、AlN又はAlx Ga1-x N(0<x<1)を、基板上に堆積して、多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質とが混在した状態のバッファ層を形成した後に、バッファ層上に、GaN半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、その半導体が成長しない温度で、熱処理して、バッファ層の結晶核密度を熱処理の前に比べて低減させている。この結果、結晶成長の目的とするGaN半導体が格子整合して成長する結晶核が大きくなり、粒界密度が低減されるので、貫通転位の発生起点の密度が低下することになる。この結果、得られる半導体において貫通転位密度を原始的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例に係る製造方法によるバッファ層の表面粗さと熱処理温度との関係を示した特性図。
図2】本発明の実施例に係る製造方法によるバッファ層の結晶核密度と熱処理温度との関係を示した特性図。
図3】本発明の実施例に係る製造方法による成長時の基板の温度の変化を示した特性図。
図4】従来例の製造方法による成長時の基板の温度の変化を示した特性図。
図5】本発明の実施例に係る製造方法により製造される発光素子を示した構造図。
図6】発光素子の製造工程を示した素子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照して説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
本実施例は、主面がc面であるサファイア基板上に、AlNから成るバッファ層をMOCVD法により形成し、熱処理の後に、GaNを成長させた例である。結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H2 又はN2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3:以下「TMG」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3:以下「TMA」と書く。) を用いた。
【0018】
まず、バッファ層の熱処理による結晶核の変化の様子について述べる。MOCVD装置内にサファイア基板を載置して、水素ガスを流しながら、基板温度を室温から1180℃に上昇させて、サファイア基板を加熱してクリーニングを行い、サファイア基板の表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、基板温度を400℃にして、TMAとアンモニアガスとを水素ガスと共に流し、サファイア基板上にAlNからなる厚さ10nmのバッファ層を形成した。次に、TMAの供給を停止して、水素ガス(キャリアガス)とアンモニアガスを流しながら基板温度を熱処理温度まで上昇させて、2分保持し、バッファ層の熱処理を行った。
【0019】
このバッファ層の熱処理の温度を、400℃、920℃、1020℃、1080℃、1150℃、1300℃、1400℃と変化させた各種の試料を製造した。この熱処理後のバッファ層表面のAFM像を測定した。AFM像から、バッファ層の表面粗さと、熱処理温度との関係を測定した。その結果を図1に示す。また、バッファ層の結晶核密度と、熱処理温度との関係を測定した。その結果を図2に示す。表面粗さは、凸部の高さ、凹部の深さの平均値を求め、凸部の高さ、凹部の深さの平均値に対する偏差の2乗平均の平方根(rms)とした。図1、2から、熱処理温度が400℃から1150℃の範囲では、高温になる程、表面粗さが大きくなることが分かる。一方、熱処理温度が1300℃以上となると、バッファ層の表面粗さは、バッファ層の形成時の表面粗さ(0.5nm)程度である0.68nm以下に低下していることが分かる。また、結晶核密度は、熱処理温度が高くなる程、指数関数で減少していることが分かる。熱処理温度が1300℃以上となると、結晶核密度は、7×1010/cm2 cm以下に低下していることが分かる。また、AFM像によれば、熱処理温度を高くするに連れて、それぞれの結晶核が大きくなり、結晶核密度が低下している。特に、400℃でバッファ層を形成した場合に比べて、熱処理温度が1300℃、1400℃の場合には、結晶核が顕著に大きくなり、結晶核密度が顕著に低下していた。以上のことから、熱処理温度は、1250℃以上、望ましくは、1300℃以上であることが良いことが分かった。
【0020】
バッファ層を1300℃で2分間熱処理した後に、このバッファ層上に、GaNを成長させた。図3は、半導体の成長時のサファイア基板の制御温度の時間変化を示している。AlNから成るバッファ層を1250℃以上の1300℃で熱処理した後、基板温度を、1300℃から1100℃に低下させて、水素ガスをキャリアガスとして流しながら、原料ガスのTMG、アンモニアガスを流して、厚さ3μmの不純物無添加のGaNを成長させた。バッファ層の結晶核密度が低減されているので、貫通転位の発生起点密度が低減されるので、そのバッファ層上に成長するGaNにおける貫通転位密度は低下する。
バッファ層の形成温度は400℃としたが、300℃以上600℃以下において、バッファ層は多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態となるので、その温度範囲を用いることができる。また、バッファ層の厚さは、10nmとしたが、1nm以上、100nm以下の範囲とすることができる。この厚さの範囲において、バッファ層を多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態とすることができる。
【0021】
本発明は、図4に示すように、基板の温度を、バッファ層を形成する低温から、バッファ層上に成長させるGaを含むIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度1100℃まで上昇させて、その温度でGaを含むIII 族窒化物半導体を成長させるものではない。本発明は、図3に示すように、Gaを含むIII 族窒化物半導体を成長させる前に、バッファ層の温度を、Gaを含むIII 族窒化物半導体の単結晶が成長し得ない温度、すなわち、単結晶が適性に成長できる温度を越えて、半導体が成長しない温度まで上昇させて、熱処理するものである。したがって、直ちに、Gaを含むIII 族窒化物半導体を成長させる場合に比べて、バッファ層の結晶核が大きくなり、結晶核密度は低下する。この結果、バッファ層における貫通転位の発生起点の密度が低減されるので、成長するGaを含むIII 族窒化物半導体の貫通転位密度を低減することができる。したがって、バッファ層の熱処理温度を、バッファ層上に成長させるGaを含むIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、その半導体が成長しない温度にすることで、成長させる半導体の貫通転位密度を低減させることができる。熱処理温度は、この観点から1250℃以上、1700℃以下、又は、1300℃以上、1700℃以下が望ましい。熱処理の保持時間は、2分としたが、1秒でも可能である。保持時間は、1秒以上、3時間以下の範囲が望ましい。
【0022】
バッファ層は、AlNの他、Alx Ga1-x N(0<x<1)を用いることができる。バッファ層上に成長させるGaを含むIII 族窒化物半導体をAlz Ga1-z N(0<z<1)とする場合には、格子整合の観点から、バッファ層はAlx Ga1-x N(0<x<1)が望ましい。目的とする半導体Alz Ga1-z N(0<z<1)を単結晶成長させる温度は、1000℃以上であって、バッファ層の熱処理温度(例えば、1300℃)よりも低い温度である。MOCVDのチャンバー内の圧力は、100kPa(常圧)よりも低い方が望ましい。50kPa以下、望ましくは35kPa以下、さらに、望ましくは20kPa以下が良い。Alを含む有機金属ガスは、反応性が高いために、原料ガスが基板に到達する前に反応を起こし、目的とする半導体の結晶成長に寄与しない結合体が形成されるために、圧力は低い方が望ましい。減圧にして、原料ガスの流速を高くすることで、基板に至る前での反応を抑制し、基板上において効率の高い単結晶成長が可能となる。また、AlNから成るバッファ層の上に、単結晶のAlGaNを成長させた後に、目的とする半導体のGaNを成長させても良い。バッファ層のAlNとGaNとの格子不整合を、間の層のAlGaNが緩和するために、目的とするGaNの結晶性がより改善する。
また、バッファ層はスパッタリングにより形成しても良い。この時、基板温度は、300℃以上、600℃以下とすることが望ましい。
【0023】
次に、本発明の方法を用いて製造した発光素子について説明する。図5は、本発明の製造方法を用いた発光素子1の構成を示した図である。発光素子1は、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を介して、III 族窒化物半導体からなるn型コンタクト層101、ESD層(静電耐圧改善層)102、n層側クラッド層(以下、「n型クラッド層」という)103、発光層104、p層側クラッド層(以下、「p型クラッド層」という)106、p型コンタクト層107、が積層され、p型コンタクト層107上にp電極108が形成され、p型コンタクト層107側から一部領域がエッチングされて露出したn型コンタクト層101上にn電極130が形成された構造である。
【0024】
n型コンタクト層101は、Si濃度が1×1018/cm3 以上のn−GaNである。また、n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×108 /cm2 以下である。n電極130とのコンタクトを良好とするために、n型コンタクト層101をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0025】
ESD層102は、n型コンタクト層101側から第1ESD層110、第2ESD層111、第3ESD層112、第4ESD層113の4層構造である。第1ESD層110は、Si濃度が1×1016〜5×1017/cm3 のn−GaNである。第1ESD層110の厚さは200〜1000nmである。
【0026】
第2ESD層111は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )である。たとえば、第2ESD層111の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×1018〜1.2×1019/cm3 である。
第3ESD層112は、ノンドープのGaNである。第3ESD層112の厚さは50〜200nmである。第3ESD層112はノンドープであるが、残留キャリアによりキャリア濃度が1×1016〜1×1017/cm3 となっている。なお、第3ESD層112には、キャリア濃度が5×1017/cm3 以下となる範囲でSiがドープされていてもよい。
【0027】
第4ESD層113は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )である。たとえば、第4ESD層113の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×1018〜1.2×1019/cm3 である。
【0028】
n型クラッド層103は、厚さ4nmのノンドープのIn0.077 Ga0.923 N層131、厚さ1nmのノンドープのGaN層134、厚さ0.8nmのノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を15回繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、n型クラッド層103は、最初に形成する層、すなわち、第4ESD層113に接する層をIn0.077 Ga0.923 N層131とし、最後に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をn−GaN層133としている。n型クラッド層103の全体の厚さは、111nmである。ここで、In0.077 Ga0.923 N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。ノンドープのGaN層134の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。また、GaN層134にはSiをドープしても良い。Al0.2 Ga0.8 N層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。n−GaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。
【0029】
発光層104(活性層ともいう)は、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を8回繰り返し積層させたMQW構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl0.05Ga0.95N層141、最後に形成する層、すなわち、p型クラッド層106に接する層をAl0.2 Ga0.8 N層144としている。発光層104の全体の厚さは54.4nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。
【0030】
p型クラッド層106は、厚さ1.7nmのp−In0.05Ga0.95N層161、厚さ3.0nmのp−Al0.3 Ga0.7 N層162を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を7回繰り返し積層させた構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をp−In0.05Ga0.95N層161とし、最後に形成する層、すなわち、p型コンタクト層107に接する層をp−Al0.3 Ga0.7 N層162としている。p型クラッド層106の全体の厚さは32.9nmである。p型不純物にはMgを用いている。
【0031】
p型コンタクト層107は、Mgをドープしたp−GaNである。p電極とのコンタクトを良好とするために、p型コンタクト層107をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0032】
次に、発光素子1の製造方法について図6を参照して説明する。ただし、図6では、図5で示された超格子の周期構造の表示は省略されている。
用いた結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H2 又はN2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3:以下「TMG」と書く。) 、In源には、トリメチルインジウム(In(CH3)3:以下「TMI」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3:以下「TMA」と書く。) 、n型ドーパントガスには、シラン(SiH4 )、p型ドーパントガスには、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 5 2 :以下「CP2 Mg」と書く。)を用いた。
【0033】
まず、サファイア基板100を水素雰囲気中で加熱してクリーニングを行い、サファイア基板100表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、TMAとアンモニアガスをキャリアガスと共に流し、基板温度を400℃にして、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を形成した。次に、TMAの供給を停止、水素ガス(キャリアガス)とアンモニアガスを流しながら基板温度を1300℃まで上昇させた後、2分間保持してバッファ層を熱処理した。その後、基板温度を1100℃に低下させて、1100℃になったら直ちに、原料ガスにTMG、アンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Si濃度が4.5×1018cm-3のGaNよりなるn形コンタクト層101を、バッファ層120上に形成した(図6(a))。n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×108 /cm2 以下である。
【0034】
次に、以下のようにしてESD層102を形成した。まず、n型コンタクト層101上に、MOCVD法によって厚さ200〜1000nm、Si濃度1×1016〜5×1017/cm3 のn−GaNである第1ESD層110を形成した。成長温度は900℃以上とし、ピット密度の低い良質な結晶が得られるようにした。成長温度は1000℃以上とすると、さらに良質な結晶となり望ましい。
【0035】
次に、第1ESD層110上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )のn−GaNである第2ESD層111を形成した。成長温度は800〜950℃とした。次に、第2ESD層111の上に、MOCVD法によって厚さ50〜200nmのノンドープGaNである第3ESD層112を形成した。成長温度は800〜950℃とし、キャリア濃度5×1017/cm3 以下の結晶が得られるようにした。
【0036】
次に、第3ESD層112上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )のn−GaNである第4ESD層113を形成した。成長温度は800〜950℃とした。以上の工程により、n型コンタクト層101上にESD層102を形成した(図6(b))。
【0037】
次に、ESD層102上に、MOCVD法によってn型クラッド層103を形成した。n型クラッド層103の各層である厚さ4nmのノンドープのIn0.077 Ga0.923 N層131、厚さ0.8nmのノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133から成る周期構造を15周期、繰り返して形成した。In0.077 Ga0.923 N層131の形成は、基板温度を830℃にして、シランガス、TMG、TMI、アンモニアを供給して行った。ノンドープのGaN層134の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。Al0.2 Ga0.8 N層132の形成は、基板温度を830℃とし、TMA、TMG、アンモニアを供給して行った。n−GaN層133の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。
【0038】
次に、n型クラッド層103の上に、発光層104を形成した。発光層104の各層であるAl0.05Ga0.95N層141、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143、Al0.2 Ga0.8 N層144の4層の周期構造を8回繰り返して形成した。Al0.05Ga0.95N層141の成長温度は800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143及びAl0.2 Ga0.8 N層144の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0039】
次に、発光層104の上に、p型クラッド層106を形成した。基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMI、TMG、アンモニアを供給して、p−In0.05Ga0.95N層161を厚さ1.7nmに、基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMA、TMG、アンモニアを供給して、p−Al0.3 Ga0.7 N層162を、厚さ3.0nmに形成することを、7回繰り返して積層させた。
【0040】
次に、基板温度を1000℃にして、TMG、アンモニア、CP2 Mgを用いて、Mgを1×1020cm-3ドープしたp形GaNよりなる厚さ50nmのp形コンタクト層107を形成した。このようにして、図6(c)に示す素子構造が形成された。p形コンタクト層107のMg濃度は、1×1019〜1×1021cm-3の範囲で使用可能である。また、p形コンタクト層107の厚さは、10nm〜100nmの範囲としても良い。
【0041】
次に、熱処理によってMgを活性化した後、p型コンタクト層107の表面側からドライエッチングを行ってn型コンタクト層101に達する溝を形成した。そして、p型コンタクト層107の表面にRh/Ti/Au(p型コンタクト層107の側からこの順に積層した構造)からなるp電極108、ドライエッチングによって溝底面に露出したn型コンタクト層101上にV/Al/Ti/Ni/Ti/Au(n型コンタクト層101側からこの順に積層させた構造)からなるn電極130を形成した。以上によって図5に示す発光素子1が製造された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、III 族窒化物半導体発光素子の製法に用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
100:サファイア基板
101:n型コンタクト層
102:ESD層
103:n型クラッド層
104:発光層
106:p型クラッド層
107:p型コンタクト層
108:p電極
120:バッファ層
130:n電極
110:第1ESD層
111:第2ESD層
112:第3ESD層
113:第4ESD層
131:Iny Ga1-y N層
132:Alx Ga1-x N層
133:GaN層
図1
図2
図3
図4
図5
図6