(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874515
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】鋼材の溶接継手構造
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20160218BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20160218BHJP
B23K 37/06 20060101ALI20160218BHJP
B23K 9/035 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
B23K9/23 J
B23K9/23 A
B23K9/02 D
B23K37/06 B
B23K9/035 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-102685(P2012-102685)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-230479(P2013-230479A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(72)【発明者】
【氏名】平山 博巳
(72)【発明者】
【氏名】福田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩資
【審査官】
山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−051522(JP,A)
【文献】
実開昭58−188268(JP,U)
【文献】
特開2002−045967(JP,A)
【文献】
特開2011−245522(JP,A)
【文献】
特開昭60−027474(JP,A)
【文献】
特開昭55−024739(JP,A)
【文献】
特開平08−281486(JP,A)
【文献】
米国特許第02895747(US,A)
【文献】
米国特許第01872306(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/02
B23K 9/035
B23K 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材同士が材軸方向に溶接されてなる鋼材の溶接継手構造であって、前記母材同士が母材より小さい強度の溶接金属により突合せ溶接された突合せ溶接部と、前記母材の裏面側に母材より小さい強度の補強材が母材より小さい強度の溶接金属によって隅肉溶接された隅肉溶接部とを備え、前記隅肉溶接部は、前記隅肉溶接部の隅肉溶接線が母材軸直角方向に対して傾角を有し、かつ前記突合せ溶接部からの距離が幅方向端部に比べ幅方向中間部が徐々に大きくなっていることを特徴とする鋼材の溶接継手構造。
【請求項2】
前記母材軸方向に対する前記隅肉溶接線の傾角が、前記隅肉溶接線の全長にわたって一定であることを特徴とする請求項1記載の鋼材の溶接継手構造。
【請求項3】
前記隅肉溶接線の端部を結ぶ直線に対して、前記幅方向端部から前記幅方向中間部に向けて傾角が徐々に大きくなっていることを特徴とする請求項1記載の鋼材の溶接継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度鋼材を突合せて溶接する継手構造において、隅肉溶接部での早期破断を防止し、施工が容易でかつ低コストの鋼材の溶接継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鋼材を突合せて溶接する場合、例えば
図3に示したように、母材同士を材軸方向に突き合わせて溶接する。突合せて溶接した母材の裏面には補強材である裏当金を当て、4か所程度に隅肉溶接し、母材と裏当金を溶着する。
【0003】
鋼材の溶接継手に関する先行技術文献として、例えば特許文献1がある。
【0004】
特許文献1には、裏当金と母材を全線隅肉溶接し、裏当金へ応力を伝達する事により、母材の突合せ溶接部の応力を低減し、突合せ溶接部の強度が低くても全強継手となる溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−067863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示した従来技術では、引張力が溶接継手に加わった場合、母材と裏当金を溶接した隅肉溶接線の端部に応力が集中してしまい、破断起点になりやすく強度が出にくい。
【0007】
特許文献1記載の発明では、裏当金と母材を全周隅肉溶接しているが、引張力が溶接継手に加わった場合、やはり、応力が継手断面の不連続部分である端部に集中し、端部が破断起点となる。
【0008】
特に特許文献1においては、前面隅肉の部分の応力が高くなり、全周隅肉から前面隅肉を除いた他の隅肉溶接部分の強度は効率的に発揮できない。この事により隅肉溶接部の早期の破断が懸念されるため、全強継手とできない可能性がある。
【0009】
また、一般的に強度が1000N級の超高強度鋼である母材の溶接継手を、単純な突合せ溶接で製作する場合、溶接材料を母材と同等以上の強度とするオーバーマッチングを実現するのは、特殊な溶接管理と溶接材料が要求されるため高コストとなる。
【0010】
本発明は、このような課題の解決を図ったものであり、高強度の母材同士を突合せて溶接する鋼材の溶接継手構造において、母材よりも低強度の溶接材料を用いて突合せ溶接し、応力集中の小さい形状の補強材(裏当金)を用いることで、隅肉溶接部での早期破断を防止し、施工が容易かつ低コストである鋼材の溶接継手構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、母材同士
が材軸方向に
溶接
されてなる鋼材の溶接継手構造であって、前記母材同士
が母材より小さい強度の溶接金属により突合せ溶接され
た突合せ溶接部と、前記母材の裏面側に母材より小さい強度の補強材が母材より小さい強度の溶接金属によって隅肉溶接され
た隅肉溶接部とを備え、前記隅肉溶接部は、前記隅肉溶接部の隅肉溶接線が母材軸直角方向
に対して傾角を有
し、
かつ前記突合せ溶接部からの距離が幅方向端部に比べ幅方向中間部が
徐々に大きく
なっていることを特徴とする鋼材の溶接継手構造である。
【0012】
本発明は、母材同士の突合せ溶接部、母材の裏面に取り付ける補強材(裏当金)、母材と補強材との隅肉溶接部に、母材よりも強度の小さい溶接材料を用いることによって、特殊な溶接管理を必要とせず、低コストで全強継手を実現することができる。
【0013】
また、裏当金を兼ねる補強材と母材との隅肉溶接部において、母材軸直角方向と隅肉溶接線が傾角を有し、母材の突合せ溶接部からの距離が幅方向端部に比べ幅方向中間部で大きくなるようにしたことによって、隅肉溶接部の端部への応力集中が生じにくく、端部からの欠陥を防ぎ、隅肉溶接部での早期の破断を防止することが可能である。
【0014】
例えば、
図1、
図2に示すような略三角形状部を有する補強材あるいは半楕円形状部を有する補強材およびそれに応じた形状の隅肉溶接部にすれば、従来技術よりも隅肉溶接部の長さも長くなり、母材との溶接面積が増加することになる。
【0015】
本発明における鋼材の溶接継手構造は、前記母材軸方向
に対する前記隅肉溶接線の傾角
、前記隅肉溶接線の全長にわたって一定であることを特徴としている。
【0016】
この場合、隅肉溶接線の傾角が溶接線の途中で変化せず、溶接線の途中で応力集中が生じにくいので、応力集中に敏感な超高強度母材に本発明を適用する場合に適する。
【0017】
なお、
図1に示したように母材と補強材との隅肉溶接線の形状が直線であれば、隅肉溶接線の全長にわたって母材軸直角方向と隅肉溶接線が同一の傾角となるため、例えば日本建築学会「鋼構造限界状態設計指針・同解説」第3版、2010年、215頁に示される斜方溶接継目の最大耐力式によって、隅肉溶接部の継手耐力を算定できる。
【0018】
さらに、前記隅肉溶接線の端部を結ぶ直線に対して、前記幅方向端部から前記幅方向中間部に向けて傾角が徐々に大きくなる鋼材の溶接継手構造であることが望ましい。この理由は、引張力を受ける母材から補強材への断面変化が小さいほど母材の応力集中が低減できるからである。
【0019】
鋼材の継手断面の不連続を低減して、早期破断を防止する手段としては、例えば
図2に示したように、隅肉溶接線の端部を結ぶ直線に対して、隅肉溶接線が内側に凸な曲線となるような補強材の形状とすればよい。
【0020】
この場合、傾角の変化が不連続であると、その不連続な部分で応力集中が生じるおそれがあるので、隅肉溶接線の形状は円弧やサインカーブのように傾角が連続的に変化するような形状とする事が好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る鋼材の溶接継手構造は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0022】
(1)高強度鋼材の母材よりも低強度の溶接材料を用いることができるため、特殊な溶接管理を必要とせず、コストも抑えることができる。
【0023】
(2)裏当金を兼ねる補強材と母材との隅肉溶接部において、母材軸直角方向と隅肉溶接線が傾角を有し、母材の突合せ溶接部からの距離が幅方向端部に比べ幅方向中間部が大きくなるようにしたことによって、隅肉溶接部の端部への応力集中が生じにくく、端部からの欠陥を防ぎ、隅肉溶接部での早期の破断を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る鋼材の溶接継手構造の一実施形態を示したものであり、(a)は断面図、(b)は母材裏面から見た平面図である。
【
図2】本発明に係る鋼材の溶接継手構造の一実施形態を示したものであり、(a)は断面図、(b)は母材裏面から見た平面図である。
【
図3】鋼材の溶接継手構造に用いられる従来技術の一例を示しており、(a)が断面図、(b)が平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1、2には、本発明に係る鋼材の溶接継手構造の実施例を示しており、母材3同士を材軸方向に突合せて溶接し(突合せ溶接部1)、母材3の裏面には補強材4を隅肉溶接している(隅肉溶接部2)。
【0027】
母材3の強度に対し、突合せ溶接部1、隅肉溶接部2は強度の小さい溶接材料を使用している。従来、母材と同等以上の高強度の溶接材料を用いると特殊な溶接管理を必要とし、コストも高くなっていたが、本発明に係る鋼材の溶接継手構造では母材よりも強度の小さい溶接材料を使用し、施工を容易かつ低コストの継手構造であっても、母材の強度を確保する継手構造となっている。
【0028】
また、裏当金を兼ねる補強材4と母材3との隅肉溶接部2において、母材軸直角方向と隅肉溶接線が傾角を有する形状としている。
【0029】
図1の場合、母材3軸方向と隅肉溶接部2の傾角が全長にわたって一定であり、母材3の突合せ溶接部1からの距離が、母材3の幅方向端部から幅方向中間部へ徐々に大きくなるような形状としている。
【0030】
図2の場合は、
図1と同様に補強材4と母材3との隅肉溶接部2において、母材軸直角方向と隅肉溶接線が傾角を有しているが、隅肉溶接部2の端部を結ぶ線に対して、隅肉溶接線が内側に凸な曲線となるような補強材の形状としており、母材幅方向端部から幅方向中間部に向けて傾角が徐々に大きくなっている。
【0031】
これは、鋼材の継手断面の不連続を低減して、早期破断を防止する手段として有効である。
【0032】
しかし、傾角の変化が不連続であると、その不連続な部分(例えば、
図1の隅肉溶接部2による二等辺三角形の頂部)で応力集中が生じるおそれがあるので、溶接線の形状は
図2のような円弧やサインカーブのように傾角が連続的に変化するような形状とすることが好ましい。
【0033】
図1、
図2に示すような形状の補強材および隅肉溶接部にすれば、従来技術よりも隅肉溶接部の長さも長くなり、母材との溶接面積が増加することになる。
【0034】
また、このような継手構造は、斜線部で示した隅肉溶接部2が連続しているのに対し、母材3の幅方向端部には隅肉溶接部2が連続していない部分があり、不連続な部分が連続している長さに比べて明らかに短い。よって、隅肉溶接部の端部への応力集中が生じにくく、母材の幅方向端部からの欠陥を防ぎ、隅肉溶接部での早期破断を防止することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…突合せ溶接部、
2…隅肉溶接部、
3…母材、
4…補強材(裏当金)