【実施例1】
【0017】
本実施例は、主面がc面であるサファイア基板上に、AlNから成るバッファ層をMOCVD法により形成し、熱処理の後に、GaNを成長させた例である。結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H
2 又はN
2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH
3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH
3)
3:以下「TMG」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3:以下「TMA」と書く。) を用いた。
【0018】
まず、バッファ層の熱処理による結晶核の変化の様子について述べる。MOCVD装置内にサファイア基板を載置して、水素ガスを流しながら、基板温度を室温から1180℃に上昇させて、サファイア基板を加熱してクリーニングを行い、サファイア基板の表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、基板温度を400℃にして、TMAとアンモニアガスとを水素ガスと共に流し、サファイア基板上にAlNからなる厚さ10nmのバッファ層を形成した。次に、TMAの供給を停止して、水素ガス(キャリアガス)とアンモニアガスを流しながら基板温度を熱処理温度まで上昇させて、2分保持し、バッファ層の熱処理を行った。
【0019】
このバッファ層の熱処理の温度を、400℃、920℃、1020℃、1080℃、1150℃、1300℃、1400℃と変化させた各種の試料を製造した。この熱処理後のバッファ層表面のAFM像を測定した。AFM像から、バッファ層の表面粗さと、熱処理温度との関係を測定した。その結果を
図1に示す。また、バッファ層の結晶核密度と、熱処理温度との関係を測定した。その結果を
図2に示す。表面粗さは、凸部の高さ、凹部の深さの平均値を求め、凸部の高さ、凹部の深さの平均値に対する偏差の2乗平均の平方根(rms)とした。
図1、2から、熱処理温度が400℃から1150℃の範囲では、高温になる程、表面粗さが大きくなることが分かる。一方、熱処理温度が1300℃以上となると、バッファ層の表面粗さは、バッファ層の形成時の表面粗さ(0.5nm)程度である0.68nm以下に低下していることが分かる。また、結晶核密度は、熱処理温度が高くなる程、指数関数で減少していることが分かる。熱処理温度が1300℃以上となると、結晶核密度は、7×10
10/cm
2 cm以下に低下していることが分かる。また、AFM像によれば、熱処理温度を高くするに連れて、それぞれの結晶核が大きくなり、結晶核密度が低下している。特に、400℃でバッファ層を形成した場合に比べて、熱処理温度が1300℃、1400℃の場合には、結晶核が顕著に大きくなり、結晶核密度が顕著に低下していた。以上のことから、熱処理温度は、1250℃以上、望ましくは、1300℃以上であることが良いことが分かった。
【0020】
バッファ層を1300℃で2分間熱処理した後に、このバッファ層上に、GaNを成長させた。
図3は、半導体の成長時のサファイア基板の制御温度の時間変化を示している。AlNから成るバッファ層を1250℃以上の1300℃で熱処理した後、基板温度を、1300℃から1100℃に低下させて、水素ガスをキャリアガスとして流しながら、原料ガスのTMG、アンモニアガスを流して、厚さ3μmの不純物無添加のGaNを成長させた。バッファ層の結晶核密度が低減されているので、貫通転位の発生起点密度が低減されるので、そのバッファ層上に成長するGaNにおける貫通転位密度は低下する。
バッファ層の形成温度は400℃としたが、300℃以上600℃以下において、バッファ層は多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態となるので、その温度範囲を用いることができる。また、バッファ層の厚さは、10nmとしたが、1nm以上、100nm以下の範囲とすることができる。この厚さの範囲において、バッファ層を多結晶、非晶質、又は、多結晶と非晶質の混在した状態とすることができる。
【0021】
本発明は、
図4に示すように、基板の温度を、バッファ層を形成する低温から、バッファ層上に成長させるGaを含むIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度1100℃まで上昇させて、その温度でGaを含むIII 族窒化物半導体を成長させるものではない。本発明は、
図3に示すように、Gaを含むIII 族窒化物半導体を成長させる前に、バッファ層の温度を、Gaを含むIII 族窒化物半導体の単結晶が成長し得ない温度、すなわち、単結晶が適性に成長できる温度を越えて、半導体が成長しない温度まで上昇させて、熱処理するものである。したがって、直ちに、Gaを含むIII 族窒化物半導体を成長させる場合に比べて、バッファ層の結晶核が大きくなり、結晶核密度は低下する。この結果、バッファ層における貫通転位の発生起点の密度が低減されるので、成長するGaを含むIII 族窒化物半導体の貫通転位密度を低減することができる。したがって、バッファ層の熱処理温度を、バッファ層上に成長させるGaを含むIII 族窒化物半導体の単結晶が成長する温度よりも高く、その半導体が成長しない温度にすることで、成長させる半導体の貫通転位密度を低減させることができる。熱処理温度は、この観点から1250℃以上、1700℃以下、又は、1300℃以上、1700℃以下が望ましい。熱処理の保持時間は、2分としたが、1秒でも可能である。保持時間は、1秒以上、3時間以下の範囲が望ましい。
【0022】
バッファ層は、AlNの他、Al
x Ga
1-x N(0<x<1)を用いることができる。バッファ層上に成長させるGaを含むIII 族窒化物半導体をAl
z Ga
1-z N(0<z<1)とする場合には、格子整合の観点から、バッファ層はAl
x Ga
1-x N(0<x<1)が望ましい。目的とする半導体Al
z Ga
1-z N(0<z<1)を単結晶成長させる温度は、1000℃以上であって、バッファ層の熱処理温度(例えば、1300℃)よりも低い温度である。MOCVDのチャンバー内の圧力は、100kPa(常圧)よりも低い方が望ましい。50kPa以下、望ましくは35kPa以下、さらに、望ましくは20kPa以下が良い。Alを含む有機金属ガスは、反応性が高いために、原料ガスが基板に到達する前に反応を起こし、目的とする半導体の結晶成長に寄与しない結合体が形成されるために、圧力は低い方が望ましい。減圧にして、原料ガスの流速を高くすることで、基板に至る前での反応を抑制し、基板上において効率の高い単結晶成長が可能となる。また、AlNから成るバッファ層の上に、単結晶のAlGaNを成長させた後に、目的とする半導体のGaNを成長させても良い。バッファ層のAlNとGaNとの格子不整合を、間の層のAlGaNが緩和するために、目的とするGaNの結晶性がより改善する。
また、バッファ層はスパッタリングにより形成しても良い。この時、基板温度は、300℃以上、600℃以下とすることが望ましい。
【0023】
次に、本発明の方法を用いて製造した発光素子について説明する。
図5は、本発明の製造方法を用いた発光素子1の構成を示した図である。発光素子1は、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を介して、III 族窒化物半導体からなるn型コンタクト層101、ESD層(静電耐圧改善層)102、n層側クラッド層(以下、「n型クラッド層」という)103、発光層104、p層側クラッド層(以下、「p型クラッド層」という)106、p型コンタクト層107、が積層され、p型コンタクト層107上にp電極108が形成され、p型コンタクト層107側から一部領域がエッチングされて露出したn型コンタクト層101上にn電極130が形成された構造である。
【0024】
n型コンタクト層101は、Si濃度が1×10
18/cm
3 以上のn−GaNである。また、n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×10
8 /cm
2 以下である。n電極130とのコンタクトを良好とするために、n型コンタクト層101をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0025】
ESD層102は、n型コンタクト層101側から第1ESD層110、第2ESD層111、第3ESD層112、第4ESD層113の4層構造である。第1ESD層110は、Si濃度が1×10
16〜5×10
17/cm
3 のn−GaNである。第1ESD層110の厚さは200〜1000nmである。
【0026】
第2ESD層111は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )である。たとえば、第2ESD層111の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×10
18〜1.2×10
19/cm
3 である。
第3ESD層112は、ノンドープのGaNである。第3ESD層112の厚さは50〜200nmである。第3ESD層112はノンドープであるが、残留キャリアによりキャリア濃度が1×10
16〜1×10
17/cm
3 となっている。なお、第3ESD層112には、キャリア濃度が5×10
17/cm
3 以下となる範囲でSiがドープされていてもよい。
【0027】
第4ESD層113は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )である。たとえば、第4ESD層113の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×10
18〜1.2×10
19/cm
3 である。
【0028】
n型クラッド層103は、厚さ4nmのノンドープのIn
0.077 Ga
0.923 N層131、厚さ1nmのノンドープのGaN層134、厚さ0.8nmのノンドープのAl
0.2 Ga
0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を15回繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、n型クラッド層103は、最初に形成する層、すなわち、第4ESD層113に接する層をIn
0.077 Ga
0.923 N層131とし、最後に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をn−GaN層133としている。n型クラッド層103の全体の厚さは、111nmである。ここで、In
0.077 Ga
0.923 N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。ノンドープのGaN層134の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。また、GaN層134にはSiをドープしても良い。Al
0.2 Ga
0.8 N層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。n−GaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。
【0029】
発光層104(活性層ともいう)は、厚さ2.4nmのAl
0.05Ga
0.95N層141、厚さ3.2nmのIn
0 .2Ga
0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl
0.2 Ga
0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を8回繰り返し積層させたMQW構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl
0.05Ga
0.95N層141、最後に形成する層、すなわち、p型クラッド層106に接する層をAl
0.2 Ga
0.8 N層144としている。発光層104の全体の厚さは54.4nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。
【0030】
p型クラッド層106は、厚さ1.7nmのp−In
0.05Ga
0.95N層161、厚さ3.0nmのp−Al
0.3 Ga
0.7 N層162を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を7回繰り返し積層させた構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をp−In
0.05Ga
0.95N層161とし、最後に形成する層、すなわち、p型コンタクト層107に接する層をp−Al
0.3 Ga
0.7 N層162としている。p型クラッド層106の全体の厚さは32.9nmである。p型不純物にはMgを用いている。
【0031】
p型コンタクト層107は、Mgをドープしたp−GaNである。p電極とのコンタクトを良好とするために、p型コンタクト層107をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0032】
次に、発光素子1の製造方法について
図6を参照して説明する。ただし、
図6では、
図5で示された超格子の周期構造の表示は省略されている。
用いた結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H
2 又はN
2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH
3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH
3)
3:以下「TMG」と書く。) 、In源には、トリメチルインジウム(In(CH
3)
3:以下「TMI」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3:以下「TMA」と書く。) 、n型ドーパントガスには、シラン(SiH
4 )、p型ドーパントガスには、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C
5 H
5 )
2 :以下「CP
2 Mg」と書く。)を用いた。
【0033】
まず、サファイア基板100を水素雰囲気中で加熱してクリーニングを行い、サファイア基板100表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、TMAとアンモニアガスをキャリアガスと共に流し、基板温度を400℃にして、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を形成した。次に、TMAの供給を停止、水素ガス(キャリアガス)とアンモニアガスを流しながら基板温度を1300℃まで上昇させた後、2分間保持してバッファ層を熱処理した。その後、基板温度を1100℃に低下させて、1100℃になったら直ちに、原料ガスにTMG、アンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Si濃度が4.5×10
18cm
-3のGaNよりなるn形コンタクト層101を、バッファ層120上に形成した(
図6(a))。n型コンタクト層101の貫通転位密度は、厚さ1μm以上において、5×10
8 /cm
2 以下である。
【0034】
次に、以下のようにしてESD層102を形成した。まず、n型コンタクト層101上に、MOCVD法によって厚さ200〜1000nm、Si濃度1×10
16〜5×10
17/cm
3 のn−GaNである第1ESD層110を形成した。成長温度は900℃以上とし、ピット密度の低い良質な結晶が得られるようにした。成長温度は1000℃以上とすると、さらに良質な結晶となり望ましい。
【0035】
次に、第1ESD層110上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )のn−GaNである第2ESD層111を形成した。成長温度は800〜950℃とした。次に、第2ESD層111の上に、MOCVD法によって厚さ50〜200nmのノンドープGaNである第3ESD層112を形成した。成長温度は800〜950℃とし、キャリア濃度5×10
17/cm
3 以下の結晶が得られるようにした。
【0036】
次に、第3ESD層112上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )のn−GaNである第4ESD層113を形成した。成長温度は800〜950℃とした。以上の工程により、n型コンタクト層101上にESD層102を形成した(
図6(b))。
【0037】
次に、ESD層102上に、MOCVD法によってn型クラッド層103を形成した。n型クラッド層103の各層である厚さ4nmのノンドープのIn
0.077 Ga
0.923 N層131、厚さ0.8nmのノンドープのAl
0.2 Ga
0.8 N層132、厚さ1.6nmのSiドープのn−GaN層133から成る周期構造を15周期、繰り返して形成した。In
0.077 Ga
0.923 N層131の形成は、基板温度を830℃にして、シランガス、TMG、TMI、アンモニアを供給して行った。ノンドープのGaN層134の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。Al
0.2 Ga
0.8 N層132の形成は、基板温度を830℃とし、TMA、TMG、アンモニアを供給して行った。n−GaN層133の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。
【0038】
次に、n型クラッド層103の上に、発光層104を形成した。発光層104の各層であるAl
0.05Ga
0.95N層141、In
0 .2Ga
0.8 N層142、GaN層143、Al
0.2 Ga
0.8 N層144の4層の周期構造を8回繰り返して形成した。Al
0.05Ga
0.95N層141の成長温度は800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In
0 .2Ga
0.8 N層142、GaN層143及びAl
0.2 Ga
0.8 N層144の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0039】
次に、発光層104の上に、p型クラッド層106を形成した。基板温度を855℃にして、CP
2 Mg、TMI、TMG、アンモニアを供給して、p−In
0.05Ga
0.95N層161を厚さ1.7nmに、基板温度を855℃にして、CP
2 Mg、TMA、TMG、アンモニアを供給して、p−Al
0.3 Ga
0.7 N層162を、厚さ3.0nmに形成することを、7回繰り返して積層させた。
【0040】
次に、基板温度を1000℃にして、TMG、アンモニア、CP
2 Mgを用いて、Mgを1×10
20cm
-3ドープしたp形GaNよりなる厚さ50nmのp形コンタクト層107を形成した。このようにして、
図6(c)に示す素子構造が形成された。p形コンタクト層107のMg濃度は、1×10
19〜1×10
21cm
-3の範囲で使用可能である。また、p形コンタクト層107の厚さは、10nm〜100nmの範囲としても良い。
【0041】
次に、熱処理によってMgを活性化した後、p型コンタクト層107の表面側からドライエッチングを行ってn型コンタクト層101に達する溝を形成した。そして、p型コンタクト層107の表面にRh/Ti/Au(p型コンタクト層107の側からこの順に積層した構造)からなるp電極108、ドライエッチングによって溝底面に露出したn型コンタクト層101上にV/Al/Ti/Ni/Ti/Au(n型コンタクト層101側からこの順に積層させた構造)からなるn電極130を形成した。以上によって
図5に示す発光素子1が製造された。